以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
上述の問題点を解決するために、本発明の実施形態に係る無線通信システムにおいて、本発明者らは確率論的手法ではなく決定論的手法を使用し、競合するフロー間の相互交渉を通じてネットワーク内の損なわれるフローの性能を適応的に向上させる。ある特定のフローに属するノード無線局が長時間にわたってチャンネルを独占すれば、その送信レンジ内にある他のノード無線局を介するフローに影響が出る。そこで、各ノード無線局は、その近傍における他のフローのパケット到着率を継続的に監視する。例えば、フローF1に属するあるノード無線局が、その近傍における例えばフローF2である別のフローがその固有のフローレートより低いフローレートを有することを検出し、フローF2が公平なアクセスを得ていないことが示されると、フローF1は即座にそのフローレートを適応的に低減することを決定し、フローF2が無線媒体へアクセスする機会を得て、各フローが均一な性能を達成できるようにする。本実施形態に係る方法は、競合するフロー間の相互協力を基礎とする。言い替えれば、本発明者らの目的は、各々が媒体への公平なアクセスを取得するように、競合するフローのフローレートを適応的に調整することにある。この適応的な調整はまた、無線媒体の最適利用をも保証する。
例えば、フローF1がフローレートpで動作し、フローF2がフローレートqで動作しているものとする。ここで、p>qである。フローF1はフローF2のフローレートを検出し、フローF2がより高いフローレートになるようにそのフローレートpを下げることを決定する。フローF2の方では、フローF1のフローレートを検出し、フローF1がフローF2のフローレートをより高くするためにそのフローレートを下げてくると見越して、そのフローレートを上げることを決定する。この制御アクションは、フローF1のフローレートがフローF2のそれより小さくなる(p<q)まで続く。次に、逆の制御アクションで同じプロセスが反復される。すなわち、今度はフローF1がそのフローレートを上げ、フローF2がそのフローレートを下げる。最終的には、図6乃至図9が示すように、双方が共通のフローレートに落ち着く。これについては、詳細後述するように、クアルネット(QualNet)のネットワークシミュレータを用いてシミュレーションを行って検証する。
上記の制御を達成するためには、あるフロー集合{j,…,k}への干渉を引き起こすフローFiが、フローFi上の各ノード無線局でフロー{j,…,k}の各々のフローレートを検出しかつ測定し、続いてこの知識をフローFiの発信元無線局へ逆伝搬して制御理論的手法の使用によりそのフローレートを調整するという、フロー制御機構が必要である。この検出及び測定は、通信に関与する各ノード無線局のMAC層で行われる。これにより、フローF1(例えば、図5のS1−N1−D1)に包含されるノード無線局は、フローF2に包含されるノード無線局からの連続するRTS信号の受信間隔を記録することにより、フローF2(S2−N2−N3−D2等)のフローレートを測定できるようになる。例えば、ノード無線局N1はフローF2に包含されるノード無線局N3からRTS信号を受信し、各瞬間でフローF2のフローレートを測定することができる。この情報は、CTS信号の送信によりフローF1の発信元無線局S1へ逆伝搬され、発信元無線局S1は、その固有のフローレートを検出されたこのフローF2のフローレートと比較し、両フローにおける均一性を維持すべくそのパケット注入レートを適応的に調整するように制御決定を計算する。
本実施形態ではまた、無線媒体におけるフロー間のコンテンションをさらに低減するための指向性アンテナの使用も提案している(例えば、非特許文献6−8参照。)。指向性アンテナの送信ビーム幅は全方向性アンテナのそれより狭く、フロー間のコンテンションの低減を促進し、システム内でのより多い同時通信数を可能にし、かつ空間分割多元接続(SDMA)を介する媒体利用を向上させる。本実施形態に係る方法について、詳細後述するように、クアルネット(QualNet)ネットワークシミュレータ(例えば、非特許文献9参照。)で評価し、本実施形態に係る方法が競合するすべてのフローに対して公平さを保証することを実証するとともに、全体性能が格段に向上させることを観察した。
図1は、本発明に係る一実施形態であるアドホック無線ネットワークの構成を示す複数のノード無線局1−1乃至1−9(総称して、符号1を付す。)の平面配置図であり、図2は、図1の各ノード無線局1の構成を示すブロック図である。
この実施形態の無線通信システムは、例えば無線LANなどのアドホック無線ネットワークのパケット通信システムに適用するものであって、各ノード無線局1は、無指向性のオムニパターンと、所定の方位角幅を有するセクターパターンと、上記セクターパターンを回転しながら走査する回転セクターパターンとを少なくとも用いて放射パターンの制御を実行する可変ビームアンテナ101を備え、以下の処理を実行することを特徴としている。
(i)自局のサービスエリア内の各ノード無線局1に対してオムニパターンを用いてブロードキャストで自局IDを含むビーコン信号を送信する。
(ii)回転セクターパターンを用いて上記ビーコン信号を受信し、上記ビーコン信号の方位角と信号強度レベルとノード無線局IDを検出することにより、上記複数のノード無線局1のうちのサービスエリア内の各ノード無線局1に対する、方位角と信号強度レベルを方位角及び信号強度レベルテーブル(以下、ASテーブルという。なお、ASはAngle-Signal Strengthの略である。)としてデータベースメモリ154に記憶する。
(iii)パケット信号を宛先無線局に伝送するときに、当該ASテーブルにより示される方位角のセクターパターンを用いて当該宛先無線局に対してパケット信号を送信することにより、パケット信号をルーティングする。
(iv)RTS信号又はCTS信号を受信したとき、同一のパケットフローについてパケット到着間隔(Packet Arrival Interval:PAI)を計算してデータベースメモリ154内のPAIテーブルに記憶し(図19のステップS34)、自局が当該フローの発信元無線局であるときPAIテーブルにおける当該フローのパケット信号を伝搬するノード無線局において検出される最大のパケット到着間隔(Detected Maximum Packet Arrival Interval:DMPAI)に基づいて、PID(Proportional Integral Derivative:比例積分及び微分)制御を用いたフローレート制御方法を用いて、当該フローのパケット注入レート(Packet Injection Rate:PIR)を計算してPIRを更新する(ステップS36)一方、自局が当該フローの発信元無線局でなくかつ中継無線局であるときPAIテーブルにおいてDMPAIを伝搬されたPAI(Propagated Packet Arrival Interval:PPAI)として選択して当該PPAIを含むCTSパケット信号を発信元無線局に向けて逆伝搬させる(ステップS38)。
(v)各ノード無線局1で検出されて発信元無線局に向けて逆伝搬されたPAI(伝搬されたPAI:PPAI)を含むCTS信号を受信したときにPAIテーブルにDMPAIがある場合において、受信したCTS信号内のPPAIと自局のPAIテーブルにおけるDMPAIとを比較してより大きな値を新しいPPAIとして更新し(ステップS40)、自局が当該フローの発信元無線局であるとき新しいPPAIに基づいて、PID制御を用いたフローレート制御方法を用いて、当該フローのPIRを計算してPIRを更新する(ステップS42)一方、自局が当該フローの発信元無線局ではなくかつ中継無線局であるとき新しいPPAIを含むCTS信号を当該フローの発信元無線局に向けて逆伝搬させる(ステップS44)。
この実施形態の無線通信システムでは、図1に示すように、複数のノード無線局1が平面的に散在して存在し、各ノード無線局1はそれぞれ、可変ビームアンテナ101の利得や送信電力、受信感度などのパラメータで決定される所定のサービスエリアを有し、このサービスエリア内でパケット通信を行うことができ、サービスエリア外のノード無線局1とパケット通信を行うときは、サービスエリア内のノード無線局1を中継局として用いてパケットデータを中継することにより、所望の宛先無線局1にパケットデータを伝送する。すなわち、各ノード無線局1は、パケットのルーティングを行うルータ装置を備え、発信端末、中継局、又は宛先端末として動作する。
次いで、図2を参照して、各ノード無線局1の装置構成について説明する。図2において、ノード無線局1は、可変ビームアンテナ101と、その指向性を制御するための放射パターン制御部103と、サーキュレータ102と、データパケット送信部140及びデータパケット受信部130を有するデータパケット送受信部104と、トラヒックモニタ部105と、回線制御部106と、上位レイヤ処理部107とを備える。
