以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1ないし図15は、本発明の第1実施形態による自動二輪車用エンジンを説明するための図であり、図1は本実施形態エンジンが搭載された自動二輪車の左側面図、図2はエンジンを展開状態で示す断面平面図(図6のII-II 線断面図)、図3はエンジンの無段変速機,遠心クラッチ機構部分の断面平面図、図4,図5はエンジンの右側面図,左側面図、図6はエンジンの無段変速機構,遠心クラッチ機構を取り外した状態の右側面図、図7はクランクケースの右側面図、図8はクランクケースの断面平面図(図5のVIII-VIII 線断面図)、図9はエンジンのキック装置の断面平面図(図5のIX-IX 線断面図)、図10はキック軸周りの断面平面図、図11はエンジンの潤滑油経路を示す断面平面図、図12,図13は遠心クラッチ機構の断面図,側面図、図14,図15は遠心クラッチ機構の要部の拡大断面図である。なお、本実施形態でいう前後,左右とはシートに着座した状態で見た前後,左右を意味する。
図において、1は本実施形態エンジン2が搭載された自動二輪車を示しており、これは車体フレーム1aの前端に固着されたヘッドパイプ3により、前輪4が軸支されたフロントフォーク5を左右回動可能に枢支し、中央部に固着されたリヤアームブラケット6により、後輪7が軸支されたリヤアーム8を上下揺動可能に枢支し、上記車体フレーム1aの上部に運転者用シート部9aと後部乗員用シート部9bとからなるシート9を配置した概略構造を有している。
上記車体フレーム1aはヘッドパイプ3から斜め下方に延びる左,右のダウンチューブ1bと該各ダウンチューブ1bの後端に続いて斜め上方に延びる左,右のアッパチューブ1cと、ダウンチューブ1bとアッパチューブ1cとに前後方向に架け渡して接合された左右のシートレール1dとを有する。また上記車体フレーム1aはフロントカバー10a,レッグシールド10b,サイドカバー10c等からなる樹脂製の車体カバー10により囲まれている。
上記フロントフォーク5の上端には操向ハンドル11が固定されており、該操向ハンドル11はハンドルカバー11aにより囲まれている。また上記リヤアーム8とリヤアームブラケット6との間にはリヤクッション12が架設されている。
上記エンジン2は空冷式4サイクル単気筒エンジンであり、上記ダウンチューブ1bの後下部に気筒軸線Aを前方に約45度傾斜させて懸架支持されている。このエンジン2は、エンジン本体15とVベルト式無段変速機16と湿式多板式遠心クラッチ機構17及び減速歯車機構18とを備えている。
上記エンジン本体15は、シリンダブロック19の上合面にシリンダヘッド20を接続するとともに、該シリンダヘッド20の上側にヘッドカバー21を設け、上記シリンダブロック19の下合面にクランク軸28が収納されたクランクケース22を接続した概略構造となっている。また上記クランクケース22の左側面に、発電機42を収容する発電機ケース44が装着されており、本実施形態では、上記クランクケース22,発電機ケース44によりエンジンケースが構成されている。
上記シリンダヘッド20の後面には燃焼凹部20aに連通する吸気ポート20bが開口しており、該吸気ポート20bには吸気管23aを介して気化器23が接続されている。また上記シリンダヘッド20の前面には燃焼凹部20aに連通する排気ポート20cが開口しており、該排気ポート20cには排気管24が接続されている。この排気管24は、エンジン右下側に向かって斜め下方に延び、後述する変速機ケース45の下側でかつ潤滑油室膨出部22bの右外側を通り、右側方を通って斜め後方に延びており、上記後輪7の右側方に配設されたマフラ25に接続されている。上記燃焼凹部20a内には点火プラグ30が挿入されている。
上記シリンダブロック19の左側部にはクランクケース22内とシリンダヘッド20内とを連通するチェーン室19aが形成されており、該チェーン室19aには上記クランク軸28によりカム軸31を回転駆動するタイミングチェーン34が配設されており、このカム軸31により吸気バルブ32,排気バルブ33を開閉駆動する。
上記シリンダブロック19のシリンダボア内にはピストン26が摺動自在に挿入配置されている。該ピストン26にはコンロッド27の小端部27bが連結され、該コンロッドの大端部27aは上記クランク軸28の左右のクランクアーム28a,28b間に嵌装されたクランクピン29に連結されている。
上記クランク軸28の後方には変速軸47が該クランク軸28と平行に配置されており、さらに該変速軸47の軸方向左側には出力軸48が同軸をなすよう配置されている。この出力軸48の左端部には駆動スプロケット49が装着されており、該駆動スプロケット49はチェーン50を介して上記後輪7の従動スプロケット51に連結されている。
上記クランク軸28の左側端部には発電機42が装着されている。この発電機42はクランク軸28にテーパ嵌合されたスリーブ43にロータ42aを固着するとともに、該ロータ42aに径方向に対向するステータ42bを発電機ケース44に固定した構造となっている。
上記クランクケース22はクランク軸方向左側の第1ケース40と右側の第2ケース41とに分割されている。この第1ケース40のクランク軸方向外側に上記発電機42を収容する発電機ケース44が着脱可能に装着されており、上記第2ケース41のクランク軸方向外側に上記無段変速機16の収容ケースである変速機ケース45が装着されている。
上記第1,第2ケース40,41の分割線Bは気筒軸線Aより若干左側に偏位している。この第1,第2ケース40,41は概ねクランク軸方向外側に向かって開口する第1,第2外周壁40a,41aの内側にクランク軸28を支持する第1,第2支持壁40b,41bを一体形成した概略構造を有している。
上記第1ケース40の第1支持壁40bは、クランク軸28の左クランクジャーナル部28cを左側ジャーナル軸受35を介して支持する第1クランク支持壁部40cと、該第1クランク支持壁部40cに対してクランク軸方向左側に少し突出するよう膨出形成された減速機構支持壁部40dとを有している。
