JP4268310B2 - 耐硫化割れ性に優れた接合体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、硫化水素を含む雰囲気で使用される配管や機械部品等、硫化水素に対する耐応力腐食割れ性が求められる部位に使用される接合体およびその製造方法に係わり、より詳細には硫化水素に対する耐応力腐食割れ性に優れた接合体、および優れた耐応力腐食割れ性を維持することを可能ならしめるようにした接合体の製造方法の技術分野に属するものである。
【0002】
【従来の技術】
石油精製、石油化学等の産業分野において用いられる構造物や機器は硫化水素(H2 S)を含む雰囲気にさらされる。この様な環境下で使用される部材は、例え部材の破壊強度以下で使用していたとしても、環境と負荷応力との相互作用により破壊に至る場合があり、本雰囲気にて使用される部材には硫化水素雰囲気に対する耐応力腐食割れ性(耐硫化水素割れ性)が要求される。本環境下で使用される部材やその部材の溶接・接合に対してはNACE(National Association of Corrosion Engineers) MR−0175−94等にて規格化されており,ろう付としては銀ろう付が推奨されている。
【0003】
しかし、NACE MR−0175−94に推奨されている銀ろう付で部材を接合した場合、接合体の強度特性は接合層の銀の影響を強く受ける。すなわち、銀自体の強度があまり高くないため、鋼母材と比較して接合体の強度は低いものとなる。そのため化学工業、石油精製用の配管や機械部品等に用いる際、接合体の設計限界は強度が低い接合部の強度によって支配され、鋼母材の強度を十分に活かして使用することができなかった。
【0004】
また、鋼に対する銀ろうのぬれ性はあまりよくないことが知られている。ぬれ性がよくない場合、接合部に欠陥を生じやすく、接合体の強度低下や気密性の欠如という問題を生じる場合があった。
【0005】
これに対し、特開平9−262685号公報において提案されている接合方法では、低融点材料として、Crを5質量%以上含有する融点1150℃以下のNi基合金を用い、所定の接合面圧、加熱範囲において低融点接合材料の融点以上、被接合材であるステンレス鋼の融点以下に120秒以上加熱することによって母材と同等以上の耐食性、かつ強度および曲げ性に優れた接合部を得ることが示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前述した特開平9−262685号公報によると、接合する母材はCrを9質量%以上含有するステンレス鋼に限定される。本文中の記載にもあるように、十分な耐食性を確保するために母材中のCrは9質量%以上が必要とされる。確かに、9質量%以上のCrを含有するステンレス鋼を用いることによって優れた耐食性を得ることは可能であるが、問題として9質量%以上のCrを含有するステンレス鋼は価格が高く、そのために機器全体が高価になるという問題があった。
【0007】
それに対し、NACE MR−0175−94において、硫化水素雰囲気での使用が認められている低合金鋼や炭素鋼には価格が安いというメリットがある。したがって、腐食環境が穏やかな部分には安価な炭素鋼や低合金鋼を用い、機器全体としてコストを下げたいという要求がある。
【0008】
しかし、前記接合方法を用いて低合金鋼、炭素鋼を接合した場合、接合部が必ずしも十分な耐硫化割れ性および接合強度を持っておらず、使用中に接合部で破断する場合があるという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、接合部にNi基インサート材を介装させ、インサート材の成分を被接合部材に拡散させることによって、耐硫化割れ性に優れた接合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記課題を解決するために、従来例に係わる拡散接合、すなわち、被接合部材同士の間にインサート材を挟み、インサート材の溶融温度以上、被接合部材の溶融温度以下に加熱しインサート材のみを溶融させてインサート材成分を、被接合部材中に拡散させ、被接合部材同士を接合する液相拡散接合において、接合部のCr濃度に着目して鋭意研究を重ね本発明をなしたものである。
