JP4162818B2 - 溶融塩電解方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融塩浴から金属を電析させるための溶融塩電解装置及びその溶融塩電解方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、金属の成形や母材のコーティングを行う場合、溶融塩浴から金属を電析させる手法、いわゆる溶融塩電解法が用いられる。この溶融塩電解は、金属を溶融状態にして電解を行うため、数百℃の高温条件下で行われるものである。
【0003】
そして、この溶融塩電解で用いられる装置として、例えば、有底筒状体の溶融塩電解容器中に、溶融塩浴を保持した電解槽を配置した、いわゆる縦型タイプの溶融塩電解装置が知られている。この縦型タイプの溶融塩電解装置は、溶融塩電解容器の上部開口に、溶融塩浴から金属を電析する電極が備えられた蓋体を取り付けることによって溶融塩電解容器内部を密閉状態とし、溶融塩浴の上方から陰極を移動させ、溶融塩浴へ電極を浸漬して、電解処理を行うようになっている。
【0004】
このような溶融塩電解装置では、電析する金属の種類によって、可溶性陽極を用いる場合がある。この可溶性陽極は溶融塩浴内に配置されるもので、即ち、電解槽内に配置され、上方から移動して溶融塩浴に浸漬される陰極と分極することによって、可溶性陽極自体を溶かしながら電解を行うことになる。従って、電解処理をある程度行うと、可溶性陽極が消費されるので、使用済み可溶性陽極を溶融塩浴から取り出し、新たな可溶性陽極を投入する作業が必要となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来、この可溶性陽極を溶融塩浴から取り出すには、溶融塩浴を一旦冷却して、溶融塩を固化し、その固化した塩を取り出した後に粉砕して、使用済み陽極を取り出すことによって行われている。そして、新たな可溶性陽極を投入するためには、固化した塩を再度加熱し、溶融状態にして行っているものである。
【0006】
このように、可溶性陽極の取り出し、投入作業には、浴の冷却、加熱処理を行う必要があるため、その作業自体も比較的長時間となり、可溶性陽極を用いた溶融塩電解における生産性低下の要因となっていた。また、この可溶性陽極の投入量を予め多くすることで、投入・取り出し作業を減らす対応を行うこともあるが、その初期の投入量は、溶融塩浴を保持する電解槽サイズなどに制限されるため、さらなる生産性の向上は望めないものであった。
【0007】
そこで、本発明は、溶融塩電解装置において可溶性陽極を用いる場合、その可溶性陽極の投入、取り出し作業を非常に簡易に行え、生産性を大きく向上させることができる溶融塩電解装置を提供せんとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するため、本発明では、溶融塩浴を保持するための電解槽と、該電解槽を内部に配置する溶融塩電解容器と、溶融塩浴から金属を電析する陰極が設けられるとともに溶融塩電解容器の上部開口に取り付けることによって溶融塩電解容器内部を密閉状態とするための蓋体とを備える溶融塩電解装置において、電解槽の溶融塩浴内に配置される可溶性陽極が、昇降可能とされているものとした。
【0009】
本発明によれば、可溶性陽極が昇降可能となっているため、可溶性陽極のみを溶融塩浴に投入することや、使用済みの可溶性陽極のみを溶融塩浴から取り出すことができる。従って、従来のような浴の冷却や固化した塩の粉砕作業、そして新たな可溶性陽極を投入するための塩の再加熱が必要とならず、迅速に、可溶性陽極の取り出し、投入作業を行え、生産性を大きく向上させることができる。
【0010】
本発明における可溶性陽極の昇降は、どのような手段によってもよく、例えば、溶融塩浴を保持する電解槽内に、可溶性陽極を載置できる台を設け、台を上昇、降下できるようにしてもよく、要は、可溶性陽極のみを溶融塩浴に投入、又は取り出せるような機構となっていればよいものである。
【0011】
そして、溶融塩浴の上方から陰極が降下するものとなっている、いわゆる縦型タイプの溶融塩電解装置では、可溶性陽極の昇降手段は、可溶性陽極を載置する網板と、該網板を支持するとともに網板を昇降するようになっている昇降軸とからなるものとすることが好ましい。
【0012】
このような昇降手段にすると、溶融塩浴から可溶性陽極を取り出す際に、溶融状態の塩は電解槽へ落下し、可溶性陽極のみを簡単に取り出すことができる。そして、縦型タイプの溶融塩電解装置では陰極が溶融塩浴の上方から降下するようになっているので、その陰極の移動に合わせて、可溶性陽極を移動させることが可能となり、新たな可溶性陽極を溶融塩浴に投入することも容易に行えるようになるからである。
