JP4231139B2 - 抗菌紙の製造方法、抗菌紙、及び抗菌段ボールの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は抗菌剤としてp−ヒドロキシ安息香酸エステルを用いた抗菌紙の改良、その製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ビール、清涼飲料等の飲料製品の製造業界では、容器メーカーで製造された飲料容器(缶、瓶、ペットボトル等)を、「セパレートシート」と呼ばれる紙製シートの上に載置して飲料メーカーへ運搬する方法が一般化している。セパレートシートは、「チップボール」と呼ばれる比較的硬質の平板紙を芯材として、これの両面に、従来から段ボールの表面層(最外層)として用いられている段ボールライナーを酢酸ビニル系の接着剤等を用いて常温で接着してなるものである。
【0003】
図2はセパレートシートを用いた容器の運搬状態を示している。セパレートシート11a上に飲料充填前の容器12が開口を上向きにして縦横に整列配置され、この整列配置された容器12の上に缶の開口を塞ぐように次のセパレートシート11bが載置され、更にこのセパレートシート11bの上に容器12が縦横に整列配置され、この整列配置された容器12の上に容器の開口を塞ぐように更に次のセパレートシート11cが載置されている。通常、このようにして、容器は5〜20段程度積み上げられる。セパレートシートは容器を載置するトレーの役割と、容器の中に塵や埃等の異物が進入するのを防止する蓋の役割を担っている。
【0004】
容器は、上記図示の状態で、容器メーカーから飲料メーカーの充填ラインまで運ばれた後、最上部のセパレートシートを取り除き、最上段の容器から順次下段の容器へとセパレートシートから容器を滑動させてコンベア上に移していく。なお、通常、容器メーカーから充填ラインまでは、図2の状態を保持するために、全体がプラスチックフィルム等で外装される。
【0005】
セパレートシートは、容器への飲料の充填後、回収して容器メーカーに返却され、20〜30回程度再利用される。この再利用される期間は通常1年以上であり、この利用期間において、セパレートシートにカビが発生すると、飲料容器の中にカビが入る危険性があり、食品衛生上好ましくない。また、梱包用の段ボールにカビが発生した場合も同様の問題を生じる危険性がある。従って、近時、セパレートシートや梱包用の段ボールに抗菌処理を施すことが要求されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
p−ヒドロキシ安息香酸エステルは、安全性が高く(食品添加物としても使用されている。)、かつ、比較的安価な抗菌剤として、既に知られている。
そこで、本発明者は、安全性の高いp−ヒドロキシ安息香酸エステルを抗菌剤として用いてセパレートシート及び段ボールに抗菌処理を施すことを試みた。
【0007】
セパレートシートの抗菌処理は、セパレートシートの表面層となる段ボールライナーの表面に、アルコール系の溶剤にp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含む塗工液を塗工することにより行った。その結果、段ボールライナーの表面全体に均一な抗菌性を得ることができず、また、紙が黒ずむという事態をまねいた。
【0008】
一方、段ボールの表面層となる段ボールライナーには、通常、防滑性、耐磨耗性、耐候性等の向上のため、ポリアクリル系のニスの塗膜を設けている。よって、このポリアクリル系のニスとp−ヒドロキシ安息香酸エステルとを混合した塗工液を段ボールライナーの表面に塗布して、抗菌処理を行った。しかしながら、このようにして得られた段ボールライナーはある程度の抗菌性を示したが、3〜4か月経過後に紙が白色化するという事態を招いた。
【0009】
また、段ボールは、通常、断面波形の芯紙の段頂部分に澱粉糊を塗布し、該芯紙の両面に段ボールライナーを160〜180℃に加熱した熱板で押圧して貼り合わせて製造される。そこで、かかる常法に従って上記抗菌処理を施した段ボールライナーを用いて段ボールを作製したところ、熱板が段ボールライナーの抗菌処理が施された表面に接触すると多量の白煙を発生し、また、熱板に粘着物質が付着するという事態を招いた。
【0010】
