JP4245082B2 - 有機無機複合体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、汎用のポリマーであるポリエステルあるいはポリ酸無水物をマトリクスポリマーとする有機無機複合体の製造方法に関する。
有機無機複合体はマトリクスとなる有機ポリマー中に無機化合物を分散させた複合材料であり、有機ポリマーの加工性や柔軟性等と無機材料の耐熱性や硬度等の特性を併せ持った材料として注目されている。このような有機無機複合体は、そのまま素材として使用する他、汎用ポリマーの改質剤としても期待がなされている。
このような有機無機複合体の製造技術としては、従来、
1.有機化処理を行った粘土鉱物を層状の無機成分として用いる層剥離法や、
2.無機微粒子を有機ポリマーにポリマー溶融状態で直接混合することによる溶融混練法、あるいは、
3.金属アルコキシドを加水分解させる系に溶解したポリマーを共存させるゾル−ゲル法、等が知られている。
1.の方法は、マトリクスとして使用する有機ポリマーがポリアミドであれば、粘土層が良好に剥離したいわゆるナノコンポジットが製造できるが、ポリアミド以外、例えばポリエステル等の低極性ポリマーでは分散が困難である。また粘度鉱物の含有率を10質量%以上とすることも困難である。また、有機化処理を行った粘度鉱物は非常に高価(通常5000円/kg以上)であり、得られる有機無機複合体の用途が限定される。
また2.の方法は、固体の無機化合物の微粒子を直接樹脂に分散させる。固体状の無機化合物微粒子は、該無機化合物単体の粒径が小さいほど凝集する傾向があるため、得られる有機無機複合体の無機微粒子径は混合前の粒径かそれ以上となる。無機微粒子径が粗大化するほど無機材料の特性は発揮できなくなるので、無機微粒子の含有率を高めようと多量に分散させた場合は、無機微粒子の凝集体が多々生じ無機導入量に比例した補強効果が期待できなくなる。
また3.の方法は、選定するポリマーによって、比較的無機含有率が高く且つ無機成分が微分散した有機無機複合体を製造することができる。しかし、金属アルコキシドの加水分解と脱水縮合に週単位の極めて長時間を要することがあり、製造効率に劣る。また、無機原料である金属アルコシキドは、取り扱い性が悪い上に高価である。
このように、従来法では、含有できる無機化合物量に限界があったり、使用する原料が高価であり得られる有機無機複合体の用途が限られてしまうなどの問題があった。また使用できるポリマーの種類も限られているため、ポリエステル等のプラスチック用途における需要の大きいポリマーをマトリクスとした有機無機複合体を容易に得ることができなかった。
これに対し、マトリクスとなるポリマーを合成させながら同時に無機化合物を析出させ、ポリマー中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体を、簡易な合成操作で、且つ珪酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウム等の安価な無機原料を用いて製造できる方法がある。例えば、ポリアミドとシリカとの複合体の製造方法や(例えば特許文献1参照)、ポリアミド等の有機ポリマーと酸化アルミニウム等の金属化合物との複合体の製造方法(例えば特許文献2参照)、芳香族ポリエステルとシリカとの有機無機複合体の製造方法(例えば特許文献3参照)が知られている。
しかし特許文献1及び2に記載の方法で得られる有機無機複合体は、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素といった極性ポリマーをマトリクスポリマーとしており、例えばポリマーの改質剤として利用する場合に相溶できるポリマーが限られるといった問題があった。
特許文献3に記載の方法は、芳香族ジカルボン酸ハロゲン化物の有機溶剤溶液と、二価フェノール類と水ガラスの水溶液を混合攪拌して重縮合させる方法であり、ポリエステルとガラスとの有機無機複合体が得られる。しかしながら、ニ価フェノールは水に溶解させて使用するために、水溶性のレゾルシンやハイドロキノン以外は効率よく反応しないといった問題があった。
特許文献3に記載の方法で、水溶性に乏しいビスフェノール等を二価フェノール類として使用した場合、二価フェノール類は水ガラス中のナトリウムイオンにより末端の-OHが−ONaにイオン交換されることにより一部溶解はされるが、この溶解に伴う水ガラスの単独析出反応を引き起こすこととなり(即ち水ガラスのSi−O−Naのナトリウムイオンが、2価フェノールのプロトンとイオン交換することで、Si−O−Hとなると、引き続き脱水重縮合を生じ、Si−O−Si結合を形成し固体として単独で析出する)、該文献が目的とする原料の完全溶解からの、無機成分が微粒化した複合体することができない。
また、該方法は、水ガラスをアルミン酸ナトリウム等に置き換えることもまた困難である。即ち水溶時に強アルカリになる無機化合物は、二価フェノール類と同時に溶解させようとすると、二価フェノール類のプロトンにより急速に中和され直ちに析出するため、複合体を合成できない。従って、アルミン酸ナトリウムや亜鉛酸ナトリウムを原料とする、酸化アルミニウム、酸化亜鉛を無機成分に持つ複合体を得ることができない。
特開平10−176106号公報 特開2005−036211号公報 特開2003−252974号公報
本発明は、汎用の原料を使用したポリエステルやポリ酸無水物をマトリクスポリマーとし、該ポリマーを合成させながら同時に無機化合物を析出させ、該ポリマー中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体を、簡易な合成操作で、且つ珪酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウム等の安価な無機原料を用いて製造できる方法を提供する。
本発明者は、上記課題を解決する手段として、ポリエステルやポリ酸無水物の原料である二価フェノ−ル類やジカルボン酸や酸ハライド等のモノマーを全て有機溶剤に溶解し、無機化合物の原料であるアルカリ金属を含む金属化合物や珪酸アルカリを水に溶解し、それぞれの溶液を、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、容易に、ポリエステルやポリ酸無水物中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体が得られることを見出した。
酸ハライドは非常に反応性が高く、例えばベンゾイルクロライドと水とは常温で徐々に反応してしまう。しかしながら本発明者らは、有機溶媒中であれば、二価フェノ−ル類やジカルボン酸と酸ハライドとは反応せず安定に存在することを見出し、該安定な有機溶液と、アルミン酸ナトリウム等のアルカリ金属複合酸化物や珪酸アルカリを溶解した水溶液と共存させることで初めて、ポリマー重合反応が開始され、且つ無機析出反応も同時に開始され、平行して反応が進むことを見出した。
二価フェノ−ル類やジカルボン酸や酸ハライド等のモノマーを全て有機溶剤に溶解した安定な溶液と、アルミン酸ナトリウム等のアルカリ金属複合酸化物や珪酸アルカリの水溶液とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、アルカリ金属により、二価フェノ−ル類のヒドロキシ基やジカルボン酸のカルボキシ基の水素原子が水素イオンとして解離し、アルカリ金属イオンとイオン交換反応を生じ、二価フェノ−ル類やジカルボン酸はアルカリ金属塩となる。アルカリ金属塩となった二価フェノ−ル類やジカルボン酸は反応性を著しく増し、酸ハライドと重縮合反応を生じる。
一方、アルミン酸ナトリウム等のアルカリ金属複合酸化物や珪酸アルカリはアルカリ金属と水素イオンとがイオン交換反応を生じ化合物末端にヒドロキシ基を生じ、これらが脱水重縮合反応を生じるために微細な無機化合物として析出し、高い含有率でポリエステル等の有機ポリマー中に均一に分散される。
即ち、本発明は、二価フェノ−ル類、ジカルボン酸及びジカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物(a)と、酸ハライド(b)とを含有する有機溶剤溶液(1)と、
金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれ少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)を含有する水溶液(2)を、
前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)の少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで前記化合物(a)のアルカリ金属塩を生成させ、更に、該アルカリ金属塩を前記酸ハライド(b)とを反応させる有機無機複合体の製造方法を提供する。
本発明により、汎用のポリマーであるポリエステルやポリ酸無水物をマトリクスポリマーとし、各原料が完全に溶解した状態から該ポリマーを合成させつつ無機化合物を析出させ、該ポリマー中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体を、簡易な合成操作で、且つ珪酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウム等の安価な無機原料を用いて製造できる。無機微粒子を有機ポリマー中に物理的に混合する方法とは異なり、無機化合物を析出させながらポリマーを合成させるので、非常に微細な状態で複合化させることができる。
