JP4252640B2 - 炭素複合材構造物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックス、金属の焼結工程で使用する高耐久性のホットプレス用ダイスに用いる炭素繊維強化炭素複合材構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェノール樹脂などを焼成して形成される炭素質材料は通常の黒鉛素材に比べ比重が小さく、機械的強度に優れていることから構造部材やその他の分野で広く利用されている。一例を挙げれば、その高強度な機械的特性を活かして、セラミックス、金属を焼結するホットプレス機の内圧防御治具のダイスとして使用されている。
【0003】
図2は汎用のホットプレス機の構成を示す概略図である。通常、ホットプレス機20を使用してセラミックスを焼結する場合、黒鉛モールド22の外側にダイス24をセットし、モールド内の上下2枚のスペーサー26、28の間に粉体を充填し、焼結を促進させるためパンチ30、32で高加圧し、2000℃以上に加熱する。その為、薄いセラミックス焼結体を製作する場合に於いては、くさび効果により、黒鉛モールド22が破壊され、さらにダイス24まで破壊が進行することがある。
【0004】
炭素質材料で形成されるダイス24は一般に黒鉛モールド22に比べ高価であるため、その代替材料が要望され黒鉛に比べ数倍の機械的強度を持つ炭素繊維強化炭素材を使用したダイスが普及しつつある。
【0005】
炭素繊維強化炭素材を使用したダイスは、フェノール樹脂、フラン樹脂、アクリル樹脂等の加熱により炭素質材料となる熱硬化性樹脂を有機溶媒に溶解したものをバインダーとして、炭素長繊維を所望の直径を有する金属円筒に所望の幅、厚みに巻き付け、熱硬化させた後、金属円筒を抜き取って円筒形の硬化体を形成した後、この円筒形の硬化体を真空あるいは不活性雰囲気下1000℃以上で焼成し、さらに前記熱硬化樹脂に含浸し、焼成することを数回繰り返すことにより得られる。
【0006】
現在用いられる炭素質材料製ダイスにおいては、炭素長繊維を円筒形に対して円周方向にパラレル状に巻いたものを硬化させている。このため炭素長繊維は円筒形の円周方向のみに配向し、周方向の内圧を受けると炭素繊維相互間に剥離が生じ、寿命が短いという欠点があった。さらに、内圧による加圧頻度が多いダイス中央部は外周部方向に変形し、それに伴って、当該部分に位置する黒鉛モールドをも破壊させるという問題も生じていた。
【0007】
例えば、外径450mmで、2350℃で、厚み50mmの条件で使用した場合、その引張り破壊応力は1560kg/cm2 であり、この時のダイスにかかる側圧は厚み25mmの製品を焼成しようとする場合、426kg/cm2 となる。ここで、ダイスにかかる側圧[最大引張応力σmax (kg/cm2 )]は、肉厚円筒における側圧の計算式に係数を掛けた以下の式を用いて算出することができる。
【0008】
【数1】
式中、Dはダイス外径、dはダイス内径、Lは試料のダイス内における加圧焼結後の最終高さを、Hはダイス内に充填した試料の初期高さを、fは側圧比、ここでは1を、pは押圧(kg/cm2 )を表す。
【0009】
この最大引張応力σmax 426kg/cm2 の値は、単純に破壊応力と比較すると問題はないが、もし、内面が数mm変形していると、発生応力は10000kg/cm2 以上となり、まず、ダイスを形成している複合材料中の繊維間の剥離が生じ、ダイスの破壊を招くことになる。
【0010】
これらの問題を防ぐため、ダイスやモールドの厚みを厚くする方法があるが、この方法ではホットプレスに用いる加熱炉が大きくなり、ヒーター容量の増大、真空系、冷却系が増大となり設備コスト的に負担が大きくなる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、薄いセラミックス焼結体をホットプレスにより製造する際にも長期間使用可能な、耐久性に優れたホットプレス用ダイス、プッシャー式連続炉のプッシャー棒等の剪断力の付加がかかる部材にも適用可能な、高温高圧の過酷な条件下でも高い耐久性を有する炭素繊維強化炭素複合材からなるホットプレス用ダイスを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討の結果、構造物を二層円筒構造とし、それぞれの構造体に配置する炭素繊維の配向性を制御することにより、前記目的を達成しうることを見いだして本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明の炭素複合材からなるホットプレス用ダイスは、二層円筒構造を有する炭素複合材構造物であって、該二層円筒構造が、炭素質マトリックス中に炭素繊維が内層円筒の径方向に対して5〜20°の範囲にあるようなヘリカル巻き角度でヘリカル状に配置された炭素繊維強化炭素複合材料で形成された内層円筒部と、炭素質マトリックス中に炭素繊維が外層円筒の円周に、内層円筒の炭素繊維と外層円筒の炭素繊維との配向の角度差が5〜20°となるヘリカル状に配置された炭素繊維強化炭素複合材料で形成された外層円筒部とからなり、且つ、炭素繊維と炭化後の炭素質マトリックスの重量比が70:30〜55:45であることを特徴とする。
【0014】
これら外層円筒部の内周面と、内層円筒部の外周面には、好ましくは角度が1〜5°の範囲のテーパー加工を施すことが、耐久性の観点から好ましい態様である。
【0015】
本発明に用いられる炭素質マトリックス中に炭素繊維が配置された炭素繊維強化炭素複合材料は、炭素源をバインダーとして、炭素繊維を所望の配向で配置した複合原料を焼成して得られる材料であることが好ましい態様である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明の炭素複合材構造物は、二層円筒構造を有する炭素複合材構造物であって、炭素繊維を内層円筒部は円筒の径方向に対して5〜20°の範囲の角度を有するヘリカル状に、外層円筒はヘリカル状に配向させたものである。このように、内層円筒と外層円筒のそれぞれに内在する補強用炭素繊維の配向を互いに異なるものとすることが重要である。
【0018】
図1は本発明の炭素複合材構造物の構造を示す概略図である。炭素複合材構造物10は、炭素質マトリックス中に炭素繊維が円筒の径方向に対して5〜20°の範囲の角度を有するヘリカル状に配置された炭素繊維強化炭素複合材料で形成された内層円筒部12と、炭素質マトリックス中に炭素繊維が円筒の円周にヘリカル状に配置された炭素繊維強化炭素複合材料で形成された外層円筒部14とからなる。内層円筒部では前記予め確定されたヘリカル巻角度に従った直線で表される配向を有し、外層円筒部では円筒と略同心円状の配向を有しており、本概略図において、円筒内部の炭素繊維16の配向はそれらを繊維方向の配向で模式的に表記している。また、本態様では、図1に示されるように、内層円筒部12の外側と外層円筒部14の内側にはテーパー加工が施されている。この加工を行うことで内部からの強い加圧による応力集中が効果的に防止されるため、耐久性の観点から好ましい態様である。テーパー角度は1°〜5°程度が好ましく、1°未満ではテーパー加工の効果は不十分であり、5°を超えると炭素繊維を配向させる際の加工性が低下するため、いずれも好ましくない。
【0019】
この炭素繊維強化炭素複合体に用いる炭素繊維としては、2000℃未満の熱処理により得られる炭素質繊維も、2000℃以上の高温処理により黒鉛化されて得られる黒鉛質繊維のいずれも使用でき、好ましくは、2000℃以上の高温処理されたものである。また、繊維原料としてもPAN系、レーヨン系、ピッチ系、熱硬化性樹脂系のいずれのものも使用できる。
【0020】
炭素繊維は、ストランドやそれを束ねたロービング、撚り糸状に集束したヤーン等のいずれの繊維の集束状態のものも使用することができる。
【0021】
また、本発明において、前記炭素繊維と複合される炭素質マトリックス材料としては、不活性ガスの存在下や真空等の不活性雰囲気中で加熱することにより炭素化しうる所謂炭素源と称される樹脂、ピッチ等の有機化合物を挙げることができる。この加熱により炭素を生成する有機化合物として用いられる物質は、具体的には、残炭率の高いコールタールピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂やグルコース等の単糖類、蔗糖等の少糖類、セルロース、デンプン等の多糖類などの等の各種糖類が挙げられ、なかでも、残炭率の観点から、フェノール樹脂が好ましい。これらの材料は加熱条件により炭素質となったり、黒鉛質となったりするが、本発明における炭素質マトリックスとは、両者を包含するものである。
