JP4163060B2 - 農業用樹脂組成物及び農業用資材 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明はポリ乳酸系樹脂組成物であって、防曇性に優れた柔軟な農業用樹脂組成物及び農業用資材に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在の日常生活の中で、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン或いはポリ塩化ビニルなどのプラスチック製品は、食品包装、建材材料或いは家電製品などの様々な広い分野で利用され、日常の生活には欠かせないものとなっている。
【0003】
プラスチックの一番の特徴としては耐久性が挙げられるが、その使命を終え廃棄物となった場合には、その良好な耐久性がために自然界での分解性に劣り、生物系に影響を及ぼすなど、環境破壊の原因となるマイナスの面を持っている。
【0004】
プラスチックの持つそのような欠点を克服するために注目を集めているのが生分解性プラスチックである。近年の環境問題への問題意識の昂まりによってプラスチック製品のリサイクルが法規化され、リサイクル、リユースと共に環境中で容易に分解される所謂生分解性プラスチックが注目され、官民共にその研究・開発に力を注いでいる。その用途としては特に環境中で使用される農業用資材(例えば、根菜類育成用ハウスに用いるシート、フィルム、その他の成形品など)での利用が期待されている。
【0005】
それら生分解性プラスチックは大きく分けて微生物産出系、天然物利用系或いは化学合成系があるが、現在実用化され始めている生分解性プラスチックとしては脂肪族ポリエステル系、変性ポリビニルアルコール、或いはでんぷん変性体およびこれらブレンド体などに大別される。
【0006】
脂肪族ポリエステルの一種であるポリ乳酸系樹脂は、ポリエチレンと同等の引張強度、ポリエチレンテレフタレートと同等の透明性を有する結晶性熱可塑性高分子である。従来、医薬用の縫合糸などに用いられ安全性は高く、また、燃焼した場合も燃焼カロリーがポリエチレン、ポリプロピレンのなどの約1/3と小さく、焼却炉を傷めることが少なく、有害なガスの発生もない。また、石油系のプラスチックとは異なり再利用可能な植物資源を原料とする点でも有望である。このような利点のために近年になって製造法、応用用途などの研究開発が盛んになり、今後用途の多角化とそれに伴う生産量の増加が期待される。
【0007】
前述の通り、ポリ乳酸系樹脂は透明性が非常に良いため、農業用ビニルハウスフィルム等への利用が期待されている。しかし、一般にプラスチックはもともと水をはじく性質、即ち疎水性であるために、水蒸気があたると水滴になり曇ってしまう。これを防止するために、防曇剤を練りこみ、フィルム表面を親水性にすることが必要である(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
プラスチックに防曇剤として使用されるものには、塗布型と練り込み型の2種類がある。従来、ポリ乳酸をはじめとするポリエステル系の樹脂には、防曇剤として、塗布型のものが使用される場合が多かった。例としては無機質コロイドゲルを主成分とするもの(例えば、特許文献1参照)などがある。しかし、塗布型のものはポリ乳酸フィルムやシートの如き農業用資材の利点である透明性が低下するなどの問題がある。
【0009】
農業用樹脂組成物における練り込み型の防曇剤としては、一般的には非イオン界面活性剤が用いられることが多い。非イオン界面活性剤は透明性の阻害が少ないのが特徴である。例えば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノパルミテートなどのソルビタン脂肪酸エステル、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレートなどのグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリエチレングリコールモノステアレートなどのポリエチレングリコール系、およびそれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどを付加したものなどが挙げられる。
【0010】
