JP4235023B2 - 高周波可変減衰器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高周波可変減衰器、特に開ループ型の電力レベル制御回路等に用いられ、ダイナミックレンジが広く、また制御性、制御確度及び温度特性に優れた可変減衰器の構成に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にマイクロ波通信機器では、送信出力制御や受信側復調器に対する入力電力レベルの制御機能を持つレベル制御回路が必要であり、この電力レベル制御回路としては、出力レベルを検知して負帰還をかける負帰還回路を設けた閉ループ型のものと、この負帰還回路のない開ループ型のものがある。この開ループ型は、構造が単純でコストが削減できるほか、制御プロセスが短く制御速度が速い等の利点を持つが、出力誤差を認識しないためレベルによる誤差の変化を補正することはできない。従って、動作範囲(以下、ダイナミックレンジという)での線形性、温度変化、制御確度において高い品質が要求される。
【0003】
例えば、マイクロ波信号についてレベル制御する回路としては、PINダイオードを可変抵抗素子として用いた高周波可変減衰器が一般的で、このダイオードの信号線路への挿入法によって各種の回路が用いられている。
【0004】
図14には、従来の代表的な可変減衰器(アッテネータ)の構成(特開2000-286659号公報等)が示されており、この可変減衰器は、入出力のインピーダンスが補償され、減衰量の可変範囲が広くなる特徴を持つ。図14において、入力端子1と出力端子2の間(信号線路)に、DC(直流)カット用のコンデンサC,C、互いのアノードを向き合わせたダイオードD,Dが直列に配置され、上記コンデンサCとダイオードDの接続点とグランドとの間にダイオードD及びコンデンサC、上記コンデンサCとダイオードDの接続点とグランドとの間にダイオードD及びコンデンサC10が直列接続される。このコンデンサC,C10は、ダイオードD,Dを高周波的に接地するために、使用周波数帯で十分に低いリアクタンスを持つように構成される。
【0005】
そして、図の+V端子から、所定の正の固定電圧が抵抗R22,R23を介してコンデンサC,C10との接続点から上記ダイオードD,Dのアノード側に供給されると共に、VCNT端子から、制御電圧VCNTがバイアス回路を高周波的に分離するためのインダクタンスLを介してダイオードD,Dのアノード側に供給される。また、上記のダイオードDとDはカソード同士が接続され、かつ抵抗R20を介して接地され、上記ダイオードDとDもカソード同士が接続され、かつ抵抗R21を介して接地される。
【0006】
このような構成によれば、VCNT端子からの制御電圧VCNTが0Vのときは、+V端子からダイオードDに電流が供給され、オン(順方向バイアス)状態となる。このとき、ダイオードD,Dのカソード接続点の電位は、ダイオードDを流れる電流ID5と抵抗R20により、(ID5×R20)ボルトとなり、ダイオードDはオフ(逆方向バイアス)状態となる。同様に、ダイオードDはオン状態、ダイオードDはオフ状態となる。従って、この状態の回路は遮断(オフ)となる。
【0007】
一方、上記制御電圧VCNTを上げて行くと、およそVCNT=(ID5×R20)+Vを境にダイオードD,Dが逆(方向)バイアス、ダイオードD,Dが順(方向)バイアスに変わり、可変減衰器の減衰量は少なくなって行く。このようにして、図14の可変減衰器は、抵抗R20、R21とダイオードD,Dの抵抗成分によりπ型アッテネータとして動作し、入出力インピーダンスは概ね50Ωが補償される。そして、例えば制御電圧VCNTと減衰量の関係は、図15に示されるようになる。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−286659号公報
【特許文献2】
特開2002−111524号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来の可変減衰器は、正電源のみで動作し、入出力のインピーダンスが補償され、ダイナミックレンジも広いという利点を有するが、次のような問題がある。
