以下、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
(1)第1の実施の形態
最初に、最も基本的な第1の実施の形態について説明する。
(1−1)第1の実施の形態におけるマルチチャンネル再生システムの全体構成
図1において、1は全体として本発明の一実施の形態におけるマルチチャンネル再生システムを示し、リビング等の室内環境において、単数もしくは複数のユーザU1〜U3に対し、DVD(Digital Versatile Disc)やSACD(Super Audio Compact Disc)等のマルチチャンネル音声コンテンツを臨場感ある形で提供しようとするものであり、音響装置2、任意のリスニングポジションに位置する複数のユーザU1〜U3に対して共通に用いられるサブウーファ3、複数のユーザU1〜U3がそれぞれ使用するヘッドホンHP1〜HP3によって構成されている。
(1−2)第1の実施の形態におけるマルチチャンネル再生システムの基本回路構成
図2(A)に示すように、マルチチャンネル再生システム1においては、例えば単数のユーザU1だけを対象とした場合、音響装置2のDVD/SACDプレーヤ12によって再生された複数チャンネルからなる再生信号に対し、サウンドプロセッサ11を介して所定の信号処理を施した後、そのうち中高域成分信号S1をユーザU1のヘッドホンHP1へ有線又は無線により伝送すると共に、低域成分信号S2をサブウーファ3へ出力するように振り分ける。
ヘッドホンHP1は、サウンドプロセッサ11から供給された中高域成分信号S1に応じて、筐体K1及びK2の内部に取り付けられたスピーカユニット(図示せず)から再生音声の中高音を出力するようになされている。
一方、サブウーファ3は、サウンドプロセッサ11から供給された低域成分信号S2に応じた再生音声の低音を出力するようになされている。これにより、マルチチャンネル再生システム1では、ヘッドホンHP1から再生音声の中高音を出力すると共に、サブウーファ3から再生音声の低音を出力することになり、その合成音がユーザU1に対する聴取音となるようになされている。
ここでヘッドホンHP1としては、所謂密閉型ではなく開放型と呼ばれるものが用いられており、筐体K1及びK2のイヤーパッド部分とユーザU1の耳との間に多少なりとも隙間が開いているものを前提としている。
開放型のヘッドホンHP1では、聴取者であるユーザU1の耳付近での圧迫感を与えないこと、装着感に優れていること等が特徴として挙げられるが、同時にスピーカユニットの振動板の前面と背面とが空間で繋がっており、波長の長い低音におけるキャンセル効果が生じるために十分な低域再生が出来ないという欠点がある。
しかしながら、このマルチチャンネル再生システム1では、開放型のヘッドホンHP1の他にサウンドプロセッサ11に接続されたサブウーファ3によって再生音声の低音をカバーすることができるため、再生音声の全周波数帯域を聴取者に対して受聴させ得るようになされている。
すなわち開放型のヘッドホンHP1では、筐体K1及びK2のイヤーパッド部分と耳との間に隙間が開いているため、その隙間を介してサブウーファ3から出力される低音をユーザU1に聴取させることが可能になる。
またサブウーファ3を用いて低域再生することに関しては、以下のようなメリットもある。主にDVDで提供される映画等のコンテンツにおいて、低域表現の役割は爆発音や密閉感を表す効果音の再生がメインであることが多い。
それらの迫力は、耳からの聴取する低音だけでなく聴取者の身体全体で受ける振動等も大きく作用していることは経験からも明らかである。その意味で、低域再生は、ヘッドホンHP1だけによるのではなく、サブウーファ3により実際に空間再生することの方が、コンテンツ制作者の意図を反映した迫力を一段とユーザU1に伝えられると考えられる。
このようにマルチチャンネル再生システム1では、開放型のヘッドホンHP1におけるイヤーパッド部分と耳との隙間を介してサブウーファ3からの低音を聴取させ得ることに加えて、サブウーファ3からの低音をユーザU1の身体全体で受ける振動として体感させ得るようになされている。
同様に図2(B)に示すように、マルチチャンネル再生システム1においては、複数のユーザU1〜U3を対象とした場合、音響装置2のDVD/SACDプレーヤ12によって再生された複数チャンネルからなる再生信号に対し、サウンドプロセッサ11を介して所定の信号処理を施した後、そのうち中高域成分信号S1A〜S1CをユーザU1〜U3のヘッドホンHP1〜HP3へ有線又は無線によりそれぞれ伝送すると共に、低域成分信号S2をサブウーファ3へ出力するように振り分ける。
この場合、サウンドプロセッサ11は、サブウーファ3からユーザU1〜U3までの距離がリスニングポジションの違いによってそれぞれ異なり、またユーザU1〜U3に到達する再生音声の周波数特性がそれぞれ異なるため、それらを考慮してタイムアライメントの補正や、周波数特性の補正を施した結果得られる中高域成分信号S1A〜S1CをそれぞれユーザU1〜U3のヘッドホンHP1〜HP3へ出力するようになされている。
ヘッドホンHP1〜HP3は、サウンドプロセッサ11からそれぞれ供給された中高域成分信号S1A〜S1Cに応じて、当該ヘッドホンHP1〜HP3における各スピーカユニット(図示せず)から再生音声の中高音を出力するようになされている。
一方、サブウーファ3は、サウンドプロセッサ11から供給された低域成分信号S2に応じた再生音声の低音を出力するようになされている。これにより、マルチチャンネル再生システム1では、ヘッドホンHP1〜HP3から再生音声の中高音をそれぞれ出力すると共に、サブウーファ3から再生音声の低音を出力することになり、その合成音がユーザU1〜U3に対する聴取音となるようになされている。
この場合も、ヘッドホンHP1〜HP3としては、所謂密閉型ではなく開放型と呼ばれるものが用いられており、スピーカユニットの振動板の前面と背面とが空間で繋がっている関係上、波長の長い低音におけるキャンセル効果が生じるために十分な低域再生が出来ないという欠点があるが、サウンドプロセッサ11に接続されるサブウーファ3によって低域をカバーすることができるため、再生周波数の全帯域を聴取者であるユーザU1〜U3に対して受聴させ得るようになされている。
このようにマルチチャンネル再生システム1では、開放型のヘッドホンHP1〜HP3におけるイヤーパッド部分と耳との隙間を介してサブウーファ3からの低音を聴取させ得ることに加えて、サブウーファ3からの低音をユーザU1〜U3の身体全体で受ける振動として体感させ得るようになされている。
(1−3)第1の実施の形態におけるヘッドホンの構成
ここでヘッドホンHP1〜HP3においては、図3に示すように、ユーザU1の左右に1個ずつスピーカユニットSU1及びSU2が設けられた構成が考えられる。
また、図3との対応部分に同一符号を付した図4(A)及び(B)に示すように、ユーザU1の頭部における耳横部のスピーカユニットSU1及びSU2だけでなく、その前方両側にスピーカユニットSU3及びSU4が設けられると共に、その後方両側にスピーカユニットSU5及びSU6が設けられた構成についても考えられる。
すなわち、この場合、ユーザU1の左右の耳に対して前、横、後ろから包み込むようにスピーカユニットSU1〜SU6が配置された構成となる。
(1−4)第1の実施の形態における音像定位手法
上述したような左耳横部にスピーカユニットSU1、SU3及びSU5が設けられ、右耳横部にスピーカユニットSU2、SU4及びSU6が設けられているヘッドホンHP1〜HP3(図4)を用いた場合の音像定位手法と、左耳横部及び右耳横部にそれぞれ1個ずつスピーカユニットSU1及びSU2が設けられているヘッドホンHP1〜HP3(図3)を用いた場合の音像定位手法について、それぞれ説明する。但し、ここでは便宜上、ヘッドホンHP1〜HP3のうちヘッドホンHP1だけについて説明する。
(1−4−1)左右に複数のスピーカユニットがそれぞれ設けられているヘッドホンを用いた場合の音像定位手法
図4(A)及び(B)に示したような複数のスピーカユニットSU1〜SU6を有するヘッドホンHP1の場合、図5に示すように、例えば5.1ch音源であるDVD19から再生された5.1chのマルチチャンネル音声コンテンツにおける左フロントスピーカ用のLチャンネル、右フロントスピーカ用のRチャンネル、センタスピーカ用のCチャンネル、左サラウンドスピーカ用のSLチャンネル及び右サラウンドスピーカ用のSRチャンネルに対するそれぞれの音声信号を個別のスピーカユニットSU1〜SU6により各チャンネル音声として出力することにより、コンテンツ製作者が意図したような音像の方向感すなわち音像定位を与えることが出来るようになされている。
この場合、センタスピーカ用のCチャンネルを介して出力される音声信号については、センタスピーカが本来一つであって、Cチャンネルの音声信号をスピーカユニットSU3及びSU4へそれぞれ出力した場合、センタスピーカ用のCチャンネルの音量レベルが大きくなることで、他のチャンネル(Lチャンネル、Rチャンネル、SLチャンネル及びSRチャンネル)とのレベルバランスが崩れるため、スピーカユニットSU3及びSU4へ供給する前に、レベル低減回路21及び22によりそれぞれ−3[dB]ずつゲインを落とすようになされている。
また、LFE(Low Frequency Effect)チャンネルに供給される低域成分信号は、本来、音像の方向感をユーザに与えることのない範囲の周波数帯域に相当するため、通常通りサブウーファ3へ出力されるようになされている。
すなわち、この場合のマルチチャンネル再生システム1では、マルチチャンネル音声コンテンツに対応した再生音声のうち音像の方向感を与え得る中高音については複数のスピーカユニットSU1〜SU6を有するヘッドホンHP1を介して個別に出力させようにしたことにより、例え何れのリスニングポジションに位置する聴取者に対してであっても、その聴取者の周囲を回転するかのような物体のシーンに対して、この物体の回転に伴う音像の方向感を実感させ得るようになされている。
(1−4−2)左右に1個ずつスピーカユニットが設けられているヘッドホンを用いた場合の音像定位手法
図3に示したような左耳横部及び右耳横部にそれぞれ1個ずつスピーカユニットSU1及びSU2が設けられたヘッドホンHP1の場合、図6に示すように、マルチチャンネル再生システム1では、当該ヘッドホンHP1における左右の筐体K1及びK2の内部に設けられたスピーカユニットSU1及びSU2から放音される再生音声の音像を、あたかも仮想左チャンネルVL、仮想右チャンネルVR、仮想センターチャンネルVC、仮想サラウンド左チャンネルVSL、仮想サラウンド右チャンネルVSRから放音されていると聴取者に感じさせるように定位させる必要がある。
そうすればマルチチャンネル再生システム1は、ヘッドホンHP1における左右のスピーカユニットSU1及びSU2から放音される再生音声が、仮想左チャンネルVL、仮想右チャンネルVR、仮想センターチャンネルVC、仮想サラウンド左チャンネルVSL、仮想サラウンド右チャンネルVSRから放音されているかのように感じさせることができるため、モニタ4(図1)を介してDVD等のマルチチャンネル音声コンテンツを聴取しているユーザに対して立体感及び臨場感ある再生音声を提供し得るようになされている。
