JP4176890B2 - カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス由来の修飾dnaポリメラーゼ並びに連結させた逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応におけるその使用 - Google Patents

カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス由来の修飾dnaポリメラーゼ並びに連結させた逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応におけるその使用 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス(Carboxydothermus hydrogenoformans)から得られる天然ポリメラーゼに由来する、逆転写酵素活性を有するが5'→3'エキソヌクレアーゼ活性が低い修飾DNAポリメラーゼに関する。
さらに、本発明は、分子生物学の分野に関するものであり、逆転写酵素活性を有する酵素を用いてRNA鋳型からDNAセグメントを増幅させる方法(RT−PCR)を提供する。別の態様として、本発明は、Coupled High Temperature Reverse Transcription and Polymerase Chain Reaction(連結させた高温での逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応)のためのキットを提供する。
【0002】
【従来の技術】
熱安定DNAポリメラーゼ(EC2.7.7.7.DNAヌクレオチジルトランスフェラーゼ、DNA指向性)は、多数の好熱性生物から単離されている[例えば、Kaledinら (1980) Biokhimiya 45, 644-651;Kaledinら (1981) Biokhimiya 46, 1576-1584;Kaledinら (1982) Biokhimiya 47, 1785-1791;Ruttimannら (1985) Eur. J. Biochem. 149, 41-46;Neunerら (1990) Arch. Microbiol. 153, 205-207]。
【0003】
ある幾つかの生物では、ポリメラーゼ遺伝子がクローニングされ発現されている[Lawyerら (1989) J. Biol. Chem. 264, 6427-6437;Engelkeら (1990) Anal. Biochem. 191, 396-400;Lundbergら (1991) Gene 108, 1-6;Perlerら (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 5577-5581]。
好熱性DNAポリメラーゼは次第に分子生物学において用いられる重要な道具になってきており、RNAおよびDNAの診断的検出、遺伝子クローニング並びにDNA配列決定での使用にさらに好適な特性および活性を有する新規なポリメラーゼの発見に関心が高まっている。現在、これらの目的のために最も多く用いられている好熱性DNAポリメラーゼはテルムス(Thermus)種由来のものであり、例えばT.アクアティカス(T. aquaticus)由来のTaqポリメラーゼが挙げられる[Brockら (1969) J. Bacteriol. 98. 289-297]。
【0004】
「逆転写酵素」という用語は、RNA指向性DNAポリメラーゼとして特性付けられるポリメラーゼの1つのクラスを意味するものである。既知の逆転写酵素は全て、RNA鋳型からDNA転写物を合成するのにプライマーを必要とする。従来、逆転写酵素は、主にmRNAをcDNAへと転写するのに用いられてきた(このcDNAは、次いで、さらに操作を行うためにベクターにクローニングできる)。
逆転写は通常、ウイルス由来の逆転写酵素、例えばトリ骨髄芽球症(Avian myeloblastosis)ウイルスまたはモロニーマウス白血病ウイルスから単離された酵素を用いて行われる。これら2つの酵素はマグネシウムイオンの存在下で活性であるが、RNase H活性(逆転写反応の間に鋳型RNAを破壊する活性)を有するという欠点があり、最適温度はそれぞれ約42℃または37℃である。トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)逆転写酵素は広範に用いられた最初のRNA依存性DNAポリメラーゼである[Verma (1977) Biochem. Biophys. Acta 473,1]。この酵素は、5'→3'RNA指向性DNAポリメラーゼ活性、5'→3'DNA指向性DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有する。RNase Hは、RNA−DNAハイブリッドのRNA鎖に特異的な連続移動性の5'→3'リボヌクレアーゼである[Perbal (1984), A Practical Guide to Molecular Cloning, Wiley& Sons New York]。既知のウイルス由来の逆転写酵素には、プルーフリーディングに必要な3'→5'エキソヌクレアーゼ活性がないので、転写の間違いは修正できない[SaundersおよびSaunders (1987) Microbial Genetics Applied to Biotechnology, Croom Helm, London]。AMV逆転写酵素の活性およびその関連のRNase Hの活性の詳細な研究は、Bergerら, (1983) Biochemistry 22, 2365-2372に報告されている。
【0005】
中温度好性の微生物(例えば、大腸菌)から単離されたDNAポリメラーゼは、詳細に特性付けられている[例えば、Bessmannら(1957) J. Biol. Chem. 233, 171-177;並びにButtinおよびKornberg(1966) J. Biol. Chem. 241, 5419-5427を参照]。大腸菌(E. coli)DNAポリメラーゼI(PolI)は多数の用途に有用であり、例えば、ニックトランスレーション反応、DNA配列決定、in vitro突然変異誘発、第二鎖cDNA合成、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびリンカー連結のための平滑末端形成が挙げられる[Maniatisら, (1982) Molecular Cloning: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor, New York]。
【0006】
