JP4254361B2 - 内燃機関の燃料噴射装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関の燃料噴射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、燃料を通常の圧縮着火燃焼を行う際の噴射タイミング(一般的にはBTDC10°〜ATDC10°)よりも早期に一回噴射し、着火・燃焼までの時間を確保して、燃料を燃焼室内で予混合した上で着火・燃焼させるようにした内燃機関が提案されている。このような燃焼は予混合圧縮着火燃焼と呼ばれ、燃料と空気とを充分に混合してから燃焼させるため低NOx、低スモークを実現することができる。
【0003】
一方、予混合圧縮着火燃焼においては、燃料噴射量が増加すると過早着火する場合があるため、予混合圧縮着火燃焼による運転は実際には燃料噴射量が比較的少ない運転領域に限られる。このため、上記のような予混合圧縮着火燃焼を行うようにした内燃機関では一般に、機関の運転状態に応じて燃料噴射パターンを切替え、予混合圧縮着火燃焼と通常の圧縮着火燃焼とを切替えるようにしている。そして、この切替えの際にトルクショックが発生するという問題がある。
【0004】
すなわち、上記の通常の圧縮着火燃焼を行わせる場合の燃料噴射パターンとしては、燃焼騒音や排気性状の悪化の抑制等を目的として、一般に主噴射に先立ってパイロット噴射を行うパイロット噴射モードが採用される。このため、上記の予混合圧縮着火燃焼と通常の圧縮着火燃焼との切替えの際には燃料の噴射パターンが早期に一回噴射する予混合圧縮着火燃焼モードとパイロット噴射モードとの間で切替ることになり、これに伴ってトルクショックが発生する。
【0005】
このような燃料噴射パターンの切替えに伴うトルクショックを緩和する技術としては、例えば特許文献1に、燃料の噴射パターンを機関の運転状態に応じて主噴射のみの通常噴射モードと主噴射に先立ってパイロット噴射を行うパイロット噴射モードとで切替えるようにした内燃機関において、噴射パターンを切替える際に噴射間隔を徐々に減少または増加させて切替え時のトルクショックを緩和する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−1609号公報
【特許文献2】
特開2000−18077号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、実際にはこのような方法によってもトルクショックを充分に緩和することは困難である。これは、例えば噴射回数が一回から二回に変更される場合等には、二回の噴射となった際に後で行われる噴射が先に行われる噴射による圧力脈動の影響を受けること等によって全体の燃料噴射量が所期の値から変化してしまうためである。そして、このような燃料噴射量の変化はトルクショックに加え、排気性状の悪化を生じる場合もある。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、機関の運転状態に応じて燃焼を切替える内燃機関において、燃焼切替え時におけるトルクショックの発生及び排気性状の悪化を抑制することができる内燃機関の燃料噴射装置を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、特許請求の範囲の各請求項に記載された内燃機関の燃料噴射装置を提供する。
請求項1に記載の発明は、予混合圧縮着火燃焼と、パイロット噴射を用いた通常の圧縮着火燃焼とを運転状態に応じて切替える内燃機関に用いられる燃料噴射装置において、上記の燃焼の切替えの際に燃料噴射回数が変更されない内燃機関の燃料噴射装置であって、上記の燃焼の切替えの際に燃料噴射間隔と各噴射に対する量配分とのうちの少なくとも一方が変更されないことを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置を提供する。
【0010】
予混合圧縮着火燃焼と、パイロット噴射を用いた通常の圧縮着火燃焼とを切替える上記のような内燃機関では、各燃焼における燃料噴射回数の違いのために、燃焼切替え時にトルクショックが発生すると共に排気性状が悪化する場合がある。これに対し、請求項1に記載の発明によれば、上記の燃焼の切替えの際に燃料噴射回数が変更されないので、燃焼切替え時におけるトルクショックの発生及び排気性状の悪化を抑制することができる。また、上記の燃焼の切替えの際に各噴射の噴射間隔や噴射量配分を変更することもトルクショックの発生や排気性状悪化の原因となる場合がある。したがって、請求項1に記載の発明のようにすれば、燃焼切替え時におけるトルクショックの発生及び排気性状の悪化をより確実に抑制することができる。
