JP4177530B2 - 電子部品製造用複合材製金型 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックス成分と金属成分とを含む複合材で構成される電子部品製造用複合材製金型に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、電子部品は、それ自体がμm程度の精度で加工されるとともに、加工の際に金型材を構成する金属が被加工材に付着すると、製品としての性能が劣化したり、使用に際して誤動作の要因となったりするおそれがある。このため、加工精度に優れる金型が要求されるとともに、金型表面に金属が露出していない構造が求められている。
【0003】
さらに、電子部品の中には、磁化させて用いる製品があり、加工の際に磁化させる必要から非磁性の金型が採用される場合がある。しかも、被加工材には、加工中の磁化を防止しなければならないものもあり、電子部品製造用の金型材としては、非磁性の特性を有することが望ましい。このため、金型材としては、鉄系材、超硬材、非磁性超硬材あるいは他の複合材等が用いられているが、上記の要求を満足させるまでには至っておらず、要求特性をより一層満足させる金型材が望まれていた。
【0004】
具体的には、耐摩耗性の観点から硬質セラミックスコーティングの使用が考えられるが、微細加工精度が低下するとともに、強度および耐久性の点で不充分である。また、超硬は、通常、金型を構成するダイヤやパンチの表面に5%〜30%以上もの金属が露出している。その比重を考慮すると、被加工材に接触する部分の金属がその2.5倍程度となり、この被加工材に摩耗した金属が付着し易いという欠点がある。
【0005】
さらにまた、金型材を非磁性化しようとした場合、超硬材中のカーボン量を下げたり、超硬材に含まれる金属をCoに変える、あるいは、一部をNiに置換して対応したり、Crを添加して非磁性化を図ったり等の工夫がなされている。ところが、超硬中のカーボン量を下げると、金属自体が脆くなってしまい、微細加工やシャープエッジの確保が難しくなるとともに、耐衝撃性が劣化するという問題が生じる。また、添加される金属をCoからNiやNi−Crに置換すると、WC−Co系の超硬に比べて機械的強度が劣化し、硬度および耐摩耗性が低下するという問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、実際に加工を行う金型表層近傍が高硬度でかつ耐摩耗性を有するとともに、金型内部が高強度を有する金型の開発を検討したところ、本出願人による特許第2593354号公報や特開平8−127807号公報等に開示されている「セラミックス粉末と金属成分とを含む傾斜機能を有する複合材」を応用することを見い出した。
【0007】
すなわち、本発明は、表面が高硬度で内部に向かうに従って靱性や強度等の物性が向上する傾斜機能を有する電子部品製造用複合材製金型を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る電子部品製造用複合材製金型は、ダイとパンチを具備する。そして、これらダイおよび/またはパンチは、WC、TiC、Mo 2 C、TaC、NbC、Cr 3 2 またはVCの中から選択される少なくとも1種以上のセラミックス成分と、Fe、NiまたはCoを主成分とする金属成分とを含み、かつ、セラミックス量が、75wt%≦WC+TiC+Mo 2 C+TaC+NbC+Cr 3 2 +VC≦97wt%に設定されるとともに、その内部から表面あるいは表層に向かうに従って前記金属成分の割合が漸減し、前記表面では前記セラミックス成分のみが露出する複合材で構成されている。
【0009】
すなわち、ダイやパンチは、内部から表面に向かうに従って金属量が漸減する層と、金属が集積する層と、金属が大きく減少して略セラミックス組成となる層との三層が有機的に結びついている。このため、実際に加工を行うダイやパンチの表面近傍は金属が低減された高硬質層となり、この表面近傍から内方に向かって金属の漸減乃至漸増する傾斜層となり、さらに内部は初期状態よりも金属量の増加した高強度および高靱性層となる。従って、応力の伝藩も漸次緩和されて大きな応力に対する抵抗力が増大することになる。これにより、型寿命の向上が図られるとともに、製品精度を確実に維持することが可能になる。