送受信すべきデータを処理する上位レイヤ処理装置107に従って発生されたパケット形式の通信用送信信号データは、送信バッファメモリ142を介して変調器143に入力され、変調器143は、所定の無線周波数の搬送波信号を、拡散符号発生器160でCDMA方式で発生された所定の通信チャンネル用拡散符号を用いて、入力された通信用送信信号データに従ってスペクトル拡散変調して、変調後の送信信号を高周波送信機144に出力する。高周波送信機144は入力された送信信号に対して増幅などの処理を実行した後、サーキュレータ102を介して可変ビームアンテナ101から他のノード無線局1に向けて送信する。一方、可変ビームアンテナ101で受信されたパケット形式の通信チャンネル用受信信号は、サーキュレータ102を介して高周波受信機131に入力され、高周波受信機131は入力された受信信号に対して低雑音増幅などの処理を実行した後、復調器132に出力する。復調器132は、入力される受信信号を、拡散符号発生器160でCDMA方式で発生された通信チャンネル用拡散符号を用いて、スペクトル逆拡散により復調して、復調後の受信信号データを受信バッファメモリ133を介して上位レイヤ処理装置107に出力するとともに、トラヒックモニタのためにトラヒックモニタ部105に出力する。
本実施形態においては、可変指向性アンテナである可変ビームアンテナ101は、複数のアンテナ素子とその指向性を制御する放射パターン制御部103から構成されるものであって、より具体的には、無線信号が給電される励振素子と、この励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられ、無線信号が給電されない複数個の非励振素子と、これら各非励振素子に接続された可変リアクタンス素子とから成るアレーアンテナを備え、上記各可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより、上記アレーアンテナの指向特性を変化させる、以下の従来技術文献において開示された、いわゆるエスパアンテナを用いることができる。本実施形態においては、可変ビームアンテナ101は、例えば所定のビーム幅を有するメインビームの方向を、所定の走査間隔で電気的な制御により変更可能であり、以下の放射パターンを選択的に設定して動作する。
(i)無指向性のオムニパターン。
(ii)所定の方位角幅を有するセクターパターン。
(iii)上記セクターパターンを所定の方位角(例えば30度)毎に回転しながら走査する回転セクターパターン。
(iv)例えば、公知の最急勾配法などの適応制御方法(例えば、非特許文献19−20参照。)を用いて可変ビームアンテナ101の主ビームを所望波の方向に向けかつ干渉波の方向にヌルを向ける適応制御パターン。
なお、可変ビームアンテナ101については、例えば、公知のフェーズドアレーアンテナ装置であってもよい。
トラヒックモニタ部105は、検索エンジン152と、更新エンジン153と、データベースメモリ154とを備え、後述のパケット送受信制御処理を実行するとともに、ノード無線局1が他のノード無線局1とのパケット通信において使用すべき通信チャンネルを決定して、決定した通信チャンネルに対応する拡散符号の指定データを回線制御部106を介して拡散符号発生器160に送ることにより、拡散符号発生器160が当該指定データに対応する拡散符号を発生するように制御するとともに、決定した通信チャンネルに対応するタイムスロットの指定データを回線制御部106を介して送信タイミング制御部141に送ることにより、送信タイミング制御部141が送信バッファメモリ142による通信チャンネル用送信信号データの書き込み及び読み出しを制御することにより通信チャンネル用送信信号が対応するタイムスロットで送信されるように制御する。
トラヒックモニタ部105の検索エンジン152は、管理制御部151の制御によりデータベースメモリ154内のデータを検索して検索したデータを管理制御部151に返信する。また、更新エンジン153は、管理制御部151の制御によりデータベースメモリ154内のデータを更新する。さらに、データベースメモリ154には、ASテーブル、PAIテーブル、ルーティングテーブル及びノード無線局テーブルを記憶する。
また、データベースメモリ154に格納されたASテーブルは、図14に示すように、自局のサービスエリア内の隣接ノード無線局毎に、方位角と、信号強度レベルの情報を格納し、後述するパケット送受信制御処理により作成更新される。さらに、ルーティングテーブルは、当該アドホック無線ネットワークにおいて存在する各ノード無線局毎に、1ホップ目のノード無線局のIDと、ホップ数と、更新時刻を、過去に送受信したデータパケットのデータに基づいて格納する。またさらに、ノード無線局テーブルは、当該アドホック無線ネットワークにおいて存在するノード無線局のIDを、過去に送受信したデータパケットのデータに基づいて格納する。
本実施形態のパケット通信システムで用いるパケットデータは、図3に示す一般的な形式のフォーマットを有する。すなわち、パケットデータは、宛先のIDと、パケット種別(ビーコン、RTS、CTS、DATAなど)と、自局のIDと、データ(上位レイヤでのデータなどを含む)とを含む。なお、本実施形態では、ワンホップの無線通信において以下の特別なフォーマット形式を用いる。RTSパケット信号では、図4(a)に示すように、受信局ID、パケット種別、送信局ID、通信ID、伝送すべきデータを含む。また、CTSパケット信号では、図4(b)に示すように、受信局ID、パケット種別、送信局ID、通信ID、PPAI、伝送すべきデータを含む。これらRTSパケット信号やCTSパケット信号の送受信処理については詳細後述する。
次いで、本実施形態で用いるMAC通信プロトコルについて以下に説明する。本実施形態に係る無線通信ネットワークにおいて、互いに無線通信を行う1組のノード無線局1は二次元的な閉鎖空間内を動き回り、共通の無線通信チャンネルを共有するものと仮定する。各ノード無線局1は、上述の4個の放射パターンを有する、例えばエスパアンテナである可変ビームアンテナ101を備える。各ノード無線局1は一度に送信又は受信のいずれかを実行可能であるが、1つのノード無線局1で複数の送受信を行うことはできない。
IEEE802.11のMACプロトコル基準では、RTS/CTS/DATA/ACKアクセス制御方式を用いて、高信頼性のデータ通信が保証されているが、本実施形態の方法では、このアクセス制御方式をベースとして、ASテーブルを形成するためのフェーズが追加の命令信号や応答信号と共に加えられる。従って、データ通信は周期的な、ASテーブル生成フェーズの合間に実行される。また、各フレームにはトレーニングシーケンスが追加されて送受信アンテナによるそのビーム及びヌルの制御及び適応制御モードへの移行が可能にされる。
図16は、本実施形態に係る4方向ハンドシェイクのアンテナモードの使用例を示している。適応制御パターンは移動中の端末を追跡することはできるが、ビーム及びヌルはパケット信号が受信されなければ形成され得ない。従って、RTS送信及びRTS/CTS受信における開始部分では、オムニパターンとセクターパターンが使用される。さらに、待ちノード無線局1は指向性RTS信号がどの方向から到着するかを認識しないため、回転セクターパターンが使用される。本実施形態に係るASテーブルの場合のRTS信号の送信時間は、特許文献1において開示された従来技術のMACプロトコルで用いるSINRテーブルにおけるRTS信号の送信時間の2倍であることに注意を要する。また、RTS信号の送信及びCTS信号の受信におけるセクターパターンのビームの方向は、図14のASテーブルから得ることができる。
次いで、図1のアドホック無線ネットワークにおいて用いられる各ノード無線局での放射パターンの種類と無線通信プロトコルを示すタイミングチャートである図16の制御パターンについて以下に詳細に説明する。まず、送信元ノード無線局はASテーブルにより示される当該宛先無線局にビームを向けるセクターパターンを用いて当該宛先無線局に対してRTS信号を送信する一方、宛先無線局は回転セクターパターンを用いてRTS信号を受信し、上記RTS信号内のノード無線局IDを検出したときは、当該送信元ノード無線局のノード無線局IDに基づいて方位角及び信号強度レベルテーブルにより示される当該送信元ノード無線局にビームを向けるセクターパターンを介して適応制御パターンに変更してRTS信号を受信する。次いで、宛先無線局は、引き続き上記適応制御パターンを用いてCTS信号を送信元ノード無線局に送信する一方、送信元ノード無線局は上記セクターパターンから上記適応制御パターンに変更してCTS信号を受信することにより、宛先無線局との無線リンクを確立する。その後、送信元ノード無線局及び宛先無線局はともに上記適応制御パターンを用いてデータ信号及びACK信号の送受信を実行する。すなわち、送信元ノード無線局は適応制御パターンを用いてデータ信号を送信する一方、宛先無線局は送信されたデータ信号を適応制御パターンを用いて受信する。次いで、宛先無線局は、データ信号を受信したことの確認信号としてACK信号を適応制御パターンを用いて送信元ノード無線局に対して送信し、一方、送信元ノード無線局はこのACK信号を適応制御パターンを用いて受信する。
