JP4251831B2 - 内接歯車式オイルポンプ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、モータ等の駆動源により駆動されて液体を圧縮して吐出する回転ポンプに関し、特にオイルポンプとして利用する内接歯車式ポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関および自動モータによる車両伝動装置に使用される内接歯車式ポンプのほとんどはトロコイド歯のものが用いられる。トロコイド歯とは、アウターギアとインナーギアのどちらか一方の歯面が円弧状に制限され、もう一方のギアの歯面が、円弧により規定された一方のギアの歯のノンスリップ回転により規定されるものをいう。
【0003】
本発明が改良する内接歯車式ポンプは、内燃機関および自動伝動装置において、液体又は気体を送出するために、サイクロイド歯形を具体的に使用するものであり、例えば、1925年の英国特許第233423号公報や、独国特許第3938346号公報に記載されている。上記独国特許によるポンプは、互に歯数の異なるアウターギア(アウターロータ)とインナーギア(インナーロータ)とを有する内接歯車ポンプにおいて、完全なサイクロイド歯形を有する歯および歯溝の優れた運動学的特性を用いている。
【0004】
上記アウターギアの歯は、エンジンのクランクシャフトまたは自動ギアボックスの主シャフト(主軸)により駆動されるインナーギアの歯に噛合している。この内接歯車式ポンプでは、駆動軸であるクランクシャフト等の比較的明白な半径方向の動きは、アウターギアの周面とハウジングとの間のクリアランスを適当に設定する(アウターギアの径方向振れを許容する遊びをつける)ことによって補償される。また、その補償は、アウターギアをほとんど遊びなしで取り付け、その後、インナーギアの軸受とインナーギアとの間に相応の大きな遊びを設けることによっても可能である。この場合には、その後、インナーギアの歯をアウターギアの歯と噛合させる。このようなポンプは、本発明の技術の好適な適用対象となる。
【0005】
図4は、特開平5−256268号公報で提案されている平坦化されたサイクロイド歯形のモデル図を表している。
【0006】
特開平5−256268号は、周知のポンプに見られる送出流脈動に起因する雑音の発生、ポンプの効率低下及びキャビティーション雑音を低減する目的で各ギアのサイクロイド歯形を平坦化してアウターギアとインナーギアが最も深く噛合する位置での歯間隙間を縮小している。図4のfhは、ギアのピッチ円P上の点z0を起点として生成円reがピッチ円上を転動し、その生成円reの円周上の一点の軌跡によって画かれる本来のエピサイクロイド、frは、ピッチ円P上の点z0を起点として生成円rhがピッチ円上を転動し、その生成円rhの円周上の一点の軌跡によって画かれる本来のハイポサイクロイド、fh3、rh3は平坦化後のエピサイクロイドとハイポサイクロイドである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
作動流体の圧力脈動、即ち、送出流脈動が発生すると、アウターギアとインナーギアに起振力が働き、両ギアの歯が半径方向および接線方向に互いに打ち合って望ましくない雑音が発生する。
【0008】
特開平5−256268号は、その雑音を抑制しようとしているが、同公報の技術によると、アウターギアとインナーギアが最も深く噛み合う点における各ギアの歯間隙間は非常に小さく、両ギアの噛み合いが最も浅くなる領域において各ギア間の歯間隙間は大きく形成され、隙間が不均一なものになっている。これは、送出流脈動が発生すると、アウターギアとインナーギアが最も深く噛み合う位置で両ギアの歯が互いに打ち合うことを意味し、雑音の抑制効果が充分に引き出されない。
【0009】
さらに、歯形の一部に尖点(図4のZ1、Z2)を生じるために、ヘルツ応力に代表される面圧の増大、尖点のチッピングが発生し、歯面摩耗も促進される。
【0010】
なお、上記の現象の発生原因は、送出流脈動のみではない。通常の内接歯車式ポンプは、インナーギアに嵌合している駆動軸の振れによっても騒音、摩耗が引き起こされる。駆動軸の振れはそのままインナーギアに伝達されるため、インナーギアに起振力が発生しているのと同義であり、隙間の不均一性によってインナーギアとアウターギアの歯が互いに打ち合う。