上記抗菌処理を施した段ボールライナーの黒ずみや白色化は、本来の紙の色が損なわれ、美観上好ましくなく、しかも、実際にはカビの発生や汚れの付着がないにもかかわらず、カビが発生したり、汚れが付着しているかのような印象を与えてしまう。また、段ボールの製造作業時の白煙の発生は製造現場の環境上問題があり、また、熱板に粘着物質が付着すると、実質的に段ボールの製造に支障をきたしてしまう。
【0011】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、p−ヒドロキシ安息香酸エステルを抗菌剤として用いて優れた抗菌性の抗菌紙を得ることを課題としている。
【0012】
また、優れた抗菌性を示し、かつ、黒ずみや白色化の抑制された抗菌紙を得ることを課題としている。
【0013】
更にまた、抗菌段ボールを、製造現場の環境に問題を生じることなく、熱板に粘着物質が付着することがなく、安定に製造できるようにすることを課題としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記従来のp−ヒドロキシ安息香酸エステルを含有する塗工液を塗工しても紙に安定な抗菌性(紙全体に均一な抗菌性)を付与できないという問題について検討した結果、p−ヒドロキシ安息香酸エステルの殆どが紙の内部に浸透してしまい、紙の表面にp−ヒドロキシ安息香酸エステルは多く存在しないことが原因であることをつきとめた。そこで、紙の表面にp−ヒドロキシ安息香酸エステルを多く存在させるべく、鋭意研究した結果、塗工液にp−ヒドロキシ安息香酸エステルとともに脂肪族多価アルコールを含有させるのが有効であることを見出した。また、p−ヒドロキシ安息香酸エステルを塗工した後、さらにニスを塗工すると、紙の白色化も防止でき、更に、ニスの塗膜形成用高分子物質がポリビニルアルコールであると、抗菌紙の抗菌処理面を熱から保護できることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
(1)紙の少なくとも片面に、p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとを少なくとも含む塗工液を塗工することを特徴とする抗菌紙の製造方法。
【0016】
(2)上記塗工液の塗工後、更にニスを塗工することを特徴とする上記(1)記載の抗菌紙の製造方法。
【0017】
(3)ニスに含まれる塗膜形成用の高分子物質がポリビニルアルコールである上記(2)記載の抗菌紙の製造方法。
【0018】
(4)脂肪族多価アルコールがグリセリンである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗菌紙の製造方法。
【0019】
(5)紙の少なくとも片面に、p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとが存在することを特徴とする抗菌紙。
【0020】
(6)上記p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとが存在する少なくとも一つの面上に、さらにニスによる塗膜を有する上記(5)記載の抗菌紙。
【0021】
(7)ニスによる塗膜がポリビニルアルコールの塗膜である上記(6)記載の抗菌紙。
【0022】
(8)断面が波形の芯紙の両面に糊を塗布し、該両面にそれぞれ段ボールライナーを重ねて熱板で押圧して、上記断面が波形の芯紙の両面に段ボールライナーが貼り合わされた段ボールを製造する方法において、
上記芯紙の両面に貼り合わされる段ボールライナーの少なくとも一方に下記(A)の抗菌段ボールライナーを用いることを特徴とする方法。
(A)芯紙への貼り合わせ面とは反対側の片面に、p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとが存在し、さらにポリビニルアルコールを含有する塗膜を有する抗菌段ボールライナー。
【0023】
本発明の抗菌紙及び抗菌段ボールにおける「抗菌」とは、p−ヒドロキシ安息香酸エステルが有するカビや細菌等の微生物の生育を抑制する作用により、紙の表面にカビや細菌が生育することが抑制された状態を意味している。
また、「紙」とは、単一層の紙、複数の紙が貼り合わされた積層構造の紙(例えば、前記「セパレートシート」や「段ボール」等がこれに含まれる。)のいずれをも包含し、「紙の少なくとも片面」とは、紙のいずれか一方の側の表面または両側の表面を意味している。
【0024】
【作用】