更に該反応は、汎用の攪拌装置を用いて、常温常圧下、短時間の1ステップで行うことが可能である。また、使用する原料は全て汎用の原料であり、特にアルカリ金属を含む金属化合物としてアルミン酸アルカリや珪酸アルカリを使用すると、原料費も非常に安価で済む。
本発明の製造方法は、有機ポリマーの原料である化合物(a)及び化合物(b)と無機原料である金属化合物(c−1)または珪酸アルカリ(c−2)の何れの材料とも、反応前はいずれかの溶媒に溶解状態であり、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、マトリクスとなるポリマーの合成と無機化合物の析出とが同時に生じるボトムアップ型合成であることが特徴である。相溶あるいは分離の状態で有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが同一容器即ち1つの反応容器中に存在し、且つ有機溶剤溶液(1)の一部もしくは全部と水溶液(2)の一部もしくは全部とが接触する。各々の溶液の一部が接触する場合とは、見た目反応容器中で分離した状態を指し、通常界面重合により反応は進む。一方各々の溶液の全部が接触する場合とは、見た目反応容器中で相溶した状態を指し、通常均一溶液重合により反応は進む。
(有機溶剤溶液(1))
本発明におけるマトリクスとなるポリマーは、二価フェノ−ル類、ジカルボン酸及びジカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物(a)と、酸ハライド(b)との重縮合反応で得られるポリエステルまたはポリ酸無水物であることが、反応が容易であり好ましい。これらの化合物(a)及び(b)はいずれも有機溶剤に溶解しておく。
このとき、前記化合物(a)として二価フェノ−ル類を使用し、前記酸ハライド(b)としてジカルボン酸ハロゲン化物を使用するとポリエステルとなり、前記化合物(a)としてジカルボン酸あるいはジカルボン酸無水物を使用し、前記酸ハライド(b)としてジカルボン酸ハロゲン化物を使用するとポリ酸無水物となる。ポリ酸無水物の場合は、使用する時カルボン酸化合物として芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸無水物又は脂肪族ジカルボン酸無水物であることが好ましい。
(化合物(a):二価フェノ−ル類)
本発明で使用する二価フェノール類は、酸ハライドと同時に有機溶剤に溶解可能な、2つのフェノール性水酸基を有する化合物である。
2つのフェノール性水酸基は、1つの芳香環上にあっても複数の芳香環上にあっても良い。これらは所望するポリマーの性質により適宜決定される。
2つのフェノール性水酸基が1つの芳香環上にある化合物としては、例えば、レゾルシン(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)、カテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン)等が挙げられる。
また、2つのフェノール性水酸基がそれぞれ複数の芳香環上にある化合物としては、例えば、2,2’−ビフェノール、4,4’−ビフェノール、3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)、等のビフェノール、ビスフェノールS、ビスフェノールA、ビスフェノールH、ビスフェノールC、ビスフェノールE等のビスフェノール、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン等のナフタレン骨格を持つ化合物、アントラセン等の芳香環が3つ以上の化合物のいずれかの芳香環に、置換部位は問わずに2つのフェノール性水酸基を有する化合物をあげることができる。
また前記二価フェノール類は、酸ハライドと常温、常圧下では反応せず且つ使用する有機溶剤や後述の水溶液(B)と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。
本発明においては、二価フェノール類の溶媒として有機溶剤を使用するので、水溶性が殆どないビフェノール、ビスフェノール、ナフタレン骨格やアントラセン骨格等を持つ二価フェノール等も使用することができる。
なお本発明においては、エチレングリコールや1,4−ブタンジオール等の脂肪族アルキルジオールでは酸ハロゲン化物と重縮合反応が生じない。これは、脂肪族アルキルジオールの水酸基の水素イオンの解離性が二価フェノール類と比べて極めて低いために、後述の金属化合物(c−1)または珪酸アルカリ(c−2)中のアルカリ金属イオンが脂肪族アルキルジオール化合物の水酸基の水素イオンとイオン交換反応できないためと考えられる。
(化合物(a):ジカルボン酸)
本発明で使用するジカルボン酸は、酸ハライドと同時に有機溶剤に溶解可能な、2つのカルボキシ基を有する化合物である。ジカルボン酸は脂肪族ジカルボン酸でも芳香族ジカルボン酸でも良い。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、芳香環から構成された化合物としてはテレフタル酸、イソフタル酸等の1つの芳香環を有する化合物、1,4−ジカルボキシナフタレン、1,5−ジカルボキシナフタレン、1,6−ジカルボキシナフタレン、2,6−ジカルボキシナフタレン等のナフタレン骨格を持つ化合物等の複数の芳香環を有する化合物、あるいは、ビフェニル−2,2´−ジカルボン酸等のビフェニル骨格を持つジカルボン酸等が挙げられる。
また脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、エタン二酸(しゅう酸)、プロパン二酸(マロン酸)、ブタン二酸(コハク酸)、ペンタン二酸(グルタル酸)、ヘキサン二酸(アジピン酸)、オクタン二酸(スベリン酸)、デカン二酸(セバシン酸)等が挙げられる。
また前記ジカルボン酸は、酸ハライドと反応せず且つ使用する有機溶剤や後述の水溶液(B)と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。
(化合物(a):ジカルボン酸無水物)
本発明で使用するジカルボン酸無水物は、水と塩基の存在下で酸無水結合が加水分解されジカルボン酸になる化合物であればよい。
例えばテトラヒドロフラン−2,5−ジオン(無水コハク酸)、無水グルタル酸等を脂肪族ジカルボン酸無水物として例示することができる。加えて、無水フタル酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、1、8−ナフタル酸無水物、1、2−ナフタル酸無水物等の芳香族ジカルボン酸無水物を例示することができる。これらの化合物は酸ハライドと反応せず且つ使用する有機溶剤や後述の水溶液(B)と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。ジカルボン酸無水物は前記ジカルボン酸よりも有機溶剤に対する溶解性が高いため、有機溶剤溶液(1)中の濃度を高めることができ、反応効率をより高くすることができる。
(酸ハライド(b))
本発明で使用する酸ハライド(b)は、有機溶剤溶液(1)中での常温、常圧条件下では二価フェノ−ル類、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物とは反応せず、水溶液(2)と共存させることで始めて重縮合反応を生じるような2価のハライドを有する化合物であれば特に限定されない。
例えば、芳香族基を有する酸ハライド(b)としては、例えば、イソフタル酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、2つ以上の芳香環から構成される1,4−ジカルボキシナフタレン、1,5−ジカルボキシナフタレン、1,6−ジカルボキシナフタレン、2,6−ジカルボキシナフタレン等の酸ジハロゲン化物が挙げられる。
また、脂肪族基を有する酸ハライド(b)としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の酸ジハロゲン化物が挙げられる。
本発明では、酸ハライド(b)を含む有機溶剤溶液を水溶液と共存させることから、酸ハライド(b)として比較的水に対して安定である芳香族酸ジハライドが特に好ましく用いられる。また、前記酸ハライド(b)は、有機溶剤や後述の水溶液(B)と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。
(有機溶剤)
前記化合物(a)及び酸ハライド(b)は、いずれも有機溶剤に溶解した有機溶剤溶液(1)として使用する。使用できる有機溶剤としては、前記化合物(a)や前記酸ハライド(b)のいずれとも反応せずに溶解できる有機溶剤であれば特に制限はない。具体的な例としては、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、n−ブチルエーテル、アニソール等のエーテル類、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサノン等のケトン類の他、酸酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸アルキル、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、炭酸プロピレン等をあげることができる。またトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類は非常に極性が低いため、前記化合物(a)の炭化水素部位が大きいことで極性が低く、完全に溶解させることができるときのみ用いることができる。
