JP4297884B2 - III族窒化物p型半導体およびその製造方法 - Google Patents

III族窒化物p型半導体およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、III族窒化物p型半導体の製造方法およびそれを用いて製造されたIII族窒化物半導体発光素子に関する。特に、駆動電圧(Vf)が低く、かつ逆電圧(Vr)が十分に高い発光素子を収率良く得ることができるIII族窒化物p型半導体の製造方法に関する。
近年、短波長の光を発光する発光素子用の半導体材料として、III族窒化物半導体材料が注目を集めている。一般にIII族窒化物半導体は、サファイア単結晶を始めとする種々の酸化物結晶やIII−V族化合物半導体結晶等を基板として、その上に有機金属気相化学反応法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)あるいは水素化物気相エピタキシー法(HVPE法)等によって積層される。
III族窒化物半導体においては、長い間、十分なキャリア濃度を有するp型半導体を形成することが困難であった。しかし、Mgをドープした窒化ガリウム(GaN)に低速度電子線を照射する方法(特許文献1参照)や、同じくMgをドープした窒化ガリウムを水素を含まない雰囲気中で熱処理する方法(特許文献2参照)等によって十分なキャリア濃度を有するp型半導体を得ることが可能であることが判った。十分なキャリア濃度が得られる機構は、水素によってパッシベーションされていた半導体中のp型ドーパントを、上記の方法により脱水素させることで活性化させるものであると言われている。実際、活性化アニール処理を行ったMgドープ窒化ガリウム系半導体では、Hの濃度がMg濃度の1/10程度である。
結晶性の良いIII族窒化物半導体を成長させる方法として、一般に有機金属気相化学反応法(MOCVD法)が用いられる。しかし、MOCVD法において結晶成長を行う成長装置内には、原料化合物を基板上まで運搬するためのキャリアガスとして用いる水素ガスや、窒素原料として用いられるアンモニア(NH3)が分解することによって生じる水素分子あるいはラジカル状や原子状の水素が高濃度で存在する。これらの水素がIII族窒化物半導体の結晶層の成長中に結晶内に取り込まれ、結晶にドープされたp型ドーパントと結晶層の成長温度からの冷却時に結合を生じる。このようにして水素によってパッシベーションされたp型ドーパントは、活性ではなく正孔を発生しない。しかし、この試料に電子線を照射したり熱処理を行ったりすることで、結晶内のp型ドーパントと水素との結合が切れ、水素を結晶内から追い出してp型ドーパントを活性化することが可能となる。
上記2つの方法のうち電子線を照射する方法は、一度に処理を施すことができる領域が限られていて、全面積を処理するのに時間が掛かるため、工業的にはあまり利用されていない。
一方、熱処理する方法によって作製したp型のIII族窒化物半導体を持つ発光素子構造のウエーハにおいては、電極を形成して測定する電気特性のうち、pn接合に対して逆方向に規定の値の電流を流すときの電圧(Vr)が低いチップが、ある割合で混在してしまうことが判った。Vrが低いことは、pn接合に対して電流がリークしていることを示しており、製品として望ましくない。つまり、このチップを取り除くことで収率が大幅に低下してしまう。一般に、熱処理によってIII族窒化物半導体から脱水素する場合は同時に窒素も離脱するため、結晶性が低下することが知られており、この現象が、Vrが低くなる原因ではないかと考えられる。
また、p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体の冷却時に、400℃以上の温度でアンモニアガスを含む雰囲気から水素または窒素の雰囲気に切り替えることにより、p型不純物をドープした層を低抵抗化する技術が開示されている(特許文献3参照)。本文献には実施例として、Mgドープ層の成長終了後、600℃までをNH3とH2の混合ガスで冷却し、600℃においてNH3の供給を停止して水素のみの雰囲気に切り替えた例が示されている。
しかしながら、我々の実験では、600℃までNH3を流通して冷却を行った場合、素子としての駆動電圧低下の効果を得ることはできなかった。特に、正極材料をPtなどの金属とした場合に、ボンディング前には充分低下していた駆動電圧が、ボンディング時にかかる300℃程度の熱によって上昇してしまうことが判った。