しかし、練り込み型の防曇剤では、ポリエステル系の樹脂においては、効果が発揮されるものはほとんど無かった。ポリ乳酸系樹脂においても同様であり、練り込み型の防曇剤において効果が出ず、効果を出すために添加量を増加すると、透明性や物性の低下が見られるという不都合があった。防曇性を出すために、農業用多層フィルムに防曇層として防曇剤と防霧剤を併用した例もある(例えば、特許文献2参照)が、防霧剤の併用が必要であり、さらには防曇剤についても性能良好なものの組成が特定されていない。また、ポリ乳酸系樹脂は一般に透明性は良いが、硬いものが多いため用途が限られていた。柔軟な組成物を得るために可塑剤を用いる技術が数多く提案されている(例えば、特許文献3、4、5参照)が、これら可塑剤を含有し、柔軟で防曇効果がある、特に防曇性の持続がある農業用樹脂組成物は知られていない。
【0011】
【非特許文献1】
「ぬれ技術ハンドブック」株式会社テクノシステム、2001年10月25日、p415〜427
【0012】
【特許文献1】
特開平10−86307公報
【特許文献2】
特開2001−136847公報
【特許文献3】
特開平11−116788公報
【特許文献4】
特開平11−241008公報
【特許文献5】
特開2000−302956公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、生分解性樹脂であるポリ乳酸系樹脂の防曇剤として優れ、特に防曇持続性を有し、且つ安全性が高く環境負荷の小さい農業用樹脂組成物及び農業用資材を提供することにある。
【0014】
【発明が解決しようとする手段】
上記課題を解決する本発明は以下の構成を有する。
【0015】
1.ポリ乳酸系樹脂100重量部に(I)可塑剤を5〜50重量部及び(II)HLBが4〜7で構成脂肪酸がC12〜22の飽和脂肪酸を主成分とするジグリセリンまたはトリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる防曇剤を0.5〜5重量部含有する農業用樹脂組成物において、
(I)前記可塑剤が、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、ジグリセリンテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、トリエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノステアレートから選ばれたものであり、且つ
(II)前記防曇剤が、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノベヘネート、ジグリセリンジラウレート、トリグリセリンジステアレートから選ばれたものであることを特徴とする農業用樹脂組成物。
【0017】
2.上記1に記載の農業用樹脂組成物から農業用のフィルム、シート、その他の成形品として成形されたことを特徴とする農業用資材。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明について、さらに詳しく説明する。
本発明はポリ乳酸系樹脂を対象とするものである。使用されるポリ乳酸系樹脂はその重合度或いは品質を問わない。また、ポリ乳酸のホモポリマーのみならず、グリコール酸、ε―カプロラクトン、トリメチレンカーボネート或いはポリエチレングリコールなどの共重合体を併用してもよい。また、ポリ乳酸系樹脂の物性を損なわない範囲において、酢酸セルロース、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレートとバリレートの共重合体、キチン、キトサン或いはでん粉など、他の生分解性高分子を配合しても構わない。
【0019】
本発明に用いられるジグリセリンまたはトリグリセリン脂肪酸エステルは、ジグリセリンまたはトリグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応などにより得られるものであるが、その製造方法は特に限定されるものではない。
【0020】
本発明に用いられるジグリセリンまたはトリグリセリン脂肪酸エステルは、ジグリセリン、トリグリセリンのエステルであり、それ以上の重合度のものは、分子量が大きくなるに従ってポリ乳酸系樹脂との相溶性が悪く、ブリードしてしまい防曇持続性の効果が低減される。
【0021】
本発明に使用されるジグリセリンまたはトリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは4〜7のものである。HLBが4より小さい場合にはブリードが多く、HLBが7より大きい場合にはポリ乳酸系樹脂に練りこみ成形後、効果が発現するまでに時間がかかる。なお、HLBは下記式により求められる。
【0022】
HLB=20×(1−S/A)
S:エステルのケン化価
A:脂肪酸の中和価
【0023】
本発明に用いられるジグリセリンまたはトリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は、上記のHLBの範囲内であればどのようなものでも構わないが、モノエステル、ジエステルを主成分とするものが好ましい。
