JP4169506B2 - 空気入りラジアルタイヤの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カーカス層を構成する繊維コードを結束することなく引き揃えた状態でゴム被覆するようにした空気入りラジアルタイヤの製造方法に関し、更に詳しくは、製造工程の影響によるコード物性の変化を可及的に小さくするようにした空気入りラジアルタイヤの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
空気入りラジアルタイヤの製造において、カーカス部材は、複数本の有機繊維コードを引き揃え、これら有機繊維コードを横糸で結束してすだれ状に加工した後、該すだれ状の部材をゴム被覆し、所定の寸法に切断する工程を経て形成するのが一般的である。
【0003】
これに対して、近年では多品種少量生産に好適な加工方法として、シングルディップコードを用いて剛体の廻りにカーカス層を編み上げる方法やステラスティックマシーンのように複数本の有機繊維コードをダイスに通しつつゴム被覆することでカーカス層の中間部材を形成する方法が検討されている。
【0004】
しかしながら、これら加工方法においては、従来の加工方法と比較して、ゴム被覆する前にディップコードの表面への機械的な擦れが多くなるという欠点がある。また、コードへのゴム被覆時及びタイヤ成形時において中間部材に掛かる張力に起因して、ディップコードの中間伸度特性が変化し易いという欠点がある。そのため、従来からカーカスコードとして使用されているPETやナイロンなどでは、ディップ処理後のコード物性を維持することが困難であり、タイヤ中で必要とされるコード物性を発現することが困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ディップ処理を施した複数本の繊維コードを結束することなく引き揃えた状態でゴム被覆する場合であっても、製造工程の影響によるコード物性の変化を可及的に小さくすることを可能にした空気入りラジアルタイヤの製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の空気入りラジアルタイヤの製造方法は、ディップ処理を施した複数本の繊維コードを、複数のガイドローラを介して、結束することなく引き揃えた状態でダイスを備えたゴム被覆装置に供給し、前記ダイスの一端から前記繊維コードを導入し、該ダイスの他端から前記繊維コードをゴム被覆してなるリボン状又はシート状の中間部材を排出し、該中間部材を用いてカーカス層を形成する空気入りラジアルタイヤの製造方法において、前記カーカス層を構成する中間部材の繊維コードとして、レゾルシン・フォルマリン・ラテックスを含む処理液にて1浴ディップ処理を施し、その付着量が7重量%以下であると共に、下記(1)式で表される構造を有するポリオレフィンケトンのフィラメントからなる繊維コードを用いたことを特徴とするものである。
【0007】
−(CH2 −CH2 −CO)n−(R−CO)m− ・・・(1)
ここで、1.05≧(n+m)/n≧1.00、
Rは炭素数が3以上のアルキレン基である。
【0010】
上述のようにディップ処理を施した複数本の繊維コードを結束することなく引き揃えた状態でゴム被覆する加工方法において、カーカス層の繊維コードとして特定の条件を満足するポリオレフィンケトンの繊維コードを用いたことにより、製造工程の影響によるコード物性の変化を可及的に小さくすることができる。つまり、ポリオレフィンケトンの繊維コードは熱に対して安定的でかつPETやナイロンに比べて弾性率が高いので、ステラスティックマシーン等で加工しても、ディップ処理後のコード物性を維持し、タイヤ中で必要とされるコード物性を発現することができる。
【0011】
