JP4131074B2 - ルテニウム化合物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ルテニウム化合物(ジクロロルテニウム錯体)の製造方法に関し、より詳しくは、脂環式オレフィン類のメタセシス重合触媒として有用な、ヘテロ原子含有カルベン化合物がルテニウムに配位したジクロロベンジリデンルテニウム錯体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ルテニウムに配位子として中性電子供与体やヘテロ原子含有カルベン化合物が配位したルテニウム錯体が数多く知られている。また、これらのルテニウム錯体が開環メタセシス重合触媒として有用であることも知られている。
【0003】
例えば、グラブスらは、トリストリフェニルホスフィンルテニウムジクロライドを原料として、これにフェニルジアゾメタンを反応させてビストリフェニルホスフィンベンジリデンルテニウムジクロライドとしたのち、さらにトリフェニルホスフィンとトリシクロヘキシルホスフィンの配位子交換反応により、ビストリシクロヘキシルホスフィンベンジリデンルテニウムジクロライド(いわゆる「グラブス触媒」)を製造し、このものが開環メタセシス重合触媒活性を示すことを報告している(J.Am.Chem.Soc.,118,100(1996)参照。)。
【0004】
しかし、この製造方法においては、▲1▼ベンジリデン基を導入するために用いるフェニルジアゾメタンが不安定であるため、使用直前に調製して低温で反応させねばならないこと、また、▲2▼中間体の調製時に多量の酸化水銀を用いることから、製造コスト上の問題のみならず、廃棄物処理上の問題点が指摘されている。
【0005】
そこで、最近、グラブス触媒の製造方法として、(1,5−シクロオクタジエン)ルテニウムジクロライドを原料とし、水素雰囲気下でトリシクロヘキシルホスフィンを反応させ、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジヒドリドとし、これにフェニルジクロロメタンを反応させる方法が提案されている(WO98/21214号公報参照。)。
【0006】
また、(1,5−シクロオクタジエン)ルテニウムジクロライドを原料として、これに塩基を作用させて錯塩とした後、アセチレン類を反応させてアレン型カルベン錯体を得て、さらに、このものに大過剰のスチレンを反応させて、目的とするグラブス触媒を得る製造方法も報告されている(EP.0838821号公報参照)。
【0007】
一方、ヘルマンらにより報告された配位子としてヘテロ原子含有カルベン化合物を含有するルテニウム錯体(いわゆる「ヘルマン触媒」)も、高い開環メタセシス重合触媒活性を示すことから注目されている。
【0008】
このヘルマン触媒、すなわちビス(1,3−ジアルキル−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライドは、前記グラブス触媒を原料として、トリシクロヘキシルホスフィンと1,3−ジアルキルイミダゾールカルベンとの配位子交換反応により製造されている(Angew.Chem.Int.Egl.,35,2805(1996)参照。)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、ルテニウムに配位子として中性電子供与体やヘテロ原子含有カルベン化合物が配位したルテニウム錯体は、開環メタシス重合触媒として注目されているものの、このものを工業的な意味で十分満足のいく製造方法は確立されていないのが実状である。
【0010】
とりわけ、グラブス触媒を経由する製造方法しか知られていないヘルマン触媒については、原料となるグラブス触媒自体の調製が容易でないこと、および高価なトリシクロヘキシルホスフィン基を脱離基として用いる必要があることから、その製造上の問題があった。
【0011】
そこで、本発明は上記のような従来技術の問題点に鑑み、グラブス触媒を出発原料として用いることなく、ビス(1,3−ジ置換−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジ置換イミダゾリジン−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、およびこれらの類縁体(以下、これらを総称して「ヘルマン型触媒」ということがある。)を、工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく、比較的安価な脱離基を有するルテニウム錯体を出発原料として用いるヘルマン型触媒の製造方法を鋭意検討した結果、目的物を高収率でしかも安価に得られる製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、第1に、式(2)で表される表されるルテニウム化合物と、式(3)で表される化合物とをメタセシス反応させる工程を有する、式(1)で表されるルテニウム化合物の製造方法を提供する。
【0014】
前記第1の発明においては、式(2)で表されるルテニウム化合物と、式(3)で表される化合物とをメタセシス反応させる工程の前に、式(4)で表されるルテニウム化合物に、1,3−ジ置換イミダゾールカルベンまたは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンを反応させることにより、式(2)で表されるルテニウム化合物を得る工程を有するのが好ましい。
【0015】
本発明は、第2に、 式(5)で表されるルテニウム化合物に、1,3−ジ置換イミダゾールカルベンまたは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンを反応させる工程を有する、式(1)で表されるルテニウム化合物の製造方法を提供する。
【0016】