【0011】
さらに、ポンピングチャンバ内における液泡、気泡の破懐により発生するキャビテーションによる送出流脈動の顕著な増大は、歯の打ち合いが起こり易い構造の場合、その打ち合いを助長し、雑音、歯面摩耗を一層促進させる。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、雑音発生を減少させ、更には機械効率および寿命の向上が図れる内接歯車式ポンプを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の歯車ポンプは、液体圧送用のポンプに使用される内接歯車式オイルポンプであって、下記の構成を採用したところに特徴を有している。即ち、
アウターギアと該アウターギアに内接して噛み合うインナーギアとこれ等のギアを収納するハウジングを具備し、アウターギアの歯溝とこれと対向するインナーギアの歯先はエピサイクロイド形状を有し、アウターギアの歯先とこれと対向するインナーギアの歯溝はハイポサイクロイド形状を有する内接歯車式ポンプにおいて、
アウターギアのエピサイクロイド形状(fh1)はピッチ円上を転がる第1の生成円(re1)の円周上の一点の軌跡で形成され、インナーギアのエピサイクロイド形状(fh2)はピッチ円上を転がる第2の生成円(re2)の円周上の一点の軌跡で形成され、アウターギアのハイポサイクロイド形状(fr1)はピッチ円上を転がる第3の生成円(rh1)の円周上の一点の軌跡で形成され、インナーギアのハイポサイクロイド形状(fr2)はピッチ円上を転がる第4の生成円(rh2)の円周上の一点の軌跡で形成され、生成円(re1、re2、rh1、rh2)の各半径は各々異なり、アウターギアの歯先とこれと対向するインナーギアの歯溝間の隙間が、第3、第4の生成円(rh1、rh2)の直径差に略等しく、アウターギアの歯溝とこれと対向するインナーギアの歯先間の隙間が、第1、第2の生成円(re1、re2)の直径差に略等しく、アウターギアとインナーギアがもっとも深く噛み合う点におけるアウターギアとインナーギア間の隙間と、アウターギアとインナーギアの噛み合いがもっとも浅くなる領域でのアウターギアとインナーギアの歯先間の隙間とが略等しく、アウターギアの周面とハウジングとの間にアウターギアの径方向の振れを許容できる径方向の隙間を設け、そのアウターギアとハウジング間の径方向の隙間を、歯間隙間が不均一な平坦化されたサイクロイド歯形のアウターギアとインナーギアを備える内接歯車式ポンプで設定できる最小の隙間より小さくし、その隙間からの流体漏れによるポンプの吐出量低下が抑制される大きさにして上記の目的を達成するものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1に本発明の好ましい実施の形態を示す。fh1、fr1は図2に示すアウターギア1の歯溝3、歯先4の形状を規定するエピサイクロイド、ハイポサイクロイドを示す。fh1は、ピッチ円P上の点z0を起点として生成円re1がピッチ円上を転動し、その生成円の円周上の一点の軌跡として形成される。fr1は同じく、ピッチ円上の点z0を起点として生成円rh1がピッチ円上を転動し、その生成円の円周上の一点の軌跡として形成される。
【0015】
fh2、fr2は図2に示すインナーギア2の歯先6、歯溝5の形状を規定するエピサイクロイド、ハイポサイクロイドを示す。fh2は、ピッチ円P上の点z0’を起点として生成円re2がピッチ円上を転動し、その生成円の円周上の一点の軌跡として形成される。fr2は同じく、ピッチ円上の点z0’を起点として生成円rh2がピッチ円上を転動し、その生成円の円周上の一点の軌跡として形成される。
【0016】
尚、ピッチ円Pは図2のアウターギア1とインナーギア2のそれぞれのピッチ円を意味するが、図1においては便宜上同一のピッチ円として表示してある。アウターギア1とインナーギア2間の隙間CRは、生成円re1、re2、rh1、rh2直径の差によって生じるので、アウターギア1とこれと対向するインナーギア2間には両者がもっとも深く噛み合う領域では略等しい隙間が生じることになる。
【0017】
本発明の内接歯車式ポンプは、図3に示されるように、アウターギア1とアウターギアよりも歯数の少ないインナーギア2がハウジング10内に設けられ(ハウジングの蓋は図示せず)、インナーギア2がアウターギア1の回転中心より偏心した位置に回転中心をもつように配置され、そのインナーギア2と同軸に配される駆動シャフト(図示せず)により回転駆動される構造を有する。ハウジング10は、通常のポンプと同じく吸引口7、吐出口8を有している。インナーギア2とアウターギア1間には両ギアの回転により容積変化を生じるチャンバ(ポンピングチャンバ)9が作り出され、そのチャンバ9が吸引口7と連通している位置でチャンバ9内に液体または気体が吸入され、その液体又は気体が圧縮工程に移ったチャンバ内で圧縮されて吐出口8から送り出される。
【0018】
通常、回転ポンプを使用すると、製造誤差等により駆動軸に振れが発生する。駆動軸の振れはそのままインナーギア2に伝達され、インナーギア2の歯面と噛み合うことによりアウターギア1に伝達される。これにより、駆動軸の振れは理論上の両歯車の噛み合いからのズレを生じさせ、両歯車に予期せぬ歯の摩耗が発生するとともに、両歯車の歯同志が当たることで雑音を生じさせる。さらに、アウターギア1とハウジング10とが機械的に押しつけられ、最悪の場合はギアの破損という事態になる。
【0019】
この結果、従来技術においては、歯間隙間の不均一性によって生じる上記の不具合を無くすために、駆動軸の振れを厳密な製造を行って小さく抑えるか、もしくはアウターギア1とハウジング10間の隙間を大きなものにする必要があった。
【0020】
しかしながら、アウターギア1とハウジング10間の隙間を大きくする行為は、ポンプの吐出量を低下させる行為に他ならない。何故ならば、ギアの回転によるチャンバ9の容積縮小により圧縮された流体がその隙間を通って高圧部分から低圧部分に逆流するためである。
【0021】
本発明は、アウターギア1とインナーギア2がもっとも深く噛み合う点(最深噛合部)における各ギア歯間の隙間と、アウターギア1とインナーギア2の噛み合いがもっとも浅くなる領域での各ギア歯間の隙間とが略等しくなる構成にして歯間隙間の不均一性を解消する。
【0022】
いうまでもなく、歯間隙間の均一性は4個の生成円の直径に適宜差を設けて達成される。
【0023】
その結果、歯形形状の連続性を損なうことなく、言い換えれば歯形形状の一部に尖点を生じることなく滑らかな歯形を実現して尖点を起点とする歯面摩耗の発生を押さえることができる。
【0024】
ところで、本発明ではインナーギア2の歯数、アウターギア1の歯数、エピサイクロイドを生成する生成円の直径とハイポサイクロイドを生成する生成円の直径およびその比には何等拘束されず、歯間隙間の均一性と歯形形状の連続性が保証される。また、歯間隙間の量(大きさ)もポンプの必要吐出量に応じて選択されるべきものである。
【0025】
【実施例】
図2に本発明の内接歯車式ポンプの歯車の噛合状態を示す。図2(a)は、インナーギア2の歯先6とアウターギア1の歯溝3の最深噛合状態を示し、図2(b)は、インナーギア2の歯溝5とアウターギア1の歯先4の最深噛合状態を示す。
【0026】
1はアウターギア、2はインナーギア、3、4はアウターギア1の歯溝、歯先を示す。5、6はインナーギア2の歯溝、歯先を示す。また、C1 は、アウターギア1とインナーギア2の最深噛合部における歯先と歯溝間の隙間、C2 は、噛み合いがもっとも浅くなる領域(最深噛合部の反対領域)におけるアウターギア1とインナーギア2の歯先間の隙間を示す。C3 は、アウターギア1とインナーギア2の軸心の偏心量を示す。
【0027】
次に、本発明のポンプにおけるインナーギア、アウターギアの代表的な寸法諸元を示す。
インナーギア歯数:10枚
インナーギアピッチ円径:φ64.00mm
インナーギアエピサイクロイド生成円径:φ2.50mm
インナーギアハイポサイクロイド生成円径:φ3.90mm
アウターギア歯数:11枚
アウターギアピッチ円径:φ70.40mm
アウターギアエピサイクロイド生成円径:φ2.56mm