また上記第2ケース41の第2支持壁41bは、クランク軸28の右クランクジャーナル部28dを右側ジャーナル軸受36を介して支持する第2クランク支持壁部41cと、該第2クランク支持壁部41cに対してクランク軸方向左側に気筒軸線Aを越えて突出するよう膨出形成されたクラッチ支持壁部(クラッチ一側支持壁)41dとを有している。
そして上記第1,第2クランク支持壁部40c,41cにより形成されたクランク室37内に上記クランク軸28のクランクアーム28a,28b及びクランクピン29が収容されている。
また上記第2外周壁41a及びクラッチ支持壁部41dにより形成されたクラッチ室38内に上記遠心クラッチ機構17が収容されており、該クラッチ室38は上記クランク室37と画成されている。本実施形態では、上記クラッチ室38を構成する壁部分をクラッチケースと称する。
さらに上記減速機構支持壁部40dとクラッチ支持壁部41dにより形成された減速室39内に上記減速歯車機構18が収容され、該減速室39は上記クランク室37に連通している。
この減速歯車機構18は以下の構成となっている。上記支持壁部40d,41d間に上記変速軸47と平行に減速軸52が架設されている。該減速軸52の右側部は上記クラッチ支持壁部41dにより減速軸受53を介して軸支され、左端部は上記減速機構支持壁部40dに形成された凹部40eにより減速軸受54を介して軸支されている。またクラッチ室38内に位置する変速軸47に一次減速小ギヤ74が相対回転可能に装着され、上記減速軸52に一次減速小ギヤ74に噛合する一次減速大ギヤ75がキー嵌合により結合されている。上記減速室39内に位置する減速軸52に二次減速小ギヤ52aが一体形成されるとともに、上記出力軸48に二次減速小ギヤ52aに噛合する二次減速大ギヤ48aが一体形成されている。
上記出力軸48は変速軸47と同一軸線上に配設されている。この出力軸48の右端部には上記変速軸47の左端部が挿入される支持孔48bが凹設されており、該支持孔48b内に装着された軸受76を介して該出力軸48の右端部は変速軸47で軸支されている。また上記出力軸48の左端部は第1ケース40の減速機構支持壁部40dを貫通しており、該支持壁部40dにより軸受77を介して軸支されている。上記出力軸48の突出端部に上記駆動スプロケット49が固着されている。
上記Vベルト式無段変速機16は、上記変速機ケース45内に巻き掛け径可変式駆動,従動プーリにVベルトを巻回してなる変速機構を収容してなり、詳細には以下の構成となっている。
上記クランクケース22により軸支された上記クランク軸28の右外端部は、上記変速機ケース45内に片持ち状態で突出しており、該右外端部に駆動プーリ55が装着されている。またクランクケース22により軸支された上記変速軸47の右外端部は、上記変速機ケース45内に片持ち状態で突出しており、該右外端部に従動プーリ56が装着されている。上記駆動プーリプーリ55と従動プーリ56とにVベルト57が巻回されている。
上記Vベルト57は耐熱性,耐久性を有する樹脂からなる樹脂ベルトであり、詳細には以下の構造を有している。例えばポリアミド樹脂にカーボン繊維又はアラミド繊維を混入させて横H形状に成形してなる多数の樹脂ブロック57aが並べて配置され、これらは超耐熱ゴム製の環状の一対の連結部材57bでもって連結されている。上記樹脂ブロック57aの左,右傾斜面が上記駆動プーリ55,従動プーリ56への当接面となっている。
上記駆動プーリ55は、上記クランク軸28の右端部に固定された固定プーリ半体55aと、該固定プーリ半体55aのクランク軸方向内側に軸方向にスライド可能にかつスライドカラー59を介してクランク軸28と共に回転するように配設された可動プーリ半体55bとを有している。上記クランク軸28の右端部にカムプレート58,上記スライドカラー59がスプライン嵌合により装着され、これらの軸方向外側に上記固定プーリ半体55aが装着され、ロックナット60により締め付け固定されている。上記可動プーリ半体55bと上記カムプレート58との間に円筒形のウエイト61が配設されている。クランク軸28の回転が上昇するにつれてウエイト61が遠心力で半径方向外側に移動して可動プーリ半体55bを軸方向右側に移動させ、これによりプーリの巻き掛け径が大きくなり、減速比が小さくなる。
上記従動プーリ56は、上記変速軸47の右外端部に固定された固定プーリ半体56aと、該固定プーリ半体56aのクランク軸方向外側に軸方向にスライド可能に配設された可動プーリ半体56bとを有している。上記固定プーリ半体56aの軸心部に固着された円筒状のスライドカラー62は変速軸47にスプライン嵌合されており、このスライドカラー62上に上記可動プーリ半体56bの軸心部に固着された円筒状のボス部63が軸方向にスライド可能に装着されている。このボス部63にスリット状に形成されたスライド溝63aに上記スライドカラー62に植設されたガイドピン64がスライド可能に、かつ該可動プーリ半体56bが固定プーリ半体56aと共に回転するよう係合している。
上記スライドカラー62の先端部には、環状プレートからなるばね受け部材65がサークリップ65aにより装着されており、このばね受け部材65と上記可動プーリ半体56bとの間には該可動プーリ半体56bを固定プーリ半体56a側に常時付勢するコイルスプリング67が介設されている。
そして上記従動プーリ56は、上記スライドカラー62の先端部62a内に没入するように挿入配置され、上記変速軸47の先端部47aに螺着されたロックナット66より上記変速軸47に固着されている。
ここで、上記スライドカラー62の内径は変速軸47の外径より段付状に大径に設定され、変速軸47の先端部47aは段付状に小径に設定されている。このように変速軸47のロックナット66が螺装される部分が小径になっているので、ロックナット66及びワッシャ66aを小径となり、これらをスライドカラー62内に没入するよう支障なく挿入配置できる。このようにして上記ロックナット66をコイルスプリング67のばね受部材65よりクランク軸方向内側に位置させることが可能となっている。