(a)ダイオードD〜Dに与えるバイアスを順バイアスから逆バイアスヘ又はその逆へと切替えており、この順方向と逆方向のバイアス切替えを正電圧だけで実現するために、固定電圧(+V)と制御電圧(VCNT)の2つの電源が必要となる。
(b)ダイオードD〜D(電圧Vf−電流If)の温度特性によって同じ制御電圧VCNTでもその減衰量が温度によって変わってしまい、しかもその変化量が順バイアスの領域と逆バイアスの領域で異なり、簡単な回路で正確な温度補償を行うことが困難である。
(c)上述したように、2つの電源を供給し、また温度補償を行う煩雑な構成を有することから、回路構成が複雑となり部品点数が多くなる。
【0010】
(d)ダイオードD〜Dへの電流が各々独立に流れるため、これらのダイオード自体又はその周辺部品のばらつきの影響が大きい。
(e)順方向に立ち上がる付近のバイアス条件では、ダイオードD〜Dがミキシング動作を起こし易く、混変調歪みが発生し易い。即ち、図14の可変減衰器では、ダイナミックレンジの中間付近で、信号線路に直列に挿入されたダイオードD,Dと接地側に挿入されたダイオードD,Dの順バイアスと逆バイアスの切替えが行われる。そして、この可変減衰回路と共にAGC(Automatic Gain Control)回路等を用いる場合では、入力レベルが増加したときに減衰量を増やすため、従来の可変減衰器では入力が増大したときに混変調歪の起き易いバイアス条件となる。
【0011】
(f)可変減衰器をD/Aコンバータの出力から制御する場合、分解能を一定にするためには、制御電圧VCNTに対して減衰量が直線的に変化することが望ましいが、図14の可変減衰器の場合、ダイオードD〜Dで順バイアスと逆バイアスの両方を用いるため、図15に示されるように、制御電圧VCNTに対する減衰量の特性は、その傾きが直線的(線形)ではなく、途中で変化する変極点を持つ非線形的な特性となる。また、このD/Aコンバータの出力は電流供給能力がないため電圧のみで制御できる駆動回路が必要となるが、この駆動回路においても、制御電圧VCNTに対する減衰量の傾きが途中で変わってしまうため、折れ線近似回路、対数回路等の複雑な回路が必要となる。更に、これらの非線形な回路は、ダイオード、トランジスタの電圧電流特性を利用して作られており、それ自身が温度で変動するため回路全体の温度補償が難しくなる。
【0012】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、単一のバイアス電源で駆動でき、かつ簡単な回路で良好な温度補償が可能となり、また線形動作によって優れた歪特性、良好な分解能が得られる高周波可変減衰器を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係る高周波可変減衰器は、入力側に配置された第1直流カット用コンデンサと、出力側に配置された第2直流カット用コンデンサと、この第1直流カット用コンデンサと第2直流カット用コンデンサとの間に直列に接続された第1乃至第3の抵抗と、この第1抵抗と第2抵抗の接続点とグランドの間に接続された第1ダイオードと、上記第2抵抗と第3抵抗の接続点とグランドの間に接続され、グランド側への接続方向を第1ダイオードとは逆にすることにより第1ダイオードに対し直列に電流が流れるように構成された第2ダイオードと、上記第1及び第2のダイオードをグランドに高周波的に短絡するための接地用コンデンサと、を設け、上記第1又は第2のダイオードと上記接地用コンデンサとの接続点から両ダイオードに対し順方向のバイアス電流を供給することを特徴とする。
請求項2に係る発明は、第1又は第2のダイオードとグランドとの間に、使用周波数帯域の中心周波数での直列共振により第1及び第2のダイオードのオン状態の寄生インダクタンス成分を打ち消すための共振用コンデンサを直列に挿入したことを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、減衰量を電圧で制御するための電圧−電流変換用トランジスタと、この電圧−電流変換用トランジスタと相まって上記の第1及び第2のダイオードの温度特性を改善する温度補償用トランジスタを含み、上記電圧−電流変換用トランジスタから上記バイアス電流を供給する駆動回路を設けたことを特徴とする。