本発明では、ディップ処理はレゾルシン・フォルマリン・ラテックスを含む処理液による1浴処理であり、その付着量が7%以下であり、特に付着量が6.5重量%以下、更には6.0重量%以下であることが好ましい。このようにディップ処理を1浴処理とすることにより、ディップ処理された繊維コードを多数のガイドローラを介して送給する際に接着劣化を生じ難くなる。なお、上記付着量はディップ処理による付着物の乾燥状態での重量であり、その重量をコード単体の重量に対する比率(%)で表したものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示し、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架され、そのカーカス層4の端部がビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。このカーカス層4は複数本の繊維コードをタイヤ径方向に延長するように引き揃えたものである。トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層6,6が埋設されている。これらベルト層6,6はコードがタイヤ周方向に対して傾斜し、かつ層間でコードが互いに交差するように配置されている。ベルト層6,6の外周側には、コードをタイヤ周方向に配向してなるベルトカバー層7が配置されている。
【0014】
上記空気入りラジアルタイヤにおいて、カーカス層4は図2〜図4に示す加工装置を用いて加工したものである。図2及び図3に示すように、不図示のクリールスタンドから供給される複数本の繊維コードCは、櫛11、ガイドローラ12、櫛13、ガイドローラ14を介して互いに平行に引き揃えられてゴム被覆装置15を通過するようになっている。ゴム被覆装置15は、繊維コードCに対してゴム被覆を行うためのダイス16を備え、該ダイス16の一端から複数本の繊維コードCを等間隔で導入し、該ダイス16の他端から複数本の繊維コードCをゴム被覆してなるリボン状又はシート状の中間部材m1 を排出するようになっている。
【0015】
中間部材m1 は所定の長さに切断される。そして、複数枚の中間部材m1 を並列に繋ぎ合わせることにより、カーカス部材m2 が形成される。このカーカス部材m2 は、通常のタイヤ成形工程に供される。即ち、カーカス部材m2 は、タイヤ成形ドラムの外周上で円筒状に成形され、その両端部がそれぞれビードコアの廻りに巻き上げられ、しかる後にトロイダル状に成形されてカーカス層4になるのである。このようにして加工されたカーカス層4は、タイヤ中で、複数本の繊維コードを結束することなく引き揃えてゴム被覆し、これら繊維コードをタイヤ径方向に配向させた状態になる。
【0016】
なお、カーカス層の加工装置は本発明の製造方法を実施可能であれば図2〜図4に示す加工装置に限定されるものではなく、他の構成を備えるものであっても良い。例えば、図5〜図7に示す変形例を挙げることができる。図5において、不図示のクリールスタンドから供給される複数本の繊維コードCは、櫛11、ガイドローラ12A,12B、櫛13、ガイドローラ14を介して互いに平行に引き揃えられてゴム被覆装置15を通過するようになっている。ガイドローラ12Aは単一ローラに対して周方向に伸びる多数の溝を設けたものである。ガイドローラ12Bは各繊維コードCをガイドローラ12Aの各溝に案内するようになっている。
【0017】
上述した加工方法では、繊維コードCへのゴムの浸入を良好にするためにゴム被覆装置15におけるゴムの押し出し圧を高くした場合、繊維コードCの引き出し速度を速くする必要がある。ところが、ポリエステルやナイロンの場合、張力による伸びが発生して目的とする中間伸度を得ることができなかった。
【0018】
そこで、本発明ではカーカス層の繊維コードとして、熱に対して安定的でかつポリエステルやナイロンに比べて弾性率が高いポリオレフィンケトンのフィラメントからなる繊維コードを用いるのである。ポリオレフィンケトンの繊維コードを用いた場合、製造工程の影響によるコード物性の変化を可及的に小さくすることができる。
【0019】
ここで用いるポリオレフィンケトン繊維は、特開平1−124617号公報、特開平2−112413号公報、米国特許第5194210号公報、特開平9−324377号公報、特開2001−115007号公報、特開2001−131825号公報などで開示された溶融紡糸や湿式紡糸によって得ることができるが、下記(1)式で表される構造を有するポリオレフィンケトン繊維を用いることが必要である。
【0020】
−(CH2 −CH2 −CO)n−(R−CO)m− ・・・(1)
ここで、1.05≧(n+m)/n≧1.00、
Rは炭素数が3以上のアルキレン基である。
【0021】
