JP4119069B2 - 車両の横転判定方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両のロール角およびロール角速度に基づいて該車両が横転する可能性の有無を判定するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両のロール角およびロール角速度をパラメータとする二次元マップ上で、ロール角およびロール角速度が大きいところ(原点から離れた領域)に横転領域を設定するとともに、ロール角およびロール角速度が小さいところ(原点を含む領域)に非横転領域を設定し、センサで検出した実際のロール角およびロール角速度をマップ上にプロットした履歴ラインが前記非横転領域から前記横転領域に入ったとき、車両が横転する可能性が有ると判定してアクティブロールバーを起立させるものが、特開平7−164985号公報により公知である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、車両がローリングして横転に至る過程において、先ずロールセンターを中心として左右の懸架ばねの一方が伸長し、他方が収縮しながらロール角が増加する。続いてロール角がフルバンプロール角に達して左右の懸架ばねがそれ以上伸縮できなくなると、懸架ばねが収縮した側の車輪の接地点を中心としてロール角が更に増加して横転に至ることになる。即ち、ロール角がフルバンプロール角に達しない限り車両は横転しないことになる。図9には車両のロール角θがフルバンプロール角θFBに達した状態が示される。
【0004】
しかしながら、横転可能性の判定に用いられる従来の二次元マップの横転領域は、ロール角θがフルバンプロール角θFB未満の領域にまで延びており、実際には車両が横転する可能性が殆ど無いにも拘わらず横転可能性が有ると誤判定される可能性があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、車両のロール角およびロール角速度に基づいて該車両が横転する可能性の有無を判定する際に、車両の横転可能性の判定精度を高めることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車両のロール角およびロール角速度をパラメータとする二次元マップ上に敷居値ラインを設定し、車両の実際のロール角およびロール角速度の履歴ラインが前記敷居値ラインの原点側の非横転領域から反原点側の横転領域に横切ったときに車両が横転する可能性が有ると判定する車両の横転判定方法において、ロール角がフルバンプロール角以上の領域に前記横転領域を設定したことを特徴とする車両の横転判定方法が提案される。
【0007】
上記構成によれば、ロール角がフルバンプロール角以上の領域に横転領域を設定したので、車両のロール角が増加してフルバンプロール角に達する以前にロール角が減少して横転に至らない場合には、ロール角およびロール角速度の履歴ラインが敷居値ラインを非横転領域から横転領域に横切ることがないため、横転可能性有りの誤判定がなされるのを防止して判定精度を高めることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0009】
図1〜図9は本発明の一実施例を示すもので、図1は車両の横転の種類を示す図、図2はロール角θおよびロール角速度ωと車両の横転可能性との関係を説明する図、図3は車両の横転可能性の有無を判定するためのマップ、図4はエアカーテンの制御系のブロック図、図5は横加速度Gyからロール角θの初期値θiを算出する手法の説明図、図6は履歴ラインが横転領域にあるか非横転領域にあるかを判定する手法を示す図、図7は作用を説明するフローチャート、図8は車両が横転に至らないロールバックモードの説明図、図9は車両のフルバンプロール角θFBの説明図である。
【0010】
図1は車両の横転の種類を原因別に分類して示すものである。車両の横転の種類は、横転に至る過程における車両挙動に応じて「単純回転」、「単純回転+横滑り速度」および「発散」に分類され、「単純回転」型の横転は、更に「フリップオーバー」、「クライムオーバー」および「フォールオーバー」に細分類される。「単純回転+横滑り速度」型の横転の代表的なものは「トリップオーバー」と呼ばれ、また「発散」型の横転の代表的なものは「ターンオーバー」と呼ばれる。
【0011】