【0024】
以下表1に、ジグリセリン及びトリグリセリンの各種脂肪酸エステルのエステル化度を変化させた場合のHLBを示す。
【0025】
【表1】
【0026】
HLBが4〜7の範囲は、エステルを構成する脂肪酸種によりエステル化度が異なるが、本発明に使用されている炭素数12〜22の飽和脂肪酸では、ジグリセリンエステルの場合、エステル化度はモノからジの範囲、トリグリセリンエステルの場合、エステル化度はジからトリの範囲となる。
【0028】
本発明に用いられるジグリセリン及びトリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数12のラウリン酸から炭素数22のベヘニン酸までの飽和脂肪酸が好ましく、特に炭素数C16〜18のものが防曇持続性の効果の面で好ましいが、これらの中でも本発明においては、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノベヘネート、ジグリセリンジラウレート、トリグリセリンジステアレートから選ばれたものが用いられる。本発明の農業用樹脂組成物を成形して得られる農業用資材は、農業用ハウスなどの低温から高温の条件で使用される場合が多く、防曇剤としては低温防曇性及び高温防曇性が要求される。また、使用期間も長いもので数年使用されるため、長期持続効果を発現させるためには、防曇剤自体の融点が室温以上のものが一般的に使用される。本発明の農業用樹脂組成物を成形して得られる農業用資材用途では、上記本発明外のものでは望まれる持続防曇性が良好でないか、又良好な低温防曇性の効果が得られない。
【0029】
本発明において、防曇剤のポリ乳酸系樹脂に対する配合量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.5〜5重量部、さらに1〜2重量部の範囲内が好ましい。かかる範囲を下回るときは本発明が目的とする性能が不十分であり、上回るときは成形品の物性を損ねたり、防曇剤のブリードが見られる。
【0030】
本発明の農業用樹脂組成物において、可塑剤の存在は必須であり、可塑剤を配合しない場合には、本発明に係る特定のジグリセリン及びトリグリセリン脂肪酸エステルは防曇剤としての効果を発揮しない。可塑剤を、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対し、5〜50重量部(好ましくは10〜50重量部、特に15〜50重量部)配合することにより、優れた防曇効果を発揮する。かかる範囲を下回る場合には防曇効果が発揮されず、また、柔軟な農業用樹脂組成物は得られない。かかる範囲を上回る場合には可塑剤のブリードが見られる。
【0031】
本発明に用いられる可塑剤としては、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、ジグリセリンテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、トリエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノステアレートが可塑性、ブリード性、安全性などの面より挙げられる。
【0032】
本発明における農業用樹脂組成物は通常のプラスチックの成型に用いられる押出機、射出成形機などを用いて押出、射出等の熱成形が可能である。成形温度は160〜220℃が好ましい。ポリマーブレンドを行う場合には二軸押出機の方が好ましい。押出機中で溶融された農業用樹脂組成物は、Tダイ、インフレーションなどによりシート、フィルム、その他の成形品へ成形される。フィルムについては延伸、無延伸のいずれのものでも構わない。また、射出成形機などを用いて成形品が得られ、本発明の農業用資材となる。
【0033】
また、これらの農業用樹脂組成物には安定剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、スリップ剤などが併用されてもよく、これらの添加剤は本発明の防曇剤の効果を阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0034】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれらに限定されない。
【0035】
本実施例の評価にはポリ乳酸系樹脂として三井化学社製「レイシアH−440」を用い、加水分解による分子量の低下を防止するため、110℃、4時間の加熱乾燥処理を施し水分を除去した後、ポリ乳酸系樹脂に対して、実施例および比較例毎に、下記試験試料の所定量(表3に記載した)を配合し、二軸押出機を用いて190℃で押出ペレットを作成した。このペレットを用い、単軸押出機によりフィルムを作成し、防曇評価を行った。