幾つかの研究グループにより、或る特定のポリメラーゼがRNAをin vitroで逆転写できることが示されている[Karkas (1973) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 70, 3834-3838;Gulatiら,(1974) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 71, 1035-1039;並びにWittigおよびWittig(1978) Nuc. Acids Res. 5, 1165-1178]。Gulatiらは、大腸菌PolIが、オリゴ(dT)10をプライマーとして用いるQβウイルスRNAの転写に使用できることを見出した。WittigおよびWittigは、大腸菌PolIを用いて、酵素的にオリゴ(dA)で伸長してあるtRNAを逆転写することができることを示した。しかしながら、Gulatiらが実証しているように、必要とされる酵素の量やcDNA産物のサイズが小さいことから、大腸菌PolIの逆転写酵素活性はあまり実用に値しないものであることが示唆される。
【0007】
高温で活性な好熱性生物のDNAポリメラーゼの逆転写酵素活性を用いる別の方法が記載されている。高温での逆転写は、生成物の不完全な状態での終結をもたらし得るRNA鋳型の二次構造を克服するのに有利である。逆転写酵素活性を有する熱安定DNAポリメラーゼは、一般にテルムス種から単離される。しかしながら、これらのDNAポリメラーゼは、マンガンイオンの存在下でのみ逆転写酵素活性を示す。これらの反応条件は最適条件から外れている。何故ならば、マンガンイオンの存在下では、該ポリメラーゼは鋳型RNAをあまり忠実に複写しないからである。
【0008】
一般的に用いられている逆転写酵素のもう1つの特徴は、3'→5'エキソヌクレアーゼ活性を含まないことである。したがって、間違って取り込まれたヌクレオチドは取り除くことができず、そのため鋳型RNAからのcDNA複写物は、かなりの突然変異を含む可能性がある。
高い逆転写酵素活性を有する既知のDNAポリメラーゼの1つは、テルムス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)から得ることができる(Tthポリメラーゼ)(WO91/09944)。Tthポリメラーゼは、Taqポリメラーゼと同様に、3'→5'のエクソヌクレアーゼ分解によるプルーフリーディング活性がない。この3'→5'エキソヌクレアーゼ活性は、新たに合成された核酸配列中の間違って取り込まれた、または対合しない塩基の除去を可能にするという理由から、一般に好ましいと考えられている。サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)から単離されたもう1つの好熱性polI型DNAポリメラーゼ(Tma pol)は、3'→5'エキソヌクレアーゼ活性を有する。米国特許第5,624,833号では、Tmaポリメラーゼを単離および製造するための手法が提供されている。しかしながら、これら2つのDNAポリメラーゼ(つまり、TthポリメラーゼおよびTmaポリメラーゼ)はマンガンイオンの存在下でしか逆転写酵素活性を示さない。
【0009】
カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス(Carboxydothermus hydrogenoformans)のDNAポリメラーゼは、マグネシウムイオンの存在下かつ実質的にマンガンイオンの不在下で逆転写活性を示すものであり、RNAの逆転写、(Taqのような熱安定DNAポリメラーゼと組合せて)RNAの特定の配列の検出および増幅に用いることができる。カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスのDNAポリメラーゼを用いた場合、短いインキュベーション時間で特異性の高い転写が観察される。例えば、5分のインキュベーション時間および33ユニットのDNAポリメラーゼタンパク質を用いた場合、高い特異性が観察される。インキュベーション時間を長くした場合にも、より少量のカルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス・ポリメラーゼで特異的生成物を得ることができる。しかしながら、非特異的な生成物のスメア(smear)が生じる。これらの非特異的な生成物は、酵素が二次構造で鋳型を開裂させ(すなわち、「RNase H」活性)、かつDNAポリメラーゼ活性により伸長され得るもう1つのプライマーを作製できるようにする、というポリメラーゼの5'→3'エキソヌクレアーゼ活性が原因かもしれない。カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス由来の熱安定DNAポリメラーゼは同定およびクローニングされており、同時係属中の欧州特許出願第96115873.0号(1996年10月3日出願)に記載されている(これを引用により本明細書に組み入れる)。
【0010】
つまり、MoMULV-RTまたはAMV-RTなどの逆転写酵素は、マグネシウムイオンの存在下で逆転写を行う。しかしながら、これらの酵素は37℃〜55℃の温度で作用する。高温での逆転写では、鋳型における二次構造が克服されて、不完全な状態での反応の終結が回避され、かつ欠失のないcDNAが確実に作製されるので、そのような高温での逆転写は望ましいであろう。
【0011】
テルムス種から得られるDNAポリメラーゼのような他の酵素は、マンガンイオンの存在下で70℃以下の温度で逆転写酵素として作用する。これらの反応条件は最適条件から外れている。何故ならば、マンガンイオンの存在下では、ポリメラーゼは鋳型RNAをあまり忠実には複写せず、RNA鎖は分解されるからである。RNA鎖の分解は、マグネシウムイオンと同様に、マンガンイオンの存在下においてより速く起こる。したがって、マンガンイオンが存在する場合には、cDNA合成を行った後で、(例えば、EDTAを用いて)マンガンイオンを錯体化(Complexation)して、後続するPCR反応でのcDNA増幅において高い忠実度を達成することが必要となる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、以下のような逆転写酵素を開発することが望まれる。
・高温で作用して鋳型における二次構造を克服することにより、不完全な状態での反応の終結を回避し、かつ欠失のないcDNAを確実に作製する逆転写酵素;
・cDNAをRNA鋳型から高い忠実度で作製するために、マグネシウムイオンの存在下で活性である逆転写酵素;
・DNA合成を継続する前に間違って取り込まれたヌクレオチドを取り除き、そして変異頻度の低い生成物を得るために、3'→5'エキソヌクレアーゼ活性を有する逆転写酵素;および
・高い特異性を有し、かつ特異的なプライマーの結合から誘導される逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(以下、「RT−PCR」と呼ぶ)産物を優先的に生ずる逆転写酵素。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記のニーズに応えるものであり、マグネシウムイオンの存在下で逆転写酵素活性を有し、かつ3'→5'エキソヌクレアーゼ活性を有するが5'→3'活性は低いかまたは全くない、高温で活性なDNAポリメラーゼ変異体(mutant)を提供する。
