JP4334107B2 - 光増感パルスレーザアブレーション堆積法によるポリテトラフルオロエチレン薄膜の作成法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光増感剤を1.0重量%未満、特に0.3〜0.1重量%添加したポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと表現する場合もある。)ターゲットを用いてパルスレーザアブレーション堆積法によりポリテトラフルオロエチレン薄膜を作成法する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリテトラフルオロエチレンは、高い絶縁性、電荷保持能等の電気的性質、化学的安定性、熱的・機械的安定性などが優れていることから、多くの技術分野で利用されている高分子材料である。
前記PTFEの高い絶縁性は、例えば、配線基板の表面にPTFEの薄膜を形成するなどして該基板の絶縁性を確保することに利用され、また、前記PTFEの化学的安定、低摩擦性、低濡れ性などの特性は、化学薬剤、薬液と接触面する機械や装置の表面、また、個体同士の摺動面にPTFEの薄膜を形成することによって利用されている。前記のように、PTFEは、多くの場合、薄膜の形で利用されている。ところが、PTFEは、これを溶解させる適当な溶媒がないこと、および溶融前に熱分解してしまうことなどから薄膜の成形が難しい素材であることは良く知られている。
従って、薄膜などの形成には種々の工夫をしないと、薄膜の被形成表面との接着性を十分に確保できないし、形成された薄膜などの表面平滑性も十分でないという不都合があった。
【0003】
ところで、種々の材料の薄膜の形成法として、パルスレーザアブレーションを応用した技術が提案され、その後の多くの研究がされ、その技術を適用できる範囲も広げられてきた。
すなわち、アブレーション技術を利用した薄膜の形成方法については、初期には無機材料の膜、例えばダイヤモンドライク炭素膜、セラミックス材料による高温超伝導膜などへの応用が研究されていたが、その後、低分子の有機物、更に高分子材料をターゲット材料として用いて、パルスレーザを該ターゲットに照射することにより、該ターゲット材料を飛散(アブレーション)させ、対置された基材の表面に前記材料を実質的に化学的変性をさせることなく堆積させ方法が確立され、多くの材料表面に種々の材料の薄膜を再構築させる、薄膜形成技術へと展開してきた。
この方法では、レーザ光を照射したターゲット部分のみの物質を、制御して移動させることが可能であり、高分子化合物などの有機物質からなる薄膜をドライプロセスのみで形成させることができるという画期的な技術に発展してきている(福村裕史著「分子注入とアブレーション転写」「核燃料サイクルにおけるレーザプロセス技術に関する調査報告書」レーザ技術研究所、53頁−参照、以下、文献A)。
文献Aには、Hansenらは、様々な高分子フイルムを、高真空紫外領域(157nm)〜紫外短波長レーザ(192nm,248nm,355nm)および近赤外レーザ(1064nm)を利用して、該高分子フイルム形成高分子材料からなるターゲットに該レーザ光を照射し、3cm離れて対置されたガラス基板上に形成する試みをし、多くの高分子材料について、照射レーザの波長、光強度を適当に選ぶことによって、滑らかな膜を形成できることが分かったこと、ただ、近赤外と355nmの紫外光を用いる場合には滑らかな膜が得られないことが観察されたことが報告されている。
【0004】
更に、最近、PTFEの薄膜をF2レーザ(高真空紫外域の波長157nmのレーザ)を用いて形成する技術が「レーザアブレーションとその応用」電気学会レーザアブレーションとその産業応用調査専門委員会編、株式会社コロナ社1999年11月15日発行、p274−277、に報告されている。