請求項4に係る発明は、上記電圧−電流変換用トランジスタと上記温度補償用トランジスタの結線間に、第1及び第2のダイオードの電圧対順方向電流の勾配の温度による傾きを補正するための抵抗を挿入したことを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、第1ダイオードと第2ダイオードが第2抵抗を介して直列に接続されており、駆動回路から与えられたバイアス電流は第1及び第2ダイオードへ順方向で供給され、このバイアス電流の制御によって減衰量が変化することになる。そして、この減衰量の制御は順バイアス電流のみにて行われるので、順バイアスと逆バイアスの切替えで非線形となる従来と比較すると、より線形的な動作が可能となる。
上記請求項2の構成によれば、ダイオード−グランド間の共振用コンデンサが第1及び第2のダイオードの寄生インダクタンス成分と共に直列共振を起こすことになり、この寄生インダクタンス成分による影響が除去され、使用周波数の領域で広いダイナミックレンジを得ることができる。
【0016】
上記請求項3の構成によれば、例えば電圧−電流変換用トランジスタと温度補償用トランジスタとがコンプリメンタリ(相補対称型)或いはマッチドペアの構成で配置されており、これによって、第1及び第2ダイオードの電圧−順方向電流(Vf−If)特性の温度変化、即ち温度による電圧シフト[図9(A)]が解消される。しかし、第1及び第2のダイオードではこの電圧シフトを解消しても、ある電流(例えば0.1〜1mAの範囲)を境にして電流対順方向電流特性の勾配が温度によって逆転する[図9(B)]という問題がある。そこで、請求項4では、電圧−電流変換用トランジスタと温度補償用トランジスタの結線間に抵抗を挿入することにより、ダイオードの電圧対順方向電流の勾配の温度による逆転状態を補正し、温度による減衰量の変化を確実になくすようにする。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1及び図2には、本発明の実施例に係る高周波可変減衰器の構成が示されており、この高周波可変減衰器では、図示されるように、入力端子11に第1DC(直流)カット用コンデンサC、出力端子12に第2DCカット用コンデンサCが設けられ、このコンデンサC,Cの間に、T型減衰器を構成するための第1抵抗(固定抵抗)R、第2抵抗R、第3抵抗Rが直列に接続され、この第2の抵抗Rには、バイアス供給用チョークコイルLが並列に接続される。そして、上記の第1抵抗Rと第2抵抗Rの接続点とグランドとの間に第1ダイオード(例えばPINダイオード)D及び共振用コンデンサCが直列に接続され、上記の第2抵抗Rと第3抵抗Rの接続点とグランドとの間に第2ダイオード(例えばPINダイオード)Dと共振用コンデンサCが直列に配置されており、この第1ダイオードDと第2ダイオードDは、Dのカソードをグランド側へ、Dのアノードをグランド側へ接続することにより、電流が直列に流れるように構成される。
【0018】
詳細は後述するが、上記の共振用(接地用でもある)コンデンサC,Cは、第1及び第2のダイオードD,Dを単純に高周波的にグランドに短絡させるのではなく、ダイオードD,Dの寄生インダクタンス成分と相まって直列共振を果たした上で、高周波的に接地する役目をする。また、第1ダイオードDと共振用コンデンサCの接続点とグランドとの間にバイアス供給用チョークコイルL、第2ダイオードDと共振用コンデンサCの接続点とグランドとの間にバイアス供給用チョークコイルLとバイアス用のデカップリングコンデンサCが設けられ、このコイルLとコンデンサCの接続点へ駆動回路14から駆動バイアス電流IATTが与えられる。上記のチョークコイルL,Lとしては、共振用コンデンサC,Cの直列共振に影響を及ぼさないように、このコンデンサC,Cの容量性リアクタンスよりも大きな誘導性リアクタンスを持つものが用いられる。
【0019】