「フリップオーバー」は、車両の左右一方の車輪が障害物に乗り上げて発生する横転である。「クライムオーバー」は、底部を障害物に乗り上げてタイヤが路面から浮き上がった車両が側方に倒れて発生する横転である。「フォールオーバー」は、車両の左右一方の車輪が路肩を踏み外して落下する横転である。「トリップオーバー」は、車両が横滑りして左右一方のタイヤが縁石等に衝突したときに、この縁石を支点とするロールモーメントにより発生する横転である。「ターンオーバー」は、ダブルレーンチェンジやトリプルレーンチェンジを行うべく、あるいはS字路を通過すべくステアリングホイールを左右に交互に操作したような場合に、そのステアリングホイールの操作の周波数が車両のサスペンションの固有振動の周波数に接近していると、車両のロール角が共振により発散して発生する横転である。
【0012】
図2は車両の横転可能性を判定するための二次元マップの一部(第1象限)を示すもので、縦軸のロール角θは正値(原点の上側)が右ロール角に対応し、横軸のロール角速度ωは正値(原点の右側)が右ロール角速度に対応する。この二次元マップには右下がりの直線と横軸に平行な直線とよりなる折れ線状の敷居値ラインSが設定されており、敷居値ラインSの原点側、つまりロール角θおよびロール角速度ωが小さい領域が非横転領域とされ、敷居値ラインSの反原点側、つまりロール角θおよびロール角速度ωが大きい領域が横転領域とされる。そして車両の実際のロール角θおよびロール角速度ωの履歴ラインH1〜H3が敷居値ラインSを原点側の非横転領域から反原点側の横転領域に横切ると、車両の横転可能性が有ると判定される。
【0013】
履歴ラインH1は、ロール角θおよびロール角速度ωが共に0の状態(原点)から、ロール角速度ωを0にほぼ保持したままロール角θだけをゆっくりと増加させた場合であり、敷居値ラインSが縦軸と交わる切片であるa点においてロール角θが臨界ロール角θCRTに達したときに車両の横転可能性が有ると判定される。このときローリングの支点となるロール方向外側のタイヤを通る鉛直線上に車両の重心位置CGがあり、この状態が車両の横転についての静的な安定限界となる。臨界ロール角θCRTの値は車両の形状や積載状態によって異なるが、一般的に50°程度である。
【0014】
尚、ロール角θが0であっても、大きいロール角速度ωが作用していれば車両が横転する可能性がある。このときのロール角速度ωを臨界ロール角速度ωCRTとする。
【0015】
車両がロール角θの方向と同方向のロール角速度ωを持つ場合には、このロール角速度ωによって横転が助長されるため、ロール角θが臨界ロール角θCRTより小さい状態であっても横転が発生することになる。例えば、ロール角θおよびロール角速度ωの履歴ラインがH2で示される場合、履歴ラインH2が敷居値ラインSを原点側から反原点側に横切るb点において車両の横転可能性が有ると判定される。このときのロール角θは前記臨界ロール角θCRTよりも小さい値となる。
【0016】
またロール角θおよびロール角速度ωの履歴ラインがH3で示される場合には、正値のロール角速度ωが速やかに増加から減少に転じ、更に負値へと移行するために履歴ラインH3が敷居値ラインSを横切ることがなく、従って車両の横転可能性が無いと判定される。
【0017】
図3は車両の横転可能性を判定するための二次元マップの全体を示すものである。2本の敷居値ラインS,Sは第1象限および第3象限に設定されており、それらの敷居値ラインS,Sは初期設定状態において原点を中心とする点対称である。ロール角θが正でロール角速度ωが負である第2象限と、ロール角θが負でロール角速度ωが正である第4象限とに横転領域が設定されていないのは、ロール角θの方向と逆方向のロール角速度ωが発生している状態では車両の横転が発生しないからである。 図3には、図1で説明した種々の横転の種類に対応するロール角θおよびロール角速度ωの履歴ラインH4〜H8が示される。
【0018】
履歴ラインH4は、「フリップオーバー」、「クライムオーバー」、「フォールオーバー」等の「単純回転」型の横転に対応するもので、ロール角θの絶対値およびロール角速度ωの絶対値が単純に増加して横転に至っている。
【0019】
履歴ラインH5は、「トリップオーバー」と呼ばれる「単純回転+横滑り速度」型の横転に対応するもので、車両が横滑りする過程でタイヤが縁石等に衝突して発生するロールモーメントによりロール角速度ωが急激に増加して横転に至っている。
【0020】
履歴ラインH6,H7は、「ターンオーバー」と呼ばれる「発散」型の横転に対応するものである。履歴ラインH6はダブルレーンチェンジでの横転を示すもので、最初のレーンチェンジで右にロールした車両が次のレーンチェンジで左にロールする過程でロール角θの絶対値が発散し、第3象限の敷居値ラインSを越えて横転に至っている。履歴ラインH7はトリプルレーンチェンジでの横転を示すもので、最初のレーンチェンジで右にロールした車両が次のレーンチェンジで左にロールし、続くレーンチェンジで再度右にロールする過程でロール角θの絶対値が発散し、第1象限の敷居値ラインSを越えて横転に至っている。