前記第2の発明においては、式(5)で表されるルテニウム化合物に、1,3−ジ置換イミダゾールカルベンまたは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンを反応させる工程の前に、 式(4)で表される化合物と式(3)で表される化合物とをメタセシス反応させることにより、 式(5)で表されるルテニウム化合物を得る工程を有するのが好ましい。
【0017】
本発明によれば、従来法に比べ、目的とするヘルマン型触媒を高収率、かつ安価に製造することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
式(1)で表されるルテニウム化合物は、次の(A)および(B)の2通りの方法により製造することができる。
1)製造方法(A)
【0019】
【化11】
【0020】
(a) 式(4)で表される化合物→式(2)で表される化合物への反応
この反応は、 式(4)で表されるルテニウム化合物に、1,3−ジ置換イミダゾールカルベンまたは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンを反応させて、式(2)で表される化合物を得るものである。
【0021】
製造方法(a)においては、 式(4)で表される化合物を出発原料として用いる。 式(4)において、R1としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素数1〜12のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの炭素数5〜22の置換基を有していてもよいシクロアルキル基、および、フェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、1−アントラニル基、2−アントラニル基、9−アントラニル基などの炭素数6〜22の置換基を有してもよい芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0022】
前記シクロアルキル基および芳香族基の置換基としては、例えば、ニトロ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などのアルコキシ基などが挙げられる。また、前記シクロアルキル基および芳香族基は、一または同一もしくは相異なる複数の置換基を任意の位置に有していてもよい。
【0023】
式(4)で表される化合物は公知物質であり、例えば、Chem.Lett.,p67(1998)に記載された方法によって製造、入手することができる。
【0024】
式(4)で表されるルテニウム化合物と反応させる1,3−ジ置換イミダゾールカルベンまたは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンは、それぞれ1,3−ジ置換−4−イミダゾール−2−イリデン基、1,3−ジ置換イミダゾリジン−2−イリデン基としてルテニウムに配位する。
【0025】
これらのカルベンの窒素原子(1,3位)に結合する置換基としては、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐のアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基などが挙げられる。これらの置換基は、同一でも相異なっていてもよいが、製造容易性、製造コストなどの観点から、1,3−位の置換基は同一であるのが好ましい。
【0026】
前記炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基などを挙げることができる。
【0027】
アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、α−メチルベンジル基などの炭素数7〜20のアラルキル基を挙げることができる。
【0028】
前記シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
【0029】
前記炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、1−アントラニル基、2−アントラニル基、9−アントラニル基などが挙げられる。
【0030】
また、前記シクロアルキル基、アラルキル基および芳香族炭化水素基の置換基としては、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子、メチル基、エチル基などの低級アルキル基などが挙げられる。これらは、同一又は相異なって複数個置換されていてもよい。
【0031】
これらのカルベンの窒素原子に結合する置換基のうち、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,6−ジイソプロピル−4−メチルフェニル基が好ましい。
【0032】
前記イミダゾールカルベンの具体例としては、1,3−ジメチル−4−イミダゾール−2−イリデン、1−エチル−3−メチル−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジエチル−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジメチル−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジシクロペンチル−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(2,4,6−トリメチルフェニル)−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(2、6−ジイソプロピル−4−メチルフェニル)−4−イミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0033】
