JP4199361B2 - 粒子移動/固定装置取り付け用ホルダ - Google Patents

粒子移動/固定装置取り付け用ホルダ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、粒子移動/固定装置を顕微鏡ステージに取り付ける際に用いられるホルダに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、粒子状の微小な対象物を操作するマイクロマニピュレーション技術の一種として、マイクロインジェクションという技術が知られている。
【0003】
マイクロインジェクションとは、例えばガラス管を加工してなるマイクロピペットと呼ばれる注射針を用い、細胞内にDNA、RNA、オルガネラ、各種蛋白質、各種薬液等を注入する手法のことを指す。このような技術は、特定遺伝子などを細胞内に選択的に導入しうる有効な手法として近年特に注目を浴びている。かかる手法は、類似の手法であるレーザーインジェクション等に比べて導入効率が高くてしかも安価といった利点を有している。
【0004】
上記技術においては、媒質中に浮遊している細胞に対してマイクロピペットを突き刺した状態で細胞内に液体を注入するため、突き刺し時には細胞を何らかの手段により固定しておく必要がある。また、細胞における特定の部位に遺伝子等を導入したい場合には、ピペットを突き刺しやすい所定の方向に当該部位を向けた状態で細胞を固定する必要がある。そして、従来では、突き刺し用のマイクロピペットと別のピペットを用いてその先端に細胞を吸い付けることにより、細胞の固定を図っていた。
【0005】
しかし、細胞を吸い付けて固定するという従来方法は、面倒で時間がかかるため、生産性の向上を期待することが難しかった。そこで、これに代わるものとして、本発明者らは図6に示すような細胞移動/固定装置81を備えるユニットを想到した。同図において細胞移動/固定装置81は、媒質82を満たすための容器を兼ねる取り付け用ホルダ83内にて支持されている。装置81を構成する基材84の中央部には、細胞85を1つ1つ収容するための細胞チャンバ86が設けられている。粒子収容部である細胞チャンバ86は、基材84の両側面にて開口するテーパ状の貫通孔である。細胞チャンバ86の周囲には複数の電極87が隣接して配置されている。電極87は配線パターン88を介してパッド89に接続されていて、それらのパッド89にはリード線90が接合されている。また、同装置81はホルダ83とともに顕微鏡の観察ステージ91上に固定される。ステージ91の下方には対物レンズ92が配置されていて、ステージ91の上方にはマイクロピペット93が配置されている。
【0006】
従って、各リード線90を介して各電極87へ高周波電圧を印加すると、細胞チャンバ86内に電界が発生し、その電界が細胞85に対して好適な誘電泳動力をもたらす。よって、細胞85を細胞チャンバ86内にて移動させて位置修正した後、その細胞85を固定させることが可能である。ゆえに、オペレータは装置81の下方側から細胞85の観察を行ないながら、マイクロピペット93を操作してその先端を細胞85に突き刺すことができるようになっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、図6においては、ホルダ83の内底面における複数箇所に支持突起94を設けかつその上面に基材84の下面を接着することにより、装置81をホルダ83内にて保持していた。それゆえ、ホルダ83に装置81を一旦接着してしまうと、装置81を取り外して交換することができなくなるという欠点があった。
【0008】
また、ホルダ83の構造いかんによっては、接着が不完全であるとホルダ83の外部に媒質82が漏れることとなり、容器としての機能が損なわれるおそれがあった。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、粒子移動/固定装置の交換が可能な構造の粒子移動/固定装置取り付け用ホルダを提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、媒質を漏らすことなくその内部に確実に満たしておくことができる粒子移動/固定装置取り付け用ホルダを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、基材に形成された電極への電圧印加時に発生する電界のもたらす誘電泳動力により、媒質中の粒子を移動または固定させる粒子移動/固定装置を、顕微鏡ステージに取り付ける際に用いられるとともに、前記媒質を満たしておくための容器を兼ねるホルダであって、前記ホルダは前記基材を両面側から挟み込むことで同基材を着脱可能に保持する基材挟持部を備えることを特徴とする粒子移動/固定装置取り付け用ホルダをその要旨とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記ホルダは、内周縁に基材挟持部を有するとともに前記顕微鏡ステージ上に固定される環状の下治具と、内周縁に基材挟持部を有するとともに前記下治具の上端面側に嵌合する環状の上治具とからなり、前記基材挟持部において前記基材と接触する部位には、弾性体からなる無端状のシール部材が装着されているとした。