図16に図示する本実施形態に係る制御パターンにおいては、RTS信号の受信から、セクターパターンから適応制御パターンに変更したアンテナの放射パターンを、宛先無線局及び送信元ノード無線局において用いているが、適応制御パターンを用いず、セクターパターンのみを用いるようにしてもよい。
本実施形態に係る図14のASテーブルを使用する提案されたMACプロトコルにおいては、各ノード無線局1は下記のステップを周期的に実行する。
(i)隣接ノード無線局1−i,1−j,1−kを有するノード無線局1−nは、常に回転セクターパターンを用いた受信モードで待機している。回転セクターパターンでは、ノード無線局1−nはその可変ビームアンテナ101を制御し、各方向において受信される信号を全方向における順次方向性受信の形式で検出する。本実施形態においては、30度のビーム幅の12個のセクターパターンを順次走査し、360度の方位角をすべて走査する。
(ii)無線チャンネルが空いている場合はいつでも、各ノード無線局1はオムニパターンを用いてビーコン信号をその近傍のノード無線局に対して送信する。提案されたこのMACプロトコルの方法においては、図17が示すように2つのパケット信号がビーコンとして順次送信される。ビーコンの第1のパケット信号は、回転セクターパターンにおける受信するノード無線局によるビーコン信号が送信中であるか否かの検出において一助となる。次いで、受信機がビーコンの第2のパケット信号を受信し、復号する。ビーコンの第2のパケット信号は、ノード無線局IDを含んでいる。ここで、全12方向を回転する時間は、1つのパケット信号の持続時間よりも短く設定する必要がある。
(iii)回転セクターパターンでは、ノード無線局1−iがその回転の間に1つの回転セクターパターンにおいて他のノード無線局1−nからのビーコンの第1のパケットを検出すると、ノード無線局1−iはその検出されたセクターパターンにおいて回転を停止し、ノード無線局1−iからのビーコンの第2のパケットを受信する。第2のパケットの信号強度レベルが測定され、ノード無線局1−iのノード無線局IDが復号されると、検出されたセクターパターンの方位角がそのビーコン信号を送信した隣接ノード無線局1−iの方位角になる。
(iv)ノード無線局1−nは、ノード無線局1−nのASテーブルのノード無線局1−iの欄にこれら検出された情報の書込みをする。図14において、方位角ANGLEn,i(t)は、その瞬間tにおける受信されたセクターパターンのノード無線局1−iからノード無線局1−nへの方向の方位角であり、SIGNALn,i(t)はノード無線局1−nのそのセクターパターンにおけるノード無線局1−iから受信された信号レベルである。
(v)ノード無線局1−nは、ノード無線局1−i,1−j,1−kから順次ビーコン信号を受信することにより、ノード無線局1−nのASテーブルのノード無線局1−i,1−j,1−kの欄全体を累積して更新格納する。
ところで、特許文献1に係る従来技術のプロトコルでは、任意のノード無線局1−nがセットアップ信号を送信してそれに基づくSINRテーブルの形成を開始する。ここで、送信機のための方位角は必ず受信機用の方位角とは異なるため、ノード無線局1−nからの方向の同報通信を行わない(例えば12個のRQパケット信号なしの)受信ノード無線局における回転セクターパターンによる方位角予測は適当でない。従って、方位角情報による12個のRQパケット信号だけでなく、REパケット信号によるセットアップパケット信号及び12個のRQパケット信号の受信機からの方位角情報の変換を使用することも必要である。また、あらゆる周辺ノード無線局から多くのセットアップパケット信号と12個のRQパケット信号を受信する各ノード無線局は、REパケット信号を介してすべての隣接ノード無線局にそれぞれ応答しなければならないという問題点を有していた。
これに対して、本実施形態に係る通信プロトコルでは、各ASテーブルはビーコンの受信ノード無線局において作成されるため、回転セクターパターンを受信モードとして使用して全方向性ビーコンの方位角予測を行うことが可能である。各ノード無線局における異なる送信電力の非対称性リンクの問題は、ビーコンに送信電力情報を追加することにより回避することができる。結果的に、12個のRQパケット信号やREパケット信号なしであってもわずか2つのパケット信号をビーコン信号として送信すればよい。さらに、このビーコン信号はオムニパターンで送信されるために、各ノード無線局は近傍に向けてビーコン信号を一度だけ送信すれば足りる。つまり、各ノード無線局は、わずか1つのビーコン信号を送信するだけで隣接するすべてのノード無線局に受信された方位角を予測させることが可能であり、隣接ノード無線局の数だけビーコン信号を送信する必要はない。
さらに、提案された本実施形態に係るMACプロトコルでは、各ノード無線局が隣接ノード無線局の方位角を予測する際にSINRではなく信号強度レベルをリンク品質のパラメータとして使用するために、本実施形態に係るMACプロトコルは、特許文献1に開示された従来技術のプロトコルにおける方位角毎のSINRテーブルにおける干渉の問題を回避することができる。
各ノード無線局からのビーコンのパケット信号は、同じ送信間隔で送信される。この場合は、各ノード無線局がビーコン信号の遷移タイミングをランダムに選ぶとしても、複数のビーコン信号が同時に送信されれば、その受信機側で発生する衝突により全方向性ビーコン信号の幾つかが失われる可能性もある。オムニパターンでの受信モードではビーコン信号は復号され得ないが、回転セクターパターンでは、複数のビーコン信号をセクターパターンで分割することができる点に注意することを必要とする。ここで、この衝突の確率は、各ノード無線局1が送信間隔を選択することに従ってより低く抑えることができる。例えば、当該無線ネットワークシステムにおける基準周期時間間隔tiに対する持続時刻tdのウィン否からランダムなタイミングを選択することができる(td<ti)。
次いで、本発明に係る実施形態において用いる指向性アンテナを使用するフロー制御方法の実装について以下に説明する。
本実施形態に係るフロー制御方法を説明するため、図5が示す例を再度参照する。この制御方法には、基本的に次の3つの部分が存在する。
(i)フローの各ノード無線局におけるコンテンションの検出と測定。
(ii)発信元無線局へのコンテンション認識の逆伝搬。
(iii)コンテンションの認識を使用する、発信元無線局での適応的なフローレート調整。
部分(i)及び部分(ii)、すなわちコンテンションの検出、測定及びコンテンションの認識の発信元無線局への逆伝搬処理は、従来技術に係るRTS信号及びCTS信号の交換方法を使用し、既存のRTS及びCTSパケット信号のフォーマットをわずかに変更して実施される。ノード無線局N1により送信されるRTSパケット信号及び宛先無線局D1により送信されるCTSパケット信号から、ノード無線局N3及び宛先無線局D2は共にその近傍におけるフロー(S1−D1)の存在を検出する。フロー(S1−D1)から遠隔にある発信元無線局S2には、当該フローの存在は未知のままである。従って、CTSパケット信号の手助けにより、宛先無線局D2はノード無線局N3にこの知識情報を送信する。ノード無線局N3は、ノード無線局N2へCTSパケット信号を送信しなければならなくなると、それ自身による固有のコンテンション検出に宛先無線局D2から受信したその知識情報を組み合わせ、フロー内の最大のコンテンションを考慮してこれをCTSパケット信号と共に送信する。最後に、ノード無線局N2はCTSパケット信号を用いてこの知識情報をノード無線局S2へ送信する。発信元無線局であるS2は、次に、フローの媒体におけるコンテンションを考慮し、適応的にそのパケット注入レートを調整する決定を下す。それ故、余分なパケット信号なしで、1個のフローによって検出された無線媒体内のコンテンション情報が発信元無線局へ送信され、発信元無線局はパケット注入レートを適応的に制御する。
上述の方法を実装するため、アドホック無線ネットワーク内の各フローは固有の通信IDによって識別されることを想定し、かつ特殊なタイプのRTS及びCTSパケット信号を導入している。RTSパケット信号のオリジナルフォーマットには、図4(a)に示すように、現在のRTSパケット信号が送信されているフローの通信IDを示す付加フィールドを付している。同様に、CTSパケット信号には、図4(b)に示すように、現時点で2つの付加フィールドを有する。第1のフィールドはRTSパケットの付加フィールドと全く同様のものであり、カレントCTSが送信されているフローの通信idを伝達するように要求される。第2のフィールドは、現在のCTSパケット信号が送信されているフローの近傍における無線媒体において競合しているフロー間で最も損なわれるフローの電波されたパケット到着間隔PPAIを含む。従って、フローの近傍に競合する2つ以上のフローが存在すれば、フローの最大パケット到着間隔PPAIの逆伝搬が行われる。これは、損なわれるフローが無線媒体に対する最大の機会を取得可能であり、かつコンテンション領域におけるそれらのパケット到着間隔PAIが改善されるように、特権フローは自らを繰り返し適応的に調整可能であることを示す。本実施形態に係る無線通信システムにおいては、フロー上の損なわれるノード無線局から捕捉されるコンテンションのフィードバックにより発信元無線局においてフローレートを調整する制御理論的手法が採用されている。本実施形態で開示している適応的なフローレート制御は、従来の比例積分微分(PID)制御機構を基礎としている。以下、この制御方法について詳細説明する。
