JP4178868B2 - 内燃機関の排気浄化装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、排気ガスの空燃比状態が理論空燃比に対応する状態よりもリーンな状態のときにNOxを吸蔵する一方、その吸蔵したNOxを空燃比状態のリッチ化に応じて放出し且つ還元浄化するNOx吸蔵タイプの触媒を備えた内燃機関の排気浄化装置に関し、特に、触媒に吸蔵されているNOxを強制的に放出させて還元浄化する、いわゆるNOxパージのための制御技術の分野に属する。
【0002】
尚、NOx吸蔵タイプの触媒については既に種々の構成のものが公知であり、それらはNOx吸収タイプ或いはNOx吸着タイプ等と呼ばれることもあるが、この明細書においてNOx吸蔵タイプの触媒というときには、前記いずれの呼称のものをも含むものとする。
【0003】
【従来の技術】
従来より、この種の排気浄化装置として、例えば特開平8−232644号公報に開示されるように、内燃機関の排気通路にNOx吸蔵タイプの触媒を配置し、この触媒のNOx吸蔵量が満杯の最大吸蔵量になったときに、排気の空燃比状態を強制的にリッチ化させて、触媒のNOx吸蔵材からNOxの放出を促し、これを還元浄化する(NOxパージ)ようにしたものが知られている。また、このものでは、触媒よりも下流の排気通路に空燃比センサを配設し、主にNOxパージを開始してから、前記空燃比センサにより空燃比状態のリッチ化が検出されれるまでの時間に基づいて、触媒の劣化度合いを判定するようにしている。
【0004】
すなわち、一般的に、NOxパージのためには排気ガスの空燃比状態を略理論空燃比に対応する状態乃至それよりもややリッチな状態(以下、単にリッチ状態ともいう)にするのだが、このとき、触媒からNOxが放出されて還元されることによって排気ガス中の酸素濃度が増大するので、NOxが放出されている間は触媒下流の排気ガスの空燃比状態は理論空燃比よりもややリーンな状態に維持され、NOxの放出が完了した後に始めて、リッチな状態に変化する。
【0005】
すなわち、NOxパージを開始してから、その後に触媒下流の空燃比センサにより空燃比状態のリッチ化が検出されれるまでの時間は、当該触媒のNOx吸蔵量が多いほど長くなるので、その時間に基づいて、触媒の劣化による最大吸蔵量の変化を検出することができるのである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一般に、NOx吸蔵タイプの触媒によるNOxの吸蔵能力は、この触媒のNOx吸蔵量に応じて変化する。すなわち、まず、NOx吸蔵量が零から所定の境界値に達するまでは触媒は非常に高い吸蔵率、換言すれば最高の吸蔵能力を示す一方で、その後はNOx吸蔵量の増大に応じて徐々に吸蔵能力が低下していき、触媒のNOx吸蔵量が満杯になるころには新たなNOxを殆ど吸蔵しない状態になる。
【0007】
このような触媒の特性を考慮すれば、前記従来例のように触媒のNOx吸蔵量が満杯になるまでNOxパージを行わないというのは、当該触媒のNOx吸蔵能力を十分に発揮させているとは言い難く、この点で改善の余地が残されている。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内燃機関の排気通路にNOx吸蔵タイプの触媒を備えた排気浄化装置において、この触媒のNOxパージを行うタイミングに工夫を凝らし、当該触媒のNOx吸蔵能力を最大限に発揮させて、排気ガスの可及的な清浄化を図ることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置では、NOx吸蔵量が境界値を超えて触媒のNOx吸蔵能力が低下し始める前に、NOxパージを行うようにしたものである。
【0010】
具体的に、請求項1の発明では、内燃機関の排気通路に配設され、排気ガスの空燃比状態が理論空燃比に対応する状態よりもリーンな状態のときにNOxを吸蔵する一方、吸蔵したNOxを空燃比状態のリッチ化に応じて放出し且つ還元浄化するNOx吸蔵タイプの触媒と、この触媒におけるNOxの吸蔵量を推定する吸蔵量推定手段と、該吸蔵量推定手段によるNOx吸蔵量の推定値が予め設定した閾値を超えたときに、排気ガスの空燃比状態を強制的にリッチ化させるNOxパージ制御を行う排気空燃比変更手段とを備えており、前記触媒が、吸蔵したNOxの放出を完了して排気ガス中のNOxの吸蔵を再開したときに、NOxの吸蔵量が所定の境界値に達するまでは所定の高吸蔵率(前記の非常に高い 吸蔵率)、即ち最高のNOx吸蔵能力を示す一方、その境界値を超えてNOx吸蔵量が増大すると、これに応じて吸蔵率が低下するとともに、劣化によって前記境界値が減少するという特性を有している、内燃機関の排気浄化装置が前提である。
【0011】
その上で、前記排気空燃比変更手段によるNOxパージ制御の閾値を前記境界値と略同じになるように設定するとともに、前記触媒の劣化によるNOx吸蔵量の境界値の低下度合いを推定する劣化度合い推定手段と、該劣化度合い推定手段による推定結果に応じて、前記排気空燃比変更手段によるNOxパージ制御の閾値を補正する閾値補正手段とを備え、この閾値補正手段を、NOxパージ制御の行われやすくなる方向にのみ、閾値を補正するように構成した。
【0012】
前記の構成により、まず、内燃機関が理論空燃比よりもリーンな空燃比で運転されて(以下、リーン運転ともいう)、排気ガスの空燃比状態が理論空燃比よりもリーンな状態になると、この排気ガス中のNOxはNOx吸蔵タイプの触媒により吸蔵される。一方、内燃機関が略理論空燃比乃至それよりもリッチな空燃比で運転されると(以下、リッチ運転とも言う)、排気ガスの空燃比状態もリッチ状態になり、このときには前記触媒において吸蔵されているNOxが放出されて、還元浄化される。
【0013】
ここで、例えば、前記排気ガスのリッチな状態で触媒がNOxの放出を完了し、その後、排気ガスがリーンな状態になって触媒がNOxの吸蔵を再開したとき、その後、暫くの間は触媒は前記所定の高吸蔵率、即ち最高のNOx吸蔵能力を示すが、仮に該触媒のNOx吸蔵量が境界値に達した後も排気ガスがリーンであるとすれば、触媒のNOx吸蔵能力はに低下することになる。
【0014】
これに対し、前記の構成では、触媒のNOx吸蔵量が吸蔵量推定手段により推定されて、この推定値が閾値に達すると、排気空燃比変更手段によりNOxパージ制御が行われる。即ち、排気の空燃比状態が強制的にリッチ化され、触媒からNOxが放出されて還元浄化される。これにより、触媒のNOx吸蔵能力は実質的に低下することなく、最高の状態に維持される。