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記上治具は下治具に対して締結手段を用いて固定されているとした。
請求項4に記載の発明は、請求項2または3において、前記一対の治具のうちの少なくともいずれかには、前記粒子移動/固定装置を位置決めした状態で固定するための嵌合凹部が形成されているとした。
【0014】
以下、本発明の「作用」について説明する。
請求項1に記載の発明によると、粒子移動/固定装置取り付け用ホルダの基材挟持部が基材を両面側から挟み込むことにより、基材がホルダに対して保持される。挟み込みを解除すれば、保持されていた基材がホルダから容易に離脱する。即ちこのホルダを用いれば、ホルダに対する装置の着脱が可能となり、もって装置の交換が可能になる。また、この構造を採用することにより接着部分がなくなるため、接着の不完全さに起因する問題、つまり接着部分からの媒質の漏れが解消される。
【0015】
請求項2に記載の発明によると、基材が基材挟持部間に挟み込まれる際、弾性体からなる無端状のシール部材が基材に対して接触する。その結果、基材と基材挟持部との隙間がシールされ、当該接触部位を介した媒質の流通が絶たれる。よって、媒質を漏らすことなくホルダの内部に確実に満たしておくことができ、容器としての機能が確保される。
【0016】
請求項3に記載の発明によると、上治具を下治具に対して固定する際に締結手段の締め付け力が作用することにより、基材挟持部にあるシール部材が所定方向へ圧縮される。その結果、シール部材が弾性変形した状態で基材に密着し、これにより基材と基材挟持部との接触部位が確実にシールされる。
【0017】
請求項4に記載の発明によると、基材が嵌合凹部に嵌合することにより、装置が治具に位置決めされた状態で固定される。また、このような固定構造であれば、特にボルト等の締結手段や接着剤を用いる必要もないので、装置を簡単にかつ位置ずれ不能に固定することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の粒子移動/固定装置取り付け用ホルダを具体化した一実施形態のセルマニピュレーションシステム1を図1〜図4に基づき詳細に説明する。
【0019】
このセルマニピュレーションシステム1は、細胞移動/固定装置2、取り付け用ホルダ3、下部観察手段としての対物レンズ4、顕微鏡ステージ5、マイクロピペット6、マニピュレータ(図示略)、光源(図示略)等を含んで構成されている。また、細胞移動/固定装置2及び取り付け用ホルダ3によって、1つの細胞移動/固定ユニットUN1が構成されている。
【0020】
図1に示されるように、顕微鏡ステージ5の中央部には透孔11が設けられている。この透孔11の下方には対物レンズ4が上向き状態で配設されている。対物レンズ4は、図示しない操作手段を操作することにより垂直方向に移動することができる。光源は透孔11の上方に離間して配置されている。マイクロピペット6は、顕微鏡ステージ5の上側に配置されている。マイクロピペット6は、加熱溶融したガラス管を細く引き延ばすことによって製造される。マイクロピペット6の先端部は、直径数十μm〜数百μm程度の植物細胞12を突き刺すことができるように尖った形状に形成されている。なお、マイクロピペット6はマニピュレータを操作することにより三次元的に駆動される。マニピュレータの駆動方式としては、例えば油圧式、エア式、機械式などがある。マイクロピペット6の基端部は、図示しないシリンジ等の加圧器に接続されている。加圧器からは例えばDNAを含む溶液等が圧送されてくる。
【0021】
図1に示されるように、取り付け用ホルダ3は、観察ステージ5の上面中央部に対して取り付けられている。ホルダ3の取り付け時には、透孔11の上部開口は塞がれた状態となる。ホルダ3は、装置2を顕微鏡ステージ5に取り付けるためのものであって、媒質である培養液13を満たすための容器をも兼ねている。
【0022】
