JP4189659B2 - 薄膜の作製方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はパルスレーザ蒸着法による薄膜の作製方法に関するものである。特に、パルスレーザ光がターゲット上を満遍なく照射して均質な薄膜を形成できる薄膜の作製方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
パルスレーザ蒸着法は、酸化物超電導薄膜の作製などでよく用いられる薄膜作製法である。この方法では、パルスレーザ光を繰返しターゲット表面上に照射することによりターゲットの構成原子を飛散させ、この飛散した構成原子を基板上に堆積して薄膜を形成する(非特許文献1)。その際、ターゲット上の1点を繰り返しパルスレーザ光で照射し続けると、ターゲットのその部分だけが高温となって状態が変化したり、甚だしい場合は融解する。また、ターゲットの一部分だけが掘られ、時間経過とともに構成原子の飛散状態が変化して薄膜の均一性が低下する。
【0003】
この対策として、図2に示すように、円板状のターゲット10を回転させ、パルスレーザ光20の照射点を回転中心からずらして照射を行なうことが行なわれている。また、図3に示すように、ターゲット10をX方向に移動させた後、Y方向に移動させ、さらにX方向に折り返し移動させることを繰り返してパルスレーザ光20の照射点を蛇行状に移動させることも行なわれている。
【非特許文献1】
「ISD法による高温超電導薄膜線材の開発」藤野剛三他、1999年9月「SEIテクニカルレビュー第155号131〜135頁」
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の対策を講じても、構成原子の飛散状態を保持し続けることは難しい。つまり、上述したターゲットの回転や移動を行っても、薄膜の作製時間が長くなったり、繰り返して薄膜を作製するうちに、ターゲットの中でレーザ光に照射される部分が掘れて溝30になる。通常、パルスレーザ光には強度分布があるので、図4に示すように、溝30の断面形状は平坦ではない。そのため、レーザ光の照射箇所に不規則な傾斜が付くと、その部分からの構成原子の飛散方向が変わったりして、作製される薄膜の均一性、再現性など品質に悪影響を与える。これを防ぐには、ある程度使用したターゲットは交換するか、ターゲット表面を平坦に削って再使用するなどの対策が必要であり、ターゲット材料の無駄が生じる。
【0005】
また、X-Y方向に順次ターゲットを移動させる方法では、通常、X(又はY)方向の移動からY(又はX)方向の移動に移るときに一瞬ターゲットの移動が停止する死点が存在する。その場合、死点箇所で構成原子の飛散状態が変化してしまい、やはり薄膜の品質に悪影響を及ぼす。
【0006】
従って、本発明の主目的は、パルスレーザ蒸着法において、極力ターゲットの広範な面にパルスレーザ光を照射し、均質な薄膜を形成できる薄膜の作製方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、レーザ光の照射点とターゲットとの相対的移動を行うのに際し、運動周期と運動方向が異なる2つの往復運動を組み合わせることで上記の目的を達成する。
【0008】
本発明薄膜の作製方法は、パルスレーザ光をターゲット表面上に照射することによりターゲットの構成原子を飛散させ、飛散した構成原子を基板上に堆積させて薄膜を形成する方法である。構成原子の飛散は、パルスレーザ光の照射点とターゲットとを相対的に移動させながら行う。その際、この相対的な移動は、第1往復運動と、第1往復運動とは異なる方向に動作されかつ異なる周期で動作される第2往復運動とを組み合わせて行うことを特徴とする。
【0009】
周期と方向が異なる2つの往復運動を組み合わせることで、ターゲットの広範な面にレーザ光を照射することができ、ターゲットの特定部分のみが溝状に掘られて平坦性が損なわれることを回避できる。そのため、ターゲットのほぼ全面が使用可能であり、かつターゲットをより深くまで使用可能となって、ターゲットを無駄なく利用することができる。
【0010】
さらに、周期の異なる2つの往復運動を組み合わせることで両往復運動の折り返し時刻にずれを生じさせ、ターゲット上でレーザ照射点が停止する死点の発生を回避する。それにより、ターゲット構成原子の飛散状態の変化を極力抑えることができ、均一性の高い薄膜を形成することができる。
【0011】