ここで、音像を動かす音象定位処理の原理について説明する。図7に示すように、所定の再生音場において、ダミーヘッドDHの位置に存在するであろう聴取者に対して、音像を定位させようとする仮想左チャンネルVL、仮想右チャンネルVR、仮想センターチャンネルVC、仮想サラウンド左チャンネルVSL、仮想サラウンド右チャンネルVSRの仮想スピーカ位置に対して、実際に左スピーカSL、右スピーカSR、センタスピーカSC、左サラウンドスピーカSSL、右サラウンドスピーカSSRを配置する。
そして、左スピーカSL、右スピーカSR、センタスピーカSC、左サラウンドスピーカSSL、右サラウンドスピーカSSRから放音される再生音声をダミーヘッドDHの両耳部分で集音し、左スピーカSL、右スピーカSR、センタスピーカSC、左サラウンドスピーカSSL、右サラウンドスピーカSSRから放音された再生音声が、ダミーヘッドDHの両耳部分に到達したときには、どのように変化しているかを示す頭部音響伝達関数(HRTF(Head Related Transfer Function))を予め測定しておく。
この場合、左スピーカSLからダミーヘッドDHの左耳までの再生音声の頭部音響伝達関数はN11であり、左スピーカSLからダミーヘッドDHの右耳までの再生音声の頭部音響伝達関数はN12である。
同様に、センタスピーカSCからダミーヘッドDHの左耳までの再生音声の頭部音響伝達関数はN21であり、センタスピーカSCからダミーヘッドDHの右耳までの再生音声の頭部音響伝達関数はN22である。
また、右スピーカSRからダミーヘッドDHの左耳までの再生音声の頭部音響伝達関数はN31であり、右スピーカSRからダミーヘッドDHの右耳までの再生音声の頭部音響伝達関数はN32である。
更に、左サラウンドスピーカSSLからダミーヘッドDHの左耳までの再生音声の頭部音響伝達関数はN41、左サラウンドスピーカSSLからダミーヘッドDHの右耳までの再生音声の頭部音響伝達関数はN42であり、右サラウンドスピーカSSRからダミーヘッドDHの左耳までの再生音声の頭部音響伝達関数はN51であり、右サラウンドスピーカSSRからダミーヘッドDHの右耳までの再生音声の頭部音響伝達関数はN52である。
このように予め測定しておいた頭部音響伝達関数Nを用いて信号処理し、その信号処理後の音声信号に応じた再生音声を放音すれば、ヘッドホンHP1のスピーカユニットSU1及びSU2から放音される再生音声が、あたかも仮想左チャンネルVL、仮想右チャンネルVR、仮想センターチャンネルVC、仮想サラウンド左チャンネルVSL、仮想サラウンド右チャンネルVSRの仮想スピーカ位置から放音されていると聴取者が感じるようにその音像を定位させることができる。
因みに、頭部音響伝達関数Nの測定を行う場合にダミーヘッドDHを用いる場合について説明したが、これに限るものではなく、実際に人間を座らせ、その人間の耳近傍にマイクを置いて音声の頭部音響伝達関数Nを測定して求めたり、シミュレーションによって求めるようにしても良い。
具体的には、図6に示したように、5.1ch音源であるDVD19から再生された5.1chの音声信号が、左チャンネル用端子T1、センターチャンネル用端子T2、右チャンネル用端子T3、サラウンド左チャンネル用端子T4、サラウンド右チャンネル用端子T5及びLFEチャンネル用端子T6を介してチャンネル毎に供給される。
左チャンネル用端子T1を介して入力されたLチャンネルの音声信号は、音像定位処理フィルタ21及び22へ出力され、センターチャンネル用端子T2を介して入力されたCチャンネルの音声信号は、音像定位処理フィルタ23及び24へ出力され、右チャンネル用端子T3を介して入力されたRチャンネルの音声信号は、音像定位処理フィルタ25及び26へ出力され、サラウンド左チャンネル用端子T4を介して入力されたSLチャンネルの音声信号は、音像定位処理フィルタ27及び28へ出力され、サラウンド右チャンネル用端子T5を介して入力されたSRチャンネルの音声信号は、音像定位処理フィルタ29及び30へ出力される。
音像定位処理フィルタ21は、左チャンネル用端子T1を介して供給されたLチャンネルの音声信号に対して頭部音響伝達関数「N11」による信号処理を施した後、これを加算器31へ送出する。また音像定位処理フィルタ22も、左チャンネル用端子T1を介して供給されたLチャンネルの音声信号に対して頭部音響伝達関数「N12」による信号処理を施した後、これを加算器32へ送出する。
音像定位処理フィルタ23は、センターチャンネル用端子T2を介して供給されたCチャンネルの音声信号に対して頭部音響伝達関数「N21」による信号処理を施した後、これを加算器31へ送出する。また音像定位処理フィルタ24も、センターチャンネル用端子T2を介して供給されたCチャンネルの音声信号に対して頭部音響伝達関数「N22」による信号処理を施した後、これを加算器32へ送出する。
音像定位処理フィルタ25は、右チャンネル用端子T3を介して供給されたRチャンネルの音声信号に対して頭部音響伝達関数「N31」による信号処理を施した後、これを加算器31へ送出する。また音像定位処理フィルタ26も、右チャンネル用端子T3を介して供給されたRチャンネルの音声信号に対して頭部音響伝達関数「N32」による信号処理を施した後、これを加算器32へ送出する。
音像定位処理フィルタ27は、サラウンド左チャンネル用端子T4を介して供給されたSLチャンネルの音声信号に対して頭部音響伝達関数「N41」による信号処理を施した後、これを加算器31へ送出する。また音像定位処理フィルタ28も、サラウンド左チャンネル用端子T4を介して供給されたSLチャンネルの音声信号に対して頭部音響伝達関数「N42」による信号処理を施した後、これを加算器32へ送出する。
音像定位処理フィルタ29は、サラウンド右チャンネル用端子T5を介して供給されたSRチャンネルの音声信号に対して頭部音響伝達関数「N51」による信号処理を施した後、これを加算器31へ送出する。また音像定位処理フィルタ30も、サラウンド右チャンネル用端子T5を介して供給されたSRチャンネルの音声信号に対して頭部音響伝達関数「N52」による信号処理を施した後、これを加算器32へ送出する。
加算器31は、音像定位処理フィルタ21、音像定位処理フィルタ23、音像定位処理フィルタ25、音像定位処理フィルタ27及び音像定位処理フィルタ29からそれぞれ供給される各チャンネルの音声信号を加算し、その結果得られる合成信号をトランスオーラルフィルタ33へ送出する。
また加算器32は、音像定位処理フィルタ22、音像定位処理フィルタ24、音像定位処理フィルタ26、音像定位処理フィルタ28及び音像定位処理フィルタ30からそれぞれ供給される各チャンネルの音声信号を加算し、その結果得られる合成信号をトランスオーラルフィルタ34へ送出する。
ここでトランスオーラルフィルタ33及び34を用いるのは、音像定位処理フィルタ21〜30によって、ヘッドホンHP1のスピーカユニットSU1及びSU2から放音される再生音声に対して音像定位処理が施されていても、実際のスピーカユニットSU1及びSU2から耳までの頭部音響伝達関数「G1」及び「G2」の影響を受けて、再生音声の音像を目的とする仮想スピーカ位置に定位させることができない場合があるからである。
そこで、トランスオーラルフィルタ33及び34を用いて、加算器31及び32からそれぞれ出力される合成信号に対して1/「G1」、1/「G2」を乗算し、スピーカユニットSU1及びSU2から左右の耳までの伝達関数「G1」及び「G2」の影響を除去することにより得られた補正後の合成信号をヘッドホンHP1のスピーカユニットSU1及びSU2へ出力することにより、ヘッドホンHP1のスピーカユニットSU1及びSU2から放音される再生音声を、仮想スピーカ位置に想定した左スピーカSL、右スピーカSR、センタスピーカSC、左サラウンドスピーカSSL、右サラウンドスピーカSSRから放音されたかのように正確に定位させ得るようになされている。
従って、この場合も、ヘッドホンHP1を使用しているユーザU1に対して、そのヘッドホンHP1のスピーカユニットSU1及びSU2から放音される再生音声が、仮想スピーカ位置から聞こえるかのように感じさせることができるため、例え何れのリスニングポジションに位置する聴取者に対してであっても、その聴取者の周囲を回転するかのような物体のシーンに対して、この物体の回転に伴う音像の方向感を聴取者に対して実感させ得るようになされている。
なお、この場合、音像定位に無関係の低域成分信号については、LFEチャンネル用端子T6を介してサブウーファ3へ供給されることになり、当該サブウーファ3から再生音声のうち低音部分が放音される。
このように、左耳横部にスピーカユニットSU1、SU3及びSU5が設けられ、右耳横部にスピーカユニットSU2、SU4及びSU6が設けられたヘッドホンHP1〜HP3を用いた場合の音像定位手法や、左耳横部及び右耳横部にそれぞれ1個ずつスピーカユニットSU1及びSU2が設けられたヘッドホンHP1〜HP3を用いた場合の音像定位手法の何れであっても、コンテンツ製作者が意図したような音像の方向感を与えることが出来るようになされている。
(1−5)第1の実施の形態におけるマルチチャンネル再生システムの具体的回路構成
さて、本発明における第1の実施の形態におけるマルチチャンネル再生システム1の基本構成について述べてきたが、続いて、本発明を活用した一段と現実的なアプリケーションについて説明する。
上述したマルチチャンネル再生システム1では、いずれも聴取者はヘッドホンHP1〜HP3及びサブウーファ3から出力される両方の再生音声の合成音を聴取しているが、この発生源が異なる2つの再生音声に対し、聴取者の耳位置で双方のゲイン(音量)、遅延(ディレイ)及びクロスカーブ(双方の再生限界周波数付近における特性・挙動)が大きく異なると、当該2つの音声の繋がりが悪くなる。
その結果、2つの再生音声のうち、どちらかの音しか聞こえない現象、2つの再生音声が分離して聞こえる現象、再生帯域内で所定周波数帯域の音声レベルが落ち込むことにより聞こえなくなる現象(ディップ)、所定周波数帯域の音声レベルだけが急峻に高くなる現象(ピーク)等を発生させ、聴取者に対して違和感を生じさせることになる。
更に、図1に示したように、複数のユーザU1〜U3によって受聴する場合、サブウーファ3と、ヘッドホンHP1〜HP3との位置関係が各ユーザU1〜U3によって異なっているため、空間的な要因(距離、壁の反射、定在波、ヘッドホン種類等)によりそれぞれの特性が異なり、問題は一層大きくなる。そこで本発明では、図8〜図11に示すようなシステムを構成することにより、上述のような問題を解決するようになされている。
(1−5−1)複数のスピーカユニットが設けられているヘッドホンを用いたマルチチャンネル再生システム
図8に示すように、複数のスピーカユニットSU1〜SU6が設けられているヘッドホンHP1〜HP3(図4)を用いたマルチチャンネル再生システム40では、デコーダ41から供給される5.1chのマルチチャンネル音声コンテンツを構成するLFEチャンネルの低域成分信号SWSをサブウーファ3へ出力する一方、Lチャンネルの左スピーカ音声信号LS、Rチャンネルの右スピーカ音声信号RS、Cチャンネルのセンタスピーカ音声信号CS、SLチャンネルの左サラウンド音声信号SLS及びSRチャンネルの右サラウンド音声信号SRSをそれぞれヘッドホンHP1用補正部42、ヘッドホンHP2用補正部43及ぶヘッドホンHP3用補正部44へ送出する。
