JP4160690B2 - バーニッシュヘッド、バーニッシュヘッドの製造方法及び再生方法並びにそのバーニッシュヘッドを用いた磁気ディスクの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高密度磁気記録用磁気ディスクの製造方法並びに磁気ディスクの製造に用いるバーニッシュヘッド及びその製造方法と再生方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の磁気ディスクの製造方法では、Al2O3とTiCの混合物で作られたスライダーとサスペンションからなるバーニッシュヘッドをディスク円板上に浮上させ、磁気ディスク上のゴミ及び異常突起の除去を行ってきた。しかしながら、近年の磁気ディスク容量の急激な増加に伴いディスク表面の保護膜が薄くなり、同時に保護膜が高硬度化してきている。そのため、スライダー表面がAl2O3- TiCである従来のバーニッシュヘッドでは、磁気ディスク上のゴミ及び異常突起の除去を効率的に行うことが出来なくなってきた。また、ディスク表面が高硬度化した事により、スライダー表面がAl2O3- TiCであるバーニッシュヘッドでは、スライダー表面の摩耗、傷の発生が多くなり、長時間の連続使用に耐えられないという問題が最近生じている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、磁気ディスクの保護膜よりも硬質の表面層をバーニッシュヘッドのスライダーの基材上に形成することにより、低浮上で長時間安定して磁気ディスク上のゴミ及び異常突起の除去を行うことの出来るバーニッシュヘッドを提供し、この様なバーニッシュヘッドを用いた磁気ディスクの製造方法並びにバーニッシュヘッドの再生方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する為、本発明の磁気ディスクを製造する方法では、硬度10GPa以上の保護膜を有する磁気ディスクよりも3.5倍以上高い表面硬度を有する表面層を表面に形成したバーニッシュヘッドで磁気ディスクの表面を処理した。この処理は、例えば周速5m/sあるいは1,750rpmで回転している磁気ディスク上でバーニッシュヘッドを半径方向に6mm/sでシークすることにより、ディスク上のゴミ及び異常突起の除去を行うものである。この様な表面処理を行った磁気ディスクを磁気記憶装置に組み込むことにより、長時間にわたり低浮上でクラッシュすることなく磁気ヘッドを浮上でき大容量で高性能の磁気記憶装置を実現できる様になる。
【0005】
前記磁気ディスクの保護膜の表面は、磁気ディスクの基材表面に少なくとも磁性層を形成し、前記磁性層表面に硬度10Gpa以上の保護膜を形成し、前記保護膜表面にパーフルオロポリエーテル等の潤滑膜を形成後、該保護膜の硬度よりも3.5倍以上高い表面硬度を有する表面層を形成したバーニッシュヘッドで処理することが好ましい。これは、潤滑膜を形成後、該保護膜の硬度よりも高い表面硬度を有する表面層を形成したバーニッシュヘッドで磁気ディスクの表面を処理すると磁性膜の欠落を少なくし、同時に表面の異常突起を容易に除去できることによる。一方、ディスク保護膜の硬度以下の表面硬度を有する表面層を形成したバーニッシュヘッドで、磁気ディスクの表面を処理しようとしても、ディスクの突起除去は十分にできない。また、磁気ディスクの保護膜の硬度以下の表面硬度を有する表面層を形成したバーニッシュヘッドで、磁気ディスクの表面を処理した場合、バーニッシュヘッドの表面層の摩耗が著しく発生する。
【0006】
磁気ディスク上の保護膜が、ダイヤモンドライクカーボンである場合にも、磁気ディスクより3.5倍以上高い表面硬度を有する表面層を形成したバーニッシュヘッドで磁気ディスクの表面を処理する事により、機械的な浮上高さ10nmで安定して浮上でき、同時に異常突起の除去が長時間安定して可能となる。ここで、バーニッシュヘッド表面の硬度が40GPa以上である場合には、バーニッシュヘッドの摩耗が抑えられる為、特に長時間安定してディスク上のゴミ及び異常突起の除去を行うことができる。バーニッシュヘッド表面の硬度が40GPa未満であり、磁気ディスクの保護膜がダイヤモンドライクカーボンである場合には、必ずしも長時間にわたりバーニッシュはできない為好ましくない。
【0007】