【0022】
前記の各材料を複合化して炭素繊維強化炭素複合体からなる内層円筒部や外層円筒部を作製する。炭素繊維にマトリックスを適用する方法としては、樹脂等のマトリックス材料を含浸させる方法と化学蒸着による方法があるが、処理の簡便性、コストを考慮すれば、含浸法が一般的であるといえる。
【0023】
内層円筒部はテーパー角度1〜5°を有する構造物の最終形状に合わせて準備された金属円筒型に所定の厚み及び幅になるように、集束された炭素繊維を、図3に示すように内層円筒の径方向に対し5°〜20°のヘリカル巻き角度有するようにヘリカル状に巻き付ける。また、外層円筒部もテーパー角度1〜5°を有する構造物の最終形状に合わせて準備された金属円筒型に所定の厚み及び幅に集束された炭素繊維を、図4に示すように、内層円筒の炭素繊維と外層円筒の炭素繊維との配向の角度差が5〜20°となるヘリカル状に巻きつける。ここで、内層円筒の炭素繊維のヘリカル巻き角度が5°未満、即ち、内層円筒の炭素繊維の配向の角度と外層円筒の炭素繊維との配向の角度との差が5°未満では、一層円筒構造で全てを径方向に対して角度を持たないヘリカル巻とした従来の場合と同様に繊維間の剥離が生じやすくなり、20°を超えると、加工性の観点から巻きが困難となり、均一な巻き、即ち、所定の炭素繊維の配向が形成し難い。
【0024】
上記により金型に巻き付けた炭素繊維に炭素源である有機化合物を含浸させ、熱硬化させた後、金属円筒を抜き取って炭素繊維と有機化合物とからなる円筒形状の構造物を形成し、その後、この円筒形状の構造物を真空あるいは不活性雰囲気下で、温度1000℃以上で焼成、或いは所望により加圧焼成する。
【0025】
この焼成により、有機化合物が炭素化或いは黒鉛化されて体積、重量ともに減少し、複合材中に空孔が形成される。このため、さらに前記熱硬化樹脂に含浸し、焼成することを繰り返して、所望の比重になるまで処理を行う。なお、空孔部が完全に炭素質マトリックスで充填されたことは、含浸、焼成を繰り返しても炭素複合材構造物の重量が増加しなくなることで確認できる。
【0026】
炭素繊維と炭素質マトリックス(炭化後)の比率(重量比)は所望の強度、特性により適宜選択できるが、ホットプレス用のダイスに用いるために、強度等の特性を引き出す目的で、70:30〜55:45であることを要し、さらに60:40前後を目安に含浸を行なうことが好ましい。
【0027】
また、焼成温度も目的に応じて選択しうるが、本発明の目的には、2000℃以上、さらに、2500〜3000℃程度の焼成温度であることが黒鉛化を完全に行うことができ、強度が向上する観点から好ましい。
【0028】
こうして得られた外層円筒部、内層円筒部は、カーボンセメント等の接着手段によって互いに接着して二層円筒構造を有する炭素繊維強化炭素複合材構造物を得る。この炭素複合材構造物は、ホットプレス用ダイスとして有用である。この使用態様の例として、図5に、この二層円筒構造を有する炭素複合材構造物を配置したホットプレス機18の概略断面図を示す。内層円筒部12と外層円筒部14とからなる二層円筒構造を有する炭素複合材構造物10を黒鉛ダイスとして配置した他は、先に図2に示した公知のホットプレス機と同様の構成を有する。
【0029】
本発明の二層円筒構造を有する炭素複合材構造物は、繰り返し強い内圧が掛かった場合においても、高い耐久性を示し、強化剤である炭素繊維間の剥離によるクラックの発生やダイスの破損を効果的に防止しうる。このため、本発明の炭素複合材構造物は、ねじれ等の剪断力や内圧のかかる部材、即ち、先に述べたホットプレス用ダイス、プッシャー式連続炉のプッシャー棒、機械構造部材の連結などに用いられるボルト、高温用治具、モールド等に好適に適用することができ、応用範囲も広い。
【0030】
【実施例】
(実施例1)
[二層円筒構造を有する炭素複合材構造物の作製]
高さ250mmの内層円筒用金属円筒型に、6000フィラメントの炭素繊維を、ヘリカル巻き角度が円筒の径方向に対し15°となるようにヘリカル状に巻き付けて、上端部厚み25mmとなるように、炭素繊維の外周をテーパー角度3°を有するように形成した。また、内層円筒のテーパー角度3°と同様のテーパー角度を有する高さ250mmの外層円筒用金属円筒型に同じ炭素繊維をヘリカル状に巻きつけて、下端部外径が25mmの円筒形となるように形成した。