さらに、III族窒化物半導体の成長後室温まで冷却する際に、雰囲気ガスをH2ガス、NH3ガス以外の不活性ガスに置換して冷却すると、十分なキャリア濃度を得られることが報告されている(特許文献4参照)。実施例では、真空状態を経て窒素置換を行って窒素ガス或いは不活性ガスに置換して、p型半導体を得ることが示されている。
しかしながら、雰囲気ガスをH2ガス、NH3ガス以外の不活性ガスに置換して冷却しても、一概に駆動電圧の低いチップを収率よく得ることはできなかった。つまり、本文献で規定する条件を制御するだけでは、再現性良く良好な特性のチップを収率良く得ることはできない。また、正極材料をPtなどにした場合の、ボンディング時にかかる熱による駆動電圧の上昇が発生することが判った。
また、窒化物半導体の成長後ただちに、成長温度である1100℃で不活性ガスへの置換を行う技術も公開されている(特許文献5参照)。さらにこの方法では不活性ガスに置換してから室温に下げるまで2〜3時間掛けることが必要である。
しかし、成長終了後ただちに不活性ガスへの置換を行う、この方法では、作製したチップのVrが低くなることが、我々の実験により確かめられている。また、長い時間を掛けて温度を下げることも、Vrを低下させる。
最後に、700℃以上の成長温度で成長させた結晶の700℃以下での冷却を、水素以外のキャリアガス雰囲気で行う低抵抗p型窒化ガリウム系化合物半導体の成長方法が示されている(特許文献6参照)。この文献の実施例では、1030℃でのp型窒化ガリウム系化合物半導体の成長終了後、700℃において水素とアンモニアから形成される雰囲気を窒素に置換している。
この方法は我々も検討を行ったが、第一に水素以外のガス雰囲気中で700℃以下での冷却を実施したとしても、駆動電圧の低いチップを収率よく得ることはできなかった。つまり、本文献で規定する条件を制御するだけでは、再現性良く良好な特性のチップを収率良く得ることはできない。また、正極材料をPtなどにした場合の、ボンディング時にかかる熱による駆動電圧の上昇が発生する。
まとめると、特許文献2および5の方法ではVrが低くリーク性のチップとなってしまい、一方、特許文献3、4および6の方法では、駆動電圧が高くなってしまう。特に正極材料にPtなどを用いた場合にボンディング時にかかる熱による駆動電圧の上昇が発生する。
このように、III族窒化物半導体素子を作製するに当たり、素子特性と収率を両立する、全く問題のないp型ドーパントを含む層の形成方法は未だ提案されてない。
また、これらの従来例では、p型ドーパントを含む層を低抵抗化することが必要とされ、いずれの技術でも低抵抗のp型半導体層を提供することが述べられている。
特開平2−257679号公報 特開平5−183189号公報 特開平8−115880号公報 特開平8−125222号公報 特開平9−129929号公報 特開平9−199758号公報
本発明は上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、駆動電圧が低く、かつ逆電圧が十分に高い発光素子を収率良く得ることができるIII族窒化物p型半導体およびその製造方法を提供するものである。
(1)p型ドーパントの濃度の1/5よりも多く、かつp型ドーパントの濃度よりも少ない量の水素原子を含有することを特徴とするIII族窒化物p型半導体。
(2)電気抵抗率が20Ωcm〜10000Ωcmであることを特徴とする上記1項に記載のIII族窒化物p型半導体。
(3)p型ドーパントを含むIII族窒化物半導体を成長させた後降温する際に、成長終了時の温度と同じ温度にて、成長終了直後からキャリアガスに不活性ガスを用い、かつ窒素源の流量を減少し、その後の降温過程の途中、700〜950℃の温度で窒素源の供給を停止することを特徴とする上記1または2項に記載のIII族窒化物p型半導体の製造方法。
(4)成長終了時の温度が900℃以上であることを特徴とする上記3項に記載の製造方法。
(5)窒素源がアンモニアガスであることを特徴とする上記3または4項に記載の製造方法。
(6)半導体成長時のキャリアガスが水素ガスを含有していることを特徴とする上記3〜5項のいずれか一項に記載の製造方法。
(7)減少後の窒素源の流量が全ガス体積中の0.001〜10%であることを特徴とする上記3〜6項のいずれか一項に記載の製造方法。