p−ヒドロキシ安息香酸エステルとともに脂肪族多価アルコールを含有させた塗工液を紙に塗工すると、p−ヒドロキシ安息香酸エステルが紙の内部に浸透しにくくなり、p−ヒドロキシ安息香酸エステルの殆どが脂肪族多価アルコールとともに紙の表面乃至はその近傍の構成繊維に付着する。よって、p−ヒドロキシ安息香酸エステルの抗菌作用が有効に発現して、優れた抗菌性を示す抗菌紙が得られる。また、p−ヒドロキシ安息香酸エステルが紙の内部に浸透しにくくなるため、紙の表面にp−ヒドロキシ安息香酸エステルがムラなく付着し、紙の表面全体に均一に抗菌性が付与される。また、従来の紙の黒ずみは、p−ヒドロキシ安息香酸エステルを含む塗工液が紙の内部に浸透することで起こっていたものと考えられ、紙の黒ずみも解消される。また、図3に示すように、一般に、紙への塗工液の塗工は、ラミネーター加工機を用い、塗工液槽5に収容された塗工液4にその下部が浸漬した金属製のアプリケーションロール3の外周面の上部傾斜位置(ロールの断面を時計の文字盤に見立て、頂上点を12時とした時の略10時または略2時の位置)に紙送りロール2によって送られてきた紙1の表面を当接させて、該位置で紙1の表面に金属製のアプリケーションロールの外周面に付着保持されてきた塗工液4が塗工される。この時、p−ヒドロキシ安息香酸エステルとともに脂肪族多価アルコールを含有させた塗工液は、脂肪族多価アルコールを含有させない塗工液に比べて金属製のアプリケーションロール3の外周面への付着保持性が良好で、紙1の表面に十分な量の塗工液を安定に供給できるという利点も得られる。なお、本発明では、紙の表面にp−ヒドロキシ安息香酸エステルが多量に付着することで紙がほのかに白みを帯びる場合がある。しかし、この白みは、前記従来の問題点として記載した紙の白色化のような、紙の外観を損なったり、汚れやカビの発生と誤認してしまうようなレベルのものではなく、また、p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールの塗工後に、さらにニスを塗工する態様とすることで、解消することができる。これは、紙表面に付着しているp−ヒドロキシ安息香酸エステルが表面に多量に滲み出るのをニスによる塗膜が抑制するためである。また、上記ニスによる塗膜をポリビニルアルコールの塗膜にすると、抗菌紙の塗工面(抗菌処理面)に耐熱性を付与できるという効果も得られる。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明において、p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとを含む塗工液を、紙のいずれか一方の側の表面のみに塗工するか、両側の表面に塗工するかは、抗菌処理を施すべき紙の使用形態(用途)に応じて、カビ等の微生物の繁殖を防止することが一方の側の表面のみに必要な場合は一方の側の表面のみとし、カビ等の微生物の繁殖を防止することが両側の表面に必要な場合は両側の表面に塗工する。
【0026】
例えば、前記飲料容器(缶、瓶、ペットボトル等)の運搬に使用されるセパレートシートは、その使用形態から理解されるように、通常、両面がそれぞれ容器の開口を塞ぐ側の面としても、容器の載置面としても利用されており、特に表(おもて)面と裏面を区別していない。よって、セパレートシートの場合は抗菌処理は紙の両面に対して行うのが好ましく、両側の表面層を構成する段ボールライナーの表面に塗工液を塗工する。
【0027】
また、上記セパレートシートのように紙が複数の紙が貼り合わされた積層構造の紙の場合、複数の紙を貼り合わせる前に、最外層となる紙の表面に塗工液を塗工しても、複数の紙を貼り合わせた後、最外層の紙の表面に塗工液を塗工してもよい。
【0028】
p-ヒドロキシ安息香酸エステルは、具体的には、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒドロキシ安息香酸エチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル、p-ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸イソブチル等のp-ヒドロキシ安息香酸の炭素数1〜4のアルキルエステルが挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して用いることができる。特に、少なくともp-ヒドロキシ安息香酸n-ブチルを用いるのが好ましい。