有機溶剤として、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、アセトン、酢酸エチル等の、水可溶性もしくは水溶性である有機溶剤を使用すると、得られる前記有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが相溶した状態で反応することとなり、反応場が均一な溶液中である溶液重合で反応が進行し、得られる有機無機複合体は粉末状となる。
一方、ジブチルエーテル、アニソール、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン等の、水難溶性もしくは水不溶性である有機溶剤を使用すると、得られる有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが分離した状態で反応することとなり、反応場が水と有機溶剤との界面である界面重合で反応は進行し、得られる有機無機複合体は塊状となる。
有機溶剤溶液(1)中の化合物(a)と酸ハライド(b)とのモノマーのモル比は、有機無機複合体の合成反応が正常に進行すれば特に限定されないが、収率よく反応を進行させるためにはおよそ1:1であることが好ましい。
また、本発明での前記有機溶剤溶液(1)中の化合物(a)と酸ハライド(b)のそれぞれのモノマー濃度は、重合反応が十分に進行すれば特に制限されないが、各々のモノマー同士を良好に接触させる観点から、0.01〜3モル/Lの濃度範囲、特に0.05〜1モル/Lが好ましい。
また、前記有機溶剤溶液(1)は、その他反応を阻害しないような添加剤を適宜加えてもよい。
(水溶液(2))
本発明における無機化合物の原料は、無機化合物のアルカリ金属塩である。具体的には、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)(以下金属化合物(c−1)と略す)、又は珪酸アルカリ(c−2)が、入手が容易であり安価であり好ましい。金属化合物(c−1)を原料とした場合はアルカリ金属以外の金属元素を有する金属化合物が析出し、珪酸アルカリ(c−2)を原料とした場合はシリカ(酸化ケイ素)が析出する。
(金属化合物(c−1))
本発明で使用する金属化合物(c−1)は、具体的には、下記一般式(1)で表される。
Figure 0004245082
前記一般式(1)において、Aはアルカリ金属元素を表し、Mはアルカリ金属以外の金属元素を表し、Bは酸素原子、カルボキシ基、またはヒドロキシ基を表す。x、y、及びzは各々独立してA、MとBの結合を可能とする数である。(複合酸化物系の無機材料には不定比化合物(例えばNa1.6Al0.92.8 のような類が多いために、xyzともに整数とも小数とも定義できない。そのため、安定して存在しえる数を指す。)
前記一般式(1)で表される化合物は、水に完全または一部溶解し塩基性を示すものが好ましい。且つ、析出する金属化合物が、水に殆どまたは全く溶解しない化合物であることが好ましい。
前記一般式(1)におけるBが酸素原子である化合物としては、例えば、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、亜クロム酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、亜テルル酸ナトリウム、チタン酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、亜鉛酸カリウム、アルミン酸カリウム、亜クロム酸カリウム、モリブデン酸カリウム、スズ酸カリウム、マンガン酸カリウム、タンタル酸カリウム、亜テルル酸カリウム、鉄酸カリウム、バナジン酸カリウム、タングステン酸カリウム、金酸カリウム、銀酸カリウム、ジルコン酸カリウム等のカリウム複合酸化物、アルミン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、タンタル酸リチウム、チタン酸リチウム、バナジン酸リチウム、タングステン酸リチウム、ジルコン酸リチウム等のリチウム複合酸化物のほかルビジウム複合酸化物が挙げられる。
前記一般式(1)におけるBがカルボキシ基及びヒドロキシ基の両方を含む金属化合物(c−1)としては、例えば、炭酸亜鉛カリウム、炭酸ニッケルカリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸コバルトカリウム、炭酸スズカリウム等が挙げられる。
前記金属化合物(c−1)は、水に溶解させて用いるために水和物であっても良い。また、各々を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
金属化合物(c−1)の中でも、特に、アルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ、炭酸ジルコニウムアルカリが特に好ましく用いられる。これらの金属化合物は、水溶性が高く溶解させた際の塩基性が強いため、前記マトリクスとなるポリマーの縮重合反応を進行させやすい。中でもアルミン酸アルカリは特に水溶性が高い上安価であるため最も好ましく用いられる。
(珪酸アルカリ(c−2))
本発明で使用する珪酸アルカリ(c−2)は、例えば、JIS K−1408−1950に記載の珪酸ナトリウム(水ガラス)1号、2号、3号、4号が例となるMO・nSiOの組成式で、Mがアルカリ金属、nの平均値が1.8〜4のものが挙げられる。また、nの平均値が1.8以下でありMがナトリウムであるオルト珪酸ナトリウムやメタ珪酸ナトリウム、前記の珪酸ナトリウムのナトリウムが他のアルカリ金属に変更された、珪酸リチウム、珪酸カリウム、珪酸ルビジウム等も用いることができる。
(水溶液(2)の溶媒)
前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)は、水に溶解させ水溶液(2)として使用する。また、前記有機溶剤溶液との反応を相溶した状態で行いたい場合には、アセトンやテトラヒドロフラン等の極性有機溶剤を水溶液(2)の30質量%程度を上限にして混合し、溶解度を調節してもよい。
また、水溶液(2)には有機ポリマーの合成を促進するために、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ等の塩基性物質を溶解させてもよい。また、有機溶剤溶液(1)との混合性を高めるために界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
(製造方法)
本発明の有機無機複合体の製造方法は、前記化合物(a)と酸ハライド(b)とを含有する有機溶剤溶液(1)と、前記金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)を含有する水溶液(2)を、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)の少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで前記化合物(a)のアルカリ金属塩を生成させ、更に、該アルカリ金属塩と前記酸ハライド(b)とを反応させることを特徴とする。
本発明での有機無機複合体の合成機構は以下のように推定している。
(マトリクスとなるポリマーの合成反応)
前述の通り、前記化合物(a)と前記酸ハライド(b)とは、常温常圧下では塩基の不存在下では反応しない。即ち、前記化合物(a)と前記酸ハライド(b)とを溶解させた有機溶剤溶液は常温下では反応せず安定に存在する。一方、前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)の水溶液も安定である。
これらの安定な溶液を、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させると、前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)のアルカリ金属により、前記化合物(a)のヒドロキシ基やカルボキシ基の水素原子が水素イオンとして解離し、アルカリ金属イオンとイオン交換反応を生じ、前記化合物(a)はアルカリ金属塩となる。アルカリ金属塩となった前記化合物(a)は反応性を著しく増し、前記酸ハライド(b)との重縮合反応が開始され、ポリエステルやポリ酸無水物等のポリマーが生じる。具体的には、下記の通りである(以下アルカリ金属塩として、ナトリウム金属塩の場合を記載している)。
前記化合物(a)が二価フェノール類である場合、フェノール性水酸基の水素原子が水素イオンとして解離し、ナトリウムイオンとイオン交換し、−ONa基が生じる。
前記化合物(a)がジカルボン酸やカルボン酸無水物である場合は、カルボキシ基の水素原子が水素イオンとして解離し、ナトリウムイオンとイオン交換し、−COONaが生じる。
このようにアルカリ金属塩となった前記化合物(a)は反応性を著しく増すことで、前記酸ハライド(b)と重縮合反応を生じ、前記化合物(a)として二価フェノール類を使用した場合はポリエステルが、ジカルボン酸やジカルボン酸無水物を使用した場合はポリ酸無水物が生成する。その際に発生するNaCl等のハロゲン化アルカリは、合成系中の水や洗浄工程での水に溶解することで、合成系外に排出される。
