JP4152138B2 - 磁気共鳴イメージング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、MRIと称す)装置に関し、特にMRI装置による生体内温度分布画像の計測に好適な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、MRI装置を術中モニタとして使用するインターベンショナルMRI(Interventional MRI:以下、IV-MRIと称す)が注目されている。IV-MRIで行われる治療法には、レーザ治療、マイクロ波凝固術、エタノールなどの薬物注入、RF照射切除、低温治療などがある。これらの治療において、MRIは、患部に穿刺針や細管を到達させるためのリアルタイムイメージングによるガイド及び治療中の組織変化の可視化、加熱・冷却治療中の局所温度のモニタなどの役割を果たす。IV-MRIの典型的な応用例としては、マイクロ波凝固術中における体内の温度分布の画像化が挙げられる。
【0003】
温度分布の画像化手法には、信号強度から求める方法、拡散係数から求める方法、プロトンの位相シフトから求める方法(PPS法:Proton Phase Shift法)等があるが、この中でPPS法が最も測定精度に優れている。この機能を活用して、生体内の温度をモニタし、レーザ照射治療のモニタや、マイクロ波凝固術中の温度モニタができるようになりつつある。
【0004】
PPS法は、エコー信号の位相成分に含まれる(共鳴周波数)×(静磁場)成分の温度依存性を利用するものであり、グラディエントエコー系のパルスシーケンスで計測したエコー信号の位相情報から温度分布を求める。図1は、このような位相情報を計測する方法の一例である。以下、図1に示す計測方法と位相分布・温度分布の計算方法を説明する。
【0005】
まず、スライス選択のための傾斜磁場GslO2の印加と共に、90°高周波パルス101(以下、90°パルスと称す)で試料のスピンを励起し、スピンの位相を変化させるために傾斜磁場Gp103、読み出し傾斜磁場Gr104を順次印加し、グラディエントエコー106を発生させる。位相エンコードの異なる複数のエコー信号をフーリエ変換して得られる複素画像の実部と虚部から位相分布を、例えば、式(1)より求める。
【0006】
【数1】
【0007】
そして、得られた位相分布、エコー信号が最大となる時点と90°パルスとの間隔TE(106)、共鳴周波数f、水の温度系数から、例えば、式(2)より温度Tを求める。
【0008】
【数2】
【0009】
上記手法を用いて、異なる時刻tl、tn(n:撮影回数)で取得した信号からそれぞれ計算した温度分布の差分をとり、ある時間における被検体の温度変化の分布を取得することができる。
【0010】
【発明が解決しようとしている課題】
前述のようにMRIによる温度モニタリングを行う場合、連続した時系列データを取得し、異なる時刻で得られた空間位相分布の差分を温度変化に換算するため、常に同一の温度変化領域を撮像する必要がある。
【0011】
しかし、生体への適用においては呼吸動等の体動を抑制することは困難であり、温度変化領域の空間位置が移動することが多々あり、安定して同一の温度変化領域を計測することは困難である。このような温度変化領域の移動は、温度モニタリングの信頼性を大幅に損なうことになる。例えば、加熱治療を例にとると、呼吸動の抑制が不十分な状態で計測した時系列データには、加熱部位の温度上昇の情報を含むデータと、含まないデータが混在することになり、後者の場合は加熱による温度上昇の情報が得られないことになる。このような温度画像を加熱中にリアルタイムで計測・表示した場合は、温度が上昇したり、しなかったり、場合によっては突然加熱領域が広がったり、消えたりして、安定した温度モニタリングを行うことができない。
【0012】
一般に形態画像の取得を目的としたMRIにおいて、呼吸動によるアーチファクトを抑制する手法は種々提案されている。例えば、Respiratory ordered phase encoding(ROPE):A method for reducing respiratory motion artifacts in MR imaging;Journal of Computer Assisted Tomography 9(4):835-838(1985)では、位相エンコードを制御することにより体動アーチファクトを抑制する方法が提案されている。
【0013】
しかし温度計測においては、単に画像における体動アーチファクトを抑えるだけでなく、臓器の位置変動自体を抑える必要がある。