【0011】
その要旨は、Ni含有量が1質量%以下である低合金鋼または炭素鋼からなる鉄基部材間にNi基インサート材が介装され、前記インサート材が加熱・溶融される液相拡散接合によって製造される接合体であって、前記接合体における前記Ni含有量が1質量%以下である鉄基部材部分はロックウェル硬さHRC22以下であり、接合体中のNiを5.0質量%以上含有する全領域を接合層としたとき、該接合層の全域にわたる、B(ボロン)とクロムとの化合物を除外したCr含有量が2.0〜10.0質量%であり、かつ前記接合層内におけるB(ボロン)とクロムとの化合物層の厚さが5μm以下であることを特徴とする耐硫化割れ性に優れた接合体である。
【0012】
上記の接合体は接合層内におけるクロム化合物層の厚さを5μm以下とすることによって優れた強度特性が得られる。
【0013】
従って、本発明の接合体は石油精製または化学工業向けの機器、例えば使用中に内圧が作用する配管の接合に好適に使用することができる。
【0014】
本発明に係わる接合体の製造方法は、Ni含有量が1質量%以下である低合金鋼または炭素鋼からなる鉄基部材間にNi基インサート材を介装し、前記インサート材を加熱・溶融することによって鉄基部材間を接合し、その後、熱処理によって前記接合体における前記鉄基部材部分のロックウェル硬さがHRC22以下となるように硬さ調整を行なう接合体の製造方法であって、前記鉄基部材中のCr濃度をX質量%、前記Ni基インサート材中のCr濃度をY質量%としたとき、X、Y、が下記(1)式を満足するとともに、前記加熱・溶融温度をインサート材の液相線温度より100℃以上高温で、1300℃以下にすることを特徴とする。
15≦X+Y≦25(0≦X≦8、8≦Y≦20)……………………(1)
【0015】
前記加熱・溶融温度が液相線温度より100℃以上高温で、1300℃以下とすることにより、優れた強度特性の接合体を得ることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
発明者らは、耐硫化割れ性に優れた接合体を得る方法について種々の検討を行なった。特に接合後における接合層の組成に着目し、接合層の組成と耐硫化割れ性との関係について鋭意研究を行なった。その結果、Ni含有量が1質量%以下である低合金鋼または炭素鋼を接合するに際して、強度および耐硫化割れ性に優れた接合体を得るためには接合層内のCr濃度が重要であるという知見を得て、本発明に至ったものである。そして接合層内のCr濃度と接合体の耐硫化割れ性について各種の試験を行なった結果、母材に関わらず接合層内の全域にわたる、B(ボロン)とクロムとの化合物を除外したCr濃度が2.0質量%以上、10.0質量%以下であり、かつ前記接合層内におけるB(ボロン)とクロムとの化合物層の厚さが5μm以下の場合に、接合体は優れた耐硫化割れ性を有することを見出した。なお、接合層内のCr濃度、Ni濃度などは、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)等により測定したものである。
【0017】
Cr濃度が2.0質量%以下の場合には、接合層の耐食性が低く、硫化水素を含む雰囲気において接合体を使用すると接合層内にき裂を生じ破断する。Cr濃度が10.0質量%以上の場合には、接合層でCrの化合物を生成し易いために接合層のCr化合物層が厚く、このCr化合物層近傍でCrが欠乏するため、接合層の耐硫化割れ性が低下する。なお、接合層内にCrの化合物を生成している場合には局所的にCr濃度が上昇し、局所的に10.0質量%以上の濃度を示す場合がある。本発明のCr濃度はこのような化合物を除外し、接合層のマトリックスの組成で定めるものとする。
【0018】
