JP4139223B2 - 原子炉用燃料集合体およびスペーサ - Google Patents
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Description
本発明は、燃料集合体が軽水で冷却される原子炉、特に加圧水形原子炉の燃料棒の擦過腐食を、原子炉の運転中に燃料棒の移動性をできるだけ制限するため今迄燃料集合体に採用されていた手段を変更することで防止する方法に関する。該移動性制限手段は、燃料棒が冷却水の流れの中でスペーサで支持される個所でできるだけ横変位および傾斜運動を行なえず、この結果スペーサにおける燃料棒の摩擦が制限されるよう、燃料棒の移動性を制限する。しかし、スペーサ内での燃料棒のあらゆる移動性をできるだけ阻止するこの種手段は、原子炉の運転条件下で、例えば照射損傷に基づき、短期間の運転経過後に疲労する。このため、移動性をできるだけ強く制限するこの手段では、通常そのような燃料集合体が採用される第2採用サイクルで、早くも燃料棒を静止摩擦によりスペーサに保持できる程大きな力を燃料棒に与えられない。その場合、むしろ固有振動が生じ、この振動は、冷却材流から小さなエネルギを受けるだけで、大きな振動振幅を生じさせ、それに応じ摩擦を生じさせてしまう。
【0002】
しかし本出願人は、他の意外な効果が擦過腐食を防止するため利用できることを発見した。燃料集合体から燃料棒に与えられる力が長期採用のため、例えば第2照射サイクルにおいて既に大きく弱まっている燃料集合体でも、前記の意外な効果が観察される限り、本発明の知識において、本発明は、本出願人により発見されたその効果を活用すべく、減少した力を的確に利用する方法に関する。
【0003】
本発明は、燃料棒(被覆管内に封入した焼結核燃料から成るペレット積層体)のスペーサに対する相対移動を制限する手段を、的確に変更して利用することで擦過腐食を防止すべく、前記の効果を強化することにある。また本発明は、その効果を利用する燃料集合体運転と、それに対応した燃料集合体と、特にこの燃料集合体に適したスペーサに関する。
【0004】
従来技術
【0005】
軽水冷却形原子炉では、燃料棒は焼結セラミック燃料ペレットから成る積層体として存在し、該積層体は金属(通常ジルカロイ)製の気密被覆管内に気密に封入されている。被覆管内にペレットを充填すべく、被覆管はペレットの半径より高々約100μm大きな内径を有し、ペレットと被覆管との間に生ずる狭い隙間に、燃料で発生する熱をできるだけ速く冷却水に導出すべく不活性ガス(通常はヘリウム)を封入している。原子炉物理上の理由から、水(減速材)と燃料との或る比率と、隣接するペレット積層体間の小さな相対間隔とを維持せねばならない。このため、燃料集合体内に極めて小さな公差の窮屈な空間的状態が生じ、この状態は、冷却材が高速で燃料棒に沿って導かれ、このため燃料棒が横運動を生ずるときも、保たねばならない。
【0006】
従って、多数の燃料棒を必要な相対間隔を隔てて互いに平行に配置し、軸方向に間隔を隔てて配置した複数のスペーサの格子目を通して導いている。原子炉の燃料棒を燃料集合体の形に束ねるスペーサの数Nは通常8個(N=8)である。核分裂性燃料の含有量は、燃料集合体を新燃料集合体と交換せねばならなくなる迄、現在は少なくとも4回の採用サイクルにわたり原子炉内に留められるよう決められている。燃料集合体を新燃料集合体と交換せねばならなくなる程「燃焼(バーンアップ)」したとき、燃料集合体の中性子の収支は負になっている。
【0007】
燃料集合体の早期交換や少なくとも経費のかかる修理が必要となる主要因は、各燃料棒の被覆管での擦過摩耗に伴う腐食である。異物による燃料棒の摩耗(異物擦過摩耗)を防止すべく、近年の燃料集合体では、その脚部で冷却水流から異物を異物フィルタにより除去する。しかし、特に冷却水流に強い乱流が生ずる個所で、燃料棒を常時固定しているにも係らず、該燃料棒は、被覆管がスペーサの格子目内の保持要素と摩擦すること(自己擦過摩耗)で、その燃料棒を早期に交換せねばならない程に腐食される。
【0008】
かかる擦過腐食は、燃料棒をスペーサの格子目内で相応の保持要素により、燃料棒と保持要素とのあらゆる相対運動を阻止すべく固定したときには生じない。また燃料棒は、真新しい燃料集合体の搬送中にその燃料棒が殆ど動かず、損傷しないよう固定する必要がある。他方で、燃料棒をスペーサの格子目に挿入する際に早くも損傷しないようにすべく、通常燃料棒を弾力的な力で保持している。
【0009】
燃料棒を各々環状に包囲し、相互に固定された複数のスリーブで形成されたスペーサは、通常燃料棒を「5点支持」する保持要素を備えている。該要素は、燃料棒の円周にわたり略等間隔で配置した3つの個所で被覆管に作用する。その3ヵ所の内の1つに、ばねや類似した弾性保持要素が存在し、これが、燃料棒を残りの2個所に弾力的に押し付ける。後者の2個所に、各々上下に位置する一対の固定突起が配置され、その2つの上側固定突起は軸方向上側レベルに存在し、下側固定突起は軸方向下側レベルに存在する。その上下両レベルは、ばねの接触支持個所の上下から各々ほぼ同じ軸方向間隔の位置にある。即ち、燃料棒を傾けるため、上下両レベルの一方において、燃料棒は少なくとも1つの突起から浮き上がらねばならず、その場合、ばねが燃料棒にトルクを与える。そのトルクは、ばね力が静止摩擦により運動を完全に克服するのに元々十分でないとき、そのような傾斜運動を減衰する。通常は、互いに直角にかみ合った帯板からなり、「卵詰め枠形スペーサ」と呼ばれるスペーサを利用している。それにより生ずる正方形のスペーサ格子目においても、格子目の1つの角にばねがはめ込まれ、その角と対角線的に反対側に位置する角で互いに突き当たる2つの側面の中央に、各々2個一対の突起が置かれているとき、「5点支持」が得られる。また「卵詰め枠形スペーサ」の場合でも、格子目の互いに突き当たる2つの側面の中央に各々、反対側の2つの側面に各々存在する2個一対の突起に燃料棒を押し付ける1つのばねが置かれているとき、「6点支持」が得られる。
【0010】
