JP4119986B2 - 哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子の安定性を向上させるためのベクターおよび方法 - Google Patents

哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子の安定性を向上させるためのベクターおよび方法 Download PDF

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本発明は、哺乳動物細胞内でトランスフェクションした目的遺伝子を安定化させるため、または増幅させるためのベクターおよび方法に関する。
哺乳動物細胞で導入遺伝子の細胞内コピー数を増加させる方法として唯一知られている方法は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO; Chinese Hamster Ovary)細胞を宿主とし、これに目的遺伝子をジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR; Dihydrofolate reductase)遺伝子と同時にトランスフェクションしてジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子産物の阻害剤であるメトトレキセート(MTx; Methotrexate)を培養液中に加えて選択する方法である(非特許文献1)。この方法は、現在、広く医薬品等有用物質の大量生産に利用され、重要な技術となっている。
しかし、この方法は、適用できる宿主細胞がCHO細胞等に限定され、汎用性に欠けるという問題がある。また、選択薬剤であるメトトレキセートを使用して長期間にわたって遺伝子導入細胞を選択する必要がある。しかも、メトトレキセートの細胞毒性作用を考慮しつつ、濃度を少しずつ増加させて選択しなければならない。したがって、遺伝子導入細胞に対して相当の配慮を必要とし、経験および熟練をも必要とする。さらに、この方法は導入遺伝子が比較的短い場合にのみ適用することができ、導入遺伝子のサイズの範囲が狭いという問題がある。
一般に、タンパク質はその種類によってリン酸化、アセチル化等の種々の修飾をうけることが多い。同じタンパク質でも、発現する細胞、発現時期、細胞への刺激等の条件により、修飾の種類および修飾をうける部位が異なることが知られている。したがって、本来は目的タンパク質を発現していない宿主細胞に目的タンパク質をコードする遺伝子をトランスフェクションして発現させた場合、そのタンパク質の本来の性状を正確に反映する保証はない。また、タンパク質が機能するためには、一般的に特異的な修飾が必要とされることが多い。したがって、トランスフェクションする遺伝子に応じた修飾がなされるように、宿主細胞を適宜選択できることが好ましい。上述の細胞内コピー数を増加させる方法では、適用できる細胞がCHO細胞に限られてしまう。したがって、適切な修飾がなされないことも多い。また、哺乳動物細胞内で医薬品等の有用タンパク質を生産する上で大きな障害となっている。
このような問題を解決するために応用できる知見として、哺乳動物複製起点および核マトリクス結合領域を有するプラスミドを使用してDM(ダブルマイニュート染色体)を有する細胞にトランスフェクションすると、該プラスミドがDMおよびHSR(均一染色領域)に組み込まれること、およびDMを持たない細胞に該プラスミドをトランスフェクションすると、HSRに組み込まれると共にDM様の構造を形成することを以前に見出した(非特許文献2)。すなわち、該プラスミドを使用することにより、トランスフェクションした細胞内において自立複製させることが可能で、且つ娘細胞に安定して分配させることが可能となった。また、上記プラスミドを使用した場合、細胞内でプラスミドを高度に増幅させることができる。
しかし、トランスフェクションしたプラスミドは、コピー数が増加されるだけでなく、細胞内で安定して存在することが必要である。したがって、配列を不安定化せずにプラスミドの増幅を向上させる技術が望まれている。また、宿主細胞にトランスフェクションした遺伝子を増幅させないための技術も必要とされている。
一方、トランスフェクションしたプラスミドが不安定であるときに、プラスミドがHSRに組み込まれることを見いだした。すなわち、HSRに組み込まれにくいプラスミドは、安定性が高いことになる。したがって、プラスミドをより安定化させるために、DMにのみプラスミドを組み込む技術が望まれる。
Omasa, T.、Gene Amplification and Its Application in Cell and Tissue Engineering、"J. BIOSCIENCE AND BIOENGINEERING"、2002年、94巻、p.600-605 Noriaki Shimizu, Yuri Miura, Yu Sakamoto, and Ken Tsutsui、Plasmids with a Mammalian Replication Origin and a Matrix Attachment Region Initiate the Event Similar to Gene Amplification1.、"Cancer Research"、2001年、61巻、p.6987-6990
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、広範な哺乳動物細胞を宿主として使用することができ、トランスフェクションした目的遺伝子を安定化させることを目的とする。
上記課題を達成するために鋭意研究を重ね、特定の構造を有するようにベクターを構築することにより、哺乳動物細胞内でトランスフェクションした遺伝子の安定性を制御することができるという知見を得て本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子を安定化させるためのベクターであって、哺乳動物細胞内で機能する複製開始領域および核マトリックス結合領域を含み、該ベクターの複製開始領域からの複製フォークと該ベクターに組み込まれた任意の遺伝子からの転写が正面衝突する領域に、複製開始領域からの複製フォークを阻害する配列を、複製開始領域からの複製を遮断する配向に配置した構造であることを特徴とするベクターを提供する。
また、本発明は、哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子を安定化させるためのベクターであって、哺乳動物細胞内で機能する複製開始領域および核マトリックス結合領域を含み、該ベクターの複製開始領域からの複製フォークと該ベクターに組み込まれた任意の遺伝子からの転写が正面衝突する領域に、poly(A)付加配列を含む構造であることを特徴とするベクターを提供する。
さらに、本発明は、上記ベクターであって、哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子を安定化させるためのベクターであって、哺乳動物細胞内で機能する複製開始領域および核マトリックス結合領域を含み、
該ベクターの複製開始領域からの複製フォークと該ベクターに組み込まれた任意の遺伝子からの転写が正面衝突する領域に、核マトリックス結合領域を含まない構造であることを特徴とするベクターを提供する。
さらに、本発明は、上記ベクターであって、さらに薬剤耐性遺伝子を含むことを特徴とするベクターを提供する。
さらに、本発明は、上記ベクターであって、さらに目的遺伝子を含むことを特徴とするベクターを提供する。
さらに、本発明は、上記ベクターであって、
任意の遺伝子は、目的遺伝子または薬剤耐性遺伝子であることと、
転写は、前記目的遺伝子または前記薬剤耐性遺伝子の転写であることを特徴とするベクターを提供する。
さらに、本発明は、上記ベクターであって、
核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域からなる群から選択される結合領域のいずれか1つに由来するベクターを提供する。
さらに、本発明は、上記ベクターであって、哺乳動物内で機能する複製起点は、EBウイルス潜在複製起点(EBV latent origin)、c-myc遺伝子座の複製起点、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の複製起点およびβ-グロビン遺伝子座の複製起点からなる群から選択される複製起点のいずれか1つに由来するベクターを提供する。
また、本発明は、哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子を安定化させる方法であって、上記ベクターを哺乳動物細胞にトランスフェクションすることを含む方法を提供する。
さらに、本発明は、哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子を安定化させる方法であって、
