JP4182151B2 - X線発生装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子蓄積リングもしくは直線型加速装置を用いてX線を発生する装置に関し、特に自由電子レーザの共振器によりX線を発生する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
波長可変の単色光に近い高輝度のX線はリトグラフや医療用途などに利用が期待され、高輝度のX線発生装置としてアンジュレータ光を発生する自由電子レーザ装置の開発が待たれている。
【0003】
アンジュレータ光の波長λRは磁場周期λ0に比例し、入射電子のエネルギーをγ、アンジュレータパラメータをK、アンジュレータ中心軸における磁場強度をB0とすると、
λR=λ0(1+K2/2)/(2γ2) (1)
K=93.4B0λ0 (2)
で表される。
【0004】
従ってアンジュレータ(ウィグラー)によりX線やγ線などの高エネルギ光子を得るためにはピッチの短い周期磁場が必要であるが、磁石の配列により小さなピッチの磁場を形成することは機械的な制約から限度があり、現状では10mm程度のピッチまでが限度である。
このため、X線領域やγ線領域の短波長レーザを得ることは容易でない。
【0005】
これに対して、マイクロ波を周期磁場として利用するマイクロ波アンジュレータでレーザ光とのコンプトン散乱を利用してより高いエネルギーを有する光ビームを発生させる方法がある。
コンプトン散乱による方法では、レーザビームの周期磁場強度がアンジュレータのものより弱いためスーパーキャビティを用いて極めて強いレーザ光を使用した方法が提案されている。
【0006】
図5は、スーパーキャビティを用いたX線発生試験装置の構成図である。
YAGレーザがアイソレータとモードマッチングレンズを介してスーパーキャビティに導入される。スーパーキャビティは反射率の高い反射鏡をスペーサを挟んで平衡に設置したフィネスの大きいファブリペロー干渉計で、レーザ光を1万回以上反射させてそのエネルギーを閉じ込めることができる。
【0007】
スーパーキャビティからの透過光はフォトダイオードとCCDカメラで観察される。一方炭酸ガスレーザ照射により電子を発生する電子銃で生成された電子ビームがソレノイドコイルで集束されてレーザ光と相互作用する。レーザ光と電子ビームの衝突角度は150度に設定されている。相互作用した後の電子ビームはダンパに廃棄される。コンプトン散乱により発生した光子は干渉フィルタを付けた映像増倍管により観察する。
【0008】
このようなX線発生装置で理論通り364nm波長の光子を得ている。
しかし、この方法ではレーザ光と電子ビームは角度をもって交差するので両者が相互作用できる交絡領域が小さく、X線発生効率が低い。
また、高出力レーザ発生装置と電子ビーム源は独立しており、電子ビームの集群(バンチ)とレーザ光のパルス幅が同じでないため効率が悪く、高輝度のX線を発生させることは難しかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、共振器内に閉じ込めた自由電子レーザと電子ビームを相互作用させてX線を得る装置において、レーザ光と電子ビームの同調が容易で相互作用長が十分長く効率の高いX線発生装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明のX線発生装置は、電子ビーム導入開口を備えた1対の反射鏡をアンジュレータの両端部に近接して設けて光共振器を形成し、アンジュレータの周期磁場中に電子ビームを導入し、発生する放射光を光共振器内に閉じ込め蓄積して自由電子レーザを得、光共振器内に後続の電子ビームを注入して自由電子レーザと相互作用させX線領域の光を発生させることを特徴とする。
【0011】
電子発生装置から電子ビームがアンジュレータの周期磁場中に導入されると放射光が発生し光共振器内で往復する。光共振器長を電子ビームのバンチ間隔の整数倍になるように調整すると、光共振器内を往復する放射光が順次注入される電子群と同期して相互作用をしてエネルギー蓄積し高出力の自由電子レーザが生成する。光共振器中のレーザ光は周期磁場を形成するので後続の電子ビームを導入すると、電子ビームのバンチが周期磁場の位置に同期して相互作用しコンプトン散乱により極めて短波長の電磁波、すなわちX線あるいはγ線が発生する。