ヘッドホンHP1用補正部42では、各チャンネルの音声信号(LS、RS、CS、SLS、SRS)をHP1用ゲイン調整回路42A、HP1用フィルタ42B、HP1用ディレイ調整回路42Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP1のユーザU1までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP1用パワーアンプ42Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU1のヘッドホンHP1を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音を出力する。
同様に、ヘッドホンHP2用補正部43でも、各チャンネルの音声信号(LS、RS、CS、SLS、SRS)をHP2用ゲイン調整回路43A、HP2用フィルタ43B、HP2用ディレイ調整回路43Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP2のユーザU2までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP2用パワーアンプ43Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU2のヘッドホンHP2を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音を出力する。
もちろん、ヘッドホンHP3用補正部44も同様に、各チャンネルの音声信号(LS、RS、CS、SLS、SRS)をHP3用ゲイン調整回路44A、HP3用フィルタ44B、HP3用ディレイ調整回路44Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP3のユーザU3までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP3用パワーアンプ44Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU3のヘッドホンHP3を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音を出力する。
この場合のマルチチャンネル再生システム40では、ヘッドホンHP1〜HP3に対しては、ヘッドホンHP1用補正部42〜44により、各チャンネルの音声信号(LS、RS、CS、SLS、SRS)に対して、サブウーファ3からヘッドホンHP1〜HP3のユーザU1〜U3までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイをそれぞれ調整した後、ユーザU1〜U3のヘッドホンHP1〜HP3を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音を出力することにより、ユーザU1〜U3の全員に好適な音像の方向感を与え得るようになされている。
このときマルチチャンネル再生システム40では、同時に、ユーザU1〜U3の全員に対して共通のサブウーファ3から方向性とは無関係の低音を受聴させ得るようになされているため、ユーザU1〜U3のリスニングポジションに拘わらず、ユーザU1〜U3の全員に対して十分な低音を耳からだけでなく身体全体でも受聴させ得るようになされている。
(1−5−2)複数のスピーカユニットが設けられているヘッドホンを用いたバスマネジメント適用のマルチチャンネル再生システム
図8との対応部分に同一符号を付した図9に示すように、複数のスピーカユニットSU1〜SU6が設けられているヘッドホンHP1〜HP3(図4)を用いたマルチチャンネル再生システム50では、上述したマルチチャンネル再生システム40(図8)に対していわゆるバスマネジメントを適用した構成を有するものである。
ここでバスマネジメントとは、例えば左スピーカ、センタスピーカ、右スピーカ、左サラウンドスピーカ、右サラウンドスピーカ等のスピーカ装置が多数設けられたシステムにおいて、各スピーカからそれぞれ低音が出力された場合、相互に干渉を起こす等して聴取者に違和感を生じさせることがあるため、低音についてはサブウーファだけからのみ出力させ、他のスピーカからは低音を一切出力することなく、中高音だけを出力させるようにすることにより低音の干渉を未然に防止する技術である。
このバスマネジメントを適用したシステムでは、サブウーファ以外がサイズの小さい小型スピーカとき、その小型スピーカから低音を出力させることを停止し、サブウーファからのみ低音を出力させることができるため、小型スピーカの出力歪や破壊を未然に防止することができるようになされている。
実際上、バスマネジメントを適用したマルチチャンネル再生システム50では、デコーダ41から供給される5.1chのマルチチャンネル音声コンテンツを構成するLFEチャンネルの低域成分信号SWSを加算回路53へ出力する一方、Lチャンネルの左スピーカ音声信号LS、Rチャンネルの右スピーカ音声信号RS、Cチャンネルのセンタスピーカ音声信号CS、SLチャンネルの左サラウンド音声信号SLS及びSRチャンネルの右サラウンド音声信号SRSをそれぞれ低音分離ローパスフィルタ/ゲイン調整回路51及び中高音分離ハイパスフィルタ53へそれぞれ送出する。
低音分離ローパスフィルタ/ゲイン調整回路51は、デコーダ41から供給された各チャンネルの音声信号(LS、RS、CS、SLS、SRS)のうち低域成分信号だけをローパスフィルタによって分離すると共に、ゲイン調整し、かつ各チャンネルをミキシングすることにより合成低域成分信号ML1を生成し、これを加算回路52へ送出する。
加算回路52は、デコーダ41から供給されたLFEチャンネル用の低域成分信号SWSと、合成低域成分信号ML1とを加算し、その結果得られる低域信号LLS1をサブウーファ3へ出力することにより、マルチチャンネル音声コンテンツのうち全ての低音部分をサブウーファ3から出力し得るようになされている。
一方、中高音分離ハイパスフィルタ53は、デコーダ41から供給された各チャンネルの音声信号(LS、RS、CS、SLS、SRS)のうち中高域成分信号だけをハイパスフィルタによって分離し、その結果得られるチャンネル毎の中高域成分信号をそれぞれヘッドホンHP1用補正部42、ヘッドホンHP2用補正部43及ぶヘッドホンHP3用補正部44へ送出する。
ヘッドホンHP1用補正部42では、チャンネル毎の中高域成分信号をHP1用ゲイン調整回路42A、HP1用フィルタ42B、HP1用ディレイ調整回路42Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP1のユーザU1までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP1用パワーアンプ42Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU1のヘッドホンHP1を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音部分を複数のスピーカユニットSU1〜SU6からそれぞれチャンネル毎に出力する。
同様に、ヘッドホンHP2用補正部43でも、チャンネル毎の中高域成分信号をHP2用ゲイン調整回路43A、HP2用フィルタ43B、HP2用ディレイ調整回路43Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP2のユーザU2までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP2用パワーアンプ43Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU2のヘッドホンHP2を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音部分を複数のスピーカユニットSU1〜SU6からそれぞれチャンネル毎に出力する。
もちろん、ヘッドホンHP3用補正部44も同様に、チャンネル毎の中高域成分信号をHP3用ゲイン調整回路44A、HP3用フィルタ44B、HP3用ディレイ調整回路44Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP3のユーザU3までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP3用パワーアンプ44Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU3のヘッドホンHP3を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音部分を複数のスピーカユニットSU1〜SU6からそれぞれチャンネル毎に出力する。
この場合のバスマネジメントを適用したマルチチャンネル再生システム50では、ヘッドホンHP1〜HP3に対しては、ヘッドホンHP1用補正部42〜44により、各チャンネルの音声信号(LS、RS、CS、SLS、SRS)のうち中高域成分信号に対して、サブウーファ3からヘッドホンHP1〜HP3のユーザU1〜U3までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイをそれぞれ調整した後、ユーザU1〜U3のヘッドホンHP1〜HP3を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音だけを出力することにより、ユーザU1〜U3の全員に好適な音像の方向感を与え得るようになされている。
このときマルチチャンネル再生システム50では、同時に、ユーザU1〜U3の全員に対して共通のサブウーファ3から方向性とは無関係の低音を受聴させ得るようになされているため、ユーザU1〜U3のリスニングポジションに拘わらず、ユーザU1〜U3の全員に対して十分な低音を耳からだけでなく身体全体で受聴させ得るようになされている。
加えてマルチチャンネル再生システム50では、バスマネジメントを適用しているため、低音についてはサブウーファ3だけからのみ出力させ、ヘッドホンHP1〜HP3からは低音を一切出力することなく、中高音だけを出力させるようにしたことにより各スピーカから低音が出力された場合の干渉を確実に防止し得るようになされている。
またマルチチャンネル再生システム50では、ヘッドホンHP1〜HP3におけるスピーカユニットSU1〜SU6のサイズが非常に小さいが、バスマネジメントの考え方を適用し、そのスピーカユニットSU1〜SU6から低音を出力させることを停止したうえで、サブウーファ3からのみ低音を出力させることができるため、スピーカユニットSU1〜SU6の出力歪やスピーカユニットSU1〜SU6の破壊を未然に防止し得るようになされている。
(1−5−3)左右に1個ずつスピーカユニットが設けられているヘッドホンを用いたマルチチャンネル再生システム
図8との対応部分に同一符号を付した図10に示すように、左右に1個ずつスピーカユニットSU1及びSU2が設けられているヘッドホンHP1(図3)を用いたマルチチャンネル再生システム60では、デコーダ41から供給される5.1chのマルチチャンネル音声コンテンツを構成するLFEチャンネル用の低域成分信号SWSをサブウーファ3へ出力する一方、Lチャンネルの左スピーカ音声信号LS、Rチャンネルの右スピーカ音声信号RS、Cチャンネルのセンタスピーカ音声信号CS、SLチャンネルの左サラウンド音声信号SLS及びSRチャンネルの右サラウンド音声信号SRSを仮想サラウンド処理・ダウンミックス処理回路61へ送出する。