【0031】
上記により金型に巻き付けた炭素繊維にフェノール樹脂を含浸させ、300℃で加熱して熱硬化させた後、金属円筒を抜き取り、円筒形状の構造物を不活性ガス(アルゴン)雰囲気下で、温度2000℃以上で焼成する。この含浸、焼成を7回繰り返し、さらに、フェノール樹脂を含浸し、焼成しても重量が増加しなくなることを確認して、含浸、焼成を終了して構造体を得た。得られた内筒と外筒をカーボンセメントで接着して、二層円筒構造を有する炭素複合材構造物を得た。最終的な炭素繊維と炭化後のマトリックスの比率は60:40であった。
[性能評価]
前記で得た炭素複合材構造物を黒鉛ダイスとして図5に示すようなホットプレス機に組み込んだ。このホットプレス機で厚さ25mmの薄い炭素質焼結体を作製した。焼結温度の条件は2350℃、面圧400〜500kg/cm2 の範囲でホットプレス処理を行った。この焼結体の作製を50回繰り返した後、ダイスを取り出して観察したところ、外観上問題になるクラックの発生や劣化は見られなかった。
【0032】
(比較例1)
前記実施例1で得た二層円筒構造を有する炭素複合材構造物による黒鉛ダイスの代わりに、ダイス厚み50mm、高さ250mmの、炭素繊維をヘリカル状に巻いた一層円筒構造の炭素複合材構造物黒鉛ダイスを用いて実施例1と同様の条件で、繰り返しホットプレス処理を行った。この焼結体の作製を20回繰り返したところ、中心部から炭素繊維間が剥離し、黒鉛ダイスが破損した。
【0033】
【発明の効果】
本発明の炭素繊維強化炭素複合材構造物は、薄いセラミックス焼結体をホットプレスにより製造する際にも、長期間使用可能であり、高温高圧の過酷な条件下で繰り返し使用しても高い耐久性を示し、ホットプレス用ダイスとして好適に用いうるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の二層円筒構造を有する炭素複合材構造物の構成を示す概略図である。
【図2】 通常のホットプレス機の構成を示す概略図である。
【図3】 二層円筒構造を有する炭素複合材構造物部材の製造において、炭素繊維を内層円筒用金属筒にヘリカル角度15°を有するように巻き付けた状態を示す概略斜視図である。
【図4】 二層円筒構造を有する炭素複合材構造物部材の製造において、炭素繊維を外層円筒用金属筒にヘリカル状に巻き付けた状態を示す概略斜視図である。
【図5】 本発明の二層円筒構造を有する炭素複合材構造物を黒鉛ダイスとして組み込んだホットプレス機の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
10 二層円筒構造を有する炭素複合材構造物(黒鉛ダイス)
12 内層円筒部
14 外層円筒部
16 炭素繊維
18 二層円筒構造を有する炭素複合材構造物を配置したホットプレス機
20 汎用のホットプレス機
22 黒鉛モールド
24 ダイス
26、28 スペーサー
30、32 パンチ
Claims (4)
- 二層円筒構造を有する炭素複合材構造物であって、該二層円筒構造が、炭素質マトリックス中に炭素繊維が内層円筒の径方向に対して5〜20°の範囲にあるようなヘリカル巻き角度でヘリカル状に配置された炭素繊維強化炭素複合材料で形成された内層円筒部と、炭素質マトリックス中に炭素繊維が外層円筒の円周に、内層円筒の炭素繊維と外層円筒の炭素繊維との配向の角度差が5〜20°となるヘリカル状に配置された炭素繊維強化炭素複合材料で形成された外層円筒部とからなり、且つ、炭素繊維と炭化後の炭素質マトリックスの重量比が70:30〜55:45であることを特徴とする炭素複合材からなるホットプレス用ダイス。
- 前記外層円筒部の内周面と、内層円筒部の外周面にテーパー加工を施したことを特徴とする請求項1に記載のホットプレス用ダイス。
- 前記テーパーの角度が1〜5°の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載のホットプレス用ダイス。
- 炭素質マトリックス中に炭素繊維が配置された炭素繊維強化炭素複合材料が、炭素源をバインダーとして、炭素繊維を所望の配向で配置した複合原料を焼成して得られる材料であることを特徴とする請求項1及至3のいずれか1項に記載のホットプレス用ダイス。
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