【0029】
脂肪族多価アルコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数が2〜3、−OH基の数が2〜3のものを用いるのが一般的であり、グリセリン及び/またはプロピレングリコールを用いるのが好ましく、グリセリンが最適である。
【0030】
p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとを少なくとも含む塗工液は、基本的に、有機溶剤、または、有機溶剤と水の混合溶媒に、p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとを溶解または分散せしめた溶液であり、必要に応じて他の物質を溶解乃至分散させてもよい。ここでの有機溶剤は特に限定はされないが、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール系の溶剤を用いるのが一般的である。
【0031】
塗工液中のp−ヒドロキシ安息香酸エステルの濃度は、一般に5〜40重量%、好ましくは15〜25重量%である。
【0032】
塗工液中の脂肪族多価アルコールの濃度は、一般に1〜30重量%、好ましくは2〜10重量%である。この規定濃度とすることにより、紙内部へのp−ヒドロキシ安息香酸エステルの浸透が十分に抑制され、p−ヒドロキシ安息香酸エステルが紙の表面の繊維に効率良く付着する。なお、10重量%より大きい場合、p−ヒドロキシ安息香酸エステルの紙の表面への多量の付着により、紙がほのかに白みを帯びる場合がある。また、脂肪族多価アルコールが栄養源となる微生物(カビ、細菌)もあり、10重量%より大きい場合はある種の微生物に対して抗菌性が低下するおそれがある。
【0033】
塗工液の塗工量は、塗工液の組成(p−ヒドロキシ安息香酸エステルの濃度や脂肪族多価アルコールの濃度等)によっても異なるが、p−ヒドロキシ安息香酸エステルの紙1m2 の塗工量(付着量)が一般に0.5〜10g、好ましくは1〜3gとなる塗工量とする。この範囲よりも少ないと紙の抗菌性が低下する傾向を示し、この範囲より多い場合は、紙が白みを帯びる傾向が強くなる。
【0034】
塗工方法は公知の塗工方法を用いることができる。例えば、浸漬塗工、刷毛塗り、ブレード塗工、バーコーターによる塗工、スプレー塗工等が挙げられる。
【0035】
上記p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとを含む塗工液の塗工により紙は優れた抗菌性を示すが、前記したように、p−ヒドロキシ安息香酸エステルが紙の表面に多量に存在することで、紙が白みを帯びやすくなる。この場合は、更にニスを塗工して、ニスによる塗膜でp−ヒドロキシ安息香酸エステルが多量に存在する紙表面を被覆すればよい。これにより、p−ヒドロキシ安息香酸エステルの表面露出が防止され、紙の白色化は抑制される。また、p−ヒドロキシ安息香酸エステルの多量の存在により紙の表面は滑りやすくなるが、ニスを塗工することで紙に防滑性を付与することができる。
【0036】
上記ニスとしては、塗膜形成用の高分子物質がアクリル系樹脂、ポリビニルブチラール、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ワニス、フェノール系樹脂、メラミン樹脂、ポリ酢酸ビニル等の種々のニスを使用することができる。特に、紙の防滑性の点からは塗膜形成用の高分子物質がアクリル系樹脂からなるニスを用いるのが好ましく、また、抗菌処理面の耐熱性の点からは、塗膜形成用の高分子物質がポリビニルアルコールからなるニスを用いるのが好ましい。
【0037】
ニスの塗工は、塗膜形成用の高分子物質の紙1m2 当たりの塗工量(固形分付着量)が、一般に0.01〜4g、好ましくは0.1〜1gとなるように行うのがよい。
【0038】
段ボールは、前記したように、従来から、防滑性、耐磨耗性、耐候性等の向上のためニスによる塗膜を設けている。かかる点から、本発明において、段ボールを抗菌処理する場合、上記のニスによる塗膜を設けた態様とするのが好ましい。すなわち、最外層を構成する段ボールライナーの芯紙への貼り合わせ面とは反対側の片面に、p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとを含有させた塗工液を塗工し、更にニスを塗工する。