ここまでは、全方向性アンテナであるオムニパターンを使用する全方向性の近傍ノード無線局について考察した。しかしながら、指向性アンテナを使用して本方法を修正するためには、指向性MAC及びその指向性の近傍ノード無線局について考察しなければならない。本発明者らは、受信機指向性の回転セクターパターンを基礎とする指向性MACプロトコル(例えば、非特許文献19−20参照。)及びネットワークアウェアの指向性ルーティングプロトコル(例えば、非特許文献8参照。)を使用して提案方法を実装した。この場合、各ノード無線局はその指向性の近傍ノード無線局を認識し、この情報がそのASテーブルに記録される。RTS及びCTSパケット信号は全方向性であるのに対して、データ及び肯定応答パケット信号は指向性を有するセクターパターンで送信される。アドホック無線ネットワークの無線通信システムにおける指向性アンテナの使用は無線干渉を大幅に低減させることが可能であり、これにより無線媒体の利用は向上する(例えば、非特許文献8,19−20参照。)。指向性アンテナのこの特性は、提案プロトコルの効率の改善に使用される。
図10はこれを示し、図5のフロー(S1−D1)及びフロー(S2−D2)は指向性アンテナの使用により互いに妨害し合うことなく共存することが可能であるが、全方向性アンテナを使用する場合(図5)には、これは不可能であると考えられる。従って、指向性アンテナを使用すれば、フロー(S1−D1)が存在していてもフロー(S2−D2)のパケット注入レートを制御する必要がない。指向性アンテナを使用すれば、近くに複数の競合するフローが存在していてもフロー方向にある通信からの競合だけが考慮されるという意味において、無線媒体における競合の検出もまた指向性を有するセクターパターンを用いて実行される。媒体アクセス制御(MAC)は、そのASテーブルを調べて無線媒体における指向性の競合を検出する。所定のセクターパターンを有する指向性アンテナはSDMA(空間分割多元接続)の効率を向上させることから、これは無線媒体内の他のフローの妨害を最小限に抑えながら損なわれるフローのパケット注入レートをも高め、これにより、無線ネットワーク内の全フローのスループットが増大するに至る。同時に、複数のフローが結合される機会は低減され、無線ネットワーク性能が改善されることになる。
次いで、「他のフローによるコンテンションの検出とフローレートの測定」について以下に説明する。
フローが開始されると、複数のホップを介してパケット信号が宛先無線局へ送信され、かつMAC層では、各中間ノード無線局におけるパケット配信がRTS/CTS/DATA/ACKの交換によって確認される。これらのRTS及びCTSパケット信号は、発信元無線局においてどんなパケット注入レート制御決定が下されるかに関するフロー関連情報を検出しかつ逆伝搬するために使用される。
セクターパターンを用いた指向性送信の無線通信システムにおいては、2つのフローは、双方のフロー方向が重なる場合にのみ互いに電波干渉し合う。図10では、ノード無線局N1とノード無線局N3は互いの全方向性送信レンジ内にあるが、指向性データ通信の間、ノード無線局N1から宛先無線局D1へのフローはノード無線局N3から宛先無線局D2へのフローに電波干渉しない。セクターパターンの指向性アンテナを使用するフローが直面するコンテンションを検出するためには、そのフロー内の各ノード無線局は、フロー方向のその指向性送信ゾーンが他の任意のフローを処理する任意のノード無線局を含んでいるか否かを検出することが不可欠である。含んでいれば、指向性データ通信の間にそのノード無線局においてコンテンションの発生が予測されることが意味される。よって、コンテンションを検出したフローのフローレートを制御して競合する他のフローのフローレートを保護する必要がある。以下、任意のノード無線局nがフローのフローレートを検出しかつ測定する機構を示す。
<定義1>ノード無線局nの送信ゾーンTZn(α,β,R):ノード無線局nが送信レンジ(送信距離)Rで方位角α及びビーム幅βの送信ビームを形成するとき、方位角αにおけるnの有効範囲をノード無線局nの送信ゾーンTZn(α,β,R)(図11)と定義する。これは、ノード無線局mが送信ゾーンTZn(α,β,R)内にあり、かつノード無線局mが受信モードにあれば、ノード無線局nが当該ノード無線局nに対する送信方位角α、ビーム幅β及び送信レンジRでメッセージを送信する毎に、ノード無線局mによってこれが受信されることを意味する。ノード無線局mが送信ゾーンTZn(α,β,R)から移動すると、ノード無線局nとノード無線局mとの接続性は失われる。なお、本実施形態では送信ビーム幅β及び送信レンジRが一定であるため、後の説明では、送信ゾーンTZn(α,β,R)を送信ゾーンTZn(α)と呼ぶ。
<定義2>RTSパケット信号受信時刻(RTS Reception Time)RRTFi,α,n(t):これを、ノード無線局nがその時点でフローFiを処理している任意のノード無線局からノード無線局nに対する方位角αでRTSパケット信号を受信する時刻tと定義する。
<定義3>パケット到着間隔(Packet Arrival Interval)PAIFi,α,n(t):これを、ノード無線局nで時刻tにおいてノード無線局nに対する方位角αでフローFiから受信される2つの連続するRTSパケット信号受信時刻RRTの間隔と定義する。これは、指向性の近傍における任意のノード無線局nにより、単位時間当たりのパケット数(1/PAIFi,α,n(t))としてのFiのフローレートの測定に使用される。従って、次式を得る。なお、当該明細書において、数式がイメージ入力された墨付き括弧の数番号と、数式が文字入力された大括弧の数式番号とを混在して用いており、また、当該明細書での一連の数式番号として「式(1)」の形式を用いて数式番号を式の最後部に付与して用いることとする。
[数1]
PAIFi,α,n(t)=RRTFi,α,n(t)−RRTFi,α,n(tprevious)
(1)
ここで、tpreviousは現在処理対象の受信されたパケット信号よりも1つ前に受信されたパケット信号の時刻であり、t−Δt<tprevious<tである。Δtはノード無線局nに到来する2つのRTSパケットの連続性の有効性を保証するために導入される時間間隔である。例えば、ノード無線局nがランダムなチャンネルエラー、衝突又は移動性に起因してRTSパケット信号を受信し損なえば、これはフローレートの計算を誤る可能性がある。時間間隔Δtの導入は、こういう状態において必要である。RTSパケット信号を発行することのない任意の宛先ノード無線局の場合は、CTSパケット信号受信時刻を監視してそのフローの宛先ノード無線局におけるフローレートが計算される。6個のフローの状況では、時間間隔Δtは2秒になった。
<定義4>PAIテーブルPAITn(t):これは、図15に示すように、各方位角α毎における各フローFiのパケット到着間隔PAIFi,α,n(t)を記憶する。
以上において、ノード無線局nにおける、例えばF1であるフローが例えばF2である別のフローとの競合を生成している否かは、フローF1の送信方向又は送信ゾーン及びそのゾーンにおけるフローF2による進行中の無線通信の存在に依存する。ここで、ノード無線局nにおけるフローF1は、ノード無線局nに対する送信ゾーンβを使用しているものとする。言い替えれば、βはノード無線局nにおける時刻tでのフローF1の方向である。ノード無線局nにおけるこのフローF1がその近傍における他の任意のフローとの競合を生成しているか否かは、方位角βにおけるノード無線局nのPAIテーブルの入力情報に依存する。すなわち、方位角βにおけるPAIテーブルが{<PAIFj,β,n(t)><PAIFk,β,n(t)>…}のような他の幾つかのフローに関する何らかのPAI入力情報を含んでいれば、MAX(PAI(β,t))=(MAX{<PAIFj,β,n(t)>,<PAIFk,β,n(t)>…})はフローF1のレート調整のために逆伝搬される必要がある。ここで、MAX(・)は引数の最大値を表す演算子であり、MAX(PAI(β,t))は、これらのPAI値の最大値が最低フローレートを示すことから、そのノード無線局による最も影響される競合フローの同定を手助けすることは注目すべき点である。従って、フローF1はこの最大のPAI値を保護するためにそのフローレートの調整を試行することになり、これにより、他のフローも自動的に保護される。ここで、どのフローも、公平な最大媒体アクセスを目指して競合する他のフローもまた適宜そのパケット注入レートを制御してくるという予測のもとに、そのパケット注入レートを制御する点に留意しなければならない。