(無機化合物の析出反応)
一方、アルカリ金属がプロトンとイオン交換された金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)は、無機析出反応である脱水重縮合を生じやすくなる。例えば珪酸ナトリウムを使用した場合では、前記イオン交換反応時に、−Si−ONaがシラノール基(−Si−OH)となる。生成したシラノール基が複数会合して脱水重縮合反応を生じて(−Si−O−Si−)の結合が生成する。これによりシリカが固体化して析出する。
前記ポリマーの合成反応と無機化合物の析出反応は、それぞれの反応の前駆物質が前記イオン交換反応時に同時に生じる。従って、どちらか一方の反応のみが一方的に生じることはなくほぼ同時に進行するものと考えられる。ポリマーが合成しながら同時に無機化合物を析出させるので、該ポリマー中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体を、簡易な合成操作で得ることができる。
(有機無機複合体の合成反応場)
前記合成反応の反応場は、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが相溶するか、非相溶であるかにより異なる。
前述の通り、有機溶剤として、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、アセトン、酢酸エチル等の、水可溶性もしくは水溶性である有機溶剤を使用すると、得られる前記有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが相溶した状態で反応することとなり、反応場が均一な溶液中である溶液重合で反応が進行し、得られる有機無機複合体は粉末状となる。この時得られるポリマーの分子量は低いものが多い。
一方、前述の通り、ジブチルエーテル、アニソール、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン等の、水難溶性もしくは水不溶性である有機溶剤を使用すると、得られる有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが分離した状態で共存し反応することとなる。このとき、反応場が水と有機溶剤との界面であると、界面重合で反応は進行し、得られる有機無機複合体は塊状〜粗大粒子状となる。この時得られるポリマーの分子量は高いものが多い。
これらの重合方法は特に限定されず、所望する有機無機複合体の形状、ポリマーの分子量等により選択することが可能である。
(有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)の共存方法)
前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させるには、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが接触する環境があれば特に限定はなく、通常は、攪拌翼を有する1つの反応釜に前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを同時に仕込めばよい。反応温度は特に高く設定する必要は無く、例えば−10〜50℃の常温付近の温度範囲で十分に反応が進行する。また、加圧や減圧は特に必要としない。有機無機複合体の合成反応は、用いるモノマー種や反応装置、スケールにもよるが、通常10分以下の短時間で完結する。
具体的には、前記有機溶剤溶液(1)または前記水溶液(2)を仕込んだ反応釜中に、攪拌しながらもう1方の溶液を添加していく方法が挙げられる。前記有機溶剤溶液(1)及び前記水溶液(2)の仕込み順序については特に限定はないが、より好ましくは、前記有機溶剤溶液(1)を仕込んだ反応釜中に、攪拌しながら前記水溶液(2)を滴下し、前記水溶液(2)を徐々に添加していく方法であると、得られる有機無機複合体のポリマー成分であるポリエステルやポリ酸無水物のエステル部位や酸無水部位が切断する恐れもなく、良好な有機無機複合体を得ることができる。これは、アルカリ性水溶液が共存する状態ではエステル部位や酸無水部位が切断する恐れがあり、アルカリ性を示す水溶液(2)と生成したポリエステルやポリ酸無水物とが長時間接触するのを避けるためである。
(製造装置)
本発明で用いる製造装置としては、有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを良好に接触反応させることができる製造装置であればとくに限定されず連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。連続式の具体的な装置としては大平洋機工株式会社製「ファインフローミルFM−15型」、同社製「スパイラルピンミキサSPM−15型」、あるいは、インダク・マシネンバウ・ゲーエムベー(INDAG Machinenbaugmb)社製「ダイナミックミキサDLM/S215型」などが挙げられる。また、バッチ式の場合は有機溶液と水溶液の接触を良好に行わせる必要があるので、アンカ−翼やマックスブレンド翼やファウドラ−翼等の攪拌力が強い攪拌装置を用いるのが好ましい。
(その他の成分 金属化合物(c−3))
本発明の製造方法においては、異なる無機種を有する無機化合物を複数有する有機無機複合体を得ることも可能である。具体的には、例えば、前記金属化合物(c−1)に該当する金属化合物を複数種使用してもよいし、前記金属化合物(c−1)と前記珪酸アルカリ(c−2)とを併用させてもよい。
また、前記金属化合物(c−1)や前記珪酸アルカリ(c−2)とは異なる無機化合物を併用して、異なる無機化合物を複数有する有機無機複合体を得てもよい。具体的には、例えば、前記水溶液(2)に、塩基性水溶液に溶解し且つ中性溶液では析出する、前記金属化合物(c−1)とは異なる種の金属化合物(c−3)を添加する方法がある。この方法は、前記ポリマーの合成反応と前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)の析出反応が進行するに従い、水溶液のpHが塩基性から中性に変化することを利用する。即ち、ポリマー生成反応初期では水溶液が塩基性であるために、金属化合物(c−3)は溶解状態のままであるが、有機無機複合化反応が進み水溶液が中性に近づくと、容易に析出し、異種の無機化合物を複数有する有機無機複合体が得られる。金属化合物(c−3)の析出反応は前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)に由来する無機析出反応とはやや遅れると推定されるために、得られる有機無機複合体は、ポリエステルまたはポリ酸無水物のマトリクスポリマー中に前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)を由来とする無機化合物(以下、前記金属化合物(c−1)に由来する無機化合物を無機化合物(c−1)と称し、珪酸アルカリ(c−2)に由来する無機化合物を無機化合物(c−2)と称する)が均一に分散され、その上に前記金属化合物(c−3)が担持された形状を有すると推定される。
本発明で使用する金属化合物(c−3)の塩基性溶液への溶解量は、pH13の常温下の塩基性溶液に100mg/L以上が目安となる。該量よりも溶解量が小さい場合、得られる有機無機複合体の金属化合物(c−3)担持量が少なすぎて、金属化合物(c−3)に由来する機能を十分に発揮させることができない場合がある。また、本発明に用いる金属化合物(c−3)の中性溶液への溶解量は、pH6〜8の常温下の中性水溶液に30mg/L以下が目安となる。この量よりも溶解量が大きい場合には、該複合体の合成後のろ過や水洗の工程で金属化合物が流出し、担持効率が低くなり、目的とする担持量が得られにくくなる場合がある。
本発明で使用する金属化合物(c−3)の金属種は、上記の溶解特性を示す化合物を有するものであればいずれの金属も用いることができる。リチウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、金、モリブデン、タングステン、パラジウム、ルテニウムなどの遷移金属、アルミニウム、亜鉛、インジウム、スズ、鉛、アンチモン等の典型金属を例示することができる。中でも、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の物が好ましく使用される。また、金属元素が2種以上含まれる複合化合物を用いることもできる。また、化合物種としては上記溶解特性を満たすものであれば酸化物、ハロゲン化物、水酸化物や、各種金属のシュウ酸塩、炭酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩等を制限なく用いることができる。そのため、本発明では極めて多種多様の金属酸化物を容易に担持することができる。