即ち、燃料棒を保持する際に生ずる静止摩擦が、燃料棒の相対運動を引き起こす、燃料棒に加わるあらゆる動的な力を受けるよう、ばね力が燃料棒を保持するならあば、擦過腐食を回避できる。尤も、時間の経過と共に弾性保持要素は次第に、特に原子炉における照射負荷の下では比較的急速に弛緩し、このため、上述の静止摩擦は、新燃料集合体では擦過腐食を防止するのに十分であるが、燃料集合体の第2採用サイクルで既に、スペーサ格子目内での燃料棒のあらゆる運動をもはや防止できない。
【0011】
燃料棒を完全な剛体にできないので、実際に固く保持した場合でも、燃料棒は乱流の冷却水流により、保持要素の平面内で振動する。その振動は、保持要素の平面内に振動節を持つ。その固有振動の周波数は、燃料棒の長さ方向に分布して配置した保持要素の相互間隔で定まる。従来、スペーサは燃料棒の長さにわたり40〜60cmの軸方向間隔で等間隔で分布させている。原子炉内で隣接する燃料集合体を、それらスペーサで互いに接触支持していた。従って、スペーサの位置、それ故固有振動は、既存の燃料集合体のそばに挿入した新燃料集合体においても決まっている。保持要素による保持が固ければ固い程、その固有振動の励振が小さくなり、それに応じて振動振幅が小さくなり、僅かに減衰すればよくなることは、はっきり分かっている。
【0012】
従って従来、保持要素の材料と形状を適当に選定することで増大させたばね力と静止摩擦とにより、スペーサの平面内での、保持要素とそれにより保持された燃料棒部分との相対運動をできるだけ長期にわたり抑えることで、固有振動が保持要素と燃料棒の相対運動と同様に、燃料棒に擦過腐食を生じさせないようすることが望まれていた。保持要素のばね力が弛緩したときに初めて、自己擦過腐食が起こる恐れがある。
【0013】
スペーサは燃料棒を保持するためだけでなく、原子炉での採用に際し望まれる別の効果を発生すべく利用される。即ち、例えば加圧水形原子炉で、燃料棒の高温表面と直に接触する水は、燃料棒から大きく離れた位置にある水より高温である。従って、冷却材流を転向させて横速度成分および/又は冷却材流の乱流を発生し、水を混合し、温度を一様にする構成要素が必要であり、スペーサはその構成要素の支持体として用いられる。このため、スペーサ帯板の冷却水流下流側の上縁に、流れを転向する流れ案内羽根を支持し、これにより乱流を生じさせるスペーサが、以前から利用されている。しかし、従来詳細に研究されていないが、そのような乱流が燃料棒に激しい運動を起すことは避けられない。
【0014】
米国特許第4756878号、第4726926号および第4849161号明細書は、小さな乱流しか発生させないが、混合および熱水力学特性が良好なスペーサを開示する。この場合、スペーサ格子の各々隣接する格子目は互いに分離されている。該帯板の各壁は互いに面接触している。二重帯板は「卵詰め枠形スペーサ」の形に直角にかみ合っている。この帯板の各壁は、2つの格子目角間の全範囲にわたっては面接触せず、格子面間の中央で、下から上に延びる中間通路が生ずるよう、互いに離れる方向に断面台形又は楕円状に曲げられている。中間通路の上端は、二重帯板の平面内で、この通路から出る冷却材が横に転向するよう曲げられている。この優しい転向は、大きな乱流とそれに伴う燃料棒の運動を防ぐ。また、二重帯板の各2つの壁の互いに接する部分に窓を設けている。該窓は二重帯板で分離された2つのスペーサ格子目を連通し、圧力平衡を起す。この平衡により、同様に大きな乱流と燃料棒運動の発生を防止できる。
【0015】
二重帯板の個々の壁は、その中間通路の直線部分に、燃料棒に対する接触支持面を形成すべく、燃料棒に対し直角な軸線を中心とした円弧状湾曲部を備える。この湾曲部、縦スリットで分割され、この結果中間通路の側壁に2つの弾性保持要素が生ずる。その場合、格子目にいずれも細長い接触支持面ではあるが8つの「支持点」が生ずるので、8点支持と呼べる。この支持面の軸方向距離は湾曲形状に左右される。従来考慮された湾曲形状から次のことが推論される。即ち、真新しい(即ち未照射の)スペーサの格子目内に燃料棒を挿入した際、湾曲部により形成された8つの円弧状保持要素が、約3cmの長さにわたり面圧縮され、その半分の長さ(即ち少なくとも15mm)で燃料棒に接する。8つの全接触支持面は、同じ軸方向レベルに位置している。従って結局、燃料棒はそれら保持要素で、格子目内で約5mmの長さにわたってしか弾力的に保持されない。
【0016】
そのようなスペーサは、その複雑な幾何学形状のため高価である。またこのスペーサは、本発明者および本件出願人により、特に高い運転温度の原子炉に対して計画され、そこで有利な性能を示すので、「高温性能」スペーサ(HTP“High temperature performance”スペーサ)と呼ばれている。これはまた、燃料集合体および加圧水形原子炉における特に腐食発生危険位置においても、大きな耐腐食性を示す。
【0017】
この特に危険な個所は周知であり、例えば冷却水流が大きく転向する随所に存在する。その例は燃料集合体の最低位置のスペーサであり、そこで冷却水流は燃料集合体の脚部から流出し、燃料棒間の中間空間に流入する際にその燃料棒の先端に衝突する。しかし該燃料棒端は可動性を持ち、スペーサで相互衝突を防止せねばならない。従って該スペーサは大きな危険に曝され、従来、特に安定的に形成されている(例えば大きな材料強度と照射強度を持つインコネルで作る)。かかる個所で、実際に短い採用時間経過後既に腐食が観察されたので、5点又は6点支持形のスペーサを繰り返し交換する必要があった。これに対し、既に2年間使用され、スペーサの保持力が既に低い値に弱まってしまった、第2採用サイクル内にあるHTPスペーサを備えた燃料集合体の場合、摩擦により燃料棒に生ずるマークは、かかる危険個所でさえ成長しない。
【0018】
HTPスペーサを同様に弾性ばね力を利用する従来の他のスペーサと比較した場合、かなり改善された耐擦過摩耗性は、保持要素の増大した数と大きな寸法に起因していると思われる。このため、ばね力の良好な利用と特性および場合により緩慢な疲労(即ち全体として剛性保持の「理想状態」への接近)が得られる。この仮定の下で、HTPスペーサを一層改善すべく、照射により材料変化を生ずる、従来利用されているジルカロイから、従来一般に弾性要素又はスペーサ全体に対し利用されている安定インコネルに移行することも有利である。またその上、HTPスペーサを高価にしていた、湾曲した中間通路と他の細部とを備えた複雑な幾何学形状を省くことができる。
