JP4209980B2 - 内燃機関のピストン用熱膨張吸収装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関のピストンのスカート部とシリンダ内面とのクリアランスを適正に保持して燃焼効率を向上させるための技術に属するものである。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関は、その概略構成を図5に示すように、シリンダ101内にピストン102が軸方向往復動自在に配置され、シリンダ101の燃焼室101a内で、吸気マニホールド107からインテークバルブ108を介して供給される燃料と空気の混合ガスをスパークプラグ106により燃焼させ、この時に発生する高温の燃焼ガスの圧力によって与えられるピストン102の直線運動を、ピストンピン103及びコネクティングロッド104を介してクランクシャフト105の回転運動に変換するようになっていることはよく知られている。ピストン102は、燃焼室101a側に面したヘッド102aと、その外周から燃焼室101aと反対側(クランク室側)へ向けて延びるスカート102bとを有し、シリンダ101の内面との隙間を、前記スカート102bの外周に装着したピストンリング102c及びオイルリング102dによりシールしている。なお、参照符号109は燃料噴射装置、110は前記燃焼室101aから燃焼ガスを排出する排気マニホールド、111はエキゾーストバルブである。
【0003】
ピストン102は、燃焼室101a内で混合ガスが燃焼されることによって発生する燃焼ガスと接触するので、加熱されて高温になる一方、シリンダ101は、空冷式の場合は外周面に形成されたフィンを通る空気によって、また水冷式の場合は外周に形成された冷却ジャケット内を通る冷却水によって常時冷却されている。しかも近年はシリンダ101は鋳鉄、ピストン102はAl合金で製作されるのが普通であり、Al合金の線膨張係数は鋳鉄の2倍以上であるため、このような温度差及び線膨張係数差によって、シリンダ101よりピストン102の熱膨張が大きく、このため内燃機関の運転中は、シリンダ101の内径とピストン102の外径とのクリアランスが常温時に比較して小さくなる。したがって高速・高負荷での運転によって最高温となった時にシリンダ101の内面にピストン102が焼き付かないようにするために、前記クリアランスを、前記最高温時の熱膨張差を見込んで大きく設定している。
【0004】
燃焼室101aに吸入され圧縮される燃料と空気の混合ガスは、シリンダ101の内径とピストン102の外径とのクリアランスにも入り込むが、この部分に入り込んだ混合ガスは燃焼されず、未燃ガスとして排出される。したがって、前記クリアランスを最高温時の熱膨張差を見込んで大きくすると、比較的低速運転の際にはピストン102の温度がそれほど上昇しないことによってクリアランスの容積が大きくなり、燃焼されずに排出される未燃ガスが多くなり、内燃機関の燃焼効率が低下してしまうことになる。そこで従来は、混合ガスの入り込むクリアランスの容積をなるべく小さくする目的で、ピストンリング102cを可能な限りスカート102bの上端近くに装着するように設計しているが、それにも限界がある。
【0005】
図6は内燃機関の運転時におけるピストン102の温度分布の例を示すものである。この図によれば、温度はヘッド102aの上面中央部付近で最も高く、冷却されているシリンダと近接したスカート102b側で低く、燃焼ガスから受熱した熱量の大半は、ピストンリング102c等を介してシリンダへ放熱されるため、その付近で温度傾度が高くなっていることがわかる。そしてピストン102の熱膨張は高温となるヘッド102aの中央部付近で最も大きいため、この熱膨張による拡径力がスカート102bへ及ばないように、例えばピストンリング装着溝等にスリットを形成することが、比較的低温時におけるシリンダ101の内径とピストン102の外径とのクリアランスを小さくするのに有効であると考えられる。しかしながらこの場合は、スリットによって放熱が阻害されてヘッド102aが高温になるため、実現が困難である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような事情のもとになされたもので、その技術的課題とするところは、ピストンのヘッドにスリットを設けることによって、ピストン外径とシリンダ内径のクリアランスを小さくするといった技術を実現するための熱膨張吸収装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述した技術的課題は、本発明によって有効に解決することができる。