上記ベクターを哺乳動物細胞にトランスフェクションすることと、および
目的遺伝子を含むベクターを哺乳動物細胞にトランスフェクションすることと、
を含む方法を提供する。
本発明のベクターを使用することにより、どのような哺乳動物細胞でも目的遺伝子の安定性を向上させることができる。また、本発明の方法は、簡便であり、目的遺伝子をその鎖長や構造によらず、哺乳動物細胞内で目的遺伝子を安定に増幅することができる。したがって、そのタンパク質産物を大量生産するために有用である。また、遺伝子治療用のベクターの構築など、多方面に応用可能である。

ここで、細胞の遺伝子増幅機構について説明する。遺伝子増幅は、腫瘍細胞が無制限の成長または薬剤抵抗性を獲得する主要な機構である。細胞遺伝学的に言えば、増幅遺伝子は、インビボにおいて、染色体外のダブルマイニュート染色体(DM)あるいは染色体の均一染色領域(HSR;homogeneously staining region)に検出される。長期にわたってインビトロで継代することにより、通常はHSRを有する細胞が優勢的に増殖することが知られている。これまでの研究により、腫瘍細胞からDM上の増幅された遺伝子を除去すると、腫瘍表現型を呈する状態から正常状態に復帰し、細胞分化を呈することが示されている。この種の除去過程は、分裂細胞から放出される微小核へのDMの選択的取り込みによって仲介されている。このような微小核形成(micronucleation)過程は、細胞周期に伴うDMの細胞内挙動と密接に関連している。DMは様々なサイズの無動原体環状DNAから構成され、無動原体性であるにもかかわらず、有糸分裂する染色体に付着して娘細胞へと安定に分離される。最近の関連する重要な知見として、牛パピローマウイルス、EBウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスおよびSV40を含むいくつかのウィルス性核内プラスミド(viral nuclear plasmid)が、細胞分裂の際に同様の機構を利用することが示されている。さらに、最近の研究では、EBウイルス・レプリコンを有するプラスミドが、腫瘍細胞においてDMに組込まれ得ることが示されている。また、複製のSV40起点を有するプラスミドでの付着過程が成立するためには、ウィルスのラージT抗原の発現を必要とするが、ラージT遺伝子が細胞由来の核マトリックス結合領域(MAR; matrix attachment region)と置換しても達成されることが示されている。実際に、核マトリックス結合領域は、哺乳動物ゲノムの複製起点の近傍で頻繁に認められており、マトリックス付着がゲノム複製において重要であることを示唆している。また、上記遺伝子増幅現象において認められた知見から、哺乳動物複製起点および核マトリックス結合領域を有するベクターを哺乳動物細胞にトランスフェクションすると、該ベクターは、高度に増幅され、かつ娘細胞へ分離・分配されることが明らかとなっている。
一方、以下の実施例に示したように、転写ユニット、poly(A)付加配列、RFBおよびMAR配列が複製起点に対して特定の構造に配置されるときに、HSRが形成されにくくなることが明らかとなった。
本発明は、上記知見に基づいて、HSRが形成されにくいベクターを構築することに成功し完成されるに至った。
以下、本発明のベクターについて詳細に説明する。
本発明のベクターは、哺乳動物複製起点および核マトリックス結合領域(MAR)を有することを特徴とする。
複製起点としては、たとえば、EBウイルス潜在複製起点(EBV latent origin)、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、β-グロビン遺伝子座等の複製起点に由来する配列を使用することができる。また、核マトリックス結合領域として、たとえば、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座等の核マトリックス結合領域を使用することができる。
また、本発明のベクターには、薬剤耐性遺伝子が含まれていてもよい。薬剤耐性遺伝子としては、たとえば、ブラスティサイジン抵抗性遺伝子、ネオマイシン抵抗性遺伝子等があげられる。これらの遺伝子を細胞内で発現させるためには、ベクター内の適切なプロモータの支配下に適切な配向で挿入する必要がある。
また、前記ベクターは適宜目的に応じて、大腸菌内でクローニングを行うために必要な遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子等の形質転換細胞を選択するための遺伝子またはその他の配列を有していてもよい。これらの遺伝子を含むベクターで形質転換された細胞は、薬剤耐性遺伝子に基づく薬剤選択、セルソータ等によるマーカータンパク質発現細胞の選択等により、形質転換細胞を選別等することができる。
また、本発明のベクターには、目的遺伝子が組み込まれていてもよい。目的遺伝子とは、哺乳動物細胞内でその遺伝子によってコードされるタンパク質を発現させたい遺伝子である。目的遺伝子を細胞内で発現させるためには、ベクター内の適切なプロモータの支配下に適切な配向で挿入する必要がある。
上記遺伝子は、当業者であれば、一般的な遺伝子組換え技術を使用して容易に作成することができるであろう。たとえば、上記核酸配列は既知であるので、増幅したい核酸を含むように設計されたプライマーを使用して、PCRまたはRT-PCR等を行うことによって増幅することができる。テンプレートとして、これらの遺伝子を発現している細胞由来のRNAまたはcDNAなどを使用することができる。また、市販のベクター等を使用して、該ベクターに組み込まれている配列を制限酵素で消化することによっても取得することもできる。
本発明のベクターは、上記遺伝子を適切なベクターに組み込むことによって作製することができる。たとえば、上記遺伝子を市販のベクターに組み込むことによって作製することができる。ベクターの作製は、当業者であれば、一般的な遺伝子組換え技術を使用して容易に作成することができるであろう。たとえば、ベクターおよび各遺伝子の末端を適切な制限酵素で切断しておき、定法に従ってライゲーションすることによって作製することができる。
一方、本発明のベクターは、上記遺伝子が特定の構造を有するように構築する必要がある。以下、導入したベクターの安定性を向上させたい場合について具体的に説明する。
本発明のベクターは、組み込まれた遺伝子が以下の構造の少なくとも1つを有する必要がある。
(1)複製開始領域からの複製フォークとベクターに組み込まれた任意の遺伝子(たとえば、薬剤耐性遺伝子または目的遺伝子)からの転写とが正面衝突しない配向の構造。
具体的には、pΔB(図5下段)は、複製起点Oriβからの複製フォークがSRαプロモータからの転写と正面衝突する構造を有する。逆に、pΔBにおいて、SRαプロモータが逆配向で組み込まれていた場合、SRαプロモータからの転写は、転写複製起点Oriβからの複製フォークと同じ配向となり、正面衝突する構造とはならないであろう。ただし、複製起点Oriβからは、両方向に複製フォークが形成されるため、一方からの複製フォークがプロモータからの転写と同じ配向であっても、他方からの複製フォークが逆配向となってしまうことがある。このようなときは、後者の複製フォークの形成を阻害する構造にする必要がある。たとえば、複製フォーク阻害配列(RFB)を組み込んで阻害することができる。
(2)複製と転写が正面衝突する領域に、poly(A)付加配列または複製フォーク阻害配列(RFB)が存在する構造。
複製と転写が正面衝突する領域とは、複製フォークの進行方向と遺伝子が転写される方向とが逆配向であるときに、該複製開始領域と転写開始領域とで挟まれた領域である。たとえば、pΔB.RFB Dir.(図5下段)の場合、複製起点Oriβからの複製フォークとSRαプロモータとは逆配向であり、且つ両者の間にRFBが挿入されている。このとき、Oriβからの複製フォークはRFBで阻害されるであろう。また、HSVtkプロモータからの転写と複製起点Oriβからの複製フォークとは、逆配向であり、且つ両者の間にpoly(A)付加配列が挿入されているので本構造に該当する。このとき、HSVtkプロモータからの転写は、poly(A)付加配列で阻害されるであろう。
(3)複製と転写が正面衝突する領域に、核マトリックス結合領域が配置されていない構造。
複製と転写が正面衝突する領域に核マトリックス結合領域が配置されていない構造とは、上記複製開始領域と転写開始領域の間の領域に核マトリックス結合領域が含まれていない構造をいう。上述のように、本発明のベクターは核マトリックス結合領域を含む構造であるが、上記領域以外に存在する場合は、本発明のベクターに含まれる。
さらに、複製開始領域および核マトリックス結合領域は、それぞれ複数であってもよい。しかし、上記条件を満たすように構築されている必要がある。