本発明の目的は、ポリメラーゼ酵素(EC.2.7.7.7.)を提供することであり、該酵素は、マグネシウムイオンの存在下並びにマンガンイオンの存在下で逆転写酵素活性を有することを特徴とする。別の態様において、本発明は、3'→5'エキソヌクレアーゼ活性を有するが5'→3'活性が低いDNAポリメラーゼを包含する。本発明による酵素は、カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス(Deutsche Sammlung von Mikrooorganismen und Zellkulturen GmbH, Mascheroder Weg 1b, D-38124 Braunschweig, DSM No. 8979)由来のポリメラーゼから得ることができる。さらに別の態様において、本発明は、マグネシウムイオンの存在下かつ実質的にマンガンイオンの不在下で逆転写酵素活性を有するが、5'→3'エキソヌクレアーゼ活性が低いDNAポリメラーゼに関する。別の態様において、本発明は、SDSPAGE分析で測定した分子量が約64〜71kDaのDNAポリメラーゼを包含する。カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスから得られるポリメラーゼ由来の、5'→3'エキソヌクレアーゼ活性が低いこの変異型のポリメラーゼ酵素を、以後、ΔChyポリメラーゼと呼ぶ。別の態様において、本発明は、ΔChyポリメラーゼのDNAポリメラーゼ活性をコードする組換えDNA配列を包含する。これに関連する態様において、該DNA配列は配列番号10(図1)として示される。第2の関連する態様において、本発明は、本質的にアミノ酸残基1〜607(配列番号11、図1)をコードする組換えDNA配列を包含する。別の態様において、本発明は、プラスミドベクターに挿入された本発明のDNA配列を含んでなる組換えDNAプラスミドであって、該プラスミドで形質転換された宿主細胞中での該ΔChy DNAポリメラーゼの発現を駆動するのに用い得る該組換えDNAプラスミドを包含する。別の態様において、本発明は、ΔChy DNAポリメラーゼ遺伝子を担持するベクターpDS56(p(2-225AR4と命名)を含んでなる組換え株を包含する。このプラスミドp(2-225AR4を担持する大腸菌(E. coli)XL1株は、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(Mascherorder Weg 1b, D-38124 Braunschweig)にDSM No. 11854(BMTU 7307)として寄託されているものであり、大腸菌GA1と命名されている。
【0014】
【発明の実施の形態】
「実質的にまたは有効に」一連のアミノ酸を含んでなるペプチド鎖をいう場合、該ペプチド鎖からなるタンパク質の全体の構造および全体の機能が置換されていないものと実質的に同じであるか、または検出不可能な程度にしか相違しないような1個以上のアミノ酸の置換を含むペプチド鎖のあらゆる改変体(version)を含む。例えば、一般に、特に置換部位が折り畳まれたタンパク質の形態にとって重要でない位置にある場合には、ペプチドの特性を大きく改変することなしにアラニンおよびバリンを置換することが可能である。
【0015】
3'→5'エキソヌクレーゼ活性は一般に、DNAポリメラーゼの「プルーフリーディング」または「エディティング」活性と呼ばれる。この活性は、A型ポリメラーゼのラージフラグメントのスモールドメインに位置する。この活性により、ヌクレオシド三リン酸の不在下では、間違って対合したヌクレオチドがDNAのプライマー末端の3′末端から取り除かれる[Kornberg A.およびBaker T.A. (1992) DNA Replication W. H. Freemann & Company, New York]。デオキシヌクレオシド三リン酸が鋳型と対合して重合体に取り込まれると、このヌクレアーゼ作用は該デオキシヌクレオシド三リン酸によって抑制される。
【0016】
本発明のDNAポリメラーゼの3'→5'エキソヌクレアーゼ活性は、デオキシリボヌクレオシド三リン酸の存在下または不在下で鋳型DNAにアニーリングした5'-ジゴキシゲニン標識オリゴヌクレオチドの分解または短鎖化(shortening)として測定できるか、またはデオキシリボヌクレオシド三リン酸の存在下または不在下でのDNA断片で測定できる。
【0017】
カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス由来のDNAポリメラーゼは、マンガンイオンの存在下よりもマグネシウムイオンの存在下での方が高い活性を有する、好熱性真性細菌(eubacteria)から単離された最初のDNAポリメラーゼである(図2参照)。DNAポリメラーゼは、マンガンの存在下よりもマグネシウムの存在下での方が高い忠実度でDNAを合成するので、マグネシウム依存性の逆転写酵素活性は有利である(Beckmann R.A.ら (1985) Biochemistry 24, 5810-5817;Ricchetti M.およびBuc H. (1993) EMBO J. 12, 387-396)。DNA合成の忠実度が低いと、元の鋳型が突然変異した状態で複写されてしまう可能性が生じる。さらに、Mn2+イオンは、特に高温におけるRNA分解速度の増大に関与しており、このことにより逆転写反応で合成される生成物が短くなる可能性がでてくる。
【0018】
ΔChyポリメラーゼのDNA配列(配列番号10)および誘導される該酵素のアミノ酸配列(配列番号11)を図1に示す。この配列から推定される分子量は70.3kDa(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動による)であるが、ΔChyポリメラーゼの電気泳動移動度は約65kDaである。
ΔChy DNAポリメラーゼは5'→3'エキソヌクレアーゼ活性が低く、最適温度が72℃であり、50℃〜75℃の温度で逆転写酵素活性を示す。
カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス由来の、5'→3'エキソヌクレアーゼ活性が低いΔChy DNAポリメラーゼをRT−PCRで逆転写酵素として用い、続いてTaqポリメラーゼをPCR酵素として用いてPCR反応を行った場合、相当高い感度(sensitivity)が達成される(図3)。RT−PCRにおけるΔChy DNAポリメラーゼの感度は、例えばテルムス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)由来のDNAポリメラーゼ(Tthポリメラーゼ)の感度よりも高い(実施例3、図4)。ΔChy DNAポリメラーゼはまた、ヒト筋肉の全RNA由来の1.83kB断片を増幅することによっても高い感度を示す(図5)。ΔChy DNAポリメラーゼの誤差率は1サイクル当たり1.58×10-4個の突然変異/ヌクレオチドであり、Tthポリメラーゼの誤差率(1サイクル当たり2.37×10-4個の突然変異/ヌクレオチド)よりも低い。したがって、ΔChy DNAポリメラーゼの忠実度はTthポリメラーゼと比較して高いことがわかる。