パルスレーザ光の照射点とターゲットとの相対的な移動は、▲1▼ターゲットが第1往復運動と第2往復運動の双方を行なう場合、▲2▼パルスレーザ光の発光源が第1往復運動と第2往復運動の双方を行なう場合、▲3▼ターゲットが第1往復運動と第2往復運動の一方を行ない、パルスレーザ光の発光源が第1往復運動と第2往復運動の他方を行う場合が挙げられる。通常、安全面などを考慮すると、ターゲット側を往復運動させることが好適である。レーザ光を移動させると、原料が飛散する位置も変わるため、基板を連動させる必要がある。
【0012】
第1往復運動と第2往復運動の運動方向は異なる方向であれば特に限定されないが、互いに直交する方向であることが好ましい。両往復運動の運動方向が直交方向であれば、装置の作製上およびターゲット(レーザ発光源)の移動プログラムを決定する上から望ましい。
【0013】
第1・第2往復運動の周期は異なるものとする。両往復運動の周期が一致すると、ターゲット上のレーザ光照射軌跡は斜めの1直線となり、満遍なくターゲット表面をレーザ光で照射する効果が得られない。両往復運動の往復周期を異なるものにすることで、ターゲット上のレーザ軌跡は複数の直線で構成されるようになり、ターゲット上の広範な面にレーザ光を照射することができる。さらに、両方向の周期の最小公倍数が大きくなればなるほど、レーザはターゲット上を満遍なく照射するようになる。
【0014】
これら第1・第2往復運動の周期は、例えば薄膜を作製するのにかかる時間から決定すればよい。例えば、ターゲットの大きさとレーザ光の照射点の大きさから1回の成膜でほぼターゲットの全体にレーザ光の軌跡が形成されるようにターゲット(レーザ発光源)の移動速度、つまり周期を決定すれば良い。
【0015】
また、これら各往復運動の速度(周期)は、薄膜の作製過程において、一定であっても良いし、可変であっても良い。1枚又は複数枚の薄膜の作製を、何度かの蒸着に分けて行う場合には、レーザ光照射の停止時に各往復運動の周期を変更してもよいし、照射点の出発位置を変更してもよい。また、薄膜形成の途中で、レーザ光照射を継続したまま各往復運動の周期を変更してもよい。
【0016】
この往復周期の変更は、乱数を利用してランダムに行なうことも可能である。その際、パルスレーザ光の照射点とターゲットとの相対的な移動線速度、つまりレーザ軌跡の線速度が大きく変わると、作製する薄膜の品質に影響を与える可能性があるため、線速度の変化を抑えるように連続的な周期変更あるいは大幅でない周期変更とすることが好ましい。
【0017】
特に、パルスレーザ光の照射点とターゲットとの相対的な移動線速度を一定とすることが好ましい。つまり、一方の往復運動における折り返し点の前後において速度が低下または増加するのに伴って、他方の往復運動の速度を増加または減少することで、レーザ軌跡の線速度が一定になるように各往復運動の速度を調整する。これにより、ターゲット構成原子の飛散状態の変化を抑制し、均一な成膜を可能にする。
【0018】
例えば、X方向の折り返し点前後を例に説明すると、X方向の移動速度VXを定常速度VXCから徐々に減速して一旦停止とする。その間、Y方向の移動速度VYは、定常速度VYCから徐々に速くして、VX=0となった時点で、VY=(VXC 2+VYC 2)1 / 2とする。その後、X方向の移動速度VXは反対方向に徐々に加速し、Y方向の移動速度VYは徐々に減速してVXCとVYCに戻して定常速度で移動を継続する。これにより、ターゲット上におけるレーザ軌跡の線速度の変化に起因する飛散状態の変化を抑制することができる。
【0019】
本発明方法で形成される薄膜の材料は、一般にパルスレーザ蒸着法で利用されている材料であれば特に限定されない。例えば、酸化物超電導体の薄膜形成に利用することが好適である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
<実施例1>
本発明方法を用いて超電導薄膜の作製を行った。ターゲットにHoBa2Cu3OX組成の焼結体を用いて、これを薄膜作製のための気密容器(成膜室)に設置し、成膜室内を20Paの酸素圧雰囲気とした。このターゲットにLaAlO3単結晶基板を対向させて設置し、その基板をヒータで加熱した。
【0021】
次に、ターゲットのX方向の移動とY方向の移動を開始した。X方向とY方向は同一平面状において互いに直交する方向である。X方向の移動速度は10mm/秒、Y方向の移動速度は13.55mm/秒とし、同時に移動を開始した。移動距離は、両方向とも50mmの間を往復させた。
【0022】
続いて、成膜室外から成膜室に配置された窓を通して、エキシマレーザ光のターゲット上への照射を開始した。このレーザ光照射により、ターゲットの構成原子が飛散粒子として飛散される。レーザ光の繰り返し周波数は10Hz、エネルギーは600mJに設定した。その状態で12分間、基板上に薄膜を堆積させた後、レーザの照射を停止した。この間、ターゲットからの飛散粒子の状態を観察した。飛散粒子はプラズマ状となり発光する。X方向又はY方向の折り返し時に、時折、発光が揺らぐのが見られた。