図1では、D/Aコンバータ等で減衰量を直接駆動するために駆動回路14が設けられ、この駆動回路14としてコンプリメンタリ回路(図11のマッチドペア回路でもよい)が用いられる。この駆動回路14では、抵抗R10を介して制御電圧VCNTをエミッタに入力する電圧−電流変換用トランジスタQと、このトランジスタQとコンプリメンタリ(相補対称型)の関係となる温度補償用トランジスタQと、このトランジスタQの負荷抵抗R13及びVSWR補償抵抗R12,R14が備えられる。従って、この駆動回路14は、図2に示されるように減衰器の定電流源を構成すると共に、その動作点での温度補償を行うようになる。また、この駆動回路14には、第1及び第2のダイオードD,DのVf−If(電圧対順方向電流)特性の勾配の温度による傾きを補正するために温度補償用抵抗R11が設けられる。
【0020】
このような実施例の高周波可変減衰器によれば、図3(A),(B)に示すT型減衰器を2個縦列接続したものと等価となる。即ち、図3(A)の1つのT型減衰器は、図(B)の等価回路で表すことができ、この場合の減衰量ATTとリターンロスRLは以下の数式1,2で求められる。
【数1】
Figure 0004235023
【数2】
Figure 0004235023
但し、RDl:ダイオードDの抵抗成分、
:信号線路の入出カインピーダンス(通常50Ω)、
Za=[{(Z+R)・RDl}/{R+RDl+Z}]+R
=Rである。
【0021】
図2の回路では、図3のT型減衰器を2個縦列に接続し、2つのダイオードの中間に直列接続される2個の抵抗を1個の抵抗に置き換えたものと考え、
=R,R=2・R
とすることにより、上記の数式1,2を用いて得られた1つのT形減衰器の約2倍の減衰量が得られる。
【0022】
また、上記数式1,2において、RD1をダイオードDのオフ時容量C=Cj+Cpからなる容量性リアクタンスに置き換えて計算し、ダイオード容量Cが小さいものを選択した場合、図5のバイアス電流対減衰量特性100に示されるように、バイアス電流IATTが0.1mA以下においては、挿入損が一定となるため、特に逆バイアスを印加する必要がなく、正の単電源のみで動作させることが可能となる。
【0023】
そして、図1及び図2のように、第1ダイオードDと第2ダイオードDの電極の向きがグランドに対し逆向きに接続されるので、両ダイオードD,Dへ駆動回路14から与えられるバイアス電流IATTがコイルL、第2ダイオードD、コイルL、第1ダイオードD1、コイルLを通ってグランドに流れる。従って、第1ダイオードDと第2ダイオードDは、同じ電流で駆動され、バランスよくインピーダンスが変化する。即ち、第1及び第2のダイオードD,Dが順方向バイアスのみで駆動されるので、減衰量は空亡層容量でなく、常に動作点で決定されるダイオードD,Dの等価抵抗に依存することになる。また、順方向バイアスで制御することにより、図5のバイアス電流対減衰量の特性100に示されるように、従来のような変極点がなくなる。
【0024】
このような構成では、従来の減衰器で設けられているバイアス供給用コイルやバイアスリターン用チョークコイルが不要となり、減衰器を構成する回路部品の削減、小型化が可能である。なお、実施例の減衰器では、バイアス供給用回路とアッテネータ用回路を分離すると共に低電圧で使用することを想定して、図1のコイルLを使用しているが、電源電圧に余裕がある場合は、このコイルLを省略し、抵抗Rのみを介してバイアス電流を供給するようにしてもよい。
【0025】
また、この実施例では、共振用コンデンサC,Cは第1及び第2のダイオードD,Dの寄生インダクタンス成分と直列共振する容量とされており、これによってダイオードD,Dのインダクタンスが打ち消され、減衰量を増加させてダイナミックレンジを拡大することができる。
【0026】
図4には、高周波回路として用いられるPINダイオード(D,D)の等価回路が示されており、このダイオードでは図4(A)のように、ダイオード自身の持つ抵抗成分Rj、容量成分Cj以外に、ダイオードチップの物理的寸法、ボンデイングワイヤ、パッケージの物理的寸法、構造等から派生した寄生容量成分Cpや寄生インダクタンス成分Ls等を有している。このため、図4(B)のように、高周波ではオン時のダイオードのインピーダンスは、ωLs+Rsとなり、上記T型アッテネータの最大減衰量が寄生インダクタンス成分Lsによって制限されてしまう。