【0019】
カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスは、V.Svetlichnyによりカムチャッカ半島にある高温の温泉から単離された。C.ヒドロゲノフォルマンスのサンプルはブタペスト条約に基づいてDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH (DSM)に寄託され、受託番号DSM 8979を受けた。カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスから単離されたこの熱安定ポリメラーゼは、分子量が100〜105kDaである。この熱安定酵素は、5'→3'ポリメラーゼ活性、3'→5'エキソヌクレアーゼ活性およびMg++依存性の逆転写酵素活性を有する。この熱安定酵素は天然のものでも組換え体であってもよく、第一鎖および第二鎖cDNA合成、cDNAクローニング、DNA配列決定、DNA標識化およびDNA増幅に用い得る。
【0020】
天然のタンパク質を回収するためには、C.ヒドロゲノフォルマンスを任意の適切な技術(例えば、Svetlichnyら(1991) System. Appl. Microbiol. 14, 205-208に記載されている技術)を用いて増殖させればよい。細胞を増殖させた後、該酵素を単離・精製するための好ましい方法の1つは、以下のような多段階法を用いて達成される。
【0021】
すなわち、細胞を融解(解凍)し、緩衝液A(40mM Tris-HCl, pH 7.5, 0.1mM EDTA, 7mM 2-メルカプトエタノール, 0.4M NaCl, 10mM Pefabloc)に懸濁し、Gaulinホモジナイザーに2回かける(twofold passage)ことにより溶解させる。この粗抽出物を遠心分離により清澄化し、上清を緩衝液B(40mM Tris-HCl, pH 7.5, 0.1mM EDTA, 7mM 2-メルカプトエタノール, 10%グリセロール)で透析し、Heparin-Sepharose(Pharmacia)を充填したカラムにかける。いずれの場合も、カラムは開始溶剤で平衡化し、サンプルをかけた後、その容量の3倍容量の該溶剤で洗浄する。第1のカラムにおける溶出は、0〜0.5M NaCl(緩衝液B中)の直線勾配を用いて行う。ポリメラーゼ活性を示す画分をプールし、硫酸アンモニウムを最終濃度20%となるように添加する。この溶液を、ブチル-TSK-Toyopearl(TosoHaas)を含む疎水性カラムにかける。硫酸アンモニウムを20%から0%へと勾配降下させることによりこのカラムにおける溶出を行う。活性を示すプールを透析し、再度DEAE-Sepharose(Pharmacia)のカラムに移し、0〜0.5M NaCl(緩衝液B中)の直線勾配で溶出させる。4番目のカラムはTris-Acryl-Blue(Biosepra)を含み、これを先のようにして溶出させる。最後に、活性を示す画分を緩衝液C(20mM Tris-HCl, pH 7.5, 0.1mM EDTA, 7.0mM 2-メルカプトエタノール, 100mM NaCl, 50%グリセロール)で透析する。
【0022】
DNAポリメラーゼ活性は、ジゴキシゲニン標識dUTPを合成DNAに取り込ませ、取り込まれたジゴキシゲニンを本質的にHoltke, H.-J; Sagner, G.; Kessler, C.およびSchmitz, G.(1992) Biotechniques 12, 104-113に記載の方法に従って検出・定量することにより測定した。反応は、1(lまたは2(lの希釈(0.05U〜0.01U)DNAポリメラーゼ、並びに50mM Tris-HCl (pH 8.5)、 12.5mM (NH4)2SO4、10mM KCl、5mM MgCl2、10mM 2-メルカプトエタノール、33(M dNTP類、200(g/mlBSA、12(gのウシ胸腺由来のDNAseI活性化DNAおよび0.036(M ジゴキシゲニン-dUTPを含有する50(lの反応容量で行う。
【0023】
サンプルを72℃で30分間インキュベートし、2(lの0.5M EDTAを添加することにより反応を停止させ、試験管を氷上に静置する。8(lの5M NaClおよび150(lのエタノール(予め−20℃に冷却してあるもの)を添加した後、氷上で15分間インキュベートすることによってDNAを沈殿させ、4℃にて13000×rpmで10分間遠心分離することによりペレット化する。このペレットを100(lの70%エタノール(予め−20℃に冷却してあるもの)および0.2M NaClで洗浄し、再度遠心分離し、減圧乾燥させる。
【0024】
ペレットを50(lのTris-EDTA(10mM/0.1mM;pH 7.5)に溶解する。サンプルの5(lを、ナイロン膜が底部に敷いてある白色マイクロタイタープレート(Pall Filtrationstechnik GmbH, Dreieich, FRG,製品番号SM045BWP)のウエルにスポットする。70℃で10分間焼き付けること(baking)によりDNAを該膜に固定する。DNAがロードされたウエルを100(lの0.45(m濾過済み1%ブロック溶液(100mM マレイン酸、150mM NaCl、1%(w/v)カゼイン、pH 7.5)で満たす。以下のインキュベーション工程は全て、室温で行う。2分間インキュベートした後、溶液を適切な真空マニホルドを用いて−0.4Barで吸引濾過する。洗浄工程を繰り返した後、ウエルを、上記のブロック溶液で希釈率1:10000で希釈した抗ジゴキシゲニン-AP、Fab断片(Boehringer Mannheim, FRG, No.1093274)100(lで満たす。2分間インキュベートし吸引した後、この工程をもう1度繰り返す。ウエルを、減圧下で、それぞれ200(lの洗浄用緩衝液1[100mM マレイン酸、150mM NaCl、0.3%(v/v)TweenTM 20、pH 7.5]で2回洗浄する。減圧下でそれぞれ200(lの洗浄用緩衝液2(10mM Tris-HCl、100mM NaCl、50mM MgCl2、pH 9.5)でさらに2回洗浄した後、ウエルを、洗浄用緩衝液2で1:100の希釈率で希釈した50(lのCSPDTM(Boehringer Mannheim、No.1655884)と共に5分間インキュベートし、これをアルカリホスファターゼのための化学発光基質として用いる。この溶液を吸引濾過し、10分間インキュベートした後、MicroLumat LB96P(EG& G Berthold, Wilbad, FRG)のような発光測定装置でRLU/s(相対光単位/秒)を検出する。
【0025】