イミダゾリジンカルベンの具体例としては、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イリデン、1−エチル−3−メチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジエチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジプロピルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロペンチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(2,6−ジイソプロピル−4−メチルフェニル)イミダゾリジン−2−イリデンなどが挙げられる。
【0034】
本発明においては、これらのうち、1,3−ジエチル−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(2,4,6−トリメチルフェニル)−4−イミダゾール−2−イリデン、1,3−ジエチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリジン−2−イリデンが好ましい。
【0035】
1,3−ジ置換イミダゾールカルベンあるいは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンは、対応する1,3−ジ置換イミダゾールの塩または1,3−ジ置換イミダゾリジンの塩に塩基を作用させることにより調製することができる。例えば、イミダジリウム塩またはイミダゾリジニウム塩のアンモニア溶媒中に水素化ナトリウムなどを作用させる方法やカリウム t−ブトキシドを触媒として水素化ナトリウムを作用させる方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのカルベンは、単離することが困難であるので、通常、溶液状態で保存し、そのまま反応に用いる。
【0036】
1,3−ジ置換イミダゾールの塩および1,3−ジ置換イミダゾリジンの塩としては、これらの塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、テトラフルオロホウ酸塩などが挙げられる。
【0037】
これらの塩は公知の方法で製造することができる。また、イミダゾールまたはイミダゾリジンの塩を単離したのち、過塩素酸、四フッ化ホウ酸などを用いる塩交換反応により製造することもできる。
【0038】
式(4)で表されるルテニウム化合物と1,3−ジ置換イミダゾールカルベンまたは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンとの反応に用いられる溶媒としては、反応物と反応しないものであれば任意に選択できる。例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素類などが挙げられる。
【0039】
用いる1,3−ジ置換イミダゾールカルベンまたは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンの使用量は、交換される配位子と当量であれば十分である。過剰に用いても問題ないが、経済的観点から判断すれば、その使用量は、好ましくはルテニウムに対し2〜4当量、より好ましくは2〜2.5当量である。
【0040】
この反応は、通常は−20〜60℃、好ましくは0〜50℃で円滑に進行する。反応時間は、通常10分〜10時間である。
【0041】
(b)式(2)で表される化合物→式(1)で表される化合物への反応
次いで、得られた式(2)で表される化合物に、式(3)で表されるスチレン類を反応させることにより、式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0042】
式(3)において、置換基R2としては、ニトロ基、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子、メチル基、エチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などの低級アルコキシ基などが挙げられる。また、nは、0または1〜5の整数を表し、nが2以上を表すとき、R2は同一でも相異なっていてもよい。
【0043】
式(3)で表されるスチレン類の具体例としては、例えば、スチレン、4−クロロスチレン、4−メチルスチレン、3−メチルスチレン、3,5−ジメトキシスチレン、3−ニトロスチレンなどが挙げられる。本発明においては、これらのうち、スチレンを用いるのが入手容易性および製造コストの観点から好ましい。
【0044】
反応に用いられるスチレン類の量は、交換される配位子(ビニリデンカルベン)とメタセシス反応できれば良く、特に制限されるものではないが、生成物の収率を向上させるためには大過剰に加えることが好ましい。
【0045】
この反応に用いられる溶媒としては、反応物と反応しないものであれば任意に選択できるが、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、ジエチルエーテル、THF、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素類などが挙げられる。
【0046】
この反応の温度は、配位子の交換反応が進行する温度であれば特に制限されるものではないが、通常、−20〜60℃、好ましくは0〜50℃である。また、反応時間は、通常10分〜10時間程度である。
2)製造方法(B)
【0047】
【化12】
【0048】
(a)式(4)で表される化合物→式(5)で表される化合物への反応
この反応は、 式(4)で表される化合物に、式(3)で表されるスチレン類をメタセシス反応させることにより、式(5)で表される中間体を得るものである。
【0049】