【0012】
このとき初めに発生させる放射光は、容易に大出力を得ることができる赤外線波長域の光が適している。
たとえば、20cm間隔の永久磁石列からなるアンジュレータに120MeVの電子ビームを注入して波長10から20μmの赤外光FELを光共振器中に生成し、赤外光の周期磁場中に電子ビームを注入して上記(1)式に従がうX線を得ることができる。
共振器長は、導入される電子ビームのバンチが重なるようにするため、電子蓄積リングにおける電子バンチ間隔の整数倍にする必要がある。このため、共振器ミラーには位置と姿勢を調整する調整機構が設けられていることが好ましい。
【0013】
また、回折によるビームの広がりθは、λを自由電子レーザの波長、dを共振器の中心におけるレーザ光のビーム径とすると、
θ=λ/d(rad) (3)
程度になるので、赤外線領域の光は回折によるビームの広がり角が大きく、アンジュレータギャップの制約から共振器長を短くすることが好ましい。
なお、従来のアンジュレータでは電子ビームを導入するための偏向磁石を共振器ミラーとアンジュレータの間に設置する必要があり、短い共振器長を実現することが困難であったが、本発明のX線発生装置ではアンジュレータと偏向磁石の間に共振器ミラーを設置するので、共振器長の短い光共振器にすることが可能で、アンジュレータギャップが小さくても大出力の赤外線光を生成することができる。
【0014】
なお、アンジュレータ端部に正逆1対の磁石から成るバンプマグネットを設けると、自由電子レーザ光軸すなわちX線の取り出し軸が電子ビームの導入排出方向と偏倚するため、自由電子レーザエネルギーの蓄積が容易になりまたX線の取り扱いが容易になる。
バンプマグネットで電子ビーム導入排出方向とX線取り出し軸をずらすようにした装置では、電子ビームを導入する反射鏡開口をバンプマグネットにより電子ビームがバンプする方向に設けたスリットとして、共振器ミラーを挿入して光共振器を形成するときに電子軌道を乱さないようにすれば、レーザ光軸と電子ビーム入射軸の距離が大きくなくても使用できるようになる。このとき光学軸にはレーザ光のエネルギー分布の最強の部分が存在するため、共振器ミラーの光学中心までスリットが達しないようにすることが好ましい。
【0015】
また、反射ミラーが電子ビームの軸と重ならない位置まで退避できるようにしておくことにより、立ち上げ時にまず電子軌道を安定させてから光共振器を挿入することができ、初期調整が容易になる。
さらに、共振器ミラーの位置と姿勢を調整するミラー駆動機構を備えて、光共振器の形成を容易にすることが出来る。
なお、本発明のX線発生装置は、電子蓄積リングの直線部に設けることもでき、また直線型加速装置の下流に設けることもできる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について実施例に基づき図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明のX線発生装置の1実施例における要部を表す構成図、図2は本実施例の要部の平面図、図3は本実施例に用いる共振器ミラーの正面図、図4は本実施例のX線発生装置を電子蓄積リングに挿入した全体構成を示すブロック図である。
【0017】
【実施例1】
本発明のX線発生装置は、電子蓄積リングやリニアックなどから供給される電子ビームをアンジュレータ(ウィグラー)に導入して自由電子レーザを発生し、これと電子ビームを相互作用させてX線やγ線を発生する装置である。
図1および2により本発明第1実施例のX線発生装置の要部を説明する。
本実施例のX線発生装置は、アンジュレータ1とこれを挟んで対向する1対の共振器ミラー2からなる。共振器ミラー2の距離は電子発生装置から供給される電子ビームのバンチ間隔の整数倍になっている。
【0018】
従来の挿入光源では電子ビームをアンジュレータに導くための偏向磁石の外側に共振器ミラーが設けられていたが、本実施例のX線発生装置におけるアンジュレータ1と共振器ミラー2は近接していて間に偏向磁石が設置されていない。
このような配置が可能になったのは、図3に示すように共振器ミラー2の一部に開口3を設け、その開口3を通して電子ビームをアンジュレータに導入するようにしたからである。
