JP4131555B2 - 麦芽アルコール飲料の還元力測定方法、製造工程管理方法及びシステム - Google Patents

麦芽アルコール飲料の還元力測定方法、製造工程管理方法及びシステム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、麦芽アルコール飲料の製品の品質をその製品の有する還元力に基いて測定する方法に関する。また、この発明は、この方法を利用して麦芽アルコール飲料の製造工程の管理を行う管理方法及びシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ビールや麦芽を原料とする発泡酒などの麦芽アルコール飲料は、時間の経過、温度の上昇により酸化されて製品の老化が進行する。老化した製品は、麦芽アルコール飲料の本来の味覚、香りを損ない、品質の低下をもたらす。従って、こうした麦芽アルコール飲料製品の品質の低下を防止するために、種々の工夫がなされ、例えば、製造後の品質チェック、製造後販売までの時間的な管理、輸送時の温度管理等が行なわれ、より鮮度が高く、より高品質の製品の提供が図られている。
【0003】
この麦芽アルコール飲料の品質管理のうち、上記製造後の品質チェックの方法としては、従来から官能試験、すなわち、熟練者の味覚、臭覚等により品質をチェックする方法が主要な方法として採用されている。また、この官能試験に加えて生化学的な試験も行なわれることがあり、この方法としては麦芽アルコール飲料が有する還元力を測定する方法が採用されている。麦芽アルコール飲料は本来還元状態のコロイドであり、鮮度の高い製品にはより高い還元力が備わっており、一方、老化が進んだ製品では上記コロイドが酸化されて還元力が低下する。従って、麦芽アルコール飲料の還元力を測定することにより製造された製品の品質を評価することができる。
【0004】
この麦芽アルコール飲料の還元力を測定する具体的方法には、I.T.T.(Indicater time test)法、Chapon法、タンノイド測定法などがある。このITT法は、主としてアミノ−カルボニル反応生成物(例えばメラノイジンなど)の還元力を測定する方法である。一方、Chapon法は、主としてポリフェノールの還元力を測定する方法であり、また、タンノイド測定法は、このポリフェノールのうち、中低分子で還元力の強いポリフェノール群を測定する方法である。こうした還元力及び還元力の強いポリフェノール群を測定する方法を用いて、麦芽アルコール飲料の還元力及び還元力の強いポリフェノール群が測定され、生化学的な側面から品質の管理が行なわれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の通り、麦芽アルコール飲料の還元力の測定方法には種々の方法があり、これらはいずれも異なる物質の還元力を測定するものである。従って、製品の評価をより正確に行うには、これら複数の測定方法を並行に行い、麦芽アルコール飲料の還元力を多面的に評価することが望ましい。
【0006】
しかし、上述したITT法については、現在のところ然程精度の高い方法とはいえない。このITT法は、目視分析法であり、詳細には次の操作により実施する。先ず、ビールなどの麦芽アルコール飲料やその製造工程の麦汁等の試料に0.005M2,6ジクロロフェノールインドフェノールナトリウム溶液(DPI溶液)を一定量添加する。試薬添加により試料は褐色に呈色する。この褐色度が試料の還元力により80%までに退色することを人の視覚により測定し、この退色時間を秒数として測定する。このようにITT法は人の視覚に依存した測定方法であるため、その精度に欠ける点で問題であった。
【0007】
この問題を解決するために、ドイツのフォイファー社ではこの測定を機械的に行える装置を開発し、これとともに測定方法を提供している。この方法は、このフォイファー社の装置、タンノメータ(登録商標)を用いて還元力を測定するもの(以下、MEBAK法と称す)であるが、先ず、試料4mlが入った測定用セルにDPI溶液を100μl添加して、一定時間経過後の退色した色度を機械的に測定する。そして、この機械的に測定された測定値から還元力を精度よく測定することを可能とするものである。
【0008】
しかしながら、フォイファー社の開発した還元力の測定方法は、ドイツビールのように麦芽100%のビールには適しているものの、日本で多く製造販売されている副原料、例えばコーンスターチ等を含むビールや発泡酒などの麦芽アルコール飲料には適さない。すなわち、MEBAK法の基本原理は、アミノ−カルボニル反応生成物の還元力を測定するものであるが、この生成物は主に麦芽に由来するものである。そのため、上記ドイツ産ビールのような麦芽100%のものを対象として開発された上記方法は、副原料を含む麦芽アルコール飲料の場合には、その還元力が低いため、DPI液を添加後一定時間経過しても退色を判定することが困難であり、正確な測定ができないという問題が生じていた。
【0009】
また、この方法は、専ら容器充填後の製品の還元力の測定に用いられ、製造工程の中間試料の還元力の測定にはほとんど用いられていない。これは麦芽の含有量の高い麦芽アルコール飲料の場合であっても、その製造工程のマイシェ(蛋白休止液、第一糖化液、第二糖化液)、麦汁などを試料として測定する場合には、還元力が弱く測定不可能であったり、また麦汁自体が懸濁していたり、色調が異なるなどにより、正確な測定が困難であるためである。
【0010】