なお、本明細書において燃料噴射回数とは機関の爆発1回当たりの燃料の噴射回数を意味する。
【0011】
請求項2に記載の発明では請求項1に記載の発明において、上記予混合圧縮着火燃焼時における燃料噴射回数と上記通常の圧縮着火燃焼時における燃料噴射回数とが同じである。
請求項2に記載の発明のようにすれば、総ての運転状態において燃料噴射回数が変更されないので、燃焼切替え時以外においてもトルクショックの発生及び排気性状の悪化が抑制される。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一又は類似の構成要素には共通の参照番号を付す。
【0026】
図1は本発明の一実施形態の燃料噴射装置を備えた直噴式のディーゼル機関を示す図である。図1を参照すると、1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は電気制御式燃料噴射弁、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートをそれぞれ示す。吸気ポート8は対応する吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、サージタンク12は吸気ダクト13を介して排気ターボチャージャ14のコンプレッサ15に連結される。吸気ダクト13内にはステップモータ16により駆動されるスロットル弁17が配置され、更に吸気ダクト13周りには吸気ダクト13内を流れる吸入空気を冷却するための吸気冷却装置(インタークーラ)18が配置される。図1に示される実施形態では機関冷却水が吸気冷却装置18内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。
【0027】
一方、排気ポート10は排気マニホルド19及び排気管20を介して排気ターボチャージャ14の排気タービン21に連結される。排気タービン21の出口には排気ガス浄化器44が連結される。
排気マニホルド19とサージタンク12とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路24を介して互いに連結され、EGR通路24内には電気制御式EGR制御弁25が配置される。また、EGR通路24周りにはEGR通路24内を流れるEGRガスを冷却するためのEGR冷却装置(EGRクーラ)26が配置される。図1に示される実施形態では機関冷却水がEGR冷却装置26内に導かれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。
【0028】
一方、各燃料噴射弁6は燃料供給管6aを介して燃料リザーバ、いわゆるコモンレール27に連結される。このコモンレール27内へは燃料タンク46から低圧ポンプ(図示無し)で吸い出された燃料が電気制御式の吐出量可変な燃料ポンプ28によって更に加圧されて供給される。そしてコモンレール27内に供給された燃料は各燃料供給管6aを介して燃料噴射弁6に供給される。コモンレール27にはコモンレール27内の燃料圧を検出するための燃料圧センサ29が取付けられ、燃料圧センサ29の出力信号に基づいてコモンレール27内の燃料圧が目標燃料圧となるように燃料ポンプ28の吐出量が制御される。
【0029】
電子制御ユニット(ECU)30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35及び出力ポート36を具備する。燃料圧センサ29からの信号は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量(以下、アクセル踏込み量と言う)Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して燃料噴射弁6、スロットル弁駆動用ステップモータ16、EGR制御弁25及び燃料ポンプ28等に接続されている。
【0030】
入力ポート35に入力された信号はCPU34へ送られ、CPU34はそれらの信号とROM32、RAM33等に記憶されているデータを基に、本発明に関連する燃料噴射の量、時期等の噴射パターンやその他の機関を制御するための制御値を演算または決定する。そして、この噴射パターンや制御値に従って燃料噴射弁6、スロットル弁駆動用ステップモータ16、EGR制御弁25及び燃料ポンプ28等が作動される。
【0031】
次に、以上のような構成の上記ディーゼル機関の燃焼制御について説明する。すなわち、本実施形態において上記ディーゼル機関では、運転状態に応じて予混合圧縮着火燃焼と、1回のパイロット噴射を用いた通常の圧縮着火燃焼とが切替えられるようになっている。そして、この燃焼の切替えは燃料噴射装置によって燃料噴射パターンを切替えることによって行われる。