【0023】
次に、薄膜の堆積された基板を冷却して取り出し、飛散粒子の状態観察とターゲットの掘れ方の調査のため、成膜室内を再び前述の雰囲気に戻して、前述の条件でレーザ照射を開始した。ただし、レーザの繰り返し周波数は100Hzとした。この間、ターゲットの移動は止めていない。2時間レーザを照射した後、レーザ照射を停止し、ターゲットの移動も停止した。レーザ照射の開始時と終了時に飛散粒子の状態を観察したが、明確な違いは見られなかった。ターゲットを取り出して観察したところ、約53mm×53mmの領域が、平坦に掘れていた。
【0024】
なお、薄膜の堆積された基板について、薄膜の超電導臨界電流密度を液体窒素中で測定したところ、3.1×106A/cm2であった。
【0025】
<比較例1−1>
比較のため、ターゲットに対するレーザ光の照射点を蛇行させて超電導薄膜の作製を行った。ターゲットにHoBa2Cu30X組成の焼結体を用いて、これを薄膜作製のための気密容器(成膜室)に設置し、成膜室内を20Paの酸素圧雰囲気とした。このターゲットにLaAlO3単結晶基板を対向させて設置し、この基板をヒータで加熱した。
【0026】
次に、ターゲットのX方向の移動とY方向の移動を開始した。X方向、Y方向共移動速度は16.8mm/秒とし、まずX方向に50mm、次にY方向に12mm、-X方向に50mm、Y方向に12mm、X方向に50mm、次にY方向に12mm、-X方向に50mm、Y方向に12mmと移動させ、その後、同じ軌跡を逆方向に最初の位置まで移動して折り返す動作を繰り返した。
【0027】
次に、成膜室外から成膜室に配置された窓を通して、エキシマレーザ光のターゲット上への照射を開始した。レーザ光の繰り返し周波数は10Hz、エネルギーは600mJに設定した。その状態で12分間、基板上に薄膜を堆積させた後、レーザの照射を停止した。この間、ターゲットからの飛散粒子の状態を観察したが、X方向の折り返し時に、毎回発光が揺らぐのが明確に観察された。
【0028】
次に、薄膜の堆積された基板を冷却して取り出し、飛散粒子の状態観察とターゲットの掘れ方の調査のため、成膜室内を再び前述の雰囲気に戻し、前述の条件でレーザ照射を開始した。ただし、レーザの繰り返し周波数は100Hzとした。この間、ターゲットの移動は止めていない。2時間レーザを照射した後、レーザ照射を停止し、ターゲットの移動も停止した。レーザ照射の開始時と終了時に飛散粒子の状態を観察したが、明確な違いは見られなかった。ターゲットを取り出して観察したところ、蛇行状に溝が形成されていた。
【0029】
なお、薄膜の堆積された基板について、薄膜の超電導臨界電流密度を液体窒素中で測定したところ、2.7×106A/cm2であった。
【0030】
<比較例1−2>
比較のため、ターゲットを回転させながらレーザ光を照射して超電導薄膜の作製を行った。ターゲットにHoBa2Cu30X組成の焼結体を用いて、これを薄膜作製のための気密容器(成膜室)に設置し、成膜室内を20Paの酸素圧雰囲気とした。このターゲットにLaAlO3単結晶基板を対向させて設置し、この基板をヒータで加熱した。そして、ターゲット8rpmで回転させた。
【0031】
次に、成膜室外から成膜室に配置された窓を通して、エキシマレーザ光のターゲット上への照射を開始した。レーザ光の繰り返し周波数は10Hz、エネルギーは600mJに設定した。レーザ光はターゲットの回転中心より20mm離れた位置に照射した。その状態で12分間、基板上に薄膜を堆積させた後、レーザ光の照射を停止した。この間、ターゲットからの飛散粒子の状態を観察した。飛散粒子はプラズマ状となり発光する。レーザを照射している間、発光の揺らぎは見られなかった。
【0032】
次に、薄膜の堆積された基板を冷却して取り出し、飛散粒子の状態観察とターゲットの掘れ方の調査のため、成膜室内を再び前述の雰囲気に戻し、前述の条件でレーザ照射を開始した。ただし、レーザの繰り返し周波数は100Hzとした。この間、ターゲットの移動は止めていない。2時間レーザを照射した後、レーザ照射を停止し、ターゲットの移動も停止した。レーザ照射の開始時と終了時に飛散粒子の状態を観察したが、明らかに終了時には開始時に比べて飛散粒子の発光が小さくなっているのが観察された。ターゲットを取り出して観察したところ、環状に溝が形成されていた。
【0033】
