JP4320909B2 - 磁気記録媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記録媒体およびその製造法に関する。より詳細には、磁気記録媒体形成前の加熱の工程において、その加熱熱量に傾斜を付けて順次的に加熱したことを特徴とする磁気記録媒体およびその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
コンピュータの外部記憶装置として一般的な固定磁気記録装置(ハードディスク等)に用いられる磁気記録媒体の層構成を表わす模式的断面図を、図1に示す。中心部にスピンドル取付用の孔を有する円環状のガラスまたはAl等の基板支持体1上に、Ni−PまたはAl等のようなメッキ層2が形成された非磁性基板11の上に、Crを含む非磁性下地層3、Coを含む磁性記録層4(例えばCoCrPtBまたはCoCrPtTa等)および保護層5が形成されいる。必要に応じてさらにその上に、潤滑剤からなる潤滑層6を形成してもよい。そして、複数枚の前記磁気記録媒体を1つの装置内に設けて、パーソナルコンピュータ用の大容量記憶装置などとして用いられている。
【0003】
近年、マルチメディア時代の到来に向けて、HDDの高密度、大容量化が急速に進んでいる。そのスピードは市場の要求からも後押しされ、年率60%で記録容量が増加している。一方、HDDの容積の市場スタンダードはより小型化の方向へ進んでいる。
【0004】
したがってHDD用の磁気記録媒体は、記録容量の増加と並行して、高密度化が進んでいる。すなわち、高密度化に比例して、媒体の1ビット当たりの長さも小さくなっている。磁気記録媒体側の微細化に対応するために、磁気へッドの構造の微細化およびその感度の上昇も、著しい進歩を遂げてきている。
【0005】
このような磁気記録媒体の高密度化およびへッドの感度上昇に伴い、1ビット当たりの磁界強度が減少し、したがってバックグラウンド磁場(ノイズ)の影響をますます受けやすくなってきている。すなわち磁気記録媒体の記録密度に対するマージンは減少してきている。このマージンを拡大するためには、ノイズ量を低下させて磁気記録媒体のS/N比を大きくすることが最重要項目として必要とされる。さらなる高密度記録のためには、S/N比の大きな磁気記録媒体の開発が不可欠である。
【0006】
従来、磁気記録媒体の各構成層をスパッタリングにより成膜する際には、スパッタ前の非磁性基板を脱ガスし、および非磁性基板表面の不純物を消散させるために、予備加熱されている。その加熱手段として、ランプヒータが一般的に用いられており、さらに複数のランプヒータを用いることが一般的に行われている。このランプヒータの熱量は、従来一定とされていた。これは、結晶粒径を不均一化させることなく、かつ温度むらによるS/N比の低下を防止すると同時に、脱ガス効果および不純物消散効果を得るために設定されたものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の複数のランプヒータ熱量を一定とした方法では、各層において粒径を不均一化することなく、結晶を積層させることが可能であった。しかし、この従来技術ではS/N比が向上せず、磁気記録媒体自身の特性は頭打ちとなっていた。これは、熱量一定にすることにより、非磁性下地層を成膜する際の結晶成長の助長作用が、少ないためと考えられた。すなわち、Ni−P等をメッキされた非磁性基板の上に非磁性下地層を成膜する際に、基板に与える熱量が非磁性下地層の結晶成長に大きく左右すると考えられている。また、この際に、非磁性下地層の結晶粒径を、従来同様に均一に保つことが必要である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記に示したように、プロセス条件を変更することによって高S/N比化すなわち低ノイズ化を実現した。
【0012】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、複数個の加熱手段により、非磁性基板を順次的に加熱する工程と、前記非磁性基板上に、Crを含む非磁性下地層、Coを含む磁性記録層、および前記磁性記録層を保護するための保護層を順次設ける工程とを含み、前記順次的な加熱において熱量傾斜が付けられており、前記非磁性下地層の形成直前の加熱手段の熱量を、他の加熱手段の熱量より50%高く設定することを特徴とする。
【0013】
前記加熱手段は、ランプヒータであっても良い。
【0015】