仮想サラウンド処理・ダウンミックス処理回路61は、デコーダ41から供給された各チャンネルの音声信号(LS、RS、CS、SLS、SRS)に対し、上述した音像定位手法(図7及び図8)に従って音像定位処理フィルタ21、音像定位処理フィルタ23、音像定位処理フィルタ25、音像定位処理フィルタ27及び音像定位処理フィルタ29による仮想サラウンド信号処理を施すと共に、5.1chのマルチチャンネル音声コンテンツを2chのスピーカユニットSU1及びSU2からなるヘッドホンHP1に合わせるべくダウンミックス処理を施し、その結果得られる2ch分のダウンミックス信号DMSをそれぞれヘッドホンHP1用補正部62、ヘッドホンHP2用補正部63及びヘッドホンHP3用補正部64へ送出する。
ヘッドホンHP1用補正部62では、ダウンミックス信号DMSに対し、HP1用ゲイン調整回路62A、HP1用フィルタ62B、HP1用ディレイ調整回路62Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP1のユーザU1までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP1用パワーアンプ62Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU1のヘッドホンHP1を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音をスピーカユニットSU1及びSU2から2チャンネルで出力する。
同様に、ヘッドホンHP2用補正部63でも、ダウンミックス信号DMSに対し、HP2用ゲイン調整回路63A、HP2用フィルタ63B、HP2用ディレイ調整回路63Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP2のユーザU2までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP2用パワーアンプ63Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU2のヘッドホンHP2を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音をスピーカユニットSU1及びSU2から2チャンネルで出力する。
もちろん、ヘッドホンHP3用補正部64も同様に、ダウンミックス信号DMSに対し、HP3用ゲイン調整回路64A、HP3用フィルタ64B、HP3用ディレイ調整回路64Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP3のユーザU3までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP3用パワーアンプ64Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU3のヘッドホンHP3を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音をスピーカユニットSU1及びSU2から2チャンネルで出力する。
この場合のマルチチャンネル再生システム60では、ヘッドホンHP1〜HP3に対しては、ヘッドホンHP1用補正部62〜ヘッドホンHP3用補正部64により、ダウンミックス信号DMSに対して、サブウーファ3からヘッドホンHP1〜HP3のユーザU1〜U3までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイをそれぞれ調整した後、ユーザU1〜U3のヘッドホンHP1〜HP3を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音をスピーカユニットSU1及びSU2から2チャンネルで出力することにより、ユーザU1〜U3の全員に好適な音像の方向感を個別に与え得るようになされている。
このときマルチチャンネル再生システム60では、同時に、ユーザU1〜U3の全員に対して共通のサブウーファ3から方向性とは無関係の低音を受聴させ得るようになされているため、ユーザU1〜U3のリスニングポジションに拘わらず、ユーザU1〜U3の全員に対して十分な低音を耳からだけでなく身体全体で受聴させ得るようになされている。
(1−5−4)左右に1個ずつスピーカユニットが設けられているヘッドホンを用いたバスマネジメント適用のマルチチャンネル再生システム
図10との対応部分に同一符号を付した図11に示すように、左右に1個ずつスピーカユニットSU1及びSU2が設けられているヘッドホンHP1〜HP3(図3)を用いたマルチチャンネル再生システム70では、上述したマルチチャンネル再生システム60に対して上述したバスマネジメントを適用した構成を有するものである。
実際上、バスマネジメントを適用したマルチチャンネル再生システム70では、デコーダ41から供給される5.1chのマルチチャンネル音声コンテンツを構成するLFEチャンネルの低域成分信号SWSを加算回路74へ出力する一方、Lチャンネルの左スピーカ音声信号LS、Rチャンネルの右スピーカ音声信号RS、Cチャンネルのセンタスピーカ音声信号CS、SLチャンネルの左サラウンド音声信号SLS及びSRチャンネルの右サラウンド音声信号SRSをそれぞれ仮想サラウンド処理・ダウンミックス処理回路61へ送出する。
仮想サラウンド処理・ダウンミックス処理回路61は、デコーダ41から供給された各チャンネルの音声信号(LS、RS、CS、SLS、SRS)に対し、上述した音像定位手法(図7及び図8)に従って音像定位処理フィルタ21、音像定位処理フィルタ23、音像定位処理フィルタ25、音像定位処理フィルタ27及び音像定位処理フィルタ29による仮想サラウンド信号処理を施すと共に、5.1chのマルチチャンネル音声コンテンツを2chのスピーカユニットSU1及びSU2のヘッドホンHP1に合わせるべくダウンミックス処理を施し、その結果得られるダウンミックス信号DMS1及びDMS2(2ch分ではダウンミックス信号DMS)を加算回路72及び中高音分離ハイパスフィルタ71へそれぞれ送出する。
中高音分離ハイパスフィルタ71は、仮想サラウンド処理・ダウンミックス処理回路61から供給されるダウンミックス信号DMSのうち中高域成分信号だけをハイパスフィルタによって分離し、その結果得られる2チャンネル分の中高域成分信号をそれぞれヘッドホンHP1用補正部62、ヘッドホンHP2用補正部63及ぶヘッドホンHP3用補正部64へ送出する。
加算回路72は、ダウンミックス信号DMS1及ぶDMS2を加算し、その結果得られる合成後のダウンミックス信号DMSを低音分離ローパスフィルタ/ゲイン調整回路73へ送出する。
低音分離ローパスフィルタ/ゲイン調整回路73は、加算回路72から供給されたダウンミックス信号DMSのうち低域成分信号だけをローパスフィルタによって分離すると共に、ゲイン調整することによりダウンミックス低域成分信号DML1を生成し、これを加算回路74へ送出する。
加算回路74は、デコーダ41から供給されたLFEチャンネル用の低域成分信号SWSと、ダウンミックス低域成分信号DML1とを加算し、その結果得られる低域信号LLS2をサブウーファ3へ出力することにより、マルチチャンネル音声コンテンツのうち全ての低音部分をサブウーファ3から出力し得るようになされている。
ヘッドホンHP1用補正部62では、2ch分のダウンミックス信号DMSのうち中高域成分信号に対し、HP1用ゲイン調整回路62A、HP1用フィルタ62B、HP1用ディレイ調整回路62Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP1のユーザU1までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP1用パワーアンプ62Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU1のヘッドホンHP1を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音をスピーカユニットSU1及びSU2から2チャンネルで出力する。
同様に、ヘッドホンHP2用補正部63でも、2ch分のダウンミックス信号DMSのうち中高域成分信号に対し、HP2用ゲイン調整回路63A、HP2用フィルタ63B、HP2用ディレイ調整回路63Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP2のユーザU2までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP2用パワーアンプ63Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU2のヘッドホンHP2を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音をスピーカユニットSU1及びSU2から2チャンネルで出力する。
もちろん、ヘッドホンHP3用補正部64も同様に、2ch分のダウンミックス信号DMSのうち中高域成分信号に対し、HP3用ゲイン調整回路64A、HP3用フィルタ64B、HP3用ディレイ調整回路64Cを介して、サブウーファ3からヘッドホンHP3のユーザU3までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整し、HP3用パワーアンプ64Dを介して音圧レベルを調整した後、ユーザU3のヘッドホンHP3を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音をスピーカユニットSU1及びSU2から2チャンネルで出力する。
この場合のマルチチャンネル再生システム70では、ヘッドホンHP1〜HP3に対しては、ヘッドホンHP1用補正部62〜ヘッドホンHP3用補正部64により、2ch分のダウンミックス信号DMSのうち中高域成分信号に対し、サブウーファ3からヘッドホンHP1〜HP3のユーザU1〜U3までの距離に対応した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイをそれぞれ調整した後、ユーザU1〜U3のヘッドホンHP1〜HP3を介してマルチチャンネル音声コンテンツの中高音をスピーカユニットSU1及びSU2から2チャンネルで出力することにより、ユーザU1〜U3の全員に好適な音像の方向感を与え得るようになされている。
このときマルチチャンネル再生システム70では、同時に、ユーザU1〜U3の全員に対して共通のサブウーファ3から方向性とは無関係の低音を受聴させ得るようになされているため、ユーザU1〜U3のリスニングポジションに拘わらず、ユーザU1〜U3の全員に対して十分な低音を耳からだけでなく身体全体でも受聴させ得るようになされている。
この場合のマルチチャンネル再生システム70では、バスマネジメントを適用しているため、低音についてはサブウーファ3だけからのみ出力させ、ヘッドホンHP1〜HP3からは低音を一切出力することなく、中高音だけを出力させるようにすることにより各スピーカから低音が出力された場合の干渉を確実に防止し得るようになされている。
またマルチチャンネル再生システム70では、ヘッドホンHP1〜HP3におけるスピーカユニットSU1〜SU6のサイズが非常に小さいが、バスマネジメントの考え方を適用し、そのスピーカユニットSU1〜SU6から低音を出力させることを停止したうえで、サブウーファ3からのみ低音を出力させることができるため、スピーカユニットSU1〜SU6の出力歪やスピーカユニットSU1〜SU6の破壊を未然に防止し得るようになされている。