【0036】
防曇性の評価は下記に示す温度の水を水槽に入れ、評価用の100×100mmの窓付き試験箱に作成したフィルムをかぶせてセロハンテープで止め、下記条件にて防曇性を評価した。
<評価条件>
【0037】
【表2】
【0038】
<防曇性の評価基準>
◎ :水滴なし
○+:極わずかに水滴あり
○ :一部に水滴あり
○−:大水滴が半面に付着
△+:小水滴があるが大水滴に変わりつつある
△ :小水滴が目立つ
△−:小水滴が多い
× :全面曇り
【0039】
<フィルムのブリード(フィルム製膜後室温放置15日目に評価)>
◎:ブリードなし
×:ブリード多い
【0040】
試験試料(A)可塑剤
(A)−1 グリセロールジアセトモノカプリレート(理研ビタミン社製リケマールPL−019)
(A)−2 アセチルクエン酸トリブチル(森村商事社製シトロフレックスA−4)
【0041】
試験試料(B)防曇剤
(B)−1 ジグリセリンモノステアレート(HLB6.9)
ジグリセリン1モルとステアリン酸1モルとをエステル化反応し、ジグリセリンモノステアレートを得た。
(B)−2 ジグリセリンモノベヘネート(HLB6.1)
ジグリセリン1モルとベヘニン酸1モルとをエステル化反応し、ジグリセリンモノベヘネートを得た。
(B)−3 ジグリセリンジラウレート(HLB4.9)
ジグリセリン1モルとラウリン酸2モルとをエステル化反応し、ジグリセリンジラウレートを得た。
(B)−4 トリグリセリンジステアレート(HLB5.3)
トリグリセリン1モルとステアリン酸2モルとをエステル化反応し、トリグリセリンジステアレートを得た。
(B)−5 グリセリンモノステアレート(理研ビタミン社製リケマールS−100 HLB4.3)
(B)−6 ジグリセリンモノオレート(HLB6.9)
ジグリセリン1モルとオレイン酸1モルとをエステル化反応し、ジグリセリンモノオレートを得た。
(B)−7 ジグリセリンモノラウレート(HLB8.5)
ジグリセリン1モルとラウリン酸1モルとをエステル化反応し、ジグリセリンモノラウレートを得た。
(B)−8 トリグリセリンテトラステアレート(HLB2.6)
トリグリセリン1モルとステアリン酸4モルとをエステル化反応し、ジグリセリンテトラステアレートを得た。
(B)−9 デカグリセリンモノステアレート(HLB14.5)
デカグリセリン1モルとステアリン酸1モルとをエステル化反応し、デカグリセリンモノステアレートを得た。
(B)−10 ソルビタンステアレート(理研ビタミン社製リケマールS−300W HLB5.4)
(B)−11 ジグリセリン0.8モルラウレート(HLB9.7)
ジグリセリン1モルとラウリン酸0.8モルとをエステル化反応し、ジグリセリン0.8モルラウレートを得た。
【0042】
【表3】
【0043】
評価結果を表4(高温防曇性)及び表5(低温防曇性)に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【0046】
【発明の効果】
本発明の特定の防曇剤を、5〜50重量部の特定の可塑剤を含有するポリ乳酸系樹脂に0.5〜5重量部添加することにより、環境に優しく防曇性に優れ、特に防曇持続性に優れた柔軟な農業用樹脂組成物及び農業用資材を供給することが可能になる。
Claims (2)
- ポリ乳酸系樹脂100重量部に(I)可塑剤を5〜50重量部及び(II)HLBが4〜7で構成脂肪酸がC12〜22の飽和脂肪酸を主成分とするジグリセリンまたはトリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる防曇剤を0.5〜5重量部含有する農業用樹脂組成物において、
(I)前記可塑剤が、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、ジグリセリンテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、トリエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノステアレートから選ばれたものであり、且つ
(II)前記防曇剤が、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノベヘネート、ジグリセリンジラウレート、トリグリセリンジステアレートから選ばれたものであることを特徴とする農業用樹脂組成物。 - 請求項1に記載の農業用樹脂組成物から農業用のフィルム、シート、その他の成形品として成形されたことを特徴とする農業用資材。
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