JP4298043B2 - 養魚用飼料 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、養殖魚用飼料への添加剤及び養殖魚飼料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
魚類の養殖業において、ウイルス、細菌、真菌、原虫、寄生虫を原因とする感染症による産業的損害は大きい。
特に日本では、1980年代に入り種苗生産技術及び高度促成飼育技術の進歩により各種海産魚の集約的養殖が行われるようになり、ウイルス病による被害が種苗生産及び養殖過程の魚に発生するようになった。海産魚の代表的なウイルス病としてリンホシスチス病、ウイルス性神経壊死症、マダイイリドウイルス病、ウイルス性腹水症、ウイルス性表皮増生症が挙げられる。これらのウイルスはリンホシスチス病を除きいずれも致死性が高く、致死性が低いリンホシスチス病も羅患魚は外観が醜悪であるため商品価値を失うことから、養殖業の存続を揺るがしかねない程の問題となっている。
また、サケ科魚類についても伝染性造血器壊死症、伝染性膵臓壊死症、ヘルペスウイルス病等が深刻な産業的被害をもたらしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は市販の養殖魚飼料に添加することにより、広範な種類の養殖魚のウイルス病を予防・治療することのできる飼料添加物を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、平成9年度日本水産学会秋季大会において紅花、甘草、南瓜子等についてサケ科魚類の病因ウイルスである伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNV)とヘルペスウイルス(OMV)に対する効果を報告したが、その後更に、多数の生薬についてサケ科魚類及び海産魚の各種病因ウイルスに対する効果について鋭意検討を重ねてきた。
その結果、紅花、甘草、旋覆花の3種生薬から選択される少なくとも1種の生薬と、石榴果皮及び南瓜子を配合することにより、▲1▼単独生薬では得られない広範な種類の病因ウイルスに対する有効性と、▲2▼単独生薬でときに見られる細胞毒性の軽減が得られることを見いだして本発明を完成させた。
即ち、本発明は、紅花、甘草、旋覆花の3種生薬から選択される少なくとも1種の生薬と、石榴果皮及び南瓜子を含有することを特徴とする養殖魚用飼料添加剤であり、また、該養殖魚用飼料添加剤を含有する養殖魚用飼料である。更に、本発明は紅花、甘草、旋覆花の3種生薬から選択される少なくとも1種の生薬と、石榴果皮及び南瓜子を含有することを特徴とする魚類のウイルス病の予防又は治療剤である。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
まず、本発明において使用される生薬について説明する。
石榴果皮はザクロ科の植物石榴(Punica granatum L.)の果皮であるが、本発明においては本発明の目的を達成するその類縁植物の種子も含む。成分としてタンニン、樹脂、没食子酸、植物ゴムなどを含む。
南瓜子はウリ科の植物南瓜(和名:ニホンカボチャCucurbita moschata Duch.)の種子であるが、本発明においては本発明の目的を達成するその類縁植物の種子も含む。南瓜子は生のまま使用してもよいが、乾燥品の方が飼料添加物の保存上好ましく、また、種皮のみを用いてもよい。成分としてククルビチン、タンパク質、ビタミンA、B、B,Cを含み、またカロチン等も含まれている。
【0006】
紅花はキク科の植物紅花(Carthamus tinctorius L.)の管状花の乾燥したものである。成分としてはカルタミン、サフロールイエロー、リグナン、ステロールを含む。
