JP4143721B2 - 津田カブの水耕栽培法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、根菜類の水耕栽培法に関し、特に、根の先端部分を培養液に浸しつつ行なう水耕栽培法に関する。
【0002】
【従来の技術】
天然土壌を利用せずに植物を生育させる水耕栽培は、数多く知られている。天然土壌では、厳寒期での間引きや除草などの作業を、手作業で行なわれなければならないため、作業負担が大きく、生産者の高齢化や後継者不足も問題となっている。一方、水耕栽培は、水耕栽培で起こる土壌病害虫の防除、連作障害の回避、耕耘及び除草作業の省略が可能であるという利点を有する。水耕栽培においては地上部の管理と地下部の管理が重要である。主に地上部としては、光、温度、湿度、空気の流れの管理、地下部としては、栄養素濃度、水素イオン濃度(PH)、電気伝導度(EC)、培養液温の管理がなされている。培養液中の溶存酸素量は管理されておらず、ポンプで培養液を循環させる時、空気を巻き込むような方法が取られ、培養液中の溶存酸素量を高める方法が一部採用されている(特開2002‐291358号公報)。
【0003】
【(非)特許文献1】
特開2002‐291358
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような水耕栽培は、根菜類以外の植物に限られていた。すなわち、カブや大根などの根菜類の水耕栽培は殆ど行なわれていなかった。これは、大根をはじめとする殆どの根菜類の根が土中に有るために、水耕栽培する場合に根が培養液中に浸り根部が肥大しないからである。このため根菜類の水耕栽培はほとんど実用化されていない。
【0005】
本発明は、根菜類の根が肥大するような条件で根菜類の水耕栽培を行ない得る水耕栽培法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、水耕栽培の条件を種々検討した結果、本発明の根菜類の水耕栽培法を見出すに至った。
【0007】
すなわち、本発明の津田カブの水耕栽培法は、根の先端部分以外の部分を培養液よりも比重が小さい材料に固定し、当該材料を培養液上に浮かべることによって、根の先端部分を培養液に浸しつつ、根の先端以外の部分を培養液に浸さずに培養し、前記培養液が25〜75%の濃度に設定した園試処方第1例の培養液であって、かつカリウム量が等量となるように園試処方第1例の硝酸カリウムの代わりに塩化カリウムを用いることによって硝酸態窒素量を減少させた培養液であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の津田カブの水耕栽培法の好ましい実施態様において、前記培養液より比重が小さい材料が、発泡スチロール板であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の津田カブの水耕栽培法の好ましい実施態様において、前記培養液より比重が小さい材料の厚さが、20〜30mmの範囲であることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の根菜類の水耕栽培は、根菜類において、根の先端部分を培養液に浸しつつ、根の先端以外の部分を培養液に浸さずに培養する。ここで、根菜類とは、カブ、ダイコン、ゴボウ、及びニンジンからなる群から選択されるものを挙げることができる。根菜類は、水耕栽培する上で、根が培養液中に浸ると根部が肥大しないという特徴がある。しかしながら、根の先端部分を培養液に浸しつつ、根の先端以外の部分を培養液に浸さずに栽培することによって、根部が肥大し、通常の土壌栽培と同様の根菜類の栽培ができることを本発明者らは見出した。加えて、水耕栽培によれば、根菜類に必要な成分と不要な成分の制御が容易となるという利点も有する。
【0015】
また、本発明の水耕栽培法の好ましい実施態様において、培養液の濃度を、25〜75%とする。培養液は、目的とする根菜類に応じて適宜変更することができ、限定されないが、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硫酸マグネシウム、第一リン酸アンモニウム、などの多量成分と、ホウ酸、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸銅、モリブデン酸ナトリウム、キレート鉄、などの微量成分と、を含むことができる。
【0016】
