JP4116404B2 - ナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法及び決定装置並びにナノ粒子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法及び決定装置並びにナノ粒子の製造方法並びにナノ粒子の粒径分布推定方法に関する。
【0002】
【従来技術】
物質のナノ粒子化は、極端な表面積の増大をもたらす。このため、ナノ粒子とその周囲との反応性が高まり、且つ物質固有の性質が出現しやすくなる。また、粒子が難溶性・不溶性の物質である場合、そのナノ粒子化によりナノ粒子を溶媒中に擬似的に可溶化した状態(ナノ粒子が溶媒中に懸濁している状態であるが、光散乱がないため擬似的に可溶化しているように見える状態)にすることもできる。
【0003】
このため、ナノ粒子化の技術は、新しい物質の調合方法を提供できる可能性があり、幅広い分野での応用が期待される。
【0004】
このようなナノ粒子化の方法として、従来、特開2001−113159号公報に開示されるものが知られている。同公報には、有機化合物を溶媒中に分散させた後、レーザ光を照射することによって、この有機化合物の微粒子(ナノ粒子)を得るナノ粒子化方法が開示されている。そして、このナノ粒子化方法においては、レーザ光照射条件の一つであるレーザ光照射波長は、微粒子化する有機化合物の吸収波長に合せて決定される。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−113159号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述した従来の公報に記載のレーザ光照射条件の決定方法は、以下に示す課題を有していた。
【0007】
すなわち有機化合物のナノ粒子化において、レーザ光の有機物化合物に対する作用が、有機物化合物の種類、懸濁粒子の粒径分布および濃度に応じて異なるため、個々のサンプルについて最適なレーザ光照射条件を把握する必要がある。
【0008】
また上記公報に記載の方法では、ナノ粒子化処理におけるレーザ光照射時間やレーザ光照射強度が決定されていない。このため、例えば、ナノ粒子化に効率的でないレーザ光強度が選択されたり、レーザ光の照射が時間的及び強度的に過剰に行われたり不足したりする場合がある。その場合には、レーザ光照射に対するナノ粒子化のエネルギー効率が悪くなるか、有機化合物のナノ粒子化が十分に行われなくなる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射条件を的確に決定することができるナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法及び決定装置並びにナノ粒子の製造方法、並びにナノ粒子の粒径分布推定方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、被処理液中の物質をナノ粒子化する際に観測される衝撃波について解析を行うことにより、効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射条件を的確に決定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、被処理液中の物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法において、被処理液にレーザ光を照射し、懸濁物質をナノ粒子化処理してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波を観測する衝撃波観測工程と、衝撃波観測工程で観測される衝撃波の強度について解析を行うことによりナノ粒子化処理におけるレーザ光照射条件を決定する解析工程とを含み、解析工程が、観測される衝撃波の強度とレーザ光照射時間との関係を求める第1工程と、第1工程で求められる関係に基づいて、レーザ光照射時間に対する衝撃波の強度の変化率を算出し、その変化率が所定値以下の値に達した時の時間をナノ粒子化処理におけるレーザ光照射時間として決定する第2工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、観測される衝撃波について解析を行うことにより、衝撃波の周波数成分振幅と周波数成分との関係を求めることができ、この関係からレーザ光照射波長依存性を調べることにより、効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射波長を的確に決定することができる。また衝撃波の周波数成分振幅と周波数成分との関係からレーザ光照射強度依存性を調べることにより、効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射強度を的確に決定することもできる。更に衝撃波のレーザ光照射時間依存性を調べることにより、効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射時間を的確に決定することもできる。
【0013】
上記解析工程は、観測される衝撃波の強度とレーザ光照射時間との関係を求める第1工程と、前記第1工程で求められる関係から、前記レーザ光照射時間に対する前記衝撃波の強度の変化率を算出し、その変化率が所定値以下の値に達した時の時間をナノ粒子化処理におけるレーザ光照射時間として決定する第2工程とを含む。
【0014】