上記変速機ケース45は、上記クランクケース22とは独立して形成された略密閉構造のものであり、右側方から見て(図4参照)、上記クランクケース22の右側の大部分を覆う楕円形状を有している。上記変速機ケース45は、クランク軸方向外側に開口する有底箱状で樹脂製のケース本体45aと該開口を気密に閉塞するアルミニュウム合金製の蓋体45bとからなる2分割構造のものである。
上記ケース本体45aと蓋体45bとは、これらの外周縁に形成されたボス部45e,45dがボルト70により上記第2ケース41に共締め固定されている。またケース本体45aには、上記クランク軸28,変速軸47と同軸をなすようにボス部45i,45iが形成されており、これがクランクケース側の軸受36,81のアウタレースを嵌合支持するボス部に嵌合している。このようにしてケース本体45aは上記ボルト70を外した状態でもクランクケース側に支持されるようになっている。
そして上記ケース本体45aの底壁45cと第2ケース41との間には第2空間aが設けられている。この第2空間aは、エンジン2からの熱がクランクケース22を介して変速機ケース45に伝わるのを遮断するとともに、走行風が両ケースの間を流れるのを許容することにより変速機ケース45内の温度上昇を抑制している。
上記クランクケース22の底部22aには潤滑油室95が形成されており、該潤滑油室95には、上記変速機ケース45の下方に位置するように膨出する膨出部22bが一体形成されている(図8,図11参照)。この膨出部22bの膨出側端面22b′は、変速機ケース45のケース本体45aの下方に位置している。
上記潤滑油室95に膨出部22bを設けたことにより、該膨出部22bを含む全体としての車幅方向中心線Dはエンジン幅方向中心線(気筒軸線A)より上記変速機ケース45側に偏位している。上記潤滑油室95の変速機ケース45と反対側の内側壁22cのクランク軸方向位置は、上記左側のジャーナル軸受35を支持する支持壁40cと同じ位置に位置している。
また上記膨出部22bは、平面から見て、変速機ケース45の投影面内に位置するよう形成されており、また該膨出部22bの上面と変速機ケース45の下面との間には第1空間bが設けられている。さらにまた上述の排気管24は、上記変速機ケース45の平面からの投影面内でかつ上記膨出部22bの側方からの投影面内を通っている。また上記第1空間bは上記第2空間aと連通しており、変速機ケース45内に導入された空気は排出口から第2空間a,第1空間bを通って外方に排出される。
本実施形態によれば、上記クランク軸28,変速軸47をクランクケース22により回転自在に支持するとともに、これらの右外端部を片持ち状態で変速機ケース45内に突出させ、該クランク軸28,変速軸47の先端部を変速機ケース47で軸支する必要のない片持ち支持構造としたので、変速機ケース45の特に蓋部45b側に軸受部を設ける必要がなく、それだけ変速機ケース45全体を軽量小型化することができる。
上記のようにクランク軸28,変速軸47を片持ち支持構造としたことに伴って変速機ケース45をクランクケース22により支持するための構造にそれほど大きな剛性は必要でなく、この支持構造を簡略化できる。即ち、クランク軸28等の先端部を軸支する場合には、軸受の配置位置精度を確保するために変速機ケース47自体を高剛性とし、かつ高い剛性でもってクランクケース22に結合する必要がある。
また変速機ケース45とクランクケース22との間に第2空間aを設けたので、エンジンの熱がクランクケース側から変速機ケース45に伝達されにくく、しかも上記第2空間aを流れる走行風により変速機ケース45自体が冷却され、変速機ケース45の温度上昇を抑制でき、ひいてはVベルト57の耐久性を向上できる。また上述のように変速機ケース45を小型軽量化できるので、上記第2空間aを設けてもエンジンの無段変速機16回りが大型化するのを抑制できる。
また上記変速機ケース45の上記クランクケース22と対面するクランクケース側面を構成するケース本体45aを樹脂部材で構成したので、変速機ケース45をより一層軽量小型化できるとともに、変速機ケース45の温度上昇を抑えてVベルト57の耐久性を向上できる。即ち、樹脂部材を用いた場合には形状の自由度が高く、従って変速機ケース45をより小型となるように成形し易い。また樹脂部材は通常のケース部材であるアルミニュウム合金等に比較して断熱性が高く熱の伝達をより一層抑えることができ、変速機ケース45の温度上昇をより一層確実に抑えることができる。
また上記Vベルト57を樹脂ブロック57aを連結部材57bで連結してなる樹脂ベルトとしたので、Vベルト自体の発熱を抑えることができる。即ち、駆動プーリ55との接触部を樹脂ブロック57aで構成した樹脂ベルトの場合、例えばゴムベルトに比較して同じ伝達トルクを得るのに駆動プーリ55による挟み込み力を小さくすることができ、従ってそれだけVベルト57と駆動プーリ55との間で発生する摩擦熱を軽減でき、その結果ベルト自体の温度上昇を抑制できる。
また上述のようにして変速機ケース45の温度上昇を抑えることができるとともに、Vベルト57を樹脂製としてベルトの摩擦熱を抑えるとともに、ベルト自体の耐熱性,耐久性をゴム製ベルトに比べて高めることができ、Vベルト57の冷却を不要にできる。その結果、変速機ケース45を密閉構造とすることが可能となり、水やほこりの進入を防止できる。
またクランクケース22の底部22aに変速機ケース45の下方に位置するように膨出部22bを膨出形成したので、変速機ケース45下方の空きスペースを有効利用して潤滑油室95の潤滑油量を増やすことができ、ケース底部を深くして潤滑油量を確保する場合に比べ、エンジン2の高さ寸法を大きくする必要がない。