【0015】
つまり、この発明によれば、触媒のNOx吸蔵量が所定の境界値に達すると、直ちにNOxパージが行われることで、当該触媒によるNOxの吸蔵能力が常に最高の状態に維持されて、排気ガスの可及的な清浄化が図られる。また、触媒の劣化によって前記境界値が減少したときには、この減少した値と同じになるようにNOxパージ制御の閾値を変更することで、触媒の劣化に拘わらず、前記の作用効果を得ることができる。
【0016】
すなわち、触媒が劣化してそのNOx吸蔵量の境界値が低下したときに、その低下の度合いが劣化度合い推定手段により推定され、この推定結果に応じて閾値補正手段によりNOxパージ制御の閾値が補正される。しかも、その際、前記閾値補正手段が、NOxパージ制御の行われやすくなる方向、即ち閾値が小さくなる方向にのみ、閾値を補正するので、外乱やノイズ等によって誤って前記境界値の増大を推定した場合でも閾値が増大補正されることはなく、従って、NOxパージのタイミングが遅れて触媒のNOx吸蔵能力が低下することはない。
【0017】
請求項2の発明では、請求項1の発明における排気空燃比変更手段を、NOxパージ制御における排気ガスの空燃比状態を触媒の劣化によるNOx吸蔵量の境界値の低下度合いが大きいほど相対的にリーンな状態に変更するものとする。
【0018】
すなわち、NOxパージのときには排気空燃比変更手段によって排気ガスの空燃比状態が略理論空燃比乃至それよりもリッチな状態に変更されることで、触媒からのNOxの放出が促進されるのであるが、その際、触媒からのNOxの放出に見合う分だけ排気ガス中に還元成分(HC,CO)が存在して、このHC,COとNOxとが過不足なく反応することが望ましい。
【0019】
そこで、この発明では、触媒の劣化によってNOx吸蔵量の境界値、即ちNOx吸蔵能力の低下度合いが大きいときほど、NOxパージによる触媒からのNOxの放出が少なくなることに着目し、これに見合うようにNOxパージ制御における排気ガスの空燃比状態を相対的にリーンな状態に変更するようにしている。このことで、触媒から放出されるNOxと排気ガス中の還元成分(HC,CO)とが過不足なく反応するこになり、このことによっても排気ガスの可及的な清浄化が図られる。
【0020】
請求項3の発明では、請求項1の発明における閾値補正手段を、エンジンの負荷状態乃至エンジン回転速度の少なくとも一方が所定以上に高いとき、排気空燃比変更手段によるNOxパージ制御の閾値を小値側に補正するものとする。
【0021】
すなわち、エンジンの負荷状態乃至エンジン回転速度の少なくとも一方が所定以上に高いときには、排気ガスの流量・流速が増大することで触媒によるNOx吸蔵能力が低下する。しかも、たとえ排気ガス中のNOx濃度が同じであるとしても、流量の多い分だけNOxの量は多くなるから、このような運転状態のときに、仮に触媒の劣化推定の誤差等によってNOxパージのタイミングが遅れると、短時間の内に多量のNOxが大気中に放出されてしまう虞れがある。そこで、この発明では、斯かる運転状態のときにはNOxパージの閾値を小値側に補正して、早めにNOxパージが行われるようにすることで、前記不具合の発生を防止することができる。
【0022】
請求項4の発明では、請求項1の発明における閾値補正手段を、エンジンが加速運転状態のとき、排気空燃比変更手段によるNOxパージ制御の閾値を小値側に補正するものとする。
【0023】
すなわち、例えば、NOxパージのためにエンジンの運転空燃比を変更するようにした場合、空燃比のリーンからリッチへの変更に伴いエンジンのトルクが変動するので、定常運転状態であればフィーリングの悪化を招く虞れがある。一方、加速運転状態であれば本来、エンジンのトルクが変化する状態であるから、このときにNOxパージを行うようにすれば、加速感が得られると共にトルクが変動してもそのことを感じにくく、フィーリングの悪化を招くことは少ない。しかも、加速運転状態のときにNOxパージを行うようにすれば、その分、定常運転状態のときにNOxパージの行われる頻度が低下するので、このことによっても運転フィーリングの悪化を抑制できる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基いて説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る排気浄化装置を適用した筒内直噴式ガソリンエンジン1(内燃機関)の全体的な構成を示す。同図においてエンジン1は、複数の気筒2,2,…(1つのみ図示する)が直列に設けられたシリンダブロック3と、このシリンダブロック3上に配置されたシリンダヘッド4とを有し、各気筒2内にはそれぞれピストン5が往復動可能に嵌挿されていて、そのピストン5の冠面とシリンダヘッド4の下面との間の気筒2内に燃焼室6が区画形成されている。ピストン5の往復動はコネクティングロッド7を介してクランク軸8の回転運動に変換され、このクランク軸8により出力される。また、前記シリンダブロック3には、クランク軸8の一端側においてその回転角度を検出する電磁式のクランク角センサ9と、各気筒2毎の燃焼圧の変動に基づいてノッキングを検出するためのノックセンサ10と、図示しないウオータジャケットの内部に臨んで冷却水の温度(エンジン水温)を検出するエンジン水温センサ11とがそれぞれ配設されている。
【0026】
前記シリンダヘッド4には、各気筒2毎に燃焼室6の天井面に臨んで開口するように吸気ポート12及び排気ポート13が2つずつ開口していて、その各ポート開口部に吸気及び排気弁14,15が配置されている。これら吸気弁14及び排気弁15は、それぞれシリンダヘッド4の内部に軸支された吸気側及び排気側カム軸(図示せず)によって、前記クランク軸8の回転に同期して開作動されるようになっている。また、吸気側のカム軸には、その回転角度を検出するための電磁式のカム角センサ16が付設されている。また、各気筒2毎に前記シリンダヘッド4を上下方向に貫通し且つ吸排気弁14,15に取り囲まれるようにして、点火プラグ17が配設されている。この点火プラグ17の先端の電極は燃焼室6の天井面から所定距離だけ下方に突出している。また、点火プラグ17の基端部は、ヘッドカバーを貫通するように配設された点火回路18(イグナイタ)に接続されている。
【0027】