好ましくは、前記複数個の加熱手段は、3個以上である。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の磁気記録媒体は、基板支持体11とメッキ層とからなる非磁性基板11、非磁性下地層3、磁性記録層4、保護層5とからなる。必要に応じて、保護層5の上に潤滑層を設けてもよい。また、必要に応じて非磁性下地層3と磁性記録層4との間に中間層を設けてもよい。
【0017】
基板支持体1の材料として、Al合金およびガラスのような当該技術において知られているいかなる材料をも用いることができる。特にAl合金が好ましい。
【0018】
基板上のメッキ層2は、当該技術において知られているいかなる材料をも用いて施すことができる。特にNi−Pが好ましい材料である。メッキ層2は、無電界メッキのような湿式成膜工程、または真空中におけるスパッタ法、蒸着法等のようなドライ工程により形成することができる。
【0019】
基板上に設けられる非磁性下地層3および磁性記録層4は、当該技術において知られている材料を用いて、慣用の方法により作成することができる。非磁性下地層3の材料として好ましいものは、Crなどを含む非磁性材料を含む。一方、磁性記録層4の材料として好ましいものは、Coおよびその合金などを含む磁性材料を含み、好ましくはCoCrPtBまたはCoCrPtTa等を含む。
【0020】
保護層5を形成する材料として、DLC、酸化珪素(SiO2)および酸化ジルコニウム(ZrO2)を用いることができる。特にDLCが好ましい。
【0021】
非磁性下地層3、磁性記録層4、および保護層5は、好ましくは、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、化学蒸着法(プラズマCVD法、レーザCVD法、有機金属CVD法を含む)を用いて形成することができる。特に好ましい方法は、スパッタリング法である。
【0022】
必要に応じて設けてもよい潤滑層6は、当該技術において知られている材料を用いて、慣用の方法により作成することができる。特に、パーフルオロポリエーテルが好ましい材料であり、好ましくはスピンコート法により形成される。
【0023】
非磁性基板11(基板支持体1およびメッキ層2)、非磁性下地層3、磁性記録層4および保護層5、ならびに必要に応じて設けられる潤滑層6は、当該技術において汎用されている厚さで形成される。
【0024】
また、本発明の磁気記録媒体の大きさは、当該技術において用いられるいかなる大きさであってもよい。例えば、本発明の磁気記録媒体の大きさは、3.5インチ(公称値、実際の外径は95mm)、2.5インチ(公称値、実際の外径は65mm)、3インチ(公称値、実際の外径は84mm)、および5インチ(公称値、実際の外径は130mm)であることが好ましい。なお、ここで示した大きさの公称値は、当該技術において汎用されているものであり、実際の大きさは前記の括弧内の数値であると理解されるべきである。
【0025】
本発明で用いられる非磁性基板11は、Al合金からなる所要の平行度、平面度および表面粗さに機械加工された基板支持体1の表面に、無電界メッキによりNi−Pからなるメッキ層2を形成することにより得ることができる。この後、機械加工、レーザ加工により、所定の平面度および表面粗さに再度加工してもよい。さらに、洗浄等により、基体11の表面を清浄な状態とすることが好ましい。
【0026】
本発明の磁気記録媒体において高いS/N比を実現するためには、非磁性下地層を成膜する際に基板に与える熱量を最適化することにより、該層内の結晶成長を助長することが必要であり、特に、結晶をエピタキシャル成長させることが好ましい。さらに、非磁性下地層の結晶粒径を、従来同様に均一に保つことが必要である。そのような基板に与える熱量の最適化の手段として、熱量傾斜をつけた順次的な加熱が好ましい。
【0027】
熱量傾斜をつけた順次的な加熱を行うために、複数個の加熱手段を有する装置を用いることができる。前記複数個の加熱手段は、好ましくはそれぞれ個別に加熱量を設定できるものである。加熱手段の個数は、必要とされる磁気記録媒体の特性、ならびに実際的な費用および装置の観点から決定され、好ましくは3個以上である。そのような加熱手段として、ランプヒータを用いることが好ましい。
【0028】
図2に、本発明で用いられるスパッタ成膜装置を示す。図2のスパッタ成膜装置は、成膜室として下地層成膜室31、必要に応じて設けてもよい中間層成膜室32、磁性層成膜室33、および保護層成膜室34を有し、およびその下地層成膜室31に隣接する加熱手段として、3つのランプヒータ加熱室21、22および23を有する。
【0029】
