JP4168130B2 - リゾプス属糸状菌のポリガラクツロナーゼおよびポリガラクツロナーゼ遺伝子 - Google Patents

リゾプス属糸状菌のポリガラクツロナーゼおよびポリガラクツロナーゼ遺伝子 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リゾプス属糸状菌のポリガラクツロナーゼ、ポリガラクツロナーゼ遺伝子に関する。
【0002】
【従来の技術】
自然界には多様な機能性を持つ数多くの天然物が存在し、人類はその恩恵を享受・利用して現代生活を営んでいる。そうした天然物の一つとして知られるオリゴガラクツロン酸は、胃潰瘍の抗腫瘍活性、大腸菌の静菌作用や植物の抵抗反応の誘導等、様々な生理活性機能を持つことが近年見い出され(New Food Industry (1985) 27: 48-49、特許第313215号、植物病害の化学(1997)124-142)、さらに未知なる機能性を持つ可能性がある物質として基礎・応用研究現場において注目されている。オリゴガラクツロン酸は、一般に植物中に存在するペクチンまたはペクチン酸(ポリガラクツロン酸)が分解されて作り出される一種の酵素反応物であり、その生成のための主要なキーエンザイムにポリガラクツロナーゼがある。
【0003】
ポリガラクツロナーゼは高等植物・糸状菌・細菌等の生体中でのみ微量に生産されるものであるが、その特性がユニークであることから、今日では各種果物のジュース製造時の清澄剤やみかんの缶詰製造時の内果皮の除去剤、綿の精錬剤等としての利用が図られている。ポリガラクツロナーゼは、オリゴガラクツロン酸の工業的生産のための触媒剤としてのみならず、今後さらに多方面の分野で幅広く利用されることが予想される。そうした需要の増加に対応するために、高活性のポリガラクツロナーゼ、及びポリガラクツロナーゼを大量に製造する手段の開発が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような現状に鑑み、本発明は、ポリガラクツロナーゼ活性をより大規模に利用する上で有用な、ポリガラクツロナーゼ及びポリガラクツロナーゼ遺伝子を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、リゾプス属糸状菌からポリガラクツロナーゼを単離精製し、またこれを基にポリガラクツロナーゼ遺伝子を単離することに成功して、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1] 以下のa)〜f)の性質を有するタンパク質
a) リゾプス属糸状菌が生産する
b) ポリガラクツロナーゼ活性を有する
c) 分子量32,000
d) 至適pHが5.0
e) 121℃で15分間の煮沸処理で失活する、及び
f) リゾプス属糸状菌における生産適温が20〜35℃である。
【0007】
このタンパク質は、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)が生産するものであることが好ましい。さらに本タンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるN末端を有するものであることが好ましい。
【0008】
[2] 以下の(a)又は(b)のタンパク質。
(a) 配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号15に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質
【0009】
[3] 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。
(a) 配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号15に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質
【0010】
[4] 以下の(a)又は(b)のDNAからなる遺伝子。
(a) 配列番号16に示される塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号16に示される塩基配列からなるDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0011】
[5] 配列番号19に示される塩基配列からなるDNAより構成される遺伝子。
[6] 上記[3]〜[5]のいずれかの遺伝子を含む組換えベクター。
[7] 上記[6]の組換えベクターを含む形質転換体。
[8] 上記[7]の形質転換体を培養し、得られる培養物からポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする該タンパク質の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明者らは、高いポリガラクツロナーゼ生産能を有する生物種を得ることができれば、ポリガラクツロナーゼの効率的生産に大きく貢献できるであろうと考えた。また、そのような生物種に由来するポリガラクツロナーゼを単離・精製し、さらに該ポリガラクツロナーゼをコードする遺伝子を単離することができれば、その遺伝子を他の生物種に導入することでポリガラクツロナーゼ生産効率の高い生物種の作出を可能にすることができると考えた。本発明は、このような発想に基づいてポリガラクツロナーゼ生産能が高いことが見出されたリゾプス属糸状菌を用いて、完成されたものである。
【0014】
(1) 本発明に係るポリガラクツロナーゼ産生微生物及び該微生物からのポリガラクツロナーゼの取得
本発明では、ポリガラクツロナーゼを取得する生物起源として、リゾプス属糸状菌である微生物を用いる。本発明のこのような微生物としては、リゾプス属に属する糸状菌であればいかなる菌株をも用いることができるが、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)を用いることが好ましく、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)YM9901株を用いることがさらに好ましい。なお、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)は各種分譲機関から容易に入手することができる。例えばリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)は、分譲機関「Institute for Fermentation, Osaka, Japan」からカタログ番号IFO 31005、「American Type Culture Collection, Rockville, U.S.A」からカタログ番号ATCC 10404に従って、分譲を受けることができる。また、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)YM9901株は、農業生物資源研究所ジーンバンクに寄託番号MAFF306597として(寄託日:平成13年12月5日)、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-18870として(寄託日:平成14年5月28日)、寄託されている。本発明に係るこのようなリゾプス属糸状菌は、高いポリガラクツロナーゼ生産能を有する。
【0015】
本発明のポリガラクツロナーゼを得るためには、上記リゾプス属糸状菌を培養し、その培養物からポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質を単離すればよい。なお、本発明において「培養物」とは、培養したリゾプス属糸状菌体を含有する培地を意味する。培養に使用する培地は、リゾプス属糸状菌が生存し得る培地であれば特に限定されない。例えば、ジャガイモ・グルコース液体培地、ジャガイモ・スクロース液体培地や、ペクチン水培地等を用いることができるが、ペクチン水培地を用いるのが最も好ましい。また、培養方法及び培養物からのタンパク質の単離方法としては、当業者に公知の様々な方法を用いることができる(例えば、岡田ら,2001,「タンパク質実験ノート」第2版,羊土社,東京、下西ら,1996,「タンパク質の分離・分析と機能解析法」, 化学同人, 東京、等を参照されたい)。
