JP4137121B2 - 放射線検出装置 - Google Patents

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Description

【技術分野】
この発明は、放射線、特にガンマ線の検出装置に関し、更に詳細には時間分解能の極めて早いガンマ線検出装置に関する。
従来技術
放射線検出器は、固体の輻射緩和現象を利用して、電離放射線を光学的に検出・測定するものである。近年、物理、化学、生物及び医療などの分野において、短パルス放射線の利用が進められており、短パルス放射線を簡易に測定する方法が求められている。例えば、医療機器であるPET(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー)では、放射線検出器の時間分解性能を測定系の位置検出に利用することが可能であり、その場合時間分解能が高ければ高いほど、より短時間でより精密な診断を行うことが出来る。従って、高時間分解能放射線検出器に対する要請は極めて大きい。
従来の放射線検出器のうち、特にガンマ線検出器の時間分解能は満足がゆくものではなかった。
例えば、今までのところ最も良い時間分解能として、プラスチックシンチレーターとダイノード増幅型光電子増倍管を用いてアナログ回路で時間処理する方法で測定したものは124ps(M.Moszynski,1993年Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 337(1993)154)、BaFシンチレーターとダイノード増幅型光電子増倍管とデジタルオシロスコープを用いる方法で測定したものは155ps(Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 487(2002)612−617)、プラスチックシンチレーターとダイノード増幅型光電子増倍管とデジタルオシロスコープを用いる方法で測定したものは120ps(Radiation Physics and Chemistry 68(2003)431−434)を示していた。
一方、CsBr(臭化セシウム)結晶からの高速発光は、1990年ごろから光物性の研究者の間では知られており(J PHYS SOC JPN 62:(8)2904−2914AUG 1993)、その発光量、発光の減衰時間、その温度依存性が測定されている(JPHYS SOC JPN 66:(8)2502−2512 AUG 1997)。表1に示すように、室温において、発光量がBaFの高速成分の1%(NaI(Tl)の0.04%)、減衰時間が30ピコ秒であった。室温での発光量が非常に少ないが、減衰時間が非常に高速なことが知られていた。
Figure 0004137121
しかしCsBr結晶をガンマ線計測に応用する発想はなかった。
また、高速性に特徴のあるMCP内蔵光電子増倍管は、1980年ごろから市販されている。MCP内蔵光電子増倍管と通常の光電子増倍管との比較を表2に示す。MCP内蔵光電子増倍管は、波形の立ち上がり時間(rise time)と走行時間のばらつき(T.T.S.,Transit time spread)が小さい点に特徴がある。
Figure 0004137121
普通の光電子増倍管と普通のガンマ線高速測定用シンチレーター(BaF又はプラスチックシンチレーター)を用いたときの時間分解能は、光電面における光電子数の統計的ばらつきで決定され、立ち上がり時間や走行時間のばらつきはあまり効かない。しかし、MCP内蔵光電子増倍管と普通のガンマ線高速測定用シンチレーターを用いて、ガンマ線の時間測定を行うと、使用できる光電子の数が少ないため、統計的ばらつきが大きく、普通の光電子増倍管より悪い時間分解能しか得られないため、ガンマ線の時間計測には使用されていなかった。
【発明が解決しようとする課題】
従来のガンマ線検出器は、時間分解能が不十分であった。そのため、以下の応用の際の制約となっていた。
(1)医療におけるPET(Positron Emission Tomography,陽電子断層撮影)
時間分解能が向上すれば、時間情報から、陽電子の位置を検出可能になり、測定時間の短縮、線源強度の低減など、被験者の負担低減につながる。
(2)陽電子寿命測定法
材料科学において、陽電子の寿命測定は格子欠陥の検出に利用されている。時間分解能が向上すれば検出感度が向上する。
