JP4336045B2 - 改良された芳香族化合物の製造方法 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は、芳香族化合物にスチレン類を酸触媒を用いて反応させることにより、芳香族化合物/スチレン類付加体、たとえばジアリールアルカンを製造する方法に関するものである。
技術背景
芳香族化合物にスチレン類を酸触媒により反応させて、芳香族化合物/スチレン類付加体、たとえばジアリールアルカンを製造する方法は、固体酸触媒を用いる場合について、米国特許第4,144,279号、特開昭55−24145号公報、米国特許第4,289,918号などに提案されている。なお、得られるジアリールアルカンなどの芳香族化合物/スチレン類付加体は、絶縁油、感圧紙染料用溶剤など各種の工業用溶剤として広く用いられている。
ここで、たとえばキシレンにスチレンが付加してスチレン化キシレンが生成する反応において、スチレンの二重結合は芳香族環に付加することにより消滅するので、スチレン化キシレン自体は通常飽和化合物であるが、触媒、反応原料割合、反応条件等により、スチレンオリゴマーであるスチレン二〜四量体等の不飽和炭化水素が副生し、それらの沸点が近接しているためにスチレン化キシレン中に混入することが多い。
上記のようにして得たスチレン化キシレンを、たとえば各種溶剤として用いる場合には、不飽和炭化水素の混入により製品溶剤の熱安定性や酸化安定性等が低下する懸念があるため、不飽和炭化水素の混入を極力避けることが望まれている。
そこで、たとえば特公平6−35399号公報(特開昭62−42938号公報)においては、陽イオン交換樹脂触媒によりスチレンをアルキルベンゼンに付加しジアリールエタンを製造するに際し、生成する不飽和結合を有するスチレンの二〜四量体を選択的に水素添加することにより不飽和二重結合を低減させる方法が提案されている。
スチレン類を芳香族化合物に付加する際に、不飽和炭化水素の生成を抑制する方法の一つとして、原料中の芳香族化合物に対するスチレン類の割合を低減する方法が考えられる。しかし原料中のスチレン類の濃度を低減すると、目的物の生産性が低下するので工業的には不利である。
一方、前記特公平6−35399号公報において提案されているように後処理として水素添加を採用するためには、水素添加用の加圧反応器、水素分離装置、未反応水素を再利用するための水素圧縮機など、各種の水素添加設備のための設備投資が必要であり、また運転経費の面でも不利である。
したがって、芳香族化合物/スチレン類付加体の収率を向上し、不飽和成分の含有量を低減することができ、しかも運転が容易でかつ安価な製造方法が望まれている。
発明の開示
本発明の第1は、下記工程(1)から(4)により、芳香環炭素原子に直接結合した水素原子を少なくとも1つ有する芳香族化合物にスチレン類を付加することからなる、芳香族化合物/スチレン類付加体の製造方法に関するものである。
工程(1):固定床流通式の第1反応器において芳香族化合物とスチレン類とを液相で固体酸触媒に接触させることにより、未反応成分、芳香族化合物/スチレン類付加体および不飽和成分からなる反応混合物を得る工程、
工程(2):第1反応器より流出する反応混合物の一部を第1反応器に循環する工程、
工程(3):第1反応器より流出する反応混合物を第2反応器に供給して、液相で固体酸触媒に接触させることにより反応混合物中の不飽和成分を減少させる工程、および
工程(4):反応混合物を蒸留することにより芳香族化合物/スチレン類付加体を主とする、不飽和成分の少ない留分を得る工程。
本発明の第2は、本発明の第1において、芳香族化合物が、ベンゼンまたはアルキルベンゼンである製造方法に関する。
本発明の第3は、本発明の第1において、スチレン類が、スチレンまたはアルキルスチレンである製造方法に関する。
本発明の方法により、不飽和成分含有量の低い芳香族化合物/スチレン類付加体を得ることができ、また上記付加体の収率を改善することも可能になる。
以下に本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の原料である芳香族化合物は、非縮合型または縮合型のベンゼン環炭素原子に少なくとも一つの水素原子が結合した化合物である。具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、トリメチルベンゼン、エチルトルエン、ジエチルベンゼン、ブチルベンゼン等のアルキルベンゼン類;ナフタレン、メチルナフタレン等のナフタレン類;ビフェニル、メチルビフェニル等のビフェニル類;ジフェニルメタン、ジフェニルエタン等のジアリールアルカン類;フェノール、クレゾール等のフェノール類等またはこれらの混合物である。好ましくはベンゼンおよびアルキルベンゼンである。