この反応に用いることのできる溶媒としては、反応物と反応しないものであれば任意に選択できるが、好ましくは、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、ジエチルエーテル、THF、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素類などが挙げられる。
【0050】
式(3)で表されるスチレン類としては、前記製造方法(A)で例示したものと同様なものが挙げられるが、入手容易性および製造コストの観点からスチレンを用いるのが好ましい。
【0051】
式(3)で表されるスチレン類の使用量は、(置換)ビニリデンカルベンとメタセシス反応により交換されれば良く、特に制限されるものではないが、生成物の収率を向上させるためには、大過剰、好ましくは式(4)で表される化合物1モルに対し、5モル当量以上加えることが好ましい。
【0052】
反応温度は、通常、−20〜60℃、好ましくは0〜50℃である。反応は、通常10分〜10時間程度である。
【0053】
(b) 式(5)で表される化合物→式(1)で表される化合物への反応
次いで、得られた 式(5)で表される化合物に、1,3−ジ置換イミダゾールカルベンまたは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンを反応させることにより、式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0054】
この反応に用いるられる溶媒としては、反応物と反応しないものであれば任意に選択できるが、例えば、ジエチルエーテル、THF、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類、ベンゼン、トルエンキシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素類などが挙げられる。
【0055】
また、用いられる1,3−ジ置換イミダゾールカルベンまたは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンは、対応する1,3−ジ置換イミダゾールの塩または1,3−ジ置換イミダゾリジンの塩から、前記(A)の方法の場合と同様にして調製することができる。
【0056】
この反応に用いる1,3−ジ置換イミダゾールカルベンまたは1,3−ジ置換イミダゾリジンカルベンの使用量は、交換される配位子と当量であれば十分である。過剰に用いても問題ないが、経済的観点から判断すべきであり、好ましくは式(5)で表される化合物1モルに対し2〜4当量、より好ましくは2〜2.5当量である。
【0057】
反応の温度は、配位子の交換反応が進行する温度であれば特に制限されるものではないが、通常−20〜60℃、好ましくは0〜50℃である。また、反応は、通常10分〜10時間で完結する。
【0058】
3)式(1)で表される化合物
本発明の目的物である前記式(1)で表されるルテニウム化合物は、配位子として、塩素、置換基を有する(イミダゾールカルベンまたはイミダゾリジンカルベン)、および置換基R2を有していてもよいベンジリデン基を有している。
【0059】
式(1)において、イミダゾールカルベン、イミダゾリジンカルベンの置換基およびR2としては、それぞれ前述したものと同様なものが挙げられる。
【0060】
式(1)で表されるルテニウム化合物の具体例としては、ビス(1,3−ジメチル−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジエチル−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジシクロペンチル−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジエチル−4−イミダゾール−2−イリデン)(4−クロロベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジエチル−4−イミダゾール−2−イリデン)(3−メチルベンジリデン)ルテニウムジクロライド、
【0061】
ビス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジエチルイミダゾリジン−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジプロピルイミダゾリジン−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジイソプロピルイミダゾリジン−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジシクロペンチルイミダゾリジン−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジエチルイミダゾリジン−2−イリデン)(4−クロロベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジエチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチルベンジリデン)ルテニウムジクロライド、などが挙げられる。
【0062】
これらのルテニウム化合物のうち、本発明においては、ビス(1,3−ジエチル−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾール−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、
【0063】
ビス(1,3−ジエチルイミダゾリジン−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジイソプロピルイミダゾリジン−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド、ビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)(ベンジリデン)ルテニウムジクロライドであるのが特に好ましい。
