JP4214495B2 - 空調フィルタ用セパレータ用紙 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、空調フィルタ用セパレータ用紙に関し、さらに詳しくは、波型形状賦形等の塑性加工性が一層優れ、かつ機械的強度、湿潤時の機械的強度、撥水性、難燃性、耐熱性及び耐薬品性に優れるとともに、空調フィルタに組み込んだときの圧力損失が少なく、かつ焼却残渣の少ない空調フィルタ用セパレータ用紙に関する。
【0002】
【従来の技術】
原子力発電所等に用いられる空調フィルタは機械的強度、湿潤時の機械的強度、波型形状賦形等の塑性加工性、撥水性、難燃性、耐熱性及び耐薬品性に優れた特性を有し、かつ安価であることが求められる。かかるフィルタの構成材料としては、濾過材にガラス繊維シート等が用いられ、かかる濾過材の各濾過面の間隔を保持するために各濾過面の間に挿入するセパレータとして、以前はアスベスト紙が使用されていたが、アスベスト紙からなるセパレータを用いた空調フィルタは有害物質が飛散する危険が高く、公害防止及び作業環境衛生上好ましくないことから、最近では、タルク、セピオライトを含有したセピオライト紙が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、セピオライト紙からなるセパレータを用いた空調フィルタは、
(1) セピオライト紙からなるセパレータは、所要の機械的強度及び湿潤時の機械的強度等を維持するためにかなり厚くせねばならず、実公平6−30255公報に記載されているように、0.26〜0.30mm程度の厚さが必要となる。かかる厚いセパレータを空調フィルタに組み込んだ場合、空気がフィルタを通る際の圧力損失が大きくなり空気流通用送風機等の負荷が増大する。
(2) 機械的強度及び湿潤時の機械的強度等の所要特性を有し、かつ厚さの薄いセパレータを得ることができないため、使用環境あるいは使用部位等によって、アルミニウム箔製セパレータ等を用いる場合もあるが、かかるアルミニウム箔製セパレータは高価であるとともに、使用後に焼却処理することができない。すなわち、アルミニウム箔が高温で溶隔し、焼却炉に付着して焼却炉を損傷する等の理由のため焼却が困難であり、産業廃棄物として処理せねばならずその処理にもかなりの費用を要する。
(3) セピオライト紙からなるセパレータの場合は、使用後に、焼却処理しても焼却炉を損傷することはないものの、焼却後においても焼却前の重量の60〜70%もの多量の焼却残渣が残るため、環境保全対策上好ましくない。
などの難点があった。
【0004】
本発明者は、かかる難点を解決すべく鋭意検討したところ、特定の含水無機化合物を多量に含有せしめ、さらに、セルロース繊維と両性イオン重合体結合剤及びガラス転移点が30℃以上の合成高分子系結合剤の所定量と、リン酸メラミン系難燃剤の所定量を配合せしめるとともに撥水処理した所定の裂断長を有する抄紙シートが空調フィルタ用セパレータ用紙として好適に使用できること、特に本発明者が重点考慮した点は、従来のセピオライト紙に比べて塑性加工性の大幅な向上を図った点である。そして、本発明においては、かかる抄紙シートからなるセパレータは、有害物質を飛散する危険がなく十分な安全性を有するとともに、従来のセピオライト紙からなるセパレータに優る特性を有すること、すなわち、セピオライト紙製セパレータに優る機械的強度、湿潤時の機械的強度、塑性加工性、撥水性、難燃性(同等の場合もあり)、耐熱性及び耐薬品性を維持しつつ、従来困難であった0.15〜0.26mm未満とういう厚さの薄型化が可能であり、空調フィルタを空気が通る際の圧力損失が減少し空気流通用送風機等の負荷が軽減され、また、かかる薄型化により、アルミニウム箔製セパレータの代替用としても使用でき、加えて、従来のセピオライト紙製セパレータに比べ、焼却残渣が少なく焼却処理しやすいというきわめて良好な特性を兼備するが故、前記した従来のセパレータ用紙の難点を一気に解消できることをつきとめ本発明を完成させた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙は、セルロース繊維を固形分で10〜50重量%と、結晶水含有率が20重量%以上である含水無機化合物を30〜75重量%と、両性イオン重合体結合剤を固形分で2〜10重量%と、ガラス転移点が30℃以上の合成高分子系結合剤を固形分で0.5〜10重量%と、リン酸メラミン系難燃剤を固形分で1〜20重量%を含有し、撥水処理された抄紙シートであって、繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた裂断長(JIS