【0016】
本発明に係るリゾプス属糸状菌からポリガラクツロナーゼを得る方法としては、例えば、まずリゾプス属糸状菌を培地(例えばペクチン水培地等)中で25〜35℃で3〜7日間培養し、その培養物を遠心分離にかけて菌体と培養上清とに分離し、さらにその培養上清をイオン交換若しくはゲルろ過等のクロマトグラフィー、硫安塩析及び/又は有機溶媒沈澱等に供して含有タンパク質を画分として分離し取得する。
【0017】
タンパク質画分をより簡便に取得するためには、培養上清を、ポリアクリルアミドゲルにおいて非還元SDS-PAGEに供する方法を用いてもよい。具体的には例えば、培養上清をろ過滅菌して得た無菌上清を透析チューブに入れて透析し、Na-CMCを用いて濃縮して粗酵素液とし、これを2-メルカプトエタノールを除去したサンプルバッファー中に溶解して泳動サンプルとして10%アクリルアミドゲルにロードし、同様に2-メルカプトエタノールを除去した泳動バッファー中で4℃にて電気泳動を行う。電気泳動後、上記ゲル中のタンパク質を含むバンドを、例えばクーマシー・ブリリアント・ブルーによる染色等を用いて可視化して検出する。次に、可視化されたバンドをゲルごと切り出して該ゲルからタンパク質を抽出することにより、上清中に含まれているタンパク質をそれぞれ画分として単離することができる。
【0018】
次に、分離したタンパク質画分についてポリガラクツロナーゼの存在を検出して、ポリガラクツロナーゼを含む酵素画分を選択的に得ることができる。このポリガラクツロナーゼの存在の検出は、例えば、タンパク質画分がポリガラクツロナーゼ活性を有することを確認することにより行うことができる。該活性の測定法としては、限定するものではないが、当業者には公知のカップ・プレート・アッセイ法を用いることができる。この方法を以下に例示する。
【0019】
まず、1mMの酢酸緩衝液(pH 5.0)中に、1%のポリガラクツロン酸、1%のイースト抽出物、2.5mMのEDTA、0.8%の寒天粉末を加えて作成した基質培地を直径9cmのシャーレに25ml流し込む。固化後、基質プレートに直径5mmのコルクボーラーを用いてウェルを作り、ウェル底部を寒天で封じる。
【0020】
作成された基質プレートのウェル内に目的のポリガラクツロナーゼ活性を確認すべき試験液を50μl入れた後、30℃で24時間保持し、その後5Nの塩酸を基質プレート上に重層する。重層後にウェル周囲に透明帯が出現するか否か(透明帯の有無)、およびその透明帯の面積により、試験液が有するポリガラクツロナーゼ活性を検出・定量することができる。
【0021】
ここで、本発明における「透明帯」とは、その外周が白色又は乳白色となる環状のバンドを意味する(図1中の矢印で示した最も右側のウェルを参照されたい)。この環状バンドにおいて、その外周及び内周は原則として円であるが、この円は楕円でもよく、さらに多少の歪みがあってもよい。またその環の一部(外周の50%以下)が欠損していてもよい。本発明において「透明帯が出現した」「透明帯を有する」とは、外周円の最大直径が9mm以上である透明帯がウェル周囲に存在することを言う。なお本発明における「外周円の最大直径」とは、透明帯の外周上の2点を結ぶ直線の長さが最大になるような該2点間の直線距離を言う。そして、上記の試験液を適用したウェルの周囲にこのような透明帯が出現した場合、その試験液はポリガラクツロナーゼ活性を有すると判断することができる。またこのポリガラクツロナーゼ活性は、透明帯の外周円の最大直径を基準として相対的に表すことができ、該最大直径が大きいほど、ポリガラクツロナーゼ活性が高いと判断することができる。
【0022】
また、ポリガラクツロナーゼの活性量は、透明帯の面積として定量してもよい。すなわち、各ウェルに適用した試験液が有するポリガラクツロナーゼの活性量を、透明帯の面積によって比較することができる。この透明帯の面積の計測は、通常用いられる任意の方法を用いて行えばよい。例えば、基質プレートのイメージ画像をコンピューターシステムに取り込み、画像処理技術を用いて基質プレート領域に対する透明帯領域の割合を読み取り、その割合に基づいて透明帯領域の面積を算出することもできる。この面積の計測はまた、透明帯の外周及び内周がほぼ円形である場合には、より簡易な方法として透明帯の外周円の最大直径と内周円の最大直径の値から以下の式に従って求めればよい。
【0023】
透明帯の面積=[(外周円の最大直径/2)2−(内周円の最大直径/2)2]×π
なお、本発明における「内周円の最大直径」とは、透明帯の内周上の2点を結ぶ直線の長さが最大になるような該2点間の直線距離を言う。
【0024】
本発明においては、このようにカップ・プレート・アッセイを用いて、各タンパク質画分についてポリガラクツロナーゼ活性の検出及び定量を行うことができる。
【0025】
以上のようにして得たポリガラクツロナーゼを含むタンパク質画分は、次に、公知のタンパク質精製カラム(例えばHiTrapQカラム, Parmacia)等の精製手段に供してさらなる精製をおこなってもよい。そのような精製により、該画分に含まれるポリガラクツロナーゼをさらに精製して得ることができる。
【0026】
精製されたポリガラクツロナーゼの性質は、さらに、分子量の測定、アミノ酸配列の決定、活性及び基質特異性の確認、至適pH及び安定pHの決定、作用適温範囲の決定、結晶構造解析、元素分析等を行うことにより評価することができる。これらの酵素特性の決定方法は、当業者には公知である。例えば分子量は、SDS-PAGEやゲルろ過等により測定することができる。また、アミノ酸配列は、エドマン分解やカルボキシペプチダーゼ等の反応を利用した常法により決定することができる。
【0027】
(2) 本発明のガラクツロナーゼタンパク質
本発明のタンパク質は、第1には、上記(1)の方法に従ってリゾプス属糸状菌から取得することができるポリガラクツロナーゼ活性を有する分子量32,000のタンパク質である。本発明において、タンパク質が「ポリガラクツロナーゼ活性を有する」とは、該タンパク質がポリガラクツロン酸(細胞壁ペクチン)を加水分解する活性を有することを意味する。この活性は当業者に公知の方法により測定することができるが、例えば上記(1)のカップ・プレート・アッセイ法を用いて測定することができる。本明細書における「分子量」は、質量分析法、光散乱法、SDS-PAGE等の当業者に公知の分子量測定法により測定した値であってよいが、好ましくはSDS-PAGEで測定した値である。但し分子量測定においては、測定値にある程度の誤差を生じることは避けられない。従って本発明の「分子量32,000のタンパク質」とは、SDS-PAGEによる測定で31,500〜32,500の測定値を示す上記タンパク質を包含するものとする。
【0028】
本発明者らは、上記(1)の方法に従い、リゾプス・オリゼYM9901株の生産するポリガラクツロナーゼを単離・精製することに成功した。このリゾプス・オリゼYM9901株の生産するポリガラクツロナーゼは、SDS-PAGEにより分子量が32,000と決定された。さらに、そのポリガラクツロナーゼ成熟酵素のN末端アミノ酸配列を、プロテインシーケンサーを用いてエドマン分解により決定したところ、該配列は配列番号1に示されるアミノ酸配列であることが判明した。従って、本発明の1つの実施形態は、リゾプス・オリゼYM9901株が産生するポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質であって、分子量が32,000の、N末端が配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。このタンパク質はまた、至適pHが5.0であり、121℃で15分間の煮沸処理で失活し、さらにpH3〜6の範囲で活性を明らかに有するという特性を有する。このタンパク質はまた、植物組織に対する腐敗能を持つことも特徴とする。さらにこのタンパク質は、リゾプス・オリゼにおいて10℃〜35℃の培養温度で生産され、特に20〜35℃で効率良く生産されることから、リゾプス・オリゼにおける生産適温が20〜35℃であるという特性も有する。
【0029】