そこで本発明は、温度変化分布を計測する機能を備えたMRI装置において、体動による影響を回避して、温度モニタリングの正確性、信頼性を向上させ、温度変化分布画像を安定して提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のMRI装置は、検査対象に静磁場を与える静磁場発生手段と、前記検査対象に傾斜磁揚を印加する傾斜磁場発生手段と、前記検査対象を構成する原子の原子核に磁気共鳴を起こさせる高周波パルスを発生する高周波パルス発生手段と、前記検査対象が発生する核磁気共鳴信号をk空間データとして検出する検出手段と、時系列的に計測されたk空間データを用いて前記検査対象の温度変化分布を演算する演算手段と、前記各手段の制御を行う制御手段と、前記検査対象の周期動を計測する手段を備え、前記制御手段は、前記周期動に応じて前記傾斜磁場発生手段を制御し、前記k空間の少なくとも低周波領域データを、前記周期動における同じ変位範囲で計測した核磁気共鳴信号で充填することを特徴とする。
【0015】
本発明のMRI装置において、制御手段は、周期動の少なくとも2つの異なる変位範囲に対応して2以上のk空間データを収集してもよい。
本発明のMRI装置によれば、温度変化分布を演算するためのk空間データのうち、少なくとも低周波領域のデータを、検査対象の変位がほぼ同一のときに計測した核磁気共鳴信号とするので、体動の影響を抑制した計測結果を得ることができ、これにより温度モニタリングの正確性、信頼性を向上させることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。まず、本実施形態におけるMRI装置の構成を図2により説明する。
【0017】
MRI装置は、被検体201内部に一様な静磁場H0を発生させるための電磁石または永久磁石より構成された静磁場発生磁気回路202、被検体201に直交するx、yおよびzの3方向に強度が線形に変化する傾斜磁場Gx,Gy,Gzを発生する傾斜磁場コイル209、被検体201に高周波磁場を発生する送信コイル214a、被検体201から生じる核磁気共鳴信号を検出するための検出コイル214b、傾斜磁場、高周波パルスを所定のタイミングで発生させるためのシーケンサ207、シーケンサの制御や画像処理等の各種処理を行うコンピュータ208、コンピュータ208が行なう信号処理や制御のためのプログラムや必要なデータ及び処理結果を格納するとともに処理結果などを画像として表示する信号処理系206、各種パラメータの設定等の操作を行う操作部221等を有して構成される。なお、本実施例では、送信コイル214aと検出コイル 214bは別々に設けているが、送受信両用のものでもよい。
【0018】
次に動作の概要を説明する。シンセサイザ211により発生させた高周波を変調器212で変調し電力増幅器213で増幅し、送信コイル214aに供給することにより被検体201の内部に高周波磁場を発生させ、核スピンを励起させる。通常は1Hを対象とするが、31P、13C等、核スピンを有する他の原子核を対象とすることもある。この際、エコー信号に位置情報を付与するために、スライス方向、位相エンコード方向および読み出し方向の傾斜磁場を印加する。
【0019】
被検体201から放出される核磁気共鳴信号(エコー信号)は検出コイル214bにより受信され、増幅器215を通った後、検波器216で直交位相検波され、A/D変換器217を介してコンピュータ208へ入力される。サンプリング後のエコー信号は、位相エンコード(ky)を縦軸とするk空間に配置される。
【0020】
コンピュータ208はk空間データにフーリエ変換等の演算を行なった後、核スピンの密度分布、緩和時間分布、スペクトル分布等に対応する画像を作成し、CRT等のディスプレイ228に表示する。またコンピュータ208は、シーケンサ207に指令を送り、傾斜磁場発生系203、送信系204及び検出系205を制御する。この制御のシーケンスは、撮像方法によって種々のものが用意されており、予め信号処理系206の記憶装置(ROM224、RAM225)に格納されている。本発明のMRI装置では、温度計測のためのパルスシーケンス、例えば図1に示すパルスシーケンスを備えると共に、このパルスシーケンスの実行によって取得したエコー信号について温度を求める演算を行う。
【0021】
さらにこのMRI装置は、被検体201の体動をモニタするための外部位置センサ230が備えられている。外部位置センサ230は、例えば呼吸動をモニタする場合には、圧力センサを採用することができる。圧力センサを被検体の腹部に固定し、圧力の変動を計測することにより、呼吸動により位置変位を計測することができる。尚、以下の説明では、呼吸動の検出として、腹壁の動きを呼吸動とみなすこととするが、横隔膜の動きをモニタしても同様に応用できる。
【0022】
圧力センサ230から出力される腹壁の変位量に対応する信号は、コンピュータ208に入力される。コンピュータ208は、この変位量に基き、シーケンサ207に指令を送り、温度計測用パルスシーケンスにおける位相エンコードを制御する。位相エンコードの制御は、位相エンコード方向の傾斜磁場の強度及びその変更順序について行う。通常、1枚の断面の情報を得るために、64、128、256の位相エンコードが付与される。
【0023】