図2(a)に示されるように、細胞移動/固定装置2を構成する基材15は、円盤状をなしている。本実施形態では、透過性材料の一種であるガラス(具体的にはほう珪酸ガラス)製の基材15が用いられている。ほう珪酸ガラス製基材15の厚さは0.2mm〜1mm程度に設定されている。この基材15の中央部には、粒子状対象物である植物細胞12を1つ1つ収容するための細胞チャンバ42が形成されている。粒子収容部である細胞チャンバ42は、基材15に複数個設けられていてもよい。この細胞チャンバ42は、基材15の上側面のみにて開口する非貫通の凹部である。この凹部は等方性エッチングにより断面円形状に形成されている。エッチング凹部の内側面下部は、基材15の厚さ方向に対して0°〜90°の角度をなすアール面となっている。また、エッチング凹部の底面は、基材15の面方向に対して略平行になっている。この細部チャンバ42はいわば略椀状をなしている。また、エッチング凹部からなる細胞チャンバ42の深さは50μm〜150μm程度に設定され、その直径は150μm〜300μm程度に設定されている。
【0023】
図1,図2,図4(b)に示されるように、基材15において細胞チャンバ42の付近には、複数個の電極17が隣接して配置されている。本実施形態では、基材15の上面側及び下面側にそれぞれ4個ずつ電極17が形成されている。各電極17の位置関係を説明する便宜上、図4(b)では基材15の上面側における4つの電極17にU1,U2,U3,U4が付されている。同図では、基材15の下面側における4つの電極17に、D1,D2,D3,D4が付されている。これによると、電極U1−D1、U2−D2、U3−D3、U4−D4がそれぞれ対応する位置関係にあることがわかる。
【0024】
基材15の両面外周部にはパッド19が形成されている。各電極17は、これらのパッド19に対し配線パターン18を介して電気的に接続されている。パッド19以外の導体部分は、ポリイミド等のような絶縁性材料からなる絶縁層21によって保護されている。
【0025】
図1に示されるように、取り付け用ホルダ3は、基材15を両面側から挟み込むことで基材15を着脱可能に保持する一対の治具43,44を主要な構成要素としている。下治具43及び上治具44はともに環状をなしている。下治具43は顕微鏡ステージ5上に水平に固定された状態で使用される。顕微鏡ステージ5上かつ透孔11の周囲には、下治具43を位置決めした状態で固定するための嵌合凹部5aが形成されている。下治具43はこの嵌合凹部5aに嵌脱可能な寸法となるように形成されている。上治具44は下治具43の上端面側に対して嵌合された状態で使用される。下治具43の内周縁上側には、その全周にわたって基材挟持部45が設けられている。上治具44の内周縁下側には、その全周にわたって基材挟持部46が設けられている。基材挟持部45,46同士はちょうど対向する位置関係にある。基板挟持部45,46の外周側には、それぞれ環状溝47,48が形成されている。
【0026】
基材挟持部45において基材15と接触する部位(ここでは下端縁)には、全周にわたって環状凹部49が形成されている。その環状凹部49内には、シール部材としてのOリング50が装着されている。Oリング50は無端状かつ断面楕円形状であって、ゴム等の弾性体からなる。図2(a)にて二点鎖線で示されるように、Oリング50は、基材15において配線パターン18の形成領域(言い換えると各電極17と各パッド19との間の領域)に当接する位置関係にある。
【0027】
上治具44の外周部における複数箇所には、ねじ挿通孔51が透設されている。下治具43の外周部において前記各ねじ挿通孔51に対応する箇所には、めすねじ穴52が設けられている。締結手段であるねじ53は、各ねじ挿通孔51に挿通された状態で各めすねじ穴52に螺着される。従って、上治具44を下治具43に嵌合した状態で各ねじ53を締め付けることにより、両治具43,44の固定が図られる。下治具43の上面側には、基材15の外形寸法にほぼ等しい内径を有する嵌合凹部54が形成されている。従って、粒子移動/固定装置2は嵌合凹部54に嵌合することが可能である。粒子移動/固定装置2の嵌合時において、同装置2は基材挟持部45上に水平に支持されるとともに、位置決めされた状態で下治具43に固定される。
【0028】