本発明の導入したベクターの安定性を向上させるためのベクターは、上記3つの条件の全てを満たすように構築されていることが好ましい。
一方、トランスフェクションした遺伝子の複製を増大させることを目的とする場合、上記条件の全てを避けるような構造とすればよい。すなわち、複製開始領域からの複製フォークが遺伝子からの転写と正面衝突する構造であることと、複製と転写が正面衝突する領域に、poly(A)付加配列または複製フォーク阻害配列が存在しない構造であることと、および複製と転写が正面衝突する領域に、核マトリックス結合領域が配置されている構造であることという条件を満たすようにベクターを構築すればよい。
たとえば、図5に示したpSFVdhfrの場合、OriβからMAR方向へ複製が進む際の複製フォークは、SRαプロモータからの転写と正面衝突する構造である。さらに、上記複製開始領域と転写開始領域の間の領域にpoly(A)付加配列および/または複製フォーク阻害配列は含まれていない。そして、上記OriβとSRαプロモータの間の領域にMARを有している。したがって、本発明のトランスフェクションした遺伝子の増幅を向上させるためのベクターに該当する。
一方、pSFVdhfrは、OriβからHSVPoly(A)付加配列方向へ複製が進む際の複製フォークがHSVtkプロモータからの転写と正面衝突する構造であるが、ベクター内にpoly(A)付加配列および/または複製フォーク阻害配列が含まれている。このような構造は、上記構造を満たしていない。しかし、このような構造を有していても、ベクター内に上記条件を満たす構造を有していれば遺伝子の増幅を向上させるためのベクターに含まれる。
上記構造を有するようにベクターは、通常の遺伝子組換え技術を使用して構築することができる。たとえば、所望のベクターおよび各遺伝子の両末端を、上記配向でライゲーションされるように、種々の制限酵素で切断する。これらを適切な構造を有するように、定法に従ってライゲーションすることによって作製することができる。また、組み込んだ遺伝子がいずれの配向でベクターに組み込まれているのかを確認するために、作製したベクターの配列(特に、組み込んだ遺伝子の末端を含む部分)をシーケンシングすることが好ましい。たとえば、上記遺伝子を組み込んだベクターをテンプレートとし、組み込んだ遺伝子の末端が増幅されるように設計したプライマーを使用してPCRを行い、増幅産物をシーケンシングすればよい。
また、本発明のベクターは、哺乳動物複製起点および核マトリックス結合領域を有していれば、プラスミドの他、ラムダファージ、コスミド等の自己環状化できる核酸を使用することもできる。
次に、本発明のベクターを使用して哺乳動物細胞内でトランスフェクションした遺伝子の安定性および増幅を制御する方法について説明する。
哺乳動物細胞内でトランスフェクションした遺伝子(たとえば目的遺伝子)を安定化させたいときは、哺乳動物細胞内に上記安定性を向上させるためのベクターをトランスフェクションすればよい。
特に、上記ベクター内の適切なプロモータの下流に適切な配向で目的遺伝子が挿入されている場合は、該ベクターのみをトランスフェクションするだけで、目的遺伝子がコードするタンパク質を発現させることができる。すなわち、この態様は、目的遺伝子がシス(本発明のベクターの構造体)に配置されることとなる。
また、本発明のベクターとは異なるベクターの適切なプロモータの下流に目的遺伝子を組み込み、これを本発明のベクター(目的遺伝子を含まないもの)とともに哺乳動物細胞にコトランスフェクションしてもよい。つまり、この態様は、目的遺伝子がトランス(本発明のベクターとは異なる構造体)に配置される場合である。このとき使用するベクターは、プラスミドの他、ラムダファージ、コスミド等の粘着末端を持ち自己環状化できる核酸を使用することもできる。この態様においては、2種類のベクターをコトランスフェクションすればよい。また、両者の重量比は1対1であることが最も好ましい。この態様によれば、より長鎖長の目的遺伝子をトランスフェクションすることができる。
上述のように哺乳動物細胞にトランスフェクションした場合、上記ベクターはHSRに組み込まれにくくなる。
一方、哺乳動物細胞内でトランスフェクションした遺伝子(たとえば目的遺伝子)の増幅を増大させたいときは、哺乳動物細胞内に増幅を増大させるためのベクターをトランスフェクションすればよい。
上記安定化させる方法と同様に、本発明のベクター内に目的遺伝子を組み込んでトランスフェクションしてもよく、また目的遺伝子を本発明のベクターとは異なるベクターに組み込んで、本発明のベクターと共にトランスフェクションしてもよい。以下の実施例に示したように、上記3つの条件の1つを有するベクターをトランスフェクションした場合、該ベクターは、HSRに組み込まれ易くなる。したがって、導入遺伝子の増幅が増大される。
以前に開発したベクターは、単に哺乳動物複製開始領域および核マトリックス結合領域を含むだけのベクターであり、DMまたはHSRのいずれに組み込まれ易いベクターであるのか判断することができなかった。しかし、本発明のベクターは、HSRに組み込まれないようにすること、またはHSRに組み込まれやすくすることを制御することができる。また、以下の実施例に示したように、目的遺伝子をシスに配置した場合だけでなく、トランスに配置した場合であっても、HSRには本発明のベクターと共に目的遺伝子を含むベクターも組み込まれる。
上記ベクターをトランスフェクションする宿主細胞は、哺乳動物細胞であればいずれの細胞を使用してもよい。たとえば、組織等であってもよい。
ベクターを細胞にトランスフェクション方法は、電気穿孔法、リポフェクション法など、当業者に周知の方法を使用すればよい。たとえば、GenePorter 2 リポフェクションキット(Gene Therapy Systems, San Diego, CA)によって細胞にトランスフェクションすることができる。
以下、知見を得た実験および本発明のベクターの一態様に従って遺伝子増幅の制御を行った実施例を示す。
(物質および方法)
プラスミドおよびDNA。
p6XNBeta(14.2kbp)は、MARを含むヒトβ-グロブリン 複製開始領域(7.8kbp)に由来するゲノム配列を有する(Aladjem, M. I., Rodewald, L. W., Kolman, J. L., and Wahl, G. M. Genetic dissection of a mammalian replicator in the human beta-globin locus. Science, 281: 1005-1009, 1998)。さらに、このプラスミドは、形質転換体を選択するためのBsrも有する。
p6XN(6.4kbp)は、p6XNBetaのベクタープラスミドである。これらのプラスミドは、Mirit I Aladjem博士(NIH, Bethesda, MD)から供与された。
pNeo.Myc-2.4およびpSFVdhfrの供与源および構造は、すでに記載したとおりである(非特許文献2)。簡単には、pNeo.Myc-2.4は、c-myc IR(2.4kbp)を含むゲノム領域、SV40初期領域由来の外因性MAR配列およびネオマイシン耐性遺伝子を有する。
pSFVdhfrは、Ori βと名付けたDHFRゲノム領域由来のIR(4.6kbp)を有する(Leu, T. H. and Hamlin, J. L. High-resolution mapping of replication fork movement through the amplified dihydrofolate reductase domain in CHO cells by in-gel renaturation analysis. Mol. Cell. Biol., 9: 523-531, 1989、Pemov, A., Bavykin, S., and Hamlin, J. L. Attachment to the nuclear matrix mediates specific alterations in chromatin structure. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95: 14757-14762, 1998)。
次に、pSFVdhfrから10種類のプラスミドを作製した。これらのプラスミドは図5に示した。pSFVdhfrは、BsrおよびHygの2つの薬剤耐性遺伝子を有する。Hygは、その下流にHSV由来のpoly(A)付加シグナルを有するが、Bsrは、3'-プロセシングシグナルを有していない。また、図中のDHFインサートDNA(4.6kbp)内に、MAR活性を示す配列が同定されている(非特許文献2)。このプラスミドからDHFRインサートを全て削除したプラスミド(pSFV-V)、およびNot I消化してDHFRインサート配向を反転したプラスミド(pINV.NotI)を作製した。
