JP4256657B2 - スピンドルモータ及びこのスピンドルモータを用いたディスク駆動装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、オイルを作動流体とする動圧軸受を使用するスピンドルモータ及びこれを備えたディスク駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ハードディスク等の記録ディスクを駆動するディスク駆動装置において使用されるスピンドルモータの軸受として、シャフトとスリーブとを相対回転自在に支持するために、両者の間に介在させたオイル等の潤滑流体の流体圧力を利用する動圧軸受が種々提案されている。
【0003】
このような従来の動圧軸受を使用するスピンドルモータは、ロータハウジングと一体的に回転する軸の外周面と、この軸が回転自在に挿通される中空円筒状の軸受の内周面との間に、一対のラジアル動圧軸受部が軸線方向に離間して構成され、また軸の下端部外周に嵌合固定されるスラスト板の上面とこれに対向する軸受の対向面との間並びにスラスト板の下面とこれに対するスラスト受けの対向面との間に、それぞれスラスト動圧軸受部が構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この従来のスピンドルモータにおける軸受装置は、軸受の下端に埋め込まれたスラスト受けによって軸受の軸線方向下部側が密封され、上部側が開放された片袋構造になっており、各動圧軸受部に形成される微小間隙はそれぞれつながっていて、オイルが途切れることなく連続して保持されている(このようなオイル保持構造を、以下「フルフィル構造」と記す)。
【0005】
フルフィル構造の動圧軸受は、軸受部の構造が簡略化され、低コスト化に向くという利点を有する一方、動圧軸受を構成するシャフトやスリーブといった部材や、回転時にオイルに動圧を誘起するための動圧発生溝の加工や組立誤差に起因して、オイルの内圧に不均衡が生じ、気泡の発生や、ロータが設計値以上に浮上してしまう、いわゆる過浮上の問題が生じる懸念がある。
【0006】
このような懸念を排除するために、シャフト部の外周面に内周面が正六角柱形状の軸受リングを嵌め合わせたり、あるいは内周面に放射状に突出する複数の当接部を設けた軸受リングを嵌め合わせ、シャフト部の外周面と軸受リングの内周面との間に軸線方向のオイル通路を形成してオイル内圧の均衡を図るが知られている(例えば、特許文献2参)。
【0007】
【特許文献1】
特開2002−054636号公報(第3−4頁、第1図)
【特許文献2】
特開2000−295816号公報(第5−9頁、第1−6図)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、軸受リングのように円筒状の部材の場合、原材料となる金属製のパイプ部材を加工機のチャッキング部に保持させ、これを回転させながらバイトにて切削加工して形成する方法が一般的である。従って、円筒状部材の内周面を多角形状に加工するのは困難であり、また放射状の突起を形成するためには、バイトを変更して加工を行う必要があり、このため、加工工数が増加してコスト増につながることとなる。
【0009】
また、組立時の応力変形や接着剤の侵入によって、このようなオイル通路が分断され所期のオイルの流通が阻害される懸念もある。
【0010】
本発明は、小型・薄型で簡略な構造及び所望の軸受剛性を維持しつつ、負圧又はロータの過浮上の発生を防止し、低コスト化が可能であると共に、耐焼き付き性に優れた信頼性の高いスピンドルモータ及びこのスピンドルモータを用いたディスク駆動装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1は、シャフトと、該シャフトが回転自在に遊挿される貫通孔が形成されたスリーブと、回転軸心に該シャフトが一体に設けられた円形の天板と該天板の外周縁から垂下される円筒壁とを有するロータと、該スリーブに形成される貫通孔の一方の端部を閉塞する閉塞部材とを備えてなるスピンドルモータであって、
前記シャフトの外周面には、単一部材から構成された円筒状の外筒部材が装着され、前記スリーブの上端面と前記ロータの天板の底面、前記スリーブの内周面と前記外筒部材の外周面並びに前記閉塞部材の内面と前記シャフト及び前記外筒部材の下端面との間には、連続する微小間隙が形成され、