そこで、本願発明者らは、この方法を最終製品のみならず製造工程の中間試料の還元力を測定することに応用できれば、より還元力の高い、換言すれば抗酸化力の高い麦芽アルコール飲料の製造という観点から工程管理を行うことができると考え、鋭意研究を進め、上記アミノ−カルボニル反応生成物の還元力を測定する方法(MEBAK法)の改良に成功した。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、副原料の多少に拘わらず、さらには、製造工程のいずれの段階でも精度の高い測定を行えるMEBAK法の改良方法を提供することである。また、本発明は、この改良方法を用いて、製造工程の中間試料及び最終製品の還元力を指標として、より還元力(抗酸化力)の高い、老化し難い麦芽アルコール飲料を製造する製造工程管理方法を提供することをも目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の麦芽アルコール飲料の還元力測定方法は、麦芽アルコール飲料製品又はその製造中間試料の還元力をアミノ−カルボニル反応生成物の還元力に基づき測定する方法であって、麦芽アルコール飲料又はその製造中間試料4mlに対し0.005M2,6−ジクロロフェノールインドフェノールナトリウム溶液(DPI液)を40〜80μlの割合で添加混合し、この混合物の一定時間経過後の退色率に基づき還元力を測定することを特徴とする。
【0013】
上記発明によれば、副原料を全く含まない麦芽100%のものから副原料を80%程度含有する麦芽アルコール飲料まで、精度よく還元力の測定を行うことが可能となる。また、製造工程の中間試料に対しても、還元力を正確に測定することが可能となる。
【0014】
また、本発明の麦芽アルコール飲料の製造工程管理方法は、上記本発明の方法に基づき、麦芽アルコール飲料の製造工程における中間試料の還元力を測定することにより工程管理を行うことを特徴とする。
【0015】
上記発明によれば、上記本発明の還元力測定方法により、製造工程中の試料を採取して、その試料中の還元力を測定することにより、安定した品質の麦芽アルコール飲料を提供することが可能となる。特に、上記本発明の製造工程管理方法を利用して、製造工程中において酸化され易い工程、逆に還元力を高めることができる工程をそれぞれ検出し、これら工程において麦芽アルコール飲料の還元力をより高く維持するように製造工程を管理することにより、麦芽アルコール飲料の抗酸化的製造を実施することが可能となる。
【0016】
また、本発明の麦芽アルコール飲料の製造工程管理システムは、上記本発明の方法に基づき、麦芽アルコール飲料の製造工程における中間試料の還元力を測定することを特徴とする。
【0017】
麦芽アルコール飲料の製造は複数の工程にわたるが、近年では、これらの各製造工程がコンピュータ等により総合的に管理されている。従って、各製造工程又は一部の工程の装置に還元力を測定するための測定部を設け、得られた測定値を演算部で処理し、製造装置の制御値に変換し当該装置に伝送すれば通常の麦芽アルコール飲料の製造工程管理に加えて、還元力の保持という側面から製造工程を監視、制御することが可能となる。このように還元力の保持という側面から製造工程を監視、制御することにより、還元力が高く、老化され難い高品質の麦芽アルコール飲料の製造を自動化することも可能となる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を示す。
【0019】
[改良MEBAK法]
改良MEBAK法は、麦芽アルコール飲料又はその製造中間試料4mlに対し0.005M2,6−ジクロロフェノールインドフェノールナトリウム溶液(DPI液)を40〜80μlの割合で添加混合し、この混合物の一定時間経過後の退色率に基づき還元力を測定する。
【0020】
本測定方法の対象試料は、麦芽アルコール飲料、その製造中間試料である。この麦芽アルコール飲料には、例えば、ビール、麦芽を原料に含む発泡酒等が含まれる。また、これら麦芽アルコール飲料の製造工程は、最終的な味等に応じて若干異なるが、一般的には、蛋白休止、第一糖化、第二糖化、ろ過による麦汁採取、煮沸、冷却等からなる仕込工程、冷麦汁の発酵から貯酒までの発酵・貯酒工程およびろ過・充填工程から構成されている。従って、上記麦芽アルコール飲料の製造中間試料には、蛋白休止中マイシェ、第一糖化液、第二糖化液、ろ過麦汁、煮沸後の麦汁、冷麦汁、発酵液、貯酒液、ろ過液等が含まれる。また、製造工程は一般に製造の開始から製品ができあがるまでをいうが、ここでは原料の選定を含めることができる。したがって、麦芽・ホップを選定する際の麦芽・ホップ抽出液をも上記製造中間試料に含めることができる。
【0021】
還元力を測定するために用いる試薬は、本実施形態では、2,6−ジクロロフェノールインドフェノールナトリウム溶液(DPI液)である。この2,6−ジクロロフェノールインドフェノールナトリウムは、褐色を呈し、還元されることにより退色する。従って、この物質を含む溶液が添加された直後の試料液はこの指標物質により褐色を呈するが、以降、この指標物質が試料の還元力により還元されるにしたがって退色することになる。さらに言えば、このDPI液の添加量が多い程、より強い還元力が存在しなければ退色させることができず、還元力の弱い麦芽アルコール飲料では正確な測定を行うことができない。一方、DPI液の添加量が少ない場合には、試料の還元力により素早く退色することになり、測定時間のずれによる測定値の誤差が生じ易くなる。
【0022】
このように還元力の低い麦芽アルコール飲料でも正確に測定でき、また、測定時間の僅かな差による測定誤差を生じさせないように上記DPI液の添加量を最適化する必要がある。後に詳細に説明するが、試料4mlに対する添加量の最適範囲は、0.005M溶液の場合には40〜80μlである。この添加量からDPIの添加される分子数を換算すると、0.20〜0.40モル数である。従って、ここでは、取り扱いやすい体積量等を考慮して、溶液の濃度を0.005Mとしているが、上記添加される分子数を変更しない範囲で、溶液の濃度を適宜変更して使用することもできる。