【0013】
また、本発明の溶融塩電解装置とする場合、装置構造を簡易化するためには、上記した網板及び昇降手段を介して、可溶性陽極に通電するようにすることが好ましい。溶融塩電解では、陰極と陽極とを分極できるようにする必要があるが、昇降可能とされた可溶性陽極にも、当然通電できるようにしておく必要がある。この場合、通電手段を別途設けることで、昇降可能とされた可溶性陽極を通電可能とする対応も考えられるが、上記した網板及び昇降軸を介して、可溶性陽極に通電するようにすれば、装置構造を複雑にすることなく、本発明を適用した溶融塩電解装置とすることができる。
【0014】
さらに、網板及び昇降軸とからなる昇降手段を用いる場合、その網板及び昇降軸を構成する材料は、グラファイト製であることが好ましい。グラファイトは、高温耐熱性、溶融塩浴に対する耐食性等に優れ、電導性を有するからである。
【0015】
以上で説明した本発明に係る溶融塩電解装置を用い、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム及び白金属金属を含む溶融塩浴で、400〜800℃の浴温範囲で電解を行うようにすると、非常に生産性の高い溶融塩電解が行えることになる。この塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム及び白金族金属を含む溶融塩浴において白金族金属を電析する場合、可溶性陽極を用いられることが多くあるが、本発明によれば、従来のような可溶性陽極の取り出し、投入作業に比較すると、溶融塩を冷却することなく高温(使用温度)に維持したまま可溶性陽極を投入できるため、作業時間は従来の約1/5程度で済み、大きく短縮される。また、溶融塩浴が大気中の酸素や水分にさらされないため、酸化或いは吸湿による溶融塩浴の劣化が防止されるので、溶融塩浴の寿命が延びることになる。従って、可溶性陽極を用い、上記する溶融塩浴から白金族金属を、連続的且つ大量に電析させる場合、生産性を飛躍的に向上させることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る溶融塩電解装置の断面概略図を示したものである。溶融塩電解装置1は、有底筒状容器2、電解槽3、有底筒状容器2の上部開口の蓋となるフランジ4、回転手段5と陰極用シャフト6で接続されている陰極7(被メッキ物)、電解槽3の上部開口を蓋するため遮蔽板8、可溶性陽極9を載置したグラファイト製メッシュ板10、及びメッシュ板10を支持するグラファイト製陽極用シャフト11を備えたものである。そして、有底筒状容器2は、陰極7、遮蔽板8、可溶性陽極9、メッシュ板10を内部に装填、或いは取り出すために使用する予備排気室12を形成するように、隔絶シャッター13が設けられている。また、回転手段5及び陰極用シャフト6に接続されている陰極7と、可溶性陽極9を載置したメッシュ板10及びメッシュ板10を支持する陽極用シャフト11とを、それぞれ上下方向に移動させる昇降手段14、15が別々に備えられている。
【0017】
有底筒状容器2の側壁には、不活性ガス流入口16と、図示せぬ排気手段に接続されている不活性ガス排出口17とが設けられている。そして、有底筒状容器2の内壁には、グラファイト製の保温材18で上下に分割した状態で覆われるようにしている。電解槽3は有底筒状容器2内の底側へ、保温材18に囲まれるような状態で配置されている。電解槽3は、密度1.9g/cmのグラファイトで成形したものである。
【0018】
電解槽3には、その開口に遮蔽板8を保持できるように遮蔽板保持リング19が取り付けられている。遮蔽板8は、グラファイト製の耐熱材料で形成されたもので、電解槽3の開口断面を覆うような円盤状で、且つ、中央に陰極用シャフト6が貫通できる開口と周辺側には陽極用シャフト11が貫通できる開口とが形成されている。
【0019】
予備排気室12には、陰極7、遮蔽板8、可溶性陽極9及びメッシュ板10の装填・取出しの際に、有底筒状容器2内部に外部の空気が混入しないように、不活性ガス導入用の予備室ガス流入口20、予備排気室7内の外気を予備的に排気する予備排気口21が設けられている。
【0020】