【0027】
そこで、実施例では、使用周波数においてこのインダクタンス成分Lsと直列共振をする容量のコンデンサC,Cを挿入し、このインダクタンス成分Lsを打ち消して第1及び第2のダイオードD,Dの実抵抗成分までインピーダンスを下げることにより、ダイナミックレンジを拡大するようにしている。
【0028】
図5には、図2における高周波可変減衰器のバイアス電流と減衰量及びリターンロスの関係が示されており、この図5は、上記のコンデンサC,Cの容量につき、直列共振を考慮せず、単に高周波的に接地するためのものとした場合の特性である。この図の減衰量の特性100から分かるように、バイアス電流IATTが0.1mA以上の領域では電流の対数に対して減衰量が略比例する関係を持ち、従来の図15と比較すると(なお、この図15では与える電圧の正負が逆であるため傾斜が逆になっている)、制御される減衰量の変化が緩やか(線形的)になる。また、リターンロスは、特性101に示されるようにダイナミックレンジ全域に渡って−9dB(VSWR2:1)以下に保たれる。
【0029】
図6には、上記のコンデンサC,Cが直列共振容量(インダクタンス補償容量)を持たないものと持つものとを比較したバイアス電流対減衰量が示されており、直列共振容量を持つ場合の特性103は直列共振容量を持たない場合の特性100と比較すると、ダイナミックレンジが約5dB拡大されている。
【0030】
図7には、図2の高周波可変減衰器において直列共振容量(インダクタンス補償容量)を持つ共振用コンデンサC,Cとした場合の周波数対減衰量の関係が示されている。この図7に示されるように、直列共振容量を持たない場合の点線グラフと直列共振容量を持つ場合の実線グラフを比較すると、バイアス電流IATTが5mAのときは周波数fa、バイアス電流IATTが15mAのときは周波数fbよりも高い周波数で減衰量が拡大していることが分かる。この拡大の効果は、使用周波数での直列共振現象を利用することから、上記周波数fa,fbよりも高い所定の帯域幅に制限されるが、通信装置では、周波数の有効利用のため無線帯域幅を数MHzから数十MHzに制限して使用しており、また数100MHz帯の中間周波数段でSAWフィルタ等により帯域を制限しており、図7のような帯域制限があっても使用上問題とはならず、使用周波数が高くなる場合でも低い周波数を使用する場合と同様に拡大したダイナミックレンジが得られる。むしろ、このようなダイナミックレンジの拡大が可能となり、図4で説明した寄生容量成分Cp、寄生インダクタンス成分Lsの大きな安価なダイオードが使用できるという利点の方が大きい。
【0031】
また、図1の実施例では、バイアス供給用のチョークコイルL,Lが設けられているが、このチョークコイルL,Lは、上記共振用コンデンサC,Cによる直列共振に影響を与えないで、DCバイアス電流をダイオードD,Dに供給するため、共振用コンデンサC,Cの容量性リアクタンスよりも十分に大きな誘導性リアクタンスを持つものが使用される。このようなチョークコイルL,Lの構成も、上記の利点を得るために重要な要素となる。
【0032】
次に、図1の駆動回路14の動作について説明する。まず、この駆動回路14はコンプリメンタリ回路で構成される定電流回路として機能し、温度補償用トランジスタQの動作点は抵抗R12〜R14によって決定され、このトランジスタQのエミッタ電位はこのベース−エミッタ電圧VBEに依存する。一方、電圧−電流変換用トランジスタQの出力電流は、このトランジスタQのベース−エミッタ電圧VBEに対し非線形特性を有し、第1及び第2のダイオードD,Dの定電流源となる。従って、電圧−電流変換用トランジスタQからは、VCNT端子から入力された制御電圧VCNTに略比例するバイアス電流IATTが上記のチョークコイルLとコンデンサCとの間から供給され、これによって減衰量が制御電圧VCNTに対し線形的に制御される(図10)。
【0033】
