JP4235763B2 - アルツハイマー病の診断方法およびキット - Google Patents

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Description

【0001】
本発明は、アルツハイマー病の診断方法およびキットを対象とするものである。
【0002】
寿命が一般的に延長された結果アルツハイマー病の頻度が増加し、この疾患は現代社会の大きな経済問題を構成している。研究上大きな努力が払われてこの疾患の成立過程の理解がもたらされたが、しかし初期のマーカーを発見する試みは成果がないかまたは十分でなかった。臨床検査は多くの場合単独で使用され、信頼できる診断は大脳の生検または剖検後にしか提示されなかった。
【0003】
最近、アメリカの研究チームが、検診用試験としての瞳孔拡大の測定においてコリン作動系アンタゴニストの使用を提案した(シント(Scinto)ら、1994年、サイエンス(Science)266巻1051−1054頁)。しかしながら、この試験はアルツハイマー病に罹患している患者の完全な識別を可能にするものではない。その診断上の利点は、極めて最近複数の研究中で強い疑問がもたれている。
【0004】
最後に、最近、アルツハイマー病に罹患している患者に由来する血清が、マウスの小膠細胞により発現された抗原を認識できる抗体を含むこともまた示されている。この特性の原因および診断上の価値は現在確認されていない。
【0005】
本発明者は、アルツハイマー病に罹患している患者における種々の異常を観察して、これらの異常とある種の酵素における活性水準の修飾との関係を研究するに至った。
【0006】
また、先に確認されたアルツハイマー病に罹患している患者の赤血球における塩素の輸送異常とプロテインキナーゼC(略号PKC)活性の異常との関係を考慮して、彼らの研究は最初このような患者の赤血球上におけるPKC活性化水準の測定に向けられた。
【0007】
そして、本発明者は、測定条件を変化させると、疾患に罹患している患者と正常対象を識別しうるデータを提示することが可能なことを見出した。
【0008】
彼らの研究の発展により、PKAに適用したこのような測定またさらにはPKCまたはPKAと相互作用できる一連の化合物の使用がまた、アルツハイマー患者の識別に役立ちうることの確認が可能になった。
【0009】
したがって、本発明は、信頼性が高く、迅速で、低コストの試験法を作成することが可能な、アルツハイマー病の診断方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
またそれは、このような方法を容易に使用することを可能にするキットの提供を企図するものである。
【0011】
本発明によるアルツハイマー病の診断方法は、
・血液試料と1または複数の蛍光プローブとを、そのプローブまたはそれらのプローブとPKCまたはPKAとの特異的結合が可能な条件下でインキュベートすること、
・得られた調製品の蛍光強度、および場合により当該酵素に対する阻害剤および/または活性化剤の添加によるその変動、アルツハイマー病とは識別される正常対象で得られたそれらのスペクトルに対する発光スペクトルデータの変動を測定すること、
を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明によると、蛍光強度を調査するために、得られた発光スペクトルのデコンボリューション(deconvolution)を実施して、それらを基本的な正規分布に分解してプローブとPKCまたはPKA間の直接または間接相互作用に特徴的な発光ピークを決定する。種々の条件下における蛍光の総強度に対する各正規分布の相対的寄与を定量することにより、診断実施のために採用する基準(criteria)を選択することが可能となる。例えば、正常対象で得られた結果に対する相対的強度の差またはピークのシフトが重要である。
【0013】
このようにして、アルツハイマー病に罹患している患者と正常対象の100%識別を達成することが可能な手段が提示される。
【0014】
本発明の方法に使用できる蛍光プローブは、対応するプローブが使用されるとき、インキュベーション条件下において酵素の触媒部位またはその調節ドメインとそれぞれ相互作用しうる、蛍光団(fluorophore)と連結された化合物を含む。
【0015】