前記燃焼室6の底部となるピストン5の冠面は、外周側の部位が燃焼室6の天井面と略平行な形状とされる一方、ピストン5冠面の略中央部には平面視で概略レモン形状の凹部が設けられている。また、燃焼室6の吸気側の周縁部に噴口を臨ませてインジェクタ(燃料噴射弁)20が配設されている。このインジェクタ20は、例えば、燃焼室6に臨む先端部の噴口から燃料を旋回流として噴出させて、軸心の延びる方向に沿うようにホローコーン状に噴射する公知のスワールインジェクタとすればよいが、これに限るものではなく、スリットタイプや多噴口タイプのインジェクタとしてもよく、或いは芯弁を圧電素子によって動作させる構成のものを用いてもよい。
【0028】
前記インジェクタ20の基端側は全気筒2,2,…に共通の燃料分配管21に接続されていて、この燃料分配管21により高圧燃料ポンプ22から吐出される燃料が各気筒2毎のインジェクタ20に分配されるようになっている。そして、そのインジェクタ20により気筒2の圧縮行程で燃料が噴射されると、この燃料噴霧は燃焼室6内の吸気流動によって減速されて、適度な濃度状態の混合気塊を点火プラグ17周りに形成する。尚、前記燃料分配管21には、インジェクタ20から噴射される燃料の圧力状態(燃料噴射圧)を測定するための燃圧センサ23が配設されている。
【0029】
エンジン1の一側面(図の右側の側面)には、各気筒2毎の吸気ポート12に連通するように吸気通路25が接続されている。この吸気通路25は、エンジン1の燃焼室6に対してエアクリーナ26で濾過した吸気を供給するものであり、その上流側から下流側に向かって順に、エンジン1への吸入空気量を検出するホットワイヤ式エアフローセンサ27と、吸気通路25の断面積を変更する電気式スロットル弁28及びその位置を検出するスロットルセンサ29と、サージタンク30とが配設されている。前記スロットル弁28は、図外のアクセルペダルに対して機械的には連結されておらず、図示しない電動モータにより開閉されるようになっている。また、サージタンク30には、スロットル弁28よりも下流の吸気通路25の圧力を検出するブーストセンサ31が配設されている。
【0030】
また、前記サージタンク30よりも下流側の吸気通路25は、各気筒2毎に分岐する独立通路とされ、該各独立通路の下流端部はさらに2つに分岐してそれぞれ吸気ポート12に個別に連通する分岐路となっている。この分岐路乃至独立通路には、燃焼室6内の吸気流動の強さ調節するための絞り弁32(Tunble Swirl Conrol Valve:以下、TSCVという)が配設されていて、例えばステッピングモータ等によって開閉作動される。このTSCV32の弁体には一部に切り欠きが形成されており、全閉状態ではその切り欠き部のみから下流側に流れる吸気が燃焼室6において強い筒内流動を生成する。一方、TSCV32が開かれるに従い、吸気は切り欠き部以外からも流通するようになって、筒内流動の強さは徐々に低下するようになる。
【0031】
エンジン1の他側面(図の左側の側面)には、気筒2内の燃焼室6から既燃ガス(排気ガス)を排出するための排気通路34が接続されている。この排気通路34の上流端側は、各気筒2毎の排気ポート13に繋がる排気マニホルド35により構成され、該排気マニホルド35よりも下流側の排気通路34には、排気ガス中の有害成分である炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を浄化するための2つの触媒コンバータ36,37が直列に配設されている。
【0032】
前記上流側の触媒コンバータ36は、詳細は図示しないが、ケーシング内にハニカム構造の担体を収容したもので、この担体の各貫通孔の壁面にいわゆる三元触媒の触媒層が形成されている。この三元触媒36は、従来より周知の通り、排気ガスの空燃比状態が略理論空燃比を含む所定の状態にあるときに、HC、CO、NOxを略完全に浄化可能なものである。
【0033】
また、下流側の触媒コンバータ37は、1つのケーシング内に2つの担体を直列に収容し、そのうちの上流側の担体の各貫通孔壁面にいわゆるNOx吸蔵タイプの触媒層を形成して、上流側NOx触媒38を構成するとともに、下流側の担体にも同様にNOx触媒の触媒層を形成して、下流側NOx触媒39を構成したものである。ここで、前記NOx触媒38,39は、例えばゼオライト等のベースコートに酸化バリウム等のNOx吸蔵材と白金やパラジウム等の貴金属とを担持させてなり、排気ガスの空燃比状態が理論空燃比に対応する状態よりもリーンな状態のときに排気ガス中のNOxを吸蔵する一方、そのようにして吸蔵したNOxを空燃比状態のリッチ化に応じて放出し、且つ還元浄化するという機能を有する。
【0034】
詳しくは、前記NOx吸蔵タイプの触媒により排気ガス中のNOxが吸蔵され、或いは放出されるメカニズムは、以下のようなものであると考えられている。すなわち、図2(a)に模式的に示すように、排気ガスの空燃比状態がリーンな状態のときには、酸素過剰雰囲気の排気ガス中のNOx(図例ではNO)が触媒金属(図例ではPt)上で酸素O2と反応して、その一部がバリウムと結合しながら、硝酸塩NO3として吸蔵される。一方、排気ガスの空燃比状態が略理論空燃比乃至それよりもリッチな状態であれば、前記とは反対の向きに反応が進行し、バリウムから離れたNO2が排気ガス中のHC,COと反応して(還元反応)、窒素N2と酸素O2とに分解される。
【0035】
前記エンジン1の排気マニホルド35の集合部付近には排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ40(第1の酸素濃度センサ)が配設されており、主にこのセンサ40からの信号に基づいてエンジン1の空燃比フィードバック制御が行われるようになっている。また、前記2つの触媒コンバータ36,37の中間には上流側三元触媒36の劣化状態を判定するための第2の酸素濃度センサ41と、NOx触媒38へ流入する排気ガスの温度を検出する排気温度センサ42とが配設され、さらに、2つのNOx触媒38,39の中間には第3の酸素濃度センサ43が配設されている。
【0036】
また、前記排気マニホルド35よりも下流側の排気通路34には、そこから分岐するようにして排気ガスの一部を吸気通路25に還流させる排気還流通路45(以下、EGR通路という)の上流端が連通している。このEGR通路45の下流端は前記サージタンク30の内部に臨んで開口していて、該下流端近傍のEGR通路45にはデューティソレノイド弁からなるEGR弁46が配設されている。このEGR弁46によってEGR通路45における排気の還流量が調節されるようになっている。尚、符号47は、各気筒2の燃焼室6から漏れ出るブローバイガスをサージタンク30まで導くパージ通路である。
【0037】
(エンジンの運転制御の概要)