また、本発明に用いられるスチレン類は、非縮合型または縮合型のベンゼン環に少なくとも一つの共役炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物であり、具体的にはスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が挙げられる。好ましくはスチレンおよびp−メチルスチレンである。
本発明の方法においてベンゼンまたはアルキルベンゼンにスチレン類を付加することにより、主として次の一般式で表されるジアリールアルカンが得られる。
Figure 0004336045
上式において、RおよびRは水素原子またはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソブチルなどの低級アルキル基であり、1個のRおよびm個のRはそれぞれ同一でもまた異なってもよい。Rは、エタンまたはプロパンから2個の水素原子が引き抜かれた2価の炭化水素残基である。lおよびmは0から5の整数、nは1または2の整数である。
ジアリールアルカンとして具体的には、1,1−ジフェニルエタン、1−フェニル−1−エチルフェニルエタン、1−フェニル−1−キシリルエタン、1−フェニル−1−クメニルエタン、1−フェニル−1−sec−ブチルフェニルエタンなどが挙げられる。
次に、本発明の方法を図面により詳しく説明する。
第1図は、本発明の方法の一実施例を示すフローシートである。図に示す反応装置の主要部は、固体酸触媒を充填した固定床を有する流通式の第1反応器1、その出口から流出する反応混合物の一部を第1反応器1の入口に戻す循環ライン2、および固体酸触媒を充填した第2反応器3によって構成される。符号4は分離精製工程の蒸留塔を示し、再利用可能な原料が未反応で残存する場合には、ここで分離回収して再使用することができる。
原料である芳香族化合物とスチレン類は適宜に貯蔵タンク(図示せず)から予め混合した形態で移送ポンプ(図示せず)によりライン5に送られ、循環ライン2の循環流と合流して第1反応器1へ供給される。芳香族化合物とスチレン類は、適宜に別個のラインから第1反応器1へ供給することもできる。なお反応溶媒を用いることもできるが、通常は原料である芳香族化合物自体を溶媒として反応を行うことが好ましい。
ライン5から反応系に供給するスチレン類と芳香族化合物との混合割合については、両成分の合計に対するスチレン類の濃度を0.5〜70重量%、好ましくは5〜50重量%の範囲から選ぶことができる。上記合計には循環ライン2からの循環流を含めない。
第1反応器としては、固体酸触媒を固定床とする流通式のものを採用する。適宜に加熱のための装置、たとえば熱媒体を循環させる装置等を備えることができる。単管系としてもよく、また適宜に多管系の反応器とすることもできる。
固定床を構成する固体酸触媒としては、架橋ポリスチレンのスルホン化物(商品名:アンバーリスト)に代表される陽イオン交換樹脂;白土、シリカ・アルミナに代表される合成または天然の無定形金属酸化物からなる固体酸;Y型ゼオライト、超安定化Y型ゼオライト、モルデナイト、ZSM−5、ZSM−12などのゼオライト類などが挙げられる。
反応温度は40〜300℃の範囲から選択することができる。
反応圧力は、反応相が液相となるように選択することができる。通常はたとえば、0.01〜10MPaの範囲から選択することができる。
WHSV(質量流量/触媒充填質量)は、ライン5を通る原料の流量を基準として、0.1〜200h−1の範囲から選択することができる。
第1反応器においては、芳香族化合物とスチレン類とを液相で固体酸触媒に接触させることにより、芳香族化合物/スチレン付加体と共に不飽和成分が生成する。具体的には、エチルベンゼンにスチレンが付加した1−フェニル−1−エチルフェニルエタン、キシレンにスチレンが付加した1−フェニル−1−キシリルエタン、クメンにスチレンが付加した1−フェニル−1−クメニルエタン、sec−ブチルベンゼンにスチレンが付加した1−フェニル−1−sec−ブチルフェニルエタンなどが生成するとともに、不飽和成分が生成する。これらの不飽和成分は、主としてスチレン類の不飽和オリゴマーであり、二〜四量体からなるものである。これらの不飽和スチレンオリゴマーは、芳香族化合物/スチレン付加体と分子量および沸点が近接しているため、目的物である芳香族化合物/スチレン付加体に混入し易い。
