JP4258072B2 - セロトニン及び5−ヒドロキシインドール酢酸の精製法及び測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、組織抽出液、血清、血漿、尿などの試料中に含まれるセロトニン及び/又は5−ヒドロキシインドール酢酸の精製及び測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
セロトニン(以下5HT)、及び5−ヒドロキシインドール酢酸(以下5HIAA)の同時測定方法としては、液体クロマトグラフを用いた方法が知られている。分離カラムとして逆相カラムを用い、分離カラムの試料による汚れを防ぐために、同じ逆相ゲルのプレカラムを分離カラムの前に配し、試料分析中にモーターバルブを用いて分析カラム流路からはずし自動洗浄する方法(MARLIESKOELら J.Chromatogr.,495(1989) p263)がある。この方法では、5HT及び5HIAAばかりでなく、バニリルマンデル酸、ホモバニリン酸、ドーパミン、トリプトファンも同時に測定できる。
【0003】
また、プレカラムおよび分離カラムとしてどちらも逆相カラムを用い、プレカラムに吸着させる吸着液及び溶出させる溶出液を同じ組成とし、カラムスイッチングによる方法(TORSTEN J.PANHOLZERら Clin.Chem.,45(1999)p262)がある。この方法では、5HT及び5HIAAばかりでなく、ノルエピネフリン、ジヒドロキシフェニル酢酸、エピネフリン、ノルメタネフリン、ホモバニリン酸、メタネフリン、ドーパミンも同時に測定できる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
トリプトファン代謝物の中で、5HTおよび5HIAAはさまざまな疾患との関連で特に重要であり、これら2つの物質を簡便に試料中の不純物質の影響なく測定出来る方法が望まれている。ここでいう不純物質には、さまざまな疾患の治療のために投与された薬物なども含まれる。
【0005】
これまで知られている方法は、5HTおよび5HIAAを含めて複数の代謝物を同時に測定するものである。TORSTEN J.PANHOLZERらの方法(Clin.Chem.,45(1999)p262)は、カラムスイッチングを用いるものの、プレカラムおよび分離カラムどちらも逆相カラムで、プレカラムに吸着させる吸着液及び溶出させる溶出液を同じ組成としており、プレカラムで除去されない不純物質が、分離カラムでも不純物質として問題にになる可能性が高い。
【0006】
また、5HT、5HIAAを含めて多くの成分を同時に測定するためには、プレカラムにおいて5HT、5HIAAを含めて多くの成分を吸着した後、溶出し、分離カラムに導入すればよい。このため、5HT、5HIAAの測定に影響を及ぼす不純物質が分離カラムに導入される可能性も高い。
【0007】
このため投与薬物などの不純物質の影響を受けにくい5HTおよび/又は5HIAAの精製及び測定方法の確立が望まれている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前述した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、セロトニン及び/又は5−ヒドロキシインドール酢酸を含む試料をプレカラムに吸着させる工程、セロトニン及び5−ヒドロキシインドール酢酸をプレカラムから溶出させる工程、及び溶出したセロトニン及び5−ヒドロキシインドール酢酸を回収する工程からなる、セロトニン及び/又は5−ヒドロキシインドール酢酸の精製法において、プレカラムが逆相カラムであり、吸着工程における吸着液がpH5.0以下で、かつ塩基性物質用イオンペア試薬を含んだ溶液であり、また溶出工程における溶出液が前記吸着液に比べpHが1.0以上高い溶液であることを特徴とする方法である。
【0009】
また本発明は、上述の方法により精製したセロトニン及び/又は5−ヒドロキシインドール酢酸を分離カラムに導入し分離する工程、及び分離した各成分を検出または測定する工程からなることを特徴とする、セロトニン及び/又は5−ヒドロキシインドール酢酸の測定方法である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
プレカラムとして用いられる逆相カラムは、シリカ系またはポリマー系のゲルに疎水基として、エーテル基、オクタデシル基、オクチル基、フェニル基などを導入したゲルを充填したカラムが挙げられる。また、ゲル自体が疎水性を有する場合については、疎水基を導入しなくともよい。