【0039】
しかし、ニスに従来と同様の塗膜形成用の高分子物質がアクリル系樹脂からなるニスを用いた場合、常法(断面波形の芯紙の両面に糊を塗布し、芯紙の両面に段ボールライナーを熱板で押圧して、芯紙の両面に段ボールライナーを貼り合わせる製造方法)に従って段ボールを製造すると、従来と同様の、段ボールライナーを貼り合わせる工程での白煙の発生や熱板への粘着物質の付着等の問題を生じてしまう。かかる問題は、塗膜形成用の高分子物質がポリビニルアルコールからなるニスを用い、ポリビニルアルコールの塗膜を形成した段ボールライナーを用いることで抑制することができる。すなわち、ポリビニルアルコールの塗膜を形成した段ボールライナーを用いると、白煙を殆ど発生することなく、かつ、熱板への粘着物質の付着を起こすことなく、段ボールを製造するこができる。ここで、段ボールの一方の面に抗菌処理を施す場合は、芯紙の両面に貼り合わせる2枚の段ボールライナーのうちのいずれか一方に、その芯紙への貼り合わせ面とは反対側の片面にポリビニルアルコールの塗膜を形成した段ボールライナーを用い、段ボールの両面に抗菌処理を施す場合は、芯紙の両面に貼り合わせる2枚の段ボールライナーの両方に、その芯紙への貼り合わせ面とは反対側の片面にポリビニルアルコールの塗膜を形成した段ボールライナーを用いて段ボールとする。
【0040】
段ボールに限らず、複数の紙を熱板等の押圧部材で加熱・加圧して貼り合わせて製造される紙に抗菌処理を施す場合、最外層となる紙に上記と同様のポリビニルアルコールの塗膜を形成する態様で抗菌処理したものを用いれば、同様の効果を期待できる。
【0041】
以上の記載及び以下の実施例の記載では、主に段ボールライナー(セパレートシート、段ボール)の抗菌処理を例に挙げて本発明を説明しているが、本発明はもちろん他の業種で使用される紙の抗菌処理に適用されるものであり、例えば、靴や和服の包装紙、病院のカルテ用紙、押入れ用敷紙、シャツのえり用型紙等の抗菌処理に有益である。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例と比較例により、より詳しく説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0043】
比較例1
p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル20重量%、2−プロパノール80重量%の組成からなる塗工液を調製し、この塗工液を、坪量:220g/m2 の段ボールライナー(大昭和製 SSS−220)の一方の面に、バーコーターを用いた手塗りにより、塗工液の塗工量が7g/m2 (p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチルの塗工量が1.4g/m2 )となるように塗工した。
この塗工処理した段ボールライナーは、紙表面の塗工層が不均一で、あまり塗工液が存在していない部分を生じた。このあまり塗工液が存在していない部分をサンプリングして、 TAPPI T 487 に基づいて抗カビ試験を行った。試験菌はTrichoderma.virgatum(ATCC 24961)、Cladosporium herbarum(ATCC 16022) を使用し、28℃で2週間培養して抗菌性を判定した。その結果、培養2週間後にカビの生育が認められた。
【0044】
実施例1
p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル20重量%、グリセリン30重量%、2−プロパノール50重量%の組成からなる塗工液を調製し、この塗工液を、段ボールライナー(大昭和製 SSS−220)の一方の面に、バーコーターを用いた手塗りにより、塗工液の塗工量が7g/m2 (p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチルの塗工量が1.4g/m2 )となるように塗工した。この塗工処理した段ボールライナーの表面には均一な塗工層が形成されていた。
【0045】
比較例1と同様にしてこの塗工処理した段ボールライナーの抗カビ試験を行った。その結果、培養2週間後に試料上にカビは全く生育せず、良好な抗菌性を示した。
【0046】