アンジュレータで発生する放射光の強度は光軸を中とするガウス分布をしていて、光軸付近にエネルギーの大部分が集中しているので、共振器ミラー2の一部に細いスリット(開口)3が存在してもエネルギーの集積が可能で、大出力レーザ光を生成することができる。
【0019】
さらに、アンジュレータ1の両端にバンプマグネット4を設けて、電子ビームの入射軸とアンジュレータ内の電子ビーム軌跡の中心軸の間にたとえば5mmの偏倚を与えるようにし、スリット3がミラーの中心部に例えば3mm程度の反射面を残したときには、大出力レーザ光を容易に生成することができる。
バンプマグネット4は、方向が互いに逆向きで強さが同じ磁場を発生する正逆1対の磁石から構成され、入射する電子ビームを始めの磁場で所定量偏向させ続く逆向き磁場で逆向きに同じ量偏向させるので、結局入射する電子ビームを所定の距離だけ平行移動する機能を持っている。
【0020】
上記構成のX線発生装置では、アンジュレータ1に導入された電子ビームから発生される放射光が共振器ミラー2で反射し光共振器内を往復する間に、次々に入射してくる電子集群(バンチ)と相互作用して増強され、大出力自由電子レーザ光に成長する。共振器ミラー2の距離はバンチ間隔の整数倍になっているためミラー間を往復する光子群と入射する電子ビームは容易に同期を取ることができ、高いエネルギー変換効率が得られる。
【0021】
アンジュレータ1の磁石列における磁石周期や入射する電子ビームのエネルギーを適当に選ぶことにより自由電子レーザの波長を設定することができる。波長の長い赤外線であればより容易に大出力化することが可能であるため、本実施例のX線発生装置においては例えば波長13.5μmの赤外線レーザが選択される。
ただし、長波長光では回折広がりが大きくなるのでアンジュレータギャップに制約されないためには、共振器長をできるだけ短くすることが要請される。本実施例では共振器ミラー2をアンジュレータ1に近接して設けることで、大出力の赤外線レーザを生成するような共振器長を選ぶことができる。
【0022】
十分大きな出力まで成長した赤外線レーザにより、アンジュレータ1内には赤外線波長を周期とする周期磁場が発生する。
後続の電子ビームをアンジュレータ1に導入すると、電子ビームのバンチが光子群に同期し赤外線レーザが形成した周期磁場内で相互作用をしコンプトン散乱して短波長光線を発生する。
X線領域の電磁波は、共振器ミラー2を透過して装置の外部に放射されるので、X線リトグラフやX線撮影などに利用することができる。
【0023】
図4は、本実施例のX線発生装置を電子蓄積リングの直線部に挿入してX線を発生させるようにした設備全体の概念図である。図では収束磁石等、電子ビーム軌道を形成する上で副次的な役割しか果たさない部材を省略してある。
図4を参照すると、リニアックから供給される電子ビーム11は2個の偏向磁石12で方向を調整してセプタムマグネット13を介して電子蓄積リングに投入される。
【0024】
電子蓄積リングは、幾つかの偏向電磁石14,15により閉軌道16を形成し、周長は電子ビームのバンチ間隔の整数倍になっていて、注入されるバンチ同士が重なりながら周回する間にエネルギーを蓄積する。
電子蓄積リングの一部に2個の偏向電磁石15に挟まれた直線部が形成されていて、この直線部にアンジュレータ1と光共振器2からなる本実施例のX線発生装置が挿入されている。従来の設備では共振器ミラー2は偏向電磁石15の外側に設置されていたので共振器長が長かったが、本実施例のX線発生装置では偏向電磁石15とアンジュレータ1の間に設置することができるので共振器長が短くなった。
上記のX線発生設備を運転することにより、X線発生装置の端部からX線を放射させて各種目的に利用することができる。
【0025】
上記のX線発生設備を立ち上げるときには、初めに電子ビームが所定の位置に収まるように調整し、その後に共振器ミラー2を定位置に挿入して自由電子レーザを発生させる。
電子蓄積リングの運転開始から自由電子レーザを発生するために使用できるエネルギーを持った径0.5mm程度の十分細い電子ビームになるまで、通常10分程度の立ち上がり時間が必要である。この間は、共振器ミラー2を電子ビーム軌道から退避しておくことが好ましい。
【0026】