【0011】
プレカラムに5HTおよび5HIAAを吸着させる吸着液については、pH5.0以下、好ましくはpH2.0から4.0である。さらに、設定したpHに緩衝能のあるクエン酸、グリシン、酢酸など物質を加えることが望ましい。その濃度は5.0から50mM程度がよい。
【0012】
そして、加える塩基性物質用イオンペア試薬としては、5HTなどの塩基性物質と逆相カラムであるプレカラム中のゲルの疎水表面との相互作用を強める性質を有する試薬であれば特に限定されない。通常、その物質はマイナスチャージを有する分子構造と疎水性を有する分子構造とがつながった分子構造を取る。例えば、過塩素酸ナトリウム、トリクロロ酢酸溶液、1−プロパンスルホン酸ナトリウム、1−ブタンスルホン酸ナトリウム、1−ペンタンスルホン酸ナトリウム、1−ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム、1−オクタンスルホン酸ナトリウム、1−ノナンスルホン酸ナトリウム、1−デカンスルホン酸ナトリウム、1−ウンデカンスルホン酸ナトリウム、1−ドデカンスルホン酸ナトリウム、1−トリデカンスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、2−ナフタレンスルホン酸ナトリウムなどがあげられる。
【0013】
実際に溶液中で塩基性物質用イオンペア試薬の性質を有する分子は、それぞれ、過塩素酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、1−プロパンスルホン酸イオン、1−ブタンスルホン酸イオン、1−ペンタンスルホン酸イオン、1−ヘキサンスルホン酸イオン、1−ヘプタンスルホン酸イオン、1−オクタンスルホン酸イオン、1−ノナンスルホン酸イオン、1−デカンスルホン酸イオン、1−ウンデカンスルホン酸イオン、1−ドデカンスルホン酸イオン、1−トリデカンスルホン酸イオン、ドデシルスルホン酸イオン、2−ナフタレンスルホン酸イオンであるので、これらのイオンを含む試薬であれば良い。例えば、過塩素酸イオンを含む試薬としては、過塩素酸ナトリウム以外に過塩素酸溶液があげられる。
【0014】
イオンペア試薬の濃度は、イオンペア試薬により異なるが、例えば過塩素酸ナトリウム、トリクロロ酢酸であれば10から100mM、望ましくは30〜70mM程度がよい。また、試料中の5HTおよび5HIAAの酸化防止を目的として、エチレンジアミン4酢酸などの金属キレート剤を、防腐剤としてアジ化ナトリウムなどを加えてもよい。
【0015】
プレカラムから5HTおよび5HIAAを溶出するための溶出液としては、少なくとも吸着液に比べpHを1.0以上高くする必要があるが、好ましくはpH5.0から7.0である。設定したpHに緩衝能のあるクエン酸、酢酸、リン酸などの物質を加えることが望ましい。その濃度は5.0から50mM程度がよい。また5HTを速やかに溶出するために、溶出液には塩基性物質用イオンペアを含まない方が好ましく、更にエタノール、メタノール、アセトニトリルなどの有機溶媒を加えることが望ましい。加える有機溶媒濃度は、その種類により異なるがアセトニトリルであれば1.0から10%加えるとよい。また、試料中の5HTおよび5HIAAの酸化防止を目的として、エチレンジアミン4酢酸などの金属キレート剤を、防腐剤としてアジ化ナトリウムなどを加えてもよい。
【0016】
5HTは塩基性物質であり、疎水性は弱い。一方5HIAAは、pHが上昇すると共に酸性の電荷を増し疎水性が弱くなり、pHが低下すると共に酸性の電荷が低下し疎水性が強くなる。これらの性質を利用し、プレカラムとして逆相カラムを用い、吸着液の組成を、5HIAAを吸着させるためにpH5.0以下とし、かつ5HTを吸着させるために塩基性物質用イオンペア試薬を加えた組成とし、更にプレカラムに吸着された疎水性の高い不純物を溶出せずに、5HIAAを速やかに溶出するために、溶出液のpHが吸着液のpHと比較して1.0以上高い溶液とすることにより、プレカラムから5HTおよび5HIAAを含み、それ以外の成分を最小限とした分画を回収することができる。
【0017】
以上のようにして精製された5HTおよび5HIAAを含む溶液を、分離カラムに導入・分離し、分離した成分を検出又は測定することにより、5HTおよび5HIAAの測定を行うことができる。
【0018】