【0032】
図2は、上記ディーゼル機関において実施される燃焼制御(すなわち、燃料噴射制御)の制御ルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンは、ECU30によって一定時間毎の割り込みによって実施される。本制御ルーチンがスタートすると、まずステップ101において運転状態パラメータの読込みが行われる。ここで運転状態パラメータとは機関の運転状態の指標となるパラメータのことで、本実施形態の場合は機関回転数Nとアクセル踏込み量Lである。
【0033】
ステップ101で機関回転数Nとアクセル踏込み量Lが読込まれると、続くステップ103において、これらを用いて予混合圧縮着火燃焼の実施条件が成立しているか否かが判定される。すなわち、ここでは運転状態に応じて予混合圧縮着火燃焼と通常の圧縮着火燃焼とのうちのどちらを実施するかが判定される。
【0034】
この判定は例えば図3に示したようなマップに基づいて行われる。図3において、横軸は機関回転数Nであり、縦軸はアクセル踏込み量Lである。ここでは、その時の運転状態が図3に示した機関回転数Nが比較的小さく且つアクセル踏込み量Lが比較的小さい領域Sにある場合に予混合圧縮着火燃焼実施条件が成立していると判定する。言い換えれば、高速/高負荷運転の場合(すなわち、領域Hにある場合)には予混合圧縮着火燃焼を行わないようにしている。これは、高速/高負荷運転の場合(すなわち、領域Hにある場合)には燃料噴射量が多くなるため、予混合圧縮着火燃焼をさせようとして早期に燃料噴射を行うと過早着火してしまう恐れがあるからである。図3のマップはこのような趣旨で予め作成しROM32に記憶させておく。
【0035】
ステップ103において上記実施条件が成立していないと判定された場合にはステップ105に進み、パイロット噴射とそれに続く主噴射が実施される(合計2回の噴射)。この時、主噴射は圧縮上死点付近で行われ、燃料が空気と混ざりながら着火・燃焼する通常の圧縮着火燃焼が行われる。
一方、ステップ103において上記実施条件が成立していると判定された場合にはステップ107に進み、早期に2回の燃料噴射が行われる。この場合、早期に噴射が行われることにより、着火・燃焼までに燃料が空気と充分に混合されるので、予混合圧縮着火燃焼が行われる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態においては、運転状態に応じて燃料噴射パターンが切替えられ、それによって予混合圧縮着火燃焼とパイロット噴射を用いた通常の圧縮着火燃焼とが切替えられる。そして特に、本実施形態では予混合圧縮着火燃焼をさせる場合の燃料噴射パターンと通常の圧縮着火燃焼をさせる場合の燃料噴射パターンとにおいて同じ回数(すなわち、2回)の燃料噴射が行われるようになっている。これは、二つの燃焼の切替え(すなわち、燃料噴射パターンの切替え)時に生ずるトルクショック及び排気性状の悪化の抑制を目的としている。
【0037】
すなわち、通常、予混合圧縮着火燃焼は早期に一回の燃料噴射で行われるため、予混合圧縮着火燃焼とパイロット噴射を用いた通常の圧縮着火燃焼とを切替える内燃機関では、燃焼切替え時に燃料噴射回数が変更されることになる。そして、このような燃料噴射回数の変更が行われると、すなわち例えば噴射回数が一回から二回に変更されると、二回の噴射となった際に後で行われる噴射が先に行われる噴射による圧力脈動の影響を受けて燃料噴射量が所期の値から変化してしまう場合がある(このような圧力脈動は軽油より圧縮性の高い燃料、例えばジメチルエーテル等を使用している場合に発生し易い)。つまり、燃料噴射回数の変更に伴って総燃料噴射量の変化に段差が生じてしまう場合がある。そして、これが原因でトルクショックが発生し、排気性状が悪化してしまう。
【0038】
これに対し、本実施形態においては、上記予混合圧縮着火燃焼時における燃料噴射回数と上記通常の圧縮着火燃焼時における燃料噴射回数とが同じであり、したがって上記燃焼の切替えの際に燃料噴射回数が変更されない。このため、上述したような燃料噴射量の変化の問題が生じることがなく、燃焼切替え時におけるトルクショックの発生及び排気性状の悪化を抑制することができる。また、本実施形態の場合には、総ての運転状態において燃料噴射回数が変更されないので、燃焼切替え時以外においてもトルクショックの発生及び排気性状の悪化が抑制される。
【0039】