(1−6)第1の実施の形態における動作及び効果
以上の構成において、マルチチャンネル再生システム40、50、60及び70では、ユーザU1〜U3の全員が何れのリスニングポジションに位置している場合であっても、設置型のスピーカではなく、それぞれヘッドホンHP1〜HP3を用いてマルチチャンネル音声コンテンツの中高音を聴取させることにより、周辺に対する音漏れのエネルギーについてもヘッドホンHP1〜HP3を用いたことにより大幅に低減させることができるので、周辺への音の伝播を十分に減少させることができる。
またマルチチャンネル再生システム40、50、60及び70では、サブウーファ3からユーザU1〜U3のリスニングポジションまでの距離を考慮した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを調整したうえで、ヘッドホンHP1〜HP3を介してユーザU1〜U3にマルチチャンネル再生コンテンツの中高音を個別に聴取させることができるので、ヘッドホンHP1〜HP3を用いてマルチチャンネル音声コンテンツの中高音を聴取しているユーザU1〜U3に対し、個別にコンテンツ製作者の意図通りの音像感を提供することができる。
同時に、マルチチャンネル再生システム40、50、60及び70では、マルチチャンネル音声コンテンツの低音を、ユーザU1〜U3の全員にとって共通のサブウーファ3を介して聴覚的に聴取させると共に、低音の振動を身体全身で触覚的にも感じさせることができるので、身体振動の伝播を伴う迫力を十二分に感じさせることができる。
更にマルチチャンネル再生システム40、50、60及び70では、サブウーファ3からユーザU1〜U3のリスニングポジションまでの距離を考慮した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを予め調整しプリセットしたうえで、ヘッドホンHP1〜HP3を介してユーザU1〜U3に対して個別にマルチチャンネル再生コンテンツの再生音声のうち中高音を聴取させることができるので、サブウーファ3から出力される低音と、ヘッドホンHP1〜HP3から出力される中高音とが滑らかに繋がり、何れのリスニングポジションに位置しているユーザに対しても高音質で最適な音像感を提供することができる。
その結果、マルチチャンネル再生システム40、50、60及び70では、サブウーファ3から出力される低音、ヘッドホンHP1〜HP3から出力される中高音のうち、どちらかの音しか聞こえない現象、2つの音声が分離して聞こえる現象、再生帯域内で所定周波数帯域の音声レベルが落ち込むことにより聞こえなくなる現象(ディップ)、所定周波数帯域の音声レベルだけが急峻に高くなる現象(ピーク)等を発生させることを未然に防止し得、聴取者に対して違和感を生じさせずに済む。
以上の構成によれば、マルチチャンネル再生システム40、50、60及び70は、周囲に対する音漏れも非常に少なく、かつ何れのリスニングポジションに位置するユーザU1〜U3にとっても最適な音像感を提供し得ると共に、高品質の再生音声を聴取させることができる。
(2)第2の実施の形態
次に、第2の実施の形態におけるマルチチャンネル再生システムについて説明する。
(2−1)第2の実施の形態におけるマルチチャンネル再生システムの全体構成
図1との対応部分に同一符号を付した図12に示すように、90は全体として第2の実施の形態におけるマルチチャンネル再生システムを示し、リビング等の室内環境において、単数もしくは複数のユーザU1〜U3に対し、DVDやSACD等のマルチチャンネル音声コンテンツを臨場感ある形で提供しようとするものであり、サウンドプロセッサ11及びDVD/SACDプレーヤ12からなる音響装置2、任意のリスニングポジションに位置する複数のユーザU1〜U3に対して共通に用いられる測定兼用スピーカ91、複数のユーザU1〜U3がそれぞれ使用する非密閉型のヘッドホンHP11〜HP13によって構成されている。
このマルチチャンネル再生システム90は、サウンドプロセッサ11の内部に設けられたCPU(Central Processing Unit)構成またはDSP(Digital Signal Processor)構成でなるヘッドホン補正部80を有し、測定モード時、測定シーケンスエンジン81の制御に従って、測定信号再生ブロック82からスイッチ回路83を介して測定兼用スピーカ91のウーファUHにより低音の測定音を出力させる。
ユーザU1が装着しているヘッドホンHP11では、筐体K11L、K11Rに取り付けられているノイズキャンセリング用のマイクロフォンMH1L、MH1Rによって低音の測定音を集音し、ユーザU2が装着しているヘッドホンHP12でも筐体K12L、K12Rに取り付けられているノイズキャンセリング用のマイクロフォンMH2L、MH2Rによって低音の測定音を集音し、ユーザU3が装着しているヘッドホンHP13でも筐体K13L、K13Rに取り付けられているノイズキャンセリング用のマイクロフォンMH3L、MH3Rによって低音の測定音を集音する。
またマルチチャンネル再生システム90は、再生ヘッドホン調整エンジン86から音声出力部87を介して中高音の測定音をヘッドホンHP11〜HP13から出力させ、それをヘッドホンHP11のマイクロフォンMH1L、MH1R、ヘッドホンHP12のマイクロフォンMH2L、MH2R、ヘッドホンHP13のマイクロフォンMH3L、MH3Rによってそれぞれ集音する。
ヘッドホン補正部80の測定シーケンスエンジン81は、ヘッドホンHP11〜HP13から有線または無線で送信されてきた低音の測定音に対する測定結果や中高音の測定音に対する測定結果を集音ブロック84で受け取らせる。
測定シーケンスエンジン81では、解析ブロック85で低音の測定音に対する測定結果を解析させることにより、ヘッドホンHP11〜HP13毎にそれぞれのリスニングポジションではどのように低音の測定音が聞こえたのかを認識し、測定兼用スピーカ91からユーザU1〜U3のリスニングポジションまでの距離を考慮した好適なディレイを算出させる。
また測定シーケンスエンジン81では、解析ブロック85で中高音の測定音に対する測定結果を解析させることにより、ヘッドホンHP11〜HP13毎にそれぞれのリスニングポジションではどのように中高音の測定音が聞こえたのかを認識し、測定兼用スピーカ91からユーザU1〜U3のリスニングポジションまでの距離を考慮した好適なゲイン及びフィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)を算出させる。
測定シーケンスエンジン81では、これらの各種パラメータ(ディレイ、ゲイン及びフィルタ特性)を再生ヘッドホン調整エンジン86へ送出し、予め設定しておくようになされている。
再生モード時、ヘッドホン補正部80の再生ヘッドホン調整エンジン86は、測定モード時に算出しておいたディレイ、ゲイン及びフィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)等の各種パラメータを用いて、DVD/SACDプレーヤ12から供給されるマルチチャンネル音声コンテンツの音声信号を演算処理し、その結果得られる中高域成分信号を音声出力ブロック87からそれぞれのユーザU1〜U3のヘッドホンHP11〜HP13へ有線または無線で出力すると共に、低域成分信号をスイッチ回路83を介して測定兼用スピーカ91のウーファUHへ出力する。
これによりマルチチャンネル再生システム90では、第1の実施の形態と同様、ヘッドホンHP11〜HP13を用いてマルチチャンネル音声コンテンツの再生音声を聴取しているユーザU1〜U3に対し、何ら特別な操作をさせることなく、自動的にコンテンツ製作者の意図通りの音像感を各ユーザU1〜U3に与え得ると共に、マルチチャンネル音声コンテンツの低音を、ユーザU1〜U3の全員にとって共通の測定兼用スピーカ91のウーファUHを介して聴覚的に聴取させると共に、低音の振動を身体全身で触覚的にも感じさせることができるので、身体振動の伝播を伴う迫力を十二分に感じさせ得るようになされている。
もちろん、この場合のマルチチャンネル再生システム90においても、測定兼用スピーカ91からユーザU1〜U3のリスニングポジションまでの距離を考慮した好適なゲイン、フィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)及びディレイを予め調整したうえで、ヘッドホンHP11〜HP13を介してユーザU1〜U3に対して個別にマルチチャンネル再生コンテンツの再生音声のうち中高音を聴取させることができるので、測定兼用スピーカ91のウーファUHから出力される低音と、ヘッドホンHP11〜HP13から出力される中高音とが滑らかに繋がり、何れのリスニングポジションに位置しているユーザに対しても高音質で最適な音像感を提供し得るようになされている。
その結果、マルチチャンネル再生システム90では、測定兼用スピーカ91のウーファUHから出力される低音、ヘッドホンHP11〜HP13から出力される中高音のうち、どちらかの音しか聞こえない現象、2つの音声が分離して聞こえる現象、再生帯域内で所定周波数帯域の音声レベルが落ち込むことにより聞こえなくなる現象(ディップ)、所定周波数帯域の音声レベルだけが急峻に高くなる現象(ピーク)等を発生させることを未然に防止し得、聴取者に対して違和感を生じさせずに済むようになされている。
因みにマルチチャンネル再生システム90では、再生モード時、測定兼用スピーカ91を用いるのではなく、サブウーファ3に代えてマルチチャンネル音声コンテンツの低音を出力するようにしても良い。
(2−2)第2の実施の形態におけるヘッドホンの構成
ここでマルチチャンネル再生システム90に用いられるヘッドホンHP11〜HP13としては、図13〜図15に示すように、左右の耳の前方にそれぞれ1個ずつスピーカユニットSU1及びSU2が設けられたイヤースピーカタイプの構造が考えられる。但し、ここではヘッドホンHP11〜HP13の構造は全て共通であるため、便宜上ヘッドホンHP11についてのみ説明する。
具体的にヘッドホンHP11は、一般的な箱型のスピーカ装置とは異なり、一般的なヘッドホンと同様にユーザの頭部に装着されることを前提としており、大きく分けて音声信号を再生音声に変換する電気音響変換部102L及び102Rと、当該電気音響変換部102L及び102RをユーザU1の頭部に装着して固定させるためのバンド部103とにより構成されている。
電気音響変換部102L及び102Rは、球体が垂直方向に4等分されたような形状でなる筐体部104L及び104Rを中心に構成されている。筐体部104L及び104Rは、それぞれ後面側及び左右内側に平面部分が形成されており、左右内側にはユーザU1の頭部に対する側圧を和らげるためのパッド部105L及び105Rが取り付けられている。
筐体部104L及び104Rの後面側における平面部分であるバッフル板104AL及び104ARには、マルチチャンネル音声コンテンツの音声信号を再生音声に変換するスピーカユニット107L及び107Rが取り付けられていると共に、ノイズキャンセリング用のマイクロフォンMH1L及びMH1Rが取り付けられている。
この場合、ヘッドホンHP11では、特にノイズキャンセリング効果を効率的に高めるべく、スピーカユニット107L及び107RよりもユーザU1の外耳道内部により近い位置にノイズキャンセリング用のマイクロフォンMH1L及びMH1Rが取り付けられた構造を有している。