分離カラムとしては、5HT及び5HIAAについて保持できるカラムであれば良い。例えば、弱い疎水性の性質を有した陽イオン交換カラムや、逆相カラムを用いることができる。分離カラムとして用いられる逆相カラムは、シリカ系またはポリマー系のゲルに疎水基として、エーテル基、オクタデシル基、オクチル基、フェニル基などを導入したゲルを充填したカラムが挙げられる。また、ゲル自体が疎水性を有する場合については、疎水基を導入しなくともよい。
【0019】
分離カラムからの分離に使用される溶離液には特に限定はない。しかし、弱い疎水性の性質を有した陽イオン交換カラムを用いる場合は、pH5.0以下の溶離液を用いるとよい。それは5HTは塩基性物質であり、一方5HIAAはpH5.0以下の溶離液を用いれば強い疎水性を有するからである。また逆相カラムを用いる場合は、溶離液のpHに特に限定はなくpH5.0以上でも使用可能である。それは、5HTは弱い疎水性の性質を有し、一方5HIAAはpH5.0以上であっても弱い疎水性の性質を有するからである。
【0020】
さらに逆相カラムを用いる場合は、プレカラムからの溶出液と分離カラムからの溶離液に同じ液を使用することができるため、好ましいものである。その場合には、5HT及び5HIAAの分離をより良好にするために、塩基性物質用イオンペア試薬を加えてもよいが、加える濃度については、プレカラムから5HTを速やかに溶出させるために、吸着液に加えた物と同じ種類の塩基性物質用イオンペア試薬を用いる場合には、吸着液に加えた濃度の半分以下、異なる種類の塩基性物質用イオンペア試薬を用いる場合には、必要最小限の濃度とすることが好ましい。これにより、分離カラムから回収される不純物を最少量とすることができる。
【0021】
分離カラムにより分離された各成分は、検出又は測定されるが、例えば検出系としては、電気化学検出器、蛍光検出器などが挙げられる。蛍光検出器を用いる場合には、例えば5HTおよび5HIAA自身の自然蛍光を用いる方法、ジフェニルエチレンジアミン、ベンジルアミンなどの試薬と反応後、生成された蛍光物質を測定する方法がある。
【0022】
本発明においては、試料をプレカラムに導入し試料中の特定の成分を吸着し、溶出し、分離カラムに導入し分離し、検出・測定するわけであるが、このようなカラムスイッチング操作は、通常、コンピューター制御により自動的に指定した時間に流路が切り替えられる流路切り替えバルブにより行うことができる。本発明を実施するための装置としては、一般的に、カラムスイッチングのための流路切り替えバルブ、溶離液を流すポンプ、流す溶離液の種類を切り替えるための流路切り替えバルブ、オートサンプラー、溶離液中に溶存する気体成分を除去するデガッサーなどを有し、それらをコンピューターにより自動制御出来るものが用いられる。カラムスイッチングのための流路切り替えバルブとしては、通常6方モーターバルブが用いられる。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細な説明をするが、本発明は実施例に限定するものではない。
【0024】
実施例1
図1に装置の構成を示した。装置はHLC−725CAII東ソー(株)製の配管系を変更し用いた。6方モーターバルブは1個用いた。プレカラム(C1)、分離カラム(C2)は、それぞれTSKgelODS−80Ts(サイズ3.2mmI.D.×30mm)、TSKgelODS−80Ts(サイズ4.6mmI.D.×120mm)どちらも東ソー(株)製を用いた。ポンプはすべてレシプロ型ポンプで、流速はポンプ1,2,3,4(P1,P2,P3,P4)それぞれ1.0ml/min,0.7ml/min,0.25ml/min,0.25ml/minとした。デガッサ(D)は、オンライン真空脱気式を用い、吸着液(E1),洗浄液(E2),溶出・溶離液(E3)、反応液1,2(R1,R2)のすべてをポンプの前に脱気するようにした。オートサンプラー(AS)は、ループを500μLとした。リアクター(RE)はテフロン配管0.4mmI.D.×20mとし、設定温度は90℃とした。蛍光検出器(FS)は、光源にキセノンランプを用い、励起波長340から360nm、蛍光波長470nm以上とした。
【0025】
吸着液(E1)の組成は10mMグリシン、50mM過塩素酸ナトリウム pH3.0とし、洗浄液(E2)はカテコールアミン測定用試薬溶離液BII(東ソー株式会社製)を、溶出液及び溶離液としてはいずれも溶出・溶離液(E3)を用い、その組成は10mM酢酸ナトリウム、150mM硝酸アンモニウム、2%アセトニトリルpH5.5とした。また5HT及び5HIAAの検出のために用いられる反応液1(R1)は50%アセトニトリル、40mMベンジルアミンとし、反応液2(R2)は、50%アセトニトリル、5mM四ほう酸ナトリウム、6mMフェリシアン化カリウム pH10.0とした。