またクランクケース22の底部22aを変速機ケース45の下方に膨出させたので、潤滑油室95の表面積を増やすことができ、それだけ冷却性を高めることができ、さらにエンジン全体の重量バランスを良好にできる。また上記膨出部22bと変速機ケース45との間に第1空間bを設けたので、膨出部22b内の潤滑油の熱が変速機ケース45に伝達されるのを防止できるとともに、該第1空間bを通る走行風により変速機ケース45を冷却できる。
ここで本実施形態では、Vベルト57を樹脂製とするとともに、変速機ケース45をクランクケース22とは独立したものとしたので、ゴム製ベルトを採用する場合に比べてベルト自体の耐熱性,耐久性を高めることができ、またエンジンからの熱影響を抑制することができる。その結果、駆動,従動プーリ55,56の小径化が可能となり、変速機ケース45を小型化することができ、該変速機ケース45の下方に空きスペースを設けることができ、その結果上記膨出部22bを形成して潤滑油容量を大きくでき、かつ排気管24の配置スペースを確保できたものである。
本実施形態によれば、変速軸47に装着された従動プーリ56の可動プーリ半体56bを固定プーリ半体56aのクランク軸方向外側に配置したので、上記変速軸47の従動プーリ56内側部分に空きスペースを確保することができ、この空きスペースを利用して遠心クラッチ機構17を上記固定プーリ半体56aに隣接するように配置することができる。これによりエンジン幅を拡大することなく上記変速軸47の反従動プーリ56側に出力軸48を同軸配置することができ、その結果、従来の出力軸を変速軸の後側に配置するものに比べてエンジン前後長を短くすることができる。
本実施形態では、上記ロックナット66を、上記可動プーリ半体56bを固定プーリ半体56a側に付勢するコイルスプリング67を支持するばね受け部材65より軸方向内側に没入させて配置したので、コイルスプリング67の必要長さを確保しつつ簡単な構造で変速軸方向外側への出っ張りを小さくすることでき、エンジン車幅寸法の大型化を抑制できる。
即ち、例えば、図16に示すように、変速軸200にスライドカラー201の外端面をロックナット203により締め付け固定する構造の場合には、ロックナット203の分だけ変速機ケース204が車幅方向外側に出っ張ることとなる。これに対して本実施形態では、ロックナット66がばね受部材65の外端より軸方向内方に位置するので、変速機ケース45の出っ張りをt(約10mm程度)だけ小さくできる。
また上記コイルスプリング67が軸方向外側に位置するので、コイルスプリング67のメンテナンスや交換を行なう場合にはサークリップ65aを外すだけでよく、作業を容易に行なうことができる。ちなみに、可動プーリ半体を固定プーリ半体の内側に、即ちコイルスプリングを軸方向内側に配置した場合には、従動プーリ全体を取り外さなければならず作業性が低い。
上記クラッチ室38を形成する第2外周壁41aのクランク軸方向の外側には上記遠心クラッチ機構17を出し入れできる大きさを有する開口41eが形成されている。この開口41eにはクラッチカバー(クラッチ他側支持壁)71が気密に装着されており、該クラッチカバー71はボルト72により上記第2外周壁41aの開口縁部に着脱可能に締め付け固定されている。これにより変速機ケース45を従動プーリ56とともに取り外し、クラッチカバー71を外すことによって遠心クラッチ機構17を変速軸47とともに取り外せるようになっている。
上記遠心クラッチ機構17は変速軸47の軸方向左端部,中央部に装着された一側,他側クラッチ軸受80,81により軸方向移動不能に位置決め挟持されている。この一側クラッチ軸受80はクラッチ支持壁部41dにより支持されており、上記他側クラッチ軸受81は上記クラッチカバー71により支持されている。
そして上記一側クラッチ軸受80及び減速軸受53を支持するクラッチ支持壁部41dは、右ジャーナル軸受36を支持する第2クランク支持壁部41cよりクランク軸方向左側に偏位しており、換言すれば上記左ジャーナル軸受35を支持する第1クランク支持壁部40cと上記第2クランク支持壁41cとの間に位置している。より具体的には、気筒軸線A上に、あるいは気筒軸線Aより若干分割線B寄りに位置している。
また上記他側クラッチ軸受81を支持するクラッチカバー71は上記右ジャーナル軸受36を支持する第2クランク支持壁部41bよりクランク軸方向右外側に位置している。さらにまた上記出力軸48の左側軸受77を支持する減速機構支持壁部40dは左ジャーナル軸受35を支持する第1クランク支持壁部40cよりクランク軸方向左外側に位置している。
上記クランクケース22をクランク軸方向に第1,第2ケース40,41に分割し、第2ケース41のクランク軸方向外側に上記変速機ケース45を配置し、該変速機ケース45のクランク軸方向内側近傍に遠心クラッチ機構17を配置したので、変速軸47の無段変速機構16と反対側に出力軸48を同軸配置することができ、エンジン2の幅寸法の拡大を抑えつつ前後方向寸法を小さくすることができる。
また上記遠心クラッチ機構17を変速軸47に装着された一側,他側クラッチ軸受80,81により挟持したので、別部品を用いることなく簡単な構造で遠心クラッチ機構17を軸方向に位置決め支持できる。
本実施形態では、一側クラッチ軸受80を支持するクラッチ一側支持壁41dをクランク軸28の左,右ジャーナル軸受35,36を支持する第1,第2クランク支持壁40c,41cの間に位置させ、他側クラッチ軸受81を支持するクラッチカバー(クラッチ他側支持壁)71を右ジャーナル軸受36を支持する第2クランク支持壁41cのクランク軸方向外側に位置させたので、第1クランク支持壁40c,クラッチ一側支持壁41d同士及び第2クランク支持壁41c,クラッチカバー71同士を同一線上に位置させる場合に比べてクランク軸28と変速軸47との軸間距離を短くしながらクラッチ室38の容積を確保することができ、遠心クラッチ機構17をコンパクトに収納でき、ひいてはエンジン全体をコンパクトにすることができる。
