パーソナルコンピュータや複写機などの電子機器は、近年、性能、機能の向上に伴い、益々、それらを実現するための様々な用途のアナログ及びデジタルの電子回路がプリント配線基板(以下、電子回路基板)の形で格納されてきている。電子回路基板には、アルミニウム等の配線材料を用いて配線パターンが形成され、かつ配線パターンに導通するように種々の電子部品(半導体集積回路素子、トランジスタ、負荷抵抗素子等の能動素子、抵抗、コンデンサ、ダイオード等の受動素子)が実装されることにより、所定の機能を有する電子回路が構成される。
このような電子回路基板が搭載される電子機器の使用環境は、通常はオフィス内であったり、家屋内であったりするが、それ以外の過酷な環境下で使用される場合もあり、非常に多岐にわたっている。特に使用環境が劣悪である場合には、通常の方法で使用していたとしても、検出が困難な様々な異常や故障が発生し、その修復には多大な労力を要することになる。
また、通常の使用環境下で使用している場合でも、電子回路の異常や故障が発生し、その頻度は必ずしも低いとは言えず、故障箇所を特定できないこともしばしば生じていた。さらに、電子回路基板に異常が発生した場合には、安全性やコストなどの面から早急な対応が必要でもあった。
故障診断の一般的手法としては、テスターなどの測定装置を用いて主要な箇所の電圧や信号波形を監視(モニタ)しながら故障箇所を特定する手法が知られている。例えば、電子回路の設計情報に基づいて、電子回路基板の信号入出力特性を検査するとともに、この検査結果に応じて、回路図を追っていきながら電子回路基板内の配線や端子をプロービングすることにより故障箇所を特定する。
また、下記特許文献1には、電子回路を流れる電流が発生する磁界を検出する技術が開示されている。この特許文献1に提案されている技術では、プリント回路基板やLSIなどの回路配線において、隣接配線の影響を抑えて一本のみの配線の電流による磁界を非接触で高分解能に測定することができる。
また、下記特許文献2には、電線に係る電気特性の高精度の取り出しなどの用途に好適な小型で簡易な構成のコイル部品を利用して電気特性量を取り出す技術が開示されている。この技術では、コイル部品として、各ターンの中心が同一直線または同一曲線上を徐々にずれていくように、全体が扁平されたコイル本体を提示している。
また、下記特許文献3には、各電子基板の電源電流を、電源に並列接続した抵抗に流し、その両端の電位差から各々の電子基板の電流情報を読み取って、これを通常状態と比較し、故障の有無を判断する技術が開示されている。
また、下記特許文献4には、プリント基板上におけるLSI等の電子部品の動作状態をセンサアレイを用いて非接触で測定する装置が開示されている。
特開平11−38111号公報
特開2002−237413号公報
特開2000−74998号公報
特開平8−327708号公報
以下、本発明の具体的な実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る故障診断システムの構成を示すブロック図である。図示のように、故障診断システムは、大きくは、センサ部100と故障診断部200とによって構成されるものである。センサ部100は、電子部品を実装して電子回路を構成する電子回路基板を故障診断の対象とし、電子回路に電流を流したときに生じる電気的な特徴情報を非接触で検出するものである。故障診断部200は、センサ部100で検出した電気的な特徴情報に基づいて電子回路基板の故障の有無を診断するものである。
図2は本発明の実施形態に係る故障診断システムが備えるセンサ部100の構成例を示す図である。図において、ソケット部材101は、ベース部材102と、複数(多数)のソケット部103,…と、配線ケーブル104とを備えて構成されている。また、ソケット部材101と組み合わせて使用可能なコイル部材として、それぞれコイル形態が異なる複数(図例では3つのみ表示)コイル部材105,106,107が用意されている。