(8)基板上にIII族窒化物半導体からなるn型層、発光層およびp型層を有し、n型層およびp型層に負極および正極がそれぞれ設けられたIII族窒化物半導体発光素子において、p型層が上記1または2項に記載のIII族窒化物p型半導体であることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
(9)正極がPd、Pt、Rh、Os、IrおよびRuから選ばれた白金族金属を正極材料として使用していることを特徴とする上記8項に記載の発光素子。
(10)発光素子がフリップチップ型であることを特徴とする上記8または9項に記載の発光素子。
(11)発光素子がフェイスアップ型であることを特徴とする上記8または9項に記載の発光素子。
本発明によれば、半導体素子として利用できる程度の十分な特性を有するp型のIII族窒化物半導体を得ることができる。そして、このIII族窒化物p型半導体を用いて、熱による駆動電圧の上昇が発生せず、かつ高いVrを有するIII族窒化物半導体発光素子を収率良く製造することができる。
本発明のIII族窒化物p型半導体におけるIII族窒化物半導体には、GaNの他、InN、AlNなどの2元系混晶、InGaN、AlGaNなどの3元系混晶、InAlGaNなどの4元系混晶等が全て含まれる。本発明においてはさらに、窒素以外のV族元素を含む、GaPN、GaNAsなどの3元混晶や、これにInやAlを含むInGaPN、InGaAsN、AlGaPN、AlGaAsNなどの4元混晶、更にIn、Alの両方を含むAlInGaPN、AlInGaAsNや、PとAsの両方を含むAlGaPAsN、InGaPAsNなどの5元混晶、そして全ての元素を含むAlInGaPAsNの6元混晶も、III族窒化物半導体に含まれる。
本発明は、上記の中でも作製が比較的容易で分解の危険性の少ない、GaN、InN、AlNなどの2元系混晶、InGaN、AlGaNなどの3元系混晶、InAlGaNなどの4元系混晶など、V族としてNのみを含むIII族窒化物半導体に特に好適に用いることができる。一般式AlxInyGa1-x-yN(0≦x+y≦1)で表わした場合、xは0〜0.5の範囲が好ましく、yは0〜0.1の範囲が好ましい。
また、本発明に用いることができるp型ドーパントには、III族窒化物半導体にドープしてp型導電性を示すと報告または予想されている、Mg、Ca、Zn、Cd、Hgなどがある。この中でも熱処理による活性化率の高いMgが、p型ドーパントとして特に好ましい。ドーパントの量は、1×1018〜1×1021cm-3が好ましい。1×1018cm-3未満では、発光強度の低下を招く。また、1×1021cm-3より多いと、結晶性の悪化が起きるので好ましくない。さらに好ましくは1×1019〜1×1020cm-3である。
本発明に記載の方法で作製したp型半導体層には、結晶中に水素原子を含んでいても構わない。逆方向の電圧Vrの高い素子を作製するためには、むしろ結晶中に水素原子を含んでいることが好ましい場合がある。結晶中に含まれる水素原子の量は、ドープしたp型ドーパントの量よりも少ないことが望ましい。水素原子の含有量は、p型ドーパントの含有量と同じ場合や、p型ドーパントの含有量よりも多い場合には、p型電極の電気的な接触をとることが難しくなるので、それよりも少ないほうが良い。水素原子の含有量はp型ドーパントの9/10以下がさらに好ましく、7/8以下が特に好ましい。しかし、水素原子の含有量がp型ドーパントの1/5以下となる場合、同時に窒素の脱離も生じてしまうので、1/5より多いことが望ましい。更に望ましくは1/3以上であり、1/2以上であればなお好適である。なお、p型半導体層のマグネシウム及び水素の原子濃度は一般的なSIMS法(二次イオン質量分析法:Secondary Ion Mass Spectroscopy法)で定量する。
また、結晶中に水素を含むことによって、p型層は低電気抵抗にはならないが、このことは素子特性に対して問題とはならない。III族窒化物半導体を用いた素子では、他の半導体の場合よりもp型層は薄く形成されることが多いため、p型層自体の電気抵抗は素子の駆動電圧Vfにはあまり影響を与えない。p型層の抵抗率が高いことは、むしろVrを高く保つためには望ましい。
p型層の電気抵抗率は、20Ωcm〜10000Ωcm程度が望ましい。10000Ωcmよりも高いと発光強度の低下を招き、20Ωcmよりも低いとVrの低下を招く可能性がある。更に望ましくは50Ωcm〜2000Ωcmであり、特に望ましくは100Ωcm〜1000Ωcmである。なお、抵抗率は一般的なTLM(Transfer Length Measurement)法によって測定する。