【0010】
金型による塑性加工では、通常、加工時に比較的大きな発熱を伴うものの、実際に加工を行うダイやパンチの表面近傍がセラミックスリッチとなり、粒子が粗大化するとともに、表面から内部に向かうに従って、金属量が除々に多くなっている。このため、熱の伝達や拡散性がよく、熱に伴うマイクロクラックの発生、チッピングや凝着の改善が有効になされ、性能の向上が図られる。
【0011】
上記の複合材では、該複合材中に添加されるセラミックス成分を選択的に粒成長させるとともに、粒成長促進材の濃度に勾配を設け、その粒成長差によって粒成長した部分の金属を粒成長しない内部に向かって移動させ、この内部に金属を集積している。従って、複合材内に添加される粒成長促進剤の選択や添加条件等を組み合わせることにより、超微細加工に優れるとともに、表面に金属の露出がなく、しかも、非磁性を有する複合材が得られる。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施形態に係る電子部品製造用複合材製金型10の縦断面説明図である。金型10は、電子部品を構成するストリップ12の搬送方向(矢印X方向)に沿って孔あけ部14、送りパイロット部16および検出パイロット部18を備えている。
【0013】
金型10を構成する下型20には、ダイ取り付け本体22を介して孔あけ部14を構成するダイ24と、送りパイロット部16および検出パイロット部18を構成するダイ26、28とが一体的に支持されている。ダイ取り付け本体22には、矢印X方向に沿ってストリップ12を挿通させるための溝部29が貫通形成されている。
【0014】
金型10を構成する上型30には、パンチ取り付け本体32を介して孔あけ部14を構成するパンチ34と、送りパイロット部16および検出パイロット部18を構成するパイロット36、38とが一体的に支持されている。このパイロット38は、ばね等の弾性体39を介して上型30に対して進退自在である。
【0015】
図2に示すように、ダイ24は略円筒状に形成され、その表面である外周面および内周面にダイ形状に沿ってセラミックスリッチなセラミクッス部40a、40bが設けられるとともに、前記セラミックス部40a、40bの内部側に傾斜部42a、42bを介して金属リッチな金属部44が設けられる。傾斜部42a、42bは、金属部44からそれぞれ外表面および内表面に向かうに従って金属成分の割合が漸減している。セラミックス部40a、40bの表面は、セラミックスのみが露出している。
【0016】
図3に示すように、パンチ34の内部には、金属リッチな金属部46が設けられるとともに、その表面にはパンチ形状に沿ってセラミックスリッチなセラミックス部48が設けられる。金属部46とセラミックス部48との間には、内部から表面に向かうに従って金属成分の割合が漸減する傾斜部50が設けられる。セラミックス部48の表面は、セラミックスのみが露出している。
【0017】
複合材中の金属成分は、実用的には周期表のVIII族元素の鉄(Fe)、ニッケル(Ni)またはコバルト(Co)の中から選ばれる少なくとも1種以上であり、必要に応じてマンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)またはモリブデン(Mo)等が、物性や特性の向上等を図るために混入される。
【0018】
金属成分は、3wt%〜25wt%、より好ましくは、5wt%〜15wt%に設定される。金属成分が3wt%未満では、金属量が少なくなりすぎて脆くなって、金型10の製造時に、この金型10のエッジにチッピング等が発生し易く、前記金型10を高精度に加工することが極めて困難なものとなってしまう。
【0019】
金属成分を3wt%以上にすると、複合材表面の金属成分が1wt%以下となり、金型10を構成するダイ24およびパンチ34の内部には相対的に10wt%以上の金属成分を集積することができ、実用に供することが可能になる。なお、素材を焼結し、ダイ24やパンチ34に精密加工を施して充分な耐用性を得るためには、金属成分を5wt%以上に設定することが望ましい。
【0020】