培養液の濃度も、目的とする根菜類に応じて適宜変更することができ、特に限定されないが、好ましくは、40〜60%の範囲である。なお、濃度が高いと、葉部の占める割合が大きくなる傾向があり、根部への日照条件に影響すると考えられる。
【0017】
また、好ましい実施態様において、前記培養液が、塩化カリウムを含有する。これは、硝酸は、人の体内でその一部が、毒性の高い亜硝酸に変わり得ることから、硝酸態窒素を低くするという観点から、硝酸カリウムの代りのカリウムの補充用に用いるものである。硝酸カリウムの代りのカリウム源として使用できるものとして、例えば、塩化カリウム、硫酸カリウムなどを挙げることができる。
【0018】
また、本発明において、根の先端部分を前記培養液に浸すために、前記培養液よりも比重が小さい材料を用いて、根菜類の先端部分を培養液に浸すことができる。前記培養液より比重が小さい材料としては、培養液に浮き、かつ、根菜類が成長しても沈まない材質のものであれば、特に限定されないが、発泡スチロール板、シルバーマルチフィルムからなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0019】
また、前記培養液より比重が小さい材料の厚さが、20〜30mmの範囲とすることができる。加工のしやすさ、その柔軟性から根を傷めないという観点から、特に、好ましくは、発泡スチロール体である。このような培養液より比重が小さい材料を用いることにより、根菜類の先端部分を培養液に浸しつつ、先端部分以外の部分を培養液に浸すことなしに、培養することができ、ひいては、根が肥大して、良好な根菜類を生産することができる。
【0020】
具体的には、培養液より比重の小さい材料に適当な大きさの穴を設け、根菜類の根を当該穴に設置し、根の先端部分を培養液に浸すように設定すればよい。根菜類の成長に伴い、適当な穴の大きさはことなるので、適宜変更すれば足りる。
【0021】
実施例
以下、本発明を実施例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明は、当該実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
本実施例においては、根菜類として津田カブを用いて試験した。
津田カブは、根菜類の1種であり、松江市の地域特産野菜である。津田カブは勾玉状の赤いカブで根のほとんどが地表に露出するという特徴をもつ一方、間引きや除草作業の多い作物としても知られている。津田カブは、根部での脱色が起こるために根部のあか紫色を示す色素であるアントシアニン含量の多いものがよいとされている。
【0023】
以上より、本実験では培養液の濃度および硝酸態窒素量が水耕津田カブの生育、根部アントシアニン含量に及ぼす影響について検討した。
【0024】
栽培は、島根大学生物資源科学部附属生物資源教育研究センター内の約100m2のガラス温室で行なった。2002年9月11日にバーミキュライトを入れた1セル容量13mlの200穴セルトレイに津田カブを播種した。9月19日に本葉出葉期の津田カブ苗をウレタン(縦23mm、横23mm、高さ27mm)4個で固定し、50literの培養液を入れたプラスチックコンテナ(容量約60liter)に定植した。エアーポンプ(空気送風量:3.8liter/min)で連続通気した。1コンテナ当たり18株定植した。その後、1回4株ずつで、3回間引きを行った。間引き1回目:子葉展開時に密生部を間引く。この時、子葉及び胚軸が赤みえを帯びているものを残す。間引き2回目:本葉2〜3枚時に、葉が重ならない程度に色の淡いものや大きすぎるものを間引く。間引き3回目:本葉6〜7枚時に、株間18cm前後に間引いて1本立ちにする。その後、6株とした。栽培中のEC値、pH値は、75%区は、1.58〜1.68dS/m、pH6.61〜7.39、75%半量区は、1.60〜1.77dS/m、pH6.37〜7.38。50%区はそれぞれ、1.02〜1.26dS/m、pH7.09〜7.77。25%区はそれぞれ、0.44〜0.76dS/m、pH7.58〜8.04、25%半量区は0.49〜0.83dS/m、pH7.52〜7.93でそれぞれ推移した。コンテナに50literの培養液を入れ、エアーポンプで連続通気した。
【0025】
なお、実験中の日平均気温は、7.4〜27.1℃、日平均水温は、9.4〜27.4℃で推移した。
【0026】
水耕栽培は、根の先端だけを培養液に浸けるように、発泡スチロール板を培養液に浮かせて行なった。培養液は園試処方第1例に準じ作成し、2週毎に全量交換した。収穫は、播種後、70日程度で行なった。培養液は園試処方第1例については、以下の通りである。