P−8113に基づく測定)が1.0km以上であることを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙は、セルロース繊維を固形分で10〜50重量%と、結晶水含有率が20重量%以上である含水無機化合物を30〜75重量%と、両性イオン重合体結合剤を固形分で2〜10重量%と、ガラス転移点が30℃以上の合成高分子系結合剤を固形分で0.5〜10重量%と、リン酸メラミン系難燃剤を固形分で1〜20重量%と、少量の直径4μm以下のガラス繊維を含有し、撥水処理された抄紙シートであって、繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた裂断長(JIS P−8113に基づく測定)が1.0km以上であることを特徴とするものである。
【0007】
上記したセルロース繊維としては、針葉樹系あるいは広葉樹系の化学パルプ、機械パルプ、セミケミカルパルプ等の木材パルプあるいは木綿パルプ、麻パルプ、各種古紙などの中から選ばれる1種類あるいは2種類以上を併用して使用すればよい。木材パルプは供給量および品質が安定しており価格も比較的安価であることから最も使いやすいセルロース繊維原料である。木綿パルプ及び麻パルプは供給量が不安定で価格も高価であるが、本発明におけるような含水無機化合物を多量に含有する空調フィルタ用セパレータ用紙においては、必要に応じて該木綿パルプあるいは麻パルプを使用することによりセパレータ用紙の機械的強度及び湿潤時の機械的強度等の低下を最小限にとどめることができる。
【0008】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙中のセルロース繊維の含有率範囲は固形分で10〜50重量%、好ましくは20〜45重量%である。その含有率が10重量%未満ではセルロース繊維の過少により十分な機械的強度及び湿潤時の機械的強度等が得られず、また50重量%を超えた場合は有機物質の過多により十分な難燃性を得ることができない。
【0009】
本発明で使用する含水無機化合物は、結晶水含有率が20重量%以上、好ましくは30重量%以上でなければならない。結晶水含有率が20重量%未満の場合、高温加熱時の分解による吸熱作用が小さく、難燃化効果が不十分となるとともに、結晶水離脱による重量減少効果も不十分となる。
【0010】
かかる結晶水含有率が20重量%以上の含水無機化合物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、二水和石こう及びアルミン酸化カルシウム等を挙げることができる。これらの化合物は何れも分子内に結晶水を持ち化学的に類似した構造を有する。また、含水無機化合物は、その種類によって分解温度及び吸熱量に幾分差があるが、高温加熱時に分解して吸熱作用により難燃化効果を示すとともに結晶水の離脱により重量減少効果を示すという点では全く共通している。従って、基本的には前記した含水無機化合物のいずれを用いてもよいが、好ましくは20℃ 5NHNO3 液に難溶である含水無機化合物を選択するのが望ましい。次にその理由を説明する。
【0011】
本発明にかかる空調フィルタ用セパレータ用紙は、耐薬品性、特に耐酸性を要求され、20℃ 5NHNO3 液に5分間浸漬した後においても所定の機械的強度を保持していなければならない。
そこで、前記した含水無機化合物について20℃ 5NHNO3 液に対する耐酸性を実験したところ、水酸化アルミニウムは難溶であるが、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウムなどはかなり溶解し、場合によっては発泡を供って溶解することもあることがわかった。そして、20℃ 5NHNO3 液に可溶である含水無機化合物を用いて得た抄紙シートは20℃ 5NHNO3 液に難溶である含水無機化合物を用いて得た抄紙シートに比べ、20℃ 5NHNO3 液に浸漬したときに機械的強度が低下しやすいことがわかった。
従って、より耐酸性の優れた空調フィルタ用セパレータ用紙を得るためには、20℃ 5NHNO3 液に難溶である含水無機化合物を用いるのが好ましい。その中でも水酸化アルミニウムを用いるのが最適である。
【0012】
しかしながら、20℃ 5NHNO3 液に可溶である含水無機化合物を用いても耐水化処理を強化することにより、得られた抄紙シートが、20℃ 5NHNO3 液に5分間浸漬した後においても所定の機械的強度を保持し得ることもさらなる実験で確認しているので、用途によって、20℃ 5NHNO3 液に可溶である含水無機化合物を用いることもあり得ると判断される。