次いで、「フローの発信元無線局によるフローレートの分散測定技術」について検討する。
いま、(S→N1…→Nk−1→Nk→Nk+1→…→D)があるフローの発信元無線局から宛先無線局へのルートであるとすると、各ノード無線局は、PAIテーブル内のPAIFi,α,Nk(t)を使用して他のフローのフローレートを独立して測定する。フローの各中間ノード無線局で認識される他のフローのフローレートは、異なる可能性がある。ここで、制御決定を下すためには、そのフローの発信元無線局は、フローレートのボトルネック情報、すなわち各ノード無線局(S,N1,…,Nk−1,Nk,Nk+1,…,D)で測定されたすべてのフローレート値のうちの最低値を認識していなければならない。言い替えれば、発信元無線局Sは、発信元無線局Sから宛先無線局Dへのフロー方向における全ノード無線局(S,N1,…,Nk−1,Nk,Nk+1,…,D)でのMAX(PAI)の値を知る必要がある。
説明を簡単にするため、これまでは1つだけのフローについて考察してきた。しかしながら、1つのノード無線局は複数のフローに包含されている場合もある。従って、MAX(PAI)を、任意の方位角βの絶対値ではなく、フローFID及びそのフローFIDのフロー方向に関連づける必要がある。そこで、以下の定義5において、MAX(PAI)の定義を下記のように修正する。
<定義5>検出される最大のパケット到着間隔DMPAI(Nk)Fi(t)又は時刻tにおいてフローFiを処理するノード無線局Nkで検出される最大パケット到着間隔を、ノード無線局Nkで検出されるフローFi方向の他のフローの最大PAIと定義する。
<定義6>伝搬されたパケット到着間隔PPAI(Nk)Fi(t)は、フローFiのノード無線局Nk+1から宛先無線局Dによって測定されたノード無線局Nk+1からのノード無線局Nkにおける他のフローの最大PAIの伝搬値である。従って、次式で表される。
[数2]
PPAI(Nk)Fi(t)
=MAX{DMPAI(Nk+1)Fi(t),…,DMPAI(D)Fi(t)}
(2)
[数3]
PPAI(Nk−1)Fi(t)
=MAX{DMPAI(Nk)Fi(t),PPAI(Nk)Fi(t)}
(3)
従って、伝搬されたパケット到着間隔PPAI(S)Fiは、フローFiの発信元無線局Sによって最終的に検出される競合する他のフローの最大パケット到着間隔である。フローFiの発信元無線局Sは、この情報を使用してFiのフローレートを適応的に制御する。
次いで、本実施形態で用いる「フロー制御機構」について以下に説明する。この中で、まず、「比例積分及び微分(PID)制御に関する幾つかの準備段階」について説明する。
図12は、基本的な帰還型コントローラ装置の構成を示すブロック図である。帰還型コントローラ装置を、測定可能なプロセス変数(出力信号)Yを設定ポイントとして周知の所望の設定値R(設定点信号)の方向へ駆動すべくプロセスに何らかの制御を働かせる制御信号の出力uを発生させるように設計する(図12)。帰還型コントローラ装置は、アクチュエータを使用してプロセスに作用し、センサを使用して結果を測定する。
図12において、帰還型コントローラ装置は、減算器11tと、コントローラ12と、制御対象のプラント装置13とを備えて構成される。加算器11は入力される設定点信号Rから、プラント装置13から出力される出力信号Yを減算して、減算結果の信号であるトラッキング誤差信号eをコントローラ12に出力する。コントローラ12は、入力されるトラッキング誤差信号eに基づいて所定の制御方法を用いて制御するための制御信号uを発生してプラント装置13に出力する。プラント装置13は、入力される制御信号uに基づいてその動作が制御され、そのときのプラント装置13からの出力信号Yが減算器11に出力されるとともに、外部装置に出力される。
以上説明したように、図12の帰還型コントローラにおいては、設定点信号(R)とプロセス変数である出力信号(Y)の測定値との誤差信号eを観察することによりその出力信号を決定する。誤差信号eは、プロセス上の外乱又は負荷がプロセス変数を変更すると発生するが、図12の帰還型コントローラ装置の役割は、この誤差信号eを自動的に排除して0にすることにある(例えば、非特許文献12参照。)。
初期の帰還型制御装置は、その制御構成において明示的又は暗示的に比例積分及び微分(PID)制御の各動作の考案を使用した。ここで、PID制御を厳密に理論的に考察したのは、1922年に発表されたミノルスキー(Minorsky)による船舶操舵に関する現象研究であった(例えば、非特許文献22参照。)。PIDコントローラは、現代の産業プロセスにおいて今だ最も広範囲に使用されている制御構成である(例えば、非特許文献23照。)。ここで、PID制御アルゴリズムの一般式は、次式で表される。
ここで、変数(e)は、減算器11により計算され、所望の入力値である設定点信号(R)と実際の出力信号(Y)との差であるトラッキング誤差信号を表す。この誤差信号(e)はPIDコントローラ12に送られ、PIDコントローラ12はこの誤差信号eの導関数及び積分の双方を計算する。PIDコントローラ12を通過した直後の制御信号(u)は、この時点で、比例利得(Kp)×誤差信号の大きさ(e)+積分利得(Ki)×誤差信号(e)の積分+微分利得(Kd)×誤差信号(e)の導関数に等しい。
比例利得(Kp)は、制御信号uの立ち上り時間を短縮する効果を有し、かつ定常状態の誤差を、完全に排除はしないものの低減させる。積分利得(Ki)は定常状態の誤差を排除する効果を有するが、過渡応答を悪化させる場合がある。微分利得(Kd)は、システムの安定度を高め、オーバーシュートを低減し、過渡応答を向上させる効果を有する。上記の式はPIDコントローラ23の連続表示の式であり、離散表示に変換されなければならない。これを行う方法は幾つか存在するが、一次有限差分を使用するものが最も簡単である。ここで、比例する誤差項も、やはり基準値と現在値との誤差を用いる。微分項及び積分項は、次式で置き換えできる。
ここで、wは積分制御のウィンドウである。従って、上記式の最終形式は、次式で表される。
従って、所望の出力信号Yを計算するためには、現在の誤差、誤差合計及び誤差の最近の変化を求めることが必要になる。
次いで、「公平性をもたらすためのPIDコントローラを使用するフロー制御方法」について以下に説明する。
図13は、複数のフローが互いに結合され、すなわちこれらのフローのルートは1つ又は複数の共通ノード無線局を共用し、もしくは互いに干渉し合うほど近接しているかのいずれかである、基本的なフローレート制御方法を示すブロック図である。アドホック無線ネットワーク内の競合するすべてのフローに公平性をもたらすために、各フローは、無線媒体内にコンテンションを検出するとPID制御方法を使用してその発信元無線局においてそのフローレートuを適応的に変更する。その結果、損なわれるフローは、無線媒体にアクセスしてそのパケット信号を送信するより良好な機会を獲得する。必然的に、損なわれるフローのフローレート(Yj)は向上する。例えばFiであるフローを処理するノード無線局は、フロー方向沿いのコンテンションに起因して、Mjで表される他の近傍フローのフローレートの低下を継続的に測定している。この情報(Mj min)は、フローFiを処理する発信元無線局Sに逆伝搬される。これを基礎として、発信元無線局はフローFiのパケット注入レートを調整し、当該プロセスが反復される。当該無線通信システムにおける本発明者らの目的は、特権フローのフローレートの低減を最小限に抑えながら損なわれるフローのフローレートを最大化し、最終的には競合するすべてのフローが無線媒体の最大利用により媒体への公平なアクセスを得られるようにすることにある。本発明者らにより提案する制御方法に従って、フローはフローレートの低減に関して他のフローにおけるエラーを検出し、恵まれないフローのフローレートが向上するように適宜その自らのフローレートを調整する。この種の要件は従来技術のPID制御には存在せず、よって提案手法は従来のPID制御から派生したものである。引き続き、これについて説明する。
次いで、「フローレートの帰還型制御」について以下に説明する。
以下の説明では、発信元無線局におけるパケット注入間隔(PII)をフローレートを制御する測度として考察した。発信元無線局におけるフローのパケット注入レート(PIR)(単位:パケット/秒)は、次式を用いて計算できる。
[数4]
PIR=1/PII (8)
例えば、発信元無線局におけるパケット注入間隔PIIが20ミリ秒であれば、パケット注入レートPIR=50パケット/秒である。ここで、制御決定を下すためには、まず図12のPIDコントローラ12において誤差を計算する必要がある。