Bsrは、3'-プロセシングシグナルを持たないため、DHFRインサートから複製が開始されるとき、その転写が複製フォークと衝突する。そこで、HSV poly(A)付加シグナル配列、Ig κイントロン(AR1)由来のMAR配列またはヒトのリボソームDNAリピート由来の複製フォーク阻害配列(RFB)をBsrの下流に挿入したプラスミド構築物をいくつか作製した。これらの配列を挿入するためのプラスミドとして、Hyg転写ユニットのほとんど全て、またはHSV poly(A)の202bpの配列をそれぞれ削除したプラスミドを構築した(pΔBNおよびpΔB)。pSV.SB2は、Friedrich Grummt博士(University of Wurzburg, Germany)から供与された。このプラスミドは、ヒトrDNAリピート由来RFBの110bpの配列を含む(Putter, V. and Grummt, F. Transcription termination factor TTF-I exhibits contrahelicase activity during DNA replication. EMBO Rep., 3: 147-152, 2002)。
このプラスミドDNAをテンプレートとして使用し、PCRによってRFB配列を増幅した。使用したプライマ配列は、以下の通りである:
RFBnot1L(31mer)(5’-GGG CGG CCG CGC TGG AGG TCG ACC AGA TGT C-3’)(配列番号1);
RFBnot1R(36mer)(5’-GGG CGG CCG CAA TTT AAA AAA AAA AAA AAA AAA AAA-3’)(配列番号2)。
PCR産物をNotI処理して切断し、pΔBプラスミドのNotI部位に挿入した。挿入したRFB配列の配向を決定するために、上記のプライマのいずれかを使用してPCRを行い、pΔBプラスミドのNotI部位の側面に位置する配列を確認した。pAR1の供与源は、すでに記載したとおりである(非特許文献2)。このプラスミドは、Igκイントロン由来の377bpの配列を有し、強いMAR活性を示す。
細胞培養およびトランスフォーメーション。
ヒト結腸直腸COLO 320DM腫瘍株は、非特許文献2に記載した通りに得て、維持した。全てのプラスミドは、Qiagenプラスミド精製キット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を使用して精製し、GenePorter 2 リポフェクションキット(Gene Therapy Systems, San Diego, CA)によって細胞にトランスフェクションした。
形質転換体を選択するために、p6XNBeta、pSFVdhfrおよびその誘導体については5μg/mlのブラスティサイジン(Blasticidine)(フナコシ(東京))を使用し、pNeo.Myc-2.4およびその誘導体については400μg/mlのネオマイシン(Gibco BRL, Rockville, MD)を使用した。コトランスフェクション実験については、ブラスチシジンまたはネオマイシンのいずれかを上述した濃度で使用した。
蛍光in situハイブリッド形成(FISH)。
公開されているプロトコールに従って、分裂中期試料、プローブ調製およびFISHを行った(Shimizu, N., Ochi, T., and Itonaga, K. Replication timing of amplified genetic regions relates to intranuclear localization but not to genetic activity or G/R band. Exp. Cell Res., 268: 201-210, 2001)。また、in situ増殖細胞に対するFISHも、すでに記載した通りに行った(Tanaka, T. and Shimizu, N. Induced detachment of acentric chromatin from mitotic chromosomes leads to their cytoplasmic localization at G1 and the micronucleation by lamin reorganization at S phase. J. Cell Sci., 113: 697-707, 2000)。クロマチン繊維は、公開されたプロトコール(Parra, I. and Windle, B. High resolution visual mapping of stretched DNA by fluorescent hybridization. Nat. Genet., 5: 17-21, 1993)を改良して調製した。簡単には、細胞をPBSで二回洗浄して1〜2×106細胞/mlの密度にした。次いで、5μlの懸濁液をスライドにスポットして、スライドを完全に乾燥させた。スライドを、あらかじめ37℃に加熱しておいたSDS細胞溶解バッファ(0.5%SDS、50mM EDTA、200mM Tris-HCl、pH 7.4)に浸漬して3分間インキューベートした。次いで、スライドをゆっくり一定速度で引き上げ、45°に傾けて完全に空気乾燥した。次いで、スライドを、メタノール/酢酸(3/1)により室温で5分間固定して、再び空気乾燥した。図1FおよびGに示した実験のために、pSFVdhfrから切除したDIGラベルしたDHFR IR DNA(4.6kbp)およびビオチンラベルしたベクターDNA(pSFV-V;4.6kbp)を混合して、共にスライドにハイブリダイズさせた。図3に示した実験のために、DHFR IR DNAに加えて、c-myc IR(2.4kbp)およびγ-globin IR(7.8kbp)をpNeo.Myc-2.4およびp6XN Betaからそれぞれ切除した。ベクター配列のコンタミネーションを回避するために、バンドの切出しに続いて電気泳動を行うという連続的ラウンドを2回行った。得られたIR DNAおよび完全なラムダファージDNAには、ビオチンまたはDIGにより別々にラベルした。コンタミネーションしたベクター配列によって引き起こされるクロスハイブリダイゼーションを抑制するために、ラベルしたプローブの混合物を大過剰のラベルされていないベクターDNA(pSFV-Vの規制変異消化物すなわち)と、ハイブリダイゼーションを行う前に予めハイブリダイズさせた。ハイブリダイズしたプローブの検出は、以前に報告したプロトコールと本質的に同じものを使用し、テキサスレッド結合ストレプトアビジン(Vector Laboratories Inc., Burlingame, CA)またはFITC結合-抗DIG抗体(Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)を使用して行った。ベクター配列によるクロスハイブリダイゼーションが生じないことは、pSFVdhfrでトランスフォームされた細胞に由来するスライドにおいて、c-mycおよびγ-globin IRプローブのハイブリダイゼーションによるシグナルが生じないことなどにより確かめた。
サザンブロットハイブリダイゼーション、PCRおよびシーケンシング。
培養細胞からの高分子量ゲノムDNAの単離、制限酵素による消化およびアガロースゲル電気泳動は、分子生物学において使用される標準的なプロトコールに従って行った。電気泳動後、アルカリブロッティング法によって全てのゲルをナイロン膜に移した(Hybond N+; Amersham-Pharmacia Biotech, UK)。AlkphosDirectプローブラベリングキット(Amersham-Pharmacia Biotech, UK)でラベルしたプローブと膜とをハイブリダイズさせ、ハイブリダイズしたシグナルをCDPStar試薬(Amersham-Pharmacia Biotech)およびECL Mini-camera(Amersham-Pharmacia Biotech)によって検出した。クローン12(図2B)で見られた組換え部位を同定するためのプライマ配列は、次の通りである:L3(19mer)(5’-CAG TAC ATG CGG TCC ATG C-3’)(配列番号3);R3(20mer)(5’-GGC CTC GAA CTC ACA GAG AT-3’)(配列番号4)。請求があれば、L1、L2、R1およびR2配列を提供することができる。PCRは、GeneAmp PCRシステム9700(PE Applied Biosystems, Foster City, CA)を使用して標準的なプロトコールにしたがって行った。PCR産物は、L3およびR3プライマのいずれかを使用して、塩基-シーケンシング解析をEspec Oligo Service社、筑波、日本に依頼することにより行った。
(結果)