【0013】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙中の結晶水含有率が20重量%以上の含水無機化合物の含有率範囲は固形分で30〜75重量%、好ましくは35〜65重量%である。その含有率が30重量%未満では十分な難燃性が得られない。反対に75重量%を超えた場合は、含水無機化合物の過多により十分な機械的強度、湿潤時の機械的強度及び塑性加工性を得ることができず不適である。
【0014】
本発明で使用する両性イオン重合体結合剤は、粒子界面に高密度にカチオン性とアニオン性の官能基を併せもち、水中でゼータ電位が負の繊維や填料に良好に吸着される特性を有するものであり、シートの機械的強度及び湿潤時の機械的強度を向上せしめる効果を有する。
【0015】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙中の両性イオン重合体結合剤の含有率範囲は固形分で2〜10重量%、好ましくは3〜8重量%である。その含有率が2重量%未満では十分な機械的強度及び湿潤時の機械的強度が得られない。反対に10重量%を超えた場合は、有機物質の過多により難燃性が悪化するとともに、原料スラリー中において、両性イオン重合体結合剤の過多に伴う凝集が発生しやすくなり、かかる原料を用いた抄紙シートは地合が悪化し機械的強度及び湿潤時の機械的強度等が低下することがある。
【0016】
本発明で使用するガラス転移点が30℃以上の合成高分子系結合剤はシートの機械的強度及び塑性加工性を向上せしめる効果を有する。本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙中のガラス転移点が30℃以上の合成高分子系結合剤の含有率範囲は固形分で0.5〜10重量%、好ましくは1〜7重量%である。その含有率が0.5重量%未満では十分な機械的強度及び塑性加工性が得られない。反対に10重量%を超えた場合は、有機物質の過多により十分な難燃性を得ることができない。
【0017】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙は撥水処理を施さなければならない。撥水処理は特に限定するものではなく、天然ワックス、石油系ワックス、塩素化パラフィン、ワックスエマルジョンなどの各種ワックス系撥水剤、高級脂肪酸誘導体、合成樹脂類、クロム錯塩、ジルコニウム塩、シリコン樹脂などの撥水性付与剤を内添したり含浸もしくは塗布するなどすればよい。
【0018】
また、かかる撥水性付与剤の添加量は特に限定されるものではないが、重要なことは、シートの撥水性が空調フィルタ用セパレータとして要求される撥水性すなわち、好ましくはJIS P−8137の撥水度6以上程度の撥水性を具備できるような添加量とすべきことである。
【0019】
次に、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙にリン酸メラミン系難燃剤の所定量を含有せしめる理由について説明する。
空調フィルタ用セパレータ用紙は、通常、空調フィルタに組み込まれる前に、図1のように断面V字状の歯形を設けた上ロールと、この歯形にかみ合う下ロールのかみ合い部に通すことにより、波型形状を賦形せしめる加工を施される。
しかるに、空調フィルタ用セパレータ用紙の難燃性を確保するためには含水無機化合物の含有率を高くする必要があるが、含水無機化合物の含有率を高くすると、シートの諸強度が低下するとともに、塑性加工性も悪化しやすい。そこで、含水無機化合物の含有率を極端に高くせずとも十分な難燃性を確保するために、スルファミン酸グアニジンやリン酸グアニジン等の難燃剤を併用するのが一般的である。
【0020】
しかし、この場合、シートの諸強度の低下はある程度押えることができるものの、塑性加工性はさらに悪化してしまうといった問題がある。本発明では、かかる難点を解決するために鋭意検討した結果、リン酸メラミン系難燃剤の所定量を含有せしめることにより、高度な難燃性を有し、かつ波型形状賦形等の塑性加工性に優れた空調フィルタ用セパレータ用紙を得ることができることをつきとめたものである。
【0021】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙中のリン酸メラミン系難燃剤の含有率範囲は、固形分で1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%である。その含有率が1重量%未満では十分な難燃性が得られない。一方、20重量%を超えてもそれ以上の難燃性の大幅な向上は見られず、紙質が脆くなり、波型形状賦形等の屈曲加工がしにくくなる。
また、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙中の難燃剤としては、リン酸メラミン系難燃剤の単独使用に限らず、高度な難燃性と、優れた機械的強度、湿潤時の機械的強度、撥水性、耐熱性、耐薬品性及び塑性加工性を両立せしめるという、本発明の目的を阻害しない範囲において、リン酸メラミン系難燃剤と共に、スルファミン酸グアニジンやリン酸グアニジン等の難燃剤の少なくとも一種類を併用した場合も本発明に包含される。