本発明で使用する金属化合物(c−3)として、好適に用いられる金属化合物を例示すると、リン酸リチウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属化合物、酸化タングステン(VI)、酸化バナジウム(V)、酸化コバルト(II) 、水酸化コバルト(II) 、シュウ酸コバルト(II)、酸化ニオブ(II)、水酸化鉄(II)、酸化ニオブ(V)、酸化モリブデン(VI)、水酸化マンガン(II)、酸化金(III)、水酸化金(III)、ヨウ素酸銀(I)、炭酸銀(I)、酸化銀(I)、硫化銀(I)、酸化銅(I)、水酸化銅(II)、塩基性炭酸銅(II)、酸化銅(II)、リン酸銅(II)、シュウ酸銅(II)、酸化レニウム(VI)、水酸化パラジウム(II)、水酸化ルテニウム(IV)等の遷移金属化合物、酸化スズ(II)、水酸化スズ(II)、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化インジウム(III)、シュウ酸ニッケル(II)、酸化亜鉛(II)、水酸化亜鉛(II)、シュウ酸亜鉛(II)、酸化アンチモン(III)、酸化ガリウム(III)、酸化鉛(II) 、酸化鉛(IV)、リン酸鉛(II)、 水酸化鉛(II)等の典型金属化合物が挙げられる。これら金属化合物は水に溶解させて用いるため、水和物であっても良い。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
前記水溶液(2)中への前記金属化合物(c−3)の溶解方法としては、前記金属化合物(c−3)を溶解させることができ、且つ該水溶液(2)中の無機主成分の原料である、金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)を析出させることが無ければ制限は無い。例えば、予め所定量の水に金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)を溶解した後に、金属化合物(c−3)を溶解させる方法、金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)の濃厚な水溶液を作製し該水溶液に金属化合物(c−3)を溶解させたのち、水により希釈する方法、金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)が液体である場合には、直接金属化合物(c−3)を溶解させた後に水で希釈する方法が挙げられる。前記水により希釈する方法は、金属化合物(c−3)が強アルカリであるほど溶解させやすいので好ましい。また、金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)が析出しなければ適当に加温しても良い。
(その他の成分 粘土鉱物)
また、前記水溶液(2)に、粘土鉱物を添加する方法がある。本発明に用いる粘土鉱物としては水中で金属化合物(c−1)及び珪酸アルカリ(c−2)と共存しても膨潤または微分散することができる材料であれば特に限定されないが、特にアルカリ金属イオン層間に持つ粘土鉱物、中でも、該アルカリ金属がナトリウムである粘土鉱物が好ましく用いられる。層間にアルカリ金属イオンを含有した粘土鉱物は、安価な粘土鉱物として知られているが、本材料は水中で膨潤または微分散し、その際にアルカリ性を示す。また、粘土層間のアルカリ金属もまた、金属化合物(c−1)や、珪酸アルカリ(c−2)中のアルカリ金属と同様に、ポリマーの合成を促進する。粘土層間のアルカリ金属としてはNaである粘土鉱物(Na型粘土鉱物)が最も水に対する膨潤性、溶解性が高いため好ましい。
粘土構造として特に好ましいのはスメクタイトと呼ばれる群が挙げられ、その中でもさらに具体的にはモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等を例示することができる。
(有機無機複合体の無機成分)
本発明の製造方法で得られる有機無機複合体において無機成分は、前述の通り、前記金属化合物(c−1)及び/又は珪酸アルカリ(c−2)に由来する無機化合物の微粒子と、前記金属化合物(c−3)や粘土鉱物を使用した際はそれらの微粒子とから構成される。
例えば、原料に金属化合物(c−1)を用いた場合には、無機成分は、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化亜鉛等の金属酸化物類となる。また珪酸アルカリ(c−2)を用いた場合には二酸化ケイ素(シリカ)となる。中でも、酸化アルミニウム(アルミナ)や二酸化ケイ素(シリカ)は、得られる無機化合物の粒径が小さくなる傾向があり複合化しやすく特に好ましい。例えば耐熱付与剤、寸法安定付与剤として使用する場合は、できるだけ無機粒径が小さい方が高い効果が得られ、例えば平均粒径が500nm以下であるとより高い効果が得られ好ましい。
(有機無機複合体全量100質量%に対する無機化合物(c−1)や前記無機化合物(c−2)の含有率)
前記無機化合物(c−1)や前記無機化合物(c−2)は、無機材料が持つ耐熱性、耐摩耗性等、表面硬度等の特性を付与し、更に金属化合物(c−3)を担持する役割も有する。
従って、前記無機化合物(c−1)や前記無機化合物(c−2)の有機無機複合体全量100質量%に対する含有率は一定以上であることが好ましく、より10〜80質量%であり、更に好ましくは20〜80質量%であり、最も好ましくは30〜80質量%である。無機化合物含有率が多くなりすぎると、逆にシート化や積層板等への加工性や樹脂への混練性が損なわれる場合がある。
(有機無機複合体全量100質量%に対する金属化合物(c−3)、粘土鉱物の含有率)
金属化合物(c−3)の含有率即ち担持量は、得られる有機無機複合体の用途により適宜選定されれば良く特に限定は無い。しかし、金属化合物(c−3)が前記無機化合物(c−1)及び/又は前記無機化合物(c−2)の表面上に担持されることから、前記無機化合物(c−1)及び/又は前記無機化合物(c−2)よりも少ない量が現実的である。具体的には、有機無機複合体全量100質量%に対して最大量15質量%程度担持されているのが好ましい。
一方の粘土鉱物は、粘土層間のアルカリ金属が除去されることにより前記無機化合物(c−1)及び/又は前記無機化合物(c−2)と同様に析出することより、前記無機化合物(c−1)及び/又は前記無機化合物(c−2)と等しい量であっても差し支えない。
金属化合物(c−3)や粘土鉱物はナノサイズで担持されているので担持効果が高く、用途によっては0.01質量%以上担持すれば機能することもあるが、特に好ましい範囲は0.1質量%〜10質量%である。
(有機無機複合体の形状)
得られる有機無機複合体の形状は特に限定はなく、製造方法、使用原料によって粉体状、塊状の各形状にて得ればよい。具体的には、有機ポリマーを合成するためのモノマーの種類や、有機溶液(A)の水への相溶性の影響、合成工程での複合体のせん断処理の影響が大きく、これらを変更することにより設計可能である。
以下に具体例をもって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例1〜実施例8にポリエステル複合体の合成例を示した。
(実施例1)
(複合体の合成処理)
アセトン50gに化合物(a)として4,4’‐イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3.78g入れて常温下で5分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸ジクロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより淡黄色の透明均一な有機溶剤溶液(1−1)を得た。次に、蒸留水54gに珪酸アルカリ(c−2)として水ガラス3号(日本化学工業(株)製)11.55gを入れて常温下で5分間攪拌することにより、均質透明な水溶液(2−1)を得た。次に、有機溶剤溶液(1−1)をアンカ−翼を持つ300cm攪拌装置の中に入れ、常温下で翼の回転数200回転/分で攪拌しつつ、1分間かけて水溶液(2−1)を滴下し、反応させた。水溶液(2)を滴下するに伴い白色生成物が発生した。この状態で攪拌を15分間継続することで白色の複合体を含有するスラリーを得た。
(複合体の洗浄処理)
このスラリーを95mmφのヌッチェ上に目開き4μmの濾紙を設置し0.015MPaで減圧濾過することにより白色のぺ−スト状の含液有機無機複合体を得た。この粉体をメタノール200g中に分散させ常温下で30分間攪拌することによりメタノール洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過することで含メタノール有機無機複合体を得た。これを引き続き蒸留水250g中に分散させ常温下で30分間攪拌することにより水洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過することで含水有機無機複合体を得た。これを120℃で5時間乾燥することにより、白色の有機無機複合体を得た。
(実施例2)
実施例1の水溶液(2−1)中の水ガラス3号を、金属化合物(c−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gに変更し常温下で10分間攪拌することにより、透明淡黄色の水溶液(2−2)を得て、これを用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
(実施例3)
実施例1の水溶液(2−1)中の水ガラス3号を、金属化合物(c−1)として日本軽金属(株)製炭酸ジルコニウムカリウム水溶液“ジルメル1000”の10.9gに変更した水溶液(2−3)を用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
(実施例4)
実施例1の有機溶剤溶液(1−1)中のテレフタル酸ジクロライドを同量のイソフタル酸ジクロライドに変更した有機溶剤溶液(1−4)を使用した以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