前記微小間隙内及び前記外筒部材の上端面と前記ロータの天板の底面との間は外気に連通しない閉空間を構成し、前記閉空間には、全体にわたってオイルが途切れることなく連続して保持されており、
前記スリーブの内周面及び前記外筒部材の外周面の少なくともいずれか一方の面には、一対のスパイラルグルーブを連接してなるヘリングボーングルーブが動圧発生溝として設けられたラジアル動圧軸受部が構成され、
前記スリーブの上端面及び前記ロータの天板の底面の少なくともいずれか一方には、前記ロータの回転時に前記オイルに対して半径方向内方に向かう圧力を付与する動圧発生溝が設けられたスラスト動圧軸受部が構成され、
前記外筒部材は、多孔質体から形成され、前記外筒部材には全体にわたって前記オイルが含浸されており、
前記スリーブの上端面と前記ロータの天板の底面との間に形成される微小間隙並びに前記外筒部材の上端面と前記ロータの天板の底面との間に形成される微小間隙と、前記閉塞部材の内面と前記シャフト及び前記外筒部材の下端面との間に形成される微小間隙と、に保持される前記オイルは該多孔質体内を通じて流通可能に保持され、
前記微小間隙および前記閉空間を含む前記スラスト軸受部より内側の隙間は外気に連通せずに形成され、該内側の隙間は前記オイルで満たされていることを特徴とする。
【0012】
この構成は、フルフィル構造の動圧軸受を用いた小型・薄型のスピンドルモータにおいて、簡略且つ安価な構成にて軸受部内に保持されるオイルの圧力の均衡をはかり、負圧並びに過浮上の発生を防止することを可能とするものである。
【0013】
すなわち、シャフトの外周面に多孔質体からなる外筒部材を装着し、多孔質体内を通じて、スリーブの内周面と外筒部材の外周面との間に形成される微小間隙の軸線方向上下端部に保持されるオイルを流通可能に保持しておくことで、軸受構成部材の加工公差や組立に起因する応力変形等によって軸受内に保持されるオイルの圧力にアンバランスが生じても、外筒部材内を通じてオイルが高圧の領域から低圧の領域側に流動可能となるため、オイル内の負圧やロータの過浮上に起因する問題が解消される。
【0014】
このように多孔質体を用いることで、複雑な加工を要せずともオイルの流通路を確保することが可能になると共に、ラジアル動圧軸受部の耐焼き付き性の向上が可能になる。加えて、外筒部材の装着によっても、オイルの流通路が分断される懸念も無い。
【0015】
更に、シャフトの外周面と外筒部材との間にオイルの流通路を形成する場合に比べて、ラジアル動圧軸受部を小径にすることができ、オイルの粘性抵抗に起因する損失が低減され、より高効率な軸受とすることができる。
【0016】
また、本発明の請求項2は、請求項1に記載のスピンドルモータにおいて、前記多孔質体から形成される外筒部材の外周面のうち、少なくとも前記ラジアル動圧軸受部を構成する部位には封孔処理が施されている、ことを特徴とする(請求項2)。
【0017】
更に、本発明の請求項3は、請求項1に記載のスピンドルモータにおいて、前記多孔質体から形成される外筒部材の外周面のうち、少なくとも前記ラジアル動圧軸受部を構成する部位には硬質化処理が施されている、ことを特徴とする。
【0018】
加えて、本発明の請求項4は、請求項1乃至3のいずれかに記載のスピンドルモータにおいて、前記ラジアル動圧軸受部は、軸線方向に離間して一対形成されると共に、該一対のラジアル動圧軸受部のうち、前記スラスト動圧軸受部に近接する側に位置するラジアル動圧軸受部に形成される前記ヘリングボーングルーブは、前記ロータの回転時に前記オイルに対して前記閉塞部材の内面とシャフトの下端面との間に形成される軸受部側に向かう圧力が付与されるよう軸線方向に非対称な形状のスパイラルグルーブを連接して形成されており、また前記スラスト動圧軸受部から離間する側に位置するラジアル動圧軸受部に形成される前記ヘリングボーングルーブは、前記ロータの回転時に前記オイルに対して軸線方向に対称となる圧力勾配の流体動圧が付与されるよう実質的に同等な形状のスパイラルグルーブを連接して形成されている、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項5は、情報を記録できる円板状記録媒体が装着されるディスク駆動装置において、ハウジングと、該ハウジングの内部に固定され該記録媒体を回転させるスピンドルモータと、該記録媒体の所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを有するディスク駆動装置であって、前記スピンドルモータは、請求項1乃至4のいずれかに記載したスピンドルモータである、ことを特徴とする。