ベース部材102は、例えば樹脂等の絶縁材料からなるもので、平面視四角形(長方形)の板状に形成されている。複数のソケット部103,…は、例えば平面視円形の端子受け口を有する導電性(金属製等)の筒状部材からなるもので、ベース部材102の主面に圧入、接着等の固定手段によって固定されている。また、各々のソケット部103,…は、図3に示すように、ベース部材102の主面(上面)上にアレイ状に配列されている。さらに詳述すると、ベース部材102の長辺方向に沿う第1の方向Xと、ベース部材102の短辺方向に沿う第2の方向Yとは、互いに直交する関係にあり、これらの直交二軸方向X,Yに対して各々のソケット部103,…が均等なピッチ(同一ピッチ)で配列されている。つまり、第1の方向Xで隣り合う任意の2つのソケット部103,103の配列ピッチPxと、第2の方向Yで隣り合う任意の2つのソケット部103,103の配列ピッチPyとは、互いに等しいピッチ(Px=Py)となっている。
配線ケーブル104は、複数の配線パターンを一纏めに束ねて絶縁体で被覆したフラットケーブルによって構成されている。この配線ケーブル104は、ベース部材102の長辺側の一側面部から外部に引き出されている。配線ケーブル104に束ねられた各々の配線パターンは、上述のようにベース部材102に配列された各々のソケット部103,…と1:1の関係で対応している。具体的には、ベース部材102の内部に配線引き回し用の配線層を設け、この配線層を介して、各々のソケット部103,…とこれに対応する各々の配線パターンとを電気的に接続することにより、各々のソケット部103,…から1本ずつ個別に配線パターンを引き出した構成となっている。このように引き出された複数の配線パターンは配線ケーブル104内で互いに平行に配列されている。
一方、各々のコイル部材105,106,107は、例えばリジッドなプリント配線板(ガラスエポキシ基材のプリント配線板など)やフレキシブルプリント配線板(ポリイミドフィルム基材のプリント配線板など)に渦巻き状にコイル配線を形成することにより、一つのコイルとして構成されたものである。コイル部材105には、図4に示すように、渦巻き状に形成されたコイル配線の終端部に位置するように2つの端子部105A,105Bが設けられている。各々の端子部105A,105Bは、例えば金属等の導電材料によってL型のピン状に形成されたもので、そのピッチ(端子ピッチ)は上記ソケット部103,…の配列ピットと同一に設定されている。また、各々の端子部105A,105Bは、上記ソケット部材101の各ソケット部103に自在に嵌合し、かつ嵌合状態においてソケット部103と常時接触し得るように端子サイズが設定されている。これにより、コイル部材105の2つの端子部105A,105Bは、上述のようにソケット部材101に配列された複数のソケット部103,…のうち、第1の方向X又は第2の方向Yで互いに隣り合う任意の2つのソケット部103,103に対して嵌脱(嵌合/離脱)可能となっている。したがって、ベース部材102上の所望の位置にコイル部材をセットしたり、一旦セットしたコイル部材を取り外して別のコイル部材を取り付けたりすることができる。また、一方の端子部105Aは、コイル部材105のコイル配線の一端部に電気的かつ機械的に接続され、他方の端子部105Bは、コイル部材105のコイル配線の他端部に電気的かつ機械的に接続されている。これと同様に、コイル部材106,107にも、それぞれ2つの端子部106A,106B及び107A,107Bが設けられている。
図5は、端子部とソケット部との嵌合状態の一例として、コイル部材105の端子部105Aをソケット部材101のソケット部103に嵌合した状態を示している。図において、端子部105Aの先端部は、端子幅が徐々に小さくなるようにテーパー状の先細に形成されている。これに対して、ソケット部103は、平面視円形でかつ同心円状をなす2段の孔構造を有し、その最内周部に上記端子部105Aの先端部が差し込まれることにより、端子部105Aとソケット部103が電気的に接続(機械的に接触)される構成となっている。
これらのコイル部材105,106,107は、コイル形態を表すコイル形状、コイル巻き数、コイルサイズ(コイル外径等)といった各要素のうち、少なくとも一つの要素が異なるものである。ただし、コイル形態が異なるコイル部材を複数用意したうえで、同じコイル形態を採用したコイル部材を複数取り揃えても良い。上述したコイル形態の各要素のうち、コイル形状とは、コイル部材を平面的に見たときの形状をいう。したがって、上記3つのコイル部材105,106,107の場合はいずれもコイル形状が四角形(長方形)となる。四角形以外のコイル形状としては円形(楕円を含む)が考えられる。コイル巻き数は、コイル部材105,106,107の各コイル配線を渦巻き状に形成するときの巻き数をいう。したがって、例えば上記図4に示すコイル部材105の場合は、コイル配線が3周巻き線されていることから、コイル巻き数が3となる。コイルサイズは、コイル部材を平面的に見たときのコイル外径さらにはコイル内径などの寸法をいう。なお、コイル形態の要素の中には、上述した各要素にコイル線径(コイル配線幅)を加えても良い。