測定中の6方モーターバルブ、3方電磁弁の切り替えタイミングは、6方モーターバルブ1(M1):ON1.9min−OFF12.0min、3方電磁弁1(S1):ON12.0min−OFF17.0min、3方電磁弁2(S2):ON29.0min−OFF30.5min、とし、測定サイクルは35.5minとした。
【0026】
標準試料は、イオン交換水1Lに0.19gアスコルビン酸、0.38gエチレンジアミン4酢酸2ナトリウム、34mL 60%過塩素酸溶液を加えて均一にした希釈液を用い、5HT(シグマ製)、5HIAA(シグマ製)それぞれ10pmol/mlの濃度になるよう調製した。血漿は、同じ希釈液で20倍に希釈し、遠心分離後の上清を試料として用いた。尿は、同じ希釈液で500倍希釈し、そのまま試料として用いた。試料注入量は500μLとした。
【0027】
血漿は、患者血漿4検体、健常人血漿1検体を用いた。尿は患者尿2検体、健常人尿1検体を用いた。
【0028】
測定結果を、図2から10に示した。図2は標準試料の測定結果であり、5HTと5HIAAのピークが確認された。図3〜6はそれぞれ患者血漿1〜4、図7は健常人血漿の測定結果である。血漿試料では、5HTと5HIAAのピークが確認された。図8,9はそれぞれ患者尿1,2、図10は健常人尿の測定結果である。尿試料では、5HIAAのみが確認され、5HTは感度以下であった。以上のように、すべての試料において良好な測定結果が得られた。
【0029】
【発明の効果】
本発明により、試料中の不純物質の影響を受けにくいセロトニン及び/又は5−ヒドロキシインドール酢酸の精製及び測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で使用した測定装置の概要図である。
【図2】実施例1の標準試料の測定結果を示す図である。
【図3】実施例1の患者血漿1の測定結果を示す図である。
【図4】実施例1の患者血漿2の測定結果を示す図である。
【図5】実施例1の患者血漿3の測定結果を示す図である。
【図6】実施例1の患者血漿4の測定結果を示す図である。
【図7】実施例1の健常人血漿の測定結果を示す図である。
【図8】実施例1の患者尿1の測定結果を示す図である。
【図9】実施例1の患者尿2の測定結果を示す図である。
【図10】実施例1の健常人尿の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
E1 吸着液
E2 洗浄液
E3 溶出・溶離液
R1 反応液1
R2 反応液2
D デガッサー
S1 3方電磁弁1
S2 3方電磁弁2
P1 ポンプ1
P2 ポンプ2
P3 ポンプ3
P4 ポンプ4
RE リアクター
FS 蛍光検出器
AS オートサンプラー
C1 プレカラム
C2 分離カラム
M1 6方モーターバルブ
Claims (5)
- セロトニン及び/又は5−ヒドロキシインドール酢酸を含む試料をプレカラムに吸着させる工程、セロトニン及び5−ヒドロキシインドール酢酸をプレカラムから溶出させる工程、及び溶出したセロトニン及び5−ヒドロキシインドール酢酸を回収する工程からなる、セロトニン及び/又は5−ヒドロキシインドール酢酸の精製法において、プレカラムが逆相カラムであり、吸着させる工程における吸着液がpH5.0以下で、かつ塩基性物質用イオンペア試薬を含んだ溶液であり、また溶出させる工程における溶出液が前記吸着液に比べpHが1.0以上高い溶液であり、かつ塩基性物質用イオンペア試薬が含まれない溶液であることを特徴とする方法。
- 請求項1に記載の精製法において、プレカラムからセロトニンおよび5−ヒドロキシインドール酢酸を溶出する溶出液に、有機溶媒が含まれることを特徴とする方法。
- 請求項1又は2に記載の方法により精製したセロトニン及び/又は5−ヒドロキシインドール酢酸を分離カラムに導入し分離する工程、及び分離した各成分を検出または測定する工程からなることを特徴とする、セロトニン及び/又は5−ヒドロキシインドール酢酸の測定方法。
- 請求項3に記載の測定方法において、分離カラムとして逆相カラムを用いることを特徴とする方法。
- 請求項3又は4に記載の測定方法において、プレカラムからの溶出液と分離カラムからの溶離液とが同じ組成であることを特徴とする方法。
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