上記ダイヤモンドライクカーボンは、薄膜硬度計による硬度が10GPa以上、HFS(Hydrogen Forward Scattering Spectroscopy)測定による膜中水素量が30%以下、分光エリプソメータによる633nmにおける光学定数が屈折率1.7以上、消衰係数0.3以下、ラマン散乱分光分析によるピーク強度比(Id/Ig)が、0.6以下であることを特徴とする炭素を主成分とした膜である。ラマン散乱分光測定は、524.5nmの励起波長を用いて得られた炭素膜のラマンスペクトルの波形を、図1に示す様な二つのガウス関数型波形に分離し、ピーク位置が、1,540〜1,580cm-1のピーク強度(Ig)と、ピーク位置が1,320〜1,360cm-1のピーク強度(Id)の比(Id/Ig)で評価を行った。
【0008】
磁気ディスクの保護膜表面の硬度及びバーニッシュヘッド表面に形成した表面層の硬度は、バルコビッチ型ダイヤモンド圧子を用い超低荷重変位検出法に基づく、米国MTS Systems Corporation製のNano Indenter IIs(薄膜硬度計)を用いて測定した。超低荷重変位検出法については、Pharr Oliverによって“Measurement of Thin Film Mechanical Properties Using Nano-indentation” (MRS Bulletin 17(7) July 1992, pp.28-33)の中で述べられている。
【0009】
バーニッシュヘッドの表面にダイヤモンドライクカーボンを形成し、前記ダイヤモンドライクカーボン表面にダイヤモンドライクカーボンより硬度が高く、少なくとも、この順に2層の表面層を積層することにより、更に長時間安定してディスク上のゴミ及び異常突起の除去を行うことができる。表面層を少なくとも、2層形成する方が良い理由は、膜応力を緩和できるためと考えられる。結果として60nm程度まで膜を厚くでき、表面層の剥離を生じない様にしてバーニッシュヘッドの表面層を形成することが可能となる。この様な高硬度の表面層を形成したバーニッシュヘッドでは、スライダー表面に溝、パッド等を形成しなくても接線力が小さくなる為に磁気ディスクの表面処理を行ってもクラッシュせず、長時間にわたり磁気ディスクの表面処理が継続できる。更にスライダー面が、平坦なバーニッシュヘッドを用いると、バーニッシュにより生じたフレークがスライダー表面に形成した溝、パッド等に入り込まずに長時間バーニッシュを継続できるため量産の観点から好ましい。更に、スライダー表面にスライダーを磁気ディスク側へ押し付ける様な圧力(負圧)を発生するスライダー形状を有するヘッドを使うことにより、低浮上でバーニッシュヘッドのロール剛性、ピッチ剛性を高めることができ、負圧スライダーのバーニッシュ用パッドが、磁気ディスク上のゴミや異常突起に衝突した場合に浮上姿勢を乱さず、磁気ディスク表面にスクラッチ痕を付けることが無くなるため好ましい。
【0010】
バーニッシュヘッドの摩耗に対し長時間バーニッシュヘッドを交換せずに使用する為、磁気ディスクとの接触部であるバーニッシュヘッド流出端部の表面層を厚くする様に、バーニッシュヘッド表面に表面層を形成しても、長時間ディスク上のゴミ及び異常突起の除去を行うこともできる。磁気ディスクとの接触部であるバーニッシュヘッド流出端部の表面層を厚くすることにより、実質的に摩耗し削れていく流出端部の寿命を延ばし、バーニッシュヘッド表面に表面層を形成することにより、短時間で交換することなく、長時間バーニッシュが連続して可能となる。
【0011】
しかしながら、長時間使用したバーニッシュヘッドは、表面に形成した表面層が摩耗することもある。この場合、残表面層を酸素アッシング、アルゴンエッチング等の方法で除去し、再度バーニッシュヘッドに表面層を形成する事によりバーニッシュヘッドとして再利用することが可能となる。
【0012】
バーニッシュヘッドの表面形状を制御するために、該バーニッシュヘッドの表面硬度と同程度の硬度を有する円板上で該バーニッシュヘッドを低浮上させ、バーニッシュヘッド表面の異常突起を除去することにより、磁気ディスクの製造時に異常突起の無いバーニッシュヘッドを提供することもできる。
【0013】