セラミックス粒子として、2μm〜3μm前後の粉末原料を用いた場合、複合材の表面近傍の粒子は、添加される粒子成長剤や焼結温度、時間および雰囲気等によって変化するが、3倍〜30倍程度になる。強度が要求されるものでは、5倍〜10倍程度まで、主として耐摩耗性が要求されるものでは、10倍〜20倍程度までの成長がなされる。その際、表面近傍の金属成分は、0wt%〜8wt%になり、内部の金属成分は、上記の成長度合いや傾斜部の厚み等により変化し、金属成分が5wt%の場合に8wt%〜13wt%程度乃至それ以上になる。
【0021】
金属成分の上限は、25wt%、より好ましくは、15wt%以下に設定される。長尺状の複合材を構成する際には、高剛性および高強度が要求されるため、含有する金属成分を増加させることが必要である。ところが、金属成分が25wt%以上になると耐摩耗性が劣化し、所望の性能を発揮することができなくなってしまう。
【0022】
ここで、金属成分を25wt%に設定し、表面の金属成分を1wt%以下としてHRA91以上を確保しようとした場合、25mm×25mm×100程度の大きさであれば、中央部の金属成分は30wt%以上となり、高速度鋼に近い靭性を有して充分な機能を有する。なお、金属成分を15wt%以下とした場合に、10mm〜20mm×10mm〜20mm×100mm程度の大きさのものであれば、中央部の金属成分が25wt%以上となり、充分な性能を有することができる。
【0023】
複合材中のセラミックス成分は、炭化タングステン(WC)、炭化チタン(TiC)、炭化2モリブデン(Mo2 C)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化クロム(Cr32 )または炭化バナジウム(VC)の中から選択される少なくとも1種以上を主体とするものであり、その一部に窒化物やホウ化物、あるいは炭窒化物等を添加するようにしてもよい。
【0024】
セラミックス量は、
Figure 0004177530
に設定され、残部が金属である。
【0025】
これらのセラミックス成分は、加工時に実際にワークと接触して加工を行うものであり、強度、耐熱性、耐摩耗性および耐食性等の性質を有するものが選択されている。通常、金型材として用いられる複合材の代表例である超硬材は、WC−Coの単純な系(均質体)で構成されており、本発明は、これを基本的な構成とし、非磁性および耐摩耗性の観点から炭化クロムや炭化バナジウム等を添加するものである。さらに、耐食性や耐熱性、耐摩耗性の観点から炭化チタン、炭化タンタルまたは炭化ニオブ等を添加し、これによって、リードフレーム等に施されているメッキ金属がダイ24やパンチ34に付着することが防止されるとともに、加工寸法精度が向上し、磁性粉成形等にも好適である。
【0026】
セラミックス成分は、75wt%〜97wt%に設定される。このセラミックス成分が97wt%を超えると、金属成分が少なくなりすぎて強度や靭性が不充分となり、金型10として実用に供することが難しい。一方、セラミックス成分が75wt%未満では、金属量が多くなりすぎて耐熱性や耐摩耗性が著しく劣化するとともに、充分な剛性を有することができず、しかも非磁性化が困難になってしまう。
【0027】
金属量が漸減あるいは漸増する傾斜部42a、42bおよび50の厚さは、数百μm以上、好ましくは0.3mm以上必要である。すなわち、熱の発生や応力の発生によって作用する熱応力や負荷応力を緩和するために、金型10の設計上の要請があるからである。例えば、熱応力について説明すると、金属量と熱伝導および粒子の大きさと熱伝導はそれぞれ相関を有しており、発生する熱応力が熱伝達の勾配であることから、傾斜部42a、42bおよび50の厚さが変化すれば、発生する熱応力そのものも変化する。このため、厚さが数μm〜数十μmでは、発生する熱応力や加工時に生ずる応力の緩和量が小さくなってしまい、耐久性の向上を図ることはできない。
【0028】
傾斜部42a、42bおよび50の厚さは、実用上、大きい方が有効であると考えられるが、実際のパンチ34では、一般的にφ80mm×100mm程度以下であるため、その厚さの上限を20mmに設定する。20mm程度の変化層−傾斜機能層を有していれば、熱応力の発生等を有効に緩和することができ、性能的にも充分であるとともに、製造も簡素化する。
【0029】