任意のフローFiのその発信元無線局Sにおける誤差eは次式で表される。
[数5]
e=PIIFi−PPAI(S)Fi (9)
ここで、PIIFiはフローFiのパケット注入間隔であり、PPAI(S)Fiは、フローFiにおけるノード無線局によって検出されかつフローFiの発信元無線局Sへ逆伝搬されるFiの近傍における他の競合するフローの最大パケット到着間隔である。
図13において、減算器21には、i番目のフローFiのパケット注入間隔PIIが入力されるとともに、当該アドホック無線ネットワークにより最小フローレートを逆伝搬させるシステムから出力される当該最小フローレートが入力され、これらの誤差eが減算器21により計算された後、フローFiの発信元無線局に設けられたフローコントローラFCiに入力される。フローコントローラFCiは入力される誤差に基づいて2つの誤差間の時間間隔Δtを計算して無線ネットワークにおけるフローシステム23に出力して各フローの注入レートを制御する。各フローFiは当該アドホック無線ネットワークを伝搬してゆく。ここで、各フローFiを処理する中間のノード無線局により他のフローレートMiを測定するシステム24により測定された他のフローレートMiが最小フローレートを逆伝搬させるシステム25により逆伝搬されて減算器21に戻される。
すなわち、誤差e(n)及び連続する2つの誤差間の時間間隔Δtが計算されると、フローコントローラFi(S)のパケット注入間隔PIIは、次式で計算される。
ここで、PIIoldは制御前のパケット注入間隔であり、PIInewは制御後のパケット注入間隔である。また、パラメータkp,ki及びkdの値は最適な性能を得るように調整する必要がある。PIDコントローラ12を用いたフローレートのシミュレーション結果の性能については、詳細後述する。当該シミュレーションでは、パラメータkp,ki,kd及びwの値をそれぞれ、0.2,0.08,0.08及び5にしており、これらは好ましい設定値である。
図18は、図2のノード無線局1の管理制御部105に従って実行されるパケット送受信制御処理を示すフローチャートである。
図18において、まず、ステップS1において回転セクターパターンで可変ビームアンテナ101を所定方位角(例えば、30度)毎に変化して回転走査するように制御して受信信号を受信し、ステップS2において所定のしきい値以上の信号強度レベルの受信信号を受信したか否かが判断され、YESのときはステップS3に進む一方、NOのときはステップS8に進む。ステップS8において送信すべきパケット信号があるか否かが判断され、YESのときはステップS9に進む一方、NOのときは図20のサブルーチンであるPAI削除処理を実行した後、ステップS1に戻る。ステップS9において送信すべきパケット信号はビーコン信号であるか否かが判断され、YESのときはステップS10に進む一方、NOのときはステップS11に進む。ステップS10においてオムニパターンでビーコン信号を送信した後、ステップS1に戻る。一方、ステップS11においてその他の信号をセクターパターン又は適応制御パターンで送信し、すなわち、図18に示すように、各信号に応じて対応する放射パターンで送信を行った後、ステップS1に戻る。
ステップS3では、回転セクターパターンを停止して、可変ビームアンテナ101の放射パターンを、停止した所定の方位角に向けるセクターパターンに設定する。次いで、ステップS4において適応制御パターンで受信信号を受信し、パケット情報を復号化し受信信号の信号強度レベルを測定し、ステップS5において受信信号はビーコン信号か否かが判断され、YESのときはステップS6に進む一方、NOのときはステップS7に進む。ステップS6においてパケット情報内のノード無線局IDと検出された方位角と信号強度レベルに基づいてASテーブルの内容を更新した後、ステップS1に戻る。一方、ステップS7において、図12のサブルーチンであるその他の信号の受信処理を実行した後、ステップS1に戻る。
図18の制御フローにおいては、ステップS1,S2において、可変ビームアンテナ101を回転走査して所定のしきい値以上の信号強度レベルの受信信号を受信したときに、その受信信号を検出しているが、本発明はこれに限らず、可変ビームアンテナ101を360度にわたって回転走査して、所定のしきい値以上の信号強度レベルの受信信号を受信しかつそのうちの最大の受信信号を、検出された受信信号としてもよい。
図19は図18のサブルーチンであるその他の信号の受信処理(ステップS7)を示すフローチャートである。
図19のステップS31において、当該フローのRTS信号又はCTS信号を受信したか否かが判断され、YESのときはステップS34に進む一方、NOのときはステップS32に進む。ステップS32においてPPAIを含むCTS信号を受信したか否かが判断され、YESのときはステップS38に進む一方、NOのときはステップS33においてその他の受信処理を実行した後、元のメインルーチンに戻る。
ステップS34においては、受信されたRTS信号又はCTS信号の時刻に基づいてPAIを計算してPAIテーブルに格納し、ステップS35において自局は当該フローの発信元無線局であるか否かが判断され、YESのときはステップS36に進む一方、NOのときはステップS37に進む。ステップS36では、自局のPAIテーブルにおけるDMPAIに基づいて、PIDコントローラ12を用いたフローレート制御方法を用いて、当該フローのPIRを計算してPIRを更新した後、元のメインルーチンに戻る。また、ステップS37では、自局は当該フローの中継無線局であるか否かが判断され、YESのときはステップS38に進む一方、NOのときは元のメインルーチンに戻る。ステップS38では、自局のPAIテーブルにおいてDMPAIをPPAIとして選択して当該PPAIを含むCTS信号を当該フローの発信元無線局に向けて逆伝搬させた後、元のメインルーチンに戻る。
ステップS39では、自局のPAIテーブルにおいてDMPAIはあるか否かが判断され、YESのときはステップS40に進む一方、NOのときはそのままステップS41に進む。ステップS40において、受信したCTS信号内のPPAIと、自局のPAIテーブルにおけるDMPAIとを比較してより大きい値を新しいPPAIとして更新し、ステップS41において自局は当該フローの発信元無線局であるか否かが判断される。ステップS41でYESのときはステップS42に進む一方、NOのときはステップS43に進む。ステップS42では、新しいPPAIに基づいて、PIDコントローラ12を用いたフローレート制御方法を用いて、当該フローのPIRを計算してPIRを更新して元のメインルーチンに戻る。また、ステップS43では、自局は当該フローの中継無線局であるか否かが判断され、YESのときはステップS44に進む一方、NOのときは元のメインルーチンに戻る。ステップS44では、新しいPPAIを含むCTS信号を当該フローの発信元無線局に向けて逆伝搬させる。なお、当該フローの通信IDのときにCTS信号にPPAIを挿入するか否かを判断して実行することとする。そして、元のメインルーチンに戻る。
図20は、図18のサブルーチンであるPAI削除処理(ステップS12)を示すフローチャートである。図20のステップS21において、当該フローについて時間Δtの間RTS信号又はCTS信号を受信していないか否かが判断され、YESのときはステップS22に進む一方、NOのときはそのまま元のルーチンに戻る。ステップS22では、当該フローに対するPAIをPAIテーブルから削除した後、元のルーチンに戻る。
以上説明したように、本実施形態に係るMACプロトコルによれば、図16が示すように、1つのRTSパケット信号を2つの連続するRTSパケット信号に変更することにより、データ通信用に4方向のハンドシェイクとして一体化されたMACプロトコルを実現できる。このように本実施形態で提案されたASテーブルを使用する適応的なMACプロトコルは、従来よりも少ないオーバーヘッドでかつ干渉による影響なしに、各ノード無線局が屋内外における方位角情報を維持することを実現する。この方位角情報は、指向性及び適応制御型ビームパターンによる通信の開始だけでなく、SDMA(Space Division Multiple Access)におけるプロトコルの効果的なルーティングにとっても必要である。また、信号情報は、リンク状態のルーティングにも使用することができる。
本発明者らは、上述のした無線通信システムについて提案した制御方法の性能を、クアルネット(QualNet)シミュレータ(例えば、非特許文献9参照。)を用いて評価した。考察はIEEE802.11に基づく指向性のMAC(例えば、非特許文献19参照。)に関して行い、セクターパターンを有する指向性アンテナのみを使用する提案する本実施形態に係るプロトコルを実装した。シミュレーションは、30度で離散的に操向されて360度のスパンをカバーする擬似スイッチビームアンテナの形式の電子制御導波器アレーアンテナ装置(例えば、非特許文献20参照。)を用いて行った。クアルネット(QualNet)シミュレータには、提案するプロトコルを実装するために必要な変更を加えた。次の表1はシミュレーションにおいて使用したパラメータセットをまとめたものである。当該無線通信システムに関する性能評価は、まず異なるノード無線局の静的状態で行ない、次いで、ノード無線局の移動下で行った。