(1)式において、mの分率(エチレン以外のアルキレンユニット)が増えると、タイヤの走行成長が大きくなり、耐久性が低下する。これは、紡糸繊維の結晶構造がmユニットの増加により変化し、分子鎖間の二次結合力が低下するためと考えられる。また、該繊維の強度が低くなると撚りコードとした時に更に強度が低下するので、タイヤの破壊強度を確保するためにコードの使用量を多くする必要があり、軽量で経済性の高いタイヤの提供が困難となる。ここでより好ましくはm=0である実質的にエチレンと一酸化炭素だけからなる交互共重合ポリマーを用いるのが良い。このような繊維を製造するには湿式紡糸を用いるのが好適である。
【0022】
更に、ポリオレフィンケトンの繊維コードとしては、引張り強度が8.83cN/dtex以上で、1.99cN/dtex時の伸び率が3.5%以下である繊維コードを用いることが好ましい。引張り強度が8.83cN/dtex未満であると繊維コードの打ち込み本数を増加させたり、コードの太さを太くする必要がある。ところが、打ち込み数が多過ぎるとコード間のゴムが実質的に存在しない状態となり、カーカス層と周りのゴムと間での接着破壊が生じ易くなり耐久性が低下する。一方、コードが太くなるとカーカス層が厚くなり軽量性の確保が困難となる。また、1.99cN/dtex時の伸び率が3.5%を超えるとハンドル操作時の応答性が悪化して操縦安定性が低下する。
【0023】
また、ポリオレフィンケトンの繊維コードは、K=T√(D/1.111)で表される撚り係数Kが1000〜3500の範囲であることが好ましい。ここでKは撚り係数、Tはコードの上撚り数(回/10cm)、Dはコードの総デシテックス数である。撚り係数Kが1000未満であると耐疲労性の確保が困難となるばかりでなく、破断伸びが低下して耐外傷性が悪化する。撚り係数Kが3500を超えるとモジュラスの低下が大きく操縦安定性に不利を招くことになる。
【0024】
上記ポリオレフィンケトンの繊維コードに対するディップ処理は、レゾルシン・フォルマリン・ラテックスを含む処理液による1浴処理とする。つまり、ポリオレフィンケトンの繊維コードはゴムに対する接着性が良好であるので、上記1浴処理で十分な接着効果が得られる。また、繊維コードが多数のガイドローラを通過する際に、1浴処理で形成された接着層の一部が剥げ落ちても接着劣化が起き難いという利点がある。これに対して、2浴処理で形成された接着層の場合、外層の欠落によって大幅な接着劣化を生じることになる。また、2浴処理を施したPET繊維ではコードが硬いためガイドローラから外れ易いが、1浴処理を施したポリオレフィンケトンの繊維コードでは上記不都合を生じることもない。コードの柔軟性を維持するために、上記ディップ処理における付着量は7重量%以下にする。
【0025】
【実施例】
タイヤサイズ205/65R15 Y390とし、図1のタイヤ構造を有する空気入りラジアルタイヤにおいて、カーカス層に使用すディップコードの種類とディップ処理条件、及び、カーカス層の中間部材の圧延条件を種々異ならせた実施例1〜4及び比較例1〜4の空気入りラジアルタイヤをそれぞれ製作した。
【0026】
カーカス層の中間部材の圧延条件:
44本の繊維コードをクリールスタンドから引き出し、図2に示すステラスティックマシーンを用いて表1に示す圧延速度で幅44.1mmに圧延し、その圧延材を所定の長さに切断し、カーカス層の中間部材を得た。これら中間部材を並列に繋ぎ合わせてカーカス部材とし、従来方法と同様の成形工程及び加硫工程を経て空気入りラジアルタイヤを得た。
【0027】
これら試験タイヤについて、下記の方法により、カーカス部材の剥離面を観察し、またユニフォミティを評価し、その結果を表1に示した。
【0028】
カーカス部材の剥離面観察:
カーカス部材として用いた圧延材を貼り合わせて加硫した後に剥離試験を実施し、そのコード露出状態を観察した。評価結果は、ゴム破断による剥離面の場合を「OK」で示し、コード打ち込み方向へコード露出があった場合を「NG」で示した。
【0029】
ユニフォミティー:
タイヤのラジアルフォースバリエーション(RFV)を測定し、その最大変動量を求めた。評価結果は、基準タイヤ(比較例1)を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどユニフォミティーが良好であり、即ち、カーカス層のコード物性が安定していることを意味する。
【0030】
【表1】
【0031】