以上のように、第1反応器出口からは、芳香族化合物およびスチレン類からなる未反応成分、芳香族化合物/スチレン付加体ならびに不飽和成分を含む反応混合物が流出する。
本発明においては、第1反応器出口から流出する反応混合物の一部を循環ライン2によりライン5の原料と合流させ、ライン6を経て第1反応器1に循環させる。その循環量は、第1反応器1からの反応混合物の全流出量100重量部に対し好ましくは1〜99重量部、さらに好ましくは25〜99重量部である。循環は適宜のポンプ等の移送手段(図示せず)により行うことができる。
上記のように、第1反応器においては、反応混合物の一部を循環する工程を採用するために、ライン5から供給するスチレン類濃度を、比較的高濃度にすることが可能であり、その結果、生産性が向上し、装置の小型化を達成することができる。一方、ライン5内のスチレン類濃度が高濃度であるにもかかわらず、第1反応器内におけるスチレン類濃度は一定の低い濃度に保持することができるため、第1反応器においては不飽和成分の生成を抑制することが可能である。
第1反応器1からの反応混合物の全流出物のうち、上述のように循環させた残りの反応混合物は、図のライン7を経て、第2反応器3に供給し、ここで液相において固体酸触媒と接触させる。ここで、図に示すように第1反応器1からの流出物を連続的に第2反応器3へ供給してもよいし、また適宜に反応混合物のための貯蔵タンク(図示せず)に貯蔵した後、第2反応器へ供給する、いわゆるブロック運転を行うこともできる。
本発明において第2反応器3を設ける主な目的は次の2点である。すなわち、
(1)第1反応器1の流出物の一部を循環させることにより、第1反応器からの反応混合物中の未反応のスチレン類の割合が増加する。そこで、第2反応器3において固体酸触媒と液相で接触させることにより、これらの未反応スチレン類を再度反応させて付加反応を促進させる。この結果、全体として芳香族化合物/スチレン付加体の収率が向上する。
(2)第2反応器3においては、第1反応器1において生成した不飽和成分、具体的には不飽和のスチレン類オリゴマーをアルキル化して芳香族化合物に変換したり、または自己アルキル化反応(環化反応)を起こさせて分子内ベンゼン環に変換する。芳香族化合物へのアルキル化および自己アルキル化(環化反応)のいずれの反応においても、不飽和のスチレン類オリゴマーは不飽和炭素−炭素二重結合を有しない飽和の化合物に変換される。
したがって、第2反応器3で反応を行うことにより、反応混合物中の不飽和成分の割合は減少する。
第2反応器3で用いられる固体酸触媒としては、前記第1反応器1において用いた固体酸触媒と同様な触媒を用いることができる。しかしながら、Y型ゼオライト、超安定化Y型ゼオライト、モルデナイト、ZSM−5、ZSM−12などのいわゆる分子篩の機能を有するゼオライト類よりも、実質的に形状選択性のない固体触媒、たとえば白土やシリカ・アルミナに代表される合成または天然の無定形金属酸化物からなる固体酸触媒および架橋ポリスチレンのスルホン化物(商品名:アンバーリスト)に代表される陽イオン交換樹脂が好ましく、特に無定形金属酸化物からなる固体酸触媒が好ましい。
第2反応器3の反応形式は、連続式でも回分式でもよく、また攪拌槽式および固定床流通式のいずれの形式を用いることもできる。好ましくは、前記第1反応器と同様の固定床流通式である。
反応条件も第1反応器の場合と同様の範囲にすることができる。たとえば、反応温度は40〜300℃の範囲から選択することができる。反応圧力は、反応相が液相となるように選択することができ、通常はたとえば、0.01〜10MPaの範囲から選択することができる。固定床流通式を採用した場合のWHSVは、ライン5を通る原料の流量を基準として、0.1〜200h−1の範囲から選択することができる。
図には第2反応器3として固定床流通式を採用した場合を示す。ここで、第2反応器3を出た流出物は、ライン8を経て蒸留塔4に入り、蒸留を行った後、ライン9から目的物である芳香族化合物/スチレン付加体を含む留分が取り出される。本発明の方法によれば、工業的な分離手段である蒸留等により、容易に不飽和成分の少ないジアリールアルカンなどの芳香族化合物/スチレン付加体を含む留分を得ることができる。通常の工業的な蒸留条件を採用することができ、具体的には、適宜の充填物を充填した充填塔を用い、たとえば分離段数2〜200、還流比0.1〜50、圧力10Pa〜100kPaの範囲で行うことができる。
蒸留塔4においては、過剰に供給される芳香族化合物、および必要に応じて未反応スチレンなどを分離回収し、ライン10により適宜に貯蔵タンク(図示せず)を経てライン5に合流させ、ライン6から第1反応器1へ循環させることができる。また、このような未反応成分の回収のために、蒸留塔4は適宜に直列または並列の多段蒸留塔の形式にすることができる。