また上記第2ケース41の開口41eにクラッチカバー71を着脱可能に取付けたので、変速機ケース45及びクラッチカバー71を外すことにより変速軸47とともに遠心クラッチ機構17を取り外すことができ、メンテナンスや部品交換作業を容易に行なうことができる。
本実施形態では、変速軸47の反変速機ケース45側に出力軸48を同軸をなすように配置し、該出力軸48に駆動スプロケット49を装着したので、遠心クラッチ機構17と駆動スプロケット49とを同軸上に配置することができ、エンジンの前後方向寸法を小さくすることができる。
上記遠心クラッチ機構17は従動プーリ56のクランク軸方向内側に近接させて配置されている。この遠心クラッチ機構17は湿式多板式のもので、主として図12〜図15に示すように、碗状のアウタクラッチ83のボス83bを変速軸47に共に回転するようにスプライン嵌合させ、該アウタクラッチ83の軸方向内側にインナクラッチ84を同軸配置し、該インナクラッチ84のハブ部84aを上記一次減速小ギヤ74に共に回転するようにスプライン嵌合させた概略構造を有している。なお、上記一次減速小ギヤ74は変速軸47に回転自在に装着されている。
上記アウタクラッチ83内には複数枚のアウタクラッチ板85が配置され、その両端に位置するように2枚の押圧プレート86,86が配置され、両者85,86は該アウタクラッチ83と共に回転するように該アウタクラッチ83に係止されている。また上記アウタクラッチ板85及び押圧プレート86の間にはインナクラッチ板87が配置され、該各インナクラッチ板87は上記インナクラッチ84と共に回転するように該インナクラッチ84の外周に係止されている。
上記アウタクラッチ83の内側にはカム面83aが形成されており、該カム面83aと上記外側の押圧プレート86との間にはウエイト88が配設されている。このウエイト88はアウタクラッチ83の遠心力により半径方向外側に移動するに伴ってカム面83aにより図12の図面左方(クラッチ接続方向)に移動し、押圧プレート86を押圧移動させてアウタ,インナクラッチ板85,86同士を接続状態とする。なお、図12において、遠心クラッチ機構17の軸線より上側は遮断状態を、下側は接続状態を示している。
上記遠心クラッチ機構17にはクラッチ板貼り付き防止機構90が設けられている。この貼り付き防止機構90は、上記各アウタクラッチ板85の間及び該アウタクラッチ板85と押圧プレート86との間にアウタクラッチ板85,押圧プレート86を互いに離間させる方向に付勢する板ばね91を介設して構成されている。
また上記各インナクラッチ板87には該インナクラッチ板87の軸方向移動を規制するピン92が周方向に間隔をあけて挿通されており、各ピン92の各インナクラッチ板87の間には該インナクラッチ板87同士を離間させる方向に付勢するコイルばね93が装着されている。
本実施形態の遠心クラッチ機構17では、ウエイト88はエンジン回転が上昇するにつれて遠心力でクラッチ径方向外方に移動し、カム面83aによりその軸方向位置が決定される。そしてスロットル(不図示)の開操作によりエンジン回転が所定値以上になると上記ウエイト88が押圧プレート86を押圧移動させてアウタ,インナクラッチ板85,87を圧接させ、これによりエンジン回転が変速軸47から減速歯車機構18を介して出力軸48に伝達され、該出力軸48の回転により駆動スプロケット49,チェーン50を介して後輪7が回転駆動される。
スロットルの閉操作によるエンジン回転数の減少に伴ってウエイト88が半径方向内方に移動し、エンジン回転数が所定値以下になるとウエイト88による圧接力が解放され、上記アウタ,インナクラッチ板85,87が相対回転し、エンジン回転は変速軸47と出力軸48との間で遮断される。
そして上記クラッチ遮断時において、上記圧接力が解放されると板ばね91の反力によってアウタクラッチ板85,押圧プレート86が互いに離間するとともに、コイルばね93の反力によってインナクラッチ板87同士が離反する。
これによりアウタ,インナクラッチ板85,87同士の潤滑油による貼付きを防止でき、クラッチの引きずり現象が防止される。
また各ピン92によりインナクラッチ板87の軸方向移動が規制されているので、クラッチ遮断時にインナクラック板87が傾いたりするのを防止でき、この点からもクラッチの引きずり現象を防止できる。
次に上記エンジン2の潤滑油系統について説明する。
本潤滑油系統は、上記クランクケース22の底部22a形成された潤滑油室95内の潤滑油をオイルポンプ96により吸い込んで上記クランク軸28,カム軸31の軸受部及び摺動部等の被潤滑部に圧送供給し、該被潤滑部を潤滑した潤滑油を上記潤滑油室95に自然落下により戻す構造となっている。
上記オイルポンプ96は、主として図11に示すように、クランクケース22の第1ケース40の下部に配置されており、吸込口97a,吐出口97bを有するハウジング97によりポンプ軸96aを軸支し、該ポンプ軸96aの外端部にポンプギヤ98を装着した構造となっている。
上記第1ケース40には上記吸込口97aに連通する吸込み通路40fが形成され、該吸込み通路40fはオイルストレーナ99を介して潤滑油室95内の底面上に開口している。また上記第1ケース40には上記吐出口97bに連通する潤滑油供給通路40gが形成されている。この供給通路40gは途中にオイルフィルタ100を介在させて上記発電機ケース44に形成されたメイン供給通路44aに連通されており、該メイン供給通路44aの下流端は上記クランク軸28の左端面に連通するオイル室44cに接続されている。
上記クランク軸28には上記オイル室44cに連通するオイル通路28eが軸心方向に形成されており、該オイル通路28eは上記クランクピン29に形成された分岐通路29aを介して該クランクピン29とコンロッド27との連結軸受部101に開口している。