本発明を適用するIII族窒化物p型半導体の成長方法は特に限定されず、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)、などIII族窒化物半導体を成長させることが知られている全ての方法に適用できる。好ましい成長方法は、膜厚制御性、量産性の観点からMOCVD法である。
MOCVD法では、キャリアガスとして水素ガス(H2)または窒素ガス(N2)が、III族原料であるGa源としてトリメチルガリウム(TMG)またはトリエチルガリウム(TEG)が、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)またはトリエチルアルミニウム(TEA)が、In源としてトリメチルインジウム(TMI)またはトリエチルインジウム(TEI)が、窒素源としてアンモニア(NH3)またはヒドラジン(N24)などがそれぞれ用いられる。また、p型ドーパントとしては、Mg原料として例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)またはビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム((EtCp)2Mg)を、Zn原料としてジメチル亜鉛(Zn(CH32)をそれぞれ用いる。
キャリアガスとしてH2を含有している場合、および/または窒素源としてNH3が用いられている場合に本発明の効果は大きい。
成長温度は、良好な結晶性と接触抵抗を得るために900℃以上が好ましい。さらに好ましくは1000℃以上1250℃以下である。
p型ドーパントを含有したIII族窒化物半導体を成長させた後、室温まで降温して半導体積層物を成長装置から取り出す手順として、成長時にキャリアガスとして水素ガスを含有している場合、成長終了直後に成長温度と同じ温度においてキャリアガスを水素ガスを含有しない不活性ガスに切り替えることが必要である。切り替えに要するタイムラグとして許される約1分以上水素ガスの流通を継続すると、駆動電圧が充分低くならない。キャリアガスを置換する不活性ガスとしては、窒素ガスが好ましいが、アルゴンまたはヘリウム等およびこれらの混合物を用いることもできる。
また、キャリアガスの切り替えと同時に、窒素源の流量を低下させることが重要である。成長時の窒素源の供給量は通常、全ガス量の体積のうち20%〜70%であるが、窒素源を低下させた後の窒素源の量は全ガス量の体積のうち10%以下とすることが望ましい。更に望ましくは、1%以下である。窒素源の量が多すぎると、素子の駆動電圧が思うように低下しない。この際、窒素源の流量も0としてしまうとp型層を成す結晶からの窒素の脱離を引き起こしてしまい、素子のVrの低下を招く。窒素源の量は全ガス量の体積のうち0.001%以上とすることが望ましい。更に望ましくは、0.01%以上である。
また、窒素源の流量変更およびキャリアガスの切り替え直後に降温を開始することが望ましい。成長終了後の温度の保持時間が長いと、結晶性の低下を招くだけでなく、発光層への熱ダメージが蓄積され、発光強度が低下する。
また、一旦流量を低下させた窒素源の流量を、降温の過程で完全に0とする操作を行うことが必要である。窒素源の流通を停止することなく300℃などの低温まで温度を下げて作製した素子では、ボンディングの際にかかる熱によって、素子の駆動電圧が上昇する現象が発生する。
降温の途中で窒素源の流量を0とする温度は、950℃以下700℃以上であることが望ましい。950℃よりも高い温度で窒素源の流量を0とした場合には素子のVrが低下し、700℃未満まで窒素源を流しつづけた場合には、熱による駆動電圧の上昇を招く。
また、成長終了後から窒素源の流量を0とするまでの時間は降温速度に依存するが、30秒程度から8分程度である。
本発明のIII族窒化物p型半導体およびその製造方法は、各種半導体素子の製造に用いることができる。例えば、発光ダイオードやレーザーダイオードなどの半導体発光素子の他、各種高速トランジスターや受光素子などIII族窒化物p型半導体を必要とする半導体素子の製造であるなら、どのような半導体素子の製造にも用いることが可能である。これら各種半導体素子の中でも、pn接合の形成と良好な特性の正極の形成を必要とする半導体発光素子の製造に特に好適に用いることができる。
図1は、本発明のIII族窒化物p型半導体およびその製造方法を用いて製造したIII族窒化物半導体発光素子を模式的に示した図である。基板1上に、必要に応じてバッファ層2を介し、III族窒化物のn型半導体層3、発光層4およびp型半導体層5が順次積層されており、n型半導体層3に負極6が、p型半導体層5に正極7がそれぞれ設けられている。