図1に示されるように、一対の治具43,44はコンタクト61,62を複数本ずつ備えている。コンタクト61,62は、導電性を有するばね材料を用いて形成されている。下治具43の有するコンタクト61は略直線状であり、内端側に略C字状の屈曲部61aを持つ。上治具44の有するコンタクト62は2箇所を直角に屈曲させた形状であり、内端側に略C字状の屈曲部62aを持つ。各屈曲部61a,62aにおける凸面はパッド19側を向いている。コンタクト61,62は、両治具43,44による挟み込み動作に伴い、各パッド19に対して圧接される。コンタクト61,62の屈曲部61a,62aは、ホルダ3に装置2を保持させて培養液13を満たした場合、培養液13の満たされている領域A1からOリング50を介して隔離される領域A2に配設されている。具体的にいうと、領域A1とはOリング50よりも内周側となる領域をいい、領域A2とはOリング50よりも外周側となる領域をいう。なお、本実施形態のホルダ3を構成する治具43,44は、絶縁性の樹脂成形材料内にコンタクト61,62をインサートしてなるインサート成形品である。
【0029】
各コンタクト61,62の外端は治具43,44の外周面から突出していて、そこにはリード線20の先端に設けられためす型ソケット63が着脱可能になっている。そして、ソケット63の装着時には、各リード線20を介して各コンタクト61,62に数10kHz〜数MHzの高周波交流電圧を印加できるようになっている。
【0030】
図4(a)は、8つの電極17(U1〜U4,D1〜D4)に対する通電の仕方を説明するための表である。植物細胞12を右回転させたい場合には、U1→U2→U3→U4というように、特定の1つの電極17のみに対してプラス電圧を印加することを、右回りで順に行なえばよい。これをU4→U3→U2→U1というように反対回りで順に行なえば、植物細胞12を左回転させることができる。植物細胞12を上昇させたい場合には、U1及びU2にプラスの電圧を印加し、U3及びU4にマイナスの電圧を印加すればよい。植物細胞12を下降させたい場合には、U1〜U4にプラスの電圧を印加すればよい。また、植物細胞12を動かさずに固定したい場合には、U1〜U4,D1〜D4に印加する電圧値を固定すればよい。
【0031】
以上のような動作制御が可能なのは、コンタクト61,62を介して電極17へ高周波電圧を印加すると、細胞チャンバ42内に電界が発生し、その電界が植物細胞12に対して好適な誘電泳動力をもたらすからである。この場合、粒子状対象物である植物細胞12の誘電率は、一般的に媒質である培養液13の誘電率と異なるため、電界が働くことで植物細胞12が静電分極を起こす。上記のごとく細胞チャンバ42の内側面は基材15の厚さ方向に対して所定の角度をなしているので、電圧を印加すると、電界の強さにアンバランスが生じる。その結果、細胞チャンバ42内にて好適な誘電泳動力が発生し、静電分極した植物細胞12が電界の強いほうへと引き寄せられる。
【0032】
次に、図3に基づいて細胞移動/固定装置2を製造する方法を述べる。
まず、ほう珪酸ガラスからなる基材15を準備するとともに、この基材15に対して従来公知の手法によりパターニングを行ない、電極17、配線パターン18及びパッド19等の導体部分をそれぞれ形成する(図3(a)参照)。パターニングの手法としては、一般的なめっき法のほか、焼成印刷法、スパッタリング、CVD等がある。導体部分の形成に用いられる導電性金属材料としては、例えば銅、スズ、ニッケル、鉛、鉄、クロム、チタン、金、白金等がある。ガラスに対する等方性エッチングを行なう場合、前記金属材料はエッチャントであるふっ酸に耐性のものであることが望ましい。このことに鑑み、本実施形態では、金及びクロムの2種からなる金/クロム層(即ちクロム層を下地とする金層)を採用している。
【0033】
パターニングを行なった後、基材15の両面のほぼ全域に感光性ポリイミド樹脂を均一に塗布しかつ乾燥させる。この状態でフォトマスクを配置して露光・現像を行ない、電極17及び配線パターン18を保護するための絶縁層21を形成する(図3(b)参照)。基材15の中央部や各パッド19は、絶縁層21で被覆されておらず、外部に露出している。
【0034】
絶縁層形成工程を行なった後、基材15上にエッチングマスク65を設ける(図3(c)参照)。このエッチングマスク65は、基材15の上面側中央部、即ち細胞チャンバ42が形成されるべき箇所に開口部66を備えている。開口部66の径は細胞チャンバ42の内径よりも小さく(数十μm程度に)設定される。なお、エッチングマスク65の形成材料としては、エッチャントであるふっ酸に耐えうるものであることが望ましい。
【0035】
そして、マスク配設状態でふっ酸を用いた等方性エッチングを行なうことにより、基材15の上面側に細胞チャンバ42となる非貫通のエッチング凹部を形成する(図3(d)参照)。その後、不要となったエッチングマスク65を除去すれば、所望の細胞移動/固定装置2が完成する(図3(e)参照)。