【0021】
履歴ラインH8は、敷居値ラインSを越える前にロール角θが原点に向かって収束するので、この場合には車両が横転に至ることはない。
【0022】
図4は、車両の横転時に乗員の頭部を保護するエアカーテンを車室の内側面に沿って展開するための制御系の一例を示すものである。
【0023】
バッテリ11および接地部12間に、エアカーテンを展開するための高圧ガスを発生するインフレータ13と、点火トランジスタ14とが直列に接続される。電子制御ユニットUからの指令で点火トランジスタ14がONするとインフレータ13が点火して高圧ガスが発生し、この高圧ガスの供給を受けたエアカーテンが車室の内側面に沿って展開する。車両の横転可能性の有無を判定すべく、電子制御ユニットUには、車体左右方向の加速度である横加速度Gyを検出する横加速度センサ15からの信号と、車両のロール角速度ωを検出するロール角速度センサ16からの信号とが入力される。
【0024】
図4および図5に示すように、車体に固定した横加速度センサ15はイグニッションスイッチをONしたときの横加速度Gyを出力する。イグニッションスイッチをONしたとき車両は停止状態にあるため、車両の旋回に伴う遠心力に起因する横加速度を検出することなく、重力加速度G=1の車体左右方向の成分だけを横加速度Gyとして検出する。従って、前記横加速度Gyを用いて、車両のロール角θの初期値θiを、θi=sin -1Gyにより算出することができる。
【0025】
以上のようにしてイグニッションスイッチをONしたときの横加速度センサ15の出力に基づいて車両のロール角θの初期値θiが算出されると、この初期値θiにロール角θの変動分を加算することにより車両のロール角θが算出される。即ち、イグニッションスイッチをONした時点から、ロール角速度センサ16が出力するロール角速度ωの積分値∫ωdtをロール角θの変動分として前記初期値θiに加算することにより、車両のロール角θが算出される。
【0026】
横加速度センサ15は、車両の自由落下時には横加速度Gyを検出できず、また車両の旋回に伴う遠心力に起因する横加速度を、重力加速度Gの車体左右方向の成分である横加速度Gyと識別できずに誤検出してしまうというデメリットを持つが、この横加速度センサ15が出力する横加速度GyをイグニッションスイッチをONした時点での車両のロール角θの初期値θiの算出にだけ使用し、その後の車両のロール角θの算出にはロール角速度センサ16が出力するロール角速度ωの積分値∫ωdtを使用することにより、上記デメリットを解消して正確なロール角θを算出することができる。
【0027】
而して、上述のようにして算出した車両のロール角θと、ロール角速度センサ16が出力するロール角速度ωとが成す座標点の軌跡である履歴ラインを図6に示すマップ上に描き、その履歴ラインが敷居値ラインS,Sを原点側から反原点側に横切ったときに、車両が横転する可能性が有ると判定し、点火トランジスタ14をONしてエアカーテンのインフレータ13を点火する。
【0028】
上記作用を、図6および図7に基づいて更に説明する。
【0029】
先ず、ステップS1で横加速度Gyおよびロール角速度ωを読み込み、ステップS2で横加速度Gyに応じてマップ上の敷居値ラインS,Sを確定する。敷居値ラインS,Sの斜めの部分は、マップの縦軸の切片である臨界ロール角θCRTと横軸の切片である臨界ロール角速度ωCRTとが決まれば確定する。本実施例では横加速度Gyによって車両の横転が助長されるときには、臨界ロール角θCRTおよび臨界ロール角速度ωCRTが共に減少して敷居値ラインS,Sの斜めの部分が原点に近づく方向に移動し、横加速度Gyによって車両の横転が抑制されるときには、臨界ロール角θCRTおよび臨界ロール角速度ωCRTが共に増加して敷居値ラインS,Sの斜めの部分が原点から遠ざかる方向に移動する。これにより、車両の横加速度Gyに応じた適切な横転領域および非横転領域を設定することができる。また、敷居値ラインS,Sの水平な部分、つまりθ=±θFBのラインは車両に固有のフルバンプ角θFB(一般的に8°±2°前後)に応じて決定され、横加速度Gyに応じて移動することはない。
【0030】
尚、第1象限の敷居値ラインSが原点から遠ざかる方向に移動するときには第3象限の敷居値ラインSは原点に近づく方向に移動し、第1象限の敷居値ラインSが原点に近づく方向に移動するときには第3象限の敷居値ラインSは原点から遠ざかる方向に移動する。
【0031】