【0023】
また、上記添加される分子量の範囲についても試験対象となる麦芽アルコール飲料等によっては変更することもできる。すなわち、上記範囲は麦芽100%を原料とするものから麦芽が20%程度しか含まない麦芽アルコール飲料を対象とした場合の範囲である。仮に原料中に副原料を含むもののみ、例えば、75%麦芽使用率を有する麦芽アルコール飲料を対象とする場合には、例えば、0.005M DPI溶液の添加量を40μl程度まで下げても正確な測定を実施することができ、さらに、麦芽使用率25%程度の麦芽アルコール飲料を対象とする場合には、0.005M DPI溶液の添加量を20μl程度まで下げても還元力を測定することができる。
【0024】
このDPI液を試料に添加する際には、測定容器となる吸光度測定用のセルなどを用いることが望ましい。またこのセルには、予め試料を注入しておき、その後正確に前記DPI液を添加することが好ましい。例えば、試験管内で混合して最終的に測定用セルに移すこともできるが、DPI液添加後は一定時間が経過した時点で正確に測定する必要がある。また、この一定時間は例えば60秒程度と短いため、迅速性が要求される。なお、上記一定時間は、好ましくは60秒間であるが、この時間には限定されず、正確な還元力の測定ができる範囲で短縮延長してもよい。
【0025】
また、より精度の高い測定を行うためには、DPI液を添加する際に、DPI液を測定用セルに付着させることなく添加することが望ましい。従来の方法では、測定用セルの内壁面に沿ってDPI液を添加することになっているが、この従来の方法によれば、後述する通り、測定値にばらつき生じ易いという問題があった。一方、本実施の形態の方法のようにDPI液をセル中の試料に直接添加する場合には、従来のような測定値にばらつきを生じさせることなく正確な測定が行える。
【0026】
混合物の色度に基づく還元力の測定は、一般の吸光度計、タンノメータ等を用いて測定することが好ましい。一般の吸光度計を用いて測定する場合には、(510nm)波長吸収を測定する。測定の際には並行して、陰性の対照、すなわち還元力を有しない試料における測定値を測定し、また、陽性の対照、完全に還元された場合の測定値を測定する。これら陰性の対照の測定値を0%の退色率(還元率)とし、一方、陽性の対照の測定値を100%の退色率(還元率)として、これら対照群の測定値との比較により試料の還元力を退色率(%)として判定する。従って、より退色率が高い試料はより高い還元力を有していると判断することができる。
【0027】
上記方法を単独で利用して麦芽アルコール飲料またはその製造工程の中間試料の還元力を測定してもよいが、上記したChapon法、タンノイド測定法を組合わせることにより、多面的に上記麦芽アルコール飲料等の還元力を測定することが可能となる。
【0028】
[麦芽アルコール飲料の製造工程管理方法]
本実施の形態の麦芽アルコール飲料の製造工程管理方法は、上述したMEBAK改良法に基づき、麦芽アルコール飲料の製造工程における中間試料の還元力を監視することにより製造工程の管理を行う。この方法によれば、製造中間工程の中間試料の還元力を監視することにより、最終的な麦芽アルコール飲料の還元力を高く維持し、酸化され難い麦芽アルコール飲料を製造することが可能となる。
【0029】
上記麦芽アルコール飲料の製造工程には、上述した通り、原料選定、蛋白休止、第一糖化、第二糖化、ろ過による麦汁採取、麦汁の煮沸、冷却等からなる仕込工程、冷麦汁の発酵から貯酒までの発酵・貯酒工程およびろ過・充填工程とが含まれる。従来のMEBAK法では、こうした中間工程の試料中の還元力を正確に測定することは非常に困難であった。しかし、上記改良MEBAK法では、こうした中間工程の物質の還元力を正確に測定することが可能となり、製造工程中の還元力の変化パターンを明らかにすることが可能となった。後に詳述するが、改良MEBAK法において測定された製造工程中の中間試料の還元力の変化パターンは次の通りである。先ず、糖化工程から麦汁ろ過後の煮沸工程にかけて急激に上昇し、煮上がり後一旦その上昇が停止する。この煮上がり後の麦汁を冷麦汁まで冷却する間に再び上昇する。冷麦汁から発酵工程にかけて緩やかに低下し、発酵後貯酒工程ではその還元力が維持される。従って、製造毎に製造工程を通した還元力の経時的な変化を記録しておき、この記録に基づいて製造毎の還元力を監視することにより、製造工程の管理を行うことができる。こうした管理により、最終的に製造される麦芽アルコール飲料の品質、特に老化に対して耐久力のある一定品質の製品を提供することができる。
【0030】
なお、上記の通り中間試料の還元力を指標に、麦芽アルコール飲料の製造工程の管理を行うためには、上記改良MEBAK法のみによって行うこともできるが、Chapon法、タンノイド法と並行に測定することにより、還元力に関し一定の高い品質、すなわち老化に対して高い耐久性を備えた製品を提供することが可能となる。
【0031】
[麦芽アルコール飲料の製造工程管理システム]
上記製造工程の管理方法をシステム化することもできる。すなわち、上記仕込工程、発酵工程、貯酒工程及びろ過・充填工程を実施するための各装置に試料採取するための採取口等を設ける。この仕込工程の装置としては、仕込釜、仕込槽、ロイター、煮沸釜、麦汁冷却器等があり、発酵工程の装置としては、発酵タンク等があり、貯酒工程の装置としては貯酒タンク、ろ過工程の製造としてはろ過機、ろ過溜タンクなどがある。また、採取口は、特別の採取口を設けることもできるが、通常、原料などが注入される注ぎ口等を利用することもできる。
【0032】
上記採取口の外部には還元力を測定するための測定部が設けられている。この測定部では、上記改良MEBAK法の他、Chapon法、タンノイド測定法等に基づく還元力の測定が実施される。ここでの測定は手作業により測定してもよく、また上記種々の還元力測定方法を自動化して測定することもできる。