【0020】
尚、請求項1以外の請求項に記載する発明は、本発明の実施形態に即した構成に関するものであり、重複した記載を避けるために、各請求項に係る発明の構成による作用効果並びにその原理に関しては、下記発明の実施の形態及び発明の効果において詳述する。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るスピンドルモータ及びこのスピンドルモータを用いたディスク駆動装置の実施形態について図1乃至図4を参照して説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0022】
(1)スピンドルモータの構成
図1に図示されるごとく、本発明の実施形態に係るスピンドルモータは、略カップ状のロータハブ2aと、このロータハブ2aの回転中心に一体的に設けられたシャフト2bとから構成されるロータ2と、ブラケット4に設けられた円形ボス部4aに固着された中空円筒状のスリーブ6とこのスリーブ6の一方の開口端部を閉塞するカバー部材8とを有する。
【0023】
ロータハブ2aの内周面にはロータマグネット10が接着等の手段によって取付けられている。また、円形ボス部4aの外周面にはこのロータマグネット10と半径方向に対向してステータ12が固着される。
【0024】
シャフト2bの外周面には、円筒状の外筒部材14が接着等の手段によって装着されている。この外筒部材14は多孔質焼結体からなり、その材質については特に限定はなく、各種金属粉末や金属化合物粉末、非金属粉末を原料として成形、焼結したものが使用できる。原料としてはFe−CuやCu−Sn、Cu−Sn−Pb、Fe−Cなどが挙げられる。この多孔質焼結体製のスリーブ8内には、後に述べる軸受間隙に保持されるのと同じオイルが含浸されている。
【0025】
また、図1において斜線にて示すように、外筒部材14の外周面側表面には、封孔処理部14aが形成されており、後に詳述する動圧軸受部で誘起した動圧が多孔質体内の空孔を通じて減圧されることがないよう配慮がなされている。この場合、封孔処理部14aには、例えば目潰し加工等の機械加工、表面に露出した空孔内への樹脂等の含浸、あるいは、ニッケル等の金属にるメッキ被膜の形成や、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング等の手段により封孔処理が施される。とりわけ、電解又は無電解ニッケルメッキやDLC等による表面硬質化処理によって封孔処理部14aを形成した場合には、動圧軸受部に多孔質体を用いた場合に懸念される摩耗の問題が軽減されるので、軸受部の信頼性並びに耐久性が改善される。
【0026】
尚、図1に図示する実施形態では、封孔処理部14aは外筒部材14の外周面全体に形成されているが、外周面のうち、ラジアル動圧軸受部を構成する部分にのみ形成することも可能である。
【0027】
スリーブ8の中心部を軸線方向に貫通する貫通孔(軸受穴)には、シャフト2b及び外筒部材14が挿通されている。外筒部材14の外周面は、スリーブ8の内周面と間隙を介して半径方向に対向し、またシャフト2b及び外筒部材14の端面は、カバー部材8の内面と間隙を介して軸線方向に対向している。スリーブ6は、その上方側の端面が外筒部材14の上方側の端面よりも幾分ロータハブ2a側に突出するよう取付けられている。
【0028】
これらスリーブ6の上方側の端面とロータハブ2aの下方側面との間に形成される間隙と、スリーブ6の内周面と外筒部材14の外周面との間に形成される間隙と、カバー部材8の内面とシャフト2b及び外筒部材14の端面との間に形成される隙間(これらの各隙間を合わせて、以下「軸受隙間」と記載する)とは全て連続している。これら連続する各隙間には、オイルが途切れることなく連続して保持されており、フルフィル構造の軸受を構成している。
【0029】
スリーブ6の外周面の上端部には、半径方向外方に突設され且つ外周面がその上端面から離間するにつれて縮径するよう傾斜面状に形成された環状フランジ部6aが設けられている。また、ロータハブ2aには、下方側面の半径方向外端部にブラケット4側に垂下する周壁部2cが設けられている。この周壁部2cの内周面とフランジ部6aの外周面とは、非接触状態で半径方向に対向している。