本発明者は、被処理液中の物質のナノ粒子化に際して観測される衝撃波の振幅が、ナノ粒子化が進行するにつれて減衰することから、レーザ光照射時間に対する衝撃波の強度の変化率がナノ粒子化進行の目安となることを見出した。ここで、レーザ光照射時間に対する衝撃波の強度の変化率が所定値を超える状態では、まだナノ粒子化処理が進行しており、変化率が所定値に達した時点でナノ粒子化処理の進行がほぼ停止しているものと推定できる。よって、この方法により、効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射時間を的確に決定することができる。
【0015】
また本発明は、被処理液中の物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法において、被処理液にレーザ光を照射し、前記物質をナノ粒子化処理してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波の強度を観測してこの衝撃波について周波数解析を行い、周波数成分振幅と周波数成分との関係を求め、この関係に基づいて特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出する第1工程と、第1工程で算出される周波数成分振幅とレーザ光照射時間との関係を求める第2工程と、第2工程で求められる関係に基づいて、レーザ光照射時間に対する周波数成分振幅の変化率を算出し、その変化率が所定値以下の値に達した時の時間をナノ粒子化処理におけるレーザ光照射時間として決定する第3工程とを含むことを特徴とするナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法である。
【0016】
この発明によれば、レーザ光照射時間に対する周波数成分振幅の変化率が算出され、この変化率はナノ粒子化進行の目安となる。ここで、レーザ光照射時間に対する観測衝撃波強度の変化率が所定値を超える状態では、まだナノ粒子化処理が進行しており、変化率が所定値に達した時点でナノ粒子化処理の進行がほぼ停止しているものと推定できる。よって、この方法により、効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射時間を的確に決定することができる。 また本発明は、被処理液中の物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法において、被処理液にレーザ光を照射し、物質をナノ粒子化処理してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波の強度を観測してこの衝撃波について周波数解析を行い、周波数成分振幅と周波数成分との関係を求め、この関係に基づいて特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出する工程を、前記レーザ光の波長を変えて複数回行う第1工程と、前記第1工程で算出される周波数成分振幅とレーザ光照射波長との関係を求める第2工程と、前記第2工程で求められる関係に基づいて、周波数成分振幅が最大となるレーザ光照射波長を算出し、そのレーザ光照射波長を、ナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射波長として決定する第3工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
この方法によれば、観測した衝撃波について周波数解析を行うことにより周波数成分振幅と周波数成分との関係が求められる。ここで、特定の周波数成分において周波数成分振幅が大きいほど、レーザ光と物質との作用が大きいことを示している。従って、特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出し、この工程を、レーザ光照射波長を変えて複数回行い、周波数成分振幅のレーザ光照射波長依存性を調べ、周波数成分振幅が最大となるレーザ光照射波長を調べることで、物質とレーザ光との作用が最大となるレーザ光照射波長、すなわち効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射波長を的確に決定することができる。
【0018】
更に本発明は、被処理液中の物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法において、前記被処理液にレーザ光を照射し、前記物質をナノ粒子化処理してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波の強度を観測してこの衝撃波について周波数解析を行い、周波数成分振幅と周波数成分との関係を求め、この関係に基づいて特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出する工程を、前記レーザ光照射強度を変えて複数回行う第1工程と、前記第1工程で算出される周波数成分振幅とレーザ光照射強度との関係を求める第2工程と、前記第2工程で求められる関係に基づいて、レーザ光強度に対する周波数成分振幅の変化率が最大となるレーザ光照射強度を算出し、その値以上のレーザ光照射強度を、ナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射強度として決定する第3工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