図6(A)は故障診断の対象となる電子回路基板の一例を示す平面図であり、図6(B)はその側面図である。図において、電子回路基板108は、例えばガラスエポキシ基材を用いた片面プリント配線板をベースに構成されたものである。電子回路基板108の一面(上面)には、電子部品の一例として、3つの半導体集積回路素子(以下、ICと記す)109,110,111と2つのコンデンサ112,113が実装されている。また、実装回路基板108の他面(下面)にはアルミニウム等の配線材料を用いて図示しない配線パターンが形成され、この配線パターンに電気的に接続(導通)する状態で各々の電子部品(109〜113)が実装されている。
上記構成からなる電子回路基板108は、上述したソケット部材101の主面側つまり複数のソケット部103,…が配列された基板面側にセットされるようになっている。これに対して、ソケット部材101の主面側のコーナー部には、ソケット部材101と電子回路基板108とを相対的に位置決めする位置決め手段として、図7(A)の斜視図及び(B)の断面図に示すように、平面視略L字形でかつ断面略凹形状のガイド部114が設けられている。ガイド部114は、ソケット部材101のベース部材102と一体に又は別部品として構成されるもので、電子回路基板108の外周部を抜き差し自在に嵌合し得るように、当該電子回路基板108の板厚とほぼ同じ寸法の溝幅を有するガイド溝115を備えている。ガイド溝115は、電子回路基板108が載置される載置面115Aと、この載置面115Aとの間で電子回路基板108を挟み込むように支持する基板押さえ面115Bと、基板載置面115Aから基板押さえ面115Bに向かってほぼ垂直に起立する基板突き当て面115Cとによって略凹状に形成されている。このうち、基板載置面115Aは、ガイド部114を平面視したときに、当該基板載置面115Aが見えるように、基板押さえ面115Bとの対向領域よりも溝の外側に突出した状態で形成されている。また、ガイド溝115は、ガイド部材114の一端から他端にわたって連続的に形成されている。さらに、ガイド溝115は、当該ガイド溝115に電子回路基板108の外周部を嵌合させたときに、ベース部材102の主面と電子回路基板108の他面(下面:配線パターン形成面)との間に適度な隙間が確保されるように、ベース部材102の主面から所定の寸法だけ離れた高さ位置に配置されている。
図8は本発明の実施形態に係る故障診断システムが備える故障診断部200の構成例を示す図である。図において、選択部201は、上述のように配線ケーブル104によって引き出された複数の配線パターンの中から、実際にコイル部材の2つの端子部が嵌合された2つの配線パターンを選択するものである。この選択部201は、例えば図9に示すように、センサ部100から配線ケーブル104として引き出される複数の配線パターンP,…との組み合わせによって配線マトリクスを形成する複数の配線ラインL,…と、配線パターンPと配線ラインLとを1:1の対応関係で電気的に接続させる複数の接続子Tとを用いて構成されている。
上記配線マトリクスにおいて、配線パターンPと配線ラインLは互いに交差(ほぼ直交)する状態に配置され、その交差部(図中の黒丸部分)に接続子Tが配置される。また、配線マトリクスにおいて、配線パターンPと配線ラインLとが交差する部分には、それぞれ接続子Tを抜き差し可能な接続用孔が形成されている。接続用孔Hは、図10(A)に示すように平面視円形に形成されるとともに、その内周側の同一円周上で物理的に分離された平面視略円弧状の一対の導体部212A,212Bを有する。このうち、一方の導体部212Aは配線パターンPに電気的に接続され、他方の導体部212Bは配線ラインLに電気的に接続される。これに対して、接続子Tは、図10(B)に示すように、上記接続用孔Hに嵌合されるピン状の導電性部材である。接続用孔Hの孔径φD1に対して、これに嵌合される接続子Tの端子外径φD2は、孔径φD1と同じか、それよりも僅かに大きく設定されている。したがって、接続子Tを接続用孔Hに差し込むことにより、上記一対の導体部212A,212B同士が電気的に接続(導通)された状態となる。よって、配線マトリクス上で接続子Tの差し込み位置を適宜設定することにより、所望(任意)の接続パターンPと配線ラインLとを電気的に接続させることができる。