上記オイルポンプ96により吸い込んだ潤滑油が供給通路40g,メイン供給通路44aを通ってオイル通路28eに圧送され、該オイル通路28eから分岐通路29aを介して連結軸受部101に供給される。この連結軸受部101に供給された潤滑油は、供給油圧によって、及びクランク軸28の遠心力によってクランク室37内に飛散し、この飛散する潤滑油の一部は減速室39内に進入して二次減速小ギヤ52a,大ギヤ48aを潤滑し、この後潤滑油室95内に落下する。
次に上記遠心クラッチ機構17の潤滑構造について説明する。
上記遠心クラッチ機構17は、主として図3,図7に示すように、クランク軸直角方向に見て、上記コンロッド27とクランクピン29との連結軸受部101からの潤滑油飛散領域内にその一部が重なるように位置している。具体的には、遠心クラッチ機構17のアウタ,インナクラッチ板85,87がクランク室37に臨む位置に配置されている。
そして上記クランク室37とクラッチ室38とを画成する第2外周壁41aには上記連結軸受部101から飛散した潤滑油を該クラッチ室38内に導入する導入開口103が形成されている。
また上記クラッチ支持壁部41dにはクラッチ室38内側に延びるガイド部104が一体形成されている。このガイド部104は、クランク軸28と変速軸47とを結ぶ延長線上に位置し、上記導入開口103と概ね対向するよう縦方向に延びる潤滑油受け部104aと、該潤滑油受け部104aの下端に続いて変速軸47の下方に回り込むようにして円弧状に延びる案内部104bとを有している。この案内部104bはインナクラッチ84の円錐台形状をなすボス部分内に差し込まれるように位置している。
これにより導入開口103から進入した潤滑油をガイド部104により受け止めるとともに、上記遠心クラッチ機構17の外周より内側部分により多く案内し、該クラッチ機構17の遠心力でもって上記潤滑油がアウタ,インナクラッチ板85,87の間に供給されるとともに、一次減速大ギヤ75,小ギヤ74の噛合部に供給される(図3,図7の矢印参照)。
本実施形態の遠心クラッチ機構潤滑構造によれば、クランクピン29とコンロッド大端部27aとの連結軸受部101に供給された潤滑油を遠心クラッチ機構17に導くようにしたので、連結軸受部101から多量に噴出,飛散する潤滑油を遠心クラッチ機構17に供給でき、特別な潤滑油経路を設ける必要がなく、かつ充分な潤滑油量を遠心クラッチ機構17に供給でき、アウタ,インナクラッチ板85,87の焼き付きを防止できる。
本実施形態では、遠心クラッチ機構17をクランク室37から画成されたクラッチ室38内に、かつクランク軸直角方向に見て、上記連結軸受部101からの潤滑油飛散領域内に位置するように配置し、該クラッチ室38とクランク室37とを画成する第2外周壁41aに潤滑油の進入を許容する導入開口103を形成したので、非常に簡単な構造でクランク室37からの潤滑油を効果的にクラッチ室38に導入することができる。
本実施形態では、クラッチ支持壁部41dにクラッチ室38内側に延びるガイド部104を一体形成し、該ガイド部104を、クランク軸28と変速軸47とを結ぶ延長線上に位置し上記導入開口103と概ね対向するよう延びる潤滑油受け部104aと、該潤滑油受け部104aの下端に続いて変速軸47の下方に回り込むようにして円弧状に延びる案内部104bとから構成したので、アウタ,インナクラッチ板85,87に潤滑油をより確実に供給することができる。
次に上記エンジン2のキック装置について説明する。
主として、図5,図9,図10に示すように、上記出力軸48の略垂直下方にはこれと平行にキック軸110が配設されている。クランク軸直角方向に見て、該キック軸110は、これの上記駆動スプロケット49より内側部分が第1ケース40のボス部40hにより軸支され、外側部分が発電機カバー44に一対形成されたボス部44bにより軸支されている。
上記キック軸110の外端部にキックアーム111が装着されている。またキック軸110の内側端部にはキックギヤ112が軸方向にスライド可能にスプライン嵌合されており、該キックギヤ112は第1ケース40内に位置している。また上記キック軸110の内端部には復帰ばね113が巻き付けられており、該復帰ばね113によりキック軸110は踏み込み位置に回動付勢されている。
上記キック軸110とクランク軸28との間には主中間軸114,副中間軸115がそれぞれキック軸110と平行に配設されている。この主中間軸114は第1ケース40と第2ケース41とに架け渡して軸支されており、該主中間軸114には上記キックギヤ112に噛合可能な主中間ギヤ116が装着されている。
上記副中間軸115は第1ケース40に形成された軸受け部40jにより軸支されており、該副中間軸115の内,外端部はそれぞれ第1ケース40の内側,外側に突出している。この副中間軸115のケース内側には上記主中間ギヤ116に噛合する第1中間ギヤ115aが一体形成されており、ケース外側には第2中間ギヤ117が装着されている。この第2中間ギヤ117には後述する第1クランクギヤ121が噛合している。
上記キックアーム111を踏み込むことによりキック軸110が回転し、該回転に伴ってキックギヤ112が軸方向に移動して上記主中間ギヤ116に噛合し、第1,第2中間ギヤ115a,117を介して第1クランクギヤ121に伝達され、クランク軸28が回転する。
上記クランク軸28の左ジャーナル軸受35と上記発電機42のスリーブ43との間には外側から順に一方向クラッチ120,上記第1クランクギヤ121,カムスプロケット122が装着されている。
上記一方向クラッチ120には始動ギヤ120aが装着されており、該始動ギヤ120aにはアイドラギヤ124を介してスタータモータ125の駆動ギヤ125aが連結されている。このスタータモータ125はモータ軸線をクランク軸28と平行に向けてクランクケース22の前壁に配置固定されている。
そして上記キックギヤ112,主中間ギヤ116,及び第1中間ギヤ115aは第1ケース40内側の上記潤滑油室95に連通する位置に配置されている。また上記第2中間ギヤ117,第1クランクギヤ121,及びカムスプロケット122は第1ケース40の外側に配置されている。