非磁性基板11は、非磁性基板搬入口40から搬入され、気圧調整室50を通り、そしてランプヒータ加熱室21、22および23から成る加熱手段を通ることによって加熱される。加熱された非磁性基板は、希ガスプラズマスパッタリング装置を用いた下地層成膜室31、磁性層成膜室33、保護層成膜室34を通過することによって、各層が順に成膜され、そして磁気記録媒体搬出口60から取り出される。
【0030】
次に、ランプヒータ加熱室21、22および23における非磁性基板11の加熱を説明する。非磁性基板11を搬送しながら加熱および成膜を行うと、その搬送速度によって基板11の加熱および各層の成膜状態にばらつきが生じるため、非磁性基板11が各室に完全に搬送されてから、静止状態で加熱および成膜を行う。各加熱室での非磁性基板11の滞在時間(搬送に要する時間を除く)は、ランプヒータの安定した加熱が得られること、および生産効率(単位時間あたりの製造数)を踏まえて決定されるべきである。非磁性基板の滞在時間(すなわち、加熱時間)は、好ましくは3〜6秒の間、より好ましくは3.5〜5.5秒の間である。
【0031】
それぞれのランプヒータ加熱室におけるランプヒータと非磁性基板との距離は、作製する磁気記録媒体の非磁性基板のサイズおよび用いるヒータの種類等に依存して変化する。たとえば、以下に示す実施例のように直径95mmの非磁性基板およびランプヒータを使用して磁気記録媒体を作製する場合には、好ましくは19〜21mmであり、より好ましくは19.5〜20.5mmである。
【0032】
前述のように、各ランプヒータ加熱室におけるランプヒータの熱量を均一に保つのが従来の方法であった。具体的には、たとえば、3つともランプヒータの設定電力を1.2kWに設定することが行われてきている。これに対して、本発明の製造方法では、非磁性下地層形成を行う直前の加熱室の加熱手段が発生する熱量を、他の加熱手段の発生する熱量よりも50%以上高くすることが好ましい。すなわち、たとえばランプヒータ加熱室21および22のランプヒータは従来と同じ設定電力1.2kWとした場合に、一番成膜室に近いランプヒータ加熱室23のランプヒータのみ1.8kWとすることが好ましい。
【0033】
これらの数値を規格化するために、それぞれのランプヒータ加熱室における非磁性基板の滞在時間中に、ランプヒータの発生する熱量に換算する。この実施例において用いたランプヒータにおいては、電力を1.2kWに設定し、非磁性基板の滞在時間を4.5秒としたときに、5.4kJの熱量を発生する。また、電力を1.8kWに設定した場合には、同様に4.5秒の滞在時間において8.1kJの熱量を発生する事になる。したがって装置独自の設定電力ではなく、規格化した熱量を用いて議論を行う。
【0034】
本発明において、各加熱室における非磁性基板の滞在時間中に、加熱手段(たとえばランプヒータ)が発生する熱量を、5.4kJ以上8.1kJ以下とすることが好ましい。熱量を5.4kJ未満とした場合には、所望されるS/N比の改善効果が見られず、一方熱量が8.1kJを越える場合には、非磁性基板上の凹凸の発生または非磁性基板の変形等の望ましくない現象が発生するおそれがある。また、特に好ましくは、非磁性下地層形成を行う直前の加熱室の加熱手段が発生する熱量を、5.4kJ以上8.1kJ以下とすることである。
【0035】
(実施例)
以下に具体的な実施例を示して、本発明をさらに説明する。
【0036】
(実施例1〜6)
図2に示したスパッタ装置を用いて、磁気記録媒体を製造した。すなわち、下地層成膜室31において、非磁性基板11に約−200Vの直流バイアス電圧を印加するDCスパッタ法を用い、非磁性基板11表面(すなわちメッキ層2の表面)にCrからなる膜厚約50nmの非磁性下地層3を形成した。次に、磁性層成膜室33において、非磁性基板に約−200Vの直流バイアス電圧を印加するDCスパッタ法を用い、Coを主とするCoCrPtTa等のような膜厚約30nmの磁性記録層4を非磁性下地層3上に積層した。そして次に、保護層成膜室34において、非磁性基板に約−200Vの直流バイアス電圧を印加するDCスパッタ法を用い、Cを主とする膜厚約10nmの保護層5を磁性記録層4上に形成した。
【0037】
この際に、ランプヒータ加熱室21および22の熱量を従来通り5.4kJとし、最も成膜室に近いランプヒータ加熱室23の熱量を変化させ、それぞれの場合に関して、磁気記録媒体のS/N比を測定した。ランプヒータ加熱室23の熱量を、4.5kJ〜9.0kJの範囲で変化させた。なお、各加熱室における非磁性基板の滞在時間は、前述の条件等を考慮して、経験的に4.5秒間で一定とした。また、各加熱室において、ランプヒータと非磁性基板との距離は、全て20mmとした。加熱条件および結果を表1に示し、およびそのグラフを図3に示す。
