JP4294164B2 - 摩擦溶接による部材接合方法 - Google Patents

摩擦溶接による部材接合方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、金属製板状母材、特にアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミニウムという)からなる薄肉の板状母材に対して金属製接続部材を接合するための、摩擦溶接による部材接合方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
種々の製品を製造する上で、棒材やボルトなどのピン状の金属製接続部材を金属製板状母材に接合する必要性は大きいが、従来、これらの接合には、例えばスタッド溶接が広く採用されている。このスタッド溶接は、その溶接作業が簡便であり、接合状態も良好なことから広範囲に利用されている。
【0003】
しかしながら、スタッド溶接では、板状母材の肉厚が比較的薄い場合、例えば、肉厚が5mm以下、特に1〜2mm程度の極薄肉のアルミニウム製の板状母材に対して、該母材の肉厚より大きい直径を有するような接続部材を接合した場合、図5に示すように、板状母材(51)の表面(51a)の接合部位に対応する裏面が溶接時に生じる熱影響部(54)に近接しているために、板状母材(51)の裏面(51b)に溶接後の凝固収縮による小さな窪み(53)が生じると共に、板状母材(51)の接合部に熱影響による有害な熱変形が生じやすいという問題があった。この問題は、板状母材(51)の肉厚が薄いほど大きく現れる傾向にある。このため、板状母材(51)の裏面(51a)の外観を損い、特に板状母材(51)の裏面(51a)に高い面精度が要求される製品では、裏面全体に切削やヘアーライン加工等の仕上げ加工が必要となり面倒である上に経済的にも不利であった。
【0004】
このような問題は、板状母材の肉厚を厚くすることによって、解消あるいは軽減することが可能であるが、板状母材の肉厚を厚くすることは、製品設計上、歩留まり、材料コストなどの面から制限される場合が多いのみならず、板状母材の生産性の低下、重量の増大等の問題をも派生する。
【0005】
この発明は、上述のような問題に鑑みてなされてもので、入熱量が比較的少ない摩擦溶接を用いた部材接合方法であって、接合後における板状母材の裏面の外観を簡単かつ確実に向上することができる部材接合方法の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明は、薄肉の金属製板状母材の表面に金属製接続部材を摩擦溶接により接合するに際し、前記板状母材の表面の接合部位に接合用凸部を形成し、該接合用凸部の天面に前記接続部材を突き付け状に配置した状態で摩擦溶接を実施することを特徴とする。
【0007】
これによれば、板状母材の接合部位における肉厚が、他の部分よりも接合用凸部の高さの分だけ厚くなるので、板状母材の接合部位に対応する裏面は、摩擦溶接時の摩擦熱の影響をほとんど受けない。このため、板状母材の裏面に窪みが生じたり、板状母材の接合部に熱影響による有害な熱変形が生じるのを防止あるいは軽減することができる。
【0008】
また、上述のような板状母材における窪みの発生や熱変形をより一層効果的に防止あるいは軽減するために、望ましくは、前記接合用凸部の高さは、前記板状母材に対して0.1mm以上に設定されているのが良い。
【0009】
さらに、上述のように板状母材における窪みの発生や熱変形をより一層効果的に防止あるいは軽減するほか、板状母材と接続部材との接合をより確実なものとするために、望ましくは、前記接合用凸部は短円柱状で、かつその直径が前記接続部材の直径の1/2以上に設定されているのがよい。
一方、この発明は、薄肉の金属製板状母材の表面に金属製接続部材を摩擦溶接により接合するに際し、前記板状母材の表面の接合部位に対応する裏面に補整用凸部を形成し、前記接合部位に前記接続部材を突き付け状に配置した状態で摩擦溶接を実施したあと、前記補整用凸部を前記板状母材から切削除去することによって、前記板状母材の裏面を平坦面に仕上げることを特徴とする。
【0010】
これによれば、溶接時の摩擦熱による窪みは板状母材自体にほとんど生じず、生じても主に板状母材の補整用凸部に生じるので、その補整用凸部を切削除去するだけの簡単な作業で、それら窪みや熱変形を板状母材から確実に除去することができる。
【0011】
また、補整用凸部の高さ範囲内に溶接時に生じる窪みを収めるために、望ましくは、前記補整用凸部の高さは、前記板状母材に対して0.1mm以上に設定されているのが良い。
【0012】