まず、「静的状態における性能」について以下に説明する。本実施形態に係る無線通信システムにおける提案するプロトコルにおいて取得される利得を明確に示すため、静的ルートを使用してルーティングプロトコルによる影響を回避した。また、任意のルーティングプロトコルによって発生されるすべての制御パケットを停止させるためにも、静的ルートを使用した。2つのフローが互いに結合され、かつ共用する無線媒体へアクセスするために競合すると、不公平な媒体アクセスにより、結合されたフローの性能が変動する可能性がある。この状況において、本発明者らが提案するパケット注入レート制御プロトコルが公平な媒体アクセスのために必要になる。よってすべての静的トポロジーにおいて、発信元無線局と宛先無線局との対を無作為に選択する代わりに、パケット注入間隔制御の効果を実証できる状況を人工的に創出すべく互いに結合されるように、発信元無線局と宛先無線局との対を選定した。評価は、ストリングトポロジーにおける性能と、3つの設定のグリッドトポロジーの下の性能に関して行った。すべてのケースで、個々のフローのスループット、パケット伝送率及びエンドツーエンドの平均遅延時間、並びに、すべてのフローの平均値について評価した。「公平な媒体アクセス」と標題を付けた本発明者らの提案プロトコルと、「不公平な媒体アクセス」と標題を付けた、公平のための方法が使用されていない方法とを比較した。
ここで、まず、「ストリングトポロジー」におけるシミュレーションとその結果について以下に説明する。まず、図21に示すように、双方が互いに干渉し合うほど近接している無線ネットワークの2つのストリングに沿って4ホップのフローを選定した。図21が示すセクターパターンである指向性アンテナパターンは、各フローの送信ゾーンを示している。この2つのフローは、「フローF1」及び「フローF2」で表している。公平のための機構がない場合、フローF1のスループット(図22)はフローF2のスループットの3分の1より少ない。これは、不公平な媒体アクセスに影響されたものであり、パケット伝送率(図23)及びエンドツーエンドの平均遅延時間(図24)にもこれが反映されている。公平な媒体アクセスを導入すると、2つのフローF1,F2のスループットはほぼ等しくなり、各フローF1,F2のスループットは、公平のための方法が全くない場合のフローF2のそれよりも大きくなる。従って、提案する本実施形態に係るプロトコルでは、平均スループットは、公平のための方法がなかった場合の2倍になる。公平のための方法がなければほぼ0.1であったパケット伝送率は、ほぼ1にまで増大する。しかしながら、最も著しい向上は、エンドツーエンドの平均遅延時間において認められた。両フローF1,F2で5秒を超えていたパケット当たりのエンドツーエンドの平均遅延時間は、提案する本実施形態に係るプロトコルの実装によって0.5秒未満へと急激に下がった。
公平のための方法がない場合は、フローF2が無線媒体に対するほとんどの機会を獲得し、フローF1は損なわれる。また、2つのフローによるコンテンションは1つのノード無線局内に止まらず、2つのフローF1,F2のすべてのリンクが互いに密に結合される。この強力な結合に起因して、最高の性能を有するフローであっても、公平のための方法が全くない場合には、パケット注入レート制御導入後の各フローのそれより少ない性能を有する。
2つのフローF1,F2が互いに結合されると、これらは共通の無線媒体を共用して無線通信するしかなく、単独で動作していた場合に可能であったほどのパケット信号を処理することはできない。しかしながら、コンテンションに気付かない発信元無線局は高速でパケット信号を注入するために、無意味な輻輳が発生し、スループットは劣化する。これは、中間ノード無線局における待ち行列の長い待機時間をさらに増大させ、1パケット当たりのエンドツーエンドの平均遅延時間が増大する。これはまた、不要な輻輳及び待ち行列におけるパケットドロップ(パケット損失)をもたらし、最終的にパケット伝送率が損なわれる。提案する本実施形態に係るプロトコルは、公平な媒体利用、均一で高いスループット及び極めて少ないパケットドロップに関するこれらの問題点に対処することから、パケット伝送率はほぼ1になり、極めて低いエンドツーエンドの平均遅延時間が達成される。図22乃至図24が示す結果は、これらの性能利得を反映している。
次いで、「格子形状のグリッドトポロジー」におけるシミュレーションとその結果について以下に説明する。ここで、公平な媒体アクセスのためのパケット注入レート制御アルゴリズムを、下記のような3種類の設定によるグリッドトポロジーで評価した。
(1)図25に示すように、2つのフローF1,F2はグリッドの水平行及び垂直列沿いに互いに交差している。セクターパターンである指向性アンテナパターンは、各フローF1,F2の送信ゾーンを示す。
(2)図29に示すように、4つのフローF1乃至F4はそれぞれ、グリッドの2つの水平行及び2つの垂直列沿いに互いに交差している。各フローF1乃至F4の送信ゾーンは、2つのフローF1,F2の場合に類似している。
(3)図33に示すように、6つのフローF1乃至F6は、グリッドの3つの水平行及び3つの垂直列沿いに互いに交差している。各フローF1乃至F6の送信ゾーンは、2つのフローF1,F2の場合に類似している。
ここで、選択されたフローは、すべて4ホップである。これらの3つのケースのすべてにおいて、提案した公平のための方法は、図26、図30及び図34から明らかなように向上した均一のスループット、ほぼ1のパケット伝送率(図27、図31及び図35)及び極めて少ないエンドツーエンドの平均遅延時間(図28、図32及び図36)を得た。
次いで、各ノード無線局の移動下におけるシミュレーションとその結果について説明する。
提案する本実施形態に係るプロトコルを、面積1500×1500m2の有界領域内の100個のノード無線局1において毎秒0〜10mで移動する6つのフローF1乃至F6を用いて評価した。MAC及びルーティングプロトコルは、例えば非特許文献8に記載のものを使用した。移動性に起因する様々な可能ランダムトポロジーの平均を得るために、6分のシミュレーション時間を選定した。ノード無線局1の移動性により、各フローは、異なる時間ポイントにおいて様々な方法で勝手に動作する。当該シミュレーションでの動作方法として以下の動作方法が可能である。
(動作方法1)公平な媒体アクセスの要件がない場合、単独で動作する。
(動作方法2)フローレート制御が必要である場合、別のフローのすぐ側で動作し、共用する無線媒体へのアクセスを得るためにそのフローと競合する。
(動作方法3)競合する各フローに公平性を与えるべく徹底したフローレート制御が行われる場合、複数のフローの側で単に動作し、共用する無線媒体へのアクセスを得るためにこれらのフローと競合する。
各々の動作方法で、任意のフローのスループットは他の動作方法とは大幅に異なる。移動性に起因して、1つのフローは、動作方法1又は2を経験し、第2のフローは動作方法3のみを経験するということが起こり得る。第2のフローは徹底的なレート制御を必要とするため、これらの2つのフローのスループットは大幅に異なるものになる。ここで、これは必ずしも、これらが公平な媒体アクセスを得なかったことを指すものではない。公平な媒体アクセスは、競合の間に競合するフロー間でのみ保証される。従って、移動下でのフローのスループットは表示していない。
図37及び図38はそれぞれ各々、6つのフローF1乃至F6のパケット伝送率及びエンドツーエンドの平均遅延時間を示している。提案する本実施形態に係るプロトコルを実装すると、各フローのパケット伝送率は、公平のための方法が全くない場合のその値の2倍乃至3倍に増大する。これらの図37及び図38に示すように、フロー制御を行った場合の各フローの終端間遅延は、フロー制御を行わない場合のほぼ3分の1乃至5分の1である。また、フローレート制御方法の実装後は、競合するフロー間のエンドツーエンドの遅延時間の変動も縮小される。これらはすべて、フローレート制御方法が、競合するすべてのフローに対して共用媒体への公平なアクセスをもたらすことを示している。
以上説明したように、本実施形態では、各フローが媒体への公平なアクセスを得るように、競合するフローのフローレートが適応的に調整される。フローレートの調整は、競合する他のフローもまたそのフローレートを適宜調整していくという予測のもとで行われる。従って、フロー間の継続的な相互交渉及びコラボレーションにより、文字通りの公平性の達成が促進される。なお、パラメータkp、ki及びkdの値は異なる動作方法で調整したが、これらの値は公平のための方法の向上に大きく影響することがわかる。
本実施形態に係る方法と関連する従来技術文献に係る方法との相違点.