すなわち本発明に係る内燃機関のピストン用熱膨張吸収装置は、内燃機関のシリンダ内の燃焼室に面したヘッドとその外周側に配置されたスカートとの間に円周方向に連続したスリットが形成されたピストンに装着され、前記スリットを塞ぐように前記スリットに沿って延びる金属環からなる内燃機関のピストン用熱膨張吸収装置であって、前記ヘッドの外周部のみに全周が締め代をもって密接した状態に圧入定着される定着部と、前記定着部の一端から外周側へ延びる密封部とからなり、前記密封部は、その外周端が前記スカートの燃焼室側端面と弾性的に密接し、かつ、相対的に密接摺動することによって前記スリットを燃焼室側から塞ぐことを特徴とするものである。
【0008】
ヘッドの外周部の円周方向に連続したスリットは、中央部付近で最も高温となるヘッドの熱膨張による拡張力が、外周のスカートに伝達されるのを遮断するために設けられたものである。本発明に係る熱膨張吸収装置は、前記スリットを塞ぐように設けられることによって、燃焼ガスが前記スリットを通じて流出するのを防止すると共に、スリットの内周のヘッド中央側から、外周のスカート側への放熱経路を確保するものである。また、燃焼ガスからの受熱によって高温となるヘッドは、相対的に低温であるスカートよりも大きく熱膨張して、前記スリットの径方向幅を縮小させるが、これに伴って熱膨張吸収装置は、前記スリットの外周側の端面に弾性的かつ摺動可能に密接されている密封部の接触位置が相対的に変化するので、前記ヘッドの熱膨張による拡張力をスカート側に対して絶縁する。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係る熱膨張吸収装置の一実施形態を内燃機関のピストン1への装着状態で示すものである。ピストン1は、シリンダ内の燃焼室に面するヘッド11と、その外周から前記燃焼室と反対側へ向けて延びるスカート12と、前記ヘッド11の下面に一体的に突設され互いに軸心が同一の一対のボス13,13と、各ボス13と前記スカート12の内面とを前記軸心と直交する方向に一体的に連結しているアーム14とからなり、前記一対のボス13,13に跨がって挿通されるピストンピン(図5の符号103参照)を介してコネクティングロッド(図5の符号104参照)に連結される。
【0010】
スカート12における燃焼室側の端部近傍の外周面には複数の環状溝が形成されており、そのうち上側の二本の環状溝にはそれぞれピストンリング2が、また最も下側の環状溝にはオイルリング3が装着されている。ピストンリング2は、燃焼室内の混合ガスの入り込むクリアランスの容積をなるべく小さくして未燃ガスの排出量を減少させる目的で、可能な限りスカート12の上端近くに位置して装着される。
【0011】
ピストン1におけるヘッド11の外周部には円周方向に連続したスリット15が形成されており、これによって、前記ヘッド11の外周部とスカート12の上端部は、径方向に互いに分離している。常温時におけるこのスリット15の径方向幅は、ピストン1が高速・高負荷での運転によって最高温となった時の、ヘッド11の外径とスカート12の上端部の径方向熱膨張差よりも大きく設定されている。
【0012】
ピストン1のスリット15には、これを塞ぐように本発明の熱膨張吸収装置4が装着されている。この熱膨張吸収装置4は前記スリット15に沿って環状に連続して延びる金属板からなるものであって、図2に拡大して示すように、円筒面をなす内周側の定着部41と、この定着部41の一端からR状に屈曲して外周側へ延びる密封部42とからなり、すなわち断面略L字形を呈するものである。
【0013】
スリット15の内周側の内壁面をなすヘッド11の外周面の上部には、熱膨張吸収装置4の定着部41の肉厚に相当する分だけ小径の装着面11aが段付き形成されており、前記定着部41は、この装着面11aに適当な締め代をもって密接した状態に圧入定着されている。また、熱膨張吸収装置4の密封部42は、前記スリット15を燃焼室側から塞ぐと共に、その外周端42aがスカート12における燃焼室側の端面(上面)12aと相対的に径方向摺動可能な状態で弾性的に密接されている。
【0014】
なお、熱膨張吸収装置4の密封部42のばね荷重は、内燃機関の吸入行程等におけるピストン1の下降時の慣性力及び燃焼室内の負圧によって、前記外周端42aがスカート12の上面12aに対する密接状態が損なわれない大きさに設定される。