さらに、補正用凸部の径範囲内においても溶接時に生じる窪みを収めるために、望ましくは、前記補整用凸部は短円柱状で、かつその直径が前記接続部材の直径の1/3以上に設定されているのが良い。
【0013】
【発明の実施の形態】
[実施形態1]
図1及び図2は、この実施形態によって製造される接合体(A)の一例を示す。この接合体(A)は、板状母材(1)と、該板状母材(1)に接合される1個ないし複数個の接続部材(2)により構成される。
【0014】
前記板状母材(1)は、例えば厚みtが1〜3mm程度のアルミニウム製の薄肉平板で、板状母材(1)の表面(1a)の接合部位には、短円柱状で天面(3a)がフラットな接合用凸部(3)が冷間鍛造法等により一体に形成されている。
【0015】
この接合用凸部(3)は、板状母材(1)の裏面(1b)を接合部から離間させるためのもので、直径r、高さhの短円柱状に形成されている。この接合用凸部(3)の高さhは、板状母材(1)の肉厚t、及び該板状母材(1)に接合しようとする接続部材(2)の直径R、あるいはそれらの相対比との関係で種々に可変設定し得るが、溶接時に母材(1)の裏面(1b)に窪みや熱変形が生じるのをより効果的に防止あるいは軽減するために、板状母材(1)の肉厚1〜3mmに対して、少なくとも0.1mm以上、特に0.3mm以上に設定するのが望ましい。また、接合用凸部(3)の直径rは、接続部材(2)との接合を確実にするために、接続部材(2)の直径Rの1/2以上に形成されているのが望ましく、特に接続部材(2)の直径Rに対して同程度から3/2の直径に形成されているのが最も望ましい。
【0016】
一方、前記接続部材(2)は、母材(1)と他の部材とを螺着接合せしめるためのアルミニウム製のボルトであり、その一端部(2a)が雄ねじに形成されると共に、基端部(2b)が直径Rの円柱面に形成されている。また、この基端部(2b)側の下端面(2c)は平滑に形成されており、該下端面(2C)が溶接時に摩擦熱により軟化するものとなされている。
【0017】
次に、前記母材(1)と接続部材(2)の摩擦溶接による接合方法について説明する。
【0018】
まず、接続部材(2)の一端部(2a)を摩擦溶接装置のチャック部(5)に装着したあと、図2(a)に示すように、接続部材(2)の下端面(2c)を、母材(1)の接合用凸部(3)の天面(3a)に突き付け状に接触させて配置する。
【0019】
そして、図2(b)に示すように、チャック部を一定速度で自軸回転させることによって、接続部材(2)を板状母材(1)に対して自軸回転させると、接続部材(2)の下端面(2c)と接合用凸部(3)の天面(3c)とが摩擦熱によって軟化し、接続部材(2)と接合用凸部(3)は接合面で複雑に混じり合う。
【0020】
そこで、摩擦熱が一定温度に達して接合面が適当に溶融したときに、接続部材(2)の自軸回転を停止すると共に、接続部材(2)の下端面(2c)を接合用凸部(3)の天面(3a)にさらに押し付け、その状態を保持しながら軟化金属の冷却固化を待って、チャック部(5)を取り外す。これにより、接続部材(2)は、図2(c)に示すように、板状母材(1)に対して垂直に立設する態様で確実に接合されたものとなる。
【0021】
上述の摩擦溶接による接合方法の実施により、板状母材(1)の表面(1a)の接合部位に対応する裏面は、接合面から接合用凸部(3)の高さhだけ余分に離間しており、母材(1)の裏面(1b)は溶接時の摩擦熱の影響をほとんど受けないので、板状母材(1)の裏面(1b)に窪みが生じたり、板状母材(1)の接合部に有害な熱変形が生じるのを防止あるいは軽減することができる。
【0022】
[実施形態2]
図3及び図4は、この実施形態によって製造される接合体(B)の一例を示す。この接合体(B)は、板状母材(11)と、該板状母材(11)に接合される11個ないし複数個の接続部材(2)により構成される。
【0023】
前記板状母材(11)は、例えば厚みtが1〜3mm程度のアルミニウム製の薄肉平板で、板状母材(11)の表面(11a)の接合部位に前記接続部材(2)が接合されるものとなされている。そして、前記板状母材(11)の表面(11a)の接合部位に対応する裏面には、短円柱状で天面(13a)がフラットな補整用凸部(13)が冷間鍛造法等により一体に形成されている。
【0024】