さらに、本実施形態に係る方法と、関連する従来技術文献に係る方法との相違点について以下に説明する。
無線ネットワークにおける公平性の問題に関しては、これに対処する多くの公平なスケジューリングアルゴリズムが提案されている。例えば非特許文献10は、帯域幅の公平な割付けを提供するためのオンラインスケジューリング方法について記述している。この方法は、フローのトラフィック需要が一貫してその公平な共用に至っていないか否かを検出することが可能であり、そうであれば、過剰な帯域幅を他のフロー間で分配することができる。同時にこのポリシーにより、フローはその先行シェアの一部を再要求することが可能になり、再要求の程度は、パラメータを介して正確に制御することができる。
また、非特許文献11では、各フローに関する最適なチャンネル利用及び公平性を達成する集中パケット−スケジューリングアルゴリズムが設計されている。このアルゴリズムは、達成可能な最大チャンネル利用に関するある種の予測を使用し、これは、公平性を意識した新たなスケジューリングプロトコルの設計の間に本質的なガイドラインを提供する。またこの論文では、分析及びスケジューリングの間に、マルチホップ無線ネットワークにおける競合するノード無線局でのボトルネック情報も考慮される。
さらに、共用リンク上の帯域幅の公平な割付けを達成するための「公平なキューイング」アルゴリズムに関しては、多くの研究が実行されている。これらの公平なキューイングアルゴリズムは、それらがフローに関する全情報へのアクセスを有する単一のノード無線局(例えば、スイッチ装置又はルータ装置)上で実行されることから、故意に集中化されている。これらのアルゴリズムによって達成される公平性は、ロケーション依存のエラーが存在すると損なわれ得ることが観察されている(例えば、非特許文献14参照。)。ロケーション依存のエラーが存在する場合に公平性を高める多くの手法も、開発されている(例えば、非特許文献15−16参照。)。これらの手法は集中化され、ロケーション依存のエラーの存在に起因してそのパケットが崩壊されるホストを「補償する」ように無線チャンネルへのアクセスを調整する基地局を必要とする。
またさらに、非特許文献17では、IEEE802.11の標準における分散調整関数(DCF:Distributed Coordination Function)を修正した無線LANのための分散公平なスケジューリング(DFS:Distributed Fair Scheduling)が提案されている。このプロトコルは、チャンネルを共用するフローのウェイトに比例して帯域幅を割り付ける。この方法では、パケット信号にとって適正なバックオフ間隔の選定に使用可能な様々なマッピングも提案されている。この論文の著者達は、フローの適正なウェイトを決定する機構については考察していない。ここで、DFSでは、より大きいウェイトがより小さいコンテンションウィンドウを選定することになる点は指摘されている。その結果、DFSの性能は衝突の増加によって劣化する可能性がある。
無線局が無線媒体を等しく共用できるように無線リンク間で負荷を分散式に平衡させる効率的な無線MACアルゴリズムは、オグールほかによって幾つか提案されている(例えば、非特許文献3参照。)。この著者達は、バックオフカウンタが、あるノード無線局により不成功な媒体アクセス試行が反復された後に不必要な高い値を選択することを防止するウィンドウ交換アルゴリズムを提案している。また、無線ネットワークの公平性問題を解決するための接続ベース及び時間ベースの平衡媒体アクセス方法もこの文献において提案されている(例えば、非特許文献3参照。)。平衡な無線媒体アクセス方法では、公平な無線アクセスは、各無線局から他の近傍無線局への予め計算されたリンクアクセス確率を使用して達成される。しかしながら、時間ベースの平衡な無線媒体アクセス方法では、リンク沿いの各ノード無線局が経験する平均コンテンション周期に関する情報の周期的な交換によりオーバーヘッドが追加される。さらに、例えば、非特許文献18では、予め与えられた公平性モデルを対応するコンテンション解決アルゴリズムへ移行させる一般的な機構が提示されている。共用の無線チャンネルにおいて比例した公平性を達成するためのバックオフアルゴリズムは、これを使用して導出される。
公平なスケジューリングアルゴリズムは、基本的に帯域幅を各ノード無線局で効率的かつ最適に割り付けようとする。しかしながら、ノード無線局関連での公平なスケジューリングは、必ずしもフロー関連での公平性を保証しない。バックオフ動作を基礎としてMAC層の公平性を達成するプロトコルに固有の欠点は、基本的には、これが本来決定論的でなく確率論的であることにある。コンテンションウィンドウのサイズを縮小すれば、あるノード無線局が媒体へアクセスする可能性は競合する他のノード無線局よりも増大する可能性があり、最終的には競合するノード無線局間の公平なアクセスがもたらされる可能性があるが、この方法は、必ずしもスループット性能が向上することを保証しない。パケット信号は、遠隔のノード無線局におけるコンテンションの発生を全く検出していない発信元無線局により予め定義されたレートで送信される。これらのパケット信号は、中間ノード無線局の待ち行列において蓄積され、輻輳によるキューイング遅延に遭遇する。この状況は、最終的にパケットドロップにつながる待ち行列のオーバーフローを発生させ、これにより、各フローのスループットは劣化する。パケットドロップによる無意味な輻輳は、性能品質をさらに低下させることになる。
本発明者らが提案する、公平性を有する無線通信システムにおける競合するフロー間の協力交渉を通じた適応的なフローレート制御方法は、上述した主要な2つの問題点、すなわち、(i)フロー関連の公平性及び(ii)パケットドロップによる無意味な輻輳に対処するという意味で先の提案とは根本的に異なる。
以下の点は、本発明者らの提案する方法の主たる特徴である。
(1)制御方法は、確率論的でなく、決定論的である。
(1−1)フローの近傍で発見される各フローの性能の劣化を検出し、測定する。
(1−2)測定した劣化の値に依存して、特権フローの発信元無線局が適切なレート制御決定を行い、損なわれるフローが特権フローのフローレートの低減を介して無線媒体へのより多いアクセスを得られるようにする。
(1−3)状況を常に監視し、近傍の競合する他のフローの各々が検出されるフロー性能の任意の劣化に関する情報をその個々の発信元無線局へ逆伝搬してフローレートを適宜調整する。従って、特権フローは、先に損なわれていたフローが実質的に改善されたことを検出する度に自動的にそのフローレートを高め、媒体の完全利用によってすべてのフローが均一に動作できるようにする。
(2)フロー間の連続的な相互交渉及びコラボレーションにより、文字通りの公平性の達成を促進する。
(3)フローを調整する発信元無線局へコンテンション情報を逆伝搬することから、フロー全体のパケット伝送率が実質的に向上され、いずれは失われていくパケット信号に起因する媒体内の輻輳が少なくなる。
(4)指向性アンテナの使用により個々のスループットが向上し、トラフィック密度が高い場合はさらに、公平な無線媒体アクセスが向上する。