ここで、上記温度補償用トランジスタQは非線形素子であるため入出力特性は温度で変化するが、一般にバイポーラトランジスタのベース−エミッタ電圧VBEの温度係数は、コレクタ電流Iによらず一定であるため、トランジスタQとトランジスタQの特性が近いとそれぞれのベース−エミッタ電圧VBEの温度変化は相殺され、定電流源の入出力特性が温度補償される。この結果、ダイオードD,DのVf−If特性の温度変化が補償される。
【0034】
図8には、図2の可変減衰器のバイアス電流対減衰量で表した温度特性が示され、図9には、ダイオードのVf−If(電圧対順方向電流)特性の温度変化が示されており、この図8のように、−20℃の特性(点線)と+60℃の特性(一点鎖線)は、約0.1mA〜1mAの範囲において低電流域と高電流域の勾配が逆転する。これは、図9(A)に示すダイオードのVf−If特性の温度特性に起因する。即ち、+60℃の特性(一点鎖線)、+20℃の特性(実線)、−20℃の特性(点線)の順で、電圧Vfが高い方にシフトする。この電圧Vfの温度による変化は、一般のダイオードで、約−0.02mV/℃と言われているが、この温度変化は上記の温度補償用トランジスタQによってオフセットされる。
【0035】
しかし、上記の電圧Vfの変化の補償のみでは温度補償が不十分となる。即ち、図9(B)には、電圧Vfの変化(シフト)の温度補償をして各特性を重ね合わせた状態が示されており、この状態では、図示されるように、Vf−If特性の勾配の差が残り、+60℃の特性(一点鎖線)と−20℃の特性(点線)においては、Ifの高電流域と低電流域で見かけ上の温度勾配が逆転してしまう。この温度勾配の逆転を補正するために、実施例では、図1のように抵抗R11を設けており、これによって温度による減衰量の変化を確実になくすようにしている。即ち、電圧−電流変換用トランジスタQと温度補償用トランジスタQの間にR11を挿入すると、端子間にはトランジスタQのベース電流に比例した電圧が発生し、見かけ上相互コンダクタンスが低下することから、トランジスタQによる温度補償量が低下する。これは、定電流動作したダイオードD,Dの減衰量の温度特性と逆の傾向に作用することになり、この結果、Vf−If特性での温度勾配の逆転状態が解消される。
【0036】
図10には、図1の可変減衰器の制御電圧対減衰量の温度特性が示されており、実施例では、温度補償をするコンプリメンタリのトランジスタQとQ及び抵抗R11によって、図10のように、+60℃の特性(一点鎖線)、+20℃の特性(実線)、−20℃の特性(点線)が全制御電圧範囲で略一致し、温度に対して非常に安定した回路が実現できることになる。
【0037】
図11には、駆動回路の他の例が示されており、この他の例はマッチドペア回路で構成される。この駆動回路16では、図1の場合と同様に、抵抗R10を介して制御電圧VCNTをエミッタに入力する電圧−電流変換用トランジスタQが設けられ、このトランジスタQとマッチドペアの関係となるトランジスタ、即ちトランジスタQと同じものでその特性が一致する温度補償用トランジスタQが設けられる。また、第1及び第2のダイオードD,DのVf−If特性における勾配の温度による傾きを補正するために温度補償用抵抗R11が設けられると共に、温度補償用トランジスタQの動作点を決定するためのR15,R16及び抵抗R13が配置される。従って、この駆動回路16でも、図2に示されるように減衰器の定電流源を構成すると共に、その動作点での温度補償が行われることになる。
【0038】
このような構成の駆動回路16によれば、マッチドペア回路で構成される減衰器の定電流回路として機能し、温度補償用トランジスタQの動作点は抵抗R15〜R17によって決定され、このトランジスタQのコレクタ電位はこのベース−エミッタVBEに依存する。一方、電圧−電流変換用トランジスタQの力電流は、このトランジスタQのベース−エミッタ電圧VBEに対し非線形特性を有し、ダイオードD,Dの定電流源となる。従って、電圧一電流変換用トランジスタQからは、VCNT端子から入力された制御電圧VCNTに比例するバイアス電流IATTが上記のチョークコイルLとコンデンサCとの間から供給され、これによって減衰量が制御電圧VCNTに対し線形的に制御される(図10)。
【0039】