【0033】
上記測定結果に基づき工程制御を行うこともできる。すなわち、直接もしくは演算処理部を介して測定部に制御部を接続する。この制御部は測定部で測定された測定値、もしくは演算処理部で処理された制御値を受信し、この受信した測定値もしくは制御値に基づき製造工程の制御を行う。この制御部は、例えば麦芽アルコール飲料の製造工程を監視する中央監視室等に設置することができる。
【0034】
こうした製造工程管理システムとしては、仕込工程での攪拌スピードの制御ならびに貯酒終了後のろ過工程での制御などがあげられる。すなわち、仕込工程では糖化工程の促進ならびに仕込釜、仕込槽など各装置内間でのマイシェ(原料と仕込用水との混合物であるもろみ)の移送のために攪拌が行われる。糖化ならびに移送の目的からは攪拌はある程度の速度で行われることが好ましいが、一方後述するように酸化の面からは攪拌速度は低速度であることが好ましい。そこで、各装置もしくは移送配管の途中などに採取口を設け、マイシェの還元力を測定し、この測定値などに基づき攪拌装置の回転数を制御すれば、マイシェ濃度(原料の種類や比率もしくは原料と仕込用水の比率など)が異なる場合でもそれぞれ適切な攪拌制御を実施することができる。
【0035】
また、貯酒終了後のろ過工程においては通常、濁度、炭酸ガス濃度、溶存酸素濃度などの種々の測定が行われており、それらの値が一定の基準範囲を維持するよう各装置はフィードバック制御がなされている。こうした制御の条件に還元力測定値を組み入れれば、還元力が一定値以下の区分の製品への混入を防止することができ、延いては老化に対して耐久力の高い製品を提供することができる。
【0036】
[抗酸化的製造方法]
還元力の高い、老化に対する耐久性の高い麦芽アルコール飲料を製造する。還元性を高く維持するためには、製造工程における還元物質の酸化を防止する。製造工程における酸化防止は、(1)仕込用水の溶存酸素の低減、(2)仕込み工程等における雰囲気中の酸素濃度の低減、(3)仕込み時の過度の攪拌スピードを避けること等により実施することができる。
【0037】
(1)仕込用水の溶存酸素の低減は、仕込用水用の張り湯に溶存酸素の低い水を用いることにより最終的な麦芽アルコール飲料の還元力を向上させることができる。ここで溶存酸素の低い水は、例えば、いかなる原理でもよいが、簡便にはCO2、N2、He等の気体を吹き込むことにより溶存酸素を排除して、脱気することにより調製することができる。また、仕込用水を事前に脱気して溶存酸素を低減させる他、原料である麦芽等を投入する際に空気を巻き込まないようにすることが好ましい。ここで麦芽等の原料の投入の際に空気を巻き込まないようにするためには、例えば、原料の投下位置を張り湯の水面に接近させ、また、投入速度を緩やかにして水面の乱れを抑えた状態で投入すること、あるいは仕込槽下部より導入することにより実施することができる。
【0038】
(2)仕込み工程等における雰囲気中の酸素濃度の低減は、例えば、製造工程において用いる装置の空寸部にCO2やN2等の気体を吹き込むことにより実施することができる。
【0039】
(3)仕込み時の攪拌速度の最適化は、上部空間部分の空気を巻き込まず、かつ、原料が均質に混合される範囲で設定することができる。但し、上記した通り、仕込槽などの装置の空寸部にN2やCO2等の吹き込みを伴なう場合には、ある程度攪拌速度を上げることも可能となる。
【0040】
なお、何れの場合にも各酸化防止策の実施に際しては、上述した改良MEBAK法他の中間試料還元力測定を実施することにより、使用する装置の型式、サイズ等の如何に関わらず運転・操作等の最適条件を規定することができる。
【0041】
【実施例】
[実施例1]改良MEBAK法(DPI試薬の混合方法の改良)
従来のMEBAK法の問題である測定値のばらつきの解消を試みた。このばらつきの原因が試料に添加するDPI液の混合方法にあると考えて、この混合方法を改良した。なお、最終的な測定はタンノメータ(フォイファー社、ドイツ)により行った。また、DPI液の添加量は従来のMEBAK法に従った容量よりも少ない量(70μl)の条件で行った。また、試料としては、原料中に麦芽使用率75%のビールを用いて行った。また、比較のため同時に従来のMEBAK法により測定を実施した。
【0042】
従来のMEBAK法は、図1(B)に示す通り、先ず、測定用セル1に試料2を4ml注入し、タンノメータの測定チャンバー(図示せず)に装着する。その後、セル1の中の試料2の液温を20℃とし、その状態で20秒間保温する。20秒経過した時点で0.005MDPI液3(100μl)をマイクロピペットのチップ4により試料2に注入する。このDPI液3の注入を行う際には、チップ4の先をセル1の内壁面1aに沿わせてDPI液を排出する。DPI液添加から90秒経過後に測定値が表示される。
【0043】
一方、改良法では、図1(A)に示す通り、上記工程中DPI液3の添加の方法を、チップ4の先端を試料1の中に2〜3mm浸漬して注入を行う。この点以外は上記従来の方法と同様に行った。これら従来の方法、改良した方法の2つの方法により、同一試料についてそれぞれ10回測定を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
Figure 0004131555
表1に示す通り、従来法では10回繰り返して測定したところ、同じ試料であるにも拘わらず還元力の最高値が56.0、最低値が34.4と差があり、これを反映してばらつきを示す変動係数(CV値)は11.4と高く、また標準偏差(SD値)についても5.498とかなり高い値であった。一方、改良法では、還元力の最高値が52.7、最低値が50.1であり、従来法に比してそのばらつきは際立って収束し、これに対応してCV値1.549、また標準偏差(SD値)0.794と際立って低減させることができた。この結果、本改良法により、精度の高い測定が可能となることが示された。従って、以下の実施例では、この改良法によりMEBAK法による測定を実施することとした。