これらの高硬度の表面層は、スライダーの表面にアーク放電を用いてグラファイトカーボンからカ−ボンイオン(C+)を抽出し、高硬質ダイヤモンドライク炭素(DLC;Daiamond Like Carbon)薄膜を被覆することにより得られる。本薄膜形成法は、カソーディックアーク法と呼ばれている。例えば、International Conference on Micromechatronics for Information and Precision Equipment(Tokyo,July,20〜30,1997) の予稿集第357頁から第362頁に記載される様な特性を持つ。反応性スパッタ法、ECR−CVD(Electron Cycletoron Resonance−Chemical Vaper Deposition)法の様な他の方法で成膜したDLC膜と比べ、カソーディックアーク法により形成した薄膜はsp3結合性が強く、被覆材料として使用した場合、硬質でかつ摩擦係数が低いという利点を持つ。しかし、その反面カソーディックアーク法により形成されたDLC膜は、内部応力が、数十ギガパスカル程度と非常に大きく、DLC膜の膜厚を厚くすると内部応力により膜の剥離が起る。そのため本発明では、膜厚に応じてスライダー表面に珪素、炭化珪素、又はその酸化物等からなる薄膜を密着膜として形成し剥離の問題を解決した。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に関わる磁気ディスク及びその製造方法の実施の形態を図を用いて説明する。
【0015】
〈実施例1〉
図2は、本発明手法によりバーニッシュを行うハードディスク用磁気ディスクの構成図である。この磁気ディスクは、例えば、非磁性基体の磁気ディスク基板21上に下地層22と、磁性層23と、保護層24と、潤滑層25を順次積層した多層膜から構成される。
【0016】
下地層22は、例えば、Cr等からなる層であり、多層化しても良い。磁性層23は、Coを主成分とする合金層等、磁気ディスクに用いられる磁性材料であれば特に限定されない。保護膜24は、炭素を主成分とし、窒素、水素、珪素又は硼素等を添加することにより、10GPa〜18GPaの表面硬度を有する膜を形成した。保護膜24に窒素、水素、珪素、又は硼素等を添加しなかった場合の表面硬度は8GPa〜9GPaであった。保護層24の膜厚は2nm〜15nmとした。
【0017】
本実施例の代表的なバーニッシュヘッドの構成を図3に示す。本バーニッシュヘッドは、サスペンション31、スライダー32、密着膜層33、表面層34からなる。スライダー32は、サスペンション31に接着されている。サスペンション31は、ステンレス製のバネであり、スライダー32を磁気ディスク上に安定浮上させる。スライダー32の基材は、アルミナチタンカーバイト(Al2O3とTiC)である。スライダー32の表面に磁気ディスクの表面処理を行うためのパッド形状を機械加工、あるいはイオンミリングで形成している。
【0018】
直流マグネトロンスパッタ法、あるいは高周波スパッタ法により形成する密着膜層33は、珪素、炭化珪素、又はその酸化物からなる。表面層34は、スパッタリング法、ECR−CVD法、又はカソーディックアーク法で作製した炭素を主成分とする膜である。表面層34の膜厚は3nm〜50nmとした。また、スライダー表面硬度は表面層34の成膜手法の違いにより8GPa〜80GPaと変化した。密着膜層33を形成せずにスライダ32上に、直接厚さ50nmの表面層を形成した場合に比べ、密着膜層33を2nm形成した場合には、長時間にわたる磁気ディスクの表面処理により表面層34の摩耗は生じるものの剥離は認められなかった。
【0019】
表面層34はスパッタリング法、 ECR−CVD法並びにカソーディックアーク法により形成できる。
【0020】
スパッタリング法による場合には、直流マグネトロンスパッタリング法を用いた。アルゴンと窒素、又はアルゴンと水素の混合ガスによる黒鉛状ターゲットの反応性スパッタを行ない、表面層34を形成した。この成膜法で形成した表面層34の代表的な硬度は約16GPaであった。
【0021】
ECR-CVD法による表面層34の形成は以下の方法による。69KA/m(875G)の磁場が印加された、反応室にメタン、アセチレン、プロパン等の炭化水素ガスを導入し、2.45GHzのマイクロ波を印可すると反応室内で電子サイクロトロン共鳴により高密度プラズマが発生する。このプラズマにより炭化水素ガスが分解され、反応室近傍に配置したアルミナチタンカーバイト基板上に炭化水素薄膜が形成される。この時、基板に導入するガス種に応じた最適な基板バイアスを印可することによりポリマー膜が形成されずにダイヤモンドライクカーボンが形成される。この成膜法で形成した表面層34の代表的な硬度は約25GPaであった。
