JP4233782B2 - ビール工場廃水中のリンの除去方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、廃水からリン除去を効果的に行う方法に関する。
【0002】
ここでは、工場廃水中のリンを効率的に除去する方法、特にはビール工場から排出されるビール工場廃水中のリンを効率的に除去する方法を提供する。
【0003】
【従来の技術】
下水および他の廃水中の多量のリン化合物、特にオルトリン酸塩の存在は、富栄養化と称する現象の主要な要因である。リンが過剰に存在すると、湖沼および河川で藻類および/または植物が過度に繁殖し、これらの水域の生物的および物理的特性が著しく変化するため、水を飲用に適するようにするための処理の実施がより困難になる。
【0004】
工場廃水を前述のような水域に放出するには、一般的にリン酸除去として知られている特別の処理にかけなければならない。リンは通常、生物学的処理又は物理化学的処理によって、あるいはこれら2種類の処理の組合せによって、廃水から除去される。生物学的リン酸塩除去は、微生物によるポリリン酸塩合成を調整する酵素平衡を変えるための操作を基本とするが、生物学的リン酸塩除去に都合の良い条件を得るためには、生物分解性有機充填剤を大量に加える必要がある。物理化学的リン酸塩除去では、リンは鉄又はアルミニウムのような金属のイオンと共に除去される。廃水中のリンは、無機凝集剤と、例えば以下のように反応してフロックとして析出させ除去される。
Al3++PO4 3-→AlPO4↓ …(1)
Fe3++PO4 3-→FePO4↓ …(2)
【0005】
このような無機凝集剤の例としては特公平7−14519に記載されているように廃水中のリン濃度を5mg/l、一次処理水中のリン濃度を1.5mg/lとして液体硫酸バンドを使用した場合160mg/l、ポリ塩化アルミニウム(略称PAC)を使用した場合125mg/l、塩化第二鉄の場合20mg/l程度であることが記載されている。アルミニウムイオンの添加量が多いと、生成するスラッジの量がこれに比例して増加し、これらの処理をしなければならないため処理費が著しく増大するという問題が生じる。また当然ながら処理剤の使用量が増えるためこのコストも増大する。また、廃水すべき場所によっては廃水中のリンは4ppm以下、場合によっては2ppm以下が要求される場合がありこのための対応も必要となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ビール工場から排出される廃水処理において、リン除去法でのアルミニウムイオン添加量をできるだけ少なくして効率的にリン除去ができる方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、廃水に遊離塩酸を含む酸性塩化アルミニウムをAl 2 3 /P(廃水中のリンの重量ppmに対するAl 2 3 換算での塩化アルミニウムの添加重量(ppm)の比)で1.7〜4.0添加して微細フロックを形成し、次にアニオン性高分子凝集剤を0.5〜3ppm添加し、フロックを凝集沈殿させることを特徴とするビール工場廃水中のリンの除去方法を提供する。
【0009】
前記比1.7未満では、目的とするリン濃度まで低減する事が出来ず、また、前記比4.0を超えるとリンの除去性は向上するけれども、過剰添加となり一次フロックの形成が阻害されるという問題がある。
【0010】
さらにアニオン性高分子凝集剤0.5ppm未満では、二次フロックの形成が充分でない為、沈降性が悪くなり、また3ppmを超えると過剰添加となってフロックの沈降が阻害されるという問題がある。
【0011】
また本発明は、廃水に遊離塩酸を含む酸性塩化アルミニウムをAl23/P(廃水中のリンの重量ppmに対するAl23換算での塩化アルミニウムの添加重量(ppm)の比)で1.7〜4.0添加し微細フロックを形成し、次にアニオン性高分子凝集剤を0.5〜3ppm添加し、フロックを凝集沈殿させ、沈殿後の上澄み液中のリン濃度を2ppm以下とすることを特徴とするビール工場廃水中のリンの除去方法を提供する。
【0012】
以下、本発明について詳述する。ビール廃水は麦カスケーキ洗浄液、麦カスケーキ脱水液、その他の廃水等が混合した総合廃水として排出されるが、有機性の懸濁物質が含有されており、アルカリ度が異常に高い上に、リンが10ppm前後含まれている。従来から行われている処理は、かかる廃水に無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)を添加し、次いでアニオン性高分子凝集剤を添加することにより、脱リンを行うと共に懸濁物質を凝集沈降させた後の廃液を排水系に流している。しかし、このような従来からの方法では、PACの添加量が多いことと、廃水中のリンの濃度を2ppm以下にすることが困難なことなどのため必ずしも適切な方法とは言えない。