金型10を構成するダイ24およびパンチ34の表面硬度は、HRA87以上に設定される。HRA87未満では表面への金属の露出割合が多くなり、ワークと金型10との摩擦係数(μ)が高くなってしまう。これにより、発熱の増大や発生する応力や金型10への負荷応力の増大を招いてしまい、凝着が惹起されるとともにワークの表面荒れの他、金型10自体の摩耗が発生し易くなってしまう。従って、表面硬度をHRA87以上、好ましくはHRA90以上に設定すれば、得られる製品の面粗さや精度が有効に向上するとともに、金型10の寿命も向上するという効果がある。
【0030】
粒成長促進剤は適宜選択されるものであり、例えば、ニッケルが用いられる場合、金型表面硬度をHRA94以上とすることができる。さらに、金型表面に硬質セラミックスコーティングを施せば、従来の超硬材や複合材の金型に比べて表面の金属量が大きく減少しているため、前記硬質セラミックスコーティングの密着性を一挙に向上させることが可能になる。また、ダイ24およびパンチ34の表面では、金属成分の露出量が数%以下であり、セラミックス成分が略100%になる。
【0031】
この場合、本実施形態では、複合材の構成成分であるセラミックス成分が焼結工程で粒子が成長し易いような添加剤を、含浸により供給している。このため、粒成長促進剤の濃度勾配を乾燥工程、含浸の際の溶媒の蒸発速度条件、浸積時間等の条件および焼結時の雰囲気管理や温度管理等によって調整している。これにより、ダイ24およびパンチ34の形状に沿って高硬質層であるセラミックス部40a、40bおよび48や、金属が漸増あるいは漸減する傾斜部42a、42bおよび50を形成することができる。従って、機能および性能が向上して耐久性に優れる金型10を得ることが可能になる。
【0032】
また、本実施形態では、粒成長促進剤としてコバルトまたはニッケルが添加される。粒成長促進剤としては、より好適にはニッケルが用いられ、これによってWC−Co系に比べて非磁性に近くなっている。コバルトが磁性の主体となっており、このコバルトに固溶する炭素量、すなわちカーボン量を減少させることによって磁性が小さくなる。
【0033】
ここで、VIII族元素の鉄、ニッケルおよびコバルトは、全て強磁性体であるが、それぞれの飽和磁化が1735G、509Gおよび1445Gとなっており、ニッケルだけが鉄およびコバルトの1/3の値である。従って、単純にコバルトをニッケルに置換することにより、非磁性が向上することになる。さらに、ニッケル中へのタングステンの固溶量が31%〜10%であるのに対し、コバルト中へのタングステンの固溶量が10%〜2%であり、ニッケルの場合に非磁性の割合がさらに向上する。
【0034】
なお、磁性を向上させるために、クロム、モリブデン、タンタルまたはバナジウム等が添加される。これらが添加されると、製造が容易化されるとともに、固溶して磁気変態点を低下させるため、非磁性がさらに向上することになる。
【0035】
このように、本実施形態では、ダイ24およびパンチ34に用いられる複合材中のセラミックス粒子を、その表面側で粗大化させることにより、表面を略100%のセラミックス成分とする一方、内部に金属を集積する。これにより、硬度、強度および靭性等のほとんど全ての物性が向上するとともに、非磁性の向上を図ることが可能になるという効果が得られる。
【0036】
また、本発明による含浸操作では、非常に希薄な状態から数%の量の粒成長促進剤を成形体に導入することができる。その量は、ニッケルの場合に0.1%〜2.5%の範囲内が好ましい。0.1%未満の添加では充分な粒成長効果が得られず、表面層のセラミックス化や傾斜部の導入および内部への金属の集積化が困難なものとなる。また、2.5%を超える添加では、そのような高い溶解度のものが得られ難く、しかも、機械的な特性も劣化してしまう。
【0037】
なお、金属をコバルト主体からニッケル主体にする際には、逆にコバルトイオンを粒成長制御材として含浸導入すればよい。このコバルト濃度は、ニッケルの含浸量の場合と同じである。
実施例1