【0045】
[実施例2]改良MEBAK法(DPI試薬の添加量の改良)
ここでは、3種の原料中の麦芽使用率の異なるビール、(A)麦芽100%使用、(B)麦芽75%使用、(C)麦芽25%使用の麦芽アルコール飲料を対象に0.005MDPI液添加量の最適化を試みた。なお、DPI液の添加量が異なる点を除いてDPI液の添加方法、添加後測定までの時間等は上記実施例1と同様に操作した。
【0046】
各試料における添加量と還元力の測定値との関係を図2に示す。図2に示す通り、麦芽100%のもの(A)では、DPI液を40μlから80μlまでの添加量の範囲において、添加量と退色率との関係は一定の傾きを有する直線を描くことが示された。一方、DPI液40μl以下では、退色率の変化はプラトーに達し、これ以下では90秒間の反応時間で完全に退色し、正確な測定ができないことが示された。
【0047】
麦芽75%のもの(B)では、DPI液20μlから100μlの範囲でほぼ直線関係を示して退色することが示された。また、麦芽25%のもの(C)では、DPI液30μから80μlの範囲でほぼ直線関係を示して退色することが示された。
【0048】
これら結果より、DPI液40μl〜80μl、さらに好適には50〜70μlのDPI添加量において、麦芽使用率25%〜100%の麦芽アルコール飲料の還元力を測定することができることが示された。この結果より、以下の実施例では、DPI液の添加量を70μlとして改良MEBAK法を実施した。
【0049】
[実施例3] 改良MEBAK法による仕込工程の中間試料の還元力の測定
上記改良MEBAK法により仕込工程の中間試料の還元力を測定した。この測定は、時間と場所とを異ならせて4回の実験を行った。中間試料としては、麦芽75%のビールの製造中間試料、具体的には、(1)第一糖化(糖化開始5分後液、(2)第二糖化液、(3)第一麦汁、(4)煮沸5分後の麦汁、(5)煮沸45分後の麦汁、(6)煮上り麦汁、(7)冷麦汁を用いた。これら中間試料の還元力の測定結果を図3(B)に示した。なお、図3(A)には、仕込工程のダイアグラムを示し、矢印は採取した各試料の位置を示す。
【0050】
図3(B)に示すように、異なる環境下における4回の実験では中間試料の還元力は、若干の高低はあるがほぼ一定のパターンを描いて推移することが示された。このことから、製造工程の中間試料についても改良MEBAK法によれば、正確に測定することができることが示された。
【0051】
また、煮上がり麦汁から冷麦汁にかけて還元力が上昇することが示されているが、これは麦汁煮沸後、冷却工程の間のワールプール滞留中にアミノ−カルボニル反応が進み、その結果、還元力が上昇したものと考えられる。
【0052】
このように製造工程の中間試料の還元力を改良MEBAK法により正確に測定することが可能となったことから、この改良MEBAK法、Chapon法、タンノイド測定法等により製造工程の中間試料の還元力を測定監視しながら、還元力の高い麦芽アルコール飲料の抗酸化的製造方法の開発を試みた。
【0053】
[実施例4] 抗酸化的製造方法:製造工程におけるCO2の吹込みによる影響仕込工程において、仕込釜、仕込槽などの空寸部にCO2を吹き込んだ場合に麦芽アルコール飲料の還元力が向上するか否かを試験した。具体的には、2回の試験とも400Lスケールで麦芽アルコール飲料を製造した。この製造工程において、仕込釜、仕込槽、ロイター、煮沸釜、ワールプールなどの空寸部へCO2を連続的に吹き込み、各装置内の上部空間部分(ヘッドスペース)中の空気をCO2に置換し、酸素濃度が1%以下になるようにCO2の流速を調整した。上記実施例3と同様に、中間試料として、第一糖化(糖化開始5分後)液、第二糖化液、第一麦汁、煮沸5分後の麦汁、煮沸45分後の麦汁、煮上り麦汁、冷麦汁を採取して、改良MEBAK法、Chapon法、タンノイド測定法により各試料の還元力を並行して測定した。
【0054】
なお、改良MEBAK法は、DPI液を70μlとして上記実施例1と同様に行った。Chapon法は測定セルに溶液B(α,α’−ジピリジル(Merck 3098)50mgに45mlの水と0.1N硫酸4mlを加え溶解後50mlとする)3.9mlとスターラーバーを入れ、測定チャンバーに装着し上蓋を閉じる。試料の温度が25℃になったら、溶液A(硫酸第二鉄アンモニウム・12水塩(Merck 3776)150mgに蒸留水5mlと濃硫酸0.2mlを加え溶解後50mlにする)0.1ml加え、2分後試料50μlをすばやく注入する。測定結果は3分後に読み取る。
【0055】
タンノイド測定法は、20ml容ガラス製注射器に0.04%ポリビニルピロリドン(PVP)溶液を入れ、気泡を排除した後、タンノメーターの試薬注入装置にセットする。測定セルに試料4mlとスターラーバーを入れ、測定チャンバーに装着し上蓋を閉じる。タンノメーターのキーボードで測定項目及び試料のタイプを選択する。注射器チューブ先端の針を上蓋の穴から測定チャンバー内に挿入する。STARTキーを押すと温度コントロール装置が働き、試料液の温度が25℃になると同時にPVP溶液の注入が開始される。ピークまでのPVP注入量を自動定量する。測定時間は20分とする。
【0056】
図4に改良MEBAK法による測定結果を示す。図4において、破線は従来の製造方法における各工程の中間試料の還元力を示し、実線はCO2の吹き込みを行った製造方法における各中間試料の還元力を示す。
【0057】