上記実施例1及び比較例1の段ボールライナーの塗工面、及び参考例として、未塗工の段ボールライナーの表面の様子を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製)を用いて観察した。
【0047】
図1(a)は実施例1の紙の塗工面の電子顕微鏡写真、図1(b)は比較例1の紙の塗工面の電子顕微鏡写真、図1(c)は参考例として観察した未塗工の段ボールライナー(大昭和製 SSS−220)の電子顕微鏡写真である。
【0048】
比較例1のp-ヒドロキシ安息香酸n-ブチルのみを含有する塗工液を塗工した段ボールライナーの塗工面(図1(b))は、未塗工の段ボールライナーの表面(図1(c))と同様に、紙の表面の繊維に付着物は認められない。これに対し、実施例1のp-ヒドロキシ安息香酸n-ブチルとともにグリセリンを含有させた塗工液を塗工した段ボールライナーの塗工面(図1(a))は紙の表面の繊維にp-ヒドロキシ安息香酸n-ブチルが多量に付着していた。
【0049】
また、上記実施例1及び比較例1の段ボールライナーの塗工面、及び未塗工の段ボールライナーの表面の色をカラーテスター(SC−3−CH:スガ試験機(株)製)で測定した。すなわち、JIS Z8720に規定する標準の光を用い、JIS Z8722に規定の条件に準拠した方法で、XYZ系における三刺激値X、Y、Zを求め、この三刺激値X、Y、Zを用いてハンターの色差式における算出式に従い、L、a、b値を算出した。Lは明度を表し、a、bは色相と彩度を表す。
【0050】
下記表1がその結果である。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から分かるように、比較例1の段ボールライナーは明度(L値)が未塗工の段ボールライナーのそれよりも低下し、黒ずんだ色になっていた。一方、実施例1の段ボールライナーは明度(L値)が未塗工の段ボールライナーのそれと殆ど変わらず、紙の黒ずみは認められなかった。なお、実施例1の段ボールライナーは紙の表面の繊維へのp-ヒドロキシ安息香酸n-ブチルの付着により、若干白っぽくなった。
【0053】
実施例2
p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル16重量%、p-ヒドロキシ安息香酸イソブチル1重量%、p-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル1重量%、グリセリン7重量%、2−プロパノール55重量%、水20重量%の組成からなる塗工液を調製し、この塗工液を坪量:340g/m2 の段ボールライナー(レンゴー製:RKA340)の一方の面に、ラミネーター加工機を用いてグラビア印刷して、塗工液の塗工量が12.2g/m2 (p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチルとp-ヒドロキシ安息香酸イソブチルとp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルの総和の塗工量が2.0g/m2 )となるように塗工した。
この塗工処理した段ボールライナーに対して、上記実施例1と同様の抗カビ試験を行った。その結果、カビの生育はなく、良好な抗菌性を示した。また、上記実施例1と同様にして段ボールライナーの塗工面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、塗工面における紙を構成する繊維にp-ヒドロキシ安息香酸エステル(p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸イソブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル)が付着していた。また、目視で紙の白化は殆ど感じられなかった。
【0054】
ラミネーター(合紙機)を用いて、上記塗工処理した段ボールライナーを、これらの塗工面とは反対側の面をチップボール(坪量:600g/m2 )の両面に貼り合わせて(合紙して)、セパレートシート(1125mm×1440mmのペットボトル用のセパレートシート)を作製したところ、合紙作業に全く問題を生じることなく、セパレートシートを作製することができた。
【0055】