なお、ここでは選択部201の構成として、接続用孔Hと接続子Tとの組み合わせにより、所望の配線パターンPと配線ラインLとを電気的に接続するものを例示したが、これ以外にも、例えばジャンパーを用いて電気的な接続を行ったり、アナログスイッチのマトリクスを形成してスイッチング制御により電気的な接続を行うものであってもよい。
マルチプレクサ202は、上記複数の配線ラインL,…を通して選択部201から出力される複数の電子信号(アナログ信号)の中から、後述する配線切り替え信号にしたがって1つの電気信号を選択して出力するものである。増幅器203は、マルチプレクサ202から出力された電気信号を増幅するものである。A/D(アナログ/デジタル)変換器204は、増幅器203で増幅された電気信号をアナログからデジタルに変換するものである。なお、マルチプレクサ202とA/D変換器204との間には、増幅器203に代えてバッファ回路を接続してもよい。
インターフェース(I/F)205は、バス206との間でデータをやりとり(受け渡し)するためのインターフェースである。上記配線切り替え信号は、このインターフェース205からマルチプレクサ202に入力される。バス206には、インターフェース205の他に、CPU(中央演算処理装置)207、RAM(Random Access Memory)208、ハードディスクドライブ(HDD)209、外部インターフェース(外部I/F)210が接続されている。また、CPU207にはROM(Read-Only Memory)211が接続されている。CPU207は、ROM211に格納された制御プログラムにしたがって故障診断部200の処理動作を制御するものである。ハードディスクドライブ209には故障診断に必要な各種がデータが格納されている。ハードディスクドライブ209に格納されるデータの中には、予め測定しておいた正常状態の特徴情報を示すデータが含まれる。ハードディスクドライブ209に格納されたデータは、必要に応じてRAM208に読み出される。
続いて、上記構成からなる故障診断システムの動作とこれに基づく故障診断方法について説明する。
先ず、正常に動作することが確認されている電子回路基板(以下、正常品とも記す)108を用意したら、センサ部100において、電子回路基板108に適合するコイル部材を、それぞれコイル形態が異なる複数のコイル部材の中から選んでソケット部材101にセットする。故障診断に使用するコイル部材は、電子回路基板108内で故障診断の対象となる故障診断部位の大きさ(範囲)や形状などを基準に選択される。また、図11に示すように、電子回路基板108に適合するコイル部材として5つのコイル部材116〜120を選択した場合は、それら5つのコイル部材116〜120をソケット部材101の主面上に平面的に並べて配置する。このとき、各々のコイル部材116〜120は、電子回路基板108の故障診断部位に応じてソケット部材101の主面上にレイアウトされる。例えば、電子回路基板108の故障診断部位の一つがICであった場合は、このICをコイル配線で包囲するようにコイル部材がレイアウトされる。また、電子回路基板108の故障診断部位の一つが配線パターン間をつなぐ抵抗であった場合は、この抵抗にコイル配線の一部が隣接するようにコイル部材がレイアウトされる。また、各々のコイル部材116〜120に設けられた2つの端子部(不図示)は、それぞれソケット部材101の主面上で隣り合う2つのソケット部103,103に嵌合される。