基板1には、サファイア、SiC、GaN、AlN、Si、ZnO等その他の酸化物基板等従来公知の材料を何ら制限なく用いることができる。好ましくはサファイアである。バッファ層2は、基板とその上に成長させるn型半導体層3との格子不整合を調整するために必要に応じて設けられる。従来公知のバッファ層技術が必要に応じて用いられる。
n型半導体層3の組成および構造は、この技術分野でよく知られている公知の技術を用いて所望の組成および構造にすればよい。通常、n型半導体層は負極と良好なオーミック接触が得られるコンタクト層と発光層よりも大きなバンドギャップエネルギーを有するクラッド層からなる。負極6もこの技術分野でよく知られている公知の技術を用いて所望の組成および構造にすればよい。
発光層4も、単一量子井戸構造(SQW)および多重量子井戸構造(MQW)等従来公知の組成および構造を何ら制限なく用いることができる。
p型半導体層5は本発明の製造方法によって形成される。その組成および構造については、この技術分野でよく知られている公知の技術を用いて所望の組成および構造にすればよい。通常、n型半導体層と同様、正極と良好なオーミック接触が得られるコンタクト層と発光層よりも大きなバンドギャップエネルギーを有するクラッド層からなる。
本発明の方法で作製したp型層に接触させる正極7の材料としては、Au、Ni、Co、Cu、Pd、Pt、Rh、Os、Ir、Ruなどの金属を用いることができる。また、ITOやNiO、CoOなどの透明酸化物を含んでも構わない。透明酸化物を含む形態としては、塊として上記金属膜中に含んでも良いし、層状として上記金属膜と重ねて形成しても良い。
特に、Pd、Pt、Rh、Os、Ir、Ru、などの白金族金属を正極材料として用いた場合に本発明を使用すると、ボンディングの際の熱による駆動電圧の上昇を防ぐことができるので、より大きな効果を発揮する。中でも、Pd、Pt、Rhは高純度のものが比較的容易に入手することができ、使用しやすい。
また、正極はほぼ全面を覆うように形成しても構わないし、隙間を開けて格子状や樹形状に形成しても良い。正極を形成した後に、合金化や透明化を目的とした熱アニールを施す場合もあるが、施さなくても構わない。
素子の形態としては、透明正極を用いて半導体側から発光を取り出す、いわゆるフェイスアップ(FU)型としても良いし、反射型の正極を用いて基板側から発光を取り出す、いわゆるフリップチップ(FC)型としても良い。
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
本実施例で作製したLED10に使用したエピタキシャル積層構造体11の断面模式図を図2に示す。また、図3には、LED10の平面模式図を示す。
積層構造体11は、サファイアのc面((0001)結晶面)からなる基板101上に、AlNからなるバッファ層(図示せず)を介して順次、アンドープGaN層(層厚=8μm)102、Siドープn型GaN層(層厚=2μm、キャリア濃度=1×1019cm-3)103、Siドープn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層(層厚=25nm、キャリア濃度=1×1018cm-3)104、6層のSiドープGaN障壁層(層厚=14.0nm、キャリア濃度=1×1018cm-3)と5層のアンドープIn0.20Ga0.80Nの井戸層(層厚=2.5nm)からなる多重量子構造の発光層105、Mgドープp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層(層厚=10nm)106、及びMgドープp型Al0.02Ga0.98Nコンタクト層(層厚=150nm)107を積層して構成した。上記の積層構造体11の各構成層102〜107は、一般的な減圧MOCVD手段で成長させた。
特に、Mgドープp型AlGaNコンタクト層107は以下の手順に依り成長させた。
(1)Mgドープのp型Al0,07Ga0.93Nクラッド層106の成長を終了した後、成長反応炉内の圧力を2×104パスカル(Pa)とした。キャリアガスは水素を用いた。
(2)トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウムおよびアンモニアを原料とし、ビスシクロペンタマグネシウムをMgのドーピング源として、1020℃でMgドープp型AlGaN層の気相成長を開始した。