【0030】
この周壁部2cの内周面とフランジ部6aの外周面との間に規定される間隙の半径方向の間隙寸法は、フランジ部6aの外周面が上記のとおり傾斜面状に形成されることで、ブラケット4側(周壁部2cの先端部方向)に向かってテーパ状に漸増する。すなわち、この周壁部2cの内周面とフランジ部6aの外周面とが協働してテーパシール部16を構成している。上述した軸受間隙内に保持されるオイルは、このテーパシール部16のみにおいて、オイルの表面張力と外気圧とがバランスされ、オイルと空気との界面がメニスカス状に形成される。
【0031】
テーパシール部16は、オイルリザーバとして機能し、テーパシール部16内に保持されるオイル量に応じて界面の形成位置が適宜移動可能である。従って、テーパシール部16内に保持されるオイルが、オイル保持量の減少にともない後に説明する軸受部に供給されると共に、熱膨張等によって体積が増大した分のオイルは、このテーパシール部16内に収容される。
【0032】
このように、スリーブ6のフランジ部6aの外周面とロータハブ2aの周壁部2cの内周面間にテーパ状間隙を形成し、表面張力を利用したテーパシール部16を構成することで、テーパシール部16がより大径となると共に、テーパシール部16の軸線方向寸法も比較的に大とすることができる。従って、テーパシール部16内の容積が増大し、フルフィル構造の動圧軸受に多量に保持されるオイルの熱膨張に対しても十分に追随可能となる。
【0033】
周壁部2cのテーパシール部16よりも先端部には、接着等の手段によって環状の抜止めリング18が固着されている。この抜止めリング18がフランジ部6bの下部に対して非接触状態で嵌り合うことで、スリーブ6に対するロータ2の抜け止め構造が構成される。このように、スリーブ6の外周面側においてロータ2の抜止め構造を構成することで、後に詳述する一対のラジアル動圧軸受部と抜止め構造とが軸線方向における同一線上に整列配置されることはない。従って、相互に対向する外筒部材14の外周面とスリーブ6の内周面との軸線方向の高さ寸法全体を軸受として有効に活用することが可能になり、軸受剛性を維持しながら更なるモータの薄型化が実現される。
【0034】
抜止めリング18の上面とフランジ部6aの下面並びに抜止めリング18の内周面とスリーブ6の外周面とは、テーパシール部16に連続し且つテーパシール部16の半径方向の間隙の最小の隙間寸法よりも小な隙間寸法を有する間隙を介して対向している。
【0035】
このとき、抜止めリング18の上面とフランジ部6aの下面との間に規定される軸線方向の間隙並びに抜止めリング18の内周面とスリーブ6の外周面との間に形成される半径方向の隙間の間隙寸法を可能な限り小さく設定することによって、スピンドルモータの回転時に、これら抜止めリング18とスリーブ6との間の間隙における空気の流速とテーパシール部16に規定される半径方向の間隙における空気の流速との差が大きくなり、オイルが気化することによって生じた蒸気の外部への流出抵抗を大きくしてオイルの境界面近傍における蒸気圧を高く保ち、更なるオイルの蒸散を防止するよう、ラビリンスシールとして機能する。
【0036】
このように、テーパシール部16に連続してラビリンスシールを設けることで、液体としてのオイルの流出が阻止されるばかりでなく、モータの外部環境温度の上昇等によりオイルが気化することで発生するオイルミストのモータ外部への流出も阻止することが可能となる。従って、オイル保持量の低下を防止して、長期間にわたって安定した軸受性能を維持することができ、耐久性、信頼性の高い軸受とすることができる。
【0037】
(2)軸受部の構成
図2はスリーブ6の断面図であり、これに図示される如く、スリーブ6の内周面には、その上端側に、ロータ2の回転時にオイルに流体動圧を誘起するために、回転方向に対して相反する方向に傾斜する一対のスパイラル溝を連結して構成される略「く」の字状のヘリングボーングルーブ20aが形成されており、外筒部材14の外周面との間で上部ラジアル動圧軸受部20が構成される。
【0038】
上部ラジアル動圧軸受部20のヘリングボーングルーブ20aは、上方側に位置するスパイラル溝部が下方側に位置するスパイラル溝部よりも軸線方向寸法が大に形成されており、ロータ2の回転に応じて、軸受部の中心から下方側に偏倚した部位で動圧の極大点が発生すると同時に、オイルを下方側に押し込む圧力が生じるよう形成されている。この押し込み圧によって、上部ラジアル動圧軸受部20よりも下方側に位置する間隙内に保持されるオイルの内圧が大気圧以上に保たれる。