本実施形態における溶融塩電解装置1では、陰極7、遮蔽板8、可溶性陽極9の移動は、次のようにして行われる。まず、隔絶シャッター13が閉じられた予備排気室12内に、可溶性陽極9を載置したメッシュ板10と、その上方へ陰極7の上部に遮蔽板8を乗せた状態のものとが、取り付けられる。そして、予備排気口21から予備排気室12内に混入した外気を排出するとともに、予備室ガス流入口20より不活性ガスを導入する。予備排気室12内をガス置換した後、隔絶シャッター13を開放して、昇降手段14、15により、可溶性陽極9を載置したメッシュ板10、陰極7及び遮蔽板8を有底筒状容器2内の下方へ移動させる。
【0021】
可溶性陽極9を載置したメッシュ板10は、昇降手段15により、電解槽3に保持される溶融塩浴22に、所定の浸漬位置まで降下させられる。また、昇降手段14により降下する、陰極7上部に乗せられた遮蔽板8は、遮蔽板保持リング19にその周辺部が保持されることにより、電解槽3の開口に蓋をする状態となる。陰極7は、遮蔽板8と離脱して、さらに降下され、溶融塩浴22へ所定深さまで浸漬される。陰極7を溶融塩浴22中で回転させながら電解する場合は、回転手段5を駆動することにより行うことができる。溶融塩浴22は電解槽3に取り付けられている図示せぬ外部ヒーターによって加熱され所定の浴温度に維持される。そして、陰極7と可溶性陽極19とは、陰極用シャフト及び陽極用シャフト11を介して分極され、溶融塩電解が行われるものとなる。
【0022】
可溶性陽極9を取り出す場合は、上述の投入装填の順序と逆にすることで、溶融塩浴22から可溶性陽極19を取り出すことができる。この場合、溶融塩浴22の冷却は必要はなく、可溶性陽極9、陰極7、遮蔽板8を予備排気室12内まで上昇させ、所定時間放置することで、取り扱い可能な温度まで冷却し、その後、有底筒状容器2から取り出すことができる。
【0023】
次に、本実施形態の溶融塩電解装置における、使用済み可溶性陽極の取り出し、及び新たな可溶性陽極の投入作業の所要時間について説明する。この作業は、次表に示す溶融塩浴組成、電解温度条件下で行ったものである。
【0024】
【表1】
Figure 0004162818
【0025】
所定時間の溶融塩電解処理を行った後、上述した方法で使用済みの可溶性陽極を取り出し、新たな可溶性陽極を溶融塩浴に投入するまでの作業時間は、平均0.5日間であった。一方、同量の可溶性陽極を、従来の方法により溶融塩浴から取り出し、新たな可溶性陽極を投入する間での作業時間は、平均3日間であった。従って、本実施形態の溶融塩電解装置を用いると、従来より約1/6程度の作業時間で済むことが確認された。
【0026】
【発明の効果】
以上説明しように本発明に係る溶融塩電解装置によれば、可溶性陽極を用いて溶融塩電解を行う場合、その可溶性陽極の投入、取り出し作業を非常に簡易に行えることができ、その結果、生産性を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶融塩電解装置の概略断面図である。
【符号の説明】
1 溶融塩電解装置
2 有底筒状容器
3 電解槽
4 フランジ
5 回転手段
6 陰極用シャフト
7 陰極(被メッキ物)
8 遮蔽板
9 可溶性陽極
10 メッシュ板
11 陽極用シャフト
12 予備排気室
13 隔絶シャッター
14、15 昇降手段
16 不活性ガス流入口
17 不活性ガス排出口
18 保温材
19 遮蔽板保持リング
20 予備室ガス流入口
21 予備排気口
22 溶融塩浴

Claims (4)

  1. 溶融塩浴を保持するための電解槽と、該電解槽を内部に配置する溶融塩電解容器と、溶融塩浴から金属を電析する陰極が設けられるとともに溶融塩電解容器の上部開口に取り付けることによって溶融塩電解容器内部を密閉状態とするための蓋体とを備え、電解槽の溶融塩浴内に配置される可溶性陽極が昇降可能とされている溶融塩電解装置を用いる溶融塩電解方法において、
    溶融塩浴は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム及び白金族金属を含むもので、400〜800℃の浴温範囲で電解を行うものである溶融塩電解方法。
  2. 可溶性陽極は、可溶性陽極を載置する網板と、該網板を支持するとともに網板を昇降するようになっている昇降軸とからなる可溶性陽極の昇降手段により昇降させる請求項1に記載の溶融塩電解方法。
  3. 可溶性陽極の通電は、網板及び昇降軸を介するものである請求項2に記載の溶融塩電解方法。
  4. 網板及び昇降軸は、グラファイト製である請求項2又は請求項3に記載の溶融塩電解方法。
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