アウターギアハイポサイクロイド生成円径:φ3.84mm
インナーギアとアウターギアの軸心の偏心量:3.20mm
【0028】
上記諸元にて歯形を作成しその隙間を測定すると、アウターギア1とインナーギア2がもっとも深く噛み合う点における歯間の隙間(図2(a)もしくは図2(b)のC1 )は略0.06mmとなり、アウターギア1とインナーギア2の噛み合いがもっとも浅くなる領域での歯間の隙間(図2(a)もしくは図2(b)のC2 )は前者とほぼ等しく略0.06mmになる。
【0029】
また、歯形形状の一部を拡大すると、エピサイクロイドの開始点もしくは終了点と、ハイポサイクロイドの開始点もしくは終了点が尖点を生じることなく連続性を確保しているのが判る。
【0030】
図3に、図1、図2の内接歯車をハウジング10に収納した状態を示す。7は吸引口、8は排出口、9はチャンバ、10はハウジングである。ハウジング10には、歯車収納室を封止する蓋(図示せず)が取付けられる。
【0031】
なお、試作品による試験結果から、本発明の構造を有する内接歯車式ポンプは、従来技術の同種のポンプに比較して寿命、機械効率ともに飛躍的に向上することがわかった。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、アウターギアとインナーギアがもっとも深く噛み合う点における歯間の隙間と、アウターギアとインナーギアの噛み合いがもっとも浅くなる領域での歯間の隙間とが略等しくなるようにしたので、圧縮効率および寿命の向上、ひいては雑音の低減、歯面摩耗の低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のポンプのインナーギアとアウターギアの噛み合い軌跡を示す説明図。
【図2】 本発明の内接歯車式ポンプのインナーギアとアウターギアの噛合状態を示す正面図。
【図3】 本発明の内接歯車式ポンプをハウジングの蓋を外した状態にして示す正面図。
【図4】 平坦化されたサイクロイド歯形のモデル図。
【符号の説明】
1 アウターギア、2 インナーギア、3 アウターギアの溝、4 アウターギアの歯、5 インナーギアの溝、6 インナーギアの歯、7 吸引口、8 排出口、9 チャンバ、10 ハウジング。
Claims (1)
- アウターギアと当該アウターギアに内接して噛み合うインナーギアと、これ等のギアを収納するハウジングを具備し、アウターギアの歯溝とこれと対向するインナーギアの歯先はエピサイクロイド形状を有し、アウターギアの歯先とこれと対向するインナーギアの歯溝はハイポサイクロイド形状を有する内接歯車式ポンプにおいて、アウターギアのエピサイクロイド形状はアウターギアのピッチ円上を転がる第1の生成円の円周上の一点の軌跡で形成され、インナーギアのエピサイクロイド形状はインナーギアのピッチ円上を転がる第2の生成円の円周上の一点の軌跡で形成され、アウターギアのハイポサイクロイド形状はアウターギアのピッチ円上を転がる第3の生成円の円周上の一点の軌跡で形成され、インナーギアのハイポサイクロイド形状はインナーギアのピッチ円上を転がる第4の生成円の円周上の一点の軌跡で形成され、生成円の各半径は各々異なり、アウターギアの歯先とこれと対向するインナーギアの歯溝間の隙間が、第3、第4の生成円の直径差に略等しく、アウターギアの歯溝とこれと対向するインナーギアの歯先間の隙間が、第1、第2の生成円の直径差に略等しく、アウターギアとインナーギアがもっとも深く噛み合う点におけるアウターギアとインナーギア間の隙間と、アウターギアとインナーギアの噛み合いがもっとも浅くなる領域でのアウターギアとインナーギアの歯先間の隙間とが略等しく、
前記アウターギアの周面とハウジングとの間にアウターギアの径方向の振れを許容できる遊びを設け、アウターギアとハウジング間の径方向の隙間を、歯間隙間が不均一な平坦化されたサイクロイド歯形のアウターギアとインナーギアを備える内接歯車式ポンプより小さくし、その隙間からの流体漏れによるポンプの吐出量低下が抑制される大きさにしたことを特徴とする内接歯車式オイルポンプ。
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