Taq DNAポリメラーゼの一連の希釈物を用いて検量線を作製する。この検量線の直線範囲が分析対象のDNAポリメラーゼの活性測定の基準(standard)として役立つ。
逆転写酵素活性の測定は、本質的にDNAポリメラーゼ活性の測定について記載したようにして行うが、但し、反応混合物が以下の成分からなる点が異なる。すなわち、1(gのポリdA-(dT)15、33(MのdTTP、0.36(Mのジゴキシゲニン−dUTP、200mg/mlのBSA、10mMのTris-HCl(pH 8.5)、20mM KCl、5mM MgCl2、10mM DTE、および各種の量のDNAポリメラーゼ。用いるインキュベーション温度は50℃とする。
【0026】
カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスからの組換えDNAポリメラーゼの単離は、同様のプロトコールによって行ってもよく、または他の通常用いられる操作によって行ってもよい。
カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス由来DNAポリメラーゼの組換え体の製造には一般的に以下の工程が含まれる。すなわち、細胞を界面活性剤(例えば、SDS)およびプロティナーゼ(例えば、プロティナーゼK)で処理することによりカルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス由来の染色体DNAを単離する。この溶液をフェノールおよびクロロホルムで抽出し、DNAをエタノール沈殿により精製する。このDNAをTris/EDTA緩衝液に溶解し、DNAポリメラーゼをコードする遺伝子を、PCR法により2つの混合オリゴヌクレオチド(プライマー1およびプライマー2)を用いて特異的に増幅させる。これらのオリゴヌクレオチド(それぞれ、配列番号1および2に示す)は、Braithwaite D.K.およびIto J. (1993) Nucl. Acids Res. 21, 787-802に公表されているDNAポリメラーゼのファミリーAの保存領域に基づいて設計した。特異的に増幅させた断片をベクター[好ましくは、pCRTM IIベクター(Invitrogen)]に連結し、サイクルシークエンス法により配列を決定する。DNAポリメラーゼ遺伝子のコード領域およびフランキング配列の完全な単離は、第1回目のスクリーニングで行うような別の制限酵素を用いたカルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスDNAの制限断片化および逆PCR[Innisら, (1990) PCR Protocols; Academic Press, Inc. 219-227]により行うことができる。これは、遺伝子部分の外側のDNA配列に逆向きに結合している合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて達成できる。配列番号3および4に示すこれらのオリゴヌクレオチドは、上記の第1回PCRの産物の配列決定により決定された配列に基づいて設計した。鋳型としては、制限消化により切断し、そしてT4DNAリガーゼと接触させることにより環状化したカルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス由来のDNAが用いられる。全ポリメラーゼ遺伝子のコード領域を単離するために、配列番号5および6に示すプライマーを用いて更にPCRを行う。完全DNAポリメラーゼ遺伝子は、線状にした発現ベクターに適合する末端を導入するのに適するプライマーを用いて、ゲノムDNAから直接増幅する。
【0027】
配列番号1:
プライマー1:5'-CCN AAY YTN CAR AAY ATH-3'
配列番号2:
プライマー2:5'-YTC RTC RTG NAC YTG-3'
配列番号3:
プライマー3:5'-GGG CGA AGA CGC TAT ATT CCT GAG C-3'
配列番号4:
プライマー4:5'-GAA GCC TTA ATT CAA TCT GGG AAT AAT C-3'
配列番号5:
プライマー5:5'-CGA ATT CAA TCC ATG GGA AAA GTA GTC CTG GTG GAT-3'
配列番号6:
プライマー6:5'-CGA ATT CAA GGA TCC TTA CTT CGC TTC ATA CCA GTT-3'
遺伝子は、原核生物または真核生物の宿主/ベクター系の発現に適切な調節配列と作動可能なように連結する。ベクターは、好適な宿主の形質転換および該宿主中での維持に必要な全ての機能をコードすることが好ましく、選択マーカーおよび/またはポリメラーゼ発現のための調節配列を含み得る。活性な組換え熱安定ポリメラーゼは、形質転換宿主培養により、連続的に、または発現を誘発した後で製造できる。活性な熱安定ポリメラーゼは、宿主細胞から回収できるか、このタンパク質が細胞膜を通って分泌される場合には培養培地から回収できる。
【0028】
適切なベクターとしてプラスミドを用いることは有利であることが判明しており、特にpDS56[Stuber, D., Matile, H.およびGarotta, G. (1990) Immunological Methods, Letkovcs, I.およびPernis, B.編]が有利である。ここで、カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスDNAポリメラーゼ遺伝子を担持しているプラスミドをpAR4と命名する。
【0029】
本発明によれば、大腸菌BL21株(DE3)pUBS520[Brinkmannら, (1989) Gene 85, 109-114]を用いることが有利であることが判明している。ここで、プラスミドpAR4で形質転換されている大腸菌BL21株(DEB)pUBS520をAR96(DSM No.11179)と命名する。
突然変異ΔChyは、逆PCR[Innisら, (1990) PCR Protocols; Academic Press, Inc. 219-227頁]を用いて組換え野生型カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスDNAポリメラーゼのN末端断片を欠失させることにより得た。
用いたリバースプライマーは、発現ベクターpDS56[Stuber, D., Matile, H.およびGarotta, G.(1990) Immunogical Methods, Letkovcs, I.およびPernis, B.編]のNoco I制限部位(塩基120〜151)におけるクローニング部位において相補性を示し、以下の配列を有するものである。
【0030】
配列番号7:
プライマー7:5'-CGG TAA ACC CAT GGT TAA TTT CTC CTC TTT AAT GAA TTC-3'