実施例1では、平均粒径が3.2μmの炭化タングステン(WC)粉末を82wt%、平均粒径が2μmの炭化ニオブ(NbC)を2wt%、平均粒径が2.4μmの炭化タンタル(TaC)を1wt%、平均粒径が2.5μmの炭化クロム(Cr32)を8wt%、平均粒径が0.8μmの金属コバルト(Co)を7wt%の組成で用意し、有機溶媒を媒液としてボールミルにより72時間充分に混合した(試料A)。上記の組成において、コバルトを4wt%に変えるとともに、ニッケル(Ni)を3wt%加えたもの(試料B)と、コバルトに変えてニッケルを7wt%加えたもの(試料C)とを用意した。さらに、同様の粒度の粉末を用いて炭化タングステンが93wt%およびコバルトが7wt%のものを比較材として調整した。これは、JIS分類における超硬のV−10の組成に相当するものである。
【0038】
上記のように混合した後、含有する有機溶媒の液分が9%になるように調整し、成形用バインダの影響を回避するためにバインダレスで、金型内静水圧加圧成形法により100MPaの成形圧力により焼結後の直径が18mmでかつ長さが150mmになるように成形体を成形した。焼結後の加工取り代は、片面で0.1mm程度に設定した。成形体は、窒素ガス中において50Paの成形圧力によりこの成形体に残存する有機溶媒を除去した後、900℃で30分間の仮焼成を行い、仮焼成体を得た。成形体含浸時の破壊を防ぐためである。
【0039】
次いで、試料A、Bおよび比較材には、粒成長促進剤として取り扱い性、利便性および安全性等を考慮し、10%濃度のNi塩水溶液を用意する一方、試料Cには20%濃度のCo塩を用意し、これらに仮焼成体を浸漬した後に130℃の排気型熱風乾燥で充分に乾燥し、前記仮焼成体内におけるニッケル濃度およびCo濃度の傾斜化を図った。そして、窒素ガス流通下で、50Paの加圧下に1400℃で1.5時間保持し、焼結体を得た。なお、表面層の影響を除去するために、焼結体の表面層を片面0.1mm程度だけ除去し、試験材を得た。
【0040】
そこで、得られた試験材の中、試料Aでは、加工前に0.3mmであった表面均質体層が加工後には0.2mm程度となり、加工前にHRA94.2であった表面硬度が加工後にはHRA93.9となった。この値は、硬質被膜コーティングを施したものに近い値であり、そのまま金型素材として使用することが可能である。
【0041】
試料Bでは、同様に、加工前に0.4mmであった表面均質体層が加工後には0.3mmとなり、加工前にHRA93.7であった表面硬度が加工後にはHRA93.5となった。試料Cでは、加工前に0.8mmであった表面均質体層が加工後には0.7mmとなり、加工前にHRA92.3であった表面硬度が加工後にはHRA92.2となった。
【0042】
これに対して、比較材では、含浸操作を行わない場合に、その表面硬度がHRA87.3という低い値が得られた。また、比較材に10%濃度のNi溶液を含浸して焼結したものでは、加工前に0.3mmであった表面均質体層が加工後には0.2mmとなり、加工前にHRA93.4であった表面硬度が加工後にはHRA93.2という値となった。このため、Niイオンが硬度の改善に対し大きな効果を有するという結果が得られた。
【0043】
図4には、これらの各試験材の表面から内部に向かって変化する硬度の値が示されている。これにより、硬度は、焼結体内部に向かい金属量が増加するのに伴って漸減し、傾斜機能層の厚さが約8mmであることが検出された。
【0044】
次に、試験材の断面を顕微鏡や電子顕微鏡等により観察し、粒子の大きさを測定したところ、試料A、試料Bおよび比較材+Niでは、表面近くの粒子の大きさが初期状態から4倍〜5倍程度に成長していた。また、粒子の大きさは金属量の増加とともに漸減し、中央部では殆ど粒成長しておらず、初期状態での粒度のままであった。試料Cの成長度合いは、試料AおよびBに比べて若干小さく、2.8倍〜3.5倍程度であった。
【0045】
図5は、面積法における表面からの距離と単位面積中の金属量との関係を示している。比較材の最表層は、内部に比べて若干金属量が少ないことが観測されているが、複合材の焼結時に一般的に生じる現象であり、その変化の割合や深さの量は小さく、物性の変更に繋がるものではない。
【0046】
これに対して、試料A、BおよびCでは、表面近傍の金属量が1%以下であって、これらを重量に換算すると、0.5wt%以下となる。図5から諒解されるように、試料A〜Cでは、表面から内部に向かって金属量が漸増するとともに、ニッケル量が多くなるに従って、傾斜が緩くなっている。
【0047】