また、上記温度補償用トランジスタQは非線形素子であるため入出力特性は温度で変化するが、コンプリメンタリの駆動回路14の場合と同様に、トランジスタQとトランジスタQの特性が近いためそれぞれのベース−エミッタ電圧VBEの温度変化は相殺されることにより、定電流源の入出力特性が温度補償される。この結果、第1及び第2のダイオードD,DのVf−If特性の温度変化が補償される。更に、この駆動回路16の場合も、抵抗R11を設けることにより、図9(B)で説明した[Vf−ΔVf]−If特性の温度勾配の傾きを補正することができ、温度補償を確実にすることができる。なお、この温度補償効果を更に安定させるため、上記トランジスタQとQ(上記駆動回路14のトランジスタQとQ)は、パッケージに組み込まれたものを用いることが望ましい。
【0040】
図12には、実施例の高周波可変減衰器を縦列接続した場合の構成が示されており、この可変減衰器は、図14の可変減衰器と同様に入出力インピーダンスが補償されているため縦列接続が可能となる。図12は、図2の構成を縦列接続したものであるが、この場合、減衰器間に配置される抵抗R及びコンデンサCについては、1段目(図の左側)の減衰器に必要な抵抗R及びコンデンサCと2段目(図の右側)の減衰器に必要な抵抗R及びコンデンサCとを合成し、1個の抵抗R及びコンデンサCとすることができる。これによれば、縦列接続する場合の部品点数の削減及び回路の小型化が可能となる。
【0041】
図13には、可変減衰器を縦列接続しかつ駆動回路を兼用した場合の構成が示されている。図13に示されるように、この例では、1段目の減衰器のチョークコイルLの一端と2段目の減衰器のチョークコイルLの一端を接続し、2段目の減衰器のチョークコイルLとコンデンサCの接続点に駆動回路14(又は16)を接続する。このような構成によれば、駆動回路14(又は16)を兼用化(ダイオードバイアスを共通化)して、縦列接続する場合の部品点数の削減、装置の小型化、低コスト化を図ることができ、また各々の減衰器に低電流回路を設ける場合と比べて消費電力も少なくなるという利点がある。なお、この図13の構成例は、電源電圧に余裕がある場合に行うことができ、2段以上に縦列接続することも可能である。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、高周波可変減衰器に設けられる第1ダイオードと第2ダイオードのグランド側への接続方向を逆にして両ダイオードに直列にバイアス電流が流れるように構成したので、この可変減衰器を単一電源で駆動することができ、しかも第1及び第2のダイオードが順方向バイアス電流で制御されるので、従来と比較して線形的な動作が可能となり、入力電力が高く減衰量が大きい程、線形動作をさせることができる。従って、混変調歪みが起き難くなって歪特性が改善され、またD/Aコンバータを使用する場合でも良好な分解能が得られるという利点がある。更に、上記の線形的な動作によって、駆動回路の電圧電流交換を単純な回路で構成することができ、また2つのダイオードのバイアス電流が共通になるため、個々のダイオードのばらつき、バイアス回路のばらつきの影響が少なくなる。
【0043】
請求項2の発明によれば、使用周波数帯域の中心周波数で直列共振により第1及び第2のダイオードの寄生インダクタンス成分を打ち消すためのコンデンサを設けたので、第1及び第2のダイオードの寄生インダクタンス成分による影響が除去され、使用周波数の領域で広いダイナミックレンジを得ることができる。
【0044】
請求項3の発明によれば、コンプリメンタリ回路やマッチドペア回路で構成される駆動回路の温度補償用トランジスタにより、第1及び第2のダイオードのVf−If特性の温度による電圧シフトが解消される。また、請求項4の発明によれば、駆動回路の電圧−電流変換用トランジスタと温度補償用トランジスタの結線間に設けた抵抗により、第1及び第2のダイオードのVf−If特性の勾配の温度による傾きが補正されるので、上記請求項3の構成と相まって、ダイナミックレンジ全域に渡って制御電圧対減衰量の温度特性を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る高周波可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図2】実施例の高周波可変減衰器の動作を説明するための回路図である。