上述した点火回路18、インジェクタ20、高圧燃料ポンプ22、スロットル弁28、TSCV32、EGR弁46等は、いずれもエンジンコントロールユニット50(以下、ECUという)によって作動制御される。一方、このECU50には、少なくとも、前記クランク角センサ9、ノックセンサ10、水温センサ11、エアフローセンサ27、スロットルセンサ29,2つの酸素濃度センサ40,41,43、排気温度センサ42等からの出力信号がそれぞれ入力され、さらに、アクセルペダルの操作量(以下、アクセル開度という)を検出するアクセル開度センサ51からの出力信号と、エンジン回転速度(クランク軸8の回転速度)を検出する回転速度センサ52からの出力信号と、車速センサ53からの出力信号とが入力されるようになっている。
【0038】
すなわち、ECU50は、前記各センサから入力される信号に基づいてエンジン1への吸入空気量や各気筒2毎の燃料噴射量、噴射時期及び点火時期を制御し、さらに、気筒2内の吸気流動の強さや排気の還流割り合い等を制御する。具体的には、例えば図3に制御マップの一例を示すように、エンジン1の温間の全運転領域のうち低速低負荷側には予め成層燃焼領域(S)が設定されていて、ここでは、インジェクタ20により気筒2の圧縮行程で燃料を噴射させて、点火プラグ17の電極の周りに層状に偏在させた混合気を燃焼させる成層燃焼モードになる。この際、スロットル弁28は大きく開いてポンプ損失を低減するようにしており、この結果、各気筒2の燃焼室6における平均的な空燃比は理論空燃比よりも大幅にリーンな状態(例えばA/F>30)になる。
【0039】
一方、前記成層燃焼領域(S)以外はいわゆる均一燃焼領域(H)であり、ここではインジェクタ20により主に気筒2の吸気行程で燃料を噴射させて、燃焼室6内で吸気と燃料とを十分に混合し、該燃焼室6全体に概ね均一な混合気を形成した上で燃焼させる均一燃焼モードになる。この均一燃焼領域(H)のうちの大部分の領域では、燃料噴射量やスロットル弁28の開度等を、混合気の空燃比が略理論空燃比(A/F≒14.7)になるように制御するが、特に全負荷付近では理論空燃比よりもリッチな状態(例えばA/F=12〜14)になるように制御して、高負荷に対応した大出力を得られるようにする。
【0040】
つまり、この実施形態のエンジン1は、基本的に負荷状態(目標トルク)やエンジン回転速度に応じて、成層燃焼モード、即ち混合気の空燃比が理論空燃比よりも大幅にリーンな状態で運転するリーン運転の状態と、均一燃焼モード、即ち略理論空燃比乃至それよりもリッチな状態で運転するリッチ運転の状態とに切換えられるようになっている。
【0041】
そのような基本的な運転制御の外に、本発明の特徴としてこの実施形態では、前記リーン運転がある程度以上、継続して、上流側のNOx触媒38によるNOxの吸蔵量が所定の境界値に達したときには、エンジン1の運転状態を強制的にリッチ運転に切換えて、前記NOx触媒38において吸蔵したNOxを放出させて還元浄化するようにしている(いわゆるNOxパージ)。
【0042】
詳しくは、図4に模式的に示すように、NOx触媒38は、吸蔵したNOxの放出及び還元浄化を完了して、その後、リーンな排気ガス中のNOxの吸蔵を再開したとき(t=t0)、NOx吸蔵量が所定の境界値に達するまでは(t0〜t1)最高の吸蔵能力(図の例では、略100%)を示すが、NOx吸蔵量が前記境界値に達した後は、NOx吸蔵量の増大に応じて徐々に吸蔵能力が低下するという特性を有する。従って、大気中へのNOxの排出を極小化しようとすれば、NOx触媒38のNOx吸蔵量を常に前記境界値以下に保つことが望ましい。
【0043】
そこで、この実施形態では、NOx触媒38におけるNOxの吸蔵量を推定し、この推定した吸蔵量が前記境界値に達したときにNOxパージを行って、NOx触媒38の吸蔵能力を回復させるようにしている。換言すれば、前記Noxx吸蔵量の境界値は、NOxパージ制御の開始閾値であるということができ、また、NOx触媒38におけるNOx吸蔵量が前記境界値以下になるようにエンジン1の運転制御を行っているということもできる。その意味で、以下、前記境界値はNOx触媒38の目標吸蔵量と呼ぶ。
【0044】
以下、前記ECU50によるエンジン1の具体的な制御手順について、図5〜図10に示すフローチャート図に基づいて説明する。
【0045】
まず、図5に示すメインフローにおいてスタート後のステップSA1では、クランク角センサ9、水温センサ11、カム角センサ16、エアフローセンサ27、酸素濃度センサ40,41,43、アクセル開度センサ51、回転速度センサ52等からの出力信号を入力し、さらにECU50のRAMに一時的に保存されているデータを読み込む。続いて、ステップSA2において、エンジン1の目標トルクとエンジン回転速度とに基づいて、図3の如き制御マップからエンジン1の現在の運転モードを決定する。尚、目標トルクは、エンジン1の負荷状態に対応するものであり、例えば、回転速度センサ52により検出されたエンジン回転速度とアクセル開度センサ51により検出されたアクセル開度とに基づいて、予め実験的に設定したマップから読み出すようにすればよい。
【0046】
続いて、ステップSA3において成層燃焼モードかどうか判定し、この判定がNOで均一燃焼モードであればステップSA4に進んで、エンジン1が均一燃焼状態になるようにインジェクタ20やスロットル弁28等を制御して、しかる後にリターンする。一方、判定がYESで成層燃焼モードであれば、ステップSA5に進み、詳しくは後述するが、NOxパージモードとする条件が成立したかどうか判定する。この判定がNOで、NOxパージモード条件が不成立であれば、後述のステップSA9に進む一方、NOxパージモード条件が成立でYESであれば、ステップSA6に進み、NOxパージのための目標空燃比を演算する。この際、目標空燃比は、NOx触媒38の劣化度合いを示す後述の劣化係数αに基づいて、該触媒38の劣化によるNOx吸蔵能力の低下の度合いが大きいほど、相対的にリーンな値になるように演算する。
【0047】
すなわち、一般的に、前記NOxパージのためには排気ガスの空燃比状態を略理論空燃比乃至それよりもややリッチな状態(例えばA/F=14.0〜14.7)にすればよいのだが、厳密には、NOxパージによって触媒38のバリウムから放出されるNOxの量が排気ガス中の還元成分(HC,CO)よりも多いと、このNOxが還元されずに大気中に排出されることになり、一方、NOxの量がHC,COよりも少ないと、このHC,COが大気中に排出されることになる。そこで、NOx触媒38の劣化によるNOx吸蔵能力の低下の度合いが大きいときほど、NOxパージによるNOxの放出が少なくなることを考慮して、これに見合うようにNOxパージ制御における排気ガスの空燃比状態を相対的にリーンな状態に変更するようにしている。このことで、触媒から放出されるNOxを排気ガス中の還元成分(HC,CO)と過不足なく反応させることができ、このことによっても排気ガスの清浄化が図られる。