【0022】
上記ダイヤモンドライクカーボンは、薄膜硬度計による硬度が10GPa以上、HFS(Hydrogen Forward Scattering Spectroscopy)測定による膜中水素量が30%以下、分光エリプソメータによる633nmにおける光学定数が屈折率1.7以上、消衰係数0.3以下、ラマン散乱分光分析によるピーク強度比(Id/Ig)が0.6以下であることを特徴とする炭素を主成分とした膜であった。
【0023】
カソーディックアーク法による表面層34の形成は以下の方法による。アノードとカソード間に電圧を印加し、高真空状態においてアーク放電を生じさる。カソードのターゲットは、グラファイトカーボンで構成されている。カソードのターゲットはアーク溶接と同様、非常に高温の状態になり、表面より+に帯電したカーボンイオン(C+)が生成される。このカーボンイオン(C+)は、初期運動エネルギーのみ、あるいは必要に応じた基板バイアス電圧により被処理アルミナチタンカーバイト基板31に打ちこみ、高硬質DLC膜を形成する。得られる膜質は、sp3が80%程度の強固な共有結合を有し,ダイヤモンドに近い屈折率、硬度をもった緻密なダイヤモンドライクカーボン膜であった。この成膜法で形成した表面層34の代表的な硬度は約68GPaであった。
【0024】
炭素を主成分とする表面層34の膜厚は、3nm〜50nmの間でバーニッシュ対象の磁気ディスク表面の硬度に応じて最適な値を選ぶことが可能である。特に、カソーディックアーク法で形成した表面層34は高硬度であるため、耐摩耗性、異常突起の除去効果に優れるため望ましい。
【0025】
炭素を主成分とする表面層34の膜厚を3nm以下とした場合には、従来のバーニッシュヘッドと同程度の効果しか認められなかった。また50nmを超えて炭素を主成分とする表面層34を形成しようとしても、剥離が生じてしまい50nmより厚い表面層34を形成することはできなかった。バーニッシュヘッド表面に20nm程度の表面層34を形成することで従来のバーニッシュヘッドに比べ半分以下の交換頻度まで低減し、実用的なバーニッシュヘッドが得られた。このバーニッシュヘッドを用いることにより、従来のバーニッシュヘッドに比較し、磁気ディスク上のゴミ、異常突起を効果的に、安定に除去することができ、安定した低浮上が可能な円板を提供することができた。また、高硬度の表面層を形成したバーニッシュヘッドでは、スライダー表面に溝、パッドなどを形成しなくてもクラッシュしにくくなり、長時間にわたり磁気ディスクの表面処理が継続できた。スライダー面に溝がなく平坦なバーニッシュヘッドを用いて長時間連続してバーニッシュすることができたのは、磁気ディスクのバーニッシュにより生じたフレークがスライダー表面に形成した溝、パッド等に入り込まないことにもよる。また、2本以上のバーニッシュヘッドを上下対称に配置することにより、磁気ディスクの両面を同時に処理することにより、タクトを上げてディスクの表面処理をすることができた。
【0026】
〈実施例2〉
本実施例では、スライダー表面にスライダーを磁気ディスク側へ押し付ける様な圧力(負圧)を発生するスライダー形状を有するヘッドを用いた時のバーニッシュ効率について検討した結果について示す。
【0027】
スライダーの形状は、負圧力を発生させる為のクロスレールを流入端側に有し、2つ以上のバーニッシュ用パッドを流出端に有する形状とした。また、負圧スライダー表面には、カソーディックアーク法を用いたダイヤモンドライクカーボンを表面層として20nm形成した。この時の硬度は、77GPaであった。以下この様な形状を有するスライダーを負圧スライダーと称す。
【0028】
負圧スライダーを用いることにより、磁気ディスクの周速に対するバーニッシュヘッドの浮上量依存性が小さくなった。負圧スライダーでは、バーニッシュ用パッドの数、大きさ、サスペンション荷重により異なるが、バーニッシュ用パッドの浮上量が周速に対して約−0.2〜+1nm/(m/s)の勾配(すなわち周速を1m/s増加させた場合に浮上量が約−0.2〜+1nm変化する)をもって浮上量が変化した。流出端中央に幅300μm、長さ200μmのバーニッシュ用パッドを配したスライダーでの浮上量は、27nm(5m/s時)、22nm(50m/s時) であり、浮上量変化勾配は約−0.1nm/(m/s) であった。また、スライダーに幅100μm、長さ60μmのバーニッシュ用パッド5つをクロスレールと流出端の中間に左右対称となる様に2つ、流出端に左右対称に2つ、流出端中央に1つ配したスライダーでの浮上量は、6nm(10m/s時)、12nm(20m/s時)であり浮上量勾配は+0.6nm/(m/s)であった。サスペンション荷重はいずれの場合も2.7gとした。