【0039】
また、スリーブ6の内周面には、その下端側に、ロータ2の回転時にオイルに流体動圧を誘起するために、回転方向に対して相反する方向に傾斜する一対のスパイラル溝を連結して構成される略「く」の字状のヘリングボーングルーブ22aが形成されており、シャフト2bの外周面との間で下部ラジアル動圧軸受部22が構成される。
【0040】
下部ラジアル動圧軸受部22に形成されるヘリングボーングルーブ22aは、各スパイラルグルーブが実質的に同等のポンピング力を発生するよう、軸線方向の寸法、回転方向に対する傾斜角あるいは溝幅や深さといった溝諸元が同一となるよう設定される、つまり、各スパイラルグルーブが連結部に対して線対称になるよう設定されている。従って、下部ラジアル動圧軸受部22では、軸受部の軸線方向中央部において最大動圧が現れる。
【0041】
スリーブ6の内周面のうち、上部ラジアル動圧軸受部20と下部ラジアル動圧軸受部22との間に位置する部分には、図2に示すように、その内径が拡大する逃げ部6bが形成されている。この逃げ部6bが形成される部位において外筒部材14の外周面との間に形成される軸受間隙が拡大し、オイルの粘性抵抗による損失が低減される。
【0042】
上記したとおり、スリーブ6とともに上部及び下部ラジアル動圧軸受部20,22を構成する外筒部材は、表面に封孔処理部14aが形成された多孔質体よりなるので、ロータ2の回転時に、外筒部材14とスリーブ6との接触摺動が生じた場合も、焼き付きによるロックの発生が防止され、信頼性を向上することができる。
【0043】
更に、図3に図示されるように、スリーブ6の上端側の端面には、ロータ2の回転時にオイルに対して半径方向内方(シャフト2b側)に向かう圧力を誘起するポンプインのスパイラルグルーブ24aが形成されており、ロータハブ2aの下方側面との間でスラスト動圧軸受部24が構成される。
【0044】
これら上部及び下部ラジアル動圧軸受部20,22に設けられるヘリングボーングルーブ20a,22aは、例えば電解加工やボール転造等の切削加工あるいはコイニング等のプレス加工によって形成することができる。
【0045】
(3)軸支持方法
次に、上記のとおり構成された各軸受部による軸支持方法について詳述する。
【0046】
上部及び下部ラジアル動圧軸受部20,22では、ロータ2の回転にともない、ヘリングボーングルーブ20a,22aによるポンピング力が高まり、流体動圧が生じる。上部及び下部ラジアル動圧軸受部20,22における圧力分布は、ヘリングボーングルーブ20a,22aの両端側から急激に高まり、各スパイラルグルーブの連結部付近において極大となる。この上部及び下部ラジアル動圧軸受部20,22で発生する流体動圧を用いて、ロータ2がスリーブ8及びシャフト2bの軸線方向上下部から支持され、ロータ2の調芯作用及び倒れに対する復元作用を担っている。
【0047】
スラスト動圧軸受部24では、ロータ2の回転にともない、ポンプインのスパイラルグルーブ24aによって、オイルに半径方向内方に向かう圧力が誘起される。この半径方向内方に向かう圧力によって、オイルの内圧が高められ、ロータ2の浮上方向に作用する流体動圧が発生すると共に、スラスト動圧軸受部24よりも軸受隙間の奥側(閉塞端部6a側)に保持されるオイル全体の圧力が正圧に保たれることとなる。尚、スラスト動圧軸受部24で誘起される流体動圧は、上部及び下部ラジアル動圧軸受部20,22のように急激に高まることはなく、最大でも大気圧を幾分上回る程度である。このスラスト動圧軸受部24で発生する半径方向内方に向かう圧力によって、スラスト動圧軸受部24よりも軸受隙間の奥側に保持されているオイルは、圧力的に実質上密封された状態となる。
【0048】
また、上部ラジアル動圧軸受部20に形成されるヘリングボーングルーブ20aを軸線方向に非対称な形状とし、オイルに対して下方側へと押圧する動圧を発生することで、その軸受部の中心部から幾分下部ラジアル動圧軸受部22側に偏倚した部位で極大となる動圧を発生し、シャフト2bを軸線方向上方から支持すると共に、上部ラジアル動圧軸受部20と下部ラジアル動圧軸受部22との間の領域の圧力が大気圧以上の正圧に保たれ、負圧の発生が防止される。