本発明におけるNiを主成分とする接合層は、接合体中のNiを5.0質量%以上を全領域で含有する層として定義されるが、本接合層の厚さは2.0mm以下であることが望ましい。接合層の厚さが2.0mmを超える場合、接合層の強度が接合体全体の強度を支配し、接合層が低強度であるために接合体の強度が低くなる。
【0019】
さらに本接合体を得る接合方法であるが、安定した強度を得るために母材間のインサート材を溶融させることによって接合するのが好ましい。その際,接合層のCr濃度が決まる過程について鋭意検討を行なった。インサート材を加熱・溶融したとき、若干量ではあるが母材側の鋼の溶融を生じる。したがって、溶融した母材によって希釈を受ける分、インサート材の濃度は接合前とは異なった成分となる。前述した接合層内のCr濃度が2.0質量%以上、10.0質量%以下で、この接合層内におけるクロム化合物層の厚さが5μm以下の接合層を有する接合体を得るためには、Ni含有量が1質量%以下である低合金鋼または炭素鋼のCr濃度をX質量%、インサート材のCr濃度をY質量%としたとき、下記(1)式を満足するようにインサート材を選択し、前記インサート材を低合金鋼、炭素鋼間に介装し、インサート材の液相線温度より100℃以上高温で、1300℃以下で加熱溶融することによって前記低合金鋼、もしくは炭素鋼間を接合するのが有効である。なお、インサート材の形態としてはアモルファス合金等の箔のみでなく、めっき膜や溶射皮膜などでもよい。
15≦X+Y≦25(0≦X≦8、8≦Y≦20)……………………(1)
【0020】
インサート材のCr濃度(Y)が8質量%以下の場合、もしくは低合金鋼、炭素鋼のCr濃度とインサート材のCr濃度との合計(X+Y)が15質量%未満の場合には、接合層のCr濃度が2.0質量%以下となるため、硫化水素を含有する雰囲気では接合層内に硫化割れが生じる。逆にインサート材のCr濃度(Y)が20質量%を超える場合、もしくは低合金鋼、炭素鋼のCr濃度とインサート材のCr濃度との合計(X+Y)が25質量%を超える場合には、母材の希釈を受けても接合層内のCr濃度が高く、接合層内に生成するCr化合物量が多くなる。このCr化合物近傍ではCr濃度が急激に低下するため、接合体の耐硫化割れ性が低下する。
【0021】
特に接合層内におけるCr化合物層の厚さが5μm以下の場合、破壊の起点が接合層にないため、接合体に負荷が作用した場合でも母材で破断し、強度、延性を兼ね備えた接合体となる。接合層内におけるCr化合物層の厚さは、図1に示すように、200〜500倍の光学顕微鏡で観察した任意の接合部断面において見られる円換算粒径で0.5μm以上のCr化合物のうち、最も離れた2化合物間の距離をもってCr化合物層の厚さと定義する。なお、上記光学顕微鏡で観察される0.5μm以上の化合物がCr化合物であるか否かは、この化合物をEPMAにより調べた結果、Crが含まれていることを確認できればCr化合物と判断する。
【0022】
低融点化のためNi基インサート材にはB(ボロン)が含まれる場合が多いが、Bは接合層内にてCrとの化合物を生成する。その結果、接合層内、特にCr化合物近傍において急激なCr濃度の低下を招き、接合層の耐硫化割れ性が低下する。そのため、インサ−ト材に含まれるB濃度は3.0質量%以下であることが望ましい。B濃度が3.0質量%を超える場合には、Crとの化合物量が増加するため,接合層の耐硫化割れ性が低下し、使用中に接合層内にて破断する。B濃度の下限であるが、インサート材中のBはインサート材の融点を下げる目的があるため、B量が少ないインサート材は高融点となり、接合時に母材強度が劣化する。通常、母材の劣化を避けるために低融点のインサート材を用い、極力、低温加熱して接合するので、インサート材のB濃度は好ましくは1.0質量%以上が望ましい。ただし、母材強度は接合後の後熱処理によって回復可能であるため、接合後の後熱処理によって母材強度の回復を図る場合には、インサート材中のB濃度の下限は特に制限を受けない。使用可能なインサート材を表1に非限定的に例示する。
【0023】
【表1】
【0024】