本発明の条件下においてPKCの触媒部位と反応しうる蛍光プローブは、ビスインドールマレイミド誘導体のような合成有機化合物を含む。特に、チェン(Chen)およびポエニ(Poenie)がジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、1993年、268巻15812−15822頁に記載したfim−1およびrim−1を挙げることができる。
【0016】
本発明の実施態様によると、加えて、本発明の条件下においてPKCの調節ドメインと反応しうる蛍光プローブ使用することができる。
【0017】
特に、膜構成燐脂質もしくはこのような燐脂質の誘導体から調製されたもののような脂質プローブが重要である。
【0018】
変形としては、蛍光プローブは膜性もしくは細胞骨格性のまたは酵素PKCもしくはPKAの基質から誘導される蛋白質もしくはペプチド性プローブである。
【0019】
このような脂質、蛋白質またはペプチド性プローブは、酵素PKCの触媒ドメインを認識するプローブと同時に使用される。こうして、プローブの脂質、蛋白質またはペプチド性化合物と相互作用しうるPKCまたはPKA以外の酵素または蛋白質測定の特異性が保証される。
【0020】
これらのプローブは、例えば酵素の触媒ドメインと相互作用するプローブの励起ドメインにおける発光を保証する化合物を含む。
【0021】
それらの励起は、次に触媒部位を認識するプローブのそれを引き起こすが、それは、2種のプローブの近傍(約50オングストローム未満)を暗示させるものであり、その酵素は膜または細胞骨格または基質の元素と直接相互作用するものである。
【0022】
このようにして、検査すべき試料を脂質プローブの吸収波長で励起すること、および触媒プローブの発光波長におけるシグナルを観察することにより、酵素に特異的であり識別を確認できるシグナルが提示される。
【0023】
「血液試料」の語は、患者から採取された全体試料、またはこのような試料のフラクション、または構成要素、例えば赤血球と解釈される。
【0024】
一般的に、本発明の方法を使用するために、新鮮な血液試料が使用される。
【0025】
インキュベーション段階は、検査すべき試料と一定量のプローブを仕込み、所期の相互作用が得られる時間に応じて、室温で実施される。
【0026】
本発明の好ましい実施態様において、試料の一部が1つまたは複数のプローブのみとインキュベートされ、別の一部がまず最初にPKCまたはPKAの阻害剤と、次いで1つまたは複数のプローブとインキュベートされ、さらに別の一部があらかじめPKCまたはPKAの活性化剤と、次いで1つまたは複数のプローブとインキュベートされる。
【0027】
例としては、PKCの阻害剤としてスタウロスポリン(staurosporine)が挙げられ、活性化剤としてホルボールミリスタートアセタート(PMAまたはTPA)のようなホルボールエステルが挙げられる。
【0028】
得られたスペクトルのデコンボリューションにより、相互作用に特徴的なピークの同定が可能となる。酵素活性化剤または阻害剤の存在下または不存在下におけるスペクトルの比較により、正常対象と較べたアルツハイマー病に罹患している患者の変動を明らかにし、これらのグループ間の明確な識別を迅速に達成することができる。
【0029】
本発明はまた、上に定義した試験を使用するための診断用キットまたはセットの提供を目的とする。これらのキットは、使用説明書と共に、上に定義したような1つまたは複数の蛍光プローブと、必要ならば容器および試薬を含みこれらの試薬は、PKCおよび/またはPKAの活性化剤および/または阻害剤から選択されることを特徴とする。変形として、本発明によるキットは、一方がPKCまたはPKAの触媒部位を認識し、他方がその調節ドメインを認識する2つの蛍光プローブの少なくとも一組を含む
【0030】
したがって、本発明はアルツハイマー病の診断を迅速および経済的に実施することができる、信頼性が極めて高く非侵食性の手段を提供する。
【0031】
記録されたスペクトルの分析のためのコンピュータの発展により、疾患が進行しやすい対象の大きなグループに対して、およびある構成員が遺伝形質を示す家族に対して非常に迅速に測定を実施することが可能である。
【0032】
本発明の別の特徴および利点は、以下の図1ないし6を参照する実施例により説明される。
【0033】
実施例1:fim−1の蛍光特性の調査