【0049】
尚、上記のとおり、スラスト動圧軸受部24で発生する圧力は、大気圧を幾分上回る程度であり、これのみでロータ2を十分に浮上させるのは困難である。しかしながら、シャフト2b及び外筒部材14の端面とカバー部材8の内面との間に保持されたオイルの内圧も、スラスト動圧軸受部24で誘起される流体動圧によって高められたオイルの内圧と同等の圧力となるよう伝播されるので、静圧軸受部として機能する。これらスラスト動圧軸受部24と静圧軸受部との協働によって、ロータ2を十分に浮上させることが可能となる。
【0050】
また、ブラケット4のロータマグネット10との対向位置に強磁性材からなる環状のスラストヨーク26を配置し、ロータマグネット10とスラストヨーク26との間で軸線方向の磁気吸引力を発生させることで、スラスト動圧軸受部24及びシャフト2b及び外筒部材14の端面とカバー部材8の内面との間の静圧軸受部で発生するロータ2の浮上圧とバランスさせて、ロータ2のスラスト方向の支持を安定させている。このようなロータ2に対する磁気的な付勢は、例えば、ステータ12とロータマグネット10との磁気的中心を軸線方向に相違させることによっても作用させることが可能である。
【0051】
(4)オイル内圧の補償
上記したとおり外筒部材14は外周面側に封孔処理部14aが形成された多孔質体から形成されている。また、この多孔質体内には軸受間隙に保持されているオイルと同じオイルが含浸されている。
【0052】
上部及び下部ラジアル動圧軸受部20,22が構成されるスリーブ6の内周面と外筒部材14の外周面との間に形成される微小間隙が所定の寸法を維持している場合、あるいは、ヘリングボーングルーブ20a,22aが所定の精度を維持して形成されている場合には、各軸受部に保持されるオイルは少なくともスラスト動圧軸受部24で発生する圧力と等価となり、オイルの内圧が負圧となることはない。
【0053】
しかし、スリーブ6の内周面又は外筒部材14の外周面の加工誤差によって、スリーブ6の内周面と外筒部材14の外周面との間に形成される微小間隙が、その軸線方向上端部側が下端部側よりも広く形成されると、下部ラジアル動圧軸受部22側の発生する動圧が上部ラジアル動圧軸受部20で発生する動圧を上回り、軸線方向下方側から上方側へと向かうオイルの流動が発生して、カバー部材8によって閉塞されるスリーブ6の一方の端部側、すなわち軸受隙間の奥側に保持されているオイルの内圧が負圧となる懸念がある。また、スリーブ6の内周面と外筒部材14の外周面との間に形成される微小間隙が、その軸線方向上端部側が下端部側よりも狭く形成された場合には、上部ラジアル動圧軸受部20に設けられたヘリングボーングルーブ22aの発生する動圧が所定圧以上となり、シャフト2b及び外筒部材14の端面とカバー部材8の内面との間に保持されるオイルの内圧が必要以上に高まってロータ2の過浮上が発生する懸念がある。
【0054】
これに対し、外筒部材14を多孔質体から形成することで、上述したような軸受間隙内に保持されるオイルの圧力に不均衡が生じた場合にも、オイルの圧力が高い側から低い側へと多孔質体内を通じてオイルが流通するので、圧力の均衡がはかられ、負圧や過浮上の発生が防止される。
【0055】
また、上部ラジアル動圧軸受部20に設けられるヘリングボーングルーブ20aを軸線方向に非対称な形状とし、オイルに対して下方側へと押圧する動圧を発生することで、上部ラジアル動圧軸受部20と下部ラジアル動圧軸受部22との間の領域の圧力が大気圧以上の正圧に保たれ、負圧の発生が防止されると共に、ヘリングボーングルーブ20aの発生する押圧力によって、オイルは常に多孔質体内を通じて循環することとなる。
【0056】
これにより、軸受隙間内のオイルが常に一定方向に流動することとなり、圧力の均衡がはかられるので、負圧による気泡の発生やロータ2の過浮上の発生が防止されると共に、加工誤差に対する許容範囲が格段に拡大するので、歩留まりが改善される。
【0057】
尚、多孔質体から形成される外筒部材14の上端がスラスト動圧軸受部24よりも半径方向内方側に開口するよう配置することで、大気圧よりも高圧な領域内でオイルの圧力が一定に保たれるようになる。このように、スラスト動圧軸受部24によって、これよりも軸受部の奥側は圧力的に密封された状態となる。
【0058】