【0048】
続いて、ステップSA7において、エンジン1が均一燃焼状態になり且つ各気筒2の空燃比が前記目標空燃比になるように、インジェクタ20やスロットル弁28等を制御する(NOxパージ実行)。続いて、ステップSA8において、詳しくは後述するが、NOx触媒38の劣化度合いに基づいて目標吸蔵量(NOxパージの開始閾値)を更新し、しかる後に、リターンする。
【0049】
前記ステップSA5においてNOxパージモード条件不成立と判定して進んだステップSA9では、今度はSパージモードの条件が成立したかどうか判定する。ここで、Sパージモードというのは、NOx触媒38のいわゆる硫黄被毒を軽減乃至解消するためのものであって、詳しい説明は省略するが、NOx触媒38の硫黄被毒がある程度大きいと判定され、且つ所定の条件が成立したとき、Sパージモード条件の成立でYESと判定してステップSA10に進み、このステップSA10においてSパージのための目標空燃比(理論空燃比よりもリッチな値)を演算し、続くステップSA11において、エンジン1が均一燃焼状態になるようにインジェクタ20やスロットル弁28等を制御するとともに、点火時期を大幅にリタードさせて排気ガスの温度を大幅に高め(Sパージ実行)、しかる後にリターンする。このSパージモードでは、高温の排気ガスによってNOx触媒38の温度が所定以上の高温状態に維持され、リッチ雰囲気下でバリウムからSOxが離脱して還元浄化される。
【0050】
さらに、前記ステップSA9においてSパージモード条件が不成立でNOと判定すれば、ステップSA12に進んで、エンジン1が成層燃焼状態になるようにインジェクタ20やスロットル弁28等を制御し、しかる後にリターンする。
【0051】
(NOxパージ実行条件の判定)
次に、前記メインフローのステップSA5におけるNOxパージモードの実行条件について、図6に示すフローに基づいて説明すると、スタート後のステップSB1では、エンジン1がエンストモード以外であることを判定し、この判定がNOであれば後述のステップSB9に進む一方、判定がYESならばステップSB2に進んで、エンジン1が始動モード以外であることを判定する。この判定がNOであればステップSB9に進む一方、判定がYESならばステップSB3に進んで、今度はエンジン1が燃料カットモード以外であることを判定する。
【0052】
前記ステップSB3において判定がNOであればステップSB9に進む一方、判定がYESならばステップSB4に進み、ECU50のRAMに一時的に記憶されている目標吸蔵量を読み込む。この目標吸蔵量は、後述の如くNOx触媒38の劣化の度合いに応じて補正されて、ECU50のRAMに記憶更新される。続くステップSB5では、NOx触媒38によるNOx吸蔵量の推定演算を行う。具体的には、この実施形態ではNOx触媒38によるNOx吸蔵能力を略100%に維持するようにしているから、エンジン1の各気筒2からのNOx排出量を逐次求めて、これを単純に積算することで、NOx吸蔵量を推定する。
【0053】
続いて、ステップSB6において、前記推定したNOx吸蔵量を目標吸蔵量と比較して、推定NOx吸蔵量が目標吸蔵量を超えれば(判定がYES)、ステップSB7に進んで、NOxパージモード条件の成立を示すフラグF1をオンにし(F1←1)、しかる後にリターンする。一方、推定NOx吸蔵量が目標吸蔵量以下で判定がNOであれば、ステップSB8に進んで、NOxパージの継続条件を判定する。すなわち、一旦、NOxパージを開始した後は、NOx触媒38におけるNOxの放出が完了してNOx吸蔵量が零になるまでをNOxパージ継続条件の成立と判定する。例えば、NOxパージの開始からエンジン1が継続してリッチな空燃比で運転されている時間をタイマにより測定し、この測定時間が所定時間になるまではNOxパージ継続条件の成立で(判定がNO)、前記ステップSB7に進む一方、タイマによる測定時間が所定時間になれば、NOxパージ継続条件の不成立で(判定はYES)ステップSB9に進み、前記フラグF1をオフにして(F1←0)、しかる後にリターンする。
【0054】
(NOx触媒の劣化状態の判定)
次に、NOx触媒38の劣化判定と、この判定結果に応じてNOxパージの閾値である目標吸蔵量を変更する手順について説明する。まず、図7に示すフローは、NOx触媒38の劣化の判定を正確に行うための条件を判定するものであって、スタート後のステップSC1ではNOxパージモード条件が成立したかどうか判定し(F1=1?)、この判定がNOであれば(F1=0)、NOx触媒38の劣化判定の条件が成立していないとういうことで、ステッップSC8に進み、劣化判定条件の成立を示すフラグF2をオフにする(F2←0)。すなわち、この実施形態では、NOx触媒38の劣化の判定をNOxパージモードのときにのみ、行うようにしている。
【0055】
一方、前記ステップSC1における判定がYESならば(F1=1)ステップSC2に進んで、今度はエンジン水温が所定値以上であるかどうか判定する。これはエンジン1の暖機を確認するためのものであり、例えばエンジン水温が45°C以下であれば(判定がNO)前記ステップSC8に進む一方、それよりもエンジン水温が高ければステップSC3に進む。このステップSC3では、エンジン回転速度が所定値以下であるかどうか判定し、この判定がNOであれば前記ステッップSC8に進む一方、判定がYESならばステップSC4に進んで、今度はエンジン1の目標トルクが所定値以下であるかどうか判定する。この判定がNOであれば前記ステッップSC8に進む一方、判定がYESならばステップSC5に進む。すなわち、エンジン1の目標トルク又は回転速度の少なくとも一方が所定以上に高くて、排気ガスの流量がある程度以上、多いときには、NOx触媒38の劣化判定の精度がやや低くなると考えられるので、このときには劣化判定は行わないようにしている。
【0056】