【0029】
一方負圧力を用いないバーニッシュヘッドでは、スライダーの表面形状、サスペンション荷重により様々であるが約+2〜+10nm/(m/s)の浮上量変化勾配であった。また、負圧スライダーのクロスレール上の浮上量とバーニッシュ用パッド上の浮上量の比は、4〜7であった。
また、サスペンション荷重と負圧力で浮上姿勢を制御できるため負圧力がない場合に比べ、バーニッシュヘッドのロール剛性、ピッチ剛性を高めることができた。このため負圧スライダーのバーニッシュ用パッドが、磁気ディスク上のゴミや異常突起に衝突した場合に浮上姿勢を乱さず、磁気ディスク表面にスクラッチ痕をつけることが無くなった。この結果、負圧スライダーを用いることによりバーニッシュヘッドをより低浮上させて、磁気ディスクの表面を処理することができた。バーニッシュヘッドの浮上量は、米国Zygo社製の浮上量測定器Pegasus2000を用いて測定した。測定は、670nmの波長を持つ半導体レーザーを光源として用い半径30nmで円板の回転方向と平行になる様にヘッドを浮上させ行った。また、測定用基板には、表面の中心線平均粗さRaが、1nm以下である石英円板を用いた。ここで、中心線平均粗さの定義は、日本工業規格(JIS-B0601)の規定に準ずる。この負圧スライダーを用いたバーニッシュヘッドを用いることにより、磁気ディスク上のゴミ、異常突起をより効果的に安定して除去でき、低浮上が可能な円板を量産することができた。
【0030】
〈実施例3〉
スパッタリング法、ECR−CVD法並びにカソーディックアーク法で炭素を主成分とするスライダーの表面層34を作製し、スライダーの表面硬度と磁気ディスク上のゴミ、及び異常突起の除去効果を調べた。ここで図3の表面層34の膜厚は20nmとした。尚、スライダー表面層の硬度は、炭素膜中の水素量を制御して変化させた。スパッタ法による表面層の硬度は8GPa〜18GPaであった。ECR−CVD法による表面層の硬度は25〜35GPaであった。カソーディックアーク法による表面層の硬度は35〜80GPaであった。
【0031】
図4に示す様に、磁気ディスクの表面硬度よりも3.5倍以上高い表面硬度を持つ表面層を形成したスライダーを用いてバーニッシュを行うことにより、効果的に磁気ディスク上のゴミ、及び異常突起を除去できる。しかし、バーニッシュヘッドの浮上量が10nm以下の場合、又は磁気ディスクの保護層の膜厚が5nm以下の場合には、スパッタ法により形成した表面硬度10GPa未満の保護層では、表面層の硬度が保護層の3.5倍以上のバーニッシュヘッドを用いて処理を行うと、保護層にスクラッチを生じるため好ましくない。一方、磁気ディスクの保護膜の硬度が、10GPa以上のダイヤモンドライクカーボンである場合には、磁気ディスクの表面硬度よりも3.5倍以上高い表面硬度を持つ表面層を形成したスライダーを用いてバーニッシュを行うことにより、磁気ディスク上のゴミ、異常突起を効果的に安定して除去でき、低浮上が可能な円板を量産することができた。特に、潤滑層25を形成した磁気ディスクは接線力が小さくなり、磁性膜の欠落や、スクラッチ痕を磁気ディスク表面に付けることなくバーニッシュ処理することができた。上記ダイヤモンドライクカーボンは,薄膜硬度計による硬度が15GPa、HFS(Hydrogen Forward Scattering Spectroscopy)測定による膜中水素量が35%、分光エリプソメータによる633nmにおける光学定数が屈折率2.03、消衰係数0.12、ラマン散乱分光分析によるピーク強度比(Id/Ig)が0.55であった。
【0032】
〈実施例4〉
スパッタリング法、ECR−CVD法並びにカソーディックアーク法により、バーニッシュヘッド流出端部の表面層を厚くする様に形成した。スパッタリング法で形成する場合には、カソード表面に対してスライダー流出端が近くなる様にバーニッシュヘッドを傾けて配置し成膜することによりスライダー流出端部の表面層を厚くした。ECR−CVD法で形成する場合には、マイクロ波進行方向に対してスライダー流出端が近くなる様にバーニッシュヘッドを傾けて配置し成膜することによりスライダー流出端部の表面層を厚くした。カソーディックアーク法で形成する場合には、カーボンイオン(C+)の加速方向に対して、スライダー流出端が近くなる様に傾けてバーニッシュヘッドを配置し成膜することによりスライダー流出端部の表面層を厚くした。