(3)トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、アンモニアおよびビスシクロペンタマグネシウムを、成長反応炉内へ4分間に亘り継続して供給して、層厚を0.15μmとするMgドープp型Al0.02Ga0.98N層を成長させた。
(4)トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウムおよびビスシクロペンタマグネシウムの成長反応炉内への供給を停止し、Mgドープp型Al0.02Ga0.98N層の成長を停止した。
Mgドープp型AlGaN層からなるコンタクト層107の気相成長を終了させた後、直ちにキャリアガスを水素から窒素へと切り替え、アンモニアの流量を低下させ、そして低下させた分だけキャリアガスの窒素の流量を増加した。具体的には、成長中には全流通ガス量のうち体積にして50%を占めていたアンモニアを、0.2%まで下げた。同時に、基板101を加熱するために利用していた、高周波誘導加熱式ヒータへの通電を停止した。
更に、この状態で2分間保持した後、アンモニアの流通を停止した。このとき、基板の温度は850℃であった。図4にこの降温過程を模式的な図にしたものを示す。
この状態で室温まで冷却後、成長反応炉より積層構造体11を取り出し、コンタクト層107のマグネシウム及び水素の原子濃度を一般的なSIMS分析法で定量した。Mg原子は、7×1019cm-3の濃度で、表面から深さ方向に略一定の濃度で分布していた。一方、水素原子は、6×1019cm-3の略一定の濃度で存在していた。また、抵抗率は、一般的なTLM法による測定から、おおよそ150Ωcmと見積もられた。
上記のp型コンタクト層を備えたエピタキシャル積層構造体11を用いてLED10を作製した。先ず、負極108を形成する予定の領域に一般的なドライエッチングを施し、その領域に限り、SiドープGaN層103の表面を露出させた。露出させた表面部分には、チタン(Ti)/アルミニウム(Al)を重層させてなる負極108を形成した。
残ったコンタクト層107の表面の略全域には、発光層からの発光をサファイア基板101側へ反射する機能を持たせた、白金(Pt)膜/ロジウム(Rh)膜/金(Au)膜を重層させた正極109を形成した。p型コンタクト層107の表面と接触する金属膜は白金膜とした。
負極108および正極109を形成した後、サファイア基板101の裏面を、ダイヤモンド微粒の砥粒を使用して研磨し、最終的に鏡面に仕上げた。その後、積層構造体11を裁断し、350μm角の正方形の個別のLED10へと分離した。次に、サブマウントに負極および正極を各々接着して、フリップ型のチップとした。この際、チップの電極には約300℃の熱がかかる。更にそれをリードフレーム上に載置した後、金(Au)線でリードフレームと結線した。
このような工程で作製したLEDチップの、負極108および正極109間に順方向電流を流して電気的特性及び発光特性を評価した。順方向電流を20mAとした際の順方向駆動電圧(Vf)は3.0Vであり、電流を10μAとした場合の逆方向電圧(Vr)は20V以上であった。このように、ボンディング時の熱による駆動電圧の上昇は見られなかった。
また、サファイア基板101より外部へ透過して来る発光の波長は455nmであり、一般的な積分球で測定された発光出力は10mWであった。なお、直径5.1cm(2インチ)のウェーハから外観不良品を除いて約10000個のLEDが得られたが、ばらつきなくこのような特性を示した。
(実施例2)
実施例2で作製した積層構造体は、以下のような構造である。
積層構造体11は、サファイアのc面((0001)結晶面)からなる基板101上に、AlNからなるバッファ層(図示せず)を介して順次、アンドープGaN層(層厚=8μm)102、Geドープn型GaN層(層厚=2μm、キャリア濃度=7×1018cm-3)103、Siドープn型In0.01Ga0.99Nクラッド層(層厚=18nm、キャリア濃度=1×1018cm-3)104、6層のSiドープGaN障壁層(層厚=14.0nm、キャリア濃度=1×1017cm-3)と5層のアンドープIn0.20Ga0.80Nの井戸層(層厚=2.5nm)からなる多重量子構造の発光層105、Mgドープp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層(層厚=12nm)106、及びMgドープAl0.02Ga0.98Nコンタクト層(層厚=175nm)107を積層して構成した。上記の積層構造体11の各構成層102〜107は、一般的な減圧MOCVD手段で成長させた。