図4に示す通り、2回の試醸を通して製造工程においてCO2の吹き込みを行うことにより各製造工程の中間試料の還元力を上昇させることができた。また、CO2を吹き込んだ場合には、最終的に製造されたビールにMEBAKの値として10%を越える高い還元力を与えることができることが示された。
【0058】
一方、図5にはChapon法による還元力の測定結果を示す。図5においても上記図4と同様に従来の製造方法を破線で、CO2の吹き込みを行った製造方法を実線で示した。この図5に示すように Chapon法においても、上記改良MEBAK法による測定結果と同様にCO2を吹き込むことにより、還元力が高まることが示された。しかし、その効果は改良MEBAK法による測定結果ほど向上させることはできなかった。
【0059】
図6に、タンノイド測定法による還元力の測定結果を示す。破線、実線は、上記図4、5と同様である。図6において示す通り、タンノイド測定法による結果からも製造中にCO2を吹き込むことにより還元力を高めることができることが示された。しかし、タンノイド測定法においても、その効果は改良MEBAK法による測定結果ほど向上させることはできなかった。
【0060】
以上の結果より、製造工程の各装置の空寸部にCO2を吹き込み、酸素濃度を1%以下にすることにより、各工程の中間試料の還元力を高めることができ、特に改良MEBAK法により測定される還元力を顕著に上昇させることができた。このことから、CO2の吹き込みによりアミノ−カルボニル反応生成物やポリフェノールに由来する還元力を高めることができることが明らかになった。従って、製造工程の各装置にCO2を吹き込むことにより麦芽アルコール飲料の抗酸化的製造方法を実施することができる。
【0061】
なお、本実施例では、仕込の全工程にわたってCO2の吹き込みを行ったが、CO2の吹き込みを仕込工程の一部において実施してもよい。すなわち、上記各測定結果によれば、煮沸45分後から煮上がりまでの間は従来の製造方法と比べCO2の吹き込みの効果は高くない。
【0062】
[実施例5] 抗酸化的製造方法:仕込用水の溶存酸素の低減の効果
次いで仕込用水の酸素濃度を低下させることにより麦芽アルコール飲料の還元力の向上が図れるかを試験した。ここでは、6種の用水を準備した。これらは、酸素飽和水、水道水、N2脱気水、CO2脱気水、2種のHe脱気水である。酸素飽和水は、水道水に空気を吹き込み、溶存酸素を高めた。N2脱気水は、水道水にN2を200ml/分で6分間吹き込んで生成した。CO2脱気水は、水道水にCO2を200ml/分で15分間吹き込んで生成した。2種のHe脱気水は、Heを200ml/分で5分間吹き込んだもの(以下、He5脱気水という)、Heを200ml/分で15分間吹き込んだもの(以下、He15脱気水という)を準備した。これら6種の用水を張り湯(仕込槽、仕込釜に予め注入され、後に麦芽等の原料が投入される湯をいう)として用い、蛋白休止時間の経過と溶存酸素(DO)との関係、及び蛋白休止時間20分経過後の還元力を改良MEBAK法により測定した。この結果を図7、8、表2に示す。なお、He15脱気水については、蛋白休止工程の間も仕込槽内へのHeの吹き込みを行った。
【0063】
【表2】
Figure 0004131555
表2に示す通り、準備した各試験水の溶存酸素はHe15脱気水が0.8ppmと最も低く、次いで、He5脱気水とN2脱気水が1ppm、CO2脱気水が1.2ppm、水道水が4.5ppm、飽和水が5.5ppmであった。ここで準備された試験水を仕込槽に注ぎ入れ、麦芽を投入して蛋白休止工程を実施した(図3(A)参照)。この蛋白休止工程における経時的な溶存酸素の変化を図7に示す。図7において、0分の時点はまだ麦芽を投入する前の張り湯のみの溶存酸素を示し、1分経過後の溶存酸素は麦芽投入後の値を示す。
【0064】
図7に示されている通り、当初溶存酸素の高い酸素飽和水、水道水も蛋白休止時間10分経過後は他の脱気水と同等の値1ppm程度まで低減していた。一方、脱気水については、麦芽投入により一次的に溶存酸素が上昇した。これは麦芽投入時に持ち込まれたものと考えられる。その後、この一時的に上昇した溶存酸素は蛋白休止時間経過とともに低下し、最終的には、測定開始時の溶存酸素に大きな開きがあったにも拘わらず、全ての試験水はほぼ同等の溶存酸素濃度、1ppm前後に収束した。
【0065】
蛋白休止時間20分経過後の各試料を用いて、改良MEBAK法により還元力を測定した。この測定結果を図8に示す。図8に示す通り、脱気水を用いた群において、有意に高い還元力が示された。この還元力の高さは、脱気水調製時の溶存酸素の値とほぼ反比例の関係にあることが明らかになった。このことは、当初溶存している酸素が、蛋白休止時間に還元物質等を酸化して溶存酸素が消費されて低下し、これに対応して試料の還元力も低下するという結果がもたらされていることが予想される。
【0066】
但し、図8においてN2脱気水については、CO2脱気水よりも調製時の溶存酸素は低い値を有していたが、還元力についてはこの関係が逆転し、CO2脱気水を用いた蛋白休止工程の試料はN2脱気水のものに比べより還元力が高いことが示された。このことからCO2脱気水は他の脱気水に比べ還元力の向上に効果的である可能性が示された。
【0067】
また、脱気水を用いる場合には、原料投入時の空気の巻き込みによる溶存酸素の上昇を防ぐことがより効果的である。従って、原料を投入する際には、原料投入位置を液面に接近させることが望ましい。
【0068】
[実施例6] 抗酸化的製造方法:仕込槽内での糖化工程における攪拌速度の適正化
(1)還元力の測定
上述までの種々の試験から製造工程中の酸素の存在が試料が有する還元力に大きな影響を与えることが示された。そこで、本実施例では、先ず製造工程中の酸素の取り込みを抑制するために、仕込槽における原料等と仕込用水とを混合する際の攪拌速度の適正化を還元力を指標に試みた。