図6は、試料Aを用いてビッカース圧子を30kgの荷重で押し込んだときのクラックの伸張から測定した破壊靭性値を示している。これにより、試料Aでは、最表面の破壊靭性値が13.6(MPam1/2)となり、比較材に比べて若干低い値であるものの、最表面から0.5mmだけ削り落とした部分の破壊靭性値が17.1(MPam1/2)となって、比較材の値を大きく超える値となった。さらに、最表面から1mmの部分では、破壊靭性値が19.5(MPam1/2)になるとともに、中央部の破壊靱性値が28.4となった。これにより、試料Aでは、比較材に比べて最表面の露出金属量が非常に少ないにも係わらず、靭性がこの比較材や通常の複合材に比べて低下することがない。
【0048】
図7は、ニッケル含浸によるコバルト量と強度との関係を示している。具体的には、試料Aのコバルト量をWC量に変えて20wt%まで変化させ、含浸されるNi濃度を10%と一定にして傾斜化しないように含浸後に紛体中に配置し、水分の蒸発を可能な限り遅くした。現状超硬材とは、ニッケル含浸の操作を行わなかったものをいう。これにより、ニッケルの含浸が行われると、金属コバルト量の増加とともに強度が向上するという結果が得られた。
【0049】
図8は、試験材と現状超硬材との圧縮応力を比較した結果を示している。なお、疲労特性を得られ易いように、Co量を15wt%、初めに添加されるWCの平均粒度を3μmとし、測定時のばらつきや取り付け時の損傷を防止するようにした。これにより、現状超硬材を用いるものに比べ、試験材ではその圧縮応力が大きく向上し、実際上、30%程度の向上が認められた。
【0050】
従って、実施例1では、現状の超硬材やSKD材およびSKH材等に比べ、電子部品製造用の金型10として具備すべきあらゆる特性について凌駕しており、これまでの金型に比べて耐用性や機能の点で大きな向上が図られるという効果が得られる。
【0051】
図9は、各材質により構成されたそれぞれの試験材の表面からの距離と飽和磁気量との関係を示している。試料A〜Cでは、表面近傍の飽和磁気量が非磁性型超硬であるWC−Ni−Cr系材と同等であり、所望の非磁性を有することができた。この測定時には、測定部分を切り出して測定しているため、特に表面では飽和磁気量の値が大きくなるが、実際上、10(4π・Gauss・cm3/g)未満と極めて低い値になった。
実施例2
実施例1で得られた結果に基づいて、実際に金型10を用いて電子部品を製造し、その性能の優位性を試験するために、Niメッキ済みの銅合金の打ち抜き実験を行った。この銅合金は、銅に微量の鉄、ニッケル、鈴およびリンを適量添加した導電性に富む合金である。強度的には、500MPa〜570MPa程度の高強度と、HV160〜170の高硬度を有する合金であり、リードフレームやチップキャリアの他、パワーリレー等にも用いられている。Niメッキは、はんだ性やワイヤボンディング性を向上させるために行われている。
【0052】
その製品形状は、図10に示すチップキャリア60である。この種のチップキャリア60では、通常、リード62の間隔が狭く、金型10は非常に精密に構成されている。チップキャリア60に金型の摩耗粉が付着することを阻止するために、この金型10をセラミックスで構成することが望まれているものの、1個のリード62の間隔が数μmから数十μmと狭く、セラミックスでは対応することができなかった。また、セラミックスコーティングも難しく、通常、金属量を15wt%とした複合材で金型を構成していたが、緻密な部分に作用する圧力がかなり高く、パンチのリード部が疲労破壊したり、摩耗したりしてしまい、その寿命が数万ショット程度となっていた。
【0053】
そこで、実施例2では、平均粒径が3μmの炭化タングステンを85wt%、炭化クロムを6.5wt%、炭化バナジウムを1.5wt%、コバルトを4wt%、ニッケルを3wt%の組成で混合し、粒成長促進剤としてニッケル塩を含浸させて金属量を内部から表面に向かって漸減するようにしたもの(実施例2)と、通常の均質体で構成して粒成長を全く行わせないようにしたものとの2種類を用意した。
【0054】
この実施例2では、表面層の金属成分が5wt%で、その粒子の大きさが10μm〜13μmで、表面硬度がHRA93.2であるとともに、表面の露出金属の割合が1%程度であった。また、実施例2の表面高硬度層は0.2mm〜0.3mmだけ残存しており、金属量が漸減する傾斜部の厚さが約5mmであった。これに対して、均質体構成のものでは、表面硬度がHRA87.8であった。