【0036】
続いて、細胞移動/固定ユニットUN1の組み付け手順を説明する。
まず、下治具43の嵌合凹部54に対して、細胞移動/固定装置2を嵌合させる。装置2はこのとき基材挟持部45上に水平に支持される。次に、各ねじ挿通孔51とめすねじ穴52とを位置合わせして、上治具44を下治具43の上端面側に嵌合する。この状態で各ねじ53を締め付けることにより、両治具43,44を固定する。その際、対向する位置関係にある基材挟持部45,46によって基材15が上下両面側から挟み込まれる結果、装置2がホルダ3に確実に保持される。
【0037】
この場合、ねじ53の締め付け力が作用することにより、Oリング50が自身の軸線方向へ圧縮される。その結果、Oリング50が弾性変形した状態で装置2の上面に密着する。この密着により、領域A1と領域A2との間に高いシール性が得られる。つまり、パッド19やコンタクト61,62の屈曲部61a,62a等のある領域A2に、領域A1の培養液13が浸入してこなくなる。
【0038】
また、ねじ53の締め付け力が作用することにより、対応するパッド19に対して各屈曲部61a,62aが圧接した状態となる。この圧接により、ホルダ3側の導電部分(即ちコンタクト61,62)と、装置2側の導電部分(パッド19、配線パターン18、電極17)とが導通する。ゆえに、各コンタクト61,62の外端にソケット63を装着して通電を行なえば、各電極17に対して高周波電圧を印加することが可能となる。
【0039】
次に、本システム1の具体的な使用方法の一例を述べておく。
顕微鏡ステージ5上にホルダ3をセットし、かつそのホルダ3の内底面に細胞移動/固定装置2を固定しておく。この状態でホルダ3内を滅菌した培養液13で満たしておく。その結果、基材15の上側面及び下側面がともに培養液13のある環境となり、細胞チャンバ42内が確実に培養液13で満たされた状態となる。よって、乾燥に弱い植物細胞12の死滅が未然に回避される。植物細胞12は、プロトプラストや花粉等のような単細胞であってもよいほか、胚珠などの特定器官やカルス等のような細胞群(即ち多細胞)であってもよい。
【0040】
オペレータは図示しない別のマイクロピペットにより細胞チャンバ42内に1つの植物細胞12を移し入れる。次いで、オペレータは顕微鏡観察を行ないながら電極17に高周波電圧を印加し、植物細胞12の位置修正を行なう。この場合、特定遺伝子を導入したい部位が例えば胚であれば、胚の部分をマイクロピペット6の先端部に向けるように調整する。
【0041】
次いでオペレータは、顕微鏡を観察しながらマイクロピペット6を駆動操作して、その先端部をターゲットである植物細胞12に向けてゆっくりと前進させる。マイクロピペット6の先端部が植物細胞12の胚に突き刺さったことを顕微鏡により確認した後、オペレータはシリンジの頭部を静かに押圧し、外部にDNAの入った液体を押し出すようにする。すると、マイクロピペット6を経由してその先端部から当該液体が吐出される。従って、植物細胞12の胚にDNAを注入することができる。上記のような導入処理が終了した後、オペレータはマイクロピペット6を後退させて、その先端部を植物細胞12から抜き去る必要がある。以上の結果、特定遺伝子を植物細胞12内に選択的にかつ効率よく導入することができる。この後、遺伝子導入がなされた植物細胞12は、再び別のマイクロピペットによって細胞チャンバ42から静かに吸い出される。
【0042】
従って、本実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態のセルマニピュレーションシステム1によると、電極17に電圧を印加することにより、好適な誘電泳動力が植物細胞12に作用する。その結果、固定用マイクロピペット等の器具を植物細胞12に対して何ら接触させることなく、その植物細胞12を細胞チャンバ42内にて移動または固定させることができる。よって、粒子状対象物を吸い付けて固定するという従来方法とは異なり、柔らかい植物細胞12にダメージを与えることなく各種の操作を行なうことができる。また、このシステム1によれば、面倒な固定用マイクロピペットの操作を伴わないため、生産性の向上も期待できる。
【0043】
(2)本実施形態のホルダ3は、上記の基材挟持部45,46を備えることを特徴としている。従って、基材挟持部45,46が基材15を上下両面側から挟み込むことにより、基材15がホルダ3に対して保持される。一方、挟み込みを解除すれば、保持されていた基材15がホルダ3から容易に離脱する。即ちこのホルダ3を用いれば、ホルダ3に対する装置2の着脱が可能となり、接着構造では達成しえなかった装置2の交換が可能になる。また、この構造を採用することにより、ホルダ3と装置2との間の接着部分をなくすことができる。そのため、接着の不完全さに起因する問題、つまり接着部分からの培養液13の漏れも解消することができる。