【0069】
仕込槽の攪拌速度を0〜600rpmの範囲で5段階に変化させて、仕込槽内で原料等と仕込用水とを混合し、糖化工程を実施した。具体的には、0、72、154、300、600rpmの5段階の速度とした。これら各速度条件で調製された製造中間試料の還元力を改良MEBAK法、Chapon法、タンノイド測定法により測定した。なお、これら各測定法の測定操作は上述した操作を同様の条件で行った。
【0070】
図9に改良MEBAK法により測定した還元力を示す。図9(A)に示す通り、最も速い速度条件、600rpmでは糖化から煮沸工程までは他の速度条件よりも還元力は低いが、煮上り麦汁及び冷麦汁では他の条件と同等の還元力まで上昇した。従って、図9(B)に示す冷麦汁の還元力を観る限りでは、仕込槽内での攪拌速度はMEBAK法で測定できる還元物質における還元力の向上には効果的でないことが示された。
【0071】
しかし、図10、11に示すChapon法、タンノイド測定法により測定された結果では、攪拌速度は、還元物質の還元力に大きな影響を与えることが示された。すなわち、図10にはChapon法による測定結果を示すが、糖化工程から冷麦汁が生成されるまでの間の還元力0〜300rpmまでの範囲ではほぼ同様の経時的な変化を示したが、600rpmまで攪拌速度を上昇させると明らかに他の速度条件よりも還元力が低下した。また、図10(B)に示す冷麦汁の還元力では、72rpmが最も高い値を示し、攪拌速度を上昇させると還元力が低減することが示された。特に、600rpmの回転数では、300rpmの回転数で空気を吹き込み酸化を促進させた条件下で製造した場合よりも低い還元力であることが示された。
【0072】
また、図11には、タンノイド測定法による測定結果を示すが、この結果ではChapon法よりも攪拌速度の重要性が高いことが示された。図11(A)に示す通り、製造工程全体にわたり攪拌速度を上昇させるほど還元力が強いといわれるタンノイドの濃度が減少する傾向にあることが示された。また、図11(B)に示す通り、冷麦汁におけるタンノイドの濃度は回転速度72rpmのときに最も高く、この値は300rpmの回転数で窒素ガスを吹き込みながら製造した場合とほぼ同等の値であった。また、回転速度を上昇させるにつれて、タンノイドが減少し、600rpmの回転速度とした場合には72rpmの場合の約半分の値にまで減少した。
【0073】
(2)ラジカル消去能
ラジカル消去能(TRAP)は、製造工程中に発生する活性酸素等のラジカルを捕捉してラジカルの伝播反応を阻害する活性であり、この活性は還元物質の有する還元力と同様に抗酸化的製造方法の重要な指標となる。従って、ラジカル消去能を指標に攪拌速度の適正化を試みた。ラジカル消去能は次の方法で測定した。
【0074】
アゾ化合物2,2-azobis(2-amidinopropane)dihydrochloride(AAPH)を45℃で熱分解し、一定量のラジカルを発生させる。これにビールを添加し、発生したラジカルを消去させる。(ABTS 2 アンモニウム塩)の吸光度(波長734nm)の減少により、ビール添加によるラジカルの減少を定量し、ビールのラジカル消去能とした。なお、最終的な測定結果は、アスコルビン酸を含有していた場合に得られるラジカル消去能として表した。
【0075】
図12(A)に示す通り、回転数が上昇するにつれて、糖化工程から冷麦汁までの製造工程における中間試料のラジカル消去能は低下する傾向にあることが示された。この値は、上記Chapon法やタンノイド測定法で示された還元力の測定結果とほぼ一致した結果であった。最終的な冷麦汁のラジカル消去能では、図12(B)に示す通り、72rpmのときに最も高く、154rpm、300rpmまで上昇するに従ってラジカル消去能は低下し、600rpmまで上昇すると72rpmのときの半分以下に減少した。このことから、攪拌速度の低減、例えば72rpmまで低下させることにより、試料中のラジカル消去能を高く維持し、酸化を防止することができることが示された。
【0076】
(3)糖化後のろ過時間
また、この攪拌速度を高くすることは、マイシェ(もろみ)の酸化によるゲル蛋白の発生、及び麦芽などの破砕等により、糖化後マイシェと麦汁とを分離するろ過工程に大きな影響を与えることも明らかになった。すなわち、上記の通り0〜600rpmの範囲で攪拌を行いながら糖化工程を実施し、糖化工程後の試料のろ過を行ったところ、ろ過速度に違いが観られた。このろ過速度を測定した結果を図13に示す。なお、ここでは3Lスケールで麦芽アルコール飲料を製造した際のろ過時間を示す。
【0077】
図13に示す通り、600rpmの攪拌速度で調製した試料では、72rpm、154rpmの攪拌速度で調製した試料よりもおよそ3倍のろ過時間を要することが示された。これは、600rpmの攪拌速度で調製した試料が、72rpm、154rpmの攪拌速度で調製した試料よりも空気に晒される可能性が高く、酸化され易いことが考えられる。従って、攪拌速度を低く維持することは、ろ過時間の短縮化から仕込工程全体の短縮化を通し生産性の向上に寄与するのみならず、ろ過時の酸化を抑制することにより、香味耐久性向上にも貢献することが示された。
【0078】
[実施例7] 抗酸化的製造方法:仕込槽内での蛋白休止工程における攪拌速度の適正化
上記糖化工程において攪拌速度を変化させた場合、Chapon法、タンノイド測定法などによる還元力の測定結果には大きな影響を与えることが示されたが、改良MEBAK法の測定結果にはほとんど影響がないことが示された。この改良MEBAK法は、主として麦芽に由来する還元物資及び煮沸工程におけるアミノ−カルボニル反応生成物の還元力を測定することから、麦芽と仕込用水との混合及び蛋白休止工程における攪拌速度が改良MEBAK法により測定される還元力に影響を与えるか否かを調べた。この試験では、仕込槽に張り湯をし、0〜600rpmの範囲の5段階のそれぞれ攪拌速度で攪拌を行いながら、麦芽を投入し混合する。混合後、継続して一定回転数で攪拌を行いながら蛋白休止工程を25分間経過した時点で試料を採取して、改良MEBAK法により還元力を測定した。その結果を図14に示す。