DHFRまたはc-myc遺伝子座に由来するIRを使用して以前に行った実験により、哺乳動物IRおよびMARを有するプラスミドは、遺伝子増幅と同様のプロセスを開始することが示されている(非特許文献2)。本実施例では、第三のIRを使用した結果を提供する。p6XNBetaは、IRとMAR活性を有する領域とを含むヒトγ-globin座に由来する7.8kbpゲノム領域を有する(Aladjem, M. I., Rodewald, L. W., Kolman, J. L., and Wahl, G. M. Genetic dissection of a mammalian replicator in the human beta-globin locus. Science, 281: 1005-1009, 1998)。このプラスミドをヒトCOLO 320DM細胞にトランスフェクションし、プールした安定形質転換体から分裂中期試料を調製した。プラスミドプローブを使用したFISHにより、プラスミド配列の局在を調査した。ハイブリダイゼーションシグナルは、調査した中期細胞のDMまたは染色体HSRのそれぞれにおいて、43%(17/40)または78%(31/40)で検出された。代表的なイメージを図1AおよびBに示す。対照的に、ベクタープラスミド(p6XN)をトランスフェクションした培養に由来する中期細胞では、DMにシグナルを示すものはほとんど示されず(調査した中期の3%;1/35)、HSRにシグナルを示すものはなかった(調査した中期の0%;0/40)。COLO 320DMにおけるオリジナルのアンプリコンを検出するためのプラスミドプローブとc-mycコスミドプローブとのコハイブリダイゼーションにより、増幅されたプラスミドは、既存のDM中に組み込まれるか、独立してDMを生じるか、またはオリジナルのアンプリコンから独立してHSRを生じることが示されている(非特許文献2)。これらの構造は、単一細胞中に同時に出現することもある。これらの構造に加えて、異常に大きい環状染色体も見出された(図1E)。この構造の出現頻度は少なかったが、その有意性について後の節で議論する。
増幅された領域の分子構造。
pSFVdhfrで安定にトランスフォームされたCOLO 320DM細胞を独立して16クローン獲得した。FISHによる解析では、DM(10クローン)、HSR(3クローン)または両方とも(3クローン)のいずれかのプラスミド局在を示すクローンが同定された。以下の研究では、これらの中でDMに組み込まれたクローン(DMクローン)としてクローン番号12(図1C)および14を使用し、HSRを形成したクローン(HSRクローン)としてクローン22(図1D)および24を使用した。このようなクローンから分離した高分子量ゲノムDNAを制限酵素で処理し、生成物をサザンブロットハイブリダイゼーションによって分析した(図2BおよびC)。第一の所見は、各細胞におけるプラスミド配列のコピー数が驚くほど多いことであった。ハイブリダイズしたシグナルの強さから、DMクローンでは2〜4,000コピー/細胞、HSRクローンでは10,000コピー/細胞以上のコピー数であると見積もられた。第二の所見は、ゲノム消化物から得られたバンドが、特にDMクローン(12および14クローン)において、驚くほど鮮明であるということであった。星印を付けた断片を除いて、各断片は、環状pSFVdhfrを同様に消化した断片とよく一致していた。pNeo.Myc-2.4でトランスフォームしたCOLO 320DM細胞の6つの独立したクローンを使用した場合も、本質的に同様の結果が得られた(データ示さず)。PFAで固定した細胞で行ったFISHでは、大多数のプラスミド配列が、増幅された領域に存在することを示した(データ示さず)。したがって、特にDMにおいて、非常に多くのプラスミド配列が整列して増幅されていた。実際に、一箇所を消化する実験により、頭−尾に縦列の配列であることが示された。通常、トランスフェクションした遺伝子は、染色体の組込み部位に縦列配列で配置されることが知られているが、分子機序は明らかにされていない(Palmiter, R. D. and Brinster, R. L. Germ-line transformation of mice. Annu. Rev. Genet., 20: 465-499, 1986)。ここで得られた結果は、IRを有するプラスミドの増幅は、おそらく形質転換の初期の段階で上記同様の機構を媒介していることを示唆した。しかし、数千のプラスミド配列が増幅されるときに、頭−尾のダイレクトリピート配列がもとの構造のままであったことは、注目に値することである。これは、DMへの組込みは、配列を不安定化せずにコピー数を増加することができることを示唆している。
クローン12で行ったサザンブロット解析により、星印を付けた異常な断片は、組換え産物を反映していることが明らかとなった(図2B)。そこで、さらにいくつかの制限酵素を使用したサザンハイブリダイゼーションを行い、異常な断片を生じた組換え部位を分析した(データ示さず)。その結果、DHFR中のMAR活性を示す領域とハイグロマイシン耐性遺伝子との間の配列が直列につながるように組換えが生じていた。これは、プラスミドの縦列反復の2つの部位が切断された後に、各末端が再結合したことを示唆している。クローン12由来の組換え部位(図2A)およびゲノムDNAを含む一連のPCRプライマを使用してPCRを行い、最も短い産物(L3-R3)をシーケンシング反応にかけた。得られた配列をオリジナルのpSFVdhfr配列とともに図2Dに示した。結合部に挿入はなく、また組換え配列間に相同性もなく、非相同的末端結合の産物であると解される。複数のDMを有する細胞に由来するゲノムDNAをテンプレートとして使用したにもかかわらず、PCR産物からは鮮明なシーケンシングパターンが得られた。これは、DMに組み込まれた配列は、細胞増殖の際も安定であることを示唆している。
増幅された領域の巨視的構造から洞察を得るために、のばしたクロマチン繊維(Parra, I. and Windle, B. High resolution visual mapping of stretched DNA by fluorescent hybridization. Nat. Genet., 5: 17-21, 1993)を使用してFISH解析を行った。得られた代表的なイメージを図1FおよびGに示す。通常この技術では、得られたシグナルがビーズの紐のように見える。特異的ハイブリダイゼーションシグナルが出現した全てのクロマチン繊維において、ベクターとDHFRインサートが交互に出現している。これは、増幅されたプラスミド配列が間断なく伸長していることを示している。クローン12における反復の長さを交互に現れるシグナルに基づいて見積もると、リピートあたり数十から百コピーのプラスミドを有していた。クローン12細胞は、約20〜30のDMを含み、DM中にこの反復が1〜5回組込みまれていることから、細胞あたりのコピー数が2〜4000であるというサザンブロットから得られた数値を説明することができる。予想されてとおり、増幅されたプラスミド配列は、HSRクローン22から調製したクロマチン繊維中により長く挿入されていた(図1G)。
これらの結果をあわせると、10〜100コピーのプラスミドの縦列反復で構成された大きな環状分子は、形質転換の初期で形成されたことを示唆する。分裂中期試料において、プラスミドプローブとハイブリダイズした小さな対のシグナルが観察され、これは超顕微鏡的にも環状プラスミド多量体と一致していた(データ示さず)。この多量体は、既存のDMと再結合するか、互いに再結合してDMと同じサイズに増大するか、または染色体に組み込まれるであろう。
コトランスフェクション実験による初期の多量体化プロセスの解析。
種々のIRおよび/またはラムダファージDNAを有するプラスミドの2つをコトランスフェクションして、増幅された構造がどのように出現するか調査した。コトランスフェクションされた配列は、トランスフェクション後の初期に一連の非相同的な分子間組換えを受けて、混在構造を形成することは既知である(Perucho, M., Hanahan, D., and Wigler, M. Genetic and physical linkage of exogenous sequences in transformed cells. Cell, 22: 309-317, 1980)。しかし、FISHによる構造解析では、報告されていなかった。
安定形質転換体から分裂中期試料を調製し、トランスフェクションした両方の配列をそれぞれ2-色FISHで検出することによって調査した。図3AおよびBの代表的なイメージに示されるように、コトランスフェクションされた配列は、常に増幅された構造の混合物として検出された。さらに、IRを有するプラスミドとともにトランスフェクションした場合、ラムダファージDNAもともに増幅された。面白いことに、異なったIRを有する2つのプラスミドをコトランスフェクションした場合、共に増幅された構造は必ずHSRで検出され、DMsでは検出されなかった(図3A)。その一方で、ファージとプラスミドをコトランスフェクションすると、DMsにシグナルが出現した(図3B)。但し、大多数の細胞はHSRを有していた。