【0019】
耐擦過摩耗性にとって重要なメカニズムと細部を知ることが、その知識を安価なスペーサ、改良スペーサ又は別の理由で変更したスペーサを開発する際に転用し、更なる改良を加えるために望まれる。上述の事情に関して、そのような転用や更なる改良の目的は、燃料棒のできるだけ長い軸方向部分にわたって延びる、できるだけ多くの細長い保持要素を利用することにある。
【0020】
しかし上述のHTPスペーサにおいて、高温性能のため組み合わせた種々の特徴の何れが燃料集合体の摩擦挙動を改善するのか、そして上述の接触支持点の数と長さの増大が、摩擦挙動に有利、不利の何れに作用するか或いは全く無効であるのかにつき確固たる知識が存在しない。
【0021】
発明の課題
【0022】
本発明の課題は、燃料棒がスペーサの保持要素との接触で生ずる上述の擦過腐食をできるだけ防止することにある。これにより、従来他の理由から設けていた手段を特別に改良しての利用と、特別な特徴を持つ燃料棒および/又はスペーサを利用することで擦過腐食を防止する方法と、それに対応した燃料集合体ないしスペーサを提供する。
【0023】
本発明は、擦過腐食の原因となる現象の正確な理解を前提としている。と言うのは、その理解だけでしか、更なる改良時に、擦過腐食に対し重要な特性を選定できず、またHTPスペーサと同じであるかそれ以上の耐腐食性を有するが、耐擦過摩耗性に関してあまり重要でない他の特徴について従来と異なっているスペーサ(全般的には燃料集合体)を作り得ないからである。即ちこれは、特にHTPスペーサの所定の特徴の的確な選択、他の形態への適切な転用および場合によっては改善を意味する。
【0024】
発見
【0025】
以下に詳述する試験では、通常の5点支持スペーサを前提としている。第1試験では格子目の中に、ペレット積層体の直径が被覆管の内径に対し小さな燃料棒を挿入した。従ってその燃料棒では、振動時にペレットが相対移動でき、互いに摩擦を起す。しかし第1試験で、その相対移動は、ペレット積層体と被覆管との間の中間空間にワイヤをはさみ込むことで防止した。即ち、燃料ペレットと被覆管の相対位置を固定し、被覆管とスペーサとの相対位置も同様に、被覆管に作用する弾性ばね力により固定した。第2試験では、ワイヤを除去し、被覆管とスペーサとの相対位置だけを固定した。第3試験では、同様に燃料ペレットの相対位置は固定したが、保持要素により規定されたスペーサ内の燃料棒収容開口の直径より例えば0.05mm小さな外径を持つ燃料棒を利用した。即ちばね力は燃料棒の強い衝撃時のみ被覆管に作用する。これら3つの試験状態で、燃料棒・スペーサ構造物は試験通路内で水流に曝され、その乱流で構造物は振動を起した。
【0026】
第1試験で、燃料棒に、原子炉における理想的な使用時間の経過につれて使えなくなった燃料棒でも観察された擦過腐食に匹敵する強い擦過腐食が生じた。
【0027】
しかし残りの2つの試験では、驚くべきことに擦過腐食がほぼ生じなかった。
【0028】
第1試験は、その寿命始期(BOL=begin of life)で燃料集合体に存在する条件を実際に模擬する。擦過腐食を防止するには、大きなばね力による相応した大きな静止摩擦では、明らかに不十分である。燃料集合体と燃料棒の精確な運動解析の結果、ばね力は確かに、乱流励起により生ずる不規則運動を支配するには十分であるが、燃料棒がその保持要素内で傾斜振動する曲げ振動の形で固有振動(自励振動)を生ずることを確認した。曲げ振動は、燃料棒を格子目に固く保持すればする程、弱く減衰する。しかし剛性保持は、与えた力で燃料棒をその静止位置からほんの僅かしか変位させない、即ち曲げ振動時に局所的に小さな角度φしか傾かないが、周期的な力がかかった際、振幅がかなり変化し、従って保持要素に激しい擦過腐食が生じる。
【0029】
第2試験では、燃料ペレットを相互に移動させ、それに応じたペレット積層体の内部摩擦で運動エネルギを消滅させる。即ち固着摩擦のため、曲げ振動の大幅な減衰も生じ、該振動は、その減衰に基づき、小さな振幅の振動に変化する。従って、傾斜運動とそれに伴う擦過腐食は大きく減少する。
【0030】
第3試験では、保持要素は、寿命終期(EOL=end of life)の燃料集合体の状態に相当する燃料棒に、振動周期にわたり平均して僅かな力を伝える。燃料集合体が既に長く使用され、従って保持要素のばね力が弱まっていればいる程、燃料集合体が擦過腐食し易いと、古くから確信されていたが、保持要素が疲労したとき、燃料集合体が徐々に擦過腐食しなくなることが分かった。振動状態の解析の結果、第3試験では「自励振動」が第2試験の場合と同程度に減衰され、従って、小さな振幅の傾斜運動しか生じないことを確認した。
【0031】
即ち、擦過腐食を防止するには、BOL状態で既に、できるだけ従来の燃料集合体のEOL状態に相当させねばならない。
【0032】
即ち、大きなばね力とそれに応じた大きな静止摩擦は、擦過腐食を助長する傾斜運動を伴い、減衰されない固有振動を励起する故有害である。しかし他方で、この固有振動が乱流により励起される場合、増大した減衰は、固有振動からエネルギを取り去り、従って傾斜運動の振幅を制限し、擦過腐食を防止する。
【0033】
減衰の増大に適した手段は燃料棒での内部摩擦の増大により生じ、例えば未照射燃料棒を、被覆管の内径より300μm(少なくとも250μm)だけ小さな外径を持つペレット積層体から作ることで達成される。この結果、確かにスペーサを貫通するペレット積層体部分のスペーサに対する移動性が制限されるが、それでも従来に比べ大きい。しかしその減衰は、スペーサの全ての又は少なくとも幾つかの格子目での燃料棒横移動性の増大により、燃料集合体から取り去られるエネルギによって設定できる。例えば燃料棒の外部半径より0.05mm大きい半径を持つ燃料棒収容開口を提供する保持要素付きスペーサが利用できる。
【0034】
即ちそのような処置は、一方ではペレットと被覆管の相互作用を介してペレットの移動性を間接的に制限し、他方では従来に比べて、被覆管およびペレット積層体の横移動性を増大する手段である。