【0015】
以上の構成において、ピストン1は円周方向に連続したスリット15によってヘッド11の外周とスカート12の上端部とが径方向に分離しているが、このヘッド11とスカート12は、ボス13及びアーム14を介して一体化された構造となっている。シリンダの燃焼室で発生する燃焼ガスの圧力によりヘッド11の上面に与えられる駆動力はボス13を介して、また前記圧力によりスカート12の上面12aに与えられる駆動力はアーム14及びボス13を介して、図示されていないピストンピンからコネクティングロッドへと伝達される。
【0016】
ピストン1のヘッド11とスカート12間のスリット15は熱膨張吸収装置4によって閉塞されているので、シリンダの燃焼室で発生した燃焼ガスがピストン1の下側(クランク室)に流出して出力効率の低下を来すことはない。そして、前記燃焼ガスの高い圧力は、熱膨張吸収装置4の密封部42をスカート12の上面12aに押し付けるように作用するため、高い密封性能を奏する。なお、この熱膨張吸収装置4は、好ましくは金、銀、ニッケル、銅、亜鉛等のめっきを施すことによって、密封性を一層向上させることができる。
【0017】
燃焼室の高温・高圧の燃焼ガスによって、ピストン1はヘッド11の上面中央部が最も高温となり、ピストンリング2等を介してシリンダ内壁に接触されているスカート12は相対的に低温となるため、ヘッド11はスカート12より大きく熱膨張し、これに伴って、その外周面上部の装着面11aに圧入された熱膨張吸収装置4も拡径を受ける。しかし、ヘッド11の外周面とスカート12の上端部はスリット15により分離しており、しかも、ヘッド11の熱膨張により拡径された熱膨張吸収装置4の密封部42はスカート12の上面12aに対して相対的に外径側へ摺動するため、ヘッド11の熱膨張による拡張力はスカート12に伝達されず、熱によるスカート12の拡径が小さく抑えられる。したがって、常温時におけるピストン1(スカート12)の外径とシリンダの内径とのクリアランスを、従来に比較して小さく設定することができ、その結果、前記クリアランスにピストンリング2によるシール部まで入り込んだ燃料と空気の混合ガスが燃焼されないことによる未燃ガスの排出量を低減することができる。
【0018】
燃焼室の高温の燃焼ガスから受熱されたヘッド11の熱は、熱膨張吸収装置4相対的に低温のスカート12へ伝熱され、またボス13及びアーム14からも前記スカート12へ伝熱され、シリンダへ放熱される。
【0019】
図3は本発明に係る熱膨張吸収装置の他の実施形態を示すものである。すなわちこの実施形態による熱膨張吸収装置4も、ピストン1のスリット15に沿って環状に連続して延びる金属板からなるものであって、平板状をなす内周側の定着部43と、この定着部43からテーパ状に屈曲して外周側へ延びる弾性を有する密封部44とからなる。スリット15の内周側におけるヘッド11の上面外周部には、前記定着部43の肉厚に相当する深さの装着面11bが段付き形成されており、前記定着部43の内径が、この装着面11bの内径段差部に適当な締め代をもって密接した状態に圧入定着されるか、あるいは溶接等の手段により一体的に接合されている。また、熱膨張吸収装置4の密封部44は、前記スリット15を燃焼室側から塞ぐと共に、その外周端44aがスカート12における燃焼室側の端面(上面)12aと相対的に径方向摺動可能な状態で弾性的に密接されている。
【0020】
この実施形態による熱膨張吸収装置4も、先の図2に示すものとほぼ同様の作用・効果を奏することができる。
【0021】
図4は、本発明に係る熱膨張吸収装置4を図1とは異なる形態のピストン1に装着した状態を示すものである。すなわちこのピストン1は、ヘッド11の外周のスリット15によって分離した前記ヘッド11とスカート12が、ボス13から外周側へ突設されたアーム16と、スカート12の内周面に突設されたアーム17をピン18で連結することによって互いに一体化された構造となっているものである。熱膨張吸収装置4は、上述のいずれの実施形態も採用可能である。
【0022】
なお、本発明は、図示の実施形態によって限定的に解釈されるものではない。例えば、図示の実施形態では、内周側の定着部がヘッド11の外周部に定着され、外周側へ延びる密封部がスカート12に摺動可能に密接されるように構成されているが、これとは逆に、定着部がスカート12に定着され、この定着部から内周側へ形成された密接部がヘッド11の上面に摺動可能に密接される構成としても、上述と同様の効果を奏することができる。