【0027】
【0028】
培養液濃度が水耕津田カブの生育および根部アントシアニン含量に及ぼす影響
調査項目は、葉数、葉色、最大葉長、最大葉幅、最大根径、葉部生体重、葉部乾物重、根部(可食部)生体重、根部(可食部)乾物重、根部のアントシアニン含量とした。なお、葉色は、SPAD値(葉緑素計SPAD-502、MINOLTA)を測定した。根部(可食部)とその先端の分離は、実際農家が出荷調整の際に行なう方法を用い、根部生体重は分離後測定した。
【0029】
<根部表皮中アントシアニン含量の測定>
根部の肩上部から直径10mmのコルクボーラーを用いて根部表皮ディスクを打ち抜いた。得られた根部表皮ディスク1枚を1%塩酸メタノール(塩酸:メタノール=1:36)20mlに室温下で24時間浸漬して、アントシアニンを抽出した。抽出液の525nmの吸光度は分光光度計を用いて測定した。その測定値(吸光度)を根部表皮中のアントシアニン含量とした。
【0030】
<硝酸態様窒素含量の測定>
分析方法は、Cataldo法を用いた。生育調査後の葉部及び根部乾物をミキサーで粉砕し、粉末サンプルを得た。サンプルを0.25gとり、25mlの蒸留水とともに50mlエンチン管に入れた。振とうして得られた液をろ過し、ろ液を試験管に50μlとり、5%サリチル酸‐硫酸液(サリチル酸:硫酸=1:20)を200μl加えた。室温に20分静置後、2M水酸化ナトリウムを5mL添加し撹拌した。約20分後、試料溶液の温度が室温に下がった後、410nmの吸光度を測定した。硝酸態様窒素標準溶液を用いて、0〜100ppmの範囲で作成した検量線から硝酸態様窒素含量を求めた。
【0031】
処理区は園試処方第1例75%区(培養液の濃度が75%の区)、50%区(培養液の濃度が50%の区)および25%区(培養液の濃度が25%の区)を設け(これらを全量区とする。)、それぞれの区に対して培養液の硝酸態窒素量を半減した区(半量区とする。より詳細には、硝酸態窒素濃度を半減した場合とは、75%区同士を比べた時、半量区は全量区に比べて硝酸態窒素濃度だけを半減させ、アンモニア態窒素などの他の養分は同じだけ入っているということを意味する。)を設けた。硝酸態窒素を半減するために、カリウム量が等量となるように培養液を作成した。
【0032】
各処理区とも3反復行った。11月21日に収穫し、その時点での株の生育、根部のアントシアニン含量および植物体中の硝酸態窒素含量について調査した。
【0033】
結果
生体重について
葉部の生体重は、25%全量区で小さくなり、また、根部の生体重は75%全量区で小さくなった(表1)。
【0034】
【表1】
【0035】
硝酸態窒素量を半減した場合、葉部の生体重は25%半量区で小さくなり、根部の生体重は50%半量区で大きくなった。なお、半量区の生体重は葉部、根部とも全量区と比べて減少する傾向にあった。根部のアントシアニン含量は全量区及び半量区とも培養液の濃度が低くなるにつれて大きくなった。植物中の硝酸態様窒素濃度は培養液の濃度低下に伴って小さくなる傾向がみられた。なお、収量は50%全量区で最も高くなった。また、島根大学本庄農場で土耕栽培された津田カブの根部アントシアニン含量は50%全量区と変わらなかった。以上より培養液の濃度を園試処方第1例50%とした場合に土耕栽培と同様の収量及び品質が得られた。また、葉数、最大葉長、最大葉幅、葉色、最大根径、及び生体重については以下の通りであった。
【0036】
葉数について、処理区による差はみられなかった(表2)
【0037】
【表2】
【0038】
硝酸窒素濃度を半減した場合、どの培養液濃度区でも差はみられなかった。
最大葉長について、処理区による差はみられなかった。硝酸態窒素濃度を半減した場合、75%区及び50%区では差はなかったが、25%区で小さくなった。
【0039】
最大葉幅について、培養液濃度が低下するにつれて小さい値となった。硝酸態窒素濃度を半減した場合、全ての培養液濃度区で小さくなった。
葉色について、検定結果から処理区による差はみられなかった。硝酸態窒素濃度を半減した場合も同様であった。
最大根径について、処理区による差はみられなかった。硝酸態窒素濃度を半減した場合でも差はみられなかった。
【0040】