【0035】
しかし、特に減衰を高めるのに適した手段は、燃料棒がスペーサに対し傾斜角φ=0.1°傾いた際に、保持要素が燃料棒に高々M=10N・mmのトルクを与えるよう、保持要素を設計することにある。これは、例えば燃料棒を格子目の保持要素の接触支持面に、その1つの接触支持面に燃料棒が接する最高接触支持点が、この格子目の1つの保持要素に燃料棒が接触する最低接触支持点より高々10mm(好適には高々5mm、特に高々3mm)だけ上に位置するよう、保持することで達成される。尤も、各接触支持面の長さ寸法は、燃料棒の点状荷重を防止するため、少なくとも1mmの長さを有さねばならない。即ち、この形態に応じて、燃料棒は比較的短い部分(軸方向長が高々10mm或いはそれ以下)だけしか、保持要素により保持されず、従ってそのばね力は、あらゆる実際的な場合に、燃料棒の0.1°の相対傾斜運動を防止するのに不十分である。しかしその力はかかる傾斜振動を効果的に減衰する。保持要素で保持された燃料棒部分の軸方向長を長くすればする程、即ち保持要素における燃料棒の保持が固ければ固い程、1回の変位に必要な力が大きくなるが、曲げ振動の減衰は小さくなり、従ってその振幅が増大する。
【0036】
即ち本発明者は、水流により励起される燃料集合体の振動時に曲げ振動が重要であり、燃料棒および燃料集合体における保持が固ければ固い程、その剛性により減衰が減少するので、その励振と振幅が増大することを発見した。即ち、剛性保持は擦過腐食を助長し、有害である。従って従来に比べて、移動性を適当な手段により増大せねばならない。
【0037】
この発見およびそれに基づく減衰増大手段は従来公知でなく、従来から使われていないことは明らかである。
【0038】
発明の概要
【0039】
本発明は、軽水冷却形原子炉での燃料集合体の使用に関する。その際、燃料集合体の燃料棒の少なくとも一部は、冷却材流により横運動を生じ、燃料棒は互いに上下に、軸方向に間隔を隔てて配置された複数のスペーサの格子目を経て導かれ、その横運動は格子目内の保持要素により制限される。しかしこの要素は、遅くとも燃料集合体の第2採用サイクルでは、燃料集合体の固有振動により引き起こされる保持要素と燃料棒との相対運動を静止摩擦により抑制するのに十分なばね力をもはや有していない。この採用サイクルでの燃料集合体の採用に際し、本発明に基づき、燃料集合体の固有振動から、増大した減衰によりエネルギを取り去るべく、互いに調和したスペーサと燃料棒を利用する。
【0040】
なお経験的に既知の如く、冷却水流は、燃料集合体と燃料棒に、実際に自励固有振動と呼ばれる、次の固有振動方程式で表される振動しか励起しない。
(d2x/dt2)+D・ω2・(dx/dt)+ω2・x=0
【0041】
ここで、Dは減衰であり、%で表され、xは横変位、ωは周波数である。この振動は次数N迄の曲げ振動モードの固有振動であり、その場合、Nは燃料集合体で利用するスペーサの数であり、燃料集合体の固有振動は燃料棒の相応した固有振動と同位相である。なお後述のように、特に第2次振動(N−2)および第3次振動(N−3)が擦過腐食の原因になっている。第2次振動(N−2)において、燃料棒が通常の5点支持形の燃料集合体における振幅50μmの振動の減衰は、空中で0.35%より低いが、本発明は、この第2次振動を強く減衰することを教示する。後述のように低次数振動は本来大きく減衰されず、従って相応した固有振動が非常に小さな振幅でしか励起されないので、この低次数振動は、擦過腐食に対しあまり重要でない。更に、第2次振動モード(N−2)の増大した減衰は、同様に、低次振動モードの増大した減衰と結び合付くので、第2次振動モード(N−2)に集中することで十分である。
【0042】
ここで「増大した減衰」とは、通常の5点支持で発生する値を越える減衰を意味する。
【0043】
この方法の場合、増大した減衰は、固有振動を起している燃料棒から、燃料棒内に存在する燃料ペレットの移動性および摩擦により取り去られるエネルギ、即ち燃料棒の固有振動を「内部減衰」により取り去るエネルギを増大することで設定できる。このための例を、上述した第2試験に挙げている。
【0044】
擦過腐食を減らすこの方法で、増大した減衰は、スペーサの幾つかの格子目内での少なくとも数本の燃料棒の横移動性の増大に伴い燃料集合体から奪われるエネルギ、即ちスペーサ格子目内での燃料棒の横運動の減衰により奪われるエネルギを変化させることでも設定できる。その例を上述した第3試験に挙げている。
【0045】
尤もこれらの両方式は、燃料集合体の全体設計をそれに応じて変更する必要がある、即ち公知の信頼性のある燃料集合体に対し変更せねばならず、これは、時間のかかる安全計算と試験によってのみ可能である。
【0046】
擦過腐食を減少するこの方法の場合、減衰は、燃料棒が傾斜角φ=0.1°だけ傾いた際に高々M=10N・mmのトルクしか燃料棒に与えない保持要素により設定するとよい。好適には、少なくとも1つのスペーサ、特に加圧水形燃料集合体における最低位置のスペーサの場合、燃料棒を有する通常の格子目、特に燃料棒付きの全格子目で、保持要素はそのよう形成される。この方式は同様に既に上述した。これは勿論、例えば加圧水形原子炉における制御棒案内管付き格子目のような、燃料棒が貫通していない格子目には当てはまらない。
【0047】
本発明は、軸方向に互いに間隔を隔てて配置した複数のスペーサの格子目を経て導かれ、格子目に配置され燃料棒に保持力を与える保持要素により横移動性を制限された燃料棒を持つ軽水冷却形原子炉の燃料集合体をも提供する。その種燃料集合体では、保持要素の保持力は、燃料集合体の遅くとも第2採用サイクルで、軽水流内において燃料棒の固有振動により条件づけられる保持要素と燃料棒との相対運動を阻止するには不十分である。そのような燃料集合体では、本発明に基づき、少なくとも幾つかの燃料棒と格子目が、燃料集合体の固有振動から、大きな減衰により絶えずエネルギを取り去るよう、互いに調和されている。
【0048】
少なくとも内部燃料棒と最低位置のスペーサをそのように互いに調和させると有利である。なおここで「内部燃料棒」とは、燃料集合体の周縁に正に存在していない燃料棒を意味する。