なお、本実施形態においては、上述のようにして予混合圧縮着火燃焼(早期2回噴射)と通常の圧縮着火燃焼(パイロット噴射+主噴射)とのうちのどちらを実施するかを決定するのと同時に、他の燃料噴射条件、例えば、総燃料噴射量、前噴射(例えば、パイロット噴射または早期2回噴射の1回目の噴射)と後噴射(例えば、主噴射または早期2回噴射の2回目の噴射)との噴射間隔、噴射量配分、詳細な噴射タイミング等も各運転状態(すなわち、機関回転数Nとアクセル踏込み量Lの各組合せ)に応じて決定されるようになっている。すなわち、例えば、機関回転数Nとアクセル踏込み量Lとから上記の各噴射条件を決定するためのマップを事前に作成してROM32に記憶させておき、それらに基づいて決定するようにする。そして、これらの運転状態に応じて決定された各噴射条件に沿って実際の燃料噴射がなされる。
【0040】
ところで、上記の燃焼の切替えの際に前噴射と後噴射との噴射間隔や噴射量配分を変更することもトルクショックの発生や排気性状悪化の原因となる場合がある。したがって、燃焼切替え時におけるトルクショックの発生及び排気性状の悪化をより確実に抑制するためには、上記燃焼の切替え時に上記噴射間隔や噴射量配分も変更しないようにすることが好ましい。
【0041】
このために、例えば、図3の境界線Cを挟んで隣り合うような運転状態(すなわち境界線C近傍の運転状態)においては、上記噴射間隔や噴射量配分が同じになるようにこれら噴射条件を決定するマップの値を設定してもよい。このようにすれば運転状態が僅かに変わって燃焼が切替る際に上記噴射間隔や噴射量配分が変更されることを抑制できる。あるいは、燃焼の切替え時には上記噴射間隔や噴射量配分は変更しないようにし、その後徐々に適正な値(その運転状態に対応してマップ等で定められる値)になるように制御するようにしてもよい。
【0042】
図4は、各燃焼に対応する燃料噴射パターン(すなわち、燃料噴射弁6の制御パターン)の一例について示したタイミング図であり、横軸がクランク角度を示し、縦軸が燃料噴射弁6のニードルリフト量を示している。この図は燃焼が切替る境界線Cの近傍における各燃焼に対応する燃料噴射パターンを示している。すなわち、例えば、運転状態が図3のH領域からS領域に移動することによって、燃料噴射パターンが図4の上段のパターンから下段のパターンに変更される。この例では、燃焼の切替えの際に上述の前噴射と後噴射との噴射間隔や噴射量配分は変更されていない。
【0043】
なお、以上では、予混合圧縮着火燃焼をさせる場合の燃料噴射パターンと通常の圧縮着火燃焼をさせる場合の燃料噴射パターンとにおいて、2回の燃料噴射が行われる場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば3回等より多くの燃料噴射回数であってもよい。
【0044】
次に本発明の他の実施形態について図5及び図6を参照しつつ説明する。図5に示された構成は、基本的に図1に示された構成と同様であるが、コモンレール27に燃料の密度を測定する密度センサ48が取付けられている点で異なっている。この密度センサ48は燃料の蒸留性状を推定する蒸留性状推定手段を構成する。つまり、本実施形態では燃料の蒸留性状を示す値(すなわち、後述の蒸留性状パラメータ)として燃料の密度を使用する。密度センサ48からの信号は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力されるようになっている。
【0045】
上述したように予混合圧縮着火燃焼とパイロット噴射を用いた通常の圧縮着火燃焼とを運転状態に応じて切替える内燃機関においては、各燃焼における燃料噴射回数を同じとすることで、燃焼の切替え等に伴うトルクショックの発生及び排気性状の悪化を抑制することができる。しかしながら、予混合圧縮着火燃焼においては、早期に燃料噴射を行う必要がある。したがって、パイロット噴射を用いた通常の圧縮着火燃焼から燃料噴射回数を変更せずに予混合圧縮着火燃焼に切替える場合には早期に複数回の燃料噴射をすることになる。このため、ボアフラッシングし易い状況となる。そこで、本実施形態では密度センサ48によって燃料の密度を測定し、その値から燃料の蒸留性状を推定して、それに基づいて燃料噴射回数を制御することでボアフラッシングの発生を防止するようにしている。
【0046】
次に本実施形態において実施される燃焼制御(すなわち、燃料噴射制御)について説明する。なお、本実施形態において実施される燃焼制御(すなわち、燃料噴射制御)は、図2の制御ルーチンを参照しつつ先に説明した燃焼制御(すなわち、燃料噴射制御)と共通する部分を有しており、これらの部分に関する説明は原則として省略する。
【0047】