ステップSC5では、排気温度センサ42からの出力に基づいて、NOx触媒38の温度が活性の高い所定の温度範囲にあるかどうか判定し、この判定がNOであれば前記ステップSC8に進む一方、判定がYESならばステップSC6に進んで、今度はエンジン1が加速運転以外かどうか判定する。この判定がNOであれば前記ステッップSC8に進む一方、判定がYESならばステップSC7に進んで、NOx触媒38の劣化判定条件が成立したとして、前記フラグF2をオンにする(F2←1)。尚、加速運転時に判定を行わないようにするのは、エンジン1の運転状態が大きく変化するときには、排気ガスの流量やその内部のガス成分濃度も過渡的に大きく変動して、NOx触媒38の劣化判定の精度がやや低くなると考えられるからである。
【0057】
次に、図8に示すフローは、前記の劣化判定条件の成立を前提として、実際にNOx触媒38の劣化を判定し、且つその劣化の度合いを表す劣化係数αを演算する手順を示すものである。まず、スタート後のステップSD1において、前記フラグF2(図7参照)の値に基づいて触媒劣化判定条件の成立を判定し、フラグF2がオフ(F2=0)でNOであればステップSD8に進んで、後述のフラグF3をオフにして(F3←0)、しかる後にリターンする。一方、前記ステップSD1の判定がYESならば、ステップSD2に進んで、NOx触媒38の上流側及び下流側の第2及び第3酸素濃度センサ41、43の出力信号をそれぞれ読み込んで、NOx触媒38の上流側の排気ガスがリッチ状態になってから、下流側の排気ガスがリッチな状態になるまでの遅れ時間Δtを演算する。
【0058】
すなわち、図11(a)に一例を示すように、通常、NOxパージのためにエンジン1の運転空燃比を強制的にリーンから理論空燃比乃至それよりもややリッチに変更すると、このことによってまず、NOx触媒38の上流側で排気ガスの空燃比状態がリッチ化して、第2酸素濃度センサ41の出力信号が立ち上がり、それから遅れてNOx触媒38の下流側で排気ガスの空燃比状態がリッチ化して、第3酸素濃度センサ43の出力信号が立ち上がる。これは、NOxパージのときには、NOx触媒38のバリウムからNOxが放出されて還元されることにより排気ガス中の酸素濃度が増大するからであり、従って、前記下流側のリッチ化の遅れ時間Δtは、NOx触媒38から放出されるNOxの量、即ちNOx触媒38の吸蔵量が多いほど、長くなる。
【0059】
より具体的には、前記遅れ時間Δtは、NOx触媒38の吸蔵量だけでなく、NOxパージの際の排気ガスの流量等によっても変化するから、この点を考慮して、予めNOx触媒38が新品のときにエンジン1の運転状態に応じて前記遅れ時間Δtがどのように変化するか調べて、これを目標遅れ時間Δt0としてエンジン1の運転状態(図例では目標トルクとエンジン回転速度)に対応付けて同図(b)に示すようなマップとして設定し、このマップをECU50のメモリに記憶させておく。そして、現在の遅れ時間Δtが目標遅れ時間Δt0に対してどの程度、短くなったかを調べれば、これによりNOx触媒38の最大級増量の変化、即ち劣化度合いを知ることができる。
【0060】
そこで、前記ステップSD2に続くステップSD3において、現在のエンジン1の運転状態に基づいて前記のマップから目標遅れ時間Δt0を読み出し、この目標遅れ時間Δt0によって前記遅れ時間Δtを除算して、NOx触媒38の劣化度合いを表す劣化係数α=Δt/Δt0を求める。そのように演算した劣化係数αの値を制御サイクル毎にECU50のRAMに記憶しておき、ステップSD4において、所定回数分の劣化係数αの値を平均し、これを平均劣化係数αmとする。続いて、ステップSD5において、前記の如く演算した平均劣化係数の値αm(i)を前回の制御サイクルで求めた値αm(i−1)から減算して、偏差Δαを求める。
【0061】
続いて、ステップSD6において、前記の偏差Δαを所定値(正値)と比較して、偏差Δαが所定値以上ならば(判定がYES)ステップSD7に進んで、NOx触媒38の劣化の度合いに応じてNOxパージの目標吸蔵量を補正する劣化補正の実行条件が成立した、として、そのことを示すフラグF3をオンにし(F3←1)、しかる後にリターンする。一方、前記偏差Δαが所定値よりも小さければ(判定がNO)、ステップSD8に進み、前記フラグF3をオフにして(F3←0)、しかる後にリターンする。
【0062】
つまり、NOxパージのために排気ガスの空燃比状態をリッチに切換えたときに、NOx触媒38上流側及び下流側の酸素濃度センサ41,43の出力の立ち上がりを比較し、この立ち上がりの時間のずれの大きさによってNOx触媒38の劣化度合いを推定して、これに応じて目標吸蔵量を補正するのである。この際、前記偏差Δαが所定量よりも大きいとき、即ち、劣化係数αが減少しているときにのみ、目標吸蔵量を補正するようにしている。
【0063】
次に、図9に示すフローは、NOxパージの目標吸蔵量を更新する手順を示し、スタート後のステップSE1では前記図8のフローのフラグF3を読み込んで、劣化補正の実行条件が成立しているかどうか判定する。そして、フラグF3がオン(F3=1)でYESであればステップSE2に進んで、前記図8のフローにて求めた平均劣化係数の偏差Δαに基づいて、目標吸蔵量を補正するための劣化補正係数βを演算する。具体的には、前記偏差Δαに所定の反映係数εを乗算し、これを前回の制御サイクルにて求めた劣化補正係数β(i-1)から減算して、今回の劣化補正係数β(i)を演算する。一方、前記ステップSE1においてラグF3がオフ(F3=0)で判定がNOであれば、ステップSE3に進み、前回の劣化補正係数βの値を保持する(β(i)=β(i-1))。尚、この場合に劣化補正係数βの値を初期化するようにしてもよい。
【0064】
前記ステップSE2,3に続くステップSE4では、エンジン1の運転状態に応じてNOxパージの目標吸蔵量を補正するための補正係数γ(後述)をECU50のRAMから読み込み、続くステップSE5において、NOx触媒38が新品のときに対応する基本的な目標吸蔵量の値に前記各ステップで求めた劣化補正係数βと補正係数γとを乗算して、現在の目標吸蔵量を演算する。そして、ステップSE6において、前記のように演算した現在の目標吸蔵量により、ECU50のRAMに記憶されている目標吸蔵量の値を更新して、しかる後にリターンする。
【0065】
次に、前記図9に示すフローのステップSE4にて用いる補正係数γの設定について、図10のフローに基づいて説明すると、まず、スタート後のステップSF1では、前記図7に示すフローのステップSC6と同様にして、エンジン1が加速運転以外かどうか判定する。そして、この判定がNOであればステッップSF6に進んで、補正係数γの値を予め設定した所定値(0<γ<1)とする一方、判定がYESであればステップSF2に進む。
【0066】