【0022】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙中には、後述する抄紙時の含水無機化合物の歩留向上を図るために、直径4μm以下のガラス繊維を少量含有せしめるのが好ましい。
この場合、空調フィルタ用セパレータ用紙中のかかる直径4μm以下のガラス繊維の含有率範囲は固形分で0.05〜8重量%とするのが望ましい。その含有率が0.05重量%未満では抄紙段階において、本発明者が特公平4−50437号公報で指摘したところの原料スラリーの保水性の向上効果及び含水無機化合物の歩留向上効果が十分に発現されにくくなり、含水無機化合物が抄紙網を通り抜けて流失しやすくなるため、難燃性や地合に悪影響を及ぼす有機系歩留向上剤等を使用せずには、含水無機化合物の所定量を含有する抄紙シートを効率よく得ることが困難となることがある。また、8重量%を超えた場合には、原料スラリーの保水性が過多となり抄紙段階において、抄紙網からの濾水性が悪化し、操業上のトラブルを招きやすくなることがある。この傾向は、併用するセルロース繊維に叩解処理を施すことにより、あるいはガラス繊維の直径が細くなるほど顕著になりやすい。
【0023】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙の繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた裂断長(JIS P−8113に基づく測定)は1.0km以上でなければならない。該裂断長が1.0km未満では、単位米坪当りのシートの機械的強度及び湿潤時の機械的強度が弱いため、十分な機械的強度及び湿潤時の機械的強度を得るのに要するシートの米坪が過大となる結果、シートの厚さも過大となり、フィルタに組み込んだときの圧力損失が増大しやすくなる。
【0024】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙の厚さは従来の厚さでも使用可能であるが、厚さが0.15〜0.26mm未満であることがより好ましい。その理由は空調フィルタ用セパレータ用紙の厚さが0.15mm未満では、機械的強度、湿潤時の機械的強度及び波型形状賦形性等の塑性加工性等が不足しやすくなることがあり、0.26mm以上の場合には、フィルタに組み込んだときの圧力損失が増大しやすくなることがあるからである。
また、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙の密度は0.9g/cm3 以上とするのが好ましい。該密度が0.9g/cm3 未満では単位厚さ当りのシートの機械的強度及び湿潤時の機械的強度が弱くなりやすいため、十分な機械的強度及び湿潤時の機械的強度を得るのに要するシートの厚さが過大となり、空調フィルタに組み込んだときの圧力損失が増大しやすくなることがある。
【0025】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙の製造方法としては、湿式抄紙法が好適である。以下において、製造方法にも言及しながらさらに詳述する。
すなわち、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙を製造するには、セルロース繊維、結晶水含有率が20重量%以上の含水無機化合物、両性イオン重合体結合剤の所定量及び必要に応じてさらに直径4μm以下のガラス繊維を含有する原料スラリーを調成し、通常の抄紙法により抄紙すればよい。そして、前記したガラス転移点30℃以上の合成高分子系結合剤、各種撥水性付与剤及びリン酸メラミン系難燃剤を原料スラリー中に内添するかシートを形成せしめてから含浸もしくは塗布するなどすればよい。
【0026】
本発明の如き無機粉体を多量に含有した原料スラリーを抄紙網に供給する場合、通常は原料スラリーをチェストから抄紙網に流送する流送過程において、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系、ポリアミン系、ポリメタクリル酸エステル系、ジシアンジアミド系、ポリエチレンイミン系、キトサン系、カチオン化デンプンなどの凝集作用を発現する薬剤を添加し、かかる凝集作用により、無機粉体が抄紙網から流失するのを押え歩留の向上を図るのが一般的であるが、この場合、凝集作用により原料スラリーのフロック化が著しくなりシートの地合が悪化して機械的強度及び湿潤時の機械的強度の低下を来たしやすい。