次いで、クロマチン繊維のFISHにより、増幅された構造を分析した。図3C〜Hに代表的なイメージを示した。増幅された領域におけるラムダ配列は、常にプラスミド配列に結合していた。しかし、通常この配列は、クロマチン繊維に沿って長い一続きの配列を形成し、ラムダDNAの1〜10分子以上の大きさと一致する(図3C)。これは、おそらくラムダCOS部位間の結合が鎖状体分子の形成を引き起こすことを反映している。異なったIRを有する2種類のプラスミドをコトランスフェクションすることにより、混在構造を生じたことから、非相同的組換えが頻繁に起こっていることを示している(Perucho, M., Hanahan, D., and Wigler, M. Genetic and physical linkage of exogenous sequences in transformed cells. Cell, 22: 309-317, 1980)。しかし、クロマチン繊維に沿っていずれかのプラスミド配列が延長されている構造が、頻繁に検出された。この構造の長さは、プラスミドの数十コピーの長さと一致した(図3C〜E)。このような現象は、分子間相同組換えによって説明される。しかし、pSFVdhfr(11kbp)およびp6XNBeta(14kbp)は、6.3kbpの共通配列を有し、2つのプラスミドとpNeo.myc-2.4(9kbp)の間は2kbpが共通である。したがって、いずれのプラスミド配列においても見出される長い中断されない延長は、相同組換えによって説明することはできない。さらに、この活性は、哺乳動物細胞(より下等な真核生物と異なる)では低いことが既知である。一方、図3FおよびGに示したとおり、一部のクロマチン繊維では、プラスミドおよびラムダファージ配列がタンデムダイレクトリピートに配置されていた。上記クロマチン繊維に沿った連続するプラスミド配列は、いずれも複製を介した多量体化プロセスの結果として生じた可能性がある。また、環状ゲノムDNAの二量体化は、細菌細胞において複製終止変異体において観察されている(Barre, F. X., Soballe, B., Michel, B., Aroyo, M., Robertson, M., and Sherratt, N. Shimizu et al. p24 D. Circles: the replication-recombination-chromosome segregation connection. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98: 8189-8195, 2001.、Lemon, K. P., Kurtser, I., and Grossman, A. D. Effects of replication termination mutants on chromosome partitioning in Bacillus subtilis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98: 212-217, 2001)。
HSRは、プラスミドリピートで始まるBFBサイクルによって生じる。
HSR由来プラスミドを有する細胞をFISHで検査する際に、2つの有糸分裂娘細胞間または有糸分裂後の娘細胞間で、プラスミド配列によって構成されたブリッジが観察された。このようなブリッジは、通常の染色体標本中で観察することができる(図4D)。COLO 320DM細胞は培養基板に接着しないので、ヒトHeLa細胞で調査した。pSFVdhfrをトランスフェクションすると、これらの細胞においてもHSRを生じた。このような形質転換体をチャンバースライドで培養し、PFAによりin situで固定して、プラスミドプローブを使用したFISHによって解析した。プラスミド配列で構成されるブリッジは、分裂後期(図4A)および分裂終期/細胞質分裂(図4B)で検出された。ブリッジは、G1期の初期(図4C)で破壊された。一部の細胞では、壊れたクロマチンの一部が細胞質に残ったままとなり、微小核を生じた。一方、分裂中期試料におけるHSRのプラスミド配列の大部分は、染色体アームの末端で検出された(たとえば、図1を参照)。これら2つの前提に基づくと、BFBサイクル(図4Eにおいて図解した)は、プラスミド由来のHSRの生成および増大に関与していると結論づけられる。BFBサイクルがプラスミド配列で惹起されるには、プラスミドリピートにおいて頻繁にDNA鎖の切断が生じることが必要である。
複製および転写の間の制御可能な衝突によりHSRが生じる。
pSFVdhfrに由来する10種類のプラスミドを構築した。これらを図5に示した。pSFVdhfrは、2つの薬物選択マーカー遺伝子(ブラスチシジン耐性(Bsr)およびハイグロマイシン耐性(Hyg))を有する。これらのプラスミドをCOLO 320DM細胞にトランスフェクションし、ブラスティサイジンで細胞を選択した。プールした形質転換体のプラスミド分布をFISHによって分析した(図1)。これらのプラスミドについて、3回以上の独立したトランスフェクションおよび解析を行った。DMでシグナルを示す分裂中期細胞の割合は、種々のトランスフェクション間で変動しやすかったが、HSRでシグナルを示す分裂中期細胞の割合は、かなりの再現性があった。代表的な結果を図6に示した。この実験では、トランスフェクションしてから2、3および4週間後に解析した。pSFVdhfrをトランスフェクションした場合、20〜40%の形質転換細胞は、プラスミド配列で構成されたHSRを有していたが(図6A)、pSFV-Vの場合では、全くHSRを有していなかった(図6B)。これは、HSRの生成にDHFR IRが必須であることを示しており、IRからの複製がDNA鎖の切断を誘導しているかもしれないことを示唆した。他方、上記したように、Bsr転写ユニットは、その下流にpoly(A)付加配列を有していない。poly(A)付加は、転写終結に関連しているので(最近の総説については、Ref. Maniatis, T. and Reed, R. An extensive network of coupling among gene expression machines. Nature, 416: 499-506, 2002を参照)、複製がDHFR IRから開始された場合、転写と複製の間で正面衝突することが予想される。増幅されたプラスミド配列は、ダイレクトリピートとして配置され、それぞれの配列間の相互の配向がもとの環状構築物と同じであることは、重要である。そこで、Bsrの下流にpoly(A)配列を配置することとした(pΔBN.polyAおよびpΔB.polyA)。これらのプラスミドをトランスフェクションしてもHSRがほとんど産生されなかったが、もとのプラスミド(pΔBNおよびpΔB)では、多数のHSRを産生した(それぞれ、図6FおよびI〜DおよびGとを比較)。poly(A)シグナルを、転写と複製が衝突するような部位に配置すると、HSRの産生をほとんど完全に抑制することが示された。pΔBでは、pSFVdhfrまたはpΔBN(以下、全部は直さないが、プラスミド表記の統一に注意)よりも比較的低い頻度でHSRを産生した。HSV poly(A)の末端202bpの配列は、pΔBを構築する際に削除されてしまう。しかし、Hygは選択に使用していないにもかかわらず、Hygからの転写が何らかの効果を有しているかもしれない。
さらに、RFBを使用することにより、複製フォーク阻害の効果を確認した。本研究に使用したRFBは、ヒトrDNAリピートに由来する。RFBは、配向依存的にDNA複製フォークの進行を阻止し、その複製の間にもrDNA転写を可能にする(Putter, V. and Grummt, F. Transcription termination factor TTF-I exhibits contrahelicase activity during DNA replication. EMBO Rep., 3: 147-152, 2002)。本実施例により、RFBは、配向依存的にHSRの産生を抑制することが示された(6J図およびK)。すなわち、RFBがDHFR IRからの複製を遮断する配向(pΔB.RFB Dir.)に配置された場合、HSRを有する細胞は観察されなかったが、RFBを逆配向に配置した場合は、よくHSRが観察された(pΔB.RFB Rev.)。後者の場合、複製はBsrからの転写に直接衝突する構造である。これらの結果をあわせると、DHFR IRからの複製がBsrからの転写と衝突する場合に、DNA鎖が破壊されることを示唆している。また、衝突は、IRからの複製を遮断する配向でpoly(A)付加シグナルまたはRFBを配置することによって解消された。