例えば、外筒部材14の上端がスラスト動圧軸受部24よりもオイルの界面側に位置していた場合、モータの定常回転時等軸受部で所定の動圧が発生している間は十分な支持剛性が得られているため、軸受部の接触や摺動が発生する可能性は低い。しかし、モータの停止時等モータの回転速度が低下すると、外筒部材14の上端が圧力的に密封された領域以外の部分、すなわち、オイルの圧力が大気圧と同等もしくはそれ以下の領域に開口していることで、軸受部内で高く維持されていたオイルの圧力が、多孔質体内にあるオイルの圧力との差圧によって急激に低下することとなる。
【0059】
このように軸受部内の圧力が急激に低下することで、ロータ2は容易に触れ回ったり偏心したりして、シャフト2bやスリーブ6等軸受部を構成する部材に接触や摺動が発生することとなる。これは、ロータハブ2aに載置される記録ディスクを含むロータ2の重量アンバランス、モータを構成する部材の加工や組立公差あるいはステータ12とロータマグネット10との間に作用する磁気力のアンバランス等が原因と考えられるが、このような軸受部の接触や摺動がモータが停止する度に繰り返されることで、軸受部を構成する部材の摩耗や損傷が顕著となり、モータの信頼性や耐久性を低下させる。
【0060】
これに対し、外筒部材14の上端がスラスト動圧軸受部24の半径方向内方に位置することで、モータが完全に停止する直前までスパイラルグルーブ24aによるポンピングが作用し、オイルには半径方向内方側に作用する流体動圧が誘起され続ける。従って、スラスト動圧軸受部24が圧力的な隔壁として働くので、軸受部内の圧力の低下が緩やかになり、軸受部を構成する部材の接触や摺動が緩和され、モータの信頼性や耐久性の低下が抑制される。
【0061】
(5)ディスク駆動装置の構成
図4に、一般的なディスク駆動装置50の内部構成を模式図として示す。ケーシング51の内部は塵・埃等が極度に少ないクリーンな空間を形成しており、その内部に情報を記憶する円板状のディスク板53が装着されたスピンドルモータ52が設置されている。加えてケーシング51の内部には、ディスク板53に対して情報を読み書きするヘッド移動機構57が配置され、このヘッド移動機構57は、ディスク板53上の情報を読み書きするヘッド56、このヘッドを支えるアーム55及びヘッド56及びアーム55をディスク板53上の所要の位置に移動させるアクチュエータ部54により構成される。
【0062】
このようなディスク駆動装置50のスピンドルモータ52として上記実施形態のスピンドルモータを使用することで、ディスク駆動装置50の薄型化並びに低コスト化を可能にすると同時に、スピンドルモータの安定性や信頼性及び耐久性が改善されるので、より信頼性の高いディスク駆動装置とすることができる。
【0063】
以上、本発明に従うスピンドルモータ及びこれを備えたディスク駆動装置の一実施形態について説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0064】
【発明の効果】
本発明の請求項1のスピンドルモータでは、フルフィル構造の動圧軸受において簡略且つ安価な構造で負圧や過浮上の問題を解消することが可能になると共に、耐焼き付き性が改善され信頼性を向上することが可能になる。
【0065】
本発明の請求項2のスピンドルモータでは、軸受部に多孔質体を用いながらも動圧の低下を軽減し、高い支持剛性を維持することが可能になる。
【0066】
本発明の請求項3に記載のスピンドルモータでは軸受部に多孔質体を用いながらも摩耗を軽減し、高い信頼性を得ることが可能になる。
【0067】
本発明の請求項4に記載のスピンドルモータでは、オイルに対して強制的な循環を促して歩留まりの改善やオイルの挙動を安定化させつつ、一対のラジアル動圧軸受部間の領域での負圧の発生を防止することが可能になる。
【0068】
本発明の請求項5のディスク駆動装置では、所望の回転精度を得つつも、ディスク駆動装置の小型・薄型化並びに低コスト化が可能になると共に、信頼性を向上することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るスピンドルモータの概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に図示されるスピンドルモータにおいてラジアル動圧軸受部に形成されるヘリングボーングルーブの形状を示す部分拡大断面図である。