【0049】
本発明はまた、スペーサの各格子目を貫通する燃料棒に対し有効なスペーサを提供する。該スペーサは軽水冷却形原子炉の燃料集合体に対して用意され、燃料棒を収容するため規定された格子目における各々複数の保持要素が、スペーサの未照射状態において燃料棒を所定の保持力で所定の横位置に保持する複数の保持要素を有している。かかるスペーサの場合、保持力は、燃料集合体の少なくとも第2採用サイクルにおいて既に、軽水流で引き起こされ燃料集合体の固有振動となるスペーサと燃料棒との相対運動を防止するのに、もはや十分ではない。
【0050】
本発明に基づき、保持要素は、関連する燃料棒を挿入した後に複数の細長い接触支持面で燃料棒に接するよう形成され、該面の長さ寸法は各々少なくとも1mmである。この格子目における燃料棒の最高接触支持点は、同じ格子目における燃料棒の最低接触支持点より高々10mm、好適には高々5mm、特に高々3mm高い位置にある。換言すれば、保持要素をスペーサの一部と考えたとき、燃料棒とスペーサとの間の最高接触支持点と最低接触支持点が、燃料棒におけるスペーサで保持された軸方向部分を規定し、最大で上述の長さを持つ。
【0051】
燃料棒のこの短い部分を保持する保持要素は、運転上生ずるばね力の弛緩後でも、不規則に生ずるその燃料棒部分の相対横運動を受け、実際に阻止する働きをするが、この要素は、未照射状態でさえ燃料棒部分の相対傾斜運動を受け止めず、なお微小運動を可能にする。この運動が曲げ振動により生じた際、この微小振動は、擦過腐食を生じさせないがその振動を減衰する摩擦を発生する。
【0052】
本発明の全実施態様で、格子目の燃料棒に接する弾性保持要素の上下に各々剛性保持要素を設け、これら保持要素を静止状態において対応した燃料棒から0.1〜0.5mm(有利には約0.3mm以下)だけ離すと有利である。これにより燃料棒の最大変位を定め、種々の理由から通常必要となるスペーサの壁と燃料棒および隣接する2本の燃料棒間の最小間隔を下回わらないよう保証できる。
【0053】
上述の発見は、特にHTPスペーサに更なる改良、即ち既に公知のこのスペーサと異なるスペーサの開発に導く。そこで本発明は、接触支持面の有利な長さ寸法の指定により、弾性保持要素が燃料棒により過度に変形され、軸方向に過大な接触支持面を生じてはならず、また過小の面接触を形成してはならないことを教示する。その条件は、保持要素が照射に伴い疲労した際に満たされるが、未照射スペーサを設計および製造する際に既に考慮するとよい。特に請求項に記載の特徴と、8個より少ない接触支持面を有する格子目とを備えたスペーサも考えられる。しかし、HTPスペーサに関連して述べた特徴又は請求項19〜21に記載の特徴を省いたスペーサおよび相応する燃料集合体も考えられる。これは一層単純化或いは改善した構造を可能にする。
【0054】
少なくとも内部燃料棒のための格子目を、同一形状にするとよい。正方形の格子目を持つスペーサの場合、好適には4つの格子目壁が各々保持要素を有する。全ての保持要素を弾性ばねとして形成すると好ましい。六角形の格子目の場合、保持要素又は保持要素対を、燃料棒の円周方向にほぼ同じ円周角で分布するよう配置し、その際、少なくとも3つの格子目壁で保持要素を支持する。内部燃料棒のための保持要素を支持する全格子目壁を同一に形成するとよい。
【0055】
従来、燃料棒に対し平行に延びる細長い弾性保持要素しか研究されず、良い結果が得られなかった。本発明に従い急激な励振を防ぐため、軸方向寸法を制限せねばならない。また、減衰が接触支持面間の微小運動に決定的に関係するとき、細長い接触支持面を燃料棒に対し直角に向けてもよい。これは、その際所望の小さな軸方向寸法でも、接触支持面の長さを、減衰のため増大できるからである。
【0056】
以下図を参照して本発明および本発明の有利な実施例を詳細に説明する。
【0057】
本発明は、燃料集合体を軽水で冷却する形の原子炉の通常運転から出発する。この燃料集合体の燃料棒は、積層体の形に積層した焼結核燃料ペレットを含み、該積層体は被覆管内に封入されている。かかる燃料集合体は燃料棒に対する複数のスペーサを有し、各スペーサをペレット積層体の一部が貫通している。その際スペーサと被覆管は、ペレット積層体部分の少なくともスペーサに対する運動、従ってペレット積層体の全体運動をも制限するべく用いる。この結果、後述する図9の状態bに類似する運動が殆どできないか、極めて小さな振幅で強い減衰の下でしか生じない。それでも主に図9の状態cに相当する曲げ振動が生ずる。
【0058】
状態bの抑制は必要であり、その相対移動性の制限により運動を減衰する手段の作用が強ければ強い程、効果がある。従来、できるだけ強く制限する手段が、状態cも相応して強く減衰させると考えられていた。しかし、既に述べた第1試験で、反対の結果が確認された。従って本発明は、その手段を、これが少なくとも1つのスペーサにおける少なくとも幾つかの燃料棒の上述した部分に対して(匹敵する従来技術における制限手段に比べて)移動性を増大するよう設計することを提案する。その際、相応した運動中に上述した図9の状態cからもエネルギが取り去られ、その曲げ振動が強く減衰される。この関係において、減衰の僅かな増大が、被覆管における摩耗の全く予期されない程大幅な減少を生じる。
【0059】
前記の請求項1に基づくスペーサの構成は、前記の請求項2〜10に記載したか上述した種々の形態に変更することを許す。またそこから、請求項11〜12に記載の特徴を備えた燃料集合体が生ずる。
【0060】
沸騰水形原子炉で観察される擦過腐食は、従来は実際上専ら、冒頭に述べた異物擦過腐食に起因するが、加圧水形原子炉では、殆どの、かつめったに生じない損傷の原因は、燃料棒と保持要素との直接摩擦にある。従って本発明は先ず加圧水形原子炉の燃料集合体に使用され、以下これについて説明する。
【0061】
そのような加圧水形原子炉の燃料集合体(図1参照)は、制御棒案内管Gにより互いに結合された頭部Kと脚部Fとを備える。その案内管に複数(通常は8〜9個)のスペーサSPが固定されている。これらスペーサSPは、例えば互いに溶接されたスリーブから構成されているが、図示の実施例の場合、互いに直角に交差する帯板から格子状に形成されている。それにより生じた円形或いは正方形の格子目の中に、案内管Gと燃料棒FRが挿入されている。