このプライマーは、後で行う制限酵素切断においてNco I制限酵素のより良好な結合を確実にするために、5′末端に追加の7塩基を含んでいる。第2の(フォワード)プライマーは、野生型遺伝子の塩基676〜702と相補性を示し、以下の配列を有するものである。
【0031】
配列番号8:
プライマー8:5'-CGG GAA TCC ATG GAA AAG CTT GCC GAA CAC GAA AAT TTA-3'
このフォワードプライマーもまた、5′末端に追加のNco I制限部位および追加の7塩基を含むものであった。カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスのポリメラーゼ遺伝子をNco I/Bam HI制限部位に含むプラスミドpDS56のDNAをPCRの鋳型として用いた。このPCR反応は、環状プラスミドpAR4上で行った。突然変異させたカルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスDNAポリメラーゼ(ΔChy)をコードする断片およびベクターDNAを、PCRによりExpand High Fidelity PCR System(Boehringer Mannheim)を用いて製造業者の説明書に従って、線状DNAとして増幅させた(図7)。ΔChyをコードする遺伝子の長さは1821bpである。
【0032】
増幅(Perkin Elmer GenAmp 9600サーモサイクラー)は以下の条件で行った:94℃で2分;[94℃で10秒、65℃で30秒、68℃で4分]×10;[94℃で10秒、65℃で30秒、68℃で4分+各サイクルについて20秒のサイクル延長]×20;72℃で7分。
PCRを行った後、増幅したDNAをHigh Pure PCR Product Purification Kit(Boehringer Mannheim)を用いて精製し、Nco I(3U/(gDNA)(Boehringer Mannheim)で製造業者の説明書に従って16時間消化した。
【0033】
フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(24:24:1)で抽出するために、サンプルの容量をTEを用いて100(lに増やした。抽出した後、1/10倍容量の3M酢酸ナトリウム(pH 5.2)および2倍容量のエタノールを添加することによりDNAを沈殿させた。Rapid DNA Ligation Kit(Boehringer Mannheim)を用いて製造業者の説明書に従ってDNAを環状化させた。連結した生成物を、Chung, C.T.ら(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 2172-2175の操作に従って形質転換することにより大腸菌XL1-Blueに導入した。形質転換体を、100(g/mlのアンピシリンを含有するL寒天培地にプレートして、組換え体を選択した。コロニーを拾い、100(g/mlのアンピシリンを含有するLブロス培地で増殖させた。プラスミドDNAを、High Pure Plasmid Isolation Kit(Boehringer Mannheim)を用いて製造業者の説明書に従って調製した。このプラスミドを、Nco I/Bam HIでの消化により、挿入についてスクリーニングした。対象の遺伝子を含む株を、100(g/mlのアンピシリンを補充したLブロス培地で増殖させ、そして1mM IPTGを用いて指数関数的に増殖する培養物を誘発し、上記(DNAポリメラーゼ活性の測定および逆転写酵素活性の測定)のようにして熱処理(72℃)した抽出物をDNAポリメラーゼ/逆転写酵素活性についてアッセイすることによりDNAポリメラーゼ/逆転写酵素活性の発現について調べた。
【0034】
本発明は、RNAを効率的に転写し、RNAまたはDNAを増幅するための改善された方法を提供するものである。これらの改善は、逆転写酵素活性を有する熱活性DNAポリメラーゼの従来知られていなかった特性を発見し適用することにより達成される。
本発明の酵素は、その酵素活性が必要とされるかまたは所望されるあらゆる目的のために用いることができる。特に好ましい態様において、本発明の酵素は、RT−PCR[Powellら, (1987) Cell 50, 831-840]として知られる増幅反応に存在する第2のDNAポリメラーゼによってDNAとして増幅されるRNAの逆転写を触媒する。所望の特定の核酸配列を含んでいるかまたは含んでいると思われるという条件の元に、あらゆるリボ核酸配列(精製または非精製の形態で)が出発核酸として利用できる。増幅させる核酸は如何なる供給源からも得ることができ、例えば、pBR322のようなプラスミド、クローニングしたRNA、任意の起源(例えば、細菌、酵母、ウイルス、オルガネラ、および植物や動物のような高等生物)に由来する天然のRNA、またはin vitroで製造された核酸の調製物から得ることができる。
【0035】
RNAは、血液、組織材料(例えば、絨毛膜の絨毛)または羊膜細胞から種々の技術によって抽出できる。例えば、Maniatisら, (1982) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York)280-281頁を参照されたい。したがって、本発明の方法は、例えば、メッセンジャーRNAを含むRNAを用いることができ、そのRNAは一本鎖であっても二本鎖であってもよい。さらに、それぞれの1つの鎖を含むDNA−RNAハイブリッドも利用できる。
【0036】
RNAからの標的配列の増幅は、分析対象の核酸のサンプル中の特定の配列の存在を証明するために、または特定の遺伝子をクローニングするために行うことができる。ΔChy DNAポリメラーゼは、これらの目的には非常に有用である。ΔChy DNAポリメラーゼは、その3'→5'エキソヌクレアーゼ活性により、現在の技術水準の逆転写酵素と同等の高い正確度で生成物を合成することができる。
【0037】
ΔChy DNAポリメラーゼはまた、サンプル中のRNA標的分子を検出する方法の簡易化および改善にも用いることができる。これらの方法において、カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス由来のΔChy DNAポリメラーゼは、(a)逆転写および(b)第二鎖のcDNAの合成を触媒できる。カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマン由来のDNAポリメラーゼの使用は、RNAの逆転写、およびそれにより得られた相補的DNAの増幅を、従来のRNAクローニングおよび診断方法よりも増大した特異性および少ない工程数で行うのに使用できる。
【0038】
本発明の別の態様は、RNAを1段階反応で検出および増幅するため、または鋳型RNAを逆転写した後でそのcDNA産物を増幅するための、ΔChyポリメラーゼと、反応緩衝液と、核酸混合物と、場合により熱安定DNAポリメラーゼとを含んでなる逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)用キットを包含する。