【0064】
4)重合触媒
本発明の前記式(1)で表される化合物は、脂環式オレフィンのメタセシス重合触媒として有用である。脂環式オレフィンをメタセシス重合する場合の式(1)で表される化合物の使用量は、脂環式オレフィン1モルに対し、通常、0.0001〜1モル%程度である。
【0065】
重合に用いられる脂環式オレフィンとしては、重合できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、ノルボルネン、メチルノルボルネン、エチルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロデセン、メチルテトラシクロデセン、エチルテトラシクロデセン、エチリデンテトラシクロデセン、シクロオクテンなどの環式炭化水素、ノルボルネンカルボン酸、ノルボルネンカルボン酸無水物、ノルボルネンカルボン酸メチルエステル、ノルボルネンメタノール、ノルボルネンジメタノール、トリシクロデシルメタクリレート等が挙げられる。
【0066】
この重合に用いられる溶媒としては特に制限されるものではなく、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,2−ジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、THF、1,2−ジメトキシエタンなどのヘテロ原子含有炭化水素等が挙げられる。これらのうち、沸点や毒性等からヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン類等の使用が好ましい。
【0067】
反応温度は、工業的に通常用いられている温度であればよく、例えば、0℃〜200℃の範囲が推奨される。より好ましくは20℃〜150℃である。また、20〜60℃の低温域においても触媒活性が低下することはない。
【0068】
反応時間は、工業的に通常用いられている範囲であればよく、例えば、30分〜24時間が推奨される。好ましくは1時間〜12時間であるが、具体的には生産性などから決定される。
【0069】
本発明の式(1)で表されるルテニウム化合物を重合触媒として、先に例示したようなモノマーをメタセシス重合して得られるポリマーは、シス含有率が30%以上の高い値を示し、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン、トルエン、キシレ、THF、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、等の中極性、低極性の各種有機溶媒に可溶性となる。なお、ここで「シス含有率」とは、メタセシス重合体の主鎖二重結合のシス構造の比率を示す。
【0070】
【実施例】
次に、実施例により、本発明を更に詳細に説明する。
【0071】
(実施例1)
ビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロライドの合成(1)
【0072】
(1)1,3−ジイソプロピルイミダゾールカルベン溶液の調製
パラホルムアルデヒド4.5g(0.15mol)をトルエン25mlに懸濁させ、この懸濁液にイソプロピルアミン8.9g(0.15mol)を反応系内の温度が30℃を超えないように水冷しながら、20分で滴下した。滴下終了後、さらに10分間攪拌した。反応混合物を5℃に氷冷し、イソプロピルアミン8.9g(0.15mol)を15分でさらに加えた。5分間攪拌した後、6NーHCl25ml(0.15mol)を20分間で加えた。
【0073】
次いで、反応液を22℃に昇温させ、これに、40%-グリオキサール水溶液21.8g(0.15mol)を10分で加えた。1時間攪拌した後(溶液は淡黄色となった。)、トルエン25mlを加え、Dean−Stark trapを用いた共沸蒸留法で水を除去した(溶液は赤褐色となった。)。留出するトルエンが透明になったことを確認し、反応を終了させた。反応混合物から溶媒を減圧留去することにより、赤褐色粘調液体の1,3−ジイソプロピルイミダゾリウムクロライド31.8g(収率100%)を得た。これに、約50mlのアセトンを加えて結晶化させた。得られた結晶をろ取し、アセトンで洗浄したのち、真空乾燥して、黄銅色の粉末状結晶10.0g(0.053mol、収率35%)を得た。
【0074】
1H−NMR(δppm,D2O):8.8、7.55、4.6、1.5
【0075】
上記で得られた1,3−ジイソプロピルイミダゾリウムクロライド(0.94g、5mmol)を無水THF(20ml)に懸濁させ、これにNaH(Oilfree、180mg、7.5mmol)を加えた。この混合物を−60℃に冷却し、約10分でアンモニア(50ml)を反応系に導入したのち、反応温度を−40℃に保ち、2時間さらに攪拌した。反応の進行とともにNaClが析出した。反応終了後、反応系を室温に戻し、アンモニアを除去した。反応混合物をセライトを用いて減圧ろ過し、セライトをトルエンで洗浄した。ろ液を集め、THFを減圧留去した。得られた残留物にトルエンを加えて、0.2mmol/mlのカルベン溶液を調製した(以下、このものを「カルベン溶液」という。)。
【0076】
(2)ビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン)ビニリデンルテニウムジクロライドの合成
【0077】
【化13】
【0078】
ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロライド(1g,1.04mmol)をベンゼン50mlに溶解し、これにフェニルアセチレン(1ml,9mmol)を加え室温で24時間攪拌した。不溶分をろ別し、ろ液を減圧濃縮した。得られた残渣にペンタンを加えて結晶化させて、ビストリフェニルホスフィン(フェニルビニリデン)ルテニウムジクロライド(0.50g,0.63mmol、収率60%)を得た。このものをトルエン25mlに溶解し、先に調製したカルベン溶液(0.2mmol/ml)8ml(1.6mmol)を室温で加えた。室温で1時間攪拌したのち、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をトルエン/ペンタンで再結晶化して、ビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン)(フェニルビニリデン)ルテニウムジクロライド(0.25g,0.44mmol,収率70%)を得た。
【0079】
次いで、得られたビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン)(フェニルビニリデン)ルテニウムジクロライド0.25gをトルエン10mlに溶解し、スチレン(2ml,17.5mmol)を加えて、室温で3時間攪拌した。
【0080】
反応混合物から溶媒を減圧留去した後、得られた残渣を塩化メチレン1mlに溶解し、ペンタン20mlを加えて結晶を析出させ、析出結晶をろ取した。この操作を2回繰り返して目的物を得た。
【0081】
1H−NMR(δppm,CDCl3):20.5、8.4、7.7、7.3、7.2、7.0
【0082】
(実施例2)
ビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロライドの合成(2)
【0083】
【化14】
【0084】
ビストリフェニルホスフィン(フェニルビニリデン)ルテニウムジクロライド(0.50g、0.63mmol)をトルエン10mlに溶解し、スチレン(2ml、17.5mmol)を加えて、室温で3時間攪拌した。反応混合物から溶媒及び過剰のスチレンを減圧留去させた後、得られた残渣を塩化メチレン1mlに溶解し、ペンタン20mlを加えて結晶化させ、析出結晶をろ取した。この操作を2回繰り返して、目的とするビストリフェニルホスフィン(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド0.37gを得た。収率75%
【0085】
得られたビストリフェニルホスフィン(ベンジリデン)ルテニウムジクロライド0.37gをトルエン20mlに溶解し、実施例1で調製したカルベン溶液(0.2mmol/ml)8ml(1.6mmol)を室温で加えた。室温で1時間攪拌した後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をトルエン/ペンタンで再結晶化することにより目的物を得た。
【0086】
1H−NMR(δppm,CDCl3):20.5、8.4、7.7、7.3、7.2、7.0
【0087】
(参考例)ビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾール−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロライドの合成(従来法による製造)
【0088】
【化15】
【0089】
(式中、CODは1,5−シクロオクタジエンを、Pcy3はトリシクロヘキシルホスフィンを、xは2以上の整数をそれぞれ表す。)
(COD)RuCl2(6g,21.4mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン(12g,42.9mmol)および水酸化ナトリウム(7.2g)を、脱気したsec−ブチルアルコール250ml中に懸濁させ、該懸濁液を水素加圧下、80℃で一夜反応させたのち、室温に戻した。反応液に水(30ml)を加えて結晶を析出させ、析出結晶をろ取した。ろ取した結晶を水(30ml)で2回洗浄し、さらにメタノール(20ml)で2回洗浄した。このものを水素雰囲気下で乾燥することにより、ビストリシクロヘキシルホスフィンルテニウムヒドリドの淡黄色の結晶11.8g(収率83%)を得た。
【0090】
次いで、ビストリシクロヘキシルホスフィンルテニウムヒドリド 1g(1.5mmol)をペンタン40mlに溶解し、さらにシクロヘキセン(1.5ml,14.8mmol)を加えて室温で1時間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、得られた残渣に、ペンタンおよびα,α-フェニルジクロロメタン(0.4ml,3mmol)を加えた。反応液は赤色になった。反応混合物を45分間攪拌したのち、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を冷メタノール(10ml)で3回洗浄することにより、紫色の結晶のビストリシクロヘキシルホスフィンベンジリデンルテニウムジクロライドを0.75gを得た。収率61%。
【0091】
1H−NMR(δppm,CDCl3):20.0、8.5、7.55、7.35
【0092】
得られたビストリシクロヘキシルホスフィンベンジリデンルテニウムジクロライド(1.0mmol)をトルエン20mlに溶解し、これに、実施例1と同様にして調製したカルベン溶液(2.2mmol/5ml)を加えて、室温で45分間攪拌した。反応終了後、反応液をろ過し、ろ液を2mlになるまで濃縮した。得られた濃縮液にペンタン20mlを加えて結晶化させ、結晶をろ取し、トルエンおよびペンタンから再結晶した。収率80%
【0093】
1H−NMR(δppm,CDCl3):20.5、8.4、7.7、7.3、7.2、7.0
【0094】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、従来法に比べて高収率、かつ安価にヘルマン型触媒を製造することができる。
Claims (3)
- 式(2)
- 式(4)
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