このスピーカユニット107L及び107Rは、サウンドプロセッサ11の音声出力部87(図12)から有線又は無線によって供給されるマルチチャンネル音声コンテンツの音声信号に応じて、振動板を振動させることにより放音するようになされている。
また筐体部104L及び104Rのバッフル板104AL及び104ARには、所定太さを有する中空の部材が側面略U字状に曲げられた管状ダクト108L及び108Rが取り付けられている。
この管状ダクト108L及び108Rは、後端側がそれぞれ左右内側方向に折り曲げられており、さらに後側先端部のほぼ中央にそれぞれ孔部108AL及び108ARが設けられている。
バンド部103は、中央部103Aを中心に一般的な人間の頭部の形状に合わせて上に凸の略アーチ型に形成されていると共に、当該中央部103Aに対して伸縮自在に摺動し得るアジャスト部103BL及び103BRによりヘッドホンHP11全体の長さを調整し得るようになされている。
またバンド部103は、一般的な人間の頭部の形状よりも小さい径のアーチ型に形成されると共に弾性力を有しており、ユーザU1に装着される際に筐体部104L及び104Rを左右に広げながら装着されると、装着後に当該弾性力の作用によって元の形状に戻ろうとするため、筐体部104L及び104Rを当該ユーザU1の頭部に対して当接させた状態で保持し得るようになされている。
なお、ヘッドホンHP11は、図13〜図15に示したようにほぼ左右対称に構成されているため、以下では主に左側の電気音響変換部102Lを例に説明する。
実際上、ヘッドホンHP11は、図16の左側面図を示すように、バンド部103における長さが調整された上でユーザU1の頭部500に装着されることにより、アジャスト部103BLの下端側に取り付けられた電気音響変換部102LをユーザU1の頭部500における耳介501Lよりもやや前方に位置させるようになされている。
これによりヘッドホンHP11の電気音響変換部102Lは、スピーカユニット107Lから放射された中高音を直接ユーザU1の外耳道内部へ到達させると共に、当該ユーザU1の頬や耳介501L等で反射された反射音も外耳道内部へ到達させることができるため、一般的な据置型スピーカを介して聴取した場合と同様の、自然な音像定位を与え得るようになされている。
このときヘッドホンHP11は、ユーザU1に正常に装着された際、スピーカユニット107Lが耳介501L及び外耳道入口502Lのやや前方に位置し、管状ダクト108Lの孔部108ALが外耳道入口502Lの近傍に位置するようになされている。
因みに管状ダクト108Lは、側面略U字状に形成されているため、ユーザU1の外耳道内へ入り込まないようになされている。これによりヘッドホンHP11は、当該ユーザU1が装着時等に誤って管状ダクト108Lにより当該外耳道内を傷つけてしまうことを未然に防止し得るようになされている。
ここで、図16におけるQ1−Q2断面を図17に示したように、筐体部104Lはスピーカユニット107Lが取り付けられた状態で管状ダクト108Lを除き密閉された空間を形成しており、スピーカユニット107Lに対して筐体部104L及び当該管状ダクト108Lにより共振回路を形成するようになされている。
また管状ダクト108Lは、筐体部104Lの内部から筐体部104Lのバッフル板104ALを貫通してユーザU1の外耳道入口502Lの近傍に到達している。実際上、電気音響変換部102Lは、管状ダクト108Lをバスレフダクトとして作用させることにより、全体としてバスレフ型のスピーカとして動作させるようになされている。
ところで、一般的なバスレフ型スピーカでは、ダクトが筐体の内部のみに設けられ、外部へは延長されないようになされている。そこで、電気音響変換部102Lとの比較用に、図17と対応した図18に示すような電気音響変換部152Lを想定する。
この電気音響変換部152Lは、一般的なバスレフ型スピーカと同様に構成されており、筐体部104の内側のみに電気音響変換部102Lの管状ダクト108Lに代えて2本の管状ダクト118L及び119Lを有したものである。
この電気音響変換部152Lの場合、スピーカユニット107Lの位置を仮想的な音源の位置(以下、これを仮想音源位置と呼ぶ)PMと見なしたときの、当該スピーカユニット107Lから放射された中高音がユーザU1の鼓膜503Lに到達するまでの経路長EMと、孔部118AL及び119ALを仮想音源位置PL2と見なしたときの、管状ダクト118L内及び119L内を伝わり当該孔部118AL及び119ALから放射された低音がユーザU1の鼓膜503Lに到達するまでの経路長EL2とを比較すると、経路長EM≒経路長EL2となっている。
ここで、従来の電気音響変換部152Lにより鼓膜503Lに到達する音の周波数特性を図19に示す。この図19に示すように、一般的なバスレフ型の電気音響変換部152Lは、スピーカユニット107Lから放射される、特性曲線SMに示すような周波数特性でなる中高音と、管状ダクト118L内及び119L内を伝わり孔部118AL及び119ALから放射される、特性曲線SL2に示すような周波数特性でなる低音とを合わせてユーザU1の鼓膜503Lまで到達させることになる。
これにより電気音響変換部152Lは、特性曲線SM及び特性曲線SL2が合成された特性曲線SG2に示すように、特性曲線SMにおける低音域の音圧レベルがある程度上昇された再生音をユーザU1に聴取させることができる。
一方、本発明による電気音響変換部102L(図17)では、スピーカユニット107Lを仮想音源位置PMとみなしたときの、当該スピーカユニット107Lから放射された中高音がユーザU1の鼓膜503Lに到達するまでの経路長EMと、孔部108ALを仮想音源位置PL1と見なしたときの、管状ダクト108L内を伝わり当該孔部108ALから放射された低音がユーザU1の鼓膜503Lに到達するまでの経路長EL1とを比較すると、明らかに経路長EM>経路長EL1となっている。
ここで、電気音響変換部102Lにより鼓膜503Lに到達する音の周波数特性を図20に示す。電気音響変換部102Lは、上述したようにバスレフ型スピーカの一種であるため、図19に示した場合と同様、スピーカユニット107Lから放射される、特性曲線SMに示すような周波数特性でなる中高音と、管状ダクト108Lを伝わり孔部108ALから放射される、特性曲線SL1に示すような周波数特性でなる低音とを合わせてユーザU1の鼓膜503Lまで到達させることになる。
ところで、一般に音源からの距離と音圧レベルとは反比例の関係にある。ここで電気音響変換部102L(図17)と電気音響変換部152L(図18)との経路長を比較すると、経路長EL1<経路長EL2の関係となる。
すなわち電気音響変換部102L(図17)は、仮想音源位置PL1が電気音響変換部152L(図18)の仮想音源位置PL2よりもユーザU1の外耳道入口502L近傍に位置しているため、管状ダクト108L内を伝わり孔部108AL(仮想音源位置PL1)から放射される低音を、電気音響変換部152Lの場合よりも高い音圧レベルで鼓膜503Lまで到達させることができる。
すなわち図21に特性曲線を重ねて示すように、管状ダクト108Lによる低音の特性曲線SL1は、経路長EL1<経路長EL2の関係により、管状ダクト118L及び119Lによる低音の特性曲線SL2と比較して全体的な音圧レベルが高くなる。
この結果、電気音響変換部102Lは、特性曲線SM及び特性曲線SL1が合成された特性曲線SG1に示すように、特性曲線SMにおける低音域の音圧レベルが電気音響変換部152Lの場合(特性曲線SG2)よりも上昇された、比較的低い周波数帯まで十分な音圧レベルの再生音をユーザU1に聴取させることができることになる。
ここで特性曲線SG1と特性曲線SG2とを比較すると、特性曲線SG2では低音域側へ進むに連れて比較的急峻に音圧レベルが低下しているのに対して、特性曲線SG1では低音域側へ進むに連れてける音圧レベルの低下度合いが緩やかになっていることがわかる。
すなわち電気音響変換部102Lは、電気音響変換部152Lと比較して、広い周波数帯域に渡って高い音圧レベルでなる、すなわち充分な低音域が含まれる良好な再生音をユーザU1の鼓膜503に伝達して聴取させることができる。
この場合、電気音響変換部102Lは、図16及び図17に示したように、ユーザU1の外耳道入口502Lの近傍に管状ダクト108Lの後端側を位置させており、当該外耳道入口502Lを完全には閉塞しない。
このため電気音響変換部102Lは、スピーカユニット107Lから出力する中高音及び管状ダクト108Lの孔部108ALから放射する低音を合わせた再生音に加えて、ユーザU1の周囲で発生した音(以下これを周囲音と呼ぶ)を遮断することなく当該ユーザU1の鼓膜503Lまで到達させ聴取させることができる。
因みに電気音響変換部102Lは、筐体部104Lの内容積が10[ml]、スピーカユニット107Lの外径が21[mm]、当該スピーカユニット107Lの振動板における有効振動半径が8.5[mm]、振動系の等価質量が0.2[g]、最低共振周波数f0が360[Hz]、共振のQ0が1.0となされている。
また管状ダクト108Lは、内径が1.8[mm]、当該管状ダクト108Lの筐体部104L内に位置する内部端108BLから孔部108ALまでの有効長が50[mm]、バッフル板104ALの表面から孔部108ALまでの距離が約35[mm]となされている。
ここで管状ダクト108Lは、側面U字状に形成され後側先端部の中央に孔部108ALが設けられているため、実質的に上半分及び下半分による2本のバスレフダクトを構成しており、当該管状ダクト108Lを1本の管状ダクトに換算した場合の内径(この場合は約2.5[mm]に相当する)が考慮された上で、その内径及び有効長が決定されている。
この電気音響変換部102L及び電気音響変換部152Lについて、人間の耳介及び外耳道を模した測定兼用治具を用いて実際の周波数特性を測定したところ、図22に示すような特性曲線SG11(電気音響変換部102Lの場合)及び特性曲線SG12(電気音響変換部152Lの場合)が得られた。
この図22では、図21に示した理論的な周波数特性と同様、およそ500[Hz]以下の低音域において、電気音響変換部102Lの特性曲線SG11が電気音響変換部152Lの特性曲線SG12よりも高い音圧レベルとなっている。すなわち、電気音響変換部102Lが実際にユーザU1に充分な低音を含む良好な再生音を聴取させ得ることが示されている。
このようにヘッドホンHP11は、ユーザU1の頭部500に装着された際、スピーカユニット107LをユーザU1の外耳道入口502Lからやや離れた場所に位置させて再生音声の中高音を放射すると共に、筐体部104Lから当該外耳道入口502Lの近傍まで延長されバスレフダクトとして作用する管状ダクト108Lの孔部108ALから再生音声の低音を放射することにより、自然な音像定位を与え、低音を含む良好な再生音声を当該ユーザU1に聴取させ得るようになされたものである。
(2−3)第2の実施の形態における音像定位手法
上述したようなイヤースピーカタイプのヘッドホンHP11〜HP13についても、左耳横部及び右耳横部にそれぞれ1個ずつスピーカユニット107L及び107Rが設けられているヘッドホンHP1〜HP3を用いた場合の音像定位手法と同様であるため、ここでは便宜上、その説明を省略する。
(2−4)第2の実施の形態におけるノイズキャンセリング機能の具体的回路構成
続いて、第2の実施の形態におけるマルチチャンネル再生システム90のサウンドプロセッサ11によるノイズキャンセリング機能を実現するための構成について説明する。