次に、温度計測及び撮影手順について説明する。図3は、その手順を示すフロー図である。まず、圧力センサにより腹壁の動きをモニタし、被検体の呼吸動を検出する(ステップ301)。図4(a)は、呼吸動(腹部の変位)をグラフとして表示したものである。このように呼吸動は周期的なパターンを示す。この変位パターンをもとに、k空間の低周波領域、高周波領域を充填する仕方を決定する(ステップ302)。
【0024】
よく知られているように、k空間の中央(低周波領域)に配置されるデータが画質に最も影響を与える。そこで、このようなk空間の性質を利用して、同一変位であって動きの少ないときに、画像のコントラストを決定する領域のデータを計測するように位相エンコード量を決定する。
【0025】
例えば、図4において、被検体の変位が範囲411にあるときに計測するエコー信号に、低周波域の位相エンコード410を割り当てる。変位が範囲431では、被検体の動きが大きいので、このとき計測するエコー信号には高周波領域の位相エンコード430a、430bを割り当てる。変位の範囲421では、被検体の動きは少ないが、低周波域410を計測したときと腹部の変位が異なり、目的とする臓器の位置が異なることが予想されるため、低周波領域410の計測には用いずに、高周波領域430a、430bとの間の領域420a、420bの計測を行う。
【0026】
予め計測した呼吸動パターンにおいて最大近傍の範囲411よりも最小値近傍の範囲421の方が変動が少ない時間が長い場合には、範囲421にあるときにk空間の低周波領域410を充填し、範囲411でその外側の領域420を充填するものとする。この場合にも、k空間の高周波領域430は、呼吸動の大きいタイミング431において計測する。このようなk空間を充填する領域の割合は、予め計測した呼吸パターンから計算する。
このように変位の範囲毎にk空間領域を割り当てたものは、例えばテーブルとして、コンピュータ208の記憶装置に格納される。
【0027】
次に、図1のパルスシーケンスを実行し、目的部位の空間分布の計測を行う(ステップ303)。このパルスシーケンスの繰り返し毎に、コンピュータ208は圧力センサ230で計測した被検体(腹壁)の変位をもとに、位相エンコード傾斜磁場103を制御し、例えば腹部の変位が小さいタイミング311では低周波域の位相エンコード量となる傾斜磁場を印加してk空間の低周波領域410を計測する。
【0028】
このようにk空間の低周波領域410を常に同じ変位のときに計測することにより、各データにおいて呼吸動による臓器の移動の影響は解消され、どの画像においても、臓器の位置は同様の位置となる。
こうして得られた各データの複素差分画像から式(1)により位相分布を求め、さらに式(2)を用いて温度変化分布を計算する(ステップ304)。
【0029】
【数3】
【0030】
こうして得られる温度変化分布は、温度変化領域の空間位置が常に一定であり正確な温度モニタリングを可能にする。
なおk空間充填法は、変位が同じであって移動が少ないときに、k空間の低周波領域を計測するものであれば、図4に示すものに限定これに限るものではなく、種々の変更が可能である。
【0031】
図5〜図7に他の実施例を示す。図5に示す実施例は、被検体の腹部の位置に応じて、呼期と吸期においてそれぞれの温度画像を計測する方法である。この方法でも、温度情報を含む空間位相分布を計測する前に、被検体の呼吸動を予めモニタしておく。そして、その呼吸パターンから、腹部の変位の最大と最小を予測し、その中間値より大きい場合と小さい場合の2つのパターン(範囲)511、521に分け、それぞれに異なるk空間を割り当てる。即ち、腹部の変位が、最大値を含む範囲511となるタイミングではk空間1(510)を充填し、最小値を含む範囲521となるタイミングではk空間2(520)をそれぞれ充填する。
【0032】
こうして計測された時系列データにおいても、図4の実施例と同様に、呼吸動による臓器の移動の影響は減少する。これら時系列データをそれぞれフーリエ変換して得られた複素差分画像から位相分布、温度変化分布を計算することにより、呼期と吸期のそれぞれについて、呼吸動によるずれが緩和された温度変化領域のモニタリングができる。なお、呼期と吸期の2パターンだけでなく、さらに細かい時相に分割し、それぞれ異なるk空間を充填すれば、より呼吸動の影響の少ない温度変化分布を得ることができる。
【0033】
図6に示す実施例は、図4及び図5の実施例を組み合わせた手法である。本実施例でも、吸期611、呼期621の2つのパターンに分け、それぞれのタイミングで計測したデータで異なるk空間1、2を充填する。但し、本実施例では、吸期611及び呼期621を、更に腹部の変動の小さいタイミング611a、621aと大きいタイミング611b、621bに分ける。そして、吸期611で計測したデータのうち、変動の小さいタイミング計測したデータでk空間1の低周波領域を充填し、変動の大きいタイミング計測したデータで高周波領域を充填する。同様に、呼期621で計測したデータのうち、変動の小さいタイミング計測したデータでk空間2の低周波領域を充填し、変動の大きいタイミング計測したデータで高周波領域を充填する。これによって、より安定した温度変化分布を得ることができる。
【0034】