甘草はマメ科の植物甘草(Glycyrrhiza uralensis)の根及び根茎であるが、本発明においては本発明の目的を達成するその類縁植物も含む。主な成分としてトリテルペン系サポニンのグリシルリジン及びフラボノイドであるリキリチゲニン、イソリキリチゲニン、リキリチン等が挙げられる。
旋覆花(和名:オグルマInula britanica L.)はキク科の植物の頭花であるが、本発明においては本発明の目的を達成するその類縁植物も含み、例えば、大花旋覆花(和名:カラフトオグルマ)、線葉旋覆花(和名:ホソバオグルマ)が挙げられる。成分としては、クェルセチン、イソクェルセチン、カフェー酸、クロロゲン酸、イヌリン及びタラクサステロール等の多種のステロールが含まれる。
【0007】
本発明の養殖魚用飼料添加剤は、上記の紅花、甘草、旋覆花の3種生薬から選択される少なくとも1種の生薬と、石榴果皮及び南瓜子を配合することを特徴とするものであり、各生薬を各々5〜90%の範囲で含む。特に、石榴果皮と旋覆花については細胞毒性のリスク回避の為、各々5〜50%の範囲で含むのが好ましい。
尚、本発明の養殖魚用飼料添加剤には石榴果皮及び南瓜子が必須成分であり、紅花、甘草、旋覆花についてはこれらの3種の生薬から選択される少なくとも1種の生薬を配合すればよいが、2種或いは3種の生薬を配合すれば一層良好な効果が得られる。即ち、本発明の養殖魚用飼料添加剤は、最も好ましくは、石榴果皮、南瓜子、紅花及び甘草の4種の生薬を配合したものであり、また、石榴果皮、南瓜子、紅花、甘草及び旋覆花の5種の生薬を配合したものである。
【0008】
本発明養殖魚用飼料添加物には、先に記載した特定の生薬を原末あるいは抽出エキスとして添加することができる。
生薬を原末として使用するときは、その生鮮、陰干し、あるいは乾燥したものを用い細断或いは粉末として用いる。この場合、従来製剤化に使用される慣用の成分に混合し粉剤、顆粒剤としてもよい。通常は原末を乾燥粉末化したものが用いられる。場合により、粉末からペレットを作製し用いてもよい。
生薬を抽出エキスとして用いる場合には、水又はメタノール、エタノール、アセトン等の有機溶媒、或いは、水と有機溶媒の混合液を溶媒に用いる。生薬に対し数倍乃至百倍量の溶媒を加え常温乃至加温下に抽出あるいは浸出を行う。こうして得た抽出エキスをそのまま若しくは希釈して液剤としてもよく、またペレットやペースト状に作成してもよい。
さらに、本発明の養殖魚用飼料添加剤には、ビタミン、ミネラル、抗酸化剤、抗生物質、抗菌剤などを添加することができる。
【0009】
本発明の養殖魚用飼料添加剤を通常の飼料1kg当たりに0.1〜30g(0.01〜3%)、好ましくは0.5〜10g(0.05〜1%)を添加して養殖魚用飼料とすることができる。ここで、通常の飼料とは、生餌、配合飼料、ペレット及びモイストペレット飼料等を挙げることができる。
該養殖魚用飼料は、上記通常の飼料に養殖魚用飼料添加物を添加して混合する方法等常法により容易に製造することができる。
【0010】
本発明の養殖魚用飼料添加剤が有効な養殖魚の病因ウイルスを以下に例示する。
伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNV)はラブドウイルス科に属する一本鎖RNAウイルスである。ニジマス、ヤマメ、アマゴ等に感染し、貧血と体表のV字状出血を伴う大量死をもたらす。
ヒラメラブドウイルス(HRV)はラブドウイルス科に属する一本鎖RNAウイルスである。ヒラメの他、アユやクロダイ等に感染する。
ヘルペスウイルス(OMV)はヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスである。サクラマス、ギンザケ、ニジマスに感染し、肝炎と体表の潰瘍及び腫瘍の形成をもたらす。
伝染性膵臓壊死症ウイルス(IPNV)はビルナウイルス科に属する2本鎖RNAウイルスである。ニジマス等に感染し、キリモミ状旋回遊泳と突然の大量死をもたらす。
【0011】