接合時にインサート材を加熱溶融させる温度であるが、インサート材の液相線温度より100℃以上高温で、かつ1300℃以下の場合、接合層内におけるB(ボロン)とCrとの化合物層の厚さが5μm以下となり、母材にて破断する、強度、延性に優れた接合体が得られる。加熱温度がインサート材の液相線温度以下の場合、インサート材のうち局所的に溶融しない部分があり、その部分が低強度となるため、接合体の強度が低くなる。加熱温度が1300℃を超える場合、インサート材が溶融している際の母材溶解量が多く、インサート材中のCr濃度が低下するため、接合層の耐硫化割れ性が劣化する。
【0025】
接合温度がインサート材の液相線温度より100℃高温で、かつ1300℃以下の場合、接合層内におけるCr化合物層の厚さが5μm以下となり、母材にて破断する、強度、延性に優れた接合体が得られる。
【0026】
接合する低合金鋼、炭素鋼であるが、硫化水素を含有する雰囲気にて使用される合金として、NACE規格STD.MR−0175−94に記載されている通り、Ni含有量が1.0質量%以下であり、かつロックウェル硬さ(HRC)が22以下であればよい。使用可能な鉄基合金を非限定的に例示すると、具体的にはC:0.38〜0.45質量%、Mn:0.70〜1.00質量%、P:0.025質量%以下、S:0.024質量%以下、Si:0.15〜0.30質量%、Cr:0.75〜1.10質量%、Mo:0.15〜0.25質量%、Fe:残部、等が挙げられる。これら低合金鋼、炭素鋼以外を用いた場合、母材自体の耐硫化割れ性が低いため,使用中、母材自体の破断を生じ使用できない。
【0027】
また、これら低合金鋼、炭素鋼はNACE規格STD.MR−0175−94に記載の硬さであるロックウェル硬さ(HRC)22以下にて使用する必要がある。しかし、前記接合温度に加熱して接合した場合、接合前には鉄基合金母材を所定の硬さに調質してあったとしても、接合後には所定の硬さを外れてしまう場合がある。その原因は鉄基合金の種類により異なるが、一つの例としては接合後の冷却で鉄基合金母材が焼入れされたことに起因する。その場合、適正な温度にて焼戻しを行なうか、もしくは鉄基合金母材の靭性も回復させるのであれば、再度、焼入れ、焼戻しを行なう必要がある。その温度条件は鉄基合金母材それぞれで異なるが、例えばクロムモリブデン鋼SCM5の場合には900℃以上で焼き入れ、その後、700℃以上で焼戻しを行なうのが望ましい。
【0028】
また、本発明の接合体は、硫化水素を含む雰囲気であり、かつ硫化割れを生じる環境下でも好適に使用することができるが、その雰囲気としては、液体としての水が存在し、かつ全圧が0.4MPa以上で、かつ硫化水素の分圧が0.0003MPa以上の雰囲気として定義される。特に微量の塩素イオンを含む環境下では硫化割れが促進されるが、本発明の接合体はこのような環境下においても使用に耐え得るものである。
【0029】
【実施例1】
以下、本発明の実施例について説明する。実施例1は、表2に示す組成の鉄基合金製ブロックを、表3に示す各種組成のインサート材を介装させて、加熱・溶融してブロック同士を接合した例である。ブロック同士の接合は、図2に示すように、鉄基合金製ブロック1とブロック2との間に厚さ65μmのアモルファス箔インサート材3を介装して加熱・溶融して行なった。接合時の面圧はブロックの自重のみで0.003MPaとなった。接合した後、表4に示す条件で後熱処理を行なった接合体から引張試験片、応力腐食割れ試験片を切り出し、それぞれについて試験を行ない接合体の強度評価を行なった。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
引張試験片は平行部の直径6mm、長さ32mmであり、平行部の中央において負荷方向に対して接合面が直角になるように加工した。また、応力割れ試験片の寸法は、長さ65mm、幅15mm、厚さ1.5mmであり、長さ65mmの中央に接合面がくるように加工した。そして図3に示すように、試験片を試験治具にセットして応力を負荷し、硫化水素を含む雰囲気中での応力腐食割れ試験(硫化割れ試験)に供した。試験雰囲気としては、図3に示す負荷状態の試験片を12ppmの塩素イオンを含む水中に浸し、その溶液を分圧0.032MPaのH2Sで飽和させたものである。なお、図3の負荷状態において、引張側面に作用する負荷応力は表4に示すように、母材耐力(523N/mm2)の60%となるように調整した。試験時間は720時間とし、720時間保持後にクラックの有無を調査した。また、前記ブロックについて、母材のロックウェル硬さ(Cスケール)を測定した。実施例1の接合条件、後熱処理条件、母材硬さおよび試験結果を表4に示す。