なお、薄膜の堆積された基板について、薄膜の超電導臨界電流密度を液体窒素中で測定したところ、1.1×106A/cm2であった。
【0034】
<実施例2>
本発明方法において、X方向への往復運動の速度とY方向への往復運動の速度をレーザ照射過程で変更し、その際にターゲットの消耗状況と飛散粒子の状況変化を調査した。ターゲットにHoBa2Cu30X組成の焼結体を用いて、これを薄膜作製のための気密容器(成膜室)に設置し、成膜室内を20Paの酸素圧雰囲気とした。このターゲットにエキシマレーザ光を照射する。ターゲットのX方向及びY方向の移動速度の初期値は、乱数によって決定した。また、5分ごとに、乱数によってX方向の移動速度を変更し、Y方向の移動速度についてもレーザ軌跡の線速度が一定となるように変更した。実際には、予めX方向及びY方向の移動速度を乱数によって決定しておき、5分ごとにレーザの照射を中断し、各移動速度を変更した後、レーザ照射を再開した。レーザ光の繰り返し周波数は100Hz、エネルギーは600mJに設定した。合計で2時間レーザを照射した。レーザ照射の開始時と終了時に飛散粒子の状態を観察したが、明確な違いは見られなかった。また、ターゲットを取り出して観察したところ、約53mm×53mmの領域が平坦に掘れていた。
【0035】
<実施例3>
本発明方法における飛散粒子の状況変化を調査した。ターゲットにHoBa2Cu30X組成の焼結体を用いて、これを薄膜作製のための気密容器(成膜室)に設置し、成膜室内を20Paの酸素圧雰囲気とした。このターゲットにエキシマレーザ光を照射する。レーザ光の繰り返し周波数は100Hz、エネルギーは600mJに設定した。次に、ターゲットを図1の速度変化によってX方向およびY方向に移動させ、ターゲットからの飛散粒子の状態を観察した。ターゲットの移動開始時に発光が揺らぐのが観察されたが、その後X方向の移動が減速していき、移動方向が逆転する過程おいても発光は安定しており、その形状・大きさも一定であった。
【0036】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明薄膜の作製方法によれば、周期と方向が異なる2つの往復運動を組み合わせることで、ターゲットの広範な面にレーザ光を照射することができ、ターゲットの特定部分のみが溝状に掘られて平坦性が損なわれることを回避できる。そのため、ターゲットのほぼ全面が使用可能であり、かつターゲットをより深くまで使用可能となって、ターゲットを無駄なく利用することができる。
【0037】
また、周期の異なる2つの往復運動を組み合わせることで両往復運動の折り返し時刻にずれを生じさせ、ターゲット上でレーザ照射点が停止する死点の発生を回避する。それにより、ターゲット構成原子の飛散状態の変化を極力抑えることができ、均一性の高い薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法においてターゲットをX方向およびY方向に移動する際の速度変化を示すグラフである。
【図2】 (A)はターゲットを回転させる従来の薄膜作製方法の説明図、(B)は同方法でレーザ照射後のターゲットを示す平面図である。
【図3】 (A)はターゲットを蛇行させる従来の薄膜作製方法の説明図、(B)は同方法でレーザ照射後のターゲットを示す平面図である。
【図4】ターゲットに形成された溝の断面図である。
【符号の説明】
10 ターゲット
20 パルスレーザ光
30 溝
Claims (5)
- パルスレーザ光をターゲット表面上に照射することによりターゲットの構成原子を飛散させ、飛散した構成原子を基板上に堆積させて薄膜を形成する薄膜の作製方法において、
パルスレーザ光の照射点とターゲットとを相対的に移動させながら構成原子の飛散を行い、
前記移動は、第1往復運動と、第1往復運動とは異なる方向に動作されかつ異なる周期で動作される第2往復運動とを組み合わせて行うことを特徴とする薄膜の作製方法。 - 第1往復運動と第2往復運動の運動方向が互いに直交することを特徴とする請求項1に記載の薄膜の作製方法。
- パルスレーザ光の照射点とターゲットとの相対的な移動線速度を一定とすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の作製方法。
- 第1往復運動と第2往復運動の運動速度を各々ランダムに可変することを特徴とする請求項1に記載の薄膜の作製方法。
- 作製する薄膜が酸化物超電導体であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の作製方法。
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