【図3】図1に図示されるスピンドルモータにおいてスラスト動圧軸受部に形成されるスパイラルグルーブの形状を示す平面図である。
【図4】ディスク駆動装置の内部構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
2 ロータ
2b シャフト
6 スリーブ
8 カバー部材(閉塞部材)
14 外筒部材
20,22 ラジアル動圧軸受部
20a,22a ヘリングボーングルーブ
24 スラスト動圧軸受部
Claims (5)
- シャフトと、該シャフトが回転自在に遊挿される貫通孔が形成されたスリーブと、回転軸心に該シャフトが一体に設けられた円形の天板と該天板の外周縁から垂下される円筒壁とを有するロータと、該スリーブに形成される貫通孔の一方の端部を閉塞する閉塞部材とを備えてなるスピンドルモータであって、
前記シャフトの外周面には、単一部材から構成された円筒状の外筒部材が装着され、
前記スリーブの上端面と前記ロータの天板の底面、前記スリーブの内周面と前記外筒部材の外周面並びに前記閉塞部材の内面と前記シャフト及び前記外筒部材の下端面との間には、連続する微小間隙が形成され、
前記微小間隙内及び前記外筒部材の上端面と前記ロータの天板の底面との間は外気に連通しない閉空間を構成し、前記閉空間には、全体にわたってオイルが途切れることなく連続して保持されており、
前記スリーブの内周面及び前記外筒部材の外周面の少なくともいずれか一方の面には、一対のスパイラルグルーブを連接してなるヘリングボーングルーブが動圧発生溝として設けられたラジアル動圧軸受部が構成され、
前記スリーブの上端面及び前記ロータの天板の底面の少なくともいずれか一方には、前記ロータの回転時に前記オイルに対して半径方向内方に向かう圧力を付与する動圧発生溝が設けられたスラスト動圧軸受部が構成され、
前記外筒部材は、多孔質体から形成され、前記外筒部材には全体にわたって前記オイルが含浸されており、
前記スリーブの上端面と前記ロータの天板の底面との間に形成される微小間隙並びに前記外筒部材の上端面と前記ロータの天板の底面との間に形成される微小間隙と、前記閉塞部材の内面と前記シャフト及び前記外筒部材の下端面との間に形成される微小間隙と、に保持される前記オイルは該多孔質体内を通じて流通可能に保持され、
前記微小間隙および前記閉空間を含む前記スラスト軸受部より内側の隙間は外気に連通せずに形成され、該内側の隙間は前記オイルで満たされていることを特徴とするスピンドルモータ。 - 前記多孔質体から形成される外筒部材の外周面のうち、少なくとも前記ラジアル動圧軸受部を構成する部位には封孔処理が施されている、ことを特徴とする請求項1に記載のスピンドルモータ。
- 前記多孔質体から形成される外筒部材の外周面のうち、少なくとも前記ラジアル動圧軸受部を構成する部位には硬質化処理が施されている、ことを特徴とする請求項1に記載のスピンドルモータ。
- 前記ラジアル動圧軸受部は、軸線方向に離間して一対形成されると共に、該一対のラジアル動圧軸受部のうち、前記スラスト動圧軸受部に近接する側に位置するラジアル動圧軸受部に形成される前記ヘリングボーングルーブは、前記ロータの回転時に前記オイルに対して前記閉塞部材の内面とシャフトの下端面との間に形成される軸受部側に向かう圧力が付与されるよう軸線方向に非対称な形状のスパイラルグルーブを連接して形成されており、また前記スラスト動圧軸受部から離間する側に位置するラジアル動圧軸受部に形成される前記ヘリングボーングルーブは、前記ロータの回転時に前記オイルに対して軸線方向に対称となる圧力勾配の流体動圧が付与されるよう実質的に同等な形状のスパイラルグルーブを連接して形成されている、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のスピンドルモータ。
- 情報を記録できる円板状記録媒体が装着されるディスク駆動装置において、ハウジングと、該ハウジングの内部に固定され該記録媒体を回転させるスピンドルモータと、該記録媒体の所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを有するディスク駆動装置であって、
前記スピンドルモータは、請求項1乃至4のいずれかに記載したスピンドルモータである、ことを特徴とするディスク駆動装置。
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