また、ポリアクリル系のオーバーコートニス(サカタインクス製、N-670 )80重量%と水20重量%とを混合した塗工液を調製し、該塗工液を上記p-ヒドロキシ安息香酸エステルとグリセリンを含む塗工液で塗工処理した段ボールライナーの塗工面に、ラミネーター加工機を用いてグラビア印刷して、塗工液の塗工量が11.0g/m2 となるように塗工した。このニスを上塗りした段ボールライナーについても上記と同様の抗カビ試験を行ったところ、カビの生育はなく、良好な抗菌性を示し、ニスを上塗りしても抗菌性が低下しないことが確認できた。
【0056】
実施例3
下記表2の下塗工液と上塗工液を調製した。
【0057】
【表2】
【0058】
表2中、「N−670」は、ポリアクリル系のオーバーコートニス(サカタインクス製、N-670 )である。また、「%」は重量%である。
【0059】
坪量:340g/m2 の段ボールライナー(レンゴー製:RKA340)の片面に、下塗工液を、バーコーターを用いた手塗りにより、塗工液の塗工量が11.7g/m2 (p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチルとp-ヒドロキシ安息香酸イソブチルとp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルの総和の塗工量が2.46g/m2 )となるように塗工し、更に、上塗工液(ニス)を、バーコーターを用いた手塗りにより、塗工液の塗工量が10.0g/m2 となるように塗工してニスによる塗膜を形成した。
【0060】
この塗工処理した段ボールライナーに対して、実施例1と同様にして、塗工面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、紙の表面に付着したp-ヒドロキシ安息香酸エステル(p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸イソブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル)がニスによる塗膜で被覆されていた。また、目視で白化は感じられず、未塗工の段ボールライナーとほぼ同色であった。
【0061】
この塗工処理した段ボールライナーに対して、 TAPPI T 487 に基づいて抗カビ試験を行った。試験菌は、下記表3に示す11種類のカビを使用し、28℃で2週間培養して抗菌性を判定した。その結果、いずれのカビについても培養2週間後に生育は認められず、良好な抗菌性を示した。
【0062】
【表3】
【0063】
また、繊維製品新機能評価協議会(SEK)の菌数測定法に基づいて抗菌試験を行った。試験菌には、Staphylococcus aureus IF012732、Bacillus subtilis IF03134 を使用した。この結果を下記表4、5に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
抗菌性の判定は増減値差が1.6以上であれば、抗菌性有りと判断する。表4、5から分かるように、本実施例の塗工紙は、Staphylococcus aureus IF012732とBacillus subtilis IF03134 に対しても良好な抗菌性を示すことが分かった。
【0067】
また、この塗工処理した段ボールライナーを温度20℃、湿度65%の環境下に数カ月間放置したところ、白色化は生じなかった。
【0068】
実施例4
下記表6の下塗工液と上塗工液を調製した。
【0069】
【表6】
【0070】
表6中、「%」は重量%であり、「PVA」はポリビニルアルコールである。
なお、上塗工液はポリビニルアルコール(粉末)として市販されているクラレ製、PVA117K を4.5%濃度水溶液に調整したものである。
【0071】
坪量:220g/m2 の段ボールライナー(レンゴー製:RKA220)の片面に、下塗工液を、ラミネーター加工機によりグラビア印刷して、塗工液の塗工量が13.4g/m2 (p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチルとp-ヒドロキシ安息香酸イソブチルとp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルの総和の塗工量が2.14g/m2 )となるように塗工し、更に、上塗工液を、上記と同様のラミネーター加工機により、塗工液の塗工量が12.2g/m2 となるように塗工してニスによる塗膜を形成した。
【0072】