この補整用凸部(13)は、後述するように溶接時に生じる窪み(14)や熱変形が収まる部分であり、直径r、高さhの短円柱状に形成されている。この補整用凸部(13)の高さhは、板状母材(11)の肉厚t、及び該板状母材(11)に接合しようとする接続部材(2)の直径R、あるいはそれらの相対比との関係で種々に可変設定し得るが、確実に補整用凸部(13)の高さ範囲内に窪み(14)や熱変形を収め、かつ接合後の切削加工を容易ならしめるために、板状母材(11)の肉厚1〜3mmに対して、少なくとも0.05〜1.0mm、特に0.1〜0.3mm程度に設定するのが望ましい。また、補整用凸部(13)の直径rは、確実に補整用凸部(13)の径範囲内に窪み(14)や熱変形を収めるために、接続部材(2)の直径Rの1/3以上に形成されているのが望ましく、特に接続部材(2)の直径Rに対して1/2〜3/2程度の直径に形成するのが最も望ましい。
【0025】
一方、前記接続部材(2)は、板状母材(11)と他の部材とを螺着接合せしめるためのアルミニウム製のボルトであり、実施形態1に示したのと同じものである。
【0026】
次に、前記母材(11)と接続部材(2)の摩擦溶接による接合方法について説明する。
【0027】
まず、接続部材(2)の一端部(2a)を摩擦溶接装置のチャック部(5)に装着したあと、図4(a)に示すように、接続部材(2)の下端面(2c)を、板状母材(11)の接合部位に突き付け状に接触させて配置する。
【0028】
そして、図4(b)に示すように、チャック部(5)を一定速度で自軸回転させることによって、接続部材(2)を板状母材(11)に対して自軸回転させると、接続部材(2)の下端面(2c)と板状母材(11)の接合部位とが摩擦熱によって軟化し、接続部材(2)と板状母材(11)は接合面で複雑に混じり合う。
【0029】
そこで、摩擦熱が一定温度に達して接合面が適当に溶融したときに、接続部材の自軸回転を停止すると共に、接続部材(2)の下端面(2c)を板状母材(11)の接合部位にさらに押し付け、その状態を保持しながら軟化金属の冷却固化を待って、チャック部(5)を取り外す。これにより、接続部材(2)は、図4(c)に示すように、板状母材(11)に対して垂直に立設する態様で確実に接合されたものとなる。このとき、前記補整用凸部(13)には、摩擦溶接時の摩擦熱の影響によって窪み(14)や熱変形が生じる。
【0030】
従って、それら窪み(14)や熱変形が生じた前記補整用凸部(13)のみを、公知の切削加工によって板状母材(11)から切削除去すれば、図4(d)に示すように、窪みや熱変形のないフラットな裏面を有する接合体(B)が得られる。
【0031】
このように、上述の摩擦溶接による接合方法の実施により、摩擦熱の影響による窪み(14)や熱変形は板状母材(11)自体に生じず、生じても板状母材 (11)の補整用凸部(13)に生じるので、その補整用凸部(13)を切削除去するだけの簡単な作業で、それら窪みや熱変形を板状母材から確実に除去することができる。
【0032】
【実施例】
次に、この発明の実施例を説明する。
【0033】
金属製接続部材として、直径6mm、長さ15mmのアルミニウム製の接続ボルトを準備し、一方、これを接合する相手材である薄肉の金属製板状母材として、厚さ1mm及び2mmの2種類のアルミニウム板を準備した。
【0034】
前記接続部材は、先端面中央に基端部直径4mm、高さ3mmの円錐形接合用凸部を有するものとした。
【0035】
一方、板状母材は、その表面側の接続部材接合予定部位に短円柱状の接合用凸部を形成したものと、接続部材接合予定部位に対応する裏面に短円柱状の補整用凸部を形成したものと、これらを形成しないものとを準備した。前記接合用凸部及び補整用凸部は、冷間鍛造法により母材面に隆起状に一体に形成したものとし、表1に示すようにその高さhを0.1〜0.5mmの範囲で、また直径rを2〜6mm(接続部材直径の1/3〜1倍)の範囲で各種に変化させた。
【0036】
そして、前記接続部材と板状母材とを、公知の摩擦溶接装置を用いて、常法により摩擦溶接を実施した。この溶接は、接続部材の回転数を30回/s、接触圧力を50Mpa、アプセット圧力を100Mpa 、溶接時間を1secに設定 して行った。
【0037】
接合用凸部を形成した板状母材については、溶接後の板状母材の裏面を観察し、その裏面の接合部対応部位に生じている窪み部分の最大窪み量を測定すると共に、前記部位近傍の熱変形の発生の有無を調べた。そして、上記最大窪み量が0.10mm以下で熱変形の認められないものを良品(○印)と判定し、最大窪み量が0.10mmを越えるものを不良品(×印)と判定した。前記測定結果及び判定結果を表1に併記した。
【0038】