次に、MARの効果について述べる。pΔBN.AR1およびpΔB.AR1は、Bsrの下流に強いMAR活性を示す配列(AR1)を有する。これらのプラスミドをトランスフェクションした結果、この位置にMARを配置すると、HSR産生が増大されることが明らかとなった(図6EおよびHをDおよびGと比較)。この結果から、複製と転写との間にMARが存在すると、DNA鎖の破壊が引き起こされるのであろうと推定される。一方、pINV.NotIをトランスフェクションすると、HSR形成は非常にまれにしか出現しなかった。もとのpSFVdhfrがこのプラスミドと唯一相違する点は、DHFRが挿入されている向きであった。この場合、Bsr転写に関してOrisと内因性MARとの順番が入れ代わっている。もとの構築物では、内因性MARは、Bsrから比較的離れているにもかかわらずDNA鎖の破壊に寄与している。DHFRインサートを入れ換えた場合、複製と転写の間にMARが存在しない構造となる。この結果から、pINV.NotIによってHSRがほとんど生じなかった理由が説明される。さらに、以前の論文で報告した結果も、上記仮定によく適合している(非特許文献2)。すなわち、ネオマイシン抵抗性遣伝子の下流からSV40 3’-プロセシングシグナルが欠失すると、poly(A)付加シグナルとしてだけでなくMARとして機能してHSR形成が完全に抑制された。この構築物では、ネオマイシン抵抗性遣伝子からの転写がMARを挟むことなくc-myc IRからの複製と直接衝突した。SV40配列の代わりに、もう一つのMAR配列(AR1)を挿入すると、非常にHSR形成が観察された。したがって、全てのデータが推測と一致していた。すなわち、複製と転写の間にMARが存在するときにDNA鎖の破壊が引き起こされた。
(考察)
上記実験では、哺乳類IRを有するプラスミドがどのように遺伝子増幅を模倣しているかを示唆した。第一に、トランスフェクションしたプラスミドは、プラスミドタンデムダイレクトリピートからなる大きな環状分子を形成した。現在、このようなダイレクトリピートは、リピート誘導性の遺伝子サイレンシングの標的であることが知られている(McBurney, M. W., Mai, T., Yang, X., and Jardine, K. Evidence for repeatinduced gene silencing in cultured Mammalian cells: inactivation of tandem repeats of transfected genes. Exp. Cell Res., 274: 1-8, 2002)。実際に、逆転写酵素を媒介したPCRを使用した予備実験では、増幅されたプラスミド配列に由来する非常に低い発現が示されている(データ示さず)。さらに、5μg/ml以下のブラスティサイジン(この研究で形質転換体を選択するために使用した)の存在下で増殖するためには、1コピーに由来するBsrの発現のみで十分であった。したがって、IRを有するプラスミドが細胞内で莫大なコピー数に増幅されるのは、適用する選択圧力によるものではなく、プラスミド固有の性質に由来するものであった。
プラスミドリピート環が相互組換えされることにより、DMと見分けがつかない大きさに達するであろう。あるいは、これらの環とあらかじめ存在するDMとの組換えが生じることにより、DMに統合されることとなる。DMに組込まれるためには、環状プラスミドリピートの自律複製および安定性維持が少なくとも限られた時間必要とされると推測される。この推論は、プラスミドがDMに組み込まれるためには、哺乳動物IRおよびMARを有していなければならないことに基づいている。さらに、EBウィルスに基づくプラスミド(このプラスミドは、染色体外の自律複製および分離を示すことが周知である)のトランスフェクションでは、DMにプラスミドシグナルが出現したが、HSRでは出現しなかった(非特許文献2)。IRもMARも有していないpSFV-Vのトランスフェクションでは、頻度は非常に低いが、DMに組み込まれるであろう(図6B)。これは、いずれの配列も、哺乳動物細胞の複製開始部位となる可能性を有することから推論される(Gilbert, D. M. Making sense of eukaryotic DNA replication origins. Science, 294: 96-100, 200135)。
また、コトランスフェクション実験では、トランスフェクションの最初の段階で非相同的な遺伝子組換えが起こることが示された。異なったIRと2つのプラスミドとの間の遺伝子組換えにより、複製と転写の間の衝突が頻繁に生じる構築物を産生する。このようなアイデアは、異なったプラスミドをコトランスフェクションするとHSRのみを生じるがDMは生じなかったこと(図3)の理由となるであろう。すなわち、異なったIRと2つの異なったプラスミドとの間の組換え体は、染色体外で維持されることが困難であり、DMに組み込まれないのであろう。一方、組換え体が染色体アームに組み込まれた場合、これが頻繁に崩壊することによりHSRが効果的に誘導される。培養を続けるとDMにおけるシグナルが減少することが示されているが、HSRでのシグナルの頻度は増加していた(図6)。この結果は、ヒト癌細胞を患者から単離した後に継代していると、DMを有する細胞がHSRに有する細胞に置き換わってしまうことと同様である。これは、プラスミドリピートを有するDMが染色体と再結合し、その結果BFBサイクルを開始してHSRを生じ得ることによって説明される。あるいは、DMにおけるプラスミドリピートは、上記機構によりDNA鎖が破壊される原因にもなるはずである。以前に示したように、DMが切断されると、次のM期において有糸分裂染色体からDMを脱離させた後、細胞からDMを除去されるであろう(Tanaka, T. and Shimizu, N. Induced detachment of acentric chromatin from mitotic chromosomes leads to their cytoplasmic localization at G1 and the micronucleation by lamin reorganization at S phase. J. Cell Sci., 113: 697-707,2000)。
驚くべきことに、ダイレクトリピートは、DMにおいて非常に高コピー数であるにもかかわらず規則正しく配置され、組換え配列の安定性が維持され、並びにDMの配列は非常に安定であった(図2)。これは、DMが破壊された場合、DMが排除されたことによって説明される。
染色体外の分子間における分子間組換えは、非常に一般的なようである。この現象には、核内で、これらが共に局在するという性質が関与しているであろう。DMまたはウイルス性プラスミドなどの細胞体外遺伝因子は、染色体に付着することにより分配され、これらは有糸分裂後に核の周辺部に局在する。また、染色体外遺伝子の組換えは、ヒト癌において生じることが報告されている。すなわち、in vivoにおいて癌細胞で観察される天然の増幅された構造は、複合体であり且つ非連続的であることが既知であり、この構造には、いくつかの遺伝子が共に増幅されたものが含まれている(総説については、Schwab, M. Amplification of oncogenes in human cancer cells. BioEssays, 20: 473-479, 1998を参照)。さらに、コルヒチンによってMDR遺伝子の増幅を誘導すると、890kbpの超顕微鏡的なエピソームが二量体化してDMを生じる(Schoenlein, P. V., Shen, D. W., Barrett, J. T., Pastan, I., and Gottesman, M. M. Double minute chromosomes carrying the human multidrug resistance 1 and 2 genes are generated from the dimerization of submicroscopic circular DNAs in colchicine-selected KB carcinoma cells. Mol. Biol. Cell, 3: 507-520, 1992)。また、DM間で相互に組換えが生じることも示されている。これは、DMsにおいてメチル化レベルが低いことが関与しているかもしれない(Rizwana, R. and Hahn, P. J. CpG methylation reduces genomic instability. J. Cell Sci., 112: 4513-4519, 1999)。