従って、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙を製造する際には、原料スラリーをチェストから抄紙網に流送する流送過程において、凝集作用を発現する薬剤を添加しない方が好ましい。ただし、この場合、抄紙過程において含水無機化合物が抄紙網から流失しやすくなり、歩留の低下を生じやすいので、好ましくは原料スラリー中に直径4μm以下のガラス繊維を含有せしめて、原料スラリーの保水性の向上を図り、含水無機化合物の抄紙網からの流失を抑制し歩留の向上を図るのがよい。こうすれば、シートの地合は良好に保たれ、機械的強度及び湿潤時の機械的強度の低下なしに含水無機化合物の歩留向上を図ることができる。
【0027】
抄紙については通常の長網、円網あるいは傾斜網等の抄紙網上に原料スラリーを供給し、濾過、脱水した後、圧搾、乾燥すればよい。また、必要に応じて各種コンビネーション網や多槽円網あるいは各種ラミネーターなどにより紙層を2層以上重ね合わせてもよい。なお圧搾条件はできるだけ強くして、紙質を極力緻密にした方が繊維間結合が強まるとともに、単位米坪当りあるいは単位厚さ当りの機械的強度及び湿潤時の機械的強度が向上し、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙としては好適なものを得やすい。
【0028】
また、乾燥後のカレンダー処理については、強カレンダー処理するほど、単位厚さ当りの機械的強度及び湿潤時の機械的強度がさらに向上するとともに、表面が平滑となり、フィルタに組み込んだ時の空気抵抗を一層低減することができるが、他方、カレンダー処理を強くしすぎると、波型形状賦形性等の塑性加工性が悪化する場合がある。従って、単位厚さ当りの機械的強度及び湿潤時の機械的強度と塑性加工性の両方を勘案してカレンダー処理条件を適宜決める必要がある。さらに、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙には必要に応じてロックウール繊維、セラミック繊維などの無機繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維などの各種合成繊維、着色のための合成染料、あるいは乾燥または湿潤紙力増強剤、サイズ剤、耐水化剤等を含有せしめてもよい。
【0029】
【実施例】
次に、本発明を以下の実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
本実施例中、各項目の測定は次の方法によった。
(1)シートの米坪: JIS P−8124
(2)シートの厚さ: JIS P−8118
(3)シートの密度: JIS P−8118
(4)シートの引張強度: JIS P−8113(ただし、繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定し、両者の平均を求めた。)
(5)シートの裂断長:上記(1)シートの米坪、(4)シートの引張強度より
で求めた。
(6)シートの湿潤引張強度: 20℃蒸留水15分浸漬後にJIS P−8113によって測定した。(ただし、繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定し、両者の平均を求めた。)
(7)耐熱引張強度: 121℃ 1hr処理後にJIS P−8113によって測定した。(ただし、繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定し、両者の平均を求めた。)
(8)耐酸引張強度: 20℃の5NHNO3 液5分浸漬後にJIS P−8113によって測定した。(ただし、繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定し、両者の平均を求めた。)
(9)難燃性: JIS L−1091
(10)撥水性: JIS P−8137
(11)強熱残量: JIS P−8128の灰分で求めた。
(12)水分: JIS P−8127
(13)単位面積当りの強熱残量:上記(1)シートの米坪、(11)強熱残量、(12)水分より
で求めた。
(14)塑性加工性: 図2に示すように20℃65RH%調湿下にて、幅15mm、長さ80mmのシートを、開き角60度のV字状成形型にはさんで(上型自重1.4kgにて、5秒間)賦形し、該賦形されたシートを水平面上に上に凸となるように静置した直後、5時間後、24時間後及び72時間後における賦形高さh´を測定した。
【0030】