【0039】
【実施例】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1]
逆転写酵素としてChy野生型DNAポリメラーゼを用いた場合の324bpのβ-アクチン断片の逆転写、および後続のTaqポリメラーゼによるPCR(図6)
反応混合物(20μl)には、200ngの全マウス肝臓RNA、200μMのdNTP類、10mMのTris-HCl(pH 8.8)、5mMのDTT、10mMの2-メルカプトエタノール、15mMのKCl、4.5mMのMgCl2、0.02mg/mlのBSA、20pmolのリバースプライマー(β-アクチンリバースプライマー:5'-AAT TCG GAT GGC TAC GTA CAT GGC TG-3')およびChyポリメラーゼが33ユニット(レーン1、4、7、10、13、16)、13.2ユニット(レーン2、5、8、11、14、17)および6.6ユニット(レーン3、6、9、12、15、18)が含まれていた。反応物を70℃で5分間(レーン1〜6)、10分間(レーン7〜12)および15分間(レーン13〜18)インキュベートした。
20μlの逆転写反応物を、Taqポリメラーゼ(Boehringer Mannheim)によるPCR(100μlの反応容量)の鋳型として用い、製造業者の説明書に従って、20pmolのフォワードプライマーおよびリバースプライマー(「β-アクチンフォワード」プライマー配列:5'-AGC TTG CTG TAT TCC CCT CCA TCG TG-3'、「β-アクチン逆」プライマー配列:5'-AAT TCG GAT GGC TAC GTA CAT GGC TG-3')並びに200μMのdNTP類を用いた。増幅は以下の温度プロフィールを用いて行った:94℃で2分;(94℃で10秒、60℃で30秒、72℃で30秒)×30;72℃で7分。
[実施例2]
ΔChyを発現するベクターの構築
逆PCR[Innisら, (1990) PCR Protocols; Academic Press, Inc. 219-227頁]を用いて組換え野生型カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスDNAポリメラーゼのN末端断片を欠失させることにより、突然変異体を得た。用いたリバースプライマーは、発現ベクターpDS56[Stuber, D., Matile, H.およびGarotta, G.(1990) immunological Methods, Letkovcs, I.およびPernis, B.編]のNco I制限部位におけるクローニング部位(塩基120〜151)にて相補性を示し、配列5'-CGG TAA ACC CAT GGT TAA TTT CTC CTC TTT AAT GAA TTC-3'を有する。このプライマーは、後に行う制限酵素切断においてNco I制限酵素のより良好な結合を確実にするために、5′末端に追加の7塩基を含んでいる。第2の(フォワード)プライマーは、野生型遺伝子の塩基676〜702と相補性を示す(配列:5'-CGG GAA TCC ATG GAA AAG CTT GCC GAA CAC GAA AAT TTA-3')。このフォワードプライマーもまた、5′末端に追加のNco I制限部位および追加の7塩基を含んでいる。Nco I/Bam HI制限部位にカルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスのポリメラーゼ遺伝子を含むプラスミドpDS56 DNAをPCRの鋳型として用いた。PCR反応は、環状プラスミドDNA pAR4上で行った。カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスDNAポリメラーゼ(ΔChy)の断片およびベクターDNAを、PCRによりExpand High Fidelity PCR System(Boehringer Mannheim)を用いて製造業者の説明書に従って、線状DNAとして増幅した。ΔChyをコードする遺伝子の長さは1821bpである。
【0040】
増幅(Perkin Elmer GeneAmp 9600 サーモサイクラー)は以下の条件で行った:94℃で2分;(94℃で10秒、65℃で30秒、68℃で4分)×10;(94℃で10秒、65℃で30秒、68℃で4分+各サイクルについて20秒のサイクル延長)×20;72℃で7分。
PCRを行った後、増幅させたDNAをHigh Pure PCR Product Purification Kit(Boehringer Mannheim)を用いて精製し、Nco I(3ユニット/μgDNA)(Boehringer Mannheim)で製造業者の説明書に従って16時間消化した。
【0041】
フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(24:24:1)で抽出するために、サンプルの容量をTEで100(lに増やした。抽出した後、1/10倍容量の3M酢酸ナトリウム(pH 5.2)および2倍容量のエタノールを添加することによりDNAを沈殿させた。このDNAをRapid DNA Ligation Kit(Boehringer Mannheim)を用いて製造業者の説明書に従って環状化した。連結した生成物を、Chung, C.T.ら, (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 2172-2175の操作に従って形質転換することにより大腸菌XL1-Blueに導入した。形質転換体を、100μg/mlのアンピシリンを含有するL寒天培地にプレートして、組換え体を選択した。コロニーを拾い、100μg/mlのアンピシリンを含有するLブロス培地で増殖させた。プラスミドDNAを、High Pure Plasmid Isolation Kit(Boehringer Mannheim)を用いて製造業者の説明書に従って調製した。このプラスミドを、Nco I/Bam HI消化により挿入についてスクリーニングした。対象の遺伝子を含む株を、100μg/mlのアンピシリンを補充したLブロス培地で増殖させ、1mM IPTGを用いて指数関数的に増殖する培養物を誘発し、上記(DNAポリメラーゼ活性の測定および逆転写酵素活性の測定)のように熱処理した抽出物(72℃)をDNAポリメラーゼ/逆転写酵素活性についてアッセイすることにより、DNAポリメラーゼ/逆転写酵素活性について調べた(図7)。
[実施例3]
全マウス肝臓RNA由来のβ-アクチンの997bp断片の逆転写および増幅;連結させた(coupled)RT−PCR(「ワン・チューブ(one tube)」)、または逐次工程(逆転写、ポリメラーゼの添加、および最初の工程のcDNA産物の増幅)における逆転写反応でのΔChyとTthポリメラーゼとの比較(図4)
「ワン・チューブ(one tube)」系:
反応物(50μl)には、10mMのTris-HCl(25℃でpH 8.8)、15mMのKCl、2.5mMのMgCl2、400μMの各dNTP、図に示すような種々の(徐々に減少させた)量のマウス全RNA(Clonetech)、300nMの各プライマー、60ユニットのΔChyおよび3.5ユニットのExpand HiFi酵素混合物(Boehringer Mannheim GmbH)が含まれていた。全ての反応物を60℃で30分間インキュベートした(RT工程)。その後直ちに、以下のサイクルプロフィール(Perkin Elmer GeneAmp 9600サーモサイクラー)を用いて増幅を行った:94℃で30秒;(94℃で30秒、60℃で30秒、68℃で1分)×10;(94℃で30秒、60℃で30秒、68℃で1分+各サイクルについて5秒のサイクル延長)×20;68℃で7分。
「ツー・チューブ(two tube)」系:
逆転写は、10mMのTris-HCl(pH 8.8)、15mMの(NH4)2SO4、0.1%のTween、4.5mMのMgCl2、2%のDMSO、800μMのdNTP類、300nmoleの各プライマー、60ユニットのΔChy、図に示すような種々の量の全マウス筋肉RNA中で行った。反応は、25μlの容量で60℃にて30分間行った。
【0042】
この反応物の5μlを、Expand HiFi-System(Boehringer Mannheim)による増幅のために用いた。増幅は、2.6ユニットのポリメラーゼ混合物を用いて、反応容量25μlで行った。以下の温度サイクル条件を用いた:94℃で30秒;(94℃で30秒、60℃で30秒、68℃で1分)×10;(94℃で30秒、60℃で30秒、68℃で1分+各サイクルについて5秒のサイクル延長)×20。
【0043】
対照の反応として、Tthポリメラーゼ(Boehringer Mannheim)を用いるRT−PCRで同じ鋳型−プライマー系を用いた。この反応は、「ワンステップ(one step)」法のために書かれた製造業者の説明書に従って設定した。
【0044】
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【0045】
【配列表】
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【0046】
【配列表フリーテキスト】
配列番号1:オリゴヌクレオチド
配列番号2:オリゴヌクレオチド
配列番号3:オリゴヌクレオチド
配列番号4:オリゴヌクレオチド
配列番号5:オリゴヌクレオチド
配列番号6:オリゴヌクレオチド
配列番号7:オリゴヌクレオチド
配列番号8:オリゴヌクレオチド
配列番号9:オリゴヌクレオチド
配列番号12:オリゴヌクレオチド
【図面の簡単な説明】
【図1】ΔChyと命名したChyポリメラーゼの「クレノウ断片」の核酸およびアミノ酸配列を示す図である。
【図2】マグネシウム塩およびマンガン塩依存性のΔChyの逆転写酵素活性を示す図である。
【図3】ΔChyおよびExpand HiFi-System並びに減少させた量のRNAを用いた場合の、全マウス肝臓RNAからのβ-アクチン遺伝子の997bp断片の逆転写および増幅を示す図である。
【図4】 Tthポリメラーゼと比較した、全マウス肝臓RNAからのβ-アクチン遺伝子の997bp断片の逆転写および増幅を示す図である。逆転写はExpand HiFi-System(Boehringer Mannheim)を用いた増幅と組合せて(すなわち、「ワン・チューブ(one tube)」で)行うか、または、逆転写を行った後で、後続する増幅反応のためのExpand HiFi-System(Boehringer Mannheim)を反応混合物に添加した(すなわち、「ツー・チューブ(two tube)」)。
【図5】全ヒト筋肉RNAからのジストロフィンの1.83kb断片の逆転写および増幅を示す図である。
【図6】各種の量のChyポリメラーゼおよび各種のインキュベーション時間を用いた場合の、全マウス肝臓RNAからのβ-アクチンの324bp断片の逆転写および増幅を示す図である。
【図7】野生型遺伝子をコードするクローンからの、ΔChyをコードするクローンの構築を概略的に示した図である。

Claims (8)

  1. マグネシウムイオンおよび/またはマンガンイオンの存在下で逆転写酵素活性を示すが、5'→3'エキソヌクレアーゼ活性は低いかまたは全くなく、かつRNase H活性が実質的に全くない、配列番号11に示されるアミノ酸配列または配列番号11に示される配列から1個以上のアミノ酸改変を含む配列を有する、カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス(Carboxydothermus hydrogenoformans)から得られる精製したDNAポリメラーゼ。
  2. 請求項1に記載のポリメラーゼをコードする単離DNA。
  3. 請求項1に記載のDNAポリメラーゼの製造方法であって、
    (a)カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンスの天然株を培養する工程、
    (b)該天然株の細胞を緩衝液に懸濁する工程、
    (c)細胞を破壊する工程、および
    (d)1つ以上のセファロース(Sepharose)カラムを用いることを含むクロマトグラフィー工程によりDNAポリメラーゼを精製する工程
    を含んでなる前記方法。
  4. 請求項1に記載の好熱性DNAポリメラーゼを熱安定DNAポリメラーゼと組合せて用いることを特徴とする、RNAの増幅方法。
  5. 請求項1に記載の好熱性DNAポリメラーゼを用いることを特徴とする、cDNAクローニングおよびDNA配列決定のための方法。
  6. 請求項1に記載の好熱性DNAポリメラーゼを用いることを特徴とする、DNAの標識方法。
  7. 請求項1に記載の好熱性DNAポリメラーゼを用いることを特徴とする、RNAからcDNAへの逆転写方法。
  8. 逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応に有用なキットであって、該逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応が、請求項1に記載の好熱性DNAポリメラーゼを用いるRNAの逆転写および熱安定DNAポリメラーゼによるcDNA産物の増幅を、(該逆転写と該ポリメラーゼ連鎖反応との)複合反応、または(該逆転写の後で該ポリメラーゼ連鎖反応が行われる)逐次反応として含む、前記キット。
JP34348798A 1997-12-02 1998-12-02 カルボキシドテルムス・ヒドロゲノフォルマンス由来の修飾dnaポリメラーゼ並びに連結させた逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応におけるその使用 Expired - Lifetime JP4176890B2 (ja)

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