一方、故障診断部200においては、上述のようにソケット部材101上にレイアウトされた5つのコイル部材116〜120にそれぞれ電気的に接続する2つの配線パターン(各コイル部材の2つの端子部が嵌合された2つのソケット部103,3につながる2つの配線パターン)Pを、配線ケーブル4に配列された複数の配線パターンPの中から選択し、この選択した2つの配線パターンPを介してマルチプレクサ202で特徴情報を取得すべく、上記配線マトリクスの所定の位置(配線パターンPと配線ラインLの交差部)に接続子Tを配置することにより、マルチプレクサ202につながる2つの配線ラインLを、上記2つのソケット部103,3につながる2つの配線パターンPに電気的に接続させる。これにより、コイル部材116の2つの端子部(不図示)が嵌合された2つのソケット部103,3につながる2つの配線パターンPは、これに対応(導通)する2つの配線ラインLを通してマルチプレクサ202に電気的に接続された状態となる。また、他のコイル部材117〜120も、それぞれ個別の配線経路(配線パターンP及び配線ラインL)を通してマルチプレクサ202に電気的に接続された状態となる。
このようにセンサ部100及び故障診断部200をセッティングしたら、正常品とされた電子回路基板108をソケット部材101の主面側にセットする。このとき、ソケット部材101と電子回路基板108との間で、図12に示すように、ソケット部材101上に配置されたコイル部材116〜120と電子回路基板108の他面(配線パターンの形成面)とが近接して対向するように、電子回路基板108を位置決めする。具体的には、ソケット部材101に設けられたL字形のガイド部114のガイド溝115に電子回路基板108の外周部を嵌合させるとともに、ガイド溝115の基板突き当て面115Cに電子回路基板108の端面を突き当てることにより、ソケット部材101の主面上で電子回路基板108を位置決めするとともに、ガイド溝115の基板載置面115Aと基板押さえ面115Bとの間で電子回路基板108を挟持することにより、ソケット部材101の主面上で電子回路基板108を固定する。このとき、必要に応じてベース部材102の主面に支持ピン等の支持部材を所定数だけ配置しておき、この支持部材で電子回路基板108を載置状態に支持する構成としてもよい。
続いて、電子回路基板108の電子回路に電流を流して実際に回路を動作させるとともに、この動作状態のもとでマルチプレクサ202に取り込まれるアナログの電気信号を、インターフェース205を介してハードディスクドライブ209に格納(記憶)する。ここで、電子回路基板108の電子回路に電流を流した場合は、故障診断部位に応じて配置された各々のコイル部材において、コイル中を通る磁束が、電子回路に流れる電流の変化に応じて変化するとともに、この磁束の変化(すなわち磁界の変化)によってコイルに誘導起電力が発生する。したがって、各々のコイル部材においては、故障診断部位の電流の流れに応じた誘導起電力が電気的な特徴情報として感知される。
そこで、故障診断部200においては、ソケット部材101の主面上に配置(レイアウト)された各々のコイル部材116〜120が感知する誘導起電力を、当該コイル部材116〜120につながる各配線パターンP及び配線ラインLを通してマルチプレクサ202に取り込む。そして、CPU207からの制御命令に基づいてインターフェース205が配線切り替え信号をマルチプレクサ202に入力することにより、その配線切り替え信号に基づくマルチプレクサ202のスイッチング動作によって、各々のコイル部材116〜120で感知した誘導起電力をインターフェース205で順に(個別に)取得する。こうして取得された正常状態の誘導起電力(特徴情報)は、CPU207の制御命令にしたがってハードディスクドライブ209に格納される。以上で正常品を用いた特徴情報の測定が終了する。
続いて、故障診断の対象となる電子回路基板108を上記正常品と同様にソケット部材101の主面側にセットした後、上記正常品と同様の条件で電子回路基板108の電子回路に電流を流して回路動作させる。そして、この動作状態のもとで、ソケット部材101の主面上に配置された各々のコイル部材116〜120が感知する誘導起電力を、当該コイル部材116〜120につながる各配線パターンP及び配線ラインLを通してマルチプレクサ202に取り込むとともに、CPU207からの制御命令に基づいてインターフェース205が配線切り替え信号をマルチプレクサ202に入力することにより、各々のコイル部材116〜120で感知した誘導起電力をインターフェース205で順に(個別に)取得する。