より一般的には、本発明のタンパク質は、リゾプス属糸状菌に由来するポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質である。ここで上記リゾプス・オリゼYM9901株の生産するポリガラクツロナーゼのN末端アミノ酸配列(配列番号1)は、後述のポリガラクツロナーゼ遺伝子(配列番号14及び配列番号16)にコードされるアミノ酸配列(配列番号15)のN末端側の配列(配列番号15のアミノ酸27〜48)と同一である。ここで、配列番号15のアミノ酸1〜26は、シグナル配列である。すなわちリゾプス・オリゼYM9901株の生産するポリガラクツロナーゼは、配列番号14に示される塩基配列からなるDNAにコードされるタンパク質(配列番号15)からin vivoでのシグナル配列の切断により得られるタンパク質と同一のアミノ酸配列を有すると考えられる。従って本発明のタンパク質は、第2には、配列番号15又は配列番号20に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。さらに本発明のタンパク質は、第3には、配列番号15又は配列番号20に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個(好ましくは1〜10個、より好ましくは数個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質である。
【0030】
また本発明のタンパク質は、分子量32,000、至適pH5.0という特性を有し、さらにpH3〜6の範囲で活性を明らかに有し、121℃で15分間の煮沸処理で失活し、植物組織に対する腐敗能を持つという特性も有する。さらにこのタンパク質は、リゾプス属糸状菌において10℃〜35℃の培養温度で生産され、特に20〜35℃で効率良く生産されることから、リゾプス属糸状菌における生産適温が20〜35℃であるという特性も有する。
【0031】
(3) 本発明のタンパク質をコードする遺伝子
本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子は、本発明のポリガラクツロナーゼをコードする遺伝子である。本発明において「本発明のポリガラクツロナーゼをコードする遺伝子」とは、発現させたときに本発明のポリガラクツロナーゼを産生することができるDNA断片を意味しており、限定するものではないが、具体的には上記の本発明のポリガラクツロナーゼをコードするcDNAを含むDNA断片であってもよいし、本発明のポリガラクツロナーゼをコードするゲノムDNA断片であって該コード領域中にイントロンを含むものでもよい。また本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子には、さらに、本発明のポリガラクツロナーゼをコードするDNA断片であって、リゾプス属のゲノムDNAにおいて該コード領域の上流領域に当たる配列をコード領域の5'側に含むDNA断片も包含する。なお本明細書において、「DNAより構成される遺伝子」「DNAから構成される遺伝子」とは、「DNAからなる遺伝子」と同じ意味を表す。
【0032】
本発明者らは、本発明のポリガラクツロナーゼをコードする遺伝子を取得することに成功した。すなわち、上記(1)の方法に従ってリゾプス・オリゼYM9901株の生産するポリガラクツロナーゼを取得・精製し、そのN末端アミノ酸配列を決定した後、そのアミノ酸配列から推定される塩基配列を基にディジェネレートプライマーを設計・作製した。このようにして配列決定した22個のN末端アミノ酸配列を配列番号1に示す。次いでリゾプス・オリゼYM9901株から得られた全RNAを鋳型としてRT-PCR法によりcDNAを作製し、さらにそのcDNAを鋳型として上記ディジェネレートプライマーを用いてPCRを行い、目的のポリガラクツロナーゼ遺伝子の一部増幅断片を得た。続いてこの一部増幅断片の塩基配列を常法により決定した(配列番号3)。本発明者らは、次にこの一部増幅断片を用いて、レース(RACE)法及びTAIL-PCR法によりゲノムDNA中の完全長のポリガラクツロナーゼ遺伝子をクローニングすることに成功した。このゲノムDNA中の完全長ポリガラクツロナーゼ遺伝子の塩基配列を、配列番号14に示す。
【0033】
このような配列番号14に示される塩基配列からなるDNAは、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるポリガラクツロナーゼをコードする遺伝子である。また配列番号14に示される塩基配列からなるDNAは、コード領域中に、47 bpのイントロン(配列番号14の塩基372〜418)を含んでいる。すなわち、配列番号14に示される塩基配列からなるDNAを真核細胞、特に糸状菌、好ましくはリゾプス属糸状菌の細胞中において発現させると、該DNAから転写されたmRNAがスプライシングにより上記イントロンが除去されて成熟mRNAとなり、その成熟mRNAが翻訳されて配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるポリガラクツロナーゼが産生され得る。このようにして、配列番号14に示される塩基配列からなるDNAを用いて、本発明のポリガラクツロナーゼを生産することが可能である。また配列番号14に示される塩基配列からなるDNAは、リゾプス・オリゼYM9901株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号14に示される塩基配列、好ましくはその5'側配列と3'側配列に基づいて適宜設計・作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いたPCRによって目的のDNA断片を増幅することにより、取得することができる。プライマーの設計・作製及びPCR反応条件設定は、当業者により最適化される。本発明の遺伝子は、このような配列番号14に示される塩基配列からなるDNAから構成される遺伝子を包含する。
【0034】
また、配列番号19に示される塩基配列からなるDNAも、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるポリガラクツロナーゼをコードする遺伝子である。配列番号19に示される塩基配列からなるDNAは、コード領域中に、47 bpのイントロン(配列番号19の塩基481〜527)を含んでいる。すなわち、配列番号19に示される塩基配列からなるDNAを真核細胞、特に糸状菌、好ましくはリゾプス属糸状菌の細胞中において発現させると、該DNAから転写されたmRNAがスプライシングにより上記イントロンが除去されて成熟mRNAとなり、その成熟mRNAが翻訳されて配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるポリガラクツロナーゼが産生され得る。さらにこのポリガラクツロナーゼは、in vivo系では、シグナル配列(配列番号15のアミノ酸1〜26)が切断されることにより、成熟タンパク質(配列番号20)として産生され得る。このようにして、配列番号19に示される塩基配列からなるDNAを用いて、本発明のポリガラクツロナーゼを生産することが可能である。さらに、配列番号19に示される塩基配列からなるDNAは、開始コドンの上流109 bpの塩基配列を含み、この上流領域には転写調節に働くTATAボックス(配列番号19の塩基32〜37)が含まれている。このことから、配列番号19に示される塩基配列からなるDNAを用いると、その上流領域が転写の際に機能して組換え発現の際に有利に使用できることも考えられる。またその上流領域が培養温度などの環境因子によって調節を受ける可能性もある。この配列番号19に示される塩基配列からなるDNAは、リゾプス・オリゼYM9901株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号19に示される塩基配列、好ましくはその5'側配列と3'側配列に基づいて適宜設計・作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いたPCRによって目的のDNA断片を増幅することにより、取得することができる。プライマーの設計・作製及びPCR反応条件設定は、当業者により最適化される。本発明の遺伝子には、このような配列番号19に示される塩基配列からなるDNAより構成される遺伝子も包含する。