このノイズキャンセリング機能を実現するためのノイズキャンセリング処理部としては、上述したヘッドホン補正部80(図12)とは別にサウンドプロセッサ11の内部に設けられており、そのノイズキャンセリング処理部によって行われる一般的なノイズキャンセリングの原理について最初に説明する。
現在、ヘッドホンを対象として外部騒音をアクティブに低減するシステム、所謂ノイズキャンセリングシステムが普及し始めている。製品化されているものに関しては、殆どがアナログ回路により構成されているものであり、そのノイズキャンセリング手法としては、フィードバック方式及びフィードフォワード方式に大きく大別されるものである。
フィードバック方式は、一般的に、図23に示すように、ヘッドホンHP11の筐体部(ハウジング部)104Lの内側にマイクロフォンMH1Lが設けられており、そのマイクロフォンMH1Lによって集音した外部騒音NSSに応じたノイズデータの逆相成分データを生成し、この逆相成分データに応じたノイズキャンセル音をスピーカユニット107Lから出力させるべくサーボ制御することにより、筐体部104Lに侵入してきた外部騒音NSSを減衰させるようになされている。
この場合、マイクロフォンMH1Lの設けられている位置がノイズキャンセリングの制御点CPになるため、ノイズ減衰効果を最大限に発揮できることを考慮し、ユーザU1の耳に最も近い位置、すなわちスピーカユニット107Lの振動板前面付近にマイクロフォンMH1Lが設けられている。
図24に示すように、上述したノイズキャンセリングの原理を適用したフィードバック方式のノイズキャンセリングシステム200としては、外部騒音NSSをマイクロフォンMH1Lによって集音し、マイクアンプ201によって外部騒音NSSに応じたノイズデータを所定レベルに増幅した後、フィードバックフィルタ202へ送出する。
フィードバックフィルタ202は、ノイズデータとは逆相のノイズ低減データNRSを生成し、パワーアンプ206によってノイズデータの振幅レベルと同程度に増幅した後、ドライバ207を介してスピーカユニット107Lからノイズ低減データNRSに応じたノイズキャンセル音を出力する。
これによりノイズキャンセリングシステム200では、ノイズキャンセリングの制御点CPで、外部騒音NSSとノイズキャンセル音とが加算されることになり、その結果、外部騒音NSSがノイズキャンセル音によって相殺された状態で出力されることになる。
ところで、ノイズキャンセリングシステム200では、その一方、音源203からマルチチャンネル音声コンテンツの音声データSを、イコライザ204を介してユーザ所望の音響特性に調整した後、加算回路205へ送出するようになされている。
従って加算回路205は、フィードバックフィルタ202から供給されるノイズ低減データNRSとマルチチャンネル音声コンテンツの音声データSとを加算し、その結果得られる合成データADDをパワーアンプ206及びドライバ207をスピーカユニット107Lから出力することになるため、外部騒音NSSが相殺されたマルチチャンネル音声コンテンツの音声だけをユーザU1に聴取させ得るようになされている。
ところで、このようなノイズキャンセリングシステム200において、パワーアンプ206の伝達関数を「A」で示し、ドライバ207の伝達関数を「D」で示し、マイクロフォンMH1L及びマイクアンプ201の伝達関数を「M」で示し、フィードバックフィルタ202の伝達関数を「−β」で示す。
同様に、音源203から出力されるマルチチャンネル音声コンテンツの音声データSに乗算されるイコライザ204の伝達関数を「E」で示し、ドライバ207からノイズキャンセリングの制御点CPにあるマイクロフォンMH1Lまでの空間伝達関数208を「H」で示し、これら全ての伝達関数は複素表現されているものとする。また、外部騒音NSSを「N」で示し、聴取者であるユーザU1の耳に届く再生音声の音圧を「P」で示す。
外部騒音NSSがヘッドホンHP11の筐体104L内に伝わってくる原因としては、例えば筐体104Lにおけるパッド部105Lの隙間から音圧として漏れてくる場合や、筐体104Lが音圧を受けて振動した結果として筐体104L内部に音が伝わる等の場合が考えられる。
このときヘッドホンHP11のスピーカユニット107Lから出力される再生音声の音圧「P」は、次式
で表現することができる。
この(1)式において、外部騒音NSSに対応した「N」の項に着目すれば、外部騒音NSSは「N」の係数部分に相当する「1/(1+ADHMβ)」に減衰していることが分かる。但し、この(1)式の系が発振せず、安定して動作するためには、次式
が成立している必要がある。一般的には、「1<<|ADHMβ|」であることと合わせて、(2)式は後述するように解釈することができる。
図24におけるノイズキャンセリングシステム200において、フィードバックループの外部騒音NSSに対応した「N」に関わるループ部分の全伝達関数「−ADHMβ」をオープンループと称し、このオープンループとしての特性を図25に示すボード線図で表現する。
このボード線図では、周波数fcでゲインが最も大きく、かつ位相が180度シフトされている状態にあるため、このときのオープンループにより生成されるノイズ低減信号NRSがノイズキャンセリング効果に最も優れていることを示している。
従って、ノイズキャンセリング効果を効果的に発揮させるためには、位相0[deg.]の点を通過するとき、すなわち外部騒音NSSに応じたノイズデータに対してノイズ低減データNRSが同相となっているとき、ゲインGaやゲインGbは0[dB]よりも小さくなければならず、逆に、ゲインが0[dB]以上であるときには位相0[deg.]の点を含まず、少なくともその位相0[deg.]の点よりもシフトした位相Paや位相Pbになっていなくてはいけないという2つの条件を少なくとも満たす必要がある。
この条件が満たされない場合、ノイズキャンセリングシステム200では、フィードバックループに正帰還がかかり、発振(ハウリング)を起こすことになる。
因みに、ゲインGaやゲインGbは、発振を起こさせないためのゲイン余裕を表すと共に、位相Paや位相Pbも発振を起こさせないための位相余裕を表しており、これらのゲイン余裕及び位相余裕が小さい場合、個人差やヘッドホンHP11の装着時におけるばらつき等によって、発振を起こす危険性が増加することになる。
すなわち発振条件は、オープンループの全伝達関数「−ADHMβ」によって決定されるため、この特性をにらみつつフィードバックフィルタ202における伝達関数「−β」を設定し、ゲイン余裕及び位相余裕を出来るだけ大きく持たせることによって個人差に対する発振(ハウリング)の耐性を上げるようになされている。
次に、上述したノイズキャンセリング機能を作用させながら、音源203からのマルチチャンネル音声コンテンツの音声データSをヘッドホンHP11から再生する場合について説明する。
ここで音声データ「S」は、音源203からのマルチチャンネル音声コンテンツの音声を意味しているが、実際には筐体104LにおけるマイクロフォンMH1Lが集音した音(補聴機能として用いられる場合)や、通信を介して受信した音声(ヘッドセットとして用いられる場合)等、本来ヘッドホンで再生すべきもの全てが対象である。
上述の(1)式のうち、音声データSの項に着目し、イコライザ204の伝達関数「E」を、次式
となるように当該イコライザ204を設定し、これを(1)式に代入すれば、(1)式は、次式
のように表現される。
この(4)式では、音声データSの項に着目すると、「H」がスピーカユニットSU1からマイクロフォンMH1Lまでの距離に応じた伝達関数、「A」がパワーアンプ206の伝達関数、「D」がドライバ207の伝達関数であるため、通常のノイズキャンセリング機能を有さないヘッドホンHP11と同様の特性が得られていることがわかる。
なお、このときイコライザ204は、オープンループの全伝達関数「−ADHMβ」における特性(図25)と、周波数軸でみたときにほぼ同等の特性になっている。
このようにノイズキャンセリングシステム200では、イコライザ204を上述した(3)式のように設定すれば、ノイズキャンセリング機能を作用させながら、音源203からのマルチチャンネル音声コンテンツの音声データSをヘッドホンHP11から再生した場合に、通常のノイズキャンセリング機能を有さないヘッドホンHP11と同様の音声レベルで出力させ得るようになされている。
具体的には、図24との対応部分に同一符号を付した図26に示すように、上述のノイズキャンセリングシステム200の概念を用いたノイズキャンセリング機能を有するマルチチャンネル再生システム90では、サウンドプロセッサ11の内部にヘッドホン補正部80(図12)とは別に、CPU又はDSPでなるノイズキャンセリング処理部400が設けられた構成を有する。
マルチチャンネル再生システム90は、測定モード時、外部騒音NSSをマイクロフォンMH1Lによって集音し、マイクアンプ201によって外部騒音NSSに応じたノイズ信号を所定レベルに増幅した後、これをサウンドプロセッサ11のノイズキャンセリング処理部400へ送出する。
ノイズキャンセリング処理部400では、マイクアンプ201から供給されたノイズ信号をアナログディジタルコンバータ401によりディジタル変換し、その結果得られるノイズデータをCPUまたはDSP構成でなる解析再生エンジン402へ送出する。
解析再生エンジン402は、状態制御ブロック403の制御の基に自動測定解析ブロック404及び信号再生ブロック405を統括制御しており、アナログディジタルコンバータ401から供給されるノイズデータを自動測定解析ブロック404へ送出する。
自動測定解析ブロック404は、ノイズデータを解析し、そのノイズデータと逆相のノイズ低減データNRSを生成するようになされており、図24で上述したフィードバックフィルタ202、イコライザ204における処理を実行し、その結果得られたノイズ低減データNRSを保持する。
次に、マルチチャンネル再生システム90は、再生モード時、音源203(図24)に相当するDVD/SACDプレーヤ12によって再生されたマルチチャンネル音声コンテンツの音声データSを解析再生エンジン402の信号再生ブロック405へ送出する。
信号再生ブロック405は、上述したようにイコライザ204(図24)を(3)式のように設定し、そのイコライザ204によりマルチチャンネル音声コンテンツの音声データSに対してイコライジング処理し、それをスイッチ回路406を介してディジタルアナログコンバータ407へ送出する。
そして自動測定解析ブロック404は、測定モード時に算出しておいたノイズ低減データNRSをスイッチ回路406を介してディジタルアナログコンバータ407へ送出する。ディジタルアナログコンバータ407は、ノイズ低減データNRSとマルチチャンネル音声コンテンツの音声データSとを加算し、その結果得られる合成データADDをアナログ変換することにより合成信号ADSを生成し、これをパワーアンプ206及びドライバ207を経由して出力する。因みに、また昨今では、ディジタルアナログコンバータ407を経由することなく、ディジタルの合成データADDを直接パワー駆動する所謂ディジタルアンプにより出力する場合もある。
この結果、マルチチャンネル再生システム90では、サウンドプロセッサ11のノイズキャンセリング処理部400を介してディジタル的にノイズキャンセリング処理を実行し、外部騒音NSSだけが相殺されたクリアなマルチチャンネル音声コンテンツの再生音声だけをユーザU1に聴取させ得るようになされている。