ライン9から取り出される芳香族化合物/スチレン付加体を含む留分は、不飽和成分が少ないので熱安定性や酸化安定性等が低くなることは少なく、したがって絶縁油や感圧紙染料用溶剤などの各種の工業的な炭化水素溶剤として有用である。
発明を実施するための最良の形態
本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
<実施例>
第1図に示す固定床反応器である第1反応器1にシリカ・アルミナ(商品名:IS−28、水沢化学工業(株)製)2gを充填し、クメンとスチレンとをモル比10:1に混合した原料を流量20g/hで供給し、循環量を400g/hとして連続的に運転を行い、温度150℃および圧力1MPaで反応を行った。
第1反応器出口から流出する1−フェニル−1−クメニルエタンおよび不飽和スチレンオリゴマーを含む反応混合物を20g/hの流量で抜き出し、これを一旦貯蔵タンク(図示せず)に貯蔵した。
この貯蔵タンク内の反応液をガスクロマトグラフィーで分析し、その結果から反応生成物中の1−フェニル−1−クメニルエタンおよびスチレン二量体の含有割合を推算した。また、同じ反応液から未反応成分を留去して得た反応生成物について、不飽和二重結合を有する化合物量の指標として臭素価の測定を行った。これらの結果を表1に示す。
次いで、上記貯蔵タンクから10g/hの流量で反応混合物を抜き出し、これをシリカ・アルミナ(商品名:N632L、日揮化学(株)製)1gを充填した固定床流通式反応器である第2反応器3に供給し、温度150℃および圧力0.5MPaでさらに反応を行った。
第2反応器から流出する反応液について、第1反応器流出液の場合と同様に分析およびを測定を行った。その結果を表1に示す。
<比較例>
第1反応器1における循環ライン2を遮断して循環を行わないこと以外は、実施例と同様に第1反応器の運転を行った。すなわち、第1反応器にシリカ・アルミナ(商品名:IS−28、水沢化学工業(株)製)2gを充填し、クメンとスチレンとをモル比10:1に混合した原料を流量20g/hで供給して連続的に運転を行い、温度150℃および圧力1MPaとして反応を行った。
第1反応器から流出する反応混合物について、実施例の場合と同様にガスクロマトグラフィーで分析を行い、反応生成物の組成を推算した。その結果を表1に示す。なお、反応生成物中のスチレン二量体の量が過大であったため、臭素価の測定は行わなかった。
Figure 0004336045
産業上の利用可能性
本発明の方法によれば、従来法に比べ高い濃度のスチレン類を反応系に供給することが可能であり、その結果、同一の生産量で比較すると装置を小型化することができ、装置の運転経費を低減することも可能になる。
また、本発明の方法によれば、工業的な分離手段である蒸留等により、容易に不飽和成分の少ない、すなわち臭素価の低いジアリールアルカンなどの芳香族化合物/スチレン付加体を含む留分を高い収率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の方法の一実施例を示すフローシートである。

Claims (3)

  1. 下記工程(1)から(4)により、芳香環炭素原子に直接結合した水素原子を少なくとも1つ有する芳香族化合物にスチレン類を付加することからなる、芳香族化合物/スチレン類付加体の製造方法、
    工程(1):固定床流通式の第1反応器において前記芳香族化合物とスチレン類とを液相で固体酸触媒に接触させることにより、未反応成分、芳香族化合物/スチレン類付加体および不飽和成分からなる反応混合物を得る工程、
    工程(2):第1反応器より流出する反応混合物の一部を該第1反応器に循環する工程、
    工程(3):第1反応器より流出する反応混合物を第2反応器に供給して、液相で固体酸触媒に接触させることにより該反応混合物中の不飽和成分を減少させる工程、および
    工程(4):反応混合物を蒸留することにより芳香族化合物/スチレン類付加体を主とする、不飽和成分の少ない留分を得る工程。
  2. 前記芳香族炭化水素が、ベンゼンまたはアルキルベンゼンである請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記スチレン類が、スチレンまたはアルキルスチレンである請求項1に記載の製造方法。
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