この表1から明らかなように、実施例1〜4は比較例2に比べてユニフォミティーが良好であり、しかもカーカス部材におけるコードとゴムとの接着性も良好であった。但し、実施例4ではカーカス層の中間部材の圧延速度が速いため一部でコード切れが発生していた。カーカス層の繊維コードにポリオレフィンケトン以外の材料を用いた比較例2〜4ではユニフォミティーの改善が見られなかった。特に、繊維コードに2浴処理を施した比較例3では、コードがガイドローラから外れたり、コード切れが発生し、またカーカス部材の剥離面観察においてコードの露出が多数見られた。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、ディップ処理を施した複数本の繊維コードを、複数のガイドローラを介して、結束することなく引き揃えた状態でダイスを備えたゴム被覆装置に供給し、ダイスの一端から繊維コードを導入し、該ダイスの他端から繊維コードをゴム被覆してなるリボン状又はシート状の中間部材を排出し、該中間部材を用いてカーカス層を形成する空気入りラジアルタイヤの製造方法において、カーカス層を構成する中間部材の繊維コードとして、特定の条件を満足するポリオレフィンケトンの繊維コードを用いたから、ディップ処理を施した少なくとも1本の繊維コードを結束することなく引き揃えた状態でゴム被覆する場合であっても、製造工程の影響によるコード物性の変化を可及的に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示す半断面図である。
【図2】本発明の空気入りラジアルタイヤの製造方法を実施するためのカーカス部材の加工装置を示す概略斜視図である。
【図3】図2の加工装置の概略側面図である。
【図4】図2の加工装置におけるゴム被覆装置のダイスを示す斜視図である。
【図5】本発明の空気入りラジアルタイヤの製造方法を実施するためのカーカス部材の他の加工装置を示す概略側面図である。
【図6】図5の加工装置におけるガイドローラを示す斜視図である。
【図7】図5の加工装置における他のガイドローラを示す断面図である。
【符号の説明】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ベルト層
7 ベルトカバー層
11,13 櫛
12,14 ガイドローラ
15 ゴム被覆装置
16 ダイス
C 繊維コード
m1 中間部材
m2 カーカス部材
Claims (3)
- ディップ処理を施した複数本の繊維コードを、複数のガイドローラを介して、結束することなく引き揃えた状態でダイスを備えたゴム被覆装置に供給し、前記ダイスの一端から前記繊維コードを導入し、該ダイスの他端から前記繊維コードをゴム被覆してなるリボン状又はシート状の中間部材を排出し、該中間部材を用いてカーカス層を形成する空気入りラジアルタイヤの製造方法において、前記カーカス層を構成する中間部材の繊維コードとして、レゾルシン・フォルマリン・ラテックスを含む処理液にて1浴ディップ処理を施し、その付着量が7重量%以下であると共に、下記(1)式で表される構造を有するポリオレフィンケトンのフィラメントからなる繊維コードを用いた空気入りラジアルタイヤの製造方法。
−(CH2 −CH2 −CO)n−(R−CO)m− ・・・(1)
ここで、1.05≧(n+m)/n≧1.00、
Rは炭素数が3以上のアルキレン基である。 - ディップ処理を施した複数本の繊維コードを、これら繊維コードを案内する第1の櫛と、該第1の櫛を通過した繊維コードを案内する第1のガイドローラと、該第1のガイドローラを通過した繊維コードを案内する第2の櫛と、該第2の櫛を通過した繊維コードを案内する第2のガイドローラとを介して、結束することなく引き揃えた状態でダイスを備えたゴム被覆装置に供給するようにした請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。
- ディップ処理を施した複数本の繊維コードを、これら繊維コードを案内する第1の櫛と、該第1の櫛を通過した繊維コードを案内するための複数本の溝を設けた第1のガイドローラと、前記第1の櫛を通過した各繊維コードを前記第1のガイドローラの各溝に案内する補助ガイドローラと、前記第1のガイドローラを通過した繊維コードを案内する第2の櫛と、該第2の櫛を通過した繊維コードを案内する第2のガイドローラとを介して、結束することなく引き揃えた状態でダイスを備えたゴム被覆装置に供給するようにした請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。
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