【0055】
試験は、20サイクル/分の速さで打ち抜き加工を行い、各金型10が所望の精度を維持できずに製品不良が発生するまでの有効ショット数を比較した。その結果、従来の均質体構成のものでは、有効ショット数が18万ショットであり、摩耗によって各フレーム間隔の均質性が維持できなくなった。また、一部には、フレームの山が破損している部分が存在した。
【0056】
これに対して、実施例2では、627,500ショットという結果が得られ、破損した個所はなかった。また、市販のWC−Ni-Cr系の型材では、115,000ショットでフレームの一部が破損していた。これらにより、型の交換目安としては、市販品では80,000ショット、従来の均質体構成では90,000ショット、実施例2では400,000ショットとなり、この実施例2は、前記従来の均質体構成のものに比べて4倍以上の耐久性の向上が得られたことになる。
【0057】
【発明の効果】
本発明に係る電子部品製造用複合材製金型では、金型内部から金型表面に向かうに従って複合材中の金属成分の割合が漸減するため、実際に加工を行う金型表面部分が高硬度でかつ耐摩耗性を有する一方、金型内部が高靱性かつ高強度を有するとともに、この間の組成や物性が緩やかに変化する。これにより、耐用性に優れるとともに、製品精度の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る電子部品製造用複合材製金型の縦断面説明図である。
【図2】前記金型を構成するダイの横断面図である。
【図3】前記金型を構成するパンチの横断面図である。
【図4】焼結体の内部硬度変化の説明図である。
【図5】表面からの距離と断面金属量変化の説明図である。
【図6】表面からの距離と破壊靭性値の関係説明図である。
【図7】ニッケル含浸量と硬度との関係説明図である。
【図8】サイクル数と圧縮応力との関係説明図である。
【図9】含浸処理による非磁性効果の説明図である。
【図10】成形テストに用いられるチップキャリアの説明図である。
【符号の説明】
10…金型 12…ストリップ
14…孔あけ部 16…送りパイロット部
18…検出パイロット部 24、26、28…ダイ
34…パンチ 36、38…パイロット
40a、40b、48…セラミックス部
42a、42b、50…傾斜部 44、46…金属部

Claims (6)

  1. 少なくともダイまたはパンチの一方が、WC、TiC、Mo 2 C、TaC、NbC、Cr 3 2 またはVCの中から選択される少なくとも1種以上のセラミックス成分と、Fe、NiまたはCoを主成分とする金属成分とを含み、かつ、セラミックス量が、75wt%≦WC+TiC+Mo 2 C+TaC+NbC+Cr 3 2 +VC≦97wt%に設定されるとともに、その内部から表面あるいは表層に向かうに従って前記金属成分の割合が漸減し、前記表面では前記セラミックス成分のみが露出する複合材で構成されていることを特徴とする電子部品製造用複合材製金型。
  2. 請求項1記載の金型において、前記金属成分の割合が漸減する傾斜部の厚さは、0.3mm以上に設定されることを特徴とする電子部品製造用複合材製金型。
  3. 請求項1または2記載の金型において、前記複合材の表面硬度が、HRA87以上であることを特徴とする電子部品製造用複合材製金型。
  4. 請求項1乃至のいずれか1項に記載の金型において、前記複合材の表面部には、少なくともダイまたはパンチの一方の形状に沿ったセラミックスリッチな高硬質層が設けられることを特徴とする電子部品製造用複合材製金型。
  5. 請求項1乃至のいずれか1項に記載の金型において、前記複合材の飽和磁気量は、10(4π・Gauss・cm3/g)未満であることを特徴とする電子部品製造用複合材製金型。
  6. 請求項1乃至のいずれか1項に記載の金型において、粒成長剤としてNiまたはCoが添加されるとともに、前記複合材中の前記Niまたは前記Coの残存量が0.3%〜2.5%であることを特徴とする電子部品製造用複合材製金型。
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