【0035】
配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるポリガラクツロナーゼはまた、配列番号16に示される塩基配列を有するcDNAにもコードされている。従って、配列番号16に示される塩基配列からなるDNAより構成される遺伝子も、本発明の遺伝子に包含される。この配列番号16に示される塩基配列からなるDNAは、該塩基配列の5'側配列及び3'側配列に基づいて設計・作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、リゾプス・オリゼYM9901株から抽出した全RNAより作製したcDNAを鋳型としてPCRを行うことにより、目的のDNA断片を増幅して取得することができる。
【0036】
しかしながら、本発明におけるポリガラクツロナーゼ遺伝子は、上記のようにして得られた配列番号14、16又は19に示される塩基配列からなるDNAより構成されるものには、限定されない。より一般的には、本発明におけるポリガラクツロナーゼ遺伝子は、本発明のポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである。従って、本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子はさらに、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個(好ましくは1〜10個、より好ましくは数個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を包含する。本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子はまた、配列番号16に示される塩基配列からなるDNAの全部若しくは一部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子を包含する。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成される条件をいう。例えば、相同性が高い核酸同士、すなわち90%以上、好ましくは95%以上の相同性を有するDNAであって、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸同士がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50℃〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらにハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、ナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃での条件である場合も、本発明における「ストリンジェントな条件」に含めることができる。
【0037】
上述のような本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子は、それぞれ化学合成によって、又はクローニングされたcDNA、cDNAライブラリー若しくはゲノムDNAライブラリーを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてcDNAライブラリー若しくはゲノムDNAライブラリーに対してハイブリダイズさせることによって、取得することもできる。cDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリー等が由来する生物は、限定されるものではないが、リゾプス属糸状菌、特にリゾプス・オリゼに属する生物であることが好ましく、リゾプス・オリゼYM9901株が最も好ましい。
【0038】
また、部位特異的突然変異誘発法等により変異を導入することによって本発明の遺伝子を改変して、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質をコードする変異型遺伝子を作製することもできる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えば、Mutan(R)-K、Mutan(R)-Express Km、若しくはMutan(R)-Super Express Kmシリーズ、又はLA PCRTM in vitro Mutagenesis シリーズキット(いずれもタカラバイオ株式会社製))を用いて変異の導入が行われる。本発明の遺伝子をこのような変異導入方法を用いて改変したものであっても、上述の本発明の遺伝子の範囲に包まれるものは、本発明の遺伝子に包含される。
【0039】
(4) 組換えベクターの作製
上記(3)に記載した本発明の遺伝子は、取り扱いの便宜上、ベクター中にクローニングして組換えベクターとすることが好ましい。
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子を連結(挿入)することにより得ることができる。本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド DNA、ファージ DNA等が挙げられる。
【0040】
プラスミド DNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはM13 mp18/19、λファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。場合により枯草菌シャトルベクターであるpHY系ベクター、酵母シャトルベクターであるpAUR系ベクター(例えばpAUR 101 DNA、pAUR 112 DNAなど)、糸状菌シャトルベクターであるpAUR 316 DNAなどを用いることも好ましい。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0041】
ベクターに本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0042】
本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子は、この遺伝子の機能が発揮されるように、ベクターに組み込まれることが必要である。特に、本発明の組換えベクターは、宿主内で良好な活性を有するタンパク質として発現されるように本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子をベクターに組み込んだ、組換え発現ベクターとして作製することが好ましい。このために、本発明のベクターとしては、数多くの宿主生物に対応した市販の各種発現ベクターを用いることができる。例えば、大腸菌発現ベクターとしてはpETベクター(例えばタカラバイオ株式会社製)、酵母発現ベクターとしてpAUR 123 DNA(タカラバイオ株式会社製)、バキュロウイルス発現ベクターとしてBacVecterTM(Novagen社製)等が市販されている。それらの発現ベクターには、通常、転写プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位などの宿主生物における発現に必須な各種エレメントの他、ベクターが細胞内に保持されていることを示す選択マーカーやベクター内に簡単に正しい向きで遺伝子を挿入するためのポリリンカー、エンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、分泌因子配列等の有用な配列が必要に応じて連結されている。組換え発現ベクターを用いて形質転換体を作製して組換えタンパク質を産生させる際には、宿主生物に適合した分泌因子配列を含む発現ベクターを用いることにより、組換えタンパク質を培地中に分泌させることができる。この手法は、培養上清から直接組換えタンパク質を精製することができるため、有用である。この分泌因子配列は、培養上清への分泌後に、ベクターに組み込んだ遺伝子にコードされるタンパク質から、特定のプロテアーゼ等で特異的に切断して除去することができるものであってもよい。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0043】