本実施形態のキック装置によれば、キックギヤ112,主中間ギヤ116,及び第1中間ギヤ115aを潤滑油室95に連通する部分に位置させたので、これらのギヤの噛合部を十分に潤滑できる。
また、主中間軸115を第1ケース40の内側から外側に貫通させ、キック軸110の回転を主中間軸115の内側から外側に伝達し、該外側の第2中間ギヤ117から第1クランクギヤ121を介してクランク軸28に伝達したので、第1クランクギヤ121をクランクジャーナル部28cより外側に配置させることができ、クランク軸受35,36の間隔を狭くでき、クランク軸28をコンロッド27による曲げモーメントを小さくして軸支できる。さらにまたカムスプロケット122,第2クランクギヤ127の配置スペースを確保することができ、クランク軸周りのレイアウトを容易に行なうことができる。即ち、キック軸110の回転を第1ケース40内においてクランク軸28に伝達するようにした場合、左のクランク軸受35と左クランクアーム28aとの間にギヤが必要となり、左,右軸受35,36の間隔が広くなり、上記曲げモーメント上不利となる。
本実施形態では、上記キック軸110を出力軸48の垂直方向略下方に配置したので、キックアーム111の踏み込み操作がし易いとともに、エンジン2の前後寸法を小さくすることができる。
また上記キック軸110の後輪駆動スプロケット49の車幅方向内側をクランクケース22の第1クラッチ支持壁部40dにて軸支し、車幅方向外側を発電機ケース44にて軸支し、該キック軸110の発電機ケース44の外方突出端にキックアーム111を装着したので、キック軸110,ひいてはキックアーム111を後輪駆動スプロケット49に干渉することなく最適な踏み込み位置に配置することができる。
上記キック軸110は、図4に示すように、クランク軸方向に見たとき、上記変速機ケース45の軸方向投影面内で、かつ遠心クラッチ機構17の軸方向投影面内に位置している。より具体的には、従動プーリ56の略垂直下方に位置するように配置されている。
このようにキック軸110を変速機ケース45の反対側に配置したので、該変速機ケース45内にキック軸配置スペースを確保する必要なく、そのため上記無段変速機構16の駆動プーリ55と従動プーリ56とは僅かな隙間b(図3参照)が生じる程度に近接させて配置でき、それだけエンジンの前後長を小さくすることができる。
また上記キック軸110を変速機ケース45のクランク軸方向投影面内に配置したので、キック軸110をクランク軸28に近い位置で、かつ踏み込み易い位置に配置することができる。
本実施形態では、上記遠心クラッチ機構17を従動プーリ56のクランク軸方向内側近傍に配置し、上記キック軸110を遠心クラッチ機構17の軸方向投影面内で、かつ変速軸47の略垂直下方に配置したので、キック軸110を遠心クラッチ機構投影面内における空きスペースを利用して、かつ最も踏み込み易い位置に配置することができるとともに、エンジン2の前後長さを小さくすることができる。
上記クランク軸28の後上方にはバランサ軸129が該クランク軸28と平行に配設されている。このバランサ軸129は第1,第2ケース40,41にバランサ軸受130,131を介して軸支されている。該バランサ軸129の左端部は第1ケース40から外側に突出しており、該突出部にはバランサギヤ132が結合されている。このバランサギヤ132の内周部にはダンパ部材133が介設されている。
ここで、上記バランサ軸受130,131内にクランク軸28の左,右のクランクアーム28a,28bが位置し、かつバランサ軸129のバランサウエイト129aは上記左,右のクランクアーム28a,28bの間で、かつクランクピン29の回転軌跡に重なるようにクランク軸28側に近接させて配置されている。これによりバランサ軸周りがコンパクトになっている。
上記クランク軸28に圧入された第1クランクギヤ(第1駆動ギヤ)121には第2クランクギヤ(第2駆動ギヤ)127が共に回転するように装着されており、該第2クランクギヤ127に上記バランサギヤ(第2従動ギヤ)132が噛合している。より詳細には上記第2クランクギヤ127の内周面には内周歯127aが形成されており、該内周歯127aには上記第1クランクギヤ121の外周歯121aが嵌合している(図6参照)。これによりクランク軸28の回転は第1クランクギヤ121から第2クランクギヤ127を介してバランサギヤ132に伝達される。
上記ポンプギヤ(第1従動ギヤ)98には第2中間ギヤ117を介して上記第1クランクギヤ121が連結されている。このようにして第1クランクギヤ121,第2中間ギヤ117はキック始動とオイルポンプ駆動とに共用されている。
また上記クランク軸28に装着された一方向クラッチ120,第1クランクギヤ121,カムスプロケット122は上記クランク軸28の左端部に螺装されたナット123を締め付けることにより上記スリーブ43とジャーナル軸受35とで軸方向移動不能に挟持されている。
本実施形態によれば、第1クランクギヤ121に噛合する第2中間ギヤ117をキック軸110の回転をクランク軸28に伝達する場合と、クランク軸28の回転をポンプギヤ98に伝達する場合とに共用したので、それだけクランク軸長さを短くでき、エンジン幅をコンパクトにできる。
またクランク軸28に圧入した第1クランクギヤ121に、第2クランクギヤ127の内周歯127aを嵌合させるとともに、第2中間ギヤ117を噛合させるようにしたので、第1クランクギヤ121のクランク軸28への圧入長さを十分に確保することができ、クランク軸28の回転を確実にポンプギヤ98,バランサギヤ132に伝達することができる。
本実施形態では、第1クランクギヤ121の外周歯121aと第2クランクギヤ127の内周歯127aとを嵌合させる構造を採用したので、第2クランクギヤ127の組み付けが容易であるとともに、メンテナンス時の取り外しを容易に行える。即ち、上記クランク軸28のナット123を外してスリーブ43,一方向クラッチ121を取り外すことにより、上記第2クランクギヤ127を第1クランクギヤ121から容易に取り外すことができる。