アンジュレータ1中に安定した電子ビームが常在するようになってから、アンジュレータ1の両端部分に共振器ミラー2を挿入する。強い自由電子レーザを発生させるためには、共振器長が電子ビームのバンチ周期の整数倍になるように調整しなければならない。また、アンジュレータ1中の電子ビーム軸と共振器ミラー2の光学軸の位置と方向ができるだけ近いことが好ましい。
【0027】
このため、共振器ミラー2には、ミラー相互間の距離を調整するz軸方向、アンジュレータの開口方向すなわち電子ビームのバンプする方向であるx軸方向、x軸とz軸に対して垂直なy軸方向の3次元方向に並進する機構と、共振器ミラーの面をx軸周りとy軸周りに回転させて調整する2軸回転機構を有するミラー駆動機構を備えている。
なお、x軸方向の並進機構は共振器ミラー2を電子ビーム軌道から完全に退避させる程度の長いストロークを持っている。
【0028】
従来技術ではコンプトン散乱を生じさせるための電子ビームとレーザ光はそれぞれ異なる発生源から供給されるため、両者の特性を合わせることには大きな困難があった。
しかし、本発明のX線発生装置では、電子ビームとレーザ光は同じ電子発生装置から供給される電子ビームに基づいて生成されるものであることから、容易に同期を取ることができ効率よく相互作用をさせることができる。
【0029】
すなわち、共振器2中に定在する光子群は電子蓄積リング中の電子ビーム16のバンチと同期しており、この光子群と相互作用させるべき電子群は電子蓄積リング中を周回する同じ電子ビームのバンチである。したがって、共振器2の調整さえ的確に行われていれば自動的に両者は同期することになる。
なお、本実施例のX線発生装置は電子蓄積リングに代えて直線型電子発生装置と共に使用することもできることは言うまでもない。
【0030】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明のX線発生装置は、X線やγ線などの短波長レーザ光を効率よく発生することができ、X線リトグラフやX線写真などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のX線発生装置の1実施例における要部を表す構成図である。
【図2】本実施例の要部の平面図である。
【図3】本実施例に用いる共振器ミラーの正面図である。
【図4】本実施例の全体構成を示すブロック図である。
【図5】従来のX線発生装置例を表すブロック図である。
【符号の説明】
1 アンジュレータ
2 共振器ミラー
3 スリット
4 バンプマグネット
11 電子ビーム
12 偏向磁石
13 セプタムマグネット
14,15 偏向電磁石
16 電子蓄積リング電子軌道

Claims (7)

  1. 電子ビームをアンジュレータに導入する開口を備えた1対の反射鏡をアンジュレータ端部に近接して設けて光共振器を形成し、該アンジュレータの周期磁場中に電子ビームを導入したときに発生する放射光を前記光共振器内に閉じ込め蓄積して自由電子レーザを得、前記光共振器内に後続の電子ビームを注入して前記自由電子レーザと相互作用させX線領域の光を発生させることを特徴とするX線発生装置。
  2. 前記アンジュレータの両端部に正逆1対の磁石から成るバンプマグネットを設けることを特徴とする請求項1記載のX線発生装置。
  3. 前記反射鏡の開口が前記バンプマグネットにより電子ビームがバンプする方向に設けられたスリットであることを特徴とする請求項2記載のX線発生装置。
  4. 前記反射鏡が前記電子ビームの軸と重ならない位置まで退避できることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のX線発生装置。
  5. 前記反射鏡の位置と姿勢を調整するミラー駆動機構をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のX線発生装置。
  6. 前記アンジュレータが電子蓄積リングの直線部に設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のX線発生装置。
  7. 前記アンジュレータが直線型加速装置の下流に設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のX線発生装置。
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