【0033】
いずれのスライダーでも形成した表面層の表面硬度は、磁気ディスクの表面硬度よりも3.5倍以上になる様にした場合には、スライダー上に均一に表面層を形成した場合に比べ、スライダー流出端部の表面層を流入端に比し厚くすることにより、長時間にわたり摩耗しても継続して磁気ディスクの表面処理が可能となり、効果的に磁気ディスク上のゴミ、及び異常突起を除去することができた。
【0034】
〈実施例5〉
実施例4に記載した様にスライダー流出端部の表面層を厚くしても、バーニッシュを長時間継続して行うことによりバーニッシュヘッドの表面層も摩耗する。摩耗したスライダー表面層の残層を酸素アッシング、アルゴンエッチング等の方法で除去し、再度バーニッシュヘッド表面に磁気ディスクの保護膜表面よりも硬い表面層を形成すれば、バーニッシュヘッドとして再利用できる。特に、磁気ディスクの保護膜表面硬度の3.5倍以上の表面層を形成すれば、長時間バーニッシュが継続して行えるため好ましい。
【0035】
バーニッシュヘッド再生時にスライダーをサスペンションを付けたまま再生処理を行うことも可能であるが、スライダーをサスペンションから分離して再生することが塵埃の観点から好ましい。また、再利用した場合のバーニッシュ性能は新品と同等以上あった。
【0036】
〈実施例6〉
本実施例では、バーニッシュヘッド表面に表面硬度が40GPa〜80GPaの表面層を形成したした場合のバーニッシュヘッド表面のコンディショニング方法について示す。
【0037】
表面の中心線平均粗さRaが、1nm以下である石英円板にバーニッシュヘッド表面硬度と概略同じ表面硬度を有する表面層を形成した。該石英円板上にバーニッシュヘッドを極低浮上で浮上させることにより、バーニッシュヘッド上の異常突起の除去を行った。ここで、中心線平均粗さの定義は、日本工業規格(JIS-B0601)の規定に準ずる。この時バーニッシュヘッドの浮上量は、磁気ディスクのバーニッシュ処理をする時の浮上量よりも低く、かつ、バーニッシュヘッドが、石英円板上を摺動することが無い浮上量とし、半径方向にバーニッシュヘッドをシークさせながら行うことが好ましい。この様な前処理のコンディショニングを行なったバーニッシュヘッドで磁気ディスクをバーニッシュ処理することにより、バーニッシュヘッドに付着したゴミ、異常突起による磁性膜の欠落、スクラッチ痕を磁気ディスク表面に付けることなくバーニッシュ処理、安定した低浮上が可能な円板を量産することができた。コンディショニングを行なったバーニッシュヘッド表面で異常成長した突起が除去されていることは原子間力顕微鏡を用いて確認した。
【0038】
〈実施例7〉
本実施例ではスライダー表面にダイヤモンドライクカーボンと該ダイヤモンドライクカーボン表面により硬度が高い表面層(高硬度表面層)を形成したバーニッシュヘッドについて調べた。
【0039】
この時の硬度は、ダイヤモンドライクカーボンは20GPa、高硬度表面層は80GPaとした。カソーディックアーク法で形成された高硬度表面層を単層で形成すると、膜応力により膜厚40nmにすると膜が剥離した。一方カソーディックアーク法で形成されたダイヤモンドライクカーボンを膜厚10nm形成した上にカソーディックアーク法で形成された高硬度表面層を膜厚40nm形成しても剥離を起こさずバーニッシュを行うことができた。高硬度表面層の膜厚を10nm〜100nmで変化させ膜剥離が生じる膜厚を調べた結果、表面層を2層にした場合には、膜厚60nm迄は剥離を起こさず磁気ディスクのバーニッシュを行うことができた。表面層を2層にし膜応力を緩和し、膜の密着性を高めることにより、表面層膜厚を厚くすることが可能となり長時間安定に使用することができる。また、高硬度表面層はカソーディックアーク法で形成された硬度60GPa以上の高硬度表面層であることが耐摩耗性の観点から好ましい。
【0040】
【発明の効果】
本発明は、以上説明した様に表面層としてスライダーの表面に高硬質ダイヤモンドライクカーボン膜を被覆している為、硬質の磁気ディスク表面をクリーニングする場合でも長時間安定に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ラマンスペクトルのピーク分離を示す図。