以上のようなベクターに、本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子を、適切に発現されるような位置及び向きで連結する。
【0044】
さらに、本発明の遺伝子は、相同組換え法により宿主生物ゲノムに直接導入することもできる。その場合には、本発明の遺伝子を組み込んだ適当なターゲティングベクターを作製する。このために使用可能なベクターとしては、例えばCre-loxP等の公知のジーンターゲティング用ベクターを用いることができる。本明細書においては、このような本発明の遺伝子を組み込んだターゲティングベクターも、本発明の組換えベクターに包含されるものとする。
【0045】
(5) 形質転換体の作製及び該形質転換体を用いたポリガラクツロナーゼの製造
本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子は、該遺伝子を当業者に公知の方法により細胞に導入して、形質転換体(形質転換細胞)を作製することができる。さらにその形質転換体は、それを培養することにより培養物中にポリガラクツロナーゼを産生させて採取する手法により、ポリガラクツロナーゼを製造することができる。本発明は、このような形質転換体にも関する。
【0046】
形質転換には、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等、いずれを使用してもよい。本発明においては、特に大腸菌、酵母細胞又は植物細胞を使用することが好ましい。より詳細には、例えば、本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子を導入して植物の抵抗性を高めるためには、ダイズ、イネ等の植物細胞を用いることが好ましい。ポリガラクツロナーゼの製造においては、大腸菌又は酵母細胞を使用することが好ましい。酵母細胞の発酵を利用した食品製造においてポリガラクツロナーゼの利用を意図する場合には、酵母細胞を用いることが好ましい。
【0047】
形質転換には、一般的に行われている手法、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、PEG法等を適用することができる。形質転換体の選択は、定法に従って行うことができるが、通常は使用した組換えベクターに組み込まれた選択マーカーを利用して行う。
【0048】
本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。培地には、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を添加してもよい。
【0049】
プロモーターとして誘導性のものを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0050】
培養条件は特に限定されないが、好ましくは形質転換に用いる宿主生物に適した条件下で行われる。
培養後、ポリガラクツロナーゼが菌体内又は細胞内に生産される場合には菌体又は細胞を破砕する。一方、目的のタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去し、上清を得る。得られた液中に、ポリガラクツロナーゼが含まれる。
本発明では、形質転換を行う代わりに、無細胞翻訳系を使用してポリガラクツロナーゼを生産することもできる。
【0051】
「無細胞翻訳系」とは、宿主生物の細胞の構造を機械的に破壊して得た懸濁液に、翻訳に必要なアミノ酸などの試薬を加え、試験管中などのin vitro転写翻訳系またはin vitro翻訳系を構成したものである。無細胞翻訳系としては、有利に使用可能なキットが市販されている。
【0052】
生産されたポリガラクツロナーゼは、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、上記培養物中(細胞破砕液、培養液、又はそれらの上清中)あるいは無細胞翻訳系の溶液中から単離精製することができる。しかしながら、場合により、例えば培養上清を限外濾過型フィルター等で濃縮したり、硫安分画後に透析にかけたりして得られた粗酵素液を、そのまま用いてもよい。
【0053】
上述したような本発明の各工程において用い得る一般的な分子生物学的手法(DNAの電気泳動、電気泳動したDNAをゲルから回収する方法、制限酵素消化、PCR、塩基配列決定等)は、例えばSambrookら、A Laboratory Mannual. 第2版、Cold Spring Harbour Press、Cold Spring Harbour、New York(1989)に記載されるような当業者に公知の方法が採用される。
【0054】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
はじめに、本発明のポリガラクツロナーゼを単離精製し、その性質を調べた実施例を説明する。
【0055】
[実施例1]
(1)菌の培養
50mlのペクチン水培地(カンキツ製ペクチン20g、蒸留水1000ml)が入った300ml容の三角フラスコ内に、ジャガイモ・グルコース・寒天培地(栄研器材製)で前培養して得られたリゾプス・オリゼYM9901株の菌叢片を複数入れ、25℃で6日間振とう培養した(100rpm)。
【0056】
(2)粗酵素液の調製
振とう培養した培養液をガーゼでこした後、遠心分離(8000×g、10分)により上清を得た。得られた上清をろ過滅菌後合計約70mlの無菌上清を得た。無菌上清を透析チューブに入れ、5℃で約8時間透析後、Na-CMCを用いて約5mlに濃縮して粗酵素液を得た。
【0057】
(3)ポリガラクツロナーゼの単離精製
得られた粗酵素液から、非還元SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により、ポリガラクツロナーゼの精製を行った。SDS-PAGEは、Laemmliの方法(Nature277, 688 (1970))に従い、10%アクリルアミドの既製ゲル(パジェルNPU-10L、アトー社製)を用いて行った。なお、泳動バッファー、サンプルバッファー中の2-メルカプトエタノールは酵素の失活を防ぐために除去し、泳動も4℃の室内で行った。泳動後、粗酵素液に含まれるタンパク質は、ゲルをクーマシー・ブリリアント・ブルーR250で染色し、数本のバンドとして検出した。
【0058】
続いて、カップ・プレート・アッセイ法を行った。まず上記の通り検出されたタンパク質の各バンドをゲルごとナイフで切り出し、それぞれ1.5ml容のマイクロチューブに入れ、50μlの10mMの酢酸緩衝液(pH4.2)を加えて、ホモジナイズ棒で軽くゲルを磨砕した。次に、緩衝液とともに磨砕されたそれぞれのゲル全量を、カップ・プレート・アッセイ法に用いる基質プレート(「発明の実施の形態」の項に例示したものを使用)の各ウェル内に入れ、30℃で24時間保持した。保持後、5Nの塩酸を基質プレート上に重層し、その後各ウェル周囲に透明帯が出現するか否かを判定してポリガラクツロナーゼ活性を検出した。
【0059】
図1に、このカップ・プレート・アッセイ法によるポリガラクツロナーゼ活性の検出の結果を示す。図1の写真のプレートにおいては、全部で4つのウェルを使用している。各ウェルには、それぞれタンパク質バンド1つを含むゲルを適用して上記検出を行った。その結果、写真に示されているように、1つのウェル(図1の写真中の最も右側のウェル)の周囲にだけ透明帯(矢印で示した)が観察された。この透明帯は、外周円の最大直径が15mm、内周円の最大直径が6mmであった。すなわち、この最も右側のウェル周囲に透明帯が出現したことから、このウェルに適用したタンパク質サンプルはポリガラクツロナーゼ活性を有することが示された。つまりこのウェルに適用したタンパク質のバンドが、ポリガラクツロナーゼを含むことが判明した。なお、上記の外周円及び内周円の最大直径に基づいてその透明帯の面積を概算すると、(7.5×7.5−3×3)×π=47.25π (mm2)となった。
【0060】