【0033】
【表4】
【0034】
表4に示すように、接合層のCr濃度が2.0質量%以上、10.0質量%以下の場合には硫化水素を含む雰囲気中における応力腐食割れ性に優れているため、試験雰囲気での硫化割れは認められない。接合層のCr濃度が2.0質量%未満の場合には硫化水素に対する接合層の耐応力腐食割れ性が低いため、接合層内にて破断を生じた。接合層内のCr濃度が10.0質量%を超える場合には接合層内のCr化合物量が多く、Cr化合物近傍でCrが欠乏しているため、接合層の耐硫化割れ性が低い。また、接合後に適切な後熱処理を施して、低合金鋼、炭素鋼の硬さをHRC22以下に調整することにより、接合部のみならず母材も硫化割れを生じない接合体が得られる。さらに、接合層内のCr化合物層の厚さが5μm以下の場合、破壊の起点が接合層内にないため、引張試験を行なっても母材で破断し、耐硫化割れ性とともに強度、延性を兼ね備えた接合体となる。
【0035】
また、前記接合体を得るための方法であるが、Ni含有量が1質量%以下の低合金鋼または炭素鋼のCr濃度をX質量%、B含有量が3.0質量%以下であるNi基インサート材のCr濃度をY質量%としたとき、下記(1)式を満足するNi基インサート材を、Ni含有量が1質量%以下の低合金鋼または炭素鋼間に介装し、インサート材の液相線温度より100℃以上高温で、1300℃以下に加熱・溶融することによって前記低合金鋼または炭素鋼間を接合した場合には、接合部の耐硫化割れ性に優れた接合体が得られる。しかし、上記条件を外れた条件で接合した接合体は、接合層のCr濃度が低い、もしくは接合層内に生成したCr化合物による、Cr化合物近傍のCrの欠乏層により、接合体の耐硫化割れ性が低下する。
15≦X+Y≦25(0≦X≦8、8≦Y≦20)……………………(1)
【0036】
【実施例2】
実施例2は、表5に示す組成の2種類の鉄基合金製ブロックを、表3に示す各種組成のインサート材を介装させて、加熱・溶融してブロック同士を接合した例である。ブロック同士の接合は、実施例1と同じで図2に示すように、鉄基合金製ブロック1とブロック2との間にインサート材3を介装して加熱・溶融して行なった。接合した後、表6に示す条件で後熱処理を行なった接合体から引張試験片、応力腐食割れ試験片を切り出し、それぞれについて試験を行ない接合体の強度評価を行なった。
【0037】
【表5】
【0038】
引張試験片および応力割れ試験片の寸法、形状は実施例1と同じで、同様に前記ブロックについて、母材のロックウェル硬さ(Cスケール)を測定した。そして応力腐食割れ試験(硫化割れ試験)の試験雰囲気としては、0.030MPaのH2Sの飽和水溶液である。試験片には、図3に示す負荷状態において、引張側面に作用する負荷応力は表6に示すように、母材耐力の50%となるように調整した。試験時間は実施例1と同じく、720時間とし、720時間保持後にクラックの有無を調査した。実施例2の接合条件、後熱処理条件、母材硬さおよび試験結果を表6に示す。
【0039】
【表6】
【0040】
表6に示すように、接合層のCr濃度が2.0質量%以上、10.0質量%以下の場合には硫化水素を含む雰囲気中における応力腐食割れ性に優れているため、試験雰囲気での硫化割れは認められない。接合層のCr濃度が2.0質量%未満の場合には硫化水素に対する接合層の耐応力腐食割れ性が低いため、接合層内にて破断を生じた。接合層内のCr濃度が高い場合には接合層内に多くのCr化合物量を生成し、Cr化合物近傍でCrが欠乏しているため、接合層の耐硫化割れ性が低い。また、接合後に適切な後熱処理を施して、低合金鋼、炭素鋼の硬さをHRC22以下に調整することにより、接合部のみならず母材も硫化割れを生じない接合体が得られる。しかし、母材硬さが前述の値以上の場合には、接合部に硫化割れが生じなくても、母材に硫化割れが生じ母材で破断する。さらに、接合層内のCr化合物層の厚さが5μm以下の場合、破壊の起点が接合層内にないため、引張試験を行なっても母材で破断し、耐硫化割れ性とともに強度、延性を兼ね備えた接合体となる。