【図2】本発明の実施例に示す磁気ディスク用記録媒体の構成図。
【図3】 (a)は本発明のバーニッシュヘッドの構造を示す模式図、(b)はバーニッシュヘッドのスライダ部を側面から見た模式図。
【図4】スライダ表面層表面硬度と磁気ディスク保護膜表面硬度の比と磁気ディスク上のゴミ及び異常突起の除去効率の相関図。
【符号の説明】
21…磁気ディスク基板、22…Cr下地層、
23…磁性層、 24…保護層、
25…潤滑層、 31…サスペンション,
32…スライダ、 33…密着膜層、
34…表面層。
Claims (13)
- スライダと、該スライダ表面に磁気ディスクの保護膜表面の硬度の3.5倍以上の硬度を持つ炭素を主成分とする表面層を有することを特徴とするバーニッシュヘッド。
- 前記表面層はダイヤモンドライクカーボンであることを特徴とする請求項1記載のバーニッシュヘッド。
- 前記表面層はスライダ表面に形成されたダイヤモンドライクカーボン層と、該ダイヤモンドライクカーボン層上に形成された当該ダイヤモンドライクカーボン層より硬度が高い層とから構成されることを特徴とする請求項1記載のバーニッシュヘッド。
- 前記スライダに形成された表面層がスライダの空気流入端から流出端に向かって厚くなっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のバーニッシュヘッド。
- スライダと、該スライダの媒体対向面に形成された当該スライダに負圧を発生させるためのレールとパッドとを有するバーニッシュヘッドであって、前記スライダのレールとパッドが形成されている面に磁気ディスクの保護膜表面の硬度の3.5倍以上の硬度を持つ炭素を主成分とする表面層が形成されていることを特徴とするバーニッシュヘッド。
- 磁気ディスクの保護膜表面の硬度が10GPa以上である磁気ディスクを製造する方法において、表面硬度が磁気ディスクにおける保護膜の硬度に比べ3.5倍以上の硬度を持つ炭素を主成分とする表面層を形成したバーニッシュヘッドで磁気ディスクの表面を処理することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
- 基材表面に少なくとも磁性層を形成する工程と、前記磁性層表面に硬度10Gpa以上の保護膜を形成する工程と、前記保護膜表面に潤滑膜を形成する工程により磁気ディスクを製造する方法において、潤滑膜を形成後に前記保護膜表面の硬度に比べ3.5倍以上の硬度を持つ炭素を主成分とした表面層を形成したバーニッシュヘッドで磁気ディスクの表面を処理することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
- 磁気ディスク上の保護膜がダイヤモンドライクカーボンであることを特徴とする請求項6または請求項7 8に記載の磁気ディスクの製造方法。
- 前記バーニッシュヘッド表面に形成された表面層がバーニッシュヘッドの空気流入端から流出端に向かって厚くなっているバーニッシュヘッドを用いて磁気ディスクの表面を処理することを特徴とする請求項6 7乃至請求項8のいずれか1項に記載の磁気ディスクの製造方法。
- 前記バーニッシュヘッド表面層として、ダイヤモンドライクカーボンと、前記ダイヤモンドライクカーボンの表面に形成されて前記ダイヤモンドライクカーボンより硬度が高い表面層とを有するバーニッシュヘッドを用いて磁気ディスクの表面を処理することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の磁気ディスクの製造方法。
- 表面に溝が形成されていないバーニッシュヘッドを用いて磁気ディスクの表面を処理することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の磁気ディスクの製造方法。
- 前記バーニッシュヘッドのスライダ表面に負圧を発生させるためのレールとパッドを配したバーニッシュヘッドを用いて磁気ディスクの表面を処理することを特徴とする請求項6または請求項7記載の磁気ディスクの製造方法。
- 使用済みのバーニッシュヘッドのスライダ表面層の残層を除去し、磁気ディスクの保護膜表面の硬度の3.5倍以上の硬度を持つ炭素を主成分とする表面層を再度形成することを特徴とするバーニッシュヘッドの再生方法。
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