生体重について、葉部は25%区で小さく75%区および50%区で大きくなった。根部では、75%区で小さくなり、他の濃度区では大きな差はみられなかった。硝酸態窒素濃度を半減した場合、25%区で小さくなり、他の濃度区では大きな差はみられなかった。半量区の根部では、50%区が高くなり、他の濃度では差はみられなかった。なお、全量区と半量区を比較した場合、どの培養液濃度区でも、半量区に比べ減少する傾向がみられた。乾物重について、葉部で75%区及び50%区で大きくなり、25%区では小さくなった。根部では、差はみられなかった。硝酸態窒素濃度を半減した場合、どの区も小さくなり25%区について特に小さくなった。半量区の根部では大きな差がみられなかった。
【0041】
<アントシアニン含量>
培養液濃度が低くなるにつれ根部のアントシアニン含量は大きくなった(表3)。
【0042】
【表3】
【0043】
硝酸態窒素濃度を半減した場合も同様な傾向がみられ、硝酸態窒素半量区の方が全量区に比べ若干高くなる傾向がみられた。
【0044】
<植物体中の硝酸態窒素含量>
葉部では培養液濃度の低下にともなって、小さくなる傾向がみられた(表4)
【0045】
【表4】
【0046】
根部でも同様な傾向がみられた。硝酸態窒素濃度を半減した場合の葉部及び根部でも同様に、培養液濃度の低下にともなって小さくなった。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、土壌病害虫の防除、連作障害の回避、除草作業等の省略が可能となるという有利な効果を奏する。
【0048】
また、本発明によれば、ベンチを高設することで立位で作業を行なうことができるので、大幅な作業負担の軽減を図ることができる。
【0049】
また、カブの赤色を維持するアントシアニン含有量、又は植物中の硝酸含有量も比較的簡単に制御できるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 培養液濃度が水耕津田カブの生体重に及ぼす影響を示す。
【図2】 培養液濃度が根部のアントシアニン含量に及ぼす影響を示す。
【図3】 培養液濃度が水耕津田カブの硝酸態窒素含量に及ぼす影響を示す。
Claims (3)
- 津田カブの水耕栽培法において、根の先端部分以外の部分を培養液よりも比重が小さい材料に固定し、当該材料を培養液上に浮かべることによって、根の先端部分を培養液に浸しつつ、根の先端以外の部分を培養液に浸さずに培養し、前記培養液が25〜75%の濃度に設定した園試処方第1例の培養液であって、かつカリウム量が等量となるように園試処方第1例の硝酸カリウムの代わりに塩化カリウムを用いることによって硝酸態窒素量を減少させた培養液であることを特徴とする津田カブの水耕栽培方法。
- 前記培養液より比重が小さい材料が、発泡スチロール板であることを特徴とする請求項1に記載の津田カブの水耕栽培方法。
- 前記培養液より比重が小さい材料の厚さが、20〜30mmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の津田カブの水耕栽培方法。
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JP2003167951A JP4143721B2 (ja) | 2003-06-12 | 2003-06-12 | 津田カブの水耕栽培法 |
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JP2003167951A JP4143721B2 (ja) | 2003-06-12 | 2003-06-12 | 津田カブの水耕栽培法 |
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JP2005000091A JP2005000091A (ja) | 2005-01-06 |
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Family Applications (1)
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JP2003167951A Expired - Lifetime JP4143721B2 (ja) | 2003-06-12 | 2003-06-12 | 津田カブの水耕栽培法 |
Country Status (1)
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2003
- 2003-06-12 JP JP2003167951A patent/JP4143721B2/ja not_active Expired - Lifetime
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