【0041】
また、前記接合体を得るための方法であるが、Ni含有量が1質量%以下の低合金鋼または炭素鋼のCr濃度をX質量%、B含有量が3.0質量%以下であるNi基インサート材のCr濃度をY質量%としたとき、下記(1)式を満足するNi基インサート材を、Ni含有量が1質量%以下の低合金鋼または炭素鋼間に介装し、インサート材の液相線温度より100℃以上高温で、1300℃以下に加熱・溶融することによって前記低合金鋼または炭素鋼間を接合した場合には、接合部の耐硫化割れ性に優れた接合体が得られる。しかし、上記条件を外れた条件で接合した接合体は、接合層のCr濃度が低い、もしくは接合層内に生成したCr化合物による、Cr化合物近傍のCrの欠乏層により、接合体の耐硫化割れ性が低下する、または接合部で破断するようになる。
15≦X+Y≦25(0≦X≦8、8≦Y≦20)……………………(1)
【0042】
【発明の効果】
以上述べたところから明らかなように、本発明の耐硫化割れ性に優れ、強度、延性を兼ね備えた接合体は、接合層内の全域にわたる、B(ボロン)とクロムとの化合物を除外したCr濃度を2.0〜10.0質量%の範囲に、かつ前記接合層内におけるB(ボロン)とクロムとの化合物層の厚さを5μm以下に限定し、接合後に後熱処理を行ない母材硬さをロックウェル硬さHRC22以下に抑制しているため、硫化水素を含む雰囲気で使用しても硫化割れは生じず、石油精製、石油化学等で使用される機器、例えば配管等の接合部の接合に最適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】接合層内に生成するCr化合物層の厚さの定義を説明する図である。
【図2】接合体の接合方法を説明する図である。
【図3】応力腐食割れ試験における試験片への負荷方法を説明する図である。
【符号の説明】
1…ブロック、2…ブロック、3…インサート材。
Claims (4)
- Ni含有量が1質量%以下である低合金鋼または炭素鋼からなる鉄基部材間にNi基インサート材が介装され、前記インサート材が加熱・溶融される液相拡散接合によって製造される接合体であって、前記接合体における前記Ni含有量が1質量%以下である鉄基部材部分はロックウェル硬さHRC22以下であり、接合体中のNiを5.0質量%以上含有する全領域を接合層としたとき、該接合層の全域にわたる、B(ボロン)とクロムとの化合物を除外したCr含有量が2.0〜10.0質量%であり、かつ前記接合層内におけるB(ボロン)とクロムとの化合物層の厚さが5μm以下であることを特徴とする耐硫化割れ性に優れた接合体。
- 接合部が請求項1に記載の接合体からなる石油精製または化学工業用配管。
- 接合部が請求項1に記載の接合体からなる機械部品。
- Ni含有量が1質量%以下である低合金鋼または炭素鋼からなる鉄基部材間にNi基インサート材を介装し、前記インサート材を加熱・溶融することによって鉄基部材間を液相拡散接合し、その後、熱処理によって前記接合体における前記鉄基部材部分のロックウェル硬さがHRC22以下となるように硬さ調整を行なう接合体の製造方法であって、前記鉄基部材中のCr濃度をX質量%、前記Ni基インサート材中のCr濃度をY質量%としたとき、X、Y、が下記(1)式を満足するとともに、前記加熱・溶融温度をインサート材の液相線温度より100℃以上高温で、1300℃以下にすることを特徴とする請求項1に記載の接合体の製造方法。
15≦X+Y≦25(0≦X≦8、8≦Y≦20)……………………(1)
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