本発明は、このような制約を解消するため、ガンマ線検出の時間分解能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ガンマ線を光に変換するシンチレーター結晶としてCsBr(臭化セシウム)を用い、光を電気信号に変換する光電子増倍管としてMCP内蔵タイプを用いることにより、ガンマ線検出において従来の値を大きく上回る時間分解能を得られることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、シンチレータとしてCsBr結晶を用い、シンチレータからの受光に光電子増倍管を用いた放射線検出装置であって、該光電子増倍管が、シングルフォトンが検出可能な感度と、シングルフォトンに対して30ps以下の半値幅と、10mm以上の受光面積とを有することを特徴とする放射線検出装置である。このシンチレータの減衰時間は50ps以下である。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明に用いることのできるMCP内蔵光電子増倍管とそのスペックを示す(浜松ホトニクス株式会社のパンフレット)。R5916シリーズは+15Vゲートシグナルの入力によりゲート制御する。標準タイプは通常OFFですが、ONタイプもあります。ゲート作動は、ゲートシグナルの入力パルスにもよりますが、5nsです。
第2図は、MCP内蔵光電子増倍管(浜松ホトニクスR3809U)の構造を示す(浜松ホトニクス株式会社のパンフレットから)。
第3図は、実施例で用いた測定装置の配置を示す。
第4図は、測定結果を示す。横軸はチャンネル数(時間)を表し、縦軸はカウント数を表す。Position Aは移動前、Position Bは移動後の測定値を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の放射線検出装置は、シンチレータとしてCsBr結晶を用い、シンチレータからの受光に光電子増倍管を用いる。
本発明で用いるCsBr結晶は、そのように分類される如何なる結晶を用いてもよいが、CsBrを含むアルカリハライド結晶は、1960年代から高純度のものが光学用に商業的に提供されており、本発明においてはこのようなものを用いることができる。
その成分はCs(セシウム)とBr(臭素)の原子比が1:1であり、結晶構造がCsCl型ものが好ましく用いられる。
CsBr結晶は放射線、特にガンマ線を照射すると300〜500nmの光を放射するため、この放射光を受光するために光電子増倍管を用いる。
光電子増倍管は、光を電子に変換するための光電面と、その電子を増幅する増幅部から構成される。一方、MCP(マイクロチャンネルプレート)は、ガラスに微細な穴(チャンネル)が空いている素子であり、この両面に電圧(数kV)をかけると、負電位の側から入射した電子がチャンネルの壁にぶつかりながら2次電子を出して増幅される。MCP内蔵光電子増倍管は、このような素子を内蔵することにより、シングルフォトンの検出を可能とし、応答時間を高速にした光電子増倍管である。このようなMCP内蔵光電子増倍管は市販されており、例えば、浜松ホトニクス株式会社からR3809UシリーズやR5916Uシリーズとして入手可能である。これらのスペックを第1図に示す。
本発明の放射線検出装置は、上記のCsBr結晶と光電子増倍管以外に、これら部品を結合して、放射線を検出するために適宜必要なスペックを有する装置を組合わせて用いてもよい。例えば、CsBr結晶とMCP内蔵光電子増倍管にデジタルオシロスコープを組み合わせたり、このデジタルオシロスコープを外部トリガ回路で動作させるよう構成してもよい。更に、検出された波形の処理のために適宜公知の装置を用いることができる。
この放射線検出装置の測定対象は、陽電子消滅ガンマ線が好ましく、線源はPETに使用されるものとして、C−11、N−13、O−15、F−18、陽電子寿命測定に使用されるものとしてNa−22、Ge−68などが挙げられる。
以下、実施例により本発明を例証するが、これらは本発明を制限することを意図したものではない。
【実施例1】
測定装置
まず、シンチレータとして、CsBr結晶(Korth Kristalle GMBH社)を用いた。その成分はCsとBrが1:1(原子比)であり、結晶構造はCsCl型である。サイズは8mmφ×8mmであり、全面研磨品である。
光電子増倍管として、MCP内蔵光電子増倍管(浜松ホトニクスR3809U)を用いた。その立ち上がり時間は150ps、走行時間のばらつきは25psである。その構造を第2図に示す。第2図において、CATHODEが光電面で、ここで光が電子に変換され、その電子がMCPに入射し、増幅され、ANODEから出力される。