ただ、前記短波長レーザ光を用いた薄膜の形成方法では、ターゲットのポリマーの化学的損傷は避けられないことが分かっているし、比較的長波長のレーザ光を利用できることは、該方法を実施する場合、比較的低いコストの装置の設計が可能でり、平滑な表面を持つ薄膜を、パルスレーザアブレーションのみ(熱処理などの、後処理を要することなく)によって製造する技術の確立のためにも重要である。因みに、従来のレーザアブレーション方による高分子薄膜の製造技術では比較的高真空装置、例えば10-6mmHgが必要であり、製造コストの面からも改良が望まれていた。
【0005】
このような技術の発展中で、本発明者は、前記不都合を改良する技術として、ターゲットを成形する際、薄膜形成材料中に光増感剤(パルスレーザアブレーションを該増感剤が励起される波長のレーザ光を用いて可能にする成分をいう。)を添加することにより、より長波長のレーザ光を用いることが可能になることを発見し、そのような技術が、PTFEの薄膜の形成にも適用可能であることを発表している〔第18回固体・表面光化学討論会講演要旨集、「119 光増感レーザアブレーション堆積法による高分子膜の作成」〕。しかし、前記発表の技術ではターゲットとして、数重量%まで、具体的には1重量%と、比較的多量のアントラセンをPTFEに加えて成型したものを用いている。また、レーザ照射強度も〜2J/cm2、具体的には0.350J/cm2と比較的大きく、形成された膜も、該膜にはグレインサイズ50〜200nmの粒径物が数多く観測され、膜質は好ましいものとはいえなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、前記従来の問題点を取り除いて、比較的簡易で、低コストの装置を用いて、平滑なPTFEの薄膜を作ることができるパルスレーザアブレーションを利用する薄膜の形成方法を提供することである。
特に、前記本発明者等の発表しているPTFEの薄膜を形成する方法の技術を改善して、より容易に、より品質の改善された薄膜を形成できる方法を提供するものである。このような課題を解決すべくターゲット材料を検討している中で、意外にも増感剤の量を少なくすることにより、レーザ光としてより長波長発振の安価なものが利用可能であり、また、光出力が極めて低いものが利用可能であることを発見し、前記本発明の課題を解決したものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、一種または二種以上の光増感剤を1重量%未満添加したポリテトラフルオロエチレンをターゲットとして用いることを特徴とするパルスレーザアブレーション堆積法によるポリテトラフルオロエチレン薄膜の作成方法である。好ましくは、光増感剤の添加量を0.3〜0.1重量%とすることを特徴とする前記パルスレーザアブレーション堆積法によるポリテトラフルオロエチレン薄膜の作成法であり、より好ましくは、レーザとして355nmより長波長のものを用い、パルス幅8ns〜20ns、照射光強度0.05〜0.5J/cm2でターケットを照射することを特徴とする前記パルスレーザアブレーション堆積法によるポリテトラフルオロエチレン薄膜の作成法であり、更に好ましくは、たかだか10-3mmHgの真空中において薄膜を形成することを特徴とする前記パルスレーザアブレーション堆積法によるポリテトラフルオロエチレン薄膜の作成法である。
また、意外にも、形成された薄膜中には前記増感剤は存在しないことが確認され、すなわちパルスレーザーアブレーション堆積中において、該増感剤は堆積膜中に析出してこないことを意味し、高分子膜の形成方法としては極めて望ましい特性である。
【0008】
【本発明の実施の態様】
本発明をより詳細に説明する。
A.本発明で使用される、ポリテトラフルオロエチレンとしては、市販のものを使用できる。
利用される、増感剤は、レーザアブレーションに用いられるレーザの基本波、第二高調波または第三高調波の少なくとも1つの波長の吸収によりPTFE薄膜を作成するものであればよい。例えば、355nmまたは532nmのレーザを用いる場合には、増感剤としては、ナフタレン、ピレンなどの縮合芳香族化合物、色素、例えば可視域に吸収を持つローダミン、ローズベンガルを1重量未満、特に0.3〜0.1重量%ドープしたPTFEが使用できる。