プラスミドダイレクトリピートの大きな環が染色体アームに組み込まれた場合、BFBサイクルが誘導されてHSRの生成が引き起こされた。BFBサイクルは、プラスミド配列が切断されることによって開始されるはずである。実際に、HSRを有する細胞において、プラスミド配列で構成される大きな環状染色体が観察されている(図1E)。これは、HSR内の2つの部位で同時に切断された後、それぞれの末端と再結合した結果であると説明できる。さらに、DM内の増幅されたプラスミドアレーにおいて、組換え配列を同定した(図2D)。これは、ダイレクトリピート内の2カ所が切断されて、各末端が再結合して生じた結合産物である。また、2本鎖切断の代わりに、娘染色分体間における組換えによっても二動原体染色体が生じ、BFBサイクルが開始されることも重要である。
転写と複製との間の衝突により、プラスミドリピート内に破壊を生じ、BFBサイクルが引き起こされることが示唆された。この衝突は、poly(A)付加配列を配置すること、またはIRからの複製を遮断する配向にRFBを配置することによって回避された。細菌またはより下等の真核細胞を使用した多くの研究において、転写と複製との間の衝突により、組換えまたはDNA鎖破壊が誘導されることが記載されている(総説については、Rothstein, R., Michel, B., and Gangloff, S. Replication fork pausing and recombination or "gimme a break". Genes Dev., 14: 1-10, 2000を参照)。また、哺乳類ヒト細胞におけるプラスミドの自律複製は、転写によって抑制されることが報告されている(Haase, S. B., Heinzel, S. S., and Calos, M. P. Transcription inhibits the replication of autonomously replicating plasmids in human cells. Mol. Cell. N. Biol., 14: 2516-2524, 1994)。複製阻害剤によって複製フォークの阻止することにより、DNA鎖破壊が引き起こされるという多数の報告もある(Saintigny, Y., Delacote, F., Vares, G., Petitot, F., Lambert, S., Averbeck, D., and Lopez, B. S. Characterization of homologous recombination induced by replication inhibition in mammalian cells. EMBO J., 20: 3861-3870, 2001)。しかし、実際に哺乳動物複製起点を使用した場合に、衝突によるDNA鎖の破壊およびゲノムの不安定化を生じることは報告されていなかった。
MARを転写と複製との間に配置した場合、DNA鎖破壊が誘導されてHSR形成が検出された。これは、クローン12で同定された組換えには、破壊されたMAR配列が含まれていることと一致していた(図2)。さらに、CHO細胞において、MARは、増幅されたDHFR領域内のアンプリコン間の結合部に位置していた(Dijkwel, P. A. and Hamlin, J. L. Matrix attachment regions are positioned near replication initiation sites, genes, and an interamplicon junction in the amplified dihydrofolate reductase domain of Chinese hamster ovary cells. Mol. Cell. Biol., 8: 5398-5409, 1988)。この場合、もとのCHO細胞におけるDHFR領域の増幅は、メトトレキセートの濃度を増加して細胞を処理することによって誘導された。DHFR転写ユニットおよび複製IRを含む273kbpのアンプリコンは、頭−尾アレーに組み込まれていた。したがって、我々のプラスミドモデルと一致していた。
従来、自律的複製を示すプラスミドの構築が不可能であったため、哺乳動物複製起点の解析が行われることはなかった。本実施例においてDHFR Orisを使用して提供した結果により、複製フォークが実際にIRに由来すること示唆された。さらに、プラスミド配列の安定のためには、転写ユニット、poly(A)付加配列、RFBおよびMAR配列を、複製起点に対して適切に配置することが重要であることが示された。
哺乳類IRを有するプラスミドによって生じた増幅構造を示す写真であって、p6XNBeta(A、B)またはpSFVdhfr(C〜G)をCOLO320DMにトランスフェクトしたときの顕微鏡写真。 増幅された構造の分子解析を行った結果であって、pSFVdhfrのマップ(A)、pSFVdhfr(C〜G)をCOLO320DMにトランスフェクトすることによって得られた安定クローンをサザンブロットハイブリダイゼーションで解析した結果を示す電気泳動写真(B、C)、および接合部配列をもとのpSFVdhfrとともに示した図(D)。 プラスミドDNAまたはファージDNAを同時トランスフェクションすることによって産生される増幅された構造の解析結果を示す顕微鏡写真であって、pSFVdhfrとpNeo.myc-2.4の混合物(A)、ラムダファージとpSFVdhfrの混合物(B、C)、pSFVdhfrとp6XNBetaの混合物(D)、pNeo.myc-2.4とp6XNBetaの混合物(D)、およびpNeo.myc-2.4とラムダファージの混合物(F、G)をCOLO320DMに同時トランスフェクションした結果を示す顕微鏡写真。 BFBサイクルによるHSRの生成を示す顕微鏡写真であって、BFBサイクルによって形成されるHSRの生成の模式図(E)、およびpSFVdhfrでトランスフォーメーションされたHeLa細胞(A〜C)、COLO320DMにpSFVdhfrをトランスフェクションすることによって得たHSRを有するクローン22細胞(D)を示す顕微鏡写真。 実施例において使用したプラスミド構築物の構造を示す模式図。 種々のプラスミド構築物をトランスフェクションすることによる増幅された構造の生成頻度を示す図。

Claims (8)

  1. 哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子を安定化させるためのベクターであって、哺乳動物細胞内で機能する複製開始領域および核マトリックス結合領域を含み、
    該ベクターの複製開始領域からの複製フォークと該ベクターに組み込まれた任意の遺伝子からの転写が正面衝突する領域に、複製開始領域からの複製フォークを阻害する配列を、複製開始領域からの複製を遮断する配向に配置した構造であることを特徴とするベクター。
  2. 哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子を安定化させるためのベクターであって、哺乳動物細胞内で機能する複製開始領域および核マトリックス結合領域を含み、
    該ベクターの複製開始領域からの複製フォークと該ベクターに組み込まれた任意の遺伝子からの転写が正面衝突する領域に、poly(A)付加配列を含む構造であることを特徴とするベクター。
  3. 哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子を安定化させるためのベクターであって、哺乳動物細胞内で機能する複製開始領域および核マトリックス結合領域を含み、
    該ベクターの複製開始領域からの複製フォークと該ベクターに組み込まれた任意の遺伝子からの転写が正面衝突する領域に、核マトリックス結合領域を含まない構造であることを特徴とするベクター。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のベクターであって、さらに薬剤耐性遺伝子を含むことを特徴とするベクター。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のベクターであって、さらに目的遺伝子を含むことを特徴とするベクター。
  6. 請求項4または5に記載のベクターであって、
    前記任意の遺伝子は、目的遺伝子または薬剤耐性遺伝子であることと、
    前記転写は、前記目的遺伝子または前記薬剤耐性遺伝子の転写であることを特徴とするベクター。
  7. 哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子を安定化させる方法であって、請求項5に記載の組換え型ベクターを前記哺乳動物細胞にトランスフェクションすることを含む方法。
  8. 哺乳動物細胞内にトランスフェクションした遺伝子を安定化させる方法であって、
    請求項1〜4のいずれか一項に記載のベクターを前記哺乳動物細胞にトランスフェクションすることと、および
    目的遺伝子を含むベクターを前記哺乳動物細胞にトランスフェクションすることと、
    を含む方法。
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