MgドープAlGaNコンタクト層107は実施例1と同様の手順に依り成長させた。気相成長終了後、積層構造体11は実施例1と同様の手順により室温まで冷却された。
室温まで冷却後、成長反応炉より積層構造体11を取り出し、コンタクト層107のマグネシウム及び水素の原子濃度を一般的なSIMS分析法で定量した。Mg原子は、1.5×1020cm-3の濃度で、表面から深さ方向に略一定の濃度で分布していた。一方、水素原子は、8×1019cm-3の略一定の濃度で存在していた。また、抵抗率は、一般的なTLM法による測定から、おおよそ180Ωcmと見積もられた。
上記のp型コンタクト層を備えたエピタキシャル積層構造体11を用いてLED10を作製した。作製の手順、電極の構造などは、実施例1と同様とした。
このような工程で作製したLEDチップの、負極108および正極109間に順方向電流を流して電気的特性及び発光特性を評価した。順方向電流を20mAとした際の順方向駆動電圧(Vf)は3.3Vであり、電流を10μAとした場合の逆方向電圧(Vr)は20V以上であった。このように、ボンディング時の熱による駆動電圧の上昇は見られなかった。
また、サファイア基板101より外部へ透過して来る発光の波長は470nmであり、一般的な積分球で測定された発光出力は12mWであった。なお、直径5.1cm(2インチ)のウェーハから外観不良品を除いて約10000個のLEDが得られたが、ばらつきなくこのような特性を示した。
(比較例1)
上記の実施例1とは、成長後の処理法を変えて、Mgドープp型AlGaNコンタクト層を形成した。本比較例では、実施例1に記載の積層構造体を、実施例1に記載と同一の手順、条件で形成した後、気相成長時に使用したキャリアガスの水素は窒素に切り替えるものの、アンモニアは成長終了時に0.2%に減らした後、そのまま流通し続け、350度℃迄降温した。図5はこの降温過程を模式的に示した図である。
比較例1で作製した試料について、実施例と同様にMg、Hの濃度をSIMS法で測定したところ、Mg原子は、7×1019cm-3の濃度で、実施例1の場合と同じであり、一方、水素原子は、7×1019cm-3の濃度で存在していた。また、抵抗率について実施例1と同様のTLM法で測定したところ、おおよそ15000Ωcmと見積もられた。
実施例1と同様にFC型素子としたチップをリードフレーム上に載置し、負極108および正極109間に順方向電流を流して電気的特性及び発光特性を評価した。順方向電流を20mAとした際の順方向駆動電圧(Vf)は4.0Vと上昇しており、発光出力は8mWであった。
(比較例2)
上記の実施例1とは、成長後の処理法を変えて、Mgドープp型GaNコンタクト層を形成した。本比較例では、実施例1に記載の積層構造体を、実施例1に記載と同一の手順、条件で形成した後、気相成長直後に、使用したキャリアガスの水素は窒素に切り替え、同時にアンモニアの流通を停止し、350度℃迄降温した。図6はこの降温過程を模式的に示した図である。
比較例2で作製した試料について、実施例と同様にMg、Hの濃度をSIMS法で測定したところ、Mg原子は、7×1019cm-3の濃度で、実施例1の場合と同じであり、一方、水素原子は、1×1019cm-3の濃度で存在していた。また、抵抗率について実施例1と同様のTLM法で測定したところ、おおよそ10Ωcmと見積もられた。
実施例1と同様にFC型素子としたチップをリードフレーム上に載置し、負極108および正極109間に順方向電流を流して電気的特性及び発光特性を評価した。順方向電流を20mAとした際の順方向駆動電圧(Vf)は3.0Vであり、発光出力は10mWであったが、電流を10μAとした場合の逆方向電圧(Vr)は5Vであった。
(実施例3)
実施例3では、実施例1に記載したのと同一の積層構造体を用いて、FU型の電極を形成してLEDを作製した。図7は本実施例で形成した電極の平面図である。
実施例1と同一手順で図7に示した負極108を形成した。次いで、残ったコンタクト層107の表面の略全域には、発光層からの発光を半導体層側から外部へ取り出すために透光性を持たせた、白金(Pt)膜/金(Au)膜を積層した正極109を形成した。p型コンタクト層107の表面と接触する金属膜は白金膜とした。更に、上記透光性電極109の上に、最表面をAuとするボンディングパッド110を形成した。その後、実施例1と同一手順で、350μm角の正方形の個別のLED20へと分離した。