【図3】実施例の高周波可変減衰器を構成するT型減衰器を説明する回路図である。
【図4】実施例の高周波可変減衰器に用いられるダイオードの等価回路を示し、図(B)はオン時の図、図(C)はオフ時の図である。
【図5】図2の可変減衰器のバイアス電流対減衰量特性とバイアス電流対リターンロス特性を示すグラフ図である。
【図6】図2の可変減衰器において直列共振容量(インダクタンス補償容量)を持つ共振用コンデンサの効果を示すバイアス電流対減衰量特性のグラフ図である。
【図7】図2の高周波可変減衰器において直列共振容量を持つ共振用コンデンサの効果を示す周波数対減衰量特性のグラフ図である。
【図8】図2の可変減衰器の温度特性をバイアス電流対減衰量で表したグラフ図である。
【図9】実施例のダイオードの温度特性を示し、図(A)は各温度でのVf−If(電圧対順方向電流)特性グラフ図、図(B)は電圧Vfの変化(シフト)の温度補償をした状態の各温度での[Vf−ΔVf]−If特性グラフ図である。
【図10】図1の高周波可変減衰器における制御電圧対減衰量の温度特性グラフ図である。
【図11】実施例の高周波可変減衰回路における駆動回路の他の構成例(マッチドペア回路)を示す回路図である。
【図12】図1の高周波可変減衰器を縦列接続した場合の構成を示す回路図である。
【図13】図1の高周波可変減衰器を縦列接続しかつ駆動回路を兼用した場合の構成を示す回路図である。
【図14】従来の可変減衰器の構成を示す回路図である。
【図15】従来の可変減衰器の制御電圧対減衰量特性を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1,11…入力端子、 2,12…出力端子、
14,16…駆動回路、
…第1ダイオード、 D…第2ダイオード、
〜D…ダイオード、
,C,C,C…DCカット用コンデンサ、
,C…共振用コンデンサ、
〜R16…抵抗、
〜L…チョークコイル、
…電圧−電流変換用トランジスタ、
,Q…温度補償用トランジスタ。

Claims (4)

  1. 入力側に配置された第1直流カット用コンデンサと、
    出力側に配置された第2直流カット用コンデンサと、
    この第1直流カット用コンデンサと第2直流カット用コンデンサとの間に直列に接続された第1乃至第3の抵抗と、
    この第1抵抗と第2抵抗の接続点とグランドの間に接続された第1ダイオードと、
    上記第2抵抗と第3抵抗の接続点とグランドの間に接続され、グランド側への接続方向を第1ダイオードとは逆にすることにより第1ダイオードに対し直列に電流が流れるように構成された第2ダイオードと、
    上記第1及び第2のダイオードをグランドに高周波的に短絡するための接地用コンデンサと、を設け、
    上記第1又は第2のダイオードと上記接地用コンデンサとの接続点から両ダイオードに対し順方向のバイアス電流を供給するようにした高周波可変減衰器。
  2. 第1又は第2のダイオードとグランドとの間に、使用周波数帯域の中心周波数での直列共振により第1及び第2のダイオードのオン状態の寄生インダクタンス成分を打ち消すための共振用コンデンサを直列に挿入したことを特徴とする請求項1記載の高周波可変減衰器。
  3. 減衰量を電圧で制御するための電圧−電流変換用トランジスタと、この電圧−電流変換用トランジスタと相まって上記の第1及び第2のダイオードの温度特性を改善する温度補償用トランジスタを含み、上記電圧−電流変換用トランジスタから上記バイアス電流を供給する駆動回路を設けたことを特徴とする上記請求項1又は2記載の高周波可変減衰器。
  4. 上記電圧−電流変換用トランジスタと上記温度補償用トランジスタの結線間に、第1及び第2のダイオードの電圧対順方向電流の勾配の温度による傾きを補正するための抵抗を挿入したことを特徴とする請求項3記載の高周波可変減衰器。
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