(2−5)第2の実施の形態における動作及び効果
以上の構成において、マルチチャンネル再生システム90では、ユーザU1〜U3の全員が何れのリスニングポジションに位置している場合であっても、設置型のスピーカではなく、それぞれヘッドホンHP11〜HP13を用いてマルチチャンネル音声コンテンツの中高音を聴取させることにより、周辺に対する音漏れのエネルギーについてもヘッドホンHP11〜HP13を用いたことにより大幅に低減させることができるので、周辺への音の伝播を十分に減少させることができる。
またマルチチャンネル再生システム90では、ヘッドホンHP11〜HP13から出力される中高音の測定音をノイズキャンセリング用に設けられた各マイクロフォンによって集音し解析することにより、リスニングポジション毎に好適なゲイン及びフィルタ特性(イコライザやローパスフィルタ等)をディジタル的に調整したうえで、ヘッドホンHP11〜HP13を介してユーザU1〜U3に対して個別にマルチチャンネル再生コンテンツの音声のうち中高音を聴取させることができるので、ヘッドホンHP11〜HP13を用いてマルチチャンネル音声コンテンツの中高音を聴取しているユーザU1〜U3にとっては、個別にコンテンツ製作者の意図通りの音像感を提供することができる。
このときマルチチャンネル再生システム90では、ノイズキャンセリング機能を作用させれば、ユーザU1〜U3に対して最適な音象感を提供し得ると共に、外部騒音NSSのないクリアなマルチチャンネル音声コンテンツの音声を聴取させることができる。
同時に、マルチチャンネル再生システム90では、マルチチャンネル音声コンテンツの低音を、ユーザU1〜U3の全員にとって共通の測定兼用スピーカ91のウーファUHを介して聴覚的にも聴取させると共に身体全身で感じさせることができるので、身体振動の伝播を伴う迫力を十二分に感じさせることもできる。
更にマルチチャンネル再生システム90では、測定兼用スピーカ91のウーファUHからユーザU1〜U3のリスニングポジションまでの距離を考慮した好適なディレイを予めディジタル的に自動調整したうえで、ヘッドホンHP11〜HP13を介してユーザU1〜U3に対し個別にマルチチャンネル再生コンテンツの音声のうち中高音を聴取させることができるので、測定兼用スピーカ91のウーファUHから出力される低音と、ヘッドホンHP11〜HP13から出力される中高音とが滑らかに繋がり、何れのリスニングポジションに位置しているユーザに対しても最適な音像感を提供することができる。
その結果、マルチチャンネル再生システム90では、測定兼用スピーカ91のウーファUHから出力される低音、ヘッドホンHP11〜HP13から出力される中高音のうち、どちらかの音しか聞こえない現象、2つの音声が分離して聞こえる現象、再生帯域内で所定周波数帯域の音声レベルが落ち込むことにより聞こえなくなる現象(ディップ)、所定周波数帯域の音声レベルだけが急峻に高くなる現象(ピーク)等を発生させることを未然に防止し得、聴取者に対して違和感を生じさせずに済む。
以上の構成によれば、マルチチャンネル再生システム90は、周囲に対する音漏れも非常に少なく、かつ何れのリスニングポジションに位置するユーザU1〜U3にとっても最適な音像感を提供し得ると共に、外部騒音NSSの少ない高品質な再生音声を聴取させることができる。
(3)他の実施の形態
なお上述の第1の実施の形態においては、ヘッドホンHP1の左右に中高音用のスピーカユニットSU1及びSU2を設けた1ウェイ構造とした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、中音用及び高音用の2つのスピーカユニットが左右の筐体K1、K2内にそれぞれ設けられた2ウェイ構造とするようにしてもよい。
また上述の第1の実施の形態においては、マルチチャンネル再生システム40、50、60及び70におけるヘッドホンHP1用補正部42及び62をそれぞれ独立したHP1用ゲイン調整回路42A、HP1用フィルタ42B、HP1用ディレイ回路42C、HP1用パワーアンプ42Dによって構成し、ヘッドホンHP2用補正部43及び63をそれぞれ独立したHP2用ゲイン調整回路43A、HP2用フィルタ43B、HP2用ディレイ回路43C、HP2用パワーアンプ43Dによって構成し、ヘッドホンHP3用補正部44及び64をそれぞれ独立したHP3用ゲイン調整回路44A、HP3用フィルタ44B、HP3用ディレイ回路44C、HP3用パワーアンプ44Dによって構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ゲイン調整回路、フィルタ、ディレイ回路、パワーアンプによる効果を意図した1つのディジタルフィルタとしてまとめられた状態で構成するようにしても良い。
さらに上述の第1の実施の形態においては、上述した各種信号処理をサウンドプロセッサ11によって行うようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ヘッドホンHP1〜HP3の筐体内部に設けられた信号処理回路によって行うようにしても良い。
さらに上述の第2の実施の形態においては、イヤースピーカタイプの構造でなるヘッドホンHP11〜HP13を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば図27に示すように、イヤースピーカタイプのヘッドホンHP11(図13〜図16)のような左右の耳の前方に設けられたスピーカユニット107L及び107Rに加えて、左右の耳の後方にもスピーカユニット107LR及び107RRが設けられたイヤースピーカタイプのヘッドホンHP30を用いるようにしても良い。
この場合、図5との対応部分に同一符号を付した図28に示すように、5.1chのマルチチャンネル音声コンテンツにおける左フロントスピーカ用のLチャンネル、右フロントスピーカ用のRチャンネル、センタスピーカ用のCチャンネル、左サラウンドスピーカ用のSLチャンネル及び右サラウンドスピーカ用のSRチャンネルに対するそれぞれの音声信号を耳前方に配置されたスピーカユニット107L、107Rと、耳後方に配置されたスピーカユニット107LR、107RRとにより各チャンネル音声として出力することにより、コンテンツ製作者が意図したような音像の方向感を一段と立体的に与え得るようになされている。
この場合、センタスピーカ用のCチャンネルを介して出力される音声信号については、センタスピーカが本来一つであって、スピーカユニット107L及び107RへCチャンネルの音声を出力した場合には、センタスピーカ用のCチャンネルの音量レベルが大きくなることで、他のチャンネル(Lチャンネル、Rチャンネル、SLチャンネル及びSRチャンネル)とのレベルバランスが崩れるため、スピーカユニットSU3及びSU4へ供給する前に、レベル低減回路21及び22によりそれぞれ−3[dB]ずつゲインを落とすようになされている。
これと同様に、左フロントスピーカ用のLチャンネルについても、左耳の前後に配置されたスピーカユニット107L及び107LRからLチャンネルの音声を出力した場合には、左耳に到達する音声の音量レベルが大きくなることで、他のチャンネル(Lチャンネル、Rチャンネル、SLチャンネル及びSRチャンネル)とのレベルバランスが崩れるため、レベル低減回路411及び412によりそれぞれ−3[dB]ずつゲインを落とすようになされている
このことは、右フロントスピーカ用のRチャンネルについても同様であり、同じようにレベル低減回路413及び414によりそれぞれ−3[dB]ずつゲインを落とすようになされている。
もちろん、これだけに限るものではなく、左右の耳の前後にスピーカユニットを配置するだけでなく、左右の耳の前後に加えて真横にもそれぞれスピーカユニットを配置した計6個のスピーカユニットを有するイヤースピーカタイプのヘッドホン(図示せず)を用いるようにしても良い。
さらに上述の第2の実施の形態においては、ヘッドホンHP11〜HP13に対して取り付けられているノイズキャンセリング機能用のマイクロフォンMH1L、MH1R、MH2L、MH2R、MH3L、MH3Rによって測定音をそれぞれ集音するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、補聴機能用に取り付けられたマイクロフォンや、ヘッドセットとして通信用に取り付けられたマイクロフォンによって測定音をそれぞれ集音するようにしても良い。
さらに上述の第1及び第2の実施の形態においては、非密閉型でなるヘッドホンHP1〜HP3、HP11〜HP13を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、左右の耳の周囲を完全に塞ぐような構造ではなく、僅かな隙間を有する密閉型以外の構造であれば、インナーイヤータイプ等のその他種々の形状及び構造でなる開放型のヘッドホンを用いるようにしても良い。
さらに上述の第2の実施の形態においては、サウンドプロセッサ11の内部に設けられた解析再生エンジン402によってディジタル的にノイズキャンセリング処理を実行するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、アナログ的にノイズキャンセリング処理を実行するようにしても良い。
さらに上述の実施の形態においては、非密閉型ヘッドホンとしてのヘッドホンHP1〜HP3、HP11〜HP13、サブウーファとしてのサブウーファ3、測定兼用スピーカ91のウーファUH、振分手段及び信号処理手段としてのサウンドプロセッサ11によって音響システムとしてのマルチチャンネル再生システム1、40、50、60、70、90を構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、その他種々の回路構成でなる非密閉型ヘッドホン、サブウーファ、振分手段及び信号処理手段によって音響システムを構成するようにしても良い。
1、40、50、60、70、90……マルチチャンネル再生システム、2……音響装置、3……サブウーファ、4……、モニタ、11……サウンドプロセッサ、12……DVD/SACDプレーヤ、21〜30……音像定位処理フィルタ、31、32……加算器、33、34……トランスオーラルフィルタ、41……デコーダ、42、62……ヘッドホンHP1用補正部、43、63……ヘッドホンHP2用補正部、44、64……ヘッドホンHP3用補正部、51、73……低音分離ローパスフィルタ/ゲイン調整回路、53……中高音分離ハイパスフィルタ53、61……仮想サラウンド処理・ダウンミックス処理回路、62……ヘッドホンHP1用補正部、63……ヘッドホンHP2用補正部、64……ヘッドホンHP3用補正部64、71……中高音分離ハイパスフィルタ、80……ヘッドホン補正部、81……測定シーケンスエンジン、82……測定信号再生ブロック、83、406、407……スイッチ回路、84……集音ブロック、85……解析ブロック、86……再生ヘッドホン調整エンジン、87……音声出力ブロック、91……測定兼用スピーカ、200……ノイズキャンセリングシステム、201……マイクアンプ、202……フィードバックフィルタ、203……音源、204……イコライザ、205……加算回路、206……パワーアンプ、207……ドライバ、400……ノイズキャンセリング処理部、401……アナログディジタルコンバータ、402……解析再生エンジン、403……状態制御ブロック、404……自動測定解析ブロック、405……信号再生ブロック、U1〜U3……ユーザ、HP1〜HP3、HP11〜HP13、HP30……ヘッドホン。