なお、図1に示すように実際の波型形状賦形加工に用いられる上ロールの歯型と下ロールの歯型とのかみ合わせ部分はある程度のすき間があり、上ロールと下ロールのかみ合わせ部にシートを通した際にシートに与えられる変形は折り目がはっきり付くほどの変形でないため、賦形適性を評価するには実際に波型形状賦形加工機に通してみる以外困難であったが、鋭意試行錯誤して検討した結果、前記した方法で測定した賦形高さh´と図1に示す実際の波型形状賦形加工機に通したときの波型形状賦形高さhとの間に相関係数0.95以上の正の相関があることをつきとめたものである。
ちなみに、hとh´との相関を示す結果を例示すると、塑性加工性の異なる5種類の紙についての賦形直後の測定値で、前記した方法で測定した賦形高さh´がそれぞれ10.8mm、12.5mm、13.0mm、15.4mm及び18.5mmに対し、実際の波型形状賦形加工機に通したときの波型形状賦形高さhは、それぞれ1.25mm、1.48mm、1.55mm、1.83mm及び2.28mmとなり相関係数0.999という極めて良好な正の相関が得られた。
【0031】
実施例1
市販の針葉樹系晒硫酸塩パルプをパルパーにて離解し、次いでリファイナーで叩解し、これに直径0.65μmのガラス繊維(以下、ガラス繊維αと略称する。)の分散液を加えて十分撹拌混合し、さらに水酸化アルミニウム粉体(結晶水含有率34.6重量%、平均粒子径5.7μmである。以下同じ。)、リン酸メラミン系難燃剤(平均粒子径2〜5μmである。以下同じ。)、ワックスエマルジョン系撥水剤、ガラス転移点が63℃であるアクリル系結合剤(以下、合成高分子系結合剤aと略称する。)及びSBR系の両性イオン重合体結合剤を添加し十分に分散混合後、多層円網抄紙機にて抄紙し圧搾、乾燥、カレンダー処理してシートAを得た。
シートAについて、各成分の含有率を表1に示すとともに、米坪、厚さ、密度、引張強度、裂断長、湿潤引張強度、耐熱引張強度、耐酸引張強度、難燃性、撥水性、強熱残量、水分、単位面積当りの強熱残量及び塑性加工性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0032】
実施例2
市販の針葉樹系晒硫酸塩パルプをパルパーにて離解し、次いでリファイナーにて叩解し、これにガラス繊維αの分散液を加えて十分に撹拌混合し、さらに水酸化アルミニウム粉体とガラス転移点が56℃であるスチレン・アクリル系結合剤(以下、合成高分子系結合剤bと略称する。)とSBR系の両性イオン重合体結合剤を添加し、十分に分散混合後、多層円網抄紙機にて抄紙し、圧搾後、リン酸メラミン系難燃剤とワックスエマルジョン系撥水剤の水系分散液を塗布し乾燥、カレンダー処理してシートBを得た。
シートBについて、各成分の含有率を表1に示すとともに、米坪、厚さ、密度、引張強度、裂断長、湿潤引張強度、耐熱引張強度、耐酸引張強度、難燃性、撥水性、強熱残量、水分、単位面積当りの強熱残量及び塑性加工性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0033】
実施例3
実施例1において、各成分の配合量を変化させた以外は実施例1と同様にしてシートCを得た。
シートCについて、各成分の含有率を表1に示すとともに、米坪、厚さ、密度、引張強度、裂断長、湿潤引張強度、耐熱引張強度、耐酸引張強度、難燃性、撥水性、強熱残量、水分、単位面積当りの強熱残量及び塑性加工性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0034】
実施例4
実施例1において、ガラス繊維αに代えて直径3μmのガラス繊維(以下、ガラス繊維βと略称する。)を用い、合成高分子系結合剤aに代えて、ガラス転移点が35℃であるアクリル系結合剤(以下、合成高分子系結合剤cと略称する。)を用いた以外は実施例1と同様にしてシートDを得た。
シートDについて、各成分の含有率を表1に示すとともに、米坪、厚さ、密度、引張強度、裂断長、湿潤引張強度、耐熱引張強度、耐酸引張強度、難燃性、撥水性、強熱残量、水分、単位面積当りの強熱残量及び塑性加工性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0035】
実施例5
実施例2において、ガラス繊維αの分散液を加えない以外は実施例2と同様にしてシートEを得た。
シートEについて、各成分の含有率を表1に示すとともに、米坪、厚さ、密度、引張強度、裂断長、湿潤引張強度、耐熱引張強度、耐酸引張強度、難燃性、撥水性、強熱残量、水分、単位面積当りの強熱残量及び塑性加工性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。
ただし、ガラス繊維αを加えなかったため、水酸化アルミニウムの抄紙網からの流失が増大し、水酸化アルミニウム粉体の配合量を約2倍にしなければならなかった。
【0036】
比較例1
実施例2において、ワックスエマルジョン系撥水剤を添加しない以外は実施例2と同様にしてシートFを得た。