【0013】
そこで本発明は、PACを使用する代りに遊離塩酸を含む酸性塩化アルミニウムを使用することにより、PACに比べてより少ない量の添加で効果があり、また到達リン濃度も低いことを見出したことを基本的な原理とする。
【0014】
なお、ここで使用する遊離塩酸を含む酸性塩化アルミニウムとは、0.1%〜2%の塩酸水溶液中にAl23換算で約10%のAlCl3を包含した溶液の事を言う。遊離塩酸(HCl)の量は、廃水の性状により異なるが通常ビール工場廃水の場合には、塩化アルミニウム(AlCl3)100重量部に対し、5〜80重量部、好ましくは10重量部〜50重量部である。
【0015】
酸性塩化アルミニウムがPACに比べて効果がある理由は定かではないが、PACは重合しているため生成フロックが大きく、したがって添加量に対しての溶液中のリンを捕捉する能力がさほど大きくないと考えられる。一方、酸性塩化アルミニウムは重合していないため生成フロックが小さく、廃水中に溶解しているリンとの反応性が良く、リンの捕捉能力が大きく、添加量に対しての効果が大きいものと考えられる。さらにまた、PACは凝集剤としての機能を有しているため、懸濁物質の凝集にその量の相当な部分が消費されるのに対して、酸性塩化アルミニウムはこのような機能に乏しくリンとの反応に有効に消費されることも酸性塩化アルミニウムがより効果を発揮する原因と考えられる。
【0016】
かかる形成フロックの大きさは必ずしも一義的に決まるわけではなく、廃水中のイオン種、懸濁物質あるいは懸濁物質の表面電荷などによっても変わるが、ビール工場廃水中のリン除去については好ましく適用できる。
【0017】
さらに、遊離塩酸が存在することにより、塩化アルミニウムが重合するのを防ぎ上記効果を一層促進すると共に高アルカリ度の廃水のPH調整効果を併せ持つという利点がある。
【0018】
また、ビール工場廃水への上記酸性塩化アルミニウムの添加量は、原水のリン濃度によって異なり、通常廃水に遊離塩酸を含む酸性塩化アルミニウムをAl23/P(廃水中のリンの重量ppmに対するAl23換算での塩化アルミニウムの添加重量(ppm)の比)で1.7〜4.0添加される。これは、前述の式1(Al3+PO4 3-→AlPO4↓)を理論量としたときの1.0倍〜2.5倍である。なお好ましい量は、ビール工場の廃液の性状により異なるので、予め予備テストをし、その好ましい量を決めればよい。
【0019】
次いでアニオン性高分子凝集剤を添加するが、これは酸性塩化アルミニウムによって生じた微細なフロックを粗大化し、凝集沈降させる役割をする。アニオン性高分子凝集剤の添加量は、通常0.5〜10ppm、好ましくは0.5〜3ppmである。これについても好ましい量は廃液の性状により異なるので予め予備テストにより好ましい量を決めることが推奨される。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0021】
酸性塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アニオン性高分子凝集剤の分析、水中の残存リンイオン濃度、濁度の測定およびジャーテストは以下の方法で行った。
【0022】
(1)酸性塩化アルミニウムおよびポリ塩化アルミニウムの分析
▲1▼アルミナ含量(重量%)
JIS K1475(1996年)による。
▲2▼酸性塩化アルミニウムにおける遊離塩酸の分析
ホルハルト法によるCl分析値算出。
▲3▼ポリ塩化アルミニウムにおける塩基度の分析
JIS K1475(1996年)による。
【0023】
(2)水中のリンイオン濃度の分析:ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析
【0024】
(3)ジャーテスト
検水1000ml急速攪拌→無機凝集剤(または酸性塩化アルミニウム)添加→急速攪拌1分→高分子凝集剤添加→急速攪拌1分→緩速攪拌10分→静置10分→上澄採取→リン濃度・濁度測定
【0025】
(4)濁度測定:積分球式濁度計
(5)フロックの大きさ測定
▲1▼無機凝集剤等添加後の大きさ測定
検水1000ml急速攪拌→無機凝集剤(または酸性塩化アルミニウム)添加→急速攪拌1分→緩速攪拌10分→フロックの大きさ測定
▲2▼高分子凝集剤添加後のフロックの大きさ
検水1000ml急速攪拌→無機凝集剤(または酸性塩化アルミニウム)添加→急速攪拌1分→高分子凝集剤添加→急速攪拌1分→緩速攪拌10分→フロックの大きさ測定
【0026】
【実施例1】