【0079】
図14に示す通り、攪拌速度の上昇は、蛋白休止25分後の試料の改良MEBAK法により測定される還元力に大きな影響を与えることが示された。すなわち、72rpmの条件において、もっとも高い還元力を示し、154rpmに上昇させると僅かにその値が減少し、300rpm、600rpmに上昇させるに連れて、大幅に還元力が低下した。600rpmの条件に至っては、300rpmで酸素を吹き込み強制的に酸化させた場合と同等まで還元力が低下することが示された。
【0080】
このことから麦芽と仕込用水との混合及び蛋白休止工程における攪拌速度は、改良MEBAK法により測定される還元力の向上に重要であることが示された。例えばこの攪拌速度を麦芽と仕込用水とを混合させるのに必要な最低限の速度、72rpm程度まで低減させることにより抗酸化的な製造を実施することができることが示された。以上の試験結果より、各工場各設備により型式、容量、攪拌翼形状等の異なる仕込槽等の装置における攪拌速度も改良MEBAK法、Chapon法、タンノイド測定法及びラジカル消去能の各還元力測定法の全てもしくは任意の組み合わせを用いることによりその最適条件を設定することができることが示された。
【0081】
【発明の効果】
以上の通り、本発明の麦芽アルコール飲料の還元力測定方法によれば、麦芽アルコール飲料製品又はその製造中間試料の還元力をアミノ−カルボニル反応生成物の還元力に基づき測定することが可能となった。このことにより、製造中間試料のアミノ−カルボニル反応生成物に基づく還元力を指標として、製造工程を管理し監視・制御することができ、これによって、還元力の高い麦芽アルコール飲料の製造を図ることが可能となり、更にまた、上記測定方法により、麦芽アルコール飲料の製造方法を抗酸化的に改良することも可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 DPI液の測定セルの試料中への添加、混合方法を示し、(A)が改良方法、(B)が従来の方法を示す図である。
【図2】 麦芽使用量の異なる試料におけるDPI液添加量と還元力(改良MEBAK法による退色率の測定値)との関係を示すグラフである。
【図3】 仕込工程における測定個所(A)と改良MEBAK法により製造工程の中間試料の還元力(退色率)の推移(B)を示すグラフである。
【図4】 製造工程中装置内へCO2を吹き込んだ場合の製造工程の中間試料の還元力を改良MEBAK法により測定した結果を示すグラフである。
【図5】 製造工程中装置内へCO2を吹き込んだ場合の製造工程の中間試料の還元力をChapon法により測定した結果を示すグラフである。
【図6】 製造工程中装置内へCO2を吹き込んだ場合の製造工程の中間試料の還元力をタンノイド測定法により測定した結果を示すグラフである。
【図7】 仕込用水として各種脱気水を用い、蛋白休止工程における試料中の溶存酸素(DO)の推移を示すグラフである。
【図8】 仕込用水として各種脱気水を用いた際の蛋白休止時間20分経過時点の試料における還元力(改良MEBAK法により測定された退色率)を示すグラフである。
【図9】 仕込工程における仕込槽中の攪拌速度と改良MEBAK法により測定される製造中間試料(A)及び冷麦汁(B)の還元力との関係を示すグラフである。
【図10】 仕込工程における仕込槽中の攪拌速度とChapon法により測定される製造中間試料(A)及び冷麦汁(B)の還元力との関係を示すグラフである。
【図11】 仕込工程における仕込槽中の攪拌速度と製造中間試料(A)及び冷麦汁(B)のタンノイド濃度との関係を示すグラフである。
【図12】 原料の混合、糖化工程における仕込槽中の攪拌速度と製造中間試料(A)及び冷麦汁(B)のラジカル消去能の消長との関係を示すグラフである。
【図13】 仕込工程における仕込槽中の攪拌速度とマイシェをろ過する際のろ過速度との関係を示すグラフである。
【図14】 蛋白休止工程における仕込槽中の攪拌速度と改良MEBAK法により測定される還元力との関係を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 麦芽アルコール飲料製品又はその製造工程中間試料中の還元力をアミノ−カルボニル反応生成物の還元力に基づき測定する方法であって、
    その製造工程における試料又は製品4mlに対し0.005M2,6−ジクロロフェノールインドフェノールナトリウム溶液を40〜80μlの割合で添加混合し、この混合物の一定時間経過後の退色率に基づき還元力を測定することを特徴とする麦芽アルコール飲料の還元力測定方法。
  2. 請求項1に記載の方法に基づき、麦芽アルコール飲料の製造工程における試料又は製品の還元力を測定監視することにより製造工程の管理を行うことを特徴とする麦芽アルコール飲料の製造工程管理方法。
  3. 麦芽アルコール飲料の抗酸化的製造を行うために使用することを特徴とする請求項2に記載の麦芽アルコール飲料の製造工程管理方法。
  4. 請求項1に記載の方法に基づき、麦芽アルコール飲料の製造工程における試料又は製品の還元力を測定する測定部を備え、
    前記測定部における測定値を監視することにより製造工程の管理又は制御を実行することを特徴とする麦芽アルコール飲料の製造工程管理システム。
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