(実施例5)
実施例1の有機溶剤溶液(1−1)中の4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)4.01gに変更した有機溶剤溶液(1−5)を使用した以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、淡黄色の有機無機複合体を得た。
(実施例6)
実施例1の有機溶剤溶液(1−1)中の4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)4.01gに変更した有機溶剤溶液(1−6)、さらに水溶液(2−1)を、水溶液中の水ガラス3号を浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gに変更した水溶液(2−6)を使用した以外は実施例1と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、淡黄色の有機無機複合体を得た。
(実施例7)
n−ブチルエーテル55gに、化合物(a)として4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3.78g入れて常温下で5分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸ジクロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより淡黄色の透明均一な有機溶剤溶液(1−7)を得た。次に、蒸留水54gに金属化合物(c−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gを入れ、常温下で10分間攪拌することにより、透明淡黄色の水溶液(2−7)を得た。次に、有機溶剤溶液(1−7)をアンカ−翼を持つ300cm攪拌装置の中に入れ、常温下で翼の回転数200回転/分で攪拌しつつ、1分間かけて水溶液(2−7)を滴下し、反応させた。水溶液(2)を滴下するに伴い有機溶剤溶液(1−7)と水溶液(2−7)との界面部分より淡黄色の約2〜3mm角の生成物が発生した。この状態で攪拌を15分間継続することで淡色の複合体を含有するスラリーを得た。得られた複合体を実施例1と同様な洗浄処理を行うことにより、淡黄色の有機無機複合体を得た。
(実施例8)
実施例7で用いた水溶液(2−7)中の粉末アルミン酸ナトリウムの代わりに水ガラス3号(日本化学工業(株)製)11.55gに変更した以外は実施例7と同様な方法で有機無機複合体の合成を行った。得られた複合体を実施例1と同様な方法で減圧濾過したところ、濾過状態で半透明で無機成分がリッチと思われる成分1と白色粉体で有機成分がリッチと思われる成分2とに分離した。これら2成分を分別し各々を実施例1と同様な洗浄処理を行うことで2種類の有機無機複合体を得た。
実施例9〜実施例14にポリ酸無水物複合体の合成例を示した。
(実施例9)
(複合体の合成処理)
テトラヒドロフラン50gに化合物(a)としてコハク酸1.96gを入れて常温下で10分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸ジクロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより透明均一な有機溶剤溶液(1−9)を得た。次に、蒸留水54gに水ガラス3号(日本化学工業(株)製)11.55gを入れて常温下で5分間攪拌することにより、均質透明な水溶液(2−9)を得た。次に、有機溶剤溶液(1−9)をアンカ−翼を持つ300cm攪拌装置の中に入れ、常温下で翼の回転数200回転/分で攪拌しつつ、5分間かけて水溶液(2−9)を滴下し、反応させた。水溶液(2−9)の滴下に伴い白色生成物が発生した。この状態で攪拌を15分間継続することで白色の複合体を含有するスラリーを得た。
(複合体の洗浄処理)
このスラリーを実施例1と同様な工程によりメタノール洗浄、水洗、乾燥処理を行うことで白色の有機無機複合体を得た。
(実施例10)
実施例10の水溶液(2−10)中の水ガラス3号を、金属化合物(c−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gに変更し常温下で10分間攪拌することにより、透明淡黄色の水溶液(2−10)を得て、これを用いた以外は実施例9と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
(実施例11)
実施例9の水溶液(2−11)中の水ガラス3号を、金属化合物(c−1)として日本軽金属(株)製炭酸ジルコニウムカリウム水溶液ジルメル1000の10.9gに変更した水溶液(2−11)を用いた以外は実施例8と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
(実施例12)
実施例9の有機溶剤溶液(1−8)中のテレフタル酸ジクロライドを同量のイソフタル酸ジクロライドに変更した有機溶剤溶液(1−12)を使用した以外は実施例8と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
(実施例13)
実施例9の有機溶剤溶液(1−9)中のコハク酸を化合物(a)として無水コハク酸1.66gに変更し、溶媒をテトラヒドロフランからアセトン50gに変更した有機溶剤溶液(1−13)を使用した以外は実施例9と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
(実施例14)
実施例9の有機溶剤溶液(1−9)中のコハク酸を化合物(a)として無水コハク酸1.66gに変更し、溶媒をテトラヒドロフランからアセトン50gに変更した有機溶剤溶液(1−14)を使用し、さらに水溶液(2−9)を、水溶液中の水ガラス3号を浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gに変更した水溶液(2−14)を使用した以外は実施例8と同様な合成、洗浄処理を行うことにより、淡黄色の有機無機複合体を得た。
(実施例15)
アニソール60gに化合物(a)として、1,8−ナフタル酸無水物3.27gを入れて常温下で5分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸ジクロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより淡黄色の透明均一な有機溶剤溶液(1−15)を得た。次に、蒸留水54gに金属化合物(c−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gを入れ、常温下で10分間攪拌することにより、透明淡黄色の水溶液(2−15)を得た。次に、有機溶剤溶液(1−15)をアンカ−翼を持つ300cm攪拌装置の中に入れ、常温下で翼の回転数200回転/分で攪拌しつつ、1分間かけて水溶液(2−15)を滴下し、反応させた。水溶液(2)を滴下するに伴い有機溶剤溶液(1−15)と水溶液(2−15)との界面部分よりの約2〜3mm角の淡黄色生成物が発生した。この状態で攪拌を15分間継続することで淡色の複合体を含有するスラリーを得た。得られた複合体を実施例1と同様な洗浄処理を行うことにより、淡黄色の有機無機複合体を得た。
(実施例16)
実施例15で用いた水溶液(2−15)中の粉末アルミン酸ナトリウムの代わりに水ガラス3号(日本化学工業(株)製)11.55gに変更した以外は実施例15と同様な方法で有機無機複合体の合成を行った。得られた複合体を実施例1と同様な方法で減圧濾過したところ、濾過状態で半透明で無機成分がリッチと思われる成分1と白色粉体で有機成分がリッチと思われる成分2とに分離した。これら2成分を分別し各々を実施例1と同様な洗浄処理を行うことで2種類の有機無機複合体を得た。
実施例17〜21に金属化合物(c−3)も同時に複合化した有機無機複合体の合成例を示した。
(実施例17 金属化合物(c−3)添加)
(合成工程)
アセトン50gに化合物(a)として4,4’‐イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3.78g入れて常温下で5分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸ジクロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより淡黄色の透明均一な有機溶剤溶液(1−17)を得た。次に、イオン交換水20gに珪酸アルカリ(c−2)として水ガラス3号を11.55g溶解させ塩基性を呈する水溶液を作製した。該水溶液に金属化合物(c−3)として酸化タングステン0.15gを入れ60℃で30分間攪拌し、酸化タングステンを完全に溶解させた後、イオン交換水35gで希釈することで透明な水溶液(2−17)を得た。
次に、有機溶剤溶液(1−17)をアンカ−翼を持つ300cm攪拌装置の中に入れ、常温下で翼の回転数150回転/分で攪拌しつつ、1分間かけて水溶液(2−17)を滴下し、反応させた。水溶液(2)を滴下するに伴い白色生成物が発生した。この状態で攪拌を15分間継続することで白色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。
(複合体の洗浄処理)