前記高調波は、基本波長、例えばYAGの1064nmを、KDPと呼ばれる結晶(組成はKH2P04)、LiNbO3、LiTaO3、KTiOPO4、KNbO3等の非線形結晶により変換することによって得られる。
前記増感剤に用いる材料は、要は、薄膜を形成する材料の化学損傷が少ないレーザ光の吸収特性(レーザの吸収効率を向上させる特性)、または薄膜を形成する材料の化学損傷が小さい波長の光の吸収により前記レーザアブレーションによる薄膜の形成を進行させるレーザ吸収特性、を有すればよい。
【0009】
B.レーザ発生手段としては、固体レーザ(Nd3+:YAGレーザ)、気体レーザ(炭酸ガスレーザ)、半導体レーザ、色素レーザ、エキシマレーザなど種々のものがある。本発明では、比較的光出力が小さくても薄膜の形成が可能であるから、安価なレーザ、例えば窒素レーザを使用することもできる。
レーザのパルス幅は、使用するレーザの波長にもよるが8ns〜20nsを採用するのがよい。パルス幅が狭くなると(例えば、10ピコ秒、100フェムト秒)多光子吸収の寄与が大きくなり好ましくないが、前記範囲に限定されない。また、10ピコ秒、100フェムト秒パルス幅のレーザは、ナノ秒パルスレーザに比べて高価である。
使用するレーザの波長は、増感剤0.1重量%以下ドープしたターゲットを用いることにより、増感剤の吸収特性により、利用できるレーザ波長として紫外光〜近赤外光の範囲のものが利用可能である。
レーザ強度も、使用する波長、増感剤などとも関連するが、ターゲット材料の熱分解による破壊を起こさない範囲、例えば0.05〜0.5J/cm2が特に好ましい。
従って、レーザについては、波長、照射パワー、密度、パルス幅(照射パワー密度×パルス幅=エネルギー密度:レーザフルエンス)が重要なパラメータとなる。
【0010】
C.パルスレーザアブレーションを実施する装置(図3)
たかだか10-3mmHgの真空〔高真空にする必要がないこと:従って、2次ポンプ(拡散ポンプ)やターボポンプなどを必要としない〕を達成できる減圧チャンバー(C)、ターゲット材料(TG)を固定して回転できる回転ステージ、前記ターゲットから適当な間隔を維持して、前記ターゲット材料のアブレーション噴出物が堆積されて薄膜(TL)が形成される基体(B)を保持する部材、チャンバー内の前記ターゲットにパルスレーザを連続照射するレーザ照射装置(LS)からなる。
なお、複合膜を形成できるように、ターゲットの前記回転ステージは、別のターゲット材料を固定した回転ステージに交換できる様に構成されていても良い。また、逆に薄膜が形成される基体を、所望のターゲットに該ターゲットから適当な間隔を維持して平行配置されるように移動できるように構成されていても良い。
また、他の材料と同時に基体上に堆積させることができるように、複数のパルスレーザー照射装置と複数のターゲット保持装置(図3b)を設けるように設計することもできる。
本発明のパルスレーザーアブレーションを実施するに際して、基体の温度は室温でよく、加熱を要しない。換言すれば、パルスレーザーアブレーションのみによってPEFEの薄膜を被処理材の表面に形成できる。
【0011】
D.被処理材料としては、前記PTFEの特性とその利用について述べた技術分野における材料、例えば金属材料を挙げることができる。また、化学工学や機械部品などを、表面に前記PTFEの機能膜形成する材料として挙げることができる。
【0012】
【実施例】
実施例1
a.ターゲットの作成
直径1μmのPTFE粉末をアントラセンのアセトン溶液に分散後、アセトンを留去して、乾燥し、増感剤であるアントラセンが0.3〜0.1重量%ドープした材料を得、これを8トン/cm2の圧力でペレット化して、密度2.1g/cm3程度のペレット状に成形することによって作成した。
b.使用レーザ
Nd3+:YAGレーザー(基本波パルス:1064nm)の第3高調波(波長355nm)をパルス半値幅8ns〜20ns、照射強度0.05〜0.5J/cm2で変化させて用いた。
c.堆積基板(表面被処理材料)として、半導体材料ZnSe、単結晶KBr、石英を用いた。
d.パルスレーザアブレーション堆積の実施条件