図6は本実施形態において実施される燃焼制御(すなわち、燃料噴射制御)の制御ルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンは、ECU30によって一定時間毎の割り込みによって実施される。本制御ルーチンがスタートすると、まずステップ201において蒸留性状パラメータの読込みが行われる。ここで蒸留性状パラメータとは使用燃料の蒸留性状の指標となるパラメータのことで、本実施形態の場合は燃料の密度である。
【0048】
続くステップ203では、図2のステップ101と同様、運転状態パラメータの読込みが行われる。本実施形態においても運転状態パラメータは機関回転数Nとアクセル踏込み量Lである。
ステップ203で機関回転数Nとアクセル踏込み量Lが読込まれると、続くステップ205において、予混合圧縮着火燃焼の実施条件が成立しているか否かが判定される。このステップでの制御は図2のステップ103での制御と同様である。ステップ205において上記実施条件が成立していないと判定された場合にはステップ207に進み、パイロット噴射とそれに続く主噴射が実施される(合計2回の噴射)。このステップでの制御は図2のステップ105での制御と同様である。
【0049】
一方、ステップ205において上記実施条件が成立していると判定された場合にはステップ209に進み、早期2回噴射が可能であるか否かが判定される。すなわち、ここでは燃料の蒸留性状、運転状態(すなわち、運転状態によって決定される各噴射条件)等からボアフラッシングを生ぜずに早期2回噴射が実施できるか否かが判定される。
【0050】
すなわち例えば、燃料の蒸留性状に基づいてボアフラッシングしない噴射時期の進角側の限界値を算出し、運転状態から決定される1回目の燃料噴射の噴射時期がこの限界値よりも進角側であれば早期2回噴射は不可能であると判定し、遅角側であれば可能であると判定するようにする。
【0051】
あるいは、燃料の蒸留性状と、運転状態から決定される1回目の燃料噴射(前噴射)の噴射時期及び噴射量とからボアフラッシングが発生するか否かを判定するマップを事前に作成しておき、これに基づいて早期2回噴射の実施可否を判定するようにしてもよい。つまり、燃料の蒸発性が低いほど、運転状態から決定される1回目の燃料噴射の噴射時期が早いほど、また噴射量が多いほど、ボアフラッシングは発生し易くなる。このため、燃料の蒸留性状と、運転状態から決定される1回目の燃料噴射(前噴射)の噴射時期及び噴射量とからボアフラッシングが発生するか否かを判定することが可能である。
【0052】
更に、ステップ209においては、上記のボアフラッシングしないという条件に加え、燃料噴射後に燃料と空気の充分な混合が可能であると判定された場合にのみ早期2回噴射の実施が可能であると判定するようにしてもよい。この混合についての判定は、例えば燃料の蒸留性状と、運転状態から決定される2回目の燃料噴射(後噴射)の噴射時期及び噴射量とに基づいて行われる。すなわち、燃料の蒸発性が低いほど、運転状態から決定される2回目の燃料噴射の噴射時期が遅いほど、また噴射量が多いほど、燃料と空気の充分な混合は困難になる。このため、燃料の蒸留性状と、運転状態から決定される2回目の燃料噴射(後噴射)の噴射時期及び噴射量とから燃料噴射後に燃料と空気の充分な混合が可能であるか否かが判定できる。
【0053】
図7は、ボアフラッシングしない噴射時期の進角側の限界値LTと、燃料噴射期間ITと、燃料と空気の混合期間MTと、燃焼期間BTとの関係を示した図である。横軸がクランク角度を示し、縦軸が燃料噴射弁6のニードルリフト量を示している。この例では、圧縮上死点で着火している。
【0054】
ステップ209において早期2回噴射が可能であると判定された場合にはステップ211に進み、早期に2回の燃料噴射が行われ、予混合圧縮着火燃焼が行われる。このステップでの制御は図2のステップ107での制御と同様である。一方、ステップ209において早期2回噴射が不可能であると判定された場合にはステップ213に進んで早期に1回の燃料噴射が行われる。これによりボアフラッシングを回避しつつ予混合圧縮着火燃焼が行われる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態においては、ステップ209において、ボアフラッシングのし易さを示す指標の一つである燃料の蒸留性状を考慮して、ボアフラッシングを生ぜずに早期2回噴射が実施できるか否かが判定される。これにより、ボアフラッシングを回避しつつ燃焼切替え時におけるトルクショックの発生及び排気性状の悪化の抑制を図ることができる。
【0056】