ステップSF2では、エンジン回転速度が所定値以下であるかどうか判定し、この判定がNOならば前記ステッップSF6に進む一方、判定がYESならばステップSF3に進んで、エンジン1の目標トルクが所定値以下であるかどうか判定する。この判定がNOならば前記ステッップSF6に進む一方、判定がYESならばステップSF4に進んで、排気温度センサ42からの出力に基づいて、NOx触媒38の温度が活性の高い所定の温度範囲にあるかどうか判定する。この判定がNOならば前記ステッップSF6に進む一方、判定がYESならばステップSF5に進んで、補正係数γの値を1とし、しかる後にリターンする。
【0067】
すなわち、まず、加速運転状態というのは本来的にエンジン1のトルクが変化する状態であるから、このときにはNOxパージによってトルクが変動してもそのことを感じにくい。そこで、このときに補正係数γを1よりも小さな値とし、これにより目標吸蔵量を小値側に補正して、NOxパージ制御が開始されやすくなるようにする。このことで、エンジン1が定常運転状態のときにNOxパージの行われる頻度が低下するので、フィーリングの悪化が抑制される。
【0068】
また、目標トルクや回転速度が所定以上に高いときには、排気ガスの流量が多くなることでNOx触媒38によるNOx吸蔵能力が低下するし、しかも、流量の多い分だけNOxの量が多くなるから、このような運転状態のときに例えば劣化推定の誤差等によってNOxパージのタイミングが遅れると、短時間の内に多量のNOxが大気中に放出されてしまう虞れがある。これに対して、この実施形態では、斯かる運転状態のときには補正係数γを1よりも小さな値として、NOxパージ制御が早めに行われるようにすることで、前記不具合の発生を防止することができる。
【0069】
尚、前記のフローでは、加速運転時や排気ガス流量の多いときには補正係数γを一律に1よりも小さい所定値にするようにしているが、これに限らず、加速運転時や排気ガス流量の多いとき等、状況によって補正係数γの値を異ならせるようにしてもよい。
【0070】
上述した図5〜図10のフローチャートの制御手順は、ECU50のメモリに電子的に格納されている複数のプログラムがそれぞれCPUにより実行されることによって実現されるものであり、このことで、前記ECU50は、以下の発明の構成要件をソフトウエア的に備えている。
【0071】
すなわち、図6に示すフローのステップSB5によって、NOx触媒38におけるNOxの吸蔵量を推定する吸蔵量推定手段50aが構成され、このフローのステップSB6〜SB8と図5に示すフローのステップSA5〜SA7とによって、NOx吸蔵量の推定値が目標吸蔵量(閾値)を超えたときに、排気ガスの空燃比状態を強制的にリッチ化させるNOxパージ制御を行う排気空燃比変更手段50bが構成されている。
【0072】
また、図8に示すフローの各ステップによって、NOx触媒38の劣化によるNOx吸蔵能力の低下の度合いを推定する劣化度合い推定手段50cが構成され、図9に示すフローの各ステップによって、前記NOx触媒38の劣化度合いの推定結果に応じて、NOxパージ制御の目標吸蔵量(閾値)を補正する閾値補正手段50dが構成されている。そして、前記閾値補正手段50dは、NOxパージ制御が行われやすくなる方向にのみ、目標吸蔵量を補正するように構成されている。
【0073】
したがって、この実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置によると、まず、エンジン1が低速低負荷側の成層燃焼領域(S)にあって、各気筒2の燃焼室6の平均的な空燃比が理論空燃比よりも大幅にリーンな状態になると、排気ガスの空燃比状態もリーン状態になり、この排気ガス中のNOxがNOx触媒38によって吸蔵される。一方、エンジン1が均一燃焼領域(H)にあって各気筒2の燃焼室6の平均的な空燃比が略理論空燃比乃至それよりもリッチな状態になると、排気ガスの空燃比状態もリッチ状態になり、このときには前記NOx触媒38において吸蔵されているNOxが放出され、且つ還元浄化される。
【0074】
また、エンジン1の前記成層燃焼領域(S)でのリーン運転が継続して、NOx触媒38におけるNOxの吸蔵量が徐々に増大し、NOx吸蔵量が目標吸蔵量に達すると、NOxパージ制御が行われて、排気の空燃比状態が強制的にリッチ化される。これにより、NOx触媒38において吸蔵されていたNOxが放出されて還元浄化され、該NOx触媒38のNOx吸蔵量は再び略零の状態に戻る。従って、NOx触媒38のNOx吸蔵量はいつでも目標吸蔵量以下に保たれ、当該触媒によるNOxの吸蔵能力が常に最高の状態に維持されることになり、これにより排気ガスの可及的な清浄化が図られる。
【0075】
さらに、前記NOx触媒38が劣化して、その吸蔵能力が低下すると、今度は該NOx触媒38の劣化度合いに応じて前記目標吸蔵量が補正される。すなわち、主に劣化係数αに基づいて、NOx触媒38の劣化による吸蔵量の低下に対応するように目標吸蔵量が減少補正され、これにより、触媒の劣化に拘わらず、NOxの吸蔵能力を常に最高の状態に維持することができる。しかも、その際、目標吸蔵量の補正は、NOxパージ制御の行われやすくなる方向にのみ、行われるので、仮に、外乱やノイズ等の影響で劣化係数αの値がNOx吸蔵能力の増大を示す向きに変動したとしても、そのことによって目標吸蔵量が増大する側に変化することはなく、従って、誤った触媒の劣化推定によってNOxパージのタイミングが遅れることはない。
【0076】
尚、本発明の構成は前記実施形態のものに限定されることはなく、その他の種々の構成をも包含するものである。一例を挙げれば、前記の実施形態においてはNOxパージの目標吸蔵量を、予め設定した基本的な値に劣化補正係数β及び補正係数γを乗算することによって求めるようにしているが、必ずしもそのような計算によって求める必要はない。例えば、図12に示すように、予め劣化係数αに対応する目標吸蔵量のマップを実験的に決定したマップを設定し、これをECU50のメモリに電子的に格納しておいて、NOx触媒38の劣化状態に応じて前記マップから目標吸蔵量を直接、読み込むようにしてもよい。
【0077】
また、前記実施形態では、2つのNOx触媒38,39を一のケーシング内に収容して、下流側の触媒コンバータ37を構成しているが、このような構成とせずに、例えばそれぞれ別のケーシングに収容するようにしてもよいことはいうまでもない。
【0078】