そして本エンジン2の上記各軸の配置構造は以下のようになっている。
クランク軸方向に見て、上記クランク軸28の後方に変速軸47,出力軸48が略同一水平面上に配置されている。このクランク軸28及び出力軸48の軸心を含む水平面Cの上側に上記バランサ軸129及び減速軸52が配置されており、下側にキック軸110,ポンプ軸96a,主,副中間軸114,115が配置されている。
また上記キック軸110は出力軸48の略垂直下方に配置され、上記ポンプ軸96aはバランサ軸129の略垂直下方に配置されている。さらに上記主,副中間軸114,115はクランク軸28とキック軸110とを結ぶ線上に配置されている。
本実施形態によれば、クランク軸28及び出力軸48を含む水平面Cの上側にバランサ軸129を配置し、下側にキック軸110及びオイルポンプ96のポンプ軸96aを配置したので、これらを上,下にバランス良く配置することができ、エンジンの大型化を回避できる。即ち、上記水平面Cの上側でシリンダボアの後側には空スペースがあり、このスペースを利用してバランサ軸129を配置している。そしてバランサ軸129はウエイト129aが大きな回転軌跡を持って回転するので、潤滑油に浸漬した状態にあると潤滑油撹拌によるロス馬力が大きくなるが、本実施形態ではバランサ軸129が潤滑油を拡散することはない。また上記水平面Cの上側でバランサ軸129と出力軸48との間の空きスペースを利用して減速軸52を配置している。この場合、潤滑油が供給されにくい上部に位置しているが、クランク軸28のコンロッドの連結軸受部101から飛散する潤滑油が減速ギヤ75等に供給されるので潤滑不足の問題はない。
また上記キック軸110を出力軸48の略垂直方向下方に配置したので、エンジン2の前後長さを小さくすることができるとともに、キック軸110を踏み込み易い位置に配置することができる。
図17ないし図19は、本発明の第2実施形態を説明するための図であり、図中、図1ないし図15と同一符号は同一又は相当部分を示す。本実施形態は、変速機ケース45を空冷するように構成した例である。
上記変速機ケース45は、空気を内部に導入する導入口45eと、空気を外部に排出する排出口45f,45gとを備えている。上記導入口45eは上記アルミニュウム合金製蓋体45bに、上記駆動プーリ55の軸心に一致するように形成されている。この導入口45eには空気導入ダクト45hの下流端開口が嵌合装着されており、該空気導入ダクト45hは蓋体45bにボルト締め固定され、車両前方に向けて延びている。
上記が排出口45f,45gは上記樹脂製のケース本体45aに形成され、上記変速機ケース45とクランクケース22との間の第2空間aに向けて開口している。また上記各排出口45f,45gは、ケース本体45aの、クランク軸28と変速軸47とを結ぶ線Eより上側の領域のみに位置するように、つまり上記各排出口45f,45gの下縁が上記線Eより高所に位置するように、かつ、ケース本体45aのクランク軸挿通孔28′と変速軸挿通孔47′との間に位置するように形成されている。
さらにまた、上記変速機ケース45とクランクケース22との間の第2空間aを囲むように変速機ケース45の外周に沿って壁部100が形成されている。この壁部100は、図19に斜線を施した領域に形成されており、下部(斜線の施されていない領域)には開口100cが形成され、上記第2空間aはこの開口100cにより外部空間に向かって開放されている。
上記壁部100は、上記クランクケース22側に形成されたエンジン側壁部100aと、上記樹脂製のケース本体45a側に形成された変速機側壁部100bとを対向当接させることにより構成されている。
さらにまた上記開口100cは上記潤滑油室95の膨出部22bの上側に位置しており、該膨出部22bと変速機ケース45との間の第1空間bを介して外部に連通している。
本第2実施形態によれば、上記変速機ケース45に、空気を内部に導入する導入口45eと、空気を外部に排出する排出口45f,45gとを設けたので、変速機ケース45内部に空気を導入して該ケース内を積極的に冷却できる。また、上記排出口45f,45gを上記変速機ケース45とクランクケース22との間の第2空間aに向けて開口させるとともに、該第2空間aと第1空間bとを連通させたので、上記変速機ケース45内に導入された空気は、上記排出口45f,45gから第2,第1空間a,bを通って外部に効率良く排出される。そしてこの排出される空気により上記第2空間a,第1空間bに溜まった熱を排除できるとともに、この空気によってもクランケース側,潤滑油室側からの熱の伝達を抑制できる。
また上記排出口45f,45gを、変速機ケース45のクランク軸と変速軸とを結ぶ線Eより上側領域のみに位置するように形成したので、変速機ケース45内に雨水等が進入するのを抑制できる。
また上記排出口45f,45gをそれぞれ変速機ケース45の駆動プーリ55,従動プーリ56の裏面に位置するように形成したので、変速機ケース内に導入された空気を熱の溜まり易いプーリ裏面を通るように流すことができ、変速機ケース45内の温度上昇をより確実に防止できる。
さらにまた上記変速機ケース45とクランクケース22との間の第2空間aの上部を覆う壁部100を形成し、該壁部100の下部に開口100cを形成したので、変速機ケース45とクランクケース22との間の第2空間aから変速機ケース45の上側領域に設けられた排出口45f,45gに雨水等が進入するのを確実に防止できる。
また上記壁部100うち一部を上記樹脂製のケース本体45aに一体形成することで樹脂製としたので、この壁部100を介してクランクケース側の熱が伝達されるのを抑制できる。
なお、上記第1実施形態(図1〜図15)のものに、上記第2実施形態(図17〜図18)で示した空気導入口45e,排出口45f,45gを設けることも可能であり、このようにした場合には変速機ケース45内の温度上昇をより一層確実に抑制できる。