このような工程で作製したFU型チップの負極108および正極109間に順方向電流を流して電気的特性及び発光特性を評価した。順方向電流を20mAとした際の順方向駆動電圧(Vf)は3.0Vであり、電流を10μAとした場合の逆方向電圧は20V以上であった。また、半導体層側から外部へ透過して来る発光の波長は455nmであり、一般的な積分球で測定された発光出力は6mWであった。なお、直径5.1cm(2インチ)のウェーハから外観不良品を除いて約10000個のLEDが得られたが、ばらつきなくこのような特性を示した。
本発明によって提供されるIII族窒化物p型半導体の製造方法は、高いVrと低い駆動電圧の特性を同時に実現することが可能である。従って、III族窒化物半導体発光素子の製造に極めて有用である。
本発明のIII族窒化物半導体発光素子を模式的に示した図である。 実施例1で作製したエピタキシャル積層構造体の断面模式図である。 実施例1で作製したLEDの平面模式図である。 実施例1における降温方法を示した模式図である。 比較例1における降温方法を示した模式図である。 比較例2における降温方法を示した模式図である。 実施例2で作製したLEDの平面模式図である。
符号の説明
1 基板
2 バッファ層
3 n型半導体層
4 発光層
5 p型半導体層
6 負極
7 正極
10 LED
11 積層構造体
20 LED
101 基板
102 アンドープGaN層
103 n型GaN層
104 n型AlGaNクラッド層
105 多重量子井戸構造発光層
106 p型AlGaNクラッド層
107 p型AlGaNコンタクト層
108 負極
109 正極
110 正極ボンディングパッド

Claims (8)

  1. 基板上にIII族窒化物半導体からなるn型コンタクト層、発光層およびp型コンタクト層を形成し、n型コンタクト層およびp型コンタクト層に負極および正極をそれぞれ設け、正極材料としてPtを使用したIII族窒化物半導体発光素子の製造方法において、p型ドーパントを含むAlGaNからなるp型コンタクト層を成長させた後降温する際に、成長終了時の温度と同じ温度にて、成長終了直後からキャリアガスに不活性ガスを用い、かつ窒素源の流量を減少し、その後の降温過程の途中、700〜950℃の温度で窒素源の供給を停止することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
  2. 成長終了時の温度が900℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
  3. 窒素源がアンモニアガスであることを特徴とする請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
  4. 半導体成長時のキャリアガスが水素ガスを含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
  5. 減少後の窒素源の流量が全ガス体積中の0.001〜10%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
  6. 基板上にIII族窒化物半導体からなるn型コンタクト層、発光層およびp型コンタクト層を有し、n型コンタクト層およびp型コンタクト層に負極および正極がそれぞれ設けられたIII族窒化物半導体発光素子において、p型コンタクト層が、p型ドーパントの濃度が1×1018〜1×1021cm-3であり、該p型ドーパントの濃度の1/5よりも多く、かつp型ドーパントの濃度よりも少ない量の水素原子を含有し、電気抵抗率が50Ωcm〜2000ΩcmであるAlGaNからなり、正極がPtを正極材料として使用することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
  7. 発光素子がフリップチップ型であることを特徴とする請求項6に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
  8. 発光素子がフェイスアップ型であることを特徴とする請求項6に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
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