このスラリーを95mmφのヌッチェ上に目開き4μmの濾紙を設置し0.015MPaで減圧濾過することにより白色のペースト状の含液有機無機複合体を得た。この粉体をメタノール200g中に分散させ常温下で30分間攪拌することによりメタノール洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過することで含メタノール有機無機複合体を得た。これを引き続き蒸留水250g中に分散させ常温下で30分間攪拌することにより水洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過することで含水有機無機複合体を得た。これを120℃で5時間乾燥することにより、白色の有機無機複合体を得た。
尚、実施例15〜20とも複合体後スラリーの濾過液は回収したのち、150℃、5時間熱風乾燥を行い、残留した粉末を後述の蛍光X線測定に供した。
(実施例18 金属化合物(c−3)添加)
アニソール80gに化合物(a)として4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3.78g入れて常温下で5分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸ジクロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより淡黄色の透明均一な有機溶剤溶液(1−18)を得た。次にイオン交換水54gに金属化合物(c−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gを入れ常温下で10分間攪拌することにより得た透明淡黄色の水溶液に金属化合物(c−3)として水酸化亜鉛0.15gを入れ室温で15分間攪拌し溶解させることで、淡黄色透明な水溶液(2−18)を得た。調整した有機溶剤溶液(1−18)と、水溶液(2−18)を用い、攪拌時間を30分とした以外は実施例17と同様な合成操作により、白色の有機無機複合体を得た。本スラリー中の複合体粒子は水に非相溶なアニソールを有機溶剤溶液に用いたため、実施例17と比べてやや大きいものであった。
本スラリーを実施例17と同様な方法で洗浄、乾燥処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
(実施例19 金属化合物(c−3)添加)
実施例17における有機溶剤溶液(1−17)中の4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)4.01gに、テレフタル酸ジクロライド3.37gを同量のイソフタル酸ジクロライドに変更することで有機溶剤溶液(1−19)を調整した。実施例17における水溶液(2−17)の代わりに金属化合物(c−1)として日本軽金属(株)製炭酸ジルコニウムカリウム水溶液「ジルメル1000」の10.9gに金属化合物(c−3)として水酸化亜鉛0.10gを入れ50℃で30分間攪拌することにより得た透明の水溶液を、イオン交換水50.0gで希釈することで透明な水溶液(2−19)を得た。調整した有機溶剤溶液(1−19)と、水溶液(2−19)を用いた以外は実施例17と同様な合成操作により、淡褐色の粉末状有機無機複合体を含有するスラリーを得た。
本スラリーを実施例17と同様な方法で洗浄、乾燥処理を行うことにより、淡褐色の有機無機複合体を得た。
(実施例20 金属化合物(c−3)添加)
テトラヒドロフラン50gに化合物(a)としてコハク酸1.96gを入れて常温下で10分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸ジクロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより透明均一な有機溶剤溶液(1−20)を得た。次に、実施例17と同様な方法で、水ガラス3号と酸化タングステンを含有する透明な水溶液(2−20)を得た。調整した有機溶剤溶液(1−20)と、水溶液(2−20)を用いた以外は実施例17と同様な合成操作により、白色の有機無機複合体を得た。
本スラリーを実施例17と同様な方法で洗浄、乾燥処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
(実施例21 金属化合物(c−3)添加)
実施例20の有機溶剤溶液(1−20)中のコハク酸を無水コハク酸1.66gに変更し、溶媒をテトラヒドロフランからアセトン50gに変更した有機溶剤溶液(1−21)を調整した。次にイオン交換水54gに金属化合物(c−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gを入れ常温下で10分間攪拌することにより得た透明淡黄色の水溶液とに金属化合物(c−3)として酸化銅(I)0.15gを入れ60℃で30分間攪拌し、淡青色透明な水溶液(2−21)を得た。これらの原料液を用いた以外は、実施例17と同様な合成、洗浄、乾燥処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
実施例22に粘土鉱物も同時に複合化した有機無機複合体の合成例を示した。
(実施例22 粘土鉱物添加)
実施例17で用いた有機溶剤溶液(1−17)と同じ組成の有機溶剤溶液(1−22)を調製した。イオン交換水27gに金属化合物(c−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.95gを入れ常温下で10分間攪拌することにより得た透明淡黄色の水溶液と、粘土鉱物として合成ヘクトライト(化学式Na0.33(Mg2.67Li0.33)Si10(OH):コープケミカル株式会社製“ルーセンタイト SWN”)0.2gをイオン交換水27gに入れ常温下で10分間攪拌することにより得た半透明の水溶液とを混合することで、水溶液(2−22)を得た。これらの原料液を用いた以外は、実施例17と同様な合成、洗浄、乾燥処理を行うことにより、白色の有機無機複合体を得た。
(比較例)
比較例1〜4においては、水溶液(2)中に金属化合物(c−1)または珪酸アルカリ(c−2)と、化合物(a)とを同時に溶解させる方法を試みた。本方法は特許文献3での有機無機複合体の製造方法に準じた手法である。
(比較例1)
水55gに4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3.78gを入れて常温下で15分間攪拌を行ったが、溶解せずに白色粉末の分散液が得られた。次に水ガラス3号11.55gを入れて常温下で30分間攪拌したが、白色粉末は完全には溶解せず、逆に水ガラスが析出したと推定される白色の粗大粒子が水中に沈殿した。本沈殿は水溶液を60℃まで加熱する処理や、水をさらに50g添加する処理によっても溶解できなかった。従って、均一溶解原料溶液からのボトムアップ型有機無機複合体の合成は行えなかった。
(比較例2)
比較例1の水ガラス3号を、浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gに変更した以外は、比較例1と同様な方法で、4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)をアルミン酸ナトリウムとが同時に溶解した水溶液の作製を試みたが、白色沈殿が発生したことにより、比較例1と同様に均一水溶液を作製することができなかったため複合体の合成処理を断念した。
(比較例3)
水55gにコハク酸1.96gを入れて常温下で15分間攪拌を行うことにより、均質透明な水溶液が得られた。本水溶液に水ガラス3号11.55gを入れて常温下での攪拌を開始したところ約1分で、水ガラスが固化したことによる半透明ゲル状物が多量に発生した。本ゲル状物は水溶液を60℃まで加熱する処理や、水をさらに50g添加する処理によっても溶解できなかった。従って、比較例1と同様に均一溶解原料溶液からのボトムアップ型有機無機複合体の合成は行えなかった。
(比較例4)
比較例3の水ガラス3号を、浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gに変更した以外は、比較例3と同様な方法で、均質水溶液の作製を試みた。コハク酸が溶解した均一水溶液にアルミン酸ナトリウムを加え攪拌したところ、白色沈殿がただちに多量に発生したことにより、比較例1と同様に均一水溶液を作製することができなかったため、複合体の合成処理を断念した。
上記各実施例で得られた有機無機複合体について以下の項目の測定、試験を行なった。
(測定1)無機化合物の含有率の測定法
有機無機複合体を絶乾後に精秤(複合体質量)し、これを空気中、600℃で1時間焼成しポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量とした。下式により灰分含有率を算出した。実施例1〜16では本値を無機含有率(質量%)とした。但し成分が分離した実施例8、16では各成分ごとに本測定を行った。
Figure 0004245082
(測定2)無機成分の検証
(蛍光X線での測定)
有機無機複合体粉末約1gを開口部が直径10mmの測定用ホルダ−にセットし測定用試料とした。該試料を理化学電気工業株式会社製蛍光X線分析装置「ZSX100e」を用いて全元素分析を行った。
得られた全元素分析の結果を用い、測定用試料の試料データ(与えたデータは、試料形状;フィルム、補正成分;セルロース、実測した試料の面積当たりの質量値)を装置に与えることにより、FP法(Fundamental Parameter法;試料の均一性、表面平滑性を仮定し装置内の定数を用いて補正を行い成分の定量を行う方法)にて該複合体中の元素存在割合を算出した。