このようにして得られた誘導起電力は、CPU207の指示にしたがって、予めハードディスクドライブ209に格納された正常状態の誘導起電力と比較される。誘導起電力の比較は、例えばコイルに発生する誘導起電力の時間的なレベル変化を示す信号波形(電圧波形)の比較で行う。そして、双方の信号波形に、予め設定された許容レベル以上の差が生じた場合は、故障診断の対象とした電子回路基板108が故障していると判断する。上記「許容レベル」は、故障診断の対象とした電子回路基板108が故障しているか否かを判断するための基準となるもので、正常品の信号波形の変動範囲や、コイル部材を用いた誘導起電力の測定誤差などを考慮して予め設定される。
電子回路基板108が故障していると判断した場合は、その旨をアラームの発生や警告メッセージの表示などでユーザ(故障診断システムの使用者)に通知する。その際、電子回路基板108のどの部分が故障しているかといった故障箇所の特定を警告メッセージに含めて通知(表示)することができる。さらに、故障と診断された信号波形の状態を詳細に解析することにより、故障箇所の特定と合わせて故障内容の特定を警告メッセージに含めて通知(表示)することもできる。
図13(A)は故障診断の対象となる電子回路基板108の故障診断部位の回路構成を示し、図13(B)は当該故障診断部位に対応したコイル部材の配置状態を示す図である。図13(A)に示す故障診断部位の回路は、オープンコレクタインバータ300にデジタル信号VINを入力することにより、負荷抵抗301に電流IOUTを流すオープンコレクタインバータ回路である。この回路をプリント配線板で作成すると図13(B)のようになる。すなわち、オープンコレクタインバータの機能を持つIC302のリード端子303A,303Bをプリント配線板の配線304A,304Bに接合(半田付け)するとともに、負荷抵抗となる抵抗素子305の一方のリード端子306Aを、IC302のリード端子303Aと共通の配線304Aに接合(半田付け)する。この場合、故障診断部位は、IC302と抵抗素子305の各リード端子をつなぐ配線部分となるため、この配線部分に適合するコイル部材121を選択するとともに、当該配線部分にコイル配線の一部が隣接するようにソケット部材101にコイル部材121を配置する。
このようにコイル部材121を配置して実際に回路を動作させると、正常品の場合は、図14(A)に示すように、IC302に入力されるデジタル信号VINのレベルがLOWレベルからHIレベルに変化したときに、オープンコレクタの出力がグランドに接続されるため、抵抗素子305に電流IOUTが流れ、その後、デジタル信号VINの信号レベルがHiレベルからLOWレベルに変化すると、抵抗素子305に電流IOUTが流れなくなる。このとき、抵抗素子305に流れる電流IOUTの変動量がコイル部材121の誘導起電力として出力される。そのため、コイル部材121からは、抵抗素子305に流れる電流IOUTが変化するタイミング(デジタル信号VINの立ち上がり及び立ち下がりのタイミング)で、電流IOUTの変動量に対応した微分波形が出力される。したがって、この電流IOUTが変化するタイミングを含むようにコイル部材121からの出力を連続的に取得(サンプリング)する。
これに対して、例えば抵抗素子305が故障してオープン状態となっていた場合は、いC302にデジタル信号VINを入力しても、抵抗素子305に電流IOUTが流れなくなる。そのため、コイル部材121に誘導起電力が発生せず、コイル部材121から微分波形が出力されることもない。この場合は、正常状態で予め測定しておいたコイル出力波形との比較処理で、同じタイミング(期間)で取得された双方の波形に大きな差が生じるため、故障診断部位としたオープンコレクタインバータ回路が故障していると判断し、その旨をユーザに通知する。さらに、故障時のコイル出力波形を解析することにより、抵抗素子305に電流IOUTが全く流れていないことが分かるので、故障内容を抵抗のオープン不良と特定することができる。
なお、上記実施形態においては、故障診断の対象となる電子回路基板108を用いて測定した誘導起電力の出力波形と、予め正常状態で測定しておいた誘導起電力の出力波形とを比較することにより、故障診断を行うものとしたが、これ以外にも、例えば誘導起電力の出力をフーリエ変換等の手法で周波数解析したり統計的処理・解析(例えば、出力レベルの平均化処理等)などを行ったりした結果で比較してもよい。
100…センサ部、200…故障診断部、102…ベース部材、103…ソケット部、105,106,107,116,117,118,119,120…コイル部材、105A,106A,107A…端子部、108…電子回路基板、201…選択部、202…マルチプレクサ