【0038】
S/N比は、シグナルS(TAA(出力)/2)とノイズNmとの比をdB単位で示したもの、すなわち(S/N比(dB))=20log10(S/Nm)で表わされる量である。具体的には、電磁変換特性測定用R/Wテスターにより測定した。
【0039】
【表1】
【0040】
図3を見ると、磁気記録媒体中間部(MD)、同外周部(OD)、および同内周部(ID)のいずれの部位においても、S/N比は、ランプヒータの熱量に関して、上に凸の曲線を描いている。その曲線は、いずれの部位に関してもランプヒータの熱量が8.1kJであるとき(実施例5)に、最大値を示していることがわかる。具体的には、5.4kJのときに比べて8.1kJでは、表1に示すように、MD、OD、およびID全てにおいて、S/N比を1.0dB以上大きくすることができた。また、熱量が9.0kJの場合(実施例6)のS/N比は、8.1kJの場合よりも小さく、これ以上の加熱が有効でないことを示唆している。
【0041】
このS/N比は磁気記録媒体に情報を書き込む際のエラー発生率に対して、指数関数的に寄与するため、1.0dBの上昇でもエラーの生じる確率は約300分の1程度にまで減少させることができる。したがってこのような、本発明によるS/N比の改善は、磁気記録媒体にとって非常に大きな改善である。
【0042】
(実施例7および比較例1)
ランプヒータ加熱の総熱量を一定として、熱量傾斜をつけた場合とつけない場合について比較した。各ランプヒータ加熱室の熱量の設定以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を製造し、そのS/N比を測定した。具体的な加熱条件および結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例7および比較例1において、加熱の総熱量は双方ともに18.9kJである。この結果からも明らかなように、加熱の総熱量を等しくした場合においても、熱量傾斜を有する実施例7の磁気記録媒体が、熱量傾斜を有さない比較例1の媒体に比較して、約0.6dB高いS/N比を有しており、本発明の方法がS/N比の向上に有効であることを示している。
【0045】
【発明の効果】
磁気記録媒体の高密度記録を実現するために不可欠な、S/N比を改善するための製造方法を確立した。具体的には、従来の複数のランプヒータの熱量を一定とした方法では、非磁性下地層を成膜する際の結晶成長が乏しいため、ランプヒータの熱量に傾斜を付けることにより、これを助長し、S/N比を改善した。
【0046】
具体的には、従来のランプヒータ熱量が一定の場合に比べ、S/N比が1.0dBほど改善した。これによって、磁気記録媒体に情報を書き込む際のエラー発生率を約300分の1にまで減少させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】磁気記録媒体の層構成の一例を示す断面図である。
【図2】この発明の実施例にかかる、磁気記録媒体の成膜装置の構成図である。
【図3】磁気記録媒体の作製時のランプヒータ加熱室23の熱量と得られる磁気記録媒体のS/N比との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基板支持体
2 メッキ層
3 非磁性下地層
4 磁性記録層
5 保護層
6 潤滑層
11 非磁性基板
21、22、23 ランプヒータ加熱室
31 下地層成膜室
32 中間層成膜室
33 磁性層成膜室
34 保護層成膜室
40 非磁性基板搬入口
50 気圧調整室
60 磁気記録媒体搬出口
Claims (3)
- 磁気記録媒体の製造方法であって、
複数個の加熱手段により、非磁性基板を順次的に加熱する工程と、
前記非磁性基板上に、Crを含む非磁性下地層、Coを含む磁性記録層、および前記磁性記録層を保護するための保護層を順次設ける工程と
を含み、前記順次的な加熱において熱量傾斜が付けられており、前記非磁性下地層の形成直前の加熱手段の熱量を、他の加熱手段の熱量より50%高く設定することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。 - 前記加熱手段は、ランプヒータであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
- 前記複数個の加熱手段は、3個以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
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