シートFについて、各成分の含有率を表1に示すとともに、米坪、厚さ、密度、引張強度、裂断長、湿潤引張強度、耐熱引張強度、耐酸引張強度、難燃性、撥水性、強熱残量、水分、単位面積当りの強熱残量及び塑性加工性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0037】
比較例2
実施例1において、リン酸メラミン系難燃剤を添加しない以外は実施例1と同様にしてシートGを得た。
シートGについて、各成分の含有率を表1に示すとともに、米坪、厚さ、密度、引張強度、裂断長、湿潤引張強度、耐熱引張強度、耐酸引張強度、難燃性、撥水性、強熱残量、水分、単位面積当りの強熱残量及び塑性加工性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0038】
比較例3
実施例2において、合成高分子系結合剤bに代えてガラス転移点が−4℃であるアクリル系結合剤(以下、合成高分子系結合剤dと略称する。)を用い、リン酸メラミン系難燃剤に代えて、スルファミン酸グアニジン系難燃剤を用いた以外は実施例2と同様にしてシートHを得た。
シートHについて、各成分の含有率を表1に示すとともに、米坪、厚さ、密度、引張強度、裂断長、湿潤引張強度、耐熱引張強度、耐酸引張強度、難燃性、撥水性、強熱残量、水分、単位面積当りの強熱残量及び塑性加工性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0039】
比較例4
空調フィルタ用セパレータ用紙として現在使用されているセピオライト紙の市販品について、米坪、厚さ、密度、引張強度、裂断長、湿潤引張強度、耐熱引張強度、耐酸引張強度、難燃性、撥水性、強熱残量、水分、単位面積当りの強熱残量及び塑性加工性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0040】
【表1】
【0041】
なお、シートA、シートB、シートC、シートD、シートEと比較例4のセピオライト紙の地合を比較すると、セピオライト紙では紙質のフロック化が顕著でピンホールもある程度認められるのに対し、シートA、シートB、シートC、シートD及びシートEは紙質のフロック化がさほど顕著でなくピンホールも全く認められない。
また、空調フィルタ用セパレータ用紙として以前に使用されていたアスベスト紙は米坪が200〜220g/m2 、厚さが0.26〜0.30mm、密度が約0.75g/cm3 であり、諸強度、撥水性、難燃性及び強熱残量等はセピオライト紙とほぼ同程度である。
【0042】
【発明の効果】
本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙は、上記した実施例1〜5、比較例1〜4及び表1からわかるように、従来のセピオライト紙製の空調フィルタ用セパレータ用紙に比べ、裂断長が約2.5〜4倍であり、きわめて機械的強度に優れた紙質を有し、かつ塑性加工性及び撥水性等においても従来のセパレータ用紙に優る性能を有しており、難燃性においても同等以上である。
このように、本発明のセパレータ用紙の機械的強度が優れているため、従来のセパレータ用紙が所要の機械的強度を満たすのに0.26〜0.30mm程度の厚さを必要としているのに対し、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙は、従来の約65%程度の厚さである約0.18mmでも従来のセパレータ用紙に優る機械的強度(引張強度約3.0倍、湿潤引張強度約2.7倍、耐熱引張強度約3.4倍、耐酸引張強度約3.0倍)を得ることができる。
【0043】
また、リン酸メラミン系難燃剤とガラス転移点が30℃以上の合成高分子系結合剤を用いた本発明にかかる実施例1と、各成分配合が実施例1と近似し、スルファミン酸グアニジン系難燃剤を使用し、かつ、ガラス転移点が30℃未満の合成高分子系結合剤を使用した比較例3を比較すると、賦型高さh´は、実施例1では、比較例3に比べ、直後、5時間後、24時間後及び72時間後の各経過時点において、それぞれ1.24倍、1.40倍、1.45倍及び1.46倍と、大きく増大し、塑性加工性が向上しており、従来セピオライト紙に比べても優位である。
【0044】
従って、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙は、従来のセピオライト紙からなるセパレータ用紙に優る機械的強度、湿潤時の機械的強度、塑性加工性、撥水性、難燃性(同等の場合もあり)、耐熱性及び耐薬品性を維持しつつ、従来は困難であった0.15〜0.26mm未満という厚さの薄型化が可能であり、空調フィルタを空気が通る際の圧力損失を大幅に減少せしめ空気流通用送風機等の負荷を軽減することができる。