脳の脂質抽出物から調製したリポソームおよび精製αPKCの市販品を使用し、これに赤血球を加える。
【0034】
この調製品を、PBS緩衝液(150mM−NaCl、10mM−NaHPO、5mM−D−グルコース、500μM−CaCl、pH7.4)中fim−1(500nM)の存在下、室温で20分間インキュベートする。
【0035】
洗浄、遠心分離および1/150−PBS中に再懸濁後、励起波長485nmで505ないし650nm間の蛍光発光スペクトルを記録する。
【0036】
得られたスペクトルをプローブのみで測定した蛍光強度に対して標準化し、次いで図1に示す3種の基本的な正規分布に分解する。それぞれ518、535および586nmに極大発光が認められる。fim−1と膜性脂質並びにPKC間の相互作用は、脂質の530ないし570nm間のスペクトルにおけるわずかなシフト、およびPKCの510ないし530nm間さらには570nmにおける蛍光増強に表れる。
【0037】
ATP部位における競合的阻害剤であるスタウロスポリンの添加は、蛍光強度の抑制に表れる。逆に、ホルボールエステルの存在下ではかなりの蛍光増強(量子収量は5000倍増加する)が認められる。
【0038】
実施例2:アルツハイマー病診断試験
・プロトコール
新鮮な血液1ないし3mlをヘパリン上に採取し、冷蔵(+4℃)して保存する。その後2時間以内に、試料を室温においてPBS中で3回洗浄し遠心分離する。
【0039】
次いで3系統のインキュベーションを行う:
・細胞の第1分割量は、fim−1蛍光プローブ(500nM)の存在下に20分間インキュベートし、
・細胞の第2分割量は、まず500nMスタウロスポリンの存在下に20分間予備インキュベートし、次いで蛍光プローブの存在下に行い、
・細胞の第3分割量は、まず蛍光プローブの存在下に予備インキュベートし、次いでTPA500nMの存在下に20分間インキュベートする。
【0040】
これらのインキュベーション後に、細胞を洗浄し、遠心分離(2回)し、次いでPBS(1/150)中に再懸濁する。
【0041】
それぞれの蛍光発光スペクトルを、室温において、単光(励起光485nm、スリット幅2nm)分光蛍光計SLM4800により、約200μlの容量について測定する。各測定を2連で少なくとも3回実施し、その後数値の平均値を作成する。
【0042】
次いで、プローブのみで測定した蛍光強度に対してスペクトルを規格化し、その後3種の基本的な正規分布に分解する。最後に各正規分布の積分を計算し、各スペクトルの正規分布積分値の合計に関係づける(総蛍光強度に対する各正規分布の相対的な寄与)。
【0043】
・アルツハイマー病患者と正常対象の識別
35名のアルツハイマー病に罹患している患者に由来する赤血球におけるfim−1による蛍光発光スペクトルの測定、および相当する年齢の35名の正常志願者に由来する赤血球から得たそれらとの比較により、2種の基準:スペクトルをスタウロスポリンの存在下または不存在下で測定した518nmにおける蛍光ピークの強度の差(図2)、並びに545nmにおけるピークの最大のシフトによって、2群間の100%識別が可能であった。
【0044】
これらの図において、▲および■はアルツハイマー病患者に、○および□は正常対象に対応する。これらの記号は、ホルボールエステルの存在下または不存在下で得られた結果を示す図4でも同じ意味を有する。
【0045】
・パーキンソン病に罹患している患者について実施した測定
他の神経変性疾患に対するアルツハイマー病測定の特異性を確認する方法として、15名のパーキンソン病に罹患している患者または相当する年齢の正常志願者に由来する試料について測定を行った。採り上げられた2種の測定指数は正常志願者と患者間の差の認定を可能とするものではなかった(スタウロスポリンの効果:図5、およびTPAの効果:図6。ここで、「○」は正常志願者に対応し、「▲」はパーキンソン病患者に対応する)。この結果は、アルツハイマー病の診断のための本発明に係る試験の特異性に関する良好な指標である。
【図面の簡単な説明】
【図1】fim−1の発光スペクトルのデコンボリューションを示す。
【図2】スタウロスポリンと予備インキュベートし、次いでfim−1を添加した赤血球調製品の518、535、547および585nmにおける蛍光発光ピークの相対強度の差を示す。
【図3】アルツハイマー病患者と正常志願者の試料を比較した第2ピークのシフトを示す。