【0062】
「卵詰め枠形」スペーサの格子目の平面図(図2参照)から、交差するジルカロイ製の帯板1、2が理解できる。この場合、帯板1、2は1つの窓付き角を形成し、その窓に、インコネル製のばね3がはめ込まれている。この窓付き角と反対側に位置する角で互いに突き当たる格子目の壁は、各々同じ格子目の中に向いた湾曲部を有している。これら湾曲部は、図3で詳細に理解でき、突起、即ち実際に剛性保持要素4を形成している。燃料棒5は弾性保持要素3によりその剛性保持要素4に押し付けられる。図3に示すように、弾性保持要素3と剛性保持要素4は同じ高さレベルに存在している。燃料棒5が保持要素3、4に接する最高接触支持点h1は、最低接触支持点h2から軸方向間隔d0を有し、この際、その軸方向間隔d0は3mmである。保持要素をこのよう形成した場合、燃料棒5と保持要素3、4との接触支持面は、燃料棒の軸線に対し平行に、ほぼ線形に延びている。弾性保持要素3のばね力は、通常5Nより大きい。
【0063】
これと異なり、湾曲部4も同様に弾性保持要素として形成すると有利である。
【0064】
図3は、真新しい状態で、被覆管HRとその中に封入されたペレット積層体TSとの間に、隙間SGが存在することを示す。燃料集合体が新しく設計され、原子炉物理に調和している場合、その隙間幅を約150μmに設定するとよい。本試験において、その隙間は減少したペレット直径により規定され、後の試験で小さな内・外径の被覆管が用意される。最初の試験の際、その比較的大きな隙間の中に、被覆管の内部でペレット積層体を固定するワイヤが挟み込まれる。
【0065】
図4は、上述したスペーサと異なり、通常の5点支持構造を縦断面図で示す。そこでは、燃料棒は1つの弾性保持要素により、他の格子目壁にある上下一対の突起4a、4bに押し付けられている。この保持構造において、間隔dは図3における間隔d0に相当し、通常少なくとも約30mmである。
【0066】
5点支持構造の図4に示すスペーサを備えた燃料集合体を、未照射(BOL)状態において、流速vが変化する冷却水流に曝した。その際、2つのスペーサ間の中央で、案内管において測定された燃料集合体の運動の振幅Aを、図5に示している。この図5から、約5.5〜6.0m/秒の流速範囲で燃料集合体に、特に周波数約25Hzの強い振動が生ずることが判る。燃料集合体の寿命終期(EOL状態)における挙動(即ち弱い(弛緩した)ばね力)を模擬するため、図6の試験では、燃料棒被覆管の直径を幾分減らし、他方で、同じ保持要素を備えた同じ形式のスペーサを採用した。いまや燃料棒と被覆管の間の隙間は小さくなっているが、ペレット積層体を固定すべく、同様にワイヤを挟み込んだ。被覆管の小さな外径とそれに応じた保持要素内での燃料棒の大きな移動性により、図5における際立った振幅が少なくとも十分に消滅することが確認された。
【0067】
図7は、0.3%の減衰を有する第2次振動モード(N−2)の燃料集合体における、図5に相当した周波数スペクトル、図8は、ワイヤを除去した点を除き同じである燃料棒を採用した場合の相応した周波数スペクトルを示す。この際、減衰は約0.3%から約0.5%に増大し、驚いたことに、この絶対値のほんの僅か0.2%の増大が、図7における際立った振動を実際に消滅させる。
【0068】
この試験の結果、通常のスペーサのばね力は、BOL状態でさえ周波数25Hzの大きな振幅の振動を防止するのに十分でなく、むしろ大きなばね力は有害であり、ばね力の疲労が小さな振幅を生じさせることを確認した。これに反して、減衰が増大することで明らかに十分であり、その場合、特に際立った25Hzの振動に対し、0.5%又は僅か0.4%の減衰で既に十分である。
【0069】
燃料集合体の固有振動を説明すべく、図9は2つの案内管Gの間にスペーサSPを貫通して配置した燃料棒FRにより燃料集合体を示している。状態(a)では、燃料集合体が静止しているか、又は保持要素が、非常に大きなばね力により、燃料棒および案内管がスペーサに対し相対運動できず、即ち横運動も傾斜運動もできない。勿論、この剛性保持の場合、燃料棒とスペーサとの間に摩擦は生じない。しかし燃料棒と案内管が実際上互いに無関係に大きな横および傾斜運動を起すと、状態(b)が生ずる。しかし、燃料棒と案内管との相対間隔は大きく変わるが、スペーサがその相対間隔の変化をほんの僅かしか許さないので、現実にはそのような状態は生じない。即ち、実際には単に同期運動しか生じない。また、燃料棒は燃料集合体に対し傾斜運動(傾斜角φ)を行なうが、この傾斜運動も同様に、保持要素内における燃料棒の或る移動範囲でしかできない。
【0070】
しかし、燃料棒をスペーサ内に非常に固く保持すると、状態(c)が生ずる。この状態(c)で、燃料棒の相互間隔と案内管に対する間隔は実際上不変で、かつ極めて小さな傾斜角φしか生じない。この状態(c)ではスペーサ平面内で実際上常にφ=0であり、燃料棒が保持要素のばね力に抗して作用せず、むしろスペーサに対する相対静止位置を維持するので、特に良好な振動となっている。かかる振動は、腐食に関し無害であるが、高次振動モードを意味している。
【0071】
低次振動の際、状態は異なる。図10は、第1次曲げ振動時における燃料棒のその静止位置に対する横変位Dの測定値を、燃料棒の下端からの距離Hの関数として示す。この図から、スペーサにより生ずる正弦波形の歪みが明瞭に判る。
【0072】
図10から角度φ、即ち燃料棒又は案内管とスペーサに対する垂線との傾斜角を求めることで、正弦波形の歪みが一層はっきりする。その場合、正弦波振動の歪みは、はっきりしたスパイク波形で理解できる。この波形は、第1(最下位)スペーサと8番目(最上位)のスペーサとの間に存在する各スペーサの平面内に各々位置している。ここでは、振動する燃料棒はその保持力に抗して作用する。しかしその振動は、保持のばね力によりかなり強く減衰され、従って該振動は、振動スペクトル内で弱く励起されるだけである。
【0073】