次に、目的のポリガラクツロナーゼの大量の単離精製を行った。まず多量の粗酵素液についてSDS-PAGEを行い、そして上記の通りポリガラクツロナーゼ活性が確認されたバンドのみをゲルごと切り出し、切り出したゲル中のタンパク質をタンパク質溶出装置(日本エイドー社製)によってゲルから溶出した。溶出されたタンパク質を4℃で一晩透析し、脱塩・濃縮後、再び上述既製ゲルでSDS-PAGEを行い、泳動後セミドライブロッティング装置(アトー社製)によりゲルを膜フィルター(PVDF膜)に転写して、クーマシー・ブリリアント・ブルーR250染色によりタンパク質を検出した。その結果、目的のポリガラクツロナーゼタンパク質はPVDF膜上に1本のバンドとして精製された。
【0061】
精製されたポリガラクツロナーゼの分子量は、上述のSDS-PAGEの結果から、約32,000と推定された。なお、このとき用いた分子量マーカーは、プレシジョンスタンダード(Bio Rad社製)であり、該マーカーが示す基準分子量は、250キロダルトン(kDa)、150kDa、100 kDa、75 kDa、50 kDa、37 kDa、25 kDa、15 kDaおよび10 kDaである。
【0062】
(4)N末端アミノ酸配列の分析
PVDF膜上で精製されたポリガラクツロナーゼを含む膜をナイフで切り取り、細断後プロテインシーケンサー(Beckman、LF-3000)のサンプル支持台上に乗せ、シーケンサーのマニュアルに従い、ポリガラクツロナーゼのN末端アミノ酸配列の分析を行った。分析の結果、22アミノ酸が決定された。その配列は配列番号1に示した。
【0063】
(5)ポリガラクツロナーゼの至適pHの検討
YM9901株の生産するポリガラクツロナーゼの至適pHを調べるため、pH値を修正した基質プレート(「発明の実施の形態」の項に例示したものを使用)を用いたカップ・プレート・アッセイ法を行ってその結果を検討した。pH3、4及び5の基質プレートを作製するためには、目的の各pH値に調整した1mMの酢酸緩衝液をそれぞれ用いた。またpH6、7及び8の基質プレートを作製するためには、目的の各pH値に調整した1mMのリン酸緩衝液をそれぞれ用いた。pH9の基質プレートの作製には、pH9に調整した1mMのTris-HClを用いた。それ以外の条件については「発明の実施の形態」の項に例示した組成に準じ、上記の(3)の記載と同様にして、基質プレートを作製した。
【0064】
次に各pHの基質プレートに、上記の(1)〜(3)の記載と同様にして調製したポリガラクツロナーゼの粗酵素液50μlをウェル内に入れ、30℃で24時間保持した。保持後5Nの塩酸を基質プレート上に重層し、その後各ウェルの周囲に透明帯が出現するか否かを判定することにより、各pHのプレートにおけるポリガラクツロナーゼ活性を検出した。
【0065】
その結果、pH3〜6のプレートでは上記活性が十分高いレベルで検出されたが、pH7及び8のプレートでは該活性は検出されなかった。また、各pHの基質プレートにおいてウェル周囲に出現した透明帯の外周円の最大直径を計測したところ、図2のような結果が得られた(2回反復実験の平均値)。図2に示されている通り、活性が検出されたプレートの中でもpH5のプレートで最大の活性が認められたことから、YM9901株のポリガラクツロナーゼ活性の至適pHは約5.0であることが明らかとなった。
【0066】
(6)YM9901株におけるポリガラクツロナーゼ生産の最適温度の検討
YM9901株の培養温度とポリガラクツロナーゼの活性量との関係について検討した。YM9901株の菌糸片を桑根液体培地(細断した乾燥桑根20g、蒸留水1L)中に入れ、10、20、25、30および35℃で振とう培養(100rpm)した。培養3、6および10日後に、培養液の一部を遠心分離(3000×g、20分)し、得られた上清を濾過滅菌したものを粗酵素液とした。各粗酵素液をカップ・プレート・アッセイ法に用いる基質プレート(「発明の実施の形態」の項に例示したものを使用)のウェル内に50μl入れ、30℃で24時間保持した。保持後5Nの塩酸を基質プレート上に重層し、その後各ウェル周囲に透明帯が出現するか否かを判定することにより、各粗酵素液サンプルのポリガラクツロナーゼ活性を検出した。各サンプルを含むウェルについて、透明帯の外周円の最大直径を計測した結果を図3に示した。
【0067】
この結果、培養3日後には、10℃で培養された粗酵素液を除き、他の全ての培養温度で培養された粗酵素液で活性が見られ、また培養温度が高いほど高い活性を示す傾向がみられた(図3)。特に35℃の培養で得られた粗酵素液では、最も高い活性が見られた(図3)。さらに、これら各温度での酵素活性は、培養10日後ではほぼ同程度となった。また、10℃で培養した場合でも、培養6日後では活性が認められ、10日後では活性が他の培養温度で得られた粗酵素液の活性とほぼ同程度となった。なお、35℃培養で得られた粗酵素液では、培養10日目では活性がやや減少したが、恐らくは基質欠乏によるフィードバック抑制のためであろうと考えられる。この結果により、YM9901株のポリガラクツロナーゼはYM9901株において培養温度が10℃〜35℃で生産され、特に20〜35℃で効率よく誘導されることが明らかとなった。
【0068】
次に、ポリガラクツロナーゼ遺伝子の単離を行った実施例について説明する。[実施例2]
(1)リゾプス・オリゼからの全RNAの抽出
50mlのペクチン水培地が入った300ml容の三角フラスコ内に、ジャガイモ・グルコース・寒天培地(栄研器材製)で前培養して得られたリゾプス・オリゼYM9901株の菌叢片を複数入れ、25℃で3日間振とう培養(100rpm)した。その培養液から、減圧ろ過により培養菌体を回収し、ただちに−20℃で凍結後、液体窒素中で乳鉢と乳棒を用い細かく破砕した。
次に、破砕された菌体粉末から、キアゲン社のRneasy plant mini kitを用いて、添付されている操作手順に従い菌体由来のRNAを抽出し、最終的に190ng /μl濃度でDEPC水中に溶解された全RNAを得た。
【0069】
(2)一本鎖相補DNA(cDNA)の合成
mRNA由来のcDNAを得るために、1.8μgの全RNAを鋳型として、それに、オリゴ(dT)12-18プライマー(BRL社製)を0.5μg、逆転写反応バッファー、2.5mM dNTPミックスおよび0.1M DTTを所定量加えた後、逆転写酵素SuperscriptII(BRL社製)を200 U加え、42℃50分間、次いで70℃15分間の逆転写反応を行った。これにより、全RNA中のmRNAを鋳型として逆転写反応により生成されるcDNA 440ng /μlを20μl得た。
【0070】
(3)PCR
得られたcDNAを鋳型として、PCRにより本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子のクローニングを試みた。まず、本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子に特異的に結合できる特異的プライマーを、上述の精製されたポリガラクツロナーゼのN末端アミノ酸配列の情報に基づいて合成した。合成した特異的プライマーの塩基配列(5'-GCNAAYTGYGTNGTNGCNCC-3')を配列番号2に示した。このプライマーは混合塩基を含むディジェネレートプライマーであり、これをセンスプライマーとして用いた。アンチセンスプライマーにはcDNAの合成時に使用したオリゴ(dT)12-18プライマーを用いた。
【0071】
鋳型のcDNA 220ngに、これら両プライマーをそれぞれ0.5pmol、2.5mM dNTPミックス、PCR反応バッファー(100mM Tris-HCl (pH8.3)、500mM KCl、15mM MgCl2)および滅菌蒸留水を所定量加えた後に、耐熱性DNAポリメラーゼ(Takara EX TaqTM、タカラバイオ株式会社製)を0.5 U加えてPCR反応を行った。PCR反応は、サーマルサイクラーGeneamp PCR system 9600(パーキンエルマー社製)によって行い、反応は95℃:1分、50℃:1分、72℃:1分を30サイクル行った。
【0072】
PCRにより増幅されたDNAを常法(Sambrookら、前出)のアガロース電気泳動(2%アガロース)により検出した結果、約650 bp(塩基対)のサイズのDNA断片が明瞭に検出された。そこで、このDNA断片を、常法(Sambrookら、前出)によりゲルから抽出・精製し、塩基配列決定の鋳型とした。