【0045】
一方、厚さを従来のセパレータ用紙並の厚さとすれば、一段と優れた機械的強度、湿潤時の機械的強度及び塑性加工性を得ることができ、従来のセパレータでは困難であったような厳しい条件下でも高い信頼性をもって使用可能なセパレータ用紙を提供できる。
【0046】
加えて、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙は、単位面積当りの強熱残量が従来のセピオライト紙製のセパレータ用紙に比べ、40〜70%程度少なくでき、すなわち、セパレータを焼却処理した際の焼却残渣が実質的に重量で40〜70%程度少なくできることになり、環境保全上の問題を大きく改善できる。
【0047】
さらに、従来機械的強度及び湿潤時の機械的強度等の所要特性を有しかつ厚さの薄いセパレータを得ることができなかったため已むを得ずアルミニウム箔製のセパレータ等を用いる場合があったが、本発明のセパレータ用紙は、かかるアルミニウム箔製のセパレータの代替用としても使用できる。すなわち、高価であるとともに高温で溶融し焼却炉に付着して焼却炉を損傷する等の理由のため焼却が困難であったアルミニウム箔を使用しなくて済むのである。
また、本発明の空調フィルタ用セパレータ用紙は有害物質を飛散する危険がなく、十分な安全性を有しており、公害防止上及び作業環境衛生上好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 波型形状賦形加工状況を示す描写図である。
【図2】 賦形高さh´の測定方法を示す説明図である。
【符号の説明】
1 上ロール
2 下ロール
3 シート
4 波型形状賦形されたシート
5 上型
6 下型
7 シート
8 賦形されたシート
Claims (11)
- セルロース繊維を固形分で10〜50重量%と、結晶水含有率が20重量%以上である含水無機化合物を30〜75重量%と、両性イオン重合体結合剤を固形分で2〜10重量%と、ガラス転移点が30℃以上の合成高分子系結合剤を固形分で0.5〜10重量%と、リン酸メラミン系難燃剤を固形分で1〜20重量%を含有し、撥水処理された抄紙シートであって、繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた裂断長(JISP−8113に基づく測定)が1.0km以上であることを特徴とする空調フィルタ用セパレータ用紙。
- セルロース繊維を固形分で10〜50重量%と、結晶水含有率が20重量%以上である含水無機化合物を30〜75重量%と、両性イオン重合体結合剤を固形分で2〜10重量%と、ガラス転移点が30℃以上の合成高分子系結合剤を固形分で0.5〜10重量%と、リン酸メラミン系難燃剤を固形分で1〜20重量%と、少量の直径4μm以下のガラス繊維を含有し、撥水処理された抄紙シートであって、繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた裂断長(JIS P−8113に基づく測定)が1.0km以上であることを特徴とする空調フィルタ用セパレータ用紙。
- 請求項1記載の空調フィルタ用セパレータ用紙であって、さらに厚さが0.15〜0.26mm未満であることを特徴とする請求項1記載の空調フィルタ用セパレータ用紙。
- 請求項2記載の空調フィルタ用セパレータ用紙であって、さらに厚さが0.15〜0.26mm未満であることを特徴とする請求項2記載の空調フィルタ用セパレータ用紙。
- 請求項1または3記載の空調フィルタ用セパレータ用紙であって、さらに密度が0.9g/cm3 以上であることを特徴とする請求項1または3記載の空調フィルタ用セパレータ用紙。
- 請求項2または4記載の空調フィルタ用セパレータ用紙であって、さらに密度が0.9g/cm3 以上であることを特徴とする請求項2または4記載の空調フィルタ用セパレータ用紙。
- 含水無機化合物は、20℃ 5NHNO3 液に難溶である含水無機化合物である請求項1、3または5記載の空調フィルタ用セパレータ用紙。
- 含水無機化合物は、20℃ 5NHNO3 液に難溶である含水無機化合物である請求項2、4または6記載の空調フィルタ用セパレータ用紙。
- 含水無機化合物は、水酸化アルミニウムである請求項1、3、5または7記載の空調フィルタ用セパレータ用紙。
- 含水無機化合物は、水酸化アルミニウムである請求項2、4、6または8記載の空調フィルタ用セパレータ用紙。
- 直径4μm以下のガラス繊維の含有率が0.05〜8重量%である請求項2、4、6、8または10記載の空調フィルタ用セパレータ用紙。
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