臨界ロール角θCRTおよび臨界ロール角速度ωCRTが決まると、敷居値ラインS,Sの斜めの部分の方程式は、
θ=−(θCRT/ωCRT)ω±θCRT
で与えられる(図3参照)。
【0032】
続いて、現在のロール角θ1およびロール角速度ω1の成す座標点Pが横転領域にあるか非横転領域にあるかを判定する。即ち、ステップS3で、上記敷居値ラインSの斜めの部分の方程式のωに現在のロール角速度ω1の値を代入して判定値θ2を算出する。判定値θ2は直線ω=ω1と敷居値ラインSとの交点Qのθ座標である。続くステップS4で、判定値θ2と現在のロール角θ1とを比較して|θ2|<|θ1|が成立しており、かつステップS5でθFB<|θ1|が成立していれば、ステップS6で現在のロール角θ1およびロール角速度ω1の成す座標点Pが横転領域にあると判定される。また前記ステップS3で|θ2|<|θ1|が成立しない場合と、前記ステップS5でθFB<|θ1|が成立しない場合とには、ステップS7で現在のロール角θ1およびロール角速度ω1の成す座標点Pが非横転領域にあると判定される。図6には、座標点Pが横転領域にある場合が示されている。
【0033】
図8にH9で示す履歴ラインは、車両が左に傾斜した状態から右方向にローリングして逆に右に傾斜した状態になったが、右方向のロール角θがフルバンプロール角θFBに達する前にロール角θが0に向かって収束し、横転に至らない場合を示している(ロールバックモード)。H10で示す履歴ラインは、前記H9で示す履歴ラインと、車両のローリングの方向が逆の場合である。これらの場合には履歴ラインH9,H10が敷居値ラインS,Sを原点側から反原点側に越えていないため、車両の横転可能性が無いと正しい判定を下すことができる。
【0034】
しかしながら、仮に敷居値ラインS,Sが斜めの部分だけから構成されており、敷居値ラインS,Sの水平な部分(θ=±θFB)が存在しなければ、履歴ラインH9,H10が敷居値ラインS,Sの斜めの部分を原点側から反原点側に越えているため、車両の横転可能性が有ると誤った判定が下されてしまう。
【0035】
以上のように、車両のロール角θがフルバンプロール角θFB以上の領域に限って横転領域を設定することにより、車両の横転可能性の判定精度を高めて誤判定の発生を防止することができる。
【0036】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0037】
例えば、実施例では車両の横転可能性の有無の判定をエアカーテンの展開制御に適用しているが、それをサイドエアバッグの展開制御や格納式ロールバーの展開制御等の他の用途に適用することができる。また車両のロール角θの初期値θiを、重力加速度Gの車体上下方向の成分である上下加速度Gzを用いて、θi=cos -1Gzにより算出することができる。
【0038】
【発明の効果】
以上のように請求項1に記載された発明によれば、ロール角がフルバンプロール角以上の領域に横転領域を設定したので、車両のロール角が増加してフルバンプロール角に達する以前にロール角が減少して横転に至らない場合には、ロール角およびロール角速度の履歴ラインが敷居値ラインを非横転領域から横転領域に横切ることがないため、横転可能性有りの誤判定がなされるのを防止して判定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】車両の横転の種類を示す図
【図2】ロール角θおよびロール角速度ωと車両の横転可能性との関係を説明する図
【図3】車両の横転可能性の有無を判定するためのマップ
【図4】エアカーテンの制御系のブロック図
【図5】横加速度度Gyからロール角θの初期値θiを算出する手法の説明図
【図6】履歴ラインが横転領域にあるか非横転領域にあるかを判定する手法を示す図
【図7】作用を説明するフローチャート
【図8】車両が横転に至らないロールバックモードの説明図
【図9】車両のフルバンプロール角θFBの説明図
【符号の説明】
S 敷居値ライン
θ ロール角
θFB フルバンプロール角
ω ロール角速度

Claims (1)

  1. 車両のロール角(θ)およびロール角速度(ω)をパラメータとする二次元マップ上に敷居値ライン(S)を設定し、車両の実際のロール角(θ)およびロール角速度(ω)の履歴ラインが前記敷居値ライン(S)の原点側の非横転領域から反原点側の横転領域に横切ったときに車両が横転する可能性が有ると判定する車両の横転判定方法において、
    ロール角(θ)がフルバンプロール角(θFB)以上の領域に前記横転領域を設定したことを特徴とする車両の横転判定方法。
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