また、ステップ209において上記のボアフラッシングしないという条件に加え、燃料噴射後に燃料と空気の充分な混合が可能であると判定された場合にのみ早期2回噴射の実施が可能であると判定するようにした場合には、ボアフラッシングの発生を抑制し且つ予混合圧縮着火燃焼が良好に行われるようにしつつ、燃焼切替え時におけるトルクショックの発生及び排気性状の悪化の抑制を図ることができる。
【0057】
なお、別の実施形態においては、ステップ209において、運転状態から決定される噴射間隔や噴射量配分等を変更することによってボアフラッシングせずに早期2回噴射できる場合もしくはボアフラッシングせず且つ燃料と空気の充分な混合が可能なように早期2回噴射できる場合には、早期2回噴射可能であると判定するようにしてもよい。
【0058】
すなわち、上記ボアフラッシングは、例えば燃料噴射間隔を短縮したり、最初の噴射の量配分を少なくすること等によって抑制することができる。また、最後の噴射の量配分を少なくすれば、最後の噴射後に必要な混合時間は短くなる。そして、このようにして早期2回噴射が可能であると判定するようにすると、燃焼切替え時に燃料噴射回数が変更されない場合が増え、より多くの場合でボアフラッシングの発生を抑制しつつ、またはボアフラッシングの発生を抑制し且つ予混合圧縮着火燃焼が良好に行われるようにしつつ燃焼切替え時におけるトルクショックの発生及び排気性状の悪化の抑制を図ることができる。
【0059】
また、以上では、予混合圧縮着火燃焼をさせる場合の燃料噴射パターンにおいて1回または2回の燃料噴射が行われ、通常の圧縮着火燃焼をさせる場合の燃料噴射パターンにおいて2回の燃料噴射が行われる場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、より多くの燃料噴射回数であってもよい。
【0060】
更に、上述の説明においては、蒸留性状パラメータとして密度(比重)を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばT50(50%留出温度)やトータルアロマ分量等、他の蒸留性状を表す値を用いても実施することができる。
【0061】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、燃焼切替え時におけるトルクショックの発生及び排気性状の悪化をより確実に抑制することができる。また、請求項2に記載の発明によれば、燃焼切替え時以外においてもトルクショックの発生及び排気性状の悪化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の一実施形態の燃料噴射装置を備えた直噴式のディーゼル機関を示す図である。
【図2】図2は、図1に示したディーゼル機関において実施される燃焼制御(すなわち、燃料噴射制御)の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】図3は、図2の制御ルーチンのステップ103で使用され得るマップである。
【図4】図4は、通常の圧縮着火燃焼と予混合圧縮着火燃焼のそれぞれに対応する燃料噴射パターン(すなわち、燃料噴射弁の制御パターン)の一例について示したタイミング図である。
【図5】図5は、本発明の他の実施形態の燃料噴射装置を備えた直噴式のディーゼル機関を示す図である。
【図6】図6は、図5に示したディーゼル機関において実施される燃焼制御(すなわち、燃料噴射制御)の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】図7は、ボアフラッシングしない噴射時期の進角側の限界値LTと、燃料噴射期間ITと、燃料と空気の混合期間MTと、燃焼期間BTとの関係を示した図である。
【符号の説明】
1…機関本体
5…燃焼室
6…電気制御式燃料噴射弁
6a…燃料供給管
27…コモンレール
28…燃料ポンプ
30…電子制御ユニット
46…燃料タンク
48…密度センサ(蒸留性状推定手段)
Claims (2)
- 予混合圧縮着火燃焼と、パイロット噴射を用いた通常の圧縮着火燃焼とを運転状態に応じて切替える内燃機関に用いられる燃料噴射装置において、
上記の燃焼の切替えの際に燃料噴射回数が変更されない内燃機関の燃料噴射装置であって、
上記の燃焼の切替えの際に燃料噴射間隔と各噴射に対する量配分とのうちの少なくとも一方が変更されないことを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。 - 上記予混合圧縮着火燃焼時における燃料噴射回数と上記通常の圧縮着火燃焼時における燃料噴射回数とが同じである、請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
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