【0044】
(3)本実施形態のホルダ3は、環状の下治具43と環状の上治具44とからなる。また、上治具44の基材挟持部46の下端縁には、Oリング50が装着されている。従って、基材15が基材挟持部45,46間に挟み込まれる際、Oリング50が基材15に対して接触する結果、基材15と基材挟持部46との隙間がシールされる。その結果、接触部位を介した培養液13の流通が絶たれ、パッド19やコンタクト61,62の屈曲部61a,62a等のある領域A2に、領域A1の培養液13が浸入してこなくなる。つまり、培養液13を漏らすことなくホルダ3の内部に確実に満たしておくことができ、容器としての機能を確保することができる。また、Oリング50の圧接により、両治具43,44のセッティング時における応力も緩和されるため、装置2の傾き等を防止することができる。
【0045】
(4)本実施形態のホルダ3では、固定時にねじ53の締め付け力が作用することにより、Oリング50が自身の軸線方向へ圧縮される。その結果、Oリング50が弾性変形した状態で装置2の上面に密着し、これにより領域A1と領域A2との間が確実にシールされる。つまり、この構成は培養液13の漏洩防止をより確実なものとするのに貢献する。
【0046】
(5)本実施形態のホルダ3では、基材15が嵌合凹部54に嵌合することにより、装置2が下治具43に位置決めされた状態で固定することができる。このような固定構造であれば、特にボルト等の締結手段や接着剤を用いる必要もないので、装置2を簡単にかつ位置ずれ不能に固定することができる。勿論、接着剤を使用していないため、ユニットUN1を分解することもできる。即ち、装置2の交換にも支障を来さない。
【0047】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
・ シール部材であるOリング50は、基材15の上面側に圧接可能に設けられることのみに限定されない。図5には、別例のセルマイクロマニピュレーションシステム71が示されている。このシステム71に使用される装置2では、細胞チャンバ73がテーパ状の貫通孔となっている。従って、基材15の上下両面をともに培養液13で満たしておく必要がある。ホルダ3Aは下治具72と上治具44とにより構成されている。下治具72における中央部は、少なくとも光透過性を有している必要がある。そして、下治具72の基材挟持部45の上端縁には環状凹部49が設けられ、そこにはOリング50が装着されている。上記構成のホルダ3Aを用いれば、基材15の上面側における培養液13の漏洩のみならず、下面側における培養液13の漏洩をも防止することができる。この別例のほか、シール部材であるOリング50を、基材15の下面側にのみ圧接するよう設けてもよい。
【0048】
・ Oリング50等のシール部材自体を省略することも可能である。この場合には、例えば治具43,44全体を弾性体を用いて形成する等の構造が考えられる。
【0049】
・ 上治具44の側に嵌合凹部54を形成した構成としてもよく、さらには治具43,44のいずれにも嵌合凹部54を設けない構成としてもよい。
・ 治具43,44の形成材料は、樹脂等のような絶縁材料のみに限定されない。コンタクト61,62との絶縁性が何らかの手段により担保されていれば、例えば、ステンレス鋼等のような導電性材料を用いて治具43,44を作製することも許容される。
【0050】
・ 治具43,44を固定する場合には、ねじ53以外の締結手段を用いてもよく、さらには締結手段に代わる別の手段(例えばフック等の係止手段)を用いてもよい。
【0051】
・ 実施形態にて示した植物用の培養液13を媒質として用いるのみならず、養分を殆ど含まない単なる蒸留水等を媒質として用いても構わない。勿論、媒質は粒子の種類の変更に応じて、適宜変更することが可能である。また、本発明に適用される粒子は、植物、動物、微生物等のような生物のみに限定されることはなく、例えば非生物であってもよい。
【0052】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想をその効果とともに以下に列挙する。
(1) 請求項2乃至4のいずれか1つにおいて、前記両治具の有する基材挟持部は対向した位置関係にあること。従って、この技術的思想1に記載の発明によれば、シール部材が密着しやすくなり、より高いシール性が得られる。