たかだか10-3Torrにした真空チャンバー内に設けられた、回転ステージからなるターゲット保持手段に前記ターゲット材料を固定し、これから約2〜5cm間隔もって対置できる堆積基板の保持手段(回転可能に設計することもできる)に前記堆積材料を固定した。前記レーザ照射条件で前記ターゲットを照射することにより、対置基板表面にPTFEからなる薄膜を堆積させた。
この際、チャンバー内にはアルゴン、CF4などの雰囲気ガスを導入しなかった。
得られたPTFE薄膜の特性を、赤外線吸収スペクトルにより、ターゲット作成に使用したPTFEの赤外線吸収スペクトルと対比して調べた。
図1に示されるように、対置基板表面にPTFEの薄膜が再構築されていることが理解される。
形成されたPTFE薄膜の表面平滑性を原子間力顕微鏡で測定したしたところ、水平方向1μmに高さ50nm以下のラフネスが観察された。PTFE薄膜の透明性からも平滑性が良いことが理解された。
また、薄膜の蛍光スペクトルの測定から、増感剤であるアントラセンが存在しないことが確認された。すなわち、増感剤は、実質的に薄膜中に不純物として残らないことが確認された。従って、本発明の方法で得られるPTFE薄膜は、化学的特性においては、従来法で得られるPTFE膜と実質的な差がないことが理解される。
更に、ZnSe基板に堆積した薄膜を、布で強く擦ったが、薄膜は剥離することがなく。有機溶媒で湿らせた布で擦っても同様に剥離することがなく、堆積膜の基板との接着性は良好であった。
【0013】
比較例1
a.ターゲットの作成
実施例1のPTFE粉末をそのまま、ペレット成型したものをターゲット材料とした。
b.使用レーザ
エキシマレーザ(157,193,248nm)及びNd3+:YAGレーザー(基本波パルス:1064nm)の第4高調波(波長266nm)などを用いた。レーザ強度は0.5〜6J/cm2(主として1J/cm2の条件を使用)、パルス幅は、実施例1と同じ条件とした。
c.堆積基板は実施例1と同じ。
d.パルスレーザアブレーション堆積の実施条件
10-6Torrにした真空チャンバーに、雰囲気ガスとしてアルゴン、CF4を導入した。
【0014】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明のパルスレーザアブレーション堆積法を用いると、比較的コストのかからない手段により、高品質(広い波数範囲で堆積フイルムのスペクトルが一致する)のPTFE薄膜が得られるという優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の方法で得られたPTFE薄膜およびターゲット作成に使用したPTFEの赤外線吸収スペクトル
【図2】 比較例の方法で得られたPTFE薄膜の赤外線吸収スペクトル
【図3】 パルスレーザアブレーション堆積装置の概略
【符号の説明】
B 基体 TG ターゲット材料 C チャンバー
TL PTFE薄膜 LS レーザ発生装置
Claims (4)
- 一種または二種以上の光増感剤を1重量%未満添加したポリテトラフルオロエチレンをターゲットとして用いることを特徴とするパルスレーザアブレーション堆積法によるポリテトラフルオロエチレン薄膜の作成方法。
- 光増感剤の添加量が0.3〜0.1重量%であることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーザアブレーション堆積法によるポリテトラフルオロエチレン薄膜の作成法。
- レーザとして355nmより長波長のものを用い、パルス幅8ns〜20ns、照射光強度0.05〜0.5J/cm2でターケットを照射することを特徴とする請求項1または2に記載のパルスレーザアブレーション堆積法によるポリテトラフルオロエチレン薄膜の作成法。
- たかだか10-3mmHgの真空中において薄膜を形成することを特徴とする請求項1、2または3に記載のパルスレーザアブレーション堆積法によるポリテトラフルオロエチレン薄膜の作成法。
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