いずれの実施例で得られた試料でも、複合化する目的の無機物質の元素(珪酸ナトリウムの場合がケイ素、アルミン酸ナトリウムの場合はアルミニウム、炭酸ジルコニウムカリウムの場合はジルコニウム)が大量に検出され、目的とする無機物質の複合化がされていることが示された。
一方、無機原料中のアルカリ金属(珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウムの場合はナトリウム、炭酸ジルコニウムカリウムの場合はカリウム)は検出限界以下か、検出されたとしても痕跡程度しか検出されなかった。従って、(a)の無機化合物微粒子の測定方法で得られた灰分(すなわち無機物質)はアルカリ金属を実質的に含有しておらず、本発明では金属化合物(c−1)、又は珪酸アルカリ(c−2)からのアルカリ金属除去及び固体化反応が予測された反応機構の通り行われていることが明らかとなった。
さらに、実施例17〜21においては、金属化合物(c−3)由来の金属(W、Zn、Cu)も検出された。また実施例22では粘土鉱物中にあるMgが検出された。実施例117〜22のいずれの実施例で得られた試料でも、本方法で得られた金属化合物(c−3)の量は、0.1質量%の誤差範囲内で水溶液(2)への金属化合物(c−3)の仕込み量から算出した予測値と一致した。
加えて、実施例17〜22の濾過液の乾燥物からは、反応副生成物であるNaCl、KClのほかはFe等の不純物元素のみが検出され、金属化合物(c−3)に相当する金属元素や、粘土鉱物中のMgは検出されなかった。このことから、金属化合物(c−3)、及び粘土鉱物は本複合体の合成操作により、同時に複合化したことが明らかとなった。
(測定3)有機ポリマーの検証
(フ−リエ変換型赤外分光分析:FT−IRの測定)
得られた有機無機複合体の粉末をKBr粉末と混合粉砕した試料を作製しKBrディスク法により、FT−IR(日本分光(株)製FT/IR−550)による測定を行った。
参照用のサンプルとして、実施例1〜4,7,8,17,18,22ではビスフェノールA型の芳香族ポリエステル(ポリアリレート)であるユニチカ“U−ポリマー U−100”を粉砕して用いた。また実施例5,6,19では3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)型の芳香族ポリエステル(ポリアリレ−ト)である大日本インキ化学製“N−80”を粉砕して用いた。
一方、実施例9〜16,20,21でのポリ酸無水物を有機ポリマー成分として持つ複合体用には好適な参照サンプルが無いため、IR測定で酸無水結合に特徴的なC=O伸縮に相当する1800cm−1付近のピ−クの有無とその強度を見ることで検証を行った。
その結果、実施例1〜4,7,8,17,18,22及び5,6,19ではいずれの例でも参照サンプルと同一のピ−ク位置に、殆ど同様なピ−ク強度を持つIRスペクトルデ−タ−が得られた。また、実施例9〜16,20,21ではいずれの例でも1800cm−1付近に明瞭な酸無水結合特有のピ−クが観察された。この結果、いずれの実施例でも有機ポリマーの合成が良好に行われていることが示された。
以降の測定4〜6は、複数の無機材料を複合化した実施例17〜22で行った。
(測定4)透過型電子顕微鏡(TEM)観察および元素マッピング、
有機無機複合体を170℃、20MPa/cmの条件で2時間熱プレスを行い、厚さ約1mmの有機無機複合体からなる薄片を得た。これを収束イオンビーム装置を用いて厚さ75nmの超薄切片とした。得られた切片をTEM観察と同時にEDS元素分析による元素マッピングが可能なエネルギーフィルターTEMである「JEM−2010EFE」(日本電子株式会社製)を用いて、各々50万倍のTEM写真をベースにして元素マッピングを行った。これら複数種類の無機材料を含有する複合体ではマッピングにより示された元素種類より無機化合物(c−1)及び/又は無機化合物(c−2)と金属化合物(c−3)、粘土鉱物とを判別した。本元素マッピングにより後述(測定5)の無機化合物(c−1)及び/又は無機化合物(c−2)、金属化合物(c−3)、粘土鉱物の粒径測定及び、後述(測定5)の金属化合物(c−3)、粘土鉱物の無機化合物(c−1)及び/又は無機化合物(c−2)への担持状態の観察を行った。
(測定5)無機化合物(c−1)、無機化合物(c−2)、金属化合物(c−3)及び粘土鉱物の粒径測定
無機化合物(c−1)、無機化合物(c−2)、又は金属化合物(c−3)及び粘土鉱物の粒径は、TEM写真より100個の粒径を測定し、その平均値を平均粒径とした。尚、粒子形状により粒径の測定方法を下記の通りに行った。
・粒子が略球状の場合:任意の1辺の長さをその粒子の粒径とした。無機化合物(c−1)及び/又は無機化合物(c−2)が二酸化ケイ素、酸化ジルコニウムの場合と(実施例17,19,20)、実施例17〜21の全ての金属化合物(c−3)は、この方法により測定した。
・粒子が2以上のアスペクト比を持つ粒子の場合:粒子の長軸と短軸の長さをそれぞれ測定し、(長軸+短軸)/2の数値をその粒子の粒径とした。無機化合物(c−1)が酸化アルミニウムの場合(実施例18,21、22)及び実施例22の無機成分に粘土鉱物を持つ複合体では、この方法で測定した。
(測定6)金属化合物(c−3)及び粘土鉱物の凝集物の有無の確認
各実施例での有機無機複合体粒子に炭素を10nmの厚さで蒸着して得た試料を、日立社製電解放射型走査電子顕微鏡「SEM−EDX」を用いて金属化合物(c−3)及び粘土鉱物を対象とした元素マッピングを行い、担持させた金属の分散状態を測定した。なお、本測定法での金属の大きさの分解能は1μmである。1μm以上の粗大な粒子が生じていた場合は凝集物有り、なければ凝集物無しとした。また、粘土鉱物を用いた実施例22で得られた複合体では粘土鉱物が含有するMgの分散状態を測定することで、凝集物の有無を確認した。
以下、表1〜表3に、実施例1〜22の試験に用いた原料溶液の構成を記した。尚、有機溶剤溶液(1)の欄の上段は酸ハライド(b)、下段は化合物(a)である。また表3において、水溶液(2)の欄の上段は金属化合物(c−1)または(c−2)、下段は金属化合物(c−3)または粘土鉱物である。
Figure 0004245082
Figure 0004245082
Figure 0004245082
表4に比較例1〜4で行った原料溶液水溶液の構成及び、作製試験結果(水溶液の状態)を示した。水溶液中構成の欄の上段は金属化合物(c−1)または珪酸アルカリ(c−2)に、下段は化合物(a)に相当する。
Figure 0004245082
以下の表5に実施例1〜16で得られた有機無機複合体のポリマー成分及び、生成物の無機含有率を記した。
Figure 0004245082

表6に実施例17〜22の結果をまとめた。
Figure 0004245082
表5に示したとおり、本発明の製造方法により有機ポリマー成分がポリエステルまたはポリ酸無水物である有機無機複合体が常温、常圧での短時間の合成操作により得ることができた。また、本複合体は無機含有率が20質量%以上と高く、無機成分内に原料由来のアルカリ金属が除去されている特徴があった。加えて表6に示したとおり、本複合体中の無機化合物(c−1)または(c−2)の平均粒径は250nm以下と小さい上、更に微小粒径の無機材料である、金属化合物(c−3)や粘土鉱物も複合化できる特徴があった。
本発明で得られた有機無機複合体は成形等の処理で加工が可能であり構造材料や耐熱材料として用いることができる。また、得られた有機無機複合体を他の樹脂に溶融混練、添加することにより、該樹脂に対して無機化合物(c−1)または無機化合物(c−2)による強度、弾性率、耐衝撃性、ガスバリア性、電子伝導性、帯電防止特性等の性質を付与できることに加えて、金属化合物(c−3)や粘土鉱物を添加した場合は、複合体の単独使用及び樹脂類への添加での使用によっても、添加無機成分に応じた機能を更に付与することができる。

Claims (4)

  1. 二価フェノ−ル類、ジカルボン酸及びジカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物(a)と、芳香族酸ハライド(b)とを含有する有機溶剤溶液(1)と、
    アルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ又は炭酸ジルコニウムアルカリを含有する水溶液(2)を、
    前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)の少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることを特徴とする有機無機複合体の製造方法。
  2. 前記水溶液(2)が粘土鉱物を含有する、請求項1に記載の有機無機複合体の製造方法。
  3. 前記有機溶剤溶液(1)に使用する有機溶剤が水可溶性もしくは水溶性であり、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とが相溶した状態で反応させる、請求項1または2に記載の有機無機複合体の製造方法。
  4. 前記有機溶剤溶液(1)を仕込んだ反応釜中に、攪拌しながら前記水溶液(2)を滴下する請求項1〜のいずれかに記載の有機無機複合体の製造方法。
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