ウイルス性腹水症ウイルス(YAV)はビルナウイルス科に属する2本鎖RNAウイルスである。ブリ、ヒラメ等に感染し、腹水貯留によって腹部が膨張し、膵臓、肝臓の壊死をもたらす。
マダイイリドウイルス(RSIV)はイリドウイルス科に属するDNAウイルスである。マダイのみならずブリ、カンパチ、スズギ等に感染し、皮膚の黒化或いは退色や体表の出血、鰓及び囲心腔内の出血、内臓諸器官の褪色、脾臓の腫大を特徴として致死率も高い。
【0012】
従って、本発明の養殖魚用飼料添加剤及び養殖魚用飼料は、ブリ、マダイ、スズキ、ヒラメ、カンパチ、アユ、クロダイ、サクラマス、ギンザケ、ニジマス、ヤマメ、アマゴ等広範な種類の養殖魚の稚魚から成魚にわたって長期間連続して投与することができる。
【実施例】
以下の実施例は本発明を説明するものである。
実施例1 プラーク減少法による抗ウイルス活性試験
▲1▼供試細胞およびウイルス
供試ウイルスは、伝染性造血器壊死症ウイルスIHNV(ChAb株)と魚類病原ヘルペスウイルスOMV(00-7812株及びCOTV株)、ヒラメラブドウイルスHRV(HV8601株)、伝染性膵臓壊死症ウイルスIPNV(VR-299株)およびウイルス性腹水症ウイルスYAV(M-1株)を供試した。培養細胞はいずれもCHSE-214細胞を供試した。
▲2▼試料の調整
表1の組成の乾燥生薬粉砕物と再蒸留水を1:50(w/v)の割合で混合し100℃で約40分間加熱し、終濃度を1:20とした。抽出液を2000rpm、15分間遠心分離し、上清をミリポアフィルターHA(0.45μm)でろ過除菌後、‐20℃に保存した。実験には、Hanks'BSS(HBSS)で5倍希釈し1:100として供試した。
【0013】
【表1】
Figure 0004298043
【0014】
▲3▼抗ウイルス活性の測定
培養細胞として、24wellプレート(直径16mm,Falcon)に、1.0×106cells/wellになるように細胞懸濁培養液を1mlずつ分注し、20℃で1日間培養してほぼコンフルーエントとなったCHSE-214細胞を用意した。
重層剤としてメチルセルロース(WAKO,4,000cP)の1.6%水溶液を調整し、滅菌後Burke and Mulcahy(1980)の方法を若干改変して、4倍濃度のMEM4-Tris(MEM10-Trisの牛胎児血清濃度を4%とした培地)に等量混合することにより、0.8%メチルセルロース含MEM2-Trisを重層培地として作製した。
感染価の測定は、まず、供試ウイルス培養液のHanks'BSSによる10倍希釈液列を作製し、24時間培養した24wellプレート中の培養細胞から培地を抜き取り、Hanks'BSSで細胞を3回洗浄後、各希釈段階のウイルス液0.1mlずつを2well宛接種した。15℃で1時間ウイルスを吸着させた後に、Hanks'BSSで細胞を3回洗浄し、重層培地を1ml添加した。このように処理されたウイルス感染細胞を、OMVについては14日間、IHNVについては7日間、15℃で培養した後に、10%ホルマリンで固定後重層培地を除去し、次いで0.1%クリスタルバイオレットで染色して、プラーク数を計測した。
【0015】
プラーク数が約200個となるように調整したウイルス液と試料を1:1での割合に混合し、15℃で3時間反応させた。一晩培養した細胞をHanks'BSSで3回洗浄し、ウイルス液と試料の混合液を、1wellあたり100μl宛接種し、15℃で1時間吸着させた。ウイルス吸着後再度細胞をHanks'BSSで3回洗浄し、重層培地を1ml添加し培養した。
培養後、プラーク数を計測して、試料を添加しない対照と比較したプラーク減少率(%)を求めた。結果を表2に示す。
【表2】
Figure 0004298043
【0016】
単独生薬群では石榴果皮単独の試料1を除き、5種のウイルスの内で2、3種に対する抗ウイルス活性は低かった。一方、混合生薬群の試料6〜11はいずれも5種のウイルス全てに対して高いウイルス活性を示した。従って、混合生薬群では各組成の相互作用による相乗効果が得られることが判明した。