また、補整用凸部を形成した板状母材ついては、溶接後の補整用凸部の天面を観察し、該天面に生じている窪み部分の最大窪み量を測定すると共に、前記部位近傍の熱変形の発生の有無を調べた。そして、上記最大窪み量が補整用凸部の高さ範囲内で、かつ窪み領域が補整用凸部の直径の範囲内に収まっているものを良品(○印)と判定し、最大窪み量が補整用凸部の高さ範囲を越えているものか、あるいは窪み領域が補整用凸部の直径の範囲内に収まっていないものを不良品 (×印)と判定した。前記測定結果及び判定結果を表1に併記した。
【0039】
【表1】
Figure 0004294164
上記表1より、板状母材の接合部位に接合用凸部を形成した場合、溶接後に板状母材の裏面に窪みが生じたり、母材の接合部に熱変形が生じるのを防止あるいは軽減し得ることを確認し得た。また、板状母材の接合部位に対応する裏面に補整用凸部を形成した場合、溶接時の摩擦熱による窪みや熱変形が補整用凸部の範囲内に生じており、該補整用凸部を板状母材から切削除去すれば、それら窪みを熱変形を板状母材から確実に除去し得ることを確認し得た。
【0040】
【発明の効果】
請求項1に係る発明によれば、板状母材の裏面は摩擦溶接時の摩擦熱の影響をほとんど受けないので、板状母材の裏面に窪みが生じたり、板状母材の接合部に熱影響による有害な熱変形が生じるのを防止あるいは軽減することができ、板状母材の裏面の外観を簡単かつ確実に向上することが可能となると共に、窪みをなくすための仕上げ加工が不要となり経済的である。
【0041】
請求項2に係る発明によれば、板状母材における窪みの発生や熱変形をより一層効果的に防止あるいは軽減することができる。
【0042】
請求項3に係る発明によれば、板状母材における窪みの発生や熱変形をより一層効果的に防止あるいは軽減することができるほか、板状母材と接続部材をより確実に接合することができる。
【0043】
請求項4に係る発明によれば、溶接時の摩擦熱による窪みや熱変形が板状母材自体にほとんど生じず、生じても主に板状母材の補整用凸部に生じるので、その補整用凸部を切削除去するだけの簡単な作業で、板状母材の裏面を平滑面に仕上げることができる。従って、板状母材の裏面全体について切削やヘアライン加工等の仕上げ加工を実施する必要なくなり、板状母材裏面の外観を簡単かつ確実に向上することが可能となる。
【0044】
請求項5に係る発明によれば、溶接時に生じる窪みは前記補正用凸部の高さ範囲内に収まるので、該補正用凸部のみを切削除去することによって、より確実に板状母材の裏面を平滑面に仕上げることができる。
【0045】
請求項6に係る発明によれば、溶接時に生じる窪みは前記補正用凸部の径範囲内にも収まるので、該補正用凸部のみを切削除去することによって、より一層確実に板状部材の裏面を平滑面に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態における板状母材と接続部材を接合前の状態において示した断面図である。
【図2】この発明による部材接合方法の一実施形態を工程順に示した断面図である。
【図3】この発明の他の実施形態における板状母材と接続部材を接合前の状態において示した断面図である。
【図4】この発明による部材接合方法の他の実施形態を工程順に示した断面図である。
【図5】従来の部材接合方法による母材と接続部材の接合部を示す断面図である。
【符号の説明】
1・・・母材
2・・・接続部材
3・・・接合用凸部

Claims (6)

  1. 薄肉の金属製板状母材として厚み1〜3mmの金属製平板の表面に金属製接続部材を摩擦溶接により接合するに際し、
    前記平板の表面の接合部位に接合用凸部を形成し、該接合用凸部の天面に前記接続部材を突き付け状に配置した状態で摩擦溶接を実施することを特徴とする部材接合方法。
  2. 前記接合用凸部の高さは、前記平板に対して0.1mm以上に設定されている請求項1に記載の部材接合方法。
  3. 前記接合用凸部は短円柱状で、かつその直径が前記接続部の直径の1/2以上に設定されている請求項1又は2に記載の部材接合方法。
  4. 薄肉の金属製板状母材の表面に金属製接続部材を摩擦溶接により接合するに際し、
    前記板状母材の表面の接合部位に対応する裏面に補整用凸部を形成し、前記接合部位に前記接続部材を突き付け状に配置した状態で摩擦溶接を実施したあと、前記補整用凸部を前記板状母材から切削除去することによって、前記板状母材の裏面を平坦面に仕上げることを特徴とする部材接合方法。
  5. 前記補整用凸部の高さは、前記板状母材に対して0.1mm以上に設定されている請求項4に記載の部材接合方法。
  6. 前記補整用凸部は短円柱状で、かつその直径が前記接続部材の直径の1/3以上に設定されている請求項4又は5に記載の部材接合方法。
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