このCsBr結晶にシリコングリスを全面に塗布したのち、光電子増倍管への貼り付け面以外を遮光テープで覆ってから、直接光電子増倍管の受光面に貼り付け、放射線検出装置とした。
線源として、22Na(入手先:日本アイソトープ協会、製造元:PerkinElmerlifescience社)を用いた。強度は1MBqであった。22Naからは、1.27MeVのガンマ線と陽電子が同時に放出され、陽電子はすぐに2本の0.511MeVのガンマ線になる。今回のセットアップでは1.27MeVのガンマ線の効果は無視できる。この線源のサイズは約2mmである。
これら各装置を、第3図に示すように配置した。放射線検出装置を2つ用意し、そのCsBr結晶が対向するように配置し、光電子増倍管、CsBr結晶及び線源を同一軸上に並べた。2つの放射線検出装置のCsBr結晶の面間距離を50mmとした。
これらに、デジタルオシロスコープ(LeCroy社製WaveMaster9600、アナログ帯域6GHz、サンプリング周波数20GS/s(2ch同時))、波高弁別器(EG&GORTEC社製モデル584)、コインシデンス回路(林栄精器製RPN−130)を第3図に示すように配置し、2つの光電子増倍管が受光した時間の差を測定した。このように装置を配置した結果、時間分解能は80ps以下、距離分解能は12mm程度であった。
測定操作
まず、線源(サイズ:約2mm)を一方の放射線検出装置のCsBr結晶から20mmの位置に置いて、線源からの放射線を測定した。各点間の時間が5psであるので、縦軸(カウント)が頂点から半分の位置の幅は、16点以下であった。即ち、2本の陽電子消滅ガンマ線(0.511MeV,同時に出る)の時間差測定の時間分解能(半値幅)として80ps以下の値が得られた。
次に、線源を他方の放射線検出装置のCsBr結晶の方向へ10mm移動させて、同様に測定した。
測定結果
測定結果を第4図に示す。10mmの移動により、右検出器に10mm近づき、左検出器から10mm離れる。第4図からこの移動前後で、ピークが13.3チャンネル(即ち、66.6ps)移動していることが分かる。
光速が3cm/100psなので、66psだけピーク位置が移動することが予想される。この予想は上記の測定結果とよく一致した。
即ち、陽電子消滅ガンマ線(0.511MeV)及びそれとエネルギーが近いガンマ線の時間測定において、従来になかった高い時間分解能を実現する装置が実現した。
また第4図のPositionA(又はPositionB)における時間分解能は、およそ15ch(75ps)の半値幅であることが、図から読み取れる。この値は、用いたシンチレーターの減衰時間、および、用いた光電子増倍管の分解能半値幅、光路差、その他の時間分解能を悪化させる影響の効果を、足し合わせた値である。
これから、用いたCsBrシンチレーターの減衰時間を以下のように求めることができる。
用いたシンチレーターの減衰時間(半減期)をτs、測定器の分解能をτpとおき、光路差、その他の時間ジッタに与える効果をτkとする。全体の分解能は、τs,τp,τkの二乗の和の平方根であるので、下式が成り立つ。
Figure 0004137121
左辺は、図4より75ps、τpはカタログ値より25psであり、τkは結晶のサイズから20psと見積もられるため、τs=43psとなる。これは、CsBrの文献値(30ps、表1)とほぼ一致することがわかる。
これより、本発明においては、減衰時間の極めて短いシンチレーターを使用することにより高い時間分解能を得ることが出来たことが明らかである。

Claims (4)

  1. シンチレータとしてCsBr結晶を用い、シンチレータからの受光に光電子増倍管を用いた放射線検出装置であって、該光電子増倍管が、シングルフォトンが検出可能な感度と、シングルフォトンに対して30ps以下の半値幅と、10mm以上の受光面積とを有することを特徴とする放射線検出装置。
  2. ガンマ線検出のための請求項1に記載の放射線検出装置。
  3. 前記CsBr結晶が、CsCl型の結晶構造を有し、そのCsとBrの原子比が1:1である請求項1又は2に記載の放射線検出装置。
  4. 前記光電子増倍管が、MCP内蔵光電子増倍管である請求項1〜のいずれか一項に記載の放射線検出装置。
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