また、本願発明は、前記実施形態のような直噴ガソリンエンジン以外にも適用可能であることはいうまでもなく、気筒の平均的な空燃比が理論空燃比よりもリーンなリーン運転の状態と略理論空燃比乃至それよりもリッチなリッチ運転の状態とに切換えられるような内燃機関であれば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンを問わず、前記と同様の作用効果を得ることができる。
【0079】
【発明の効果】
以上、説明したように、請求項1の発明に係る内燃機関の排気浄化装置によると、触媒のNOx吸蔵量を推定し、NOx吸蔵量が所定の境界値を超えて触媒のNOx吸蔵能力が低下し始める前に、NOxパージを行うようにすることで、当該触媒のNOx吸蔵能力を常に最高の状態に維持することができ、これにより排気ガスの可及的な清浄化が図られる。また、触媒の劣化の度合いを推定する手段と、この推定結果に応じてNOxパージ制御の閾値を補正する手段とを備えることで、たとえ触媒の劣化によって前記境界値が減少しても、この減少した境界値と同じになるようにNOxパージ制御の閾値が変更され、触媒の劣化に拘わらず、前記の効果が得られる。
【0080】
しかも、NOxパージ制御の閾値は、制御が行われやすくなる方向にのみ補正するようにしたので、誤った推定によってNOxパージのタイミングが遅れることも防止できる。
【0081】
請求項2の発明によると、NOxパージ制御における排気ガスの空燃比状態を触媒の劣化の度合いに応じて変更することで、排気ガスの空燃比状態を、触媒からのNOxの放出状態に見合うものとすることができ、これにより、排気ガスのさらなる清浄化が図られる。
【0082】
請求項3の発明によると、エンジンの負荷状態乃至エンジン回転速度の少なくとも一方が所定以上に高いとき、即ち、排気ガスの流量が多くて最高のNOx吸蔵能力を触媒が発揮し得ず、しかも短時間で多量のNOxを放出する虞れのあるときに、閾値を小値側に補正してNOxパージが行われやすくすることで、NOx排出量の増大を未然に防止できる。
【0083】
請求項4の発明によると、エンジンが加速運転状態でトルクの変動を感じにくいときに閾値を小値側に補正して、NOxパージを行われやすくすることで、その分、定常運転状態のときのNOxパージの頻度を低下させて、違和感を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係る内燃機関の制御システムの全体構成を示す図である。
【図2】 NOx触媒によるNOxの吸蔵、放出のメカニズムの説明図である。
【図3】 エンジンを成層燃焼状態又は均一燃焼状態とする運転領域をそれぞれ設定した制御マップの一例を示す図である。
【図4】 排気ガスがリッチ状態からリーン状態に切り換わった後、NOx触媒のNOx吸蔵量とその下流のNOx濃度との変化を対応付けて示した説明図である。
【図5】 エンジン制御の概要を示すメインフローのフローチャート図である。
【図6】 NOxパージの実行条件の成立を判定する制御のフローチャート図である。
【図7】 触媒の劣化判定条件の成立を判定する制御のフローチャート図である。
【図8】 触媒の劣化度合いを求めて劣化補正条件の成立を判定する制御のフローチャート図である。
【図9】 触媒の劣化度合いに応じて目標吸蔵量を更新する制御のフローチャート図である。
【図10】 目標吸蔵量の補正係数を設定する手順を示すフローチャート図である。
【図11】 (a)NOxパージのときに触媒下流の酸素濃度センサの信号が上流側に対して遅れる様子を示した説明図、及び、(b)その遅れの基準となる値を設定したマップの一例を示す図である。
【図12】 目標吸蔵量を劣化係数に対応付けて設定したマップの一例を示す図である。
【符号の説明】
1 エンジン(内燃機関)
34 排気通路
38 NOx触媒(NOx吸蔵タイプの触媒)
41,43 酸素濃度センサ
50 ECU(エンジンコントロールユニット)
50a 吸蔵量推定手段
50b 排気空燃比変更手段
50c 劣化度合い推定手段
50d 閾値補正手段
Claims (4)
- 内燃機関の排気通路に配設され、排気ガスの空燃比状態が理論空燃比に対応する状態よりもリーンな状態のときにNOxを吸蔵する一方、吸蔵したNOxを空燃比状態のリッチ化に応じて放出し且つ還元浄化するNOx吸蔵タイプの触媒と、
前記触媒におけるNOxの吸蔵量を推定する吸蔵量推定手段と、
前記吸蔵量推定手段によるNOx吸蔵量の推定値が予め設定した閾値を超えたときに、排気ガスの空燃比状態を強制的にリッチ化させるNOxパージ制御を行う排気空燃比変更手段とを備え、
前記触媒が、吸蔵したNOxの放出を完了して排気ガス中のNOxの吸蔵を再開したときに、NOxの吸蔵量が所定の境界値に達するまでは所定の高吸蔵率を示す一方、その境界値を超えてNOx吸蔵量が増大すると、これに応じて吸蔵率が低下するとともに、劣化によって前記境界値が減少するという特性を有している、内燃機関の排気浄化装置において、
前記排気空燃比変更手段によるNOxパージ制御の閾値を、前記境界値と略同じになるように設定するとともに、
前記触媒の劣化によるNOx吸蔵量の境界値の低下度合いを推定する劣化度合い推定手段と、
前記劣化度合い推定手段による推定結果に応じて、前記排気空燃比変更手段によるNOxパージ制御の閾値を補正する閾値補正手段とを備え、
前記閾値補正手段が、NOxパージ制御の行われやすくなる方向にのみ、閾値を補正するように構成したことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。 - 請求項1において、
排気空燃比変更手段は、NOxパージ制御における排気ガスの空燃比状態を、触媒の劣化によるNOx吸蔵量の境界値の低下度合いが大きいほど相対的にリーンな状態に変更するように構成されていることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。 - 請求項1において、
閾値補正手段は、エンジンの負荷状態乃至エンジン回転速度の少なくとも一方が所定以上に高いとき、排気空燃比変更手段によるNOxパージ制御の閾値を小値側に補正するように構成されていることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。 - 請求項1において、
閾値補正手段は、エンジンが加速運転状態のとき、排気空燃比変更手段によるNOxパージ制御の閾値を小値側に補正するように構成されていることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
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