【0073】
(4)塩基配列の決定
塩基配列の決定法は、ダイデオキシ法を用い、その反応はBigDye Terminater v3.0 Ready Reaction Cycle Sequencing Kit(Applied biosystems社製)を用い、電気泳動と塩基配列の決定は3100 Genetic Analyzer(Applied biosystems社製)を用いて行った。得られた塩基配列は、Sequencing Analysis ver.3.7(Applied biosystems社製)およびDNASIS-Mac ver.3.6(日立ソフト社製)を用いて連結および解析を行った。
【0074】
その結果、644bpの塩基配列が決定された。この塩基配列を配列番号3に示す。この塩基配列は、先に決定した精製ポリガラクツロナーゼのN末端アミノ酸配列(配列番号1)と一致するアミノ酸配列をコードし得る塩基配列(配列番号3の塩基1〜63)を含んでいた。従ってポリガラクツロナーゼ遺伝子の一部をクローニングできたと結論した。
【0075】
(5)TAIL-PCR
次に、本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子の完全長をクローニングするために、TAIL(thermal asymmetric interlaced)-PCR(Liu, Y.-G. and Whittier, R. F.、Genomics、25、674-681参照)によって、上記の通り得られた遺伝子の一部(配列番号3)の5'および3'側のそれぞれの外側領域についてクローニングを行った。
【0076】
まず、鋳型となるゲノムDNAの抽出を行った。前述のペクチン水培地50mlで培養して得られたリゾプス・オリゼYM9901株の液体窒素による菌体破砕物約200mgを800μlの抽出バッファー(100mM LiCl、10mM EDTA、10mM Tris-HCl (pH 7.4)、0.5% SDS)中に入れ、遠心分離した。得られた上清に等容量のフェノール液(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)を加えて抽出した後、水層を採取し、該水層に0.3Mの酢酸ナトリウムを添加した等量のイソプロピルアルコールを加えて十分混和してから遠心分離を行い、核酸の沈澱を得た。沈殿物を70%エタノールで洗浄し、乾燥後に100μlのTEバッファー(100mM Tris-HCl (pH 8.0)、10mM EDTA)中に溶解した。
【0077】
その後常法(Sambrookら、前出)によるRnase A(10mg / ml)処理後、上述と同じ処理により核酸沈澱を得、これを洗浄・乾燥した後に100μlのTEバッファーに溶解して、250ng /μlのゲノムDNAを得た。
【0078】
次に、TAIL-PCR反応用の、鋳型DNAに特異的に結合できるプライマー(特異的プライマー)と特異的に結合しないプライマー(非特異的プライマー)を、上記の通り得られたポリガラクツロナーゼ遺伝子の一部の塩基配列(配列番号3)を基に設計した。遺伝子の一部の3'側の塩基配列に基づき、3'末端側へのクローニング用の特異的プライマーとして配列番号4、5、6に示す塩基配列のプライマーを合成し、非特異的プライマーとして配列番号7に示す塩基配列のプライマーを設計して合成した。また、同5'側の塩基配列に基づき、5'末端側へのクローニング用の特異的プライマーとして配列番号8、9、10に示す塩基配列のプライマー、非特異的プライマーとして配列番号11に示す塩基配列のプライマーを設計して合成した。各プライマーの塩基配列は以下の通りである。
配列番号4に示す塩基配列のプライマー:5'-GAATTGCGTTGTTGCTCCAAGCAGT-3'
配列番号5に示す塩基配列のプライマー:5'-GCAGTGGCGATGCTGCTGCCAACAT-3'
配列番号6に示す塩基配列のプライマー:5'-ACGGTGGCACGGTCACCTTCACCAA-3'
配列番号7に示す塩基配列のプライマー:5'-WGTGNAGWANCANAGA-3'
配列番号8に示す塩基配列のプライマー:5'-CCGCCTTTACCAAGGGATCCAACGC-3'
配列番号9に示す塩基配列のプライマー:5'-CCGTGGCCGCCGACACAGTTCACAT-3'
配列番号10に示す塩基配列のプライマー:5'-AGCGTTGACAGCCAGGCAGTCATCA-3'
配列番号11に示す塩基配列のプライマー:5'-NGTCGASWGANAWGAA-3'
【0079】
TAIL-PCRでは合計三回のPCRを連続的に行うが、3'末端側へのクローニングの場合、一回目のPCRでは配列番号4と7、二回目のPCRでは配列番号5と7、三回目のPCRでは配列番号6と7のプライマーを用いた。また、5'末端側へのクローニングの場合、一回目のPCRでは配列番号8と11、二回目のPCRでは配列番号9と11、三回目のPCRでは配列番号10と11で示される塩基配列からなるプライマーを用いた。
【0080】
各PCR反応液の組成は、劉(植物工学別冊、植物細胞工学シリーズ7、1997、p.83-89)の実験書に基づいて調製した。PCRは上述と同じ機器を使用し、反応条件は、同じく劉の実験書(前出)に従い温度条件・スーパーサイクル数等を設定した。なお、耐熱性DNAポリメラーゼは、Takara EX TaqTM(タカラバイオ株式会社製)を用いた。
【0081】
三回目のPCR完了後、得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動した結果、3'末端側へのクローニングを意図したPCRで約1kbp(キロ塩基対)付近に、また5'末端側へのクローニングを意図したPCRで約800bp付近に、明瞭なバンドの出現が認められた。そこで、上述と同様にこれらバンドからDNAを抽出・精製し、それぞれのDNAの塩基配列を決定・解析した。
【0082】
このようにして得られたポリガラクツロナーゼ遺伝子の5'側及び3'側の塩基配列から、本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子の配列番号12に示された塩基配列が判明した。この配列番号12に示された塩基配列においては、配列番号3の配列と比較して3'末端側で新たに335bpの配列が確認された。さらに5'末端側では、開始コドンのATG配列(配列番号12の塩基110〜112)が確認された。この配列番号12に示された塩基配列から推定される、ATG配列を起点としたアミノ酸配列を配列番号13に示す。なお、上述のポリガラクツロナーゼのN末端(配列番号1)は、この配列番号13の27〜48番のアミノ酸に相当することが確認された。また、この配列番号13に示される推定アミノ酸配列には、精製ポリガラクツロナーゼには存在しない26アミノ酸(Met-1〜Ala-26)が存在していた。この26アミノ酸配列は膜通過に必須のシグナル配列であろうと考えられた。
【0083】
さらに、配列番号12に示された塩基配列と、cDNAの解析により得られたポリガラクツロナーゼ遺伝子の塩基配列(配列番号3)との比較から、ゲノムDNA中のポリガラクツロナーゼの遺伝子には47bp(配列番号12の塩基482〜528)のイントロンが存在していることが判明した。
【0084】
しかしながら、配列番号12に示される塩基配列においても、3'末端側にコード領域の終点を示す終止コドン配列が依然としてみられなかったので、ゲノムDNA中の本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子の完全長をクローニングするために、3'RACE法を用いてさらに3'末端側のクローニングを行った。
【0085】
(6)3'RACE
上述で作成したリゾプス・オリゼYM9901株の破砕菌体粉末由来の全RNAを鋳型に3'RACE法によるポリガラクツロナーゼ遺伝子のクローニングを行った。300ngの全RNAに 5'-GGCCACGCGTCGACTAGTAC-3'のアダプター配列を5'末端に付加したオリゴdT17プライマー(配列番号17)を0.5pmolおよび逆転写酵素SuperscriptII(BRL社製)を200 U加えて、上述と同様に逆転写させ、cDNAを合成した。