【0023】
【発明の効果】
本発明に係る内燃機関のピストン用熱膨張吸収装置は、燃焼ガスからの受熱によって高温となるピストンのヘッドの熱膨張を、その外周のスカートに対して遮断するために、円周方向に連続したスリットを形成したピストンにおいて、前記スリットを塞ぐように装着されるもので、燃焼ガスが前記スリットを通じて流出するのを防止するものである。そして、前記ヘッドとスカートの熱膨張差に追随して、スカートと摺動可能であるため、ヘッドの熱膨張による拡張力をスカート側に対して絶縁することができ、しかもスリットの内周のヘッド中央側から、外周のスカート側への放熱経路を確保するものである。したがって、ピストンのヘッドに円周方向に連続したスリットを形成することによって、ピストン外径とシリンダ内径のクリアランスを小さくし、このクリアランスに入り込んで燃焼されずに排出される未燃ガスを少なくして燃焼効率の向上を図るといった技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱膨張吸収装置を装着したピストンを示すもので、(A)はピストンピンの軸心と直交する平面で切断した断面図、(B)は(A)におけるB−B’断面図である。
【図2】上記一実施形態による熱膨張吸収装置の装着状態を拡大して示す要部断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態による熱膨張吸収装置の装着状態を拡大して示す要部断面図である。
【図4】本発明に係る熱膨張吸収装置を装着したピストンの他の例を、ピストンピンの軸心と直交する平面で切断して示す断面図である。
【図5】内燃機関の概略構成を示す説明図である。
【図6】内燃機関の運転時におけるピストンの温度分布の例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ピストン
11 ヘッド
12 スカート
15 スリット
4 熱膨張吸収装置
41,43 定着部
42,44 密封部
Claims (1)
- 内燃機関のシリンダ内の燃焼室に面したヘッド(11)とその外周側に配置されたスカート(12)との間に円周方向に連続したスリット(15)が形成されたピストン(1)に装着され、前記スリット(15)を塞ぐように前記スリット(15)に沿って延びる金属環からなる内燃機関のピストン用熱膨張吸収装置であって、
前記ヘッド(11)の外周部のみに全周が締め代をもって密接した状態に圧入定着される定着部(41,43)と、
前記定着部(41,43)の一端から外周側へ延びる密封部(42,44)とからなり、
前記密封部(42,44)は、その外周端(42a,44a)が前記スカート(12)の燃焼室側端面(12a)と弾性的に密接し、かつ、相対的に密接摺動することによって前記スリット(15)を燃焼室側から塞ぐことを特徴とする内燃機関のピストン用熱膨張吸収装置。
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JP33216798A JP4209980B2 (ja) | 1998-11-24 | 1998-11-24 | 内燃機関のピストン用熱膨張吸収装置 |
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Family Applications (1)
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JP33216798A Expired - Lifetime JP4209980B2 (ja) | 1998-11-24 | 1998-11-24 | 内燃機関のピストン用熱膨張吸収装置 |
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JP5045304B2 (ja) | 2007-08-16 | 2012-10-10 | 株式会社Ihi | ターボチャージャ |
-
1998
- 1998-11-24 JP JP33216798A patent/JP4209980B2/ja not_active Expired - Lifetime
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