【0017】
実施例2 TCID50法による抗ウイルス活性試験
▲1▼供試細胞およびウイルス
供試ウイルスは、マダイイリドウイルス(RSIV)を供試した。培養細胞はGF細胞を供試した。
▲2▼試料の調整
実施例1で調整した試料1〜11を使用した。
▲3▼抗ウイルス活性の測定
『第2版微生物学実習提要(丸善/1998年発行)』236頁に記載されたTCID50法に準拠して抗ウイルス活性を測定した。即ち、24wellプレート(Falcon)で20℃で24時間単層培養した各細胞に、供試ウイルス培養液の10倍希釈液列を接種した。15℃で1時間ウイルスを吸着させた後に、維持培地で24時間培養して、CPEの発現を観察した。力価の測定はReed and Munch法で行った。
結果を表3に示す。
【0018】
【表3】
Figure 0004298043
【0019】
石榴果皮単独の試料1と旋覆花単独の試料5はRSIVを培養したGF細胞に対して毒性を示した。一方、混合生薬群である試料6〜11には細胞毒性は見られず、複数生薬の配合により細胞毒性のリスクが回避されることが示された。
南瓜子単独の試料2はRSIVには抗ウイルス活性が見られなかった。紅花単独の試料3と甘草単独の試料4及び混合生薬群の試料6〜10は、2種のウイルスに対して90%以上の高い抗ウイルス活性を示した。
【0020】
実施例1と実施例2の結果から6種のウイルスに対する各試料の有効無効を表4にまとめる。
【表4】
Figure 0004298043
【0021】
このように混合生薬群では単独生薬群に比べてターゲットとなるウイルスも広がる。また、単独生薬群の中で比較的多くのウイルスに有効な石榴果皮についても、他の生薬との混合により細胞毒性のリスクを回避することができる。
【0022】
実施例3 マダイへの投与試験
表1の試料6の処方の生薬混合物をマダイへの投与試験に供試した。マダイ飼育用飼料を製造する際、原料と共に全体の0.1%の割合の生薬混合物を混合し、通常どおりの工程で作製したものをマダイの餌として用いた。試験区には試料6を混合した飼料を、また対照区には無添加の飼料を約90日間給餌した。この試験期間の間、水温、および死亡尾数を試験終了時まで観察し、試験区と対照区の死亡数を比較した。
その結果、試験期間中の試験区及び対照区の給餌率の差がほとんどないにもかかわらず、試験区と対照区のマダイの死亡数には大きな差が見られた。マダイの養殖においてはマダイイリドウイルスによる疾病の被害が甚大で大きな問題となっており、飼育試料への試料6の添加によりマダイイリドウイルス病による養殖魚の死亡率を低減できることが確認された。
【0023】
【発明の効果】
本発明の養殖魚用飼料添加剤及び養殖魚用飼料は、特定の生薬を3種以上配合することによってその相乗作用により、養殖魚の各種ウイルス性疾患による被害を防ぎ、健康な養殖魚の育成を図ることができる。

Claims (5)

  1. 紅花、甘草、旋覆花の3種生薬から選択される少なくとも1種の生薬と、石榴果皮及び南瓜子を含有することを特徴とする養殖魚用飼料添加剤。
  2. 石榴果皮、南瓜子、紅花及び甘草の4種生薬を含有することを特徴とする請求項1記載の養殖魚用飼料添加剤。
  3. 石榴果皮、南瓜子、紅花、甘草及び旋覆花の5種生薬を含有することを特徴とする請求項1記載の養殖魚用飼料添加剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の養殖魚用飼料添加剤を含有することを特徴とする養殖魚用飼料。
  5. 紅花、甘草、旋覆花の3種生薬から選択される少なくとも1種の生薬と、石榴果皮及び南瓜子を含有することを特徴とする魚類のウイルス病の予防又は治療剤。
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