この塗工処理した段ボールライナーに対して、 TAPPI T 487 に基づいて抗カビ試験を行った。試験菌はTrichoderma.virgatum(ATCC 24961)、Aspergillus niger(IF04407)を使用し、28℃で2週間培養して抗菌性を判定した。その結果、培養2週間後に試料上にカビは全く生育せず、良好な抗菌性を示した。
【0073】
また、この塗工紙を、実施例3と同様に、温度20℃、湿度65%の環境下に数カ月間放置したところ、白色化は生じなかった。
【0074】
また、この塗工紙の塗工面を175℃のヒートブロックに押圧したところ、白煙の発生は極めて少なく、また、塗膜の性状に変化はなく、ヒートブロックへの付着物も認められなかった。
【0075】
常法に従い、コルゲーターを用いて、上記塗工処理した段ボールライナーを、断面が波形の芯紙(坪量:120g/m2 )の澱粉糊を塗布した両面に貼り合わせて、段ボールシートを作製した。その結果、貼合工程において、白煙は殆ど発生せず、しかも、コルゲーターの熱板への粘着物質の付着もなく、段ボールシートを作製することができた。
【0076】
【発明の効果】
以上の説明により明らかなように、本発明によれば、カビに対して優れた抗菌性を示す抗菌紙を得ることができる。また、カビに対して優れた抗菌性を示すとともに、抗菌処理前の紙との色変化が極めて小さい抗菌紙を得ることができる。また、抗菌紙が段ボールである場合、特別な製造方法を用いることなく、常法(芯紙の両面に糊を塗布し、芯紙の両面に段ボールライナーを熱板で押圧して段ボールを製造する方法)により、優れた抗菌性を示す段ボールを製造現場の環境汚染を生じることなく、再現性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は実施例1の紙の抗菌処理方法によって抗菌処理された段ボールライナーの表面の電子顕微鏡写真、(b)は比較例1の紙の抗菌処理方法によって抗菌処理された段ボールライナーの表面の電子顕微鏡写真、(c)は参考例の段ボールライナー(未塗工の段ボールライナー)の表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】セパレートシートを用いた容器の運搬状態を示した図である。
【図3】紙への塗工液の塗工方法を示した図である。
【符号の説明】
11a、11b、11c セパレートシート
12 容器
Claims (8)
- 紙の少なくとも片面に、少なくともp−ヒドロキシ安息香酸n−ブチルを含むp−ヒドロキシ安息香酸エステルと、脂肪族多価アルコールとを含有する塗工液を塗工することを特徴とする抗菌紙の製造方法。
- 上記塗工液の塗工後、更にニスを塗工することを特徴とする請求項1記載の抗菌紙の製造方法。
- ニスに含まれる塗膜形成用の高分子物質がポリビニルアルコールである請求項2記載の抗菌紙の製造方法。
- 脂肪族多価アルコールがグリセリンである請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌紙の製造方法。
- 紙の少なくとも片面に、少なくともp−ヒドロキシ安息香酸n−ブチルを含むp−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとが存在することを特徴とする抗菌紙。
- 上記p−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとが存在する少なくとも一つの面上に、さらにニスによる塗膜を有する請求項5記載の抗菌紙。
- ニスによる塗膜がポリビニルアルコールの塗膜である請求項6記載の抗菌紙。
- 断面が波形の芯紙の両面に糊を塗布し、該両面にそれぞれ段ボールライナーを重ねて熱板で押圧して、上記断面が波形の芯紙の両面に段ボールライナーが貼り合わされた段ボールを製造する方法において、
上記芯紙の両面に貼り合わされる段ボールライナーの少なくとも一方に下記(A)の抗菌段ボールライナーを用いることを特徴とする方法。
(A)芯紙への貼り合わせ面とは反対側の片面に、少なくともp−ヒドロキシ安息香酸n−ブチルを含むp−ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族多価アルコールとが存在し、さらにポリビニルアルコールを含有する塗膜を有する抗菌段ボールライナー。
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