さらに図7に示す実施例では、体動パターンを、吸期611及び呼期621の腹部変動の小さいタイミング711、713とその中間712とに分け、吸期711で計測したデータでk空間1を充填し、呼期713で計測したデータでk空間2を充填するとともに、中間712で計測したデータは、k空間1の高周波領域(710a)とk空間2の高周波領域(720a)で共有する。これにより計測の時間短縮を図ることができる。このように本実施形態によれば、予め計測した体動パターンをもとにk空間充填法を設定し、その際、変位が同じときに計測したデータでk空間の低周波領域を充填するようにしたので、呼吸動によるずれが緩和された温度変化領域のモニタリングができる。
【0035】
尚、上記実施形態では、呼吸動の検出に圧力センサなどの外部位置センサを用いた場合を説明したが、このような外部位置センサの代わりに、ナビゲーションエコーを用いた変位量のモニタも可能である。ナビゲーションエコーを用いた体動モニタリングについては、形態画像において体動アーチファクトを抑制する手法として、例えば、「Prospective adaptive navigator correction for breath-hold MR coronary angiography;Magnetic Resonance of Medicine 37:148- 152(1997)」に記載された手法などを採用することができる。
【0036】
この場合には、例えば、図1のパルスシーケンスの繰り返し時間内で、位相エンコードを付与しないエコー信号をナビゲーションエコーとして計測し、このナビゲーションエコーを読み出し方向にフーリエ変換したデータから変位を求めることが可能である。
また上記実施形態では、温度計測のための撮影方法として、図1のパルスシーケンスを採用したが、パルスシーケンスとしては、グラディエントエコー系のシーケンスであれば、他のシーケンスであっても良い。シーケンスの具体例としては、SARGE、TRSARGE、RFSARGEなどの高速GrEシーケンス、SSFP(Steady State Free Precession)のシーケンス、GrE型のEPI(Echo Planar Imaging)シーケンスなど公知のパルスシーケンスが利用できる。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、被検体の呼吸動を検出し、呼吸に同期して温度変化情報を含む空間位相分布を連続して計測し、これを用いて温度分布画像を求めることにより、信頼性の高い温度分布画像の情報を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来のPPS法及び本発明に用いる撮影シーケンスを示す図。
【図2】 本発明が適用される装置の概要を示すブロック図。
【図3】 本発明による温度計測の手順を示すフロー図。
【図4】 本発明による位相エンコード制御の一実施例を示す図。
【図5】 本発明による位相エンコード制御の他の実施例を示す図。
【図6】 本発明による位相エンコード制御の他の実施例を示す図。
【図7】 本発明による位相エンコード制御の他の実施例を示す図。
【符号の説明】
201…被検体、202…静磁場発生磁気回路、203…傾斜磁場発生系、204…送信系、206…信号処理系、207…シーケンサ、208…コンピュータ、230…圧力センサ
Claims (3)
- 検査対象に静磁場を与える静磁場発生手段と、前記検査対象に傾斜磁揚を印加する傾斜磁場発生手段と、前記検査対象を構成する原子の原子核に磁気共鳴を起こさせる高周波パルスを発生する高周波パルス発生手段と、前記検査対象が発生する核磁気共鳴信号をk空間データとして検出する検出手段と、時系列的に計測されたk空間データを用いて前記検査対象の温度変化分布を演算する演算手段と、前記各手段の制御を行う制御手段と、前記検査対象の周期動を計測する手段を備え、
前記制御手段は、前記周期動の少なくとも2つの異なる変位範囲毎にそれぞれ異なるk空間を割り当て、該変位範囲に対応するk空間データを収集し、その際、
前記周期動に応じて前記傾斜磁場発生手段を制御し、各k空間の少なくとも低周波領域データを、前記周期動における同じ変位範囲で計測した核磁気共鳴信号で充填し、
前記演算手段は、k空間毎にそれぞれ前記温度変化分布を演算することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。 - 前記制御手段は、変位毎に用意された各k空間の高周波領域データを、前記周期動の同一の変位範囲で計測した核磁気共鳴信号を共用して充填することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記検査対象の周期動を計測する手段は、核磁気共鳴信号を用いて前記検査対象の周期動を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
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