合成したcDNA1μlを鋳型に、一回目のPCRを行った。プライマーとして、TAIL-PCRで用いた配列番号4の特異的プライマー0.5pmolおよび上述のアダプター配列のみのプライマー0.5pmolを用いた。耐熱性DNAポリメラーゼとしてTakara EX TaqTM(タカラバイオ株式会社製)を1U用い、PCR反応を行った。PCRは上述と同じ機器を使用し、反応条件は、95℃:1分、60℃:1分、72℃:1分の反応を25サイクル行った。
【0086】
続いて、一回目のPCR産物1μlを鋳型に二回目のPCR(nested-PCR)を行った。プライマーとしては、TAIL-PCRで用いた配列番号6に示される特異的プライマー0.5pmolおよび上述のアダプター配列のみのプライマー(5'-GGCCACGCGTCGACTAGTAC-3';配列番号18)0.5pmolを用いた。その他は一回目のPCRと同じ条件でPCR反応を行った。その結果、アガロースゲル電気泳動により、PCR産物において約1.1kbp付近のバンドが明瞭に増幅されたことが示されたため、このバンドを含むゲルをアガロースから切り出し、該ゲル切片から上述と同様にDNA を抽出・精製し、得られたDNAの塩基配列を常法により決定・解析した。
【0087】
その結果、配列番号12の配列からさらに3'末端側下流に続く塩基配列が決定され、終止コドンであるTAA配列が、配列番号12に示される3'末端配列から90bp下流で確認された。以上の配列決定工程により、本発明のポリガラクツロナーゼをコードするゲノムDNA中の遺伝子(ゲノム遺伝子)の塩基配列が決定された。この遺伝子の開始コドンから終止コドンまでの塩基配列(イントロンを含む)を、配列番号14に示した。またこの塩基配列決定により得られた、開始コドンから終止コドンまでの塩基配列(イントロンを含む)と開始コドンより109bp上流までの領域とを含む遺伝子の塩基配列(1308 bp)を、配列番号19に示した。配列番号19に示される塩基配列には、コード領域中に、47 bpのイントロン(配列番号19の塩基481〜527)が含まれていた。さらに、配列番号19に示される塩基配列からなるDNAは、開始コドンの上流109 bpの塩基配列を含み、この上流領域には転写調節に働くTATAボックス(配列番号19の塩基32〜37)が含まれていた。
【0088】
以上の実験から、1つの実施形態としての本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子は、47 bpのイントロンを一つ含む1199 bpの塩基配列(配列番号14)にコードされることが判明した。また、この本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子から、転写・翻訳過程におけるイントロン領域のスプライシングを経て生合成されるポリガラクツロナーゼタンパク質は、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなることが推定された。そして、この配列番号15に示されるアミノ酸配列のN末端側配列(アミノ酸番号27〜48)は、実施例1で単離精製されたポリガラクツロナーゼのN末端アミノ酸配列(配列番号1)と完全に一致していた。これに基づき、配列番号15に示されるアミノ酸番号1〜26のアミノ酸領域は、シグナル配列であると考えられた。すなわち、実施例1で単離精製されたポリガラクツロナーゼは、一旦、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質として生成された後、シグナル配列が切断されて、配列番号20に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質として産生される。従って、実施例1で単離精製されたポリガラクツロナーゼは配列番号20に示されるアミノ酸配列からなる。またゲノム中では、そのような配列番号20に示されるアミノ酸配列にシグナル配列が付加されたタンパク質(配列番号15)が、配列番号14又は19に示される塩基配列からなるDNAより構成される遺伝子にコードされているものと考えられる。
【0089】
【発明の効果】
本発明は、リゾプス属糸状菌の生産するポリガラクツロナーゼおよびポリガラクツロナーゼ遺伝子を提供する。本発明のポリガラクツロナーゼは、高い基質分解活性を有すると考えられるため、オリゴガラクツロン酸の生成や各種製造過程の触媒等の用途に利用することができる。さらに、植物・糸状菌のプロトプラスト調製用試薬としても有望と考えられる。また、本発明のポリガラクツロナーゼ遺伝子は、他の微生物等に導入することによって、よりポリガラクツロナーゼ生産効率の高い生物種の作出を可能とすることができる。
【0090】
【配列表】
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【0091】
【配列表フリーテキスト】
配列番号2、4〜11、17及び18は、プライマーDNAである。
配列番号2、7及び11におけるnは、a、t、c又はgである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、カップ・プレート・アッセイ法により試験液のポリガラクツロナーゼ活性を検出した結果を示す写真である。
【図2】図2は、カップ・プレート・アッセイ法を用いて測定された、異なるpHの基質プレート上で生じたポリガラクツロナーゼ活性を示す図である。■は、各pHのプレートにおける計測値を表す。
【図3】図3は、カップ・プレート・アッセイ法を用いて測定された、異なる培養温度で培養したYM9901株が分泌するポリガラクツロナーゼの活性を示す図である。培養温度毎のサンプルを、以下の記号で示している。
10℃…+, 20℃…△, 25℃…●, 30℃…×, 35℃…□

Claims (8)

  1. 以下のa)〜g)の性質を有するタンパク質
    a) リゾプス・オリゼ( Rhizopus oryzae が生産する
    b) ポリガラクツロナーゼ活性を有する
    c) 分子量32,000
    d) 至適pHが5.0
    e) 121℃で15分間の煮沸処理で失活する
    f) リゾプス属糸状菌における生産適温が20〜35℃である、及び
    g) 配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるN末端を有する
  2. 以下の(a)又は(b)のタンパク質。
    (a) 配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b) 配列番号15に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質
  3. 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。
    (a) 配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b) 配列番号15に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質
  4. 以下の(a)又は(b)のDNAからなる遺伝子。
    (a) 配列番号16に示される塩基配列からなるDNA
    (b) 配列番号16に示される塩基配列からなるDNAの全部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
  5. 配列番号19に示される塩基配列からなるDNAより構成される遺伝子。
  6. 請求項3〜5のいずれか1項記載の遺伝子を含む組換えベクター。
  7. 請求項記載の組換えベクターを含む形質転換体。
  8. 請求項記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からポリガラクツロナーゼ活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする該タンパク質の製造方法。
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