【図4】fim−1と予備インキュベートし次いでTPAを添加した赤血球調製品の518、535、547および585nmにおける蛍光発光ピークの相対強度の差を示す。
【図5】スタウロスポリンと予備インキュベートし次いでfim−1を添加した、正常患者およびパーキンソン病に罹患している患者の赤血球調製品蛍光発光ピークの相対強度の差を示す。
【図6】fim−1と予備インキュベートし次いでTPAを添加した、正常患者およびパーキンソン病に罹患している患者の赤血球調製品蛍光発光ピークの相対強度の差を示す。

Claims (10)

  1. ・血液試料と、プロテインキナーゼC(PKC)またはプロテインキナーゼA(PKA)の触媒部位を認識する1つの蛍光プローブ、または該酵素(PKCまたはPKA)の触媒部位および調節ドメインをそれぞれ認識する2つの蛍光プローブとを、1つまたは複数のプローブとPKCまたはPKAとの特異的結合が可能な条件下でインキュベートすること、
    ・得られた調製品の蛍光強度およびPKCまたはPKAの阻害剤および/または活性化剤の添加による蛍光強度の変動、アルツハイマー病の識別因子である正常対象で得られたスペクトルデータに対する蛍光発光スペクトルデータの変動を測定すること、
    を含むことを特徴とする、アルツハイマー病のインビトロ検査方法。
  2. PKCまたはPKAの触媒部位を認識する蛍光プローブおよびその調節ドメインを認識する蛍光プローブが、インキュベーション条件下においてその酵素の触媒部位またはその調節ドメインとそれぞれ相互作用しうる、蛍光団と連結された化合物を含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
  3. ビスインドールマレイミド誘導体のような合成有機化合物から選択された、本発明の条件下においてPKCの触媒部位と反応しうる蛍光プローブを特徴とする、請求項2記載の方法。
  4. 本発明の条件下においてPKCの調節ドメインと反応しうる化合物を含む蛍光プローブが、膜構成燐脂質もしくはこのような燐脂質の誘導体を基にして調製されたもののようなプローブ、または膜性もしくは細胞骨格性のまたは酵素PKCもしくはPKAの基質から誘導される蛋白質もしくはペプチド性プローブであることを特徴とする、請求項2記載の方法。
  5. PKCまたはPKAの調節ドメインを認識するプローブと、酵素PKCの触媒ドメインを直接認識するプローブとが同時に使用されることを特徴とする、請求項4記載の方法。
  6. インキュベーション段階が室温で実施されることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項記載の方法。
  7. 試料の一部が1つまたは複数のプローブのみとインキュベートされ、別の一部がまず最初にPKCまたはPKAの阻害剤と、次いで1つまたは複数のプローブとインキュベートされ、別の一部があらかじめ1つまたは複数のプローブと、次いでPKCまたはPKAの活性化剤とインキュベートされることを特徴とする、前期請求項のいずれか1項記載の方法。
  8. 使用説明書と、PKCまたはPKAの触媒部位および調節ドメインをそれぞれ認識する2つの蛍光プローブと、診断試験実施用の試薬とを含み、これらの試薬は、PKCおよび/またはPKAの活性化剤および/または阻害剤から選択されるか、
    または、上記2つの蛍光プローブの代わりに、PKCまたはPKAの触媒部位を認識する1つの蛍光プローブを、前記試薬としてのPKCおよび/またはPKAの阻害剤と共に含むことを特徴とする、アルツハイマー病の診断用のキットまたはケース。
  9. PKCまたはPKAの触媒部位および調節ドメインをそれぞれ認識する2つのプローブは、蛍光団と連結されて、インキュベーション条件下において酵素の触媒部位またはその調節ドメインとそれぞれ相互作用しうる化合物を含むことを特徴とする、請求項8に記載のキットまたはケース。
  10. PKCの調節ドメインと相互作用しうる化合物を含む蛍光プローブは、膜構成燐脂質、膜性もしくは細胞骨格性の蛋白質もしくはペプチド性プローブ、または、酵素PKCまたはPKAの基質の誘導体であることを特徴とする、請求項9に記載のキットまたはケース。
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