ビール工場より採取した廃水の分析を行った。リン濃度10.33ppm、濁度2.49度、pH8.02、アルカリ度580度であった。遊離塩酸として1%、Al23換算で10%の酸性塩化アルミニウム水溶液を用いて、廃水に対しAl23換算で24ppm添加した。このときのAl23/Pは2.32であった。その後、急速攪拌(150rpm)を1分行い、さらに住友化学工業社製のアニオン性高分子凝集剤FA−70を1ppm添加し、急速攪拌1分、緩速攪拌(50rpm)10分、静置10分行った。
【0027】
水面下3cmの位置よりサイホンで上澄みを採取後、上澄み液中のリン濃度、濁度を測定した。リン濃度は1.73ppm、濁度は0.71度であった。なお、フロックの大きさは酸性塩化アルミニウム添加後が0.3mm以下、アニオン性高分子凝集剤添加後が4.5〜7mmであった。
【0028】
【実施例2】
ビール工場より採取した廃水の分析を行った。リン濃度7.28ppm、濁度1.89度、pH8.22、アルカリ度470度であった。この廃水に実施例1と同様の酸性塩化アルミニウムをAl23換算で12ppm添加した。このときのAl23/Pは1.71であった。その後、急速攪拌(150rpm)を1分行い、さらに実施例1と同様のアニオン性高分子凝集剤を1ppm添加し、急速攪拌1分、緩速攪拌(50rpm)1分、静置10分行った。
【0029】
水面下3cmの位置よりサイホンで上澄みを採取後、上澄み液中のリン濃度、濁度を測定した。リン濃度は2.92ppm、濁度は0.35度であった。なお、フロックの大きさは酸性塩化アルミニウム添加後が0.3mm以下、アニオン性高分子凝集剤添加後が4.5〜7mmであった。
【0030】
【比較例1】
実施例1で使用した廃水に住友化学工業社製の塩基度50%のポリ塩化アルミニウム(PAC(JISK−1423))をAl23換算で24ppm添加した。このときのAl23/Pは1.71であった。実施例1と同様に急速攪拌(150rpm)1分の後、実施例1と同様の高分子凝集剤を1ppm添加し、急速攪拌1分、緩速攪拌(50rpm)10分、静置10分を行った。
【0031】
水面下3cmの位置よりサイホンで上澄みを採取後、上澄み液中のリン濃度、濁度を測定した。リン濃度は4.25ppm、濁度は0.81度であった。なお、フロックの大きさはポリ塩化アルミニウム添加後が1.5〜3mm、アニオン性高分子凝集剤添加後が4.5〜7mmであった。
【0032】
【比較例2】
実施例1で使用した廃水に比較例1と同様のポリ塩化アルミニウムをAl23換算で44ppm添加した。このときのAl23/Pは4.25であった。実施例1と同様に急速攪拌(150rpm)1分の後、高分子凝集剤を1ppm添加し、急速攪拌1分、緩速攪拌(50rpm)10分、静置10分を行った。
【0033】
水面下3cmの位置よりサイホンで上澄みを採取後、上澄み液中のリン濃度、濁度を測定した。リン濃度は2.25ppm、濁度は0.81度であった。なお、フロックの大きさはポリ塩化アルミニウム添加後が1〜1.5mm、アニオン性高分子凝集剤添加後が4.5〜7mmであった。
【0034】
【比較例3】
実施例2で使用した廃水に比較例1と同様のポリ塩化アルミニウムをAl23換算で12ppm添加した。このときのAl23/Pは1.71であった。実施例1と同様に急速攪拌(150rpm)1分の後、高分子凝集剤を1ppm添加し、急速攪拌1分、緩速攪拌(50rpm)10分、静置10分を行った。
【0035】
水面下3cmの位置よりサイホンで上澄みを採取後、上澄み液中のリン濃度、濁度を測定した。リン濃度は5.01ppm、濁度は0.32度であった。なお、フロックの大きさはポリ塩化アルミニウム添加後が1.5〜3mm、アニオン性高分子凝集剤添加後が4.5〜7mmであった。
【0036】
【発明の効果】
本発明のリンを除去する方法によると、ビール工場から排出される廃水中のリンを少ない塩化アルミニウムの添加量で除去することができ、発生スラッジ量および処理費の削減が可能となる。

Claims (3)

  1. 廃水に遊離塩酸を含む酸性塩化アルミニウムをAl 2 3 /P(廃水中のリンの重量ppmに対するAl 2 3 換算での塩化アルミニウムの添加重量(ppm)の比)で1.7〜4.0添加して微細フロックを形成し、次にアニオン性高分子凝集剤を0.5〜3ppm添加し、フロックを凝集沈殿させることを特徴とするビール工場廃水中のリンの除去方法。
  2. 廃水に遊離塩酸を含む酸性塩化アルミニウムをAl23/P(廃水中のリンの重量ppmに対するAl23換算での塩化アルミニウムの添加重量(ppm)の比)で1.7〜4.0添加し、次にアニオン性高分子凝集剤を0.5〜3ppm添加し、フロックを凝集沈殿させ、沈殿後の上澄み液中のリン濃度を2ppm以下とすることを特徴とするビール工場廃水中のリンの除去方法。
  3. 遊離塩酸が塩化アルミニウム100重量部に対し5〜80重量部である請求項1または2に記載のビール工場廃水中のリンの除去方法。
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