第6次曲げ振動に対し、それに応じた傾斜角φの経過を求めたとき、図12に示すように、そのスパイク波形は完全ではなく、かなり消滅している。即ちこの振動モードで、振動の振動節が実際にスペーサの平面内に位置しているので、燃料棒と燃料集合体は、その保持に抗して作動することなく、ほぼ正弦波状に運動できる。それに伴い、スペーサの平面内における振動の減衰は僅かである。
【0074】
尤も、燃料棒はスペーサに点状に保持されず、その接触支持面が軸方向寸法(範囲)を有している。
【0075】
図13は、保持要素のばね力を、有限軸方向寸法において、図11および図12における振動で、擦過腐食に与える影響を示している。燃料棒はその静止位置(位置P1)で、弾性保持要素FHのばね力により剛性保持要素SHに、燃料棒がスペーサに対し垂直に向くよう押し付けられる。いま燃料棒が傾斜角φだけ或る方向(位置P2)に或いは別の方向(位置P3)の方向に変位すると、弾性保持要素FHはその燃料棒変位に抗して作用し、燃料棒の運動からエネルギを取り去り、即ち相応した振動を減衰し、その減衰は低次振動モードにおいて非常に大きく、振動励起に対抗する。低次振動モードの強い減衰は、乱流の冷却水流から伝達されるエネルギが、相応した曲げ振動が大きな振幅に励起することなしに、ばね要素を介して排出されるようにする。
【0076】
これに反し高次振動モードの場合、減少した傾斜運動が弱い減衰を生じさせ、冷却材からの励起は、弱くしか減衰されない。そしていまや、図5から明らかな大きな変位が生ずる。
【0077】
図13において、AFは図示の運動中に燃料棒と2つの接触支持面との間で摩擦が生ずる範囲を表している。従来、剛性であるその保持要素にしか、顕著な摩耗マークは生じない。これは、つまりスペーサの剛性保持要素だけが燃料棒に相応の摩耗マークを引き起こすという観察と一致している。この理由から、できるだけ全ての保持要素を弾性的に形成するのが有利と思われる。またそのような摩耗マークは、燃料棒を第2次振動(N−2)および第3次振動(N−3)に相当する周波数で試験したときしか得られない。
【0078】
燃料棒を傾斜角φだけ変位するため必要なトルクを、その傾斜角の関数として測定したとき、図14に示すヒステリシス曲線が生じ、小さいが有限の角度(例えばφ=0.1°)でも、常に有限のトルクが必要である。
【0079】
しかしばね力が同じなら、トルクMは、図13に示す剛性保持要素SHの最高接触支持点と最低接触支持点との軸方向距離dが減少すればする程減少する。その距離dと弾性保持要素FHの接触支持面が各々、図15に示すよう一点に集中しているとき、たとえ大きな傾斜角φでも、実際上トルクMはもはや不要である(図16参照)。いまや、燃料集合体の挙動は実際にばね力と無関係である。
【0080】
尤も、それでも相応の傾斜運動からエネルギを取り去る微小運動が生ずる。そのよう支持された燃料棒の増大された傾斜移動性が、相応の振動モードの大きな減衰を生じさせる。従って、接触支持面の寸法を過度に小さくする必要はない。図17において曲線CONVは、実際上通常の間隔d=30mmに対する第3次振動モード(N−3)における燃料棒の変位(振幅)の減衰機能を表し、曲線INVは、ここで提案した革新的な間隔d=3mmに対する相応の減衰を表している。第2次振動モード(N−2)に対する相応した曲線を、図18に示す。
【0081】
上述したHTPスペーサの原理的な構造(図19、図20、図21参照)の場合、周縁帯板30を除き、互いに面接触して固定された2つの壁(帯板)32、33からなる二重帯板31を利用している。この二重帯板は、燃料棒36又は案内管37を収容すべく用いる正方形の格子目35を形成するよう、互いに直角にかみ合わされている。各二重帯板(幅b=4〜4.5cm)は、2つの二重帯板31、34の交点39に第1スリット38を有している。更に、燃料棒を収容するため規定された格子目を制限する各壁(帯板)は、各々第2縦スリット41を有している。その両スリット38、41はほぼ同じ長さ(長さl=0.6〜0.65mm)を有し、二重帯板の下縁および上縁からほぼ同じ間隔を隔てられている。2つの交点の中間で、燃料棒に対して用意される格子目を境界づける各壁は、その壁により境界づけられる格子目の中心軸線に向けて湾曲され、これにより両壁間に、下から上に貫通する中間通路40が生じている。この通路40はその上端45が曲げられ、その結果中間通路40から流出する冷却水は、燃料棒の周りで旋回47を生ずる。また、燃料棒が格子目の中に挿入されるや否や、その燃料棒が長さdにわたって接するよう、第2スリット41の両側における壁48、49は、各々燃料棒に対し垂直な軸線を中心として円弧状に湾曲されている。
【0082】
擦過腐食の抑制に関し、中間通路の先端45の湾曲が不要なことが分かった。むしろ、完全に真っ直ぐな中間通路を利用するとよい。その際、壁の上縁に、冷却水に別の流れ経路を与える流れ案内面を設ける。同様に、保持要素のばねとして用いる第2スリットの縁も、別の弾性保持要素で置換し、第2スリットは完全に省く。更に長さdを3mmより短く設定するとよい。これに反し、従来のHTPスペーサ構造では、dが約15mmであることを前提としている。
【0083】
図2と3の実施例は3点支持であり、図19〜21の実施例は8点支持であるが、図22と23は、6点支持を例示する。その際、全保持要素を弾性的に形成するとよく、この実施例では、片側の格子目壁にある1つのばね50が、反対側の格子目壁に上下して存在する2つのばね51、52に、燃料棒を押し付ける。図23はまた、振幅を制限するための剛性ストッパを破線輪郭53で示す。
【0084】
本発明により達成される擦過腐食の減少を測定するため、格子目における1つの保持要素との摩擦により発生する壁厚の減少測定を付加できる。次の表1は、d=30mmの従来通常のスペーサ(試験1〜4)に対する上述の測定の付加に伴い得られる数値と、d=3mmの本発明に基づくスペーサ(試験5〜7)における相応した数値とを比較して表している。その試験時に、燃料集合体を原子炉内でも観察される振動モードで電磁的に励振した。尤も、振幅は原子炉運転に対し代表的ではない大きな一定の値に設定した。つまりこのようして、適度な時間内に比較値が得られるようした。