【0053】
(2) 請求項2乃至4、技術的思想1のいずれか1つにおいて、前記両治具の基板挟持部は、前記電極が形成されている領域よりも外周側、かつ前記パッドが形成されている領域よりも内周側の領域にて前記基材を挟むこと。この技術的思想2に記載の発明によれば、パッド側領域を確実にシールすることができる。
【0054】
(3) 請求項2乃至4、技術的思想1,2のいずれか1つにおいて、前記両治具は離間した複数の箇所に締結手段を挿通可能な挿通部を備えること。従って、この技術的思想3に記載の発明によれば、均一な締め付け力が得られる結果、シール性が向上する。
【0055】
(4) ステージ及びレンズを有する顕微鏡ユニットと、粒子移動/固定装置及び請求項1乃至4、技術的思想1乃至3のいずれか1つに記載されたホルダを有する粒子移動/固定ユニットと、前記ユニットは前記装置を前記ステージに取り付ける際に用いられるとともに、前記媒質を満たしておくための容器を兼ねることと、細胞操作用のマイクロピペットとを備えたセルマニピュレーションシステム。
【0056】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜4に記載の発明によれば、粒子移動/固定装置の交換が可能な構造の粒子移動/固定装置取り付け用ホルダを提供することができる。また、媒質を漏らすことなくその内部に確実に満たしておくことができる。
【0057】
請求項2に記載の発明によれば、シール部材によって装置とホルダとの隙間がシールされるので、媒質の漏洩を確実に防止することができる。
請求項3に記載の発明によれば、基材と基材挟持部との接触部位が確実にシールされることにより、媒質の漏洩がいっそう確実に防止される。
【0058】
請求項4に記載の発明によれば、ホルダに対して装置を簡単にかつ位置ずれ不能に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を具体化した一実施形態のホルダを備える細胞移動/固定ユニットを利用したセルマニピュレーションシステムを示す概略断面図。
【図2】(a)は実施形態の細胞移動/固定装置の平面図、(b)は同装置の断面図。
【図3】(a)〜(e)は実施形態の細胞移動/固定装置を製造する手順を説明するための断面図。
【図4】(a)は各電極に対する通電の仕方を説明するための表、(b)は各電極の位置関係を説明するための概略図。
【図5】別例のホルダを備える細胞移動/固定ユニットを利用したセルマニピュレーションシステムを示す概略断面図。
【図6】本発明者が以前に案出した細胞移動/固定ユニットを利用したセルマニピュレーションシステムを示す概略断面図。
【符号の説明】
2…粒子移動/固定装置としての細胞移動/固定装置、3,3A…粒子移動/固定装置取り付け用ホルダ、5…顕微鏡ステージ、12…粒子としての植物細胞、13…媒質としての培養液、15…基材、17(U1,U2,U3,U4,D1,D2,D3,D4)…電極、43…下治具、44…上治具、45,46…基材挟持部、50…シール部材としてのOリング、53…締結手段としてのねじ、54…嵌合凹部。

Claims (4)

  1. 基材に形成された電極への電圧印加時に発生する電界のもたらす誘電泳動力により、媒質中の粒子を移動または固定させる粒子移動/固定装置を、顕微鏡ステージに取り付ける際に用いられるとともに、前記媒質を満たしておくための容器を兼ねるホルダであって、前記ホルダは前記基材を両面側から挟み込むことで同基材を着脱可能に保持する基材挟持部を備えることを特徴とする粒子移動/固定装置取り付け用ホルダ。
  2. 前記ホルダは、内周縁に基材挟持部を有するとともに前記顕微鏡ステージ上に固定される環状の下治具と、内周縁に基材挟持部を有するとともに前記下治具の上端面側に嵌合する環状の上治具とからなり、前記基材挟持部において前記基材と接触する部位には、弾性体からなる無端状のシール部材が装着されていることを特徴とする請求項1に記載の粒子移動/固定装置取り付け用ホルダ。
  3. 前記上治具は下治具に対して締結手段を用いて固定されていることを特徴とする請求項2に記載の粒子移動/固定装置取り付け用ホルダ。
  4. 前記一対の治具のうちの少なくともいずれかには、前記粒子移動/固定装置を位置決めした状態で固定するための嵌合凹部が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の粒子移動/固定装置取り付け用ホルダ。
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