【0085】
その際に生ずる相違は、この相違が主に第2次振動モード(N−2)の異なった減衰に起因しているので、特にはっきり認識できる。しかしその減衰はいずれの場合もほんの僅かである。尤も、増大した減衰自体は、燃料棒の運動性がはっきり増大することに起因している。その燃料棒の移動性が本来、試験5〜7における明らかな腐食低下の原因と見なされる。
【表1】
【図面の簡単な説明】
【図1】 加圧水形原子炉の燃料集合体の斜視図。
【図2】 本発明に基づくスペーサの格子目の平面図。
【図3】 図2におけるIII−III線に沿った断面図。
【図4】 従来通常の5点支持形スペーサの図3に相当した断面図。
【図5】 従来通常の燃料集合体のBOL状態における冷却水の流速と振動スペクトルとの関係を示す線図。
【図6】 従来通常の燃料集合体のEOL状態における冷却水の流速と振動スペクトルとの関係を示す線図。
【図7】 燃料棒に内部摩擦と減衰が存在しない状態の燃料集合体の振動スペクトル線図。
【図8】 燃料棒に内部摩擦と減衰が存在する状態の燃料集合体の振動スペクトル線図。
【図9】 燃料集合体の静止状態、起こり得ないおよび起こり得る振動状態の説明図。
【図10】 燃料棒が振動に伴い変位した場合の燃料棒の静止位置からの変位を示す線図。
【図11】 第1次振動モード(N−1)における燃料棒の傾斜角を表す線図。
【図12】 第2次振動モード(N−2)における燃料棒の傾斜角を表す線図。
【図13】 従来のスペーサにおける傾斜振動時の燃料棒と弾性保持要素の位置を示す図。
【図14】 図13のスペーサでの、燃料棒の傾斜角φのため必要なトルクMを示す線図。
【図15】 本発明の場合における図14に相当した図。
【図16】 本発明の場合における図14に相当した図。
【図17】 従来の支持での、第2次および第3次振動モードにおける減衰を示す線図。
【図18】 本発明の支持での、第2次および第3次振動モードにおける減衰を示す線図。
【図19】 案内管と燃料棒とを備えたHTPスペーサの部分斜視図。
【図20】 図19におけるスペーサの二重帯板の組立前の斜視図。
【図21】 図19におけるスペーサの中間通路の燃料棒への作用の説明図。
【図22】 本発明に基づくスペーサの異なった実施例の平面図。
【図23】 図23におけるスペーサの断面図。
【符号の説明】
1 帯板
3 ばね
4、4a 突起
5、36、FR 燃料棒
30 周縁帯板
31、34 二重帯板
32、33、48、49 壁
35 格子目
37案内管
38、41 縦スリット
39 交点、40 中間通路
45 中間通路の上端
F 燃料集合体脚部
K 燃料集合体頭部
G 制御棒案内管
SPスペーサ
d、d0 軸方向間隔
h1、h2 最高接触支持点/最低接触支持点
v 流速
A 振幅
D 燃料棒の静止位置に対する変位
H 燃料棒の最下端からの距離
FH 弾性保持要素
AF 摩擦発生範囲
Claims (12)
- 軽水の水流で冷却される原子炉用燃料集合体の複数の燃料棒用のスペーサであって、前記複数の燃料棒は前記スペーサの格子目を貫通しており、前記スペーサは、その各格子目において複数の保持要素を有し、前記燃料棒が前記保持要素により横方向に保持されて、前記スペーサに対する前記燃料棒の相対移動性が制限され、かつ、冷却水の流れによって前記スペーサの平面において前記燃料棒に傾き振動が与えられることによって前記燃料棒の相対移動性が抑制されるようにしてなるスペーサにおいて、
前記保持要素は、前記スペーサの平面において垂直に延びる燃料棒の軸が、傾斜角φ=0.1°だけ傾斜した際、当該燃料棒にトルクM≦10N・mmを与えるものとすることを特徴とするスペーサ。 - 少なくとも一つの格子目内で、少なくとも長さ1mmの複数の細長い接触支持面を有する保持要素が燃料棒に接し、スペーサの未照射状態において既に、その格子目内における燃料棒の最高接触支持点が、同じ格子目内における燃料棒の最低接触支持点より高々10mm上に位置することを特徴とする請求項1記載のスペーサ。
- 格子目内における燃料棒の最高接触支持点が、同じ格子目内における燃料棒の最低接触支持点より高々5mm上に位置することを特徴とする請求項1又は2記載のスペーサ。
- 燃料集合体における少なくとも内側の格子目内に前記保持要素を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のスペーサ。
- スペーサの燃料棒で貫通されている全ての格子目内に、前記保持要素を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のスペーサ。
- 前記接触支持面を有する各格子目において、その接触支持面の上側および下側の平面内に、各々燃料棒の静止位置に対する横変位を0.1〜0.5mmに制限するストッパが設けられたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のスペーサ。
- 各接触支持面の上下に前記ストッパが設けられたことを特徴とする請求項6記載のスペーサ。
- 各燃料棒が、8個以下の細長い接触支持面で、格子目の保持要素に接触支持されたことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のスペーサ。
- 接触支持面が燃料棒に対し平行に延びることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のスペーサ。
- 接触支持面又は該面の対が、燃料棒の円周にわたり等間隔に分布されたことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のスペーサ。
- 請求項1から10のいずれか1項に記載の少なくとも一つのスペーサを備えたことを特徴とする軽水の水流によって冷却される原子炉用燃料集合体。
- 請求項1から10のいずれか1項に記載の少なくとも一つのスペーサが、燃料集合体の最低位置スペーサとして設置されていることを特徴とする請求項11記載の原子炉用燃料集合体。
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