この方法によれば、観測した衝撃波について周波数解析を行うことにより周波数成分振幅と周波数成分との関係が求められる。ここで、特定の周波数成分において周波数成分振幅が大きいほど、レーザ光と物質との作用が大きいことを示している。従って、特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出し、この工程を、レーザ光照射強度を変えて複数回行い、周波数成分振幅のレーザ光照射強度依存性を調べることで、物質とレーザ光との作用が大きくなるレーザ光照射強度、すなわち効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射強度を的確に決定することができる。
【0020】
また本発明は、被処理液中のナノ粒子の粒径分布推定方法であって、被処理液中の物質にレーザ光を照射し、前記物質をナノ粒子化処理して前記ナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波の強度を観測する衝撃波観測工程と、衝撃波観測工程で観測される衝撃波について周波数解析を行うことによりナノ粒子化処理で生成されるナノ粒子の粒径分布を推定する周波数解析工程とを含むことを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、被処理液中の物質をレーザ光照射によりレーザ粉砕してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波の強度を観測し、この衝撃波について周波数解析を行うと、周波数成分振幅と周波数との関係が求められる。ここで、粒径の大きいナノ粒子ほど振動周期の長い衝撃波を生じる傾向があり、逆に粒径の小さいナノ粒子ほどは振動周期の短い衝撃波が観測される傾向がある。つまり、ナノ粒子の粒径が大きいほど衝撃波の周波数は小さく、ナノ粒子の粒径が小さいほど衝撃波の周波数は大きくなる傾向がある。この理由として、小さい粒径のナノ粒子ほどレーザ光照射時の光作用が小さいこと、及び液相中では小さい粒径のナノ粒子ほど粘性の影響が大きいことから、レーザ光照射時に分割された分割片(ナノ粒子)の初期速度が遅く且つ粘性の影響で分割片が短い制動距離で停止してしまうため、分割片の移動に基づく衝撃波の振動周波数が大きくなることが考えられる。上記理由から、周波数成分振幅と周波数成分との関係自体が粒径分布を表すことになる。この場合、周波数が粒径の逆数に対応し、周波数成分振幅は各粒径ごとの粒子の割合(粒度)に対応する。こうして、衝撃波の周波数解析によりナノ粒子の粒径分布を容易に推定することが可能となる。
【0022】
また本発明は、被処理液中の物質にレーザ光を照射してナノ粒子を製造するナノ粒子の製造方法において、前記被処理液と同一の被処理液について、上記レーザ光照射条件の決定方法によりレーザ光照射条件を決定するレーザ光照射条件決定工程と、レーザ光照射条件決定工程で決定されるレーザ光照射条件で被処理液にレーザ光を照射するレーザ光照射工程とを含むことを特徴とする。
【0023】
この製造方法によれば、上記レーザ光照射条件の決定方法により効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射条件が的確に決定され、こうして決定されたレーザ光照射条件で被処理液にレーザ光が照射される。ここで、決定されるレーザ光照射条件がレーザ光照射時間である場合、この条件で被処理液にレーザ光が照射されることにより、少ないエネルギーでナノ粒子を十分に製造することができる。また、決定されるレーザ光照射条件がレーザ光照射波長である場合、この条件で被処理液にレーザ光が照射されることにより、物質とレーザ光との作用を大きくすることができ、ナノ粒子を効率的に製造することができる。更に、決定されるレーザ光照射条件がレーザ光照射強度である場合、この条件で被処理液にレーザ光が照射されることにより、物質とレーザ光との作用を大きくすることができ、ナノ粒子を効率的に製造することができる。
【0024】
また本発明は、被処理液中の物質にレーザ光を照射してナノ粒子を製造するナノ粒子の製造方法において、前記被処理液と同一の被処理液について、上記レーザ光照射条件の決定方法によりレーザ光照射条件としてのレーザ光照射時間を決定する第1レーザ光照射条件決定工程と、上記レーザ光照射条件の決定方法によってレーザ光照射条件としてのレーザ光照射波長を決定する第2レーザ光照射条件決定工程と、上記レーザ光照射条件の決定方法によってレーザ光照射条件としてのレーザ光照射強度を決定する第3レーザ光照射条件決定工程と、前記第1〜第3レーザ光照射条件決定工程で決定されるレーザ光照射時間、レーザ光照射波長及びレーザ光照射強度で前記被処理液に前記レーザ光を照射するレーザ光照射工程とを含み、前記第1〜第3レーザ光照射条件決定工程を同時に又は任意の順序で行うことを特徴とする。
【0025】
この製造方法によれば、上記レーザ光照射条件の決定方法により効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射時間、レーザ光照射波長及びレーザ光照射強度が決定され、こうして決定されたレーザ光照射条件で被処理液にレーザ光が照射される。このため、ナノ粒子を極めて効率よく製造することができる。
【0026】
また本発明は、被処理液中の物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定装置において、被処理液を収容する処理チャンバと、被処理液中の前記物質にレーザ光を照射するレーザ装置と、処理チャンバ内で発生する衝撃波の強度を観測する衝撃波観測装置と、衝撃波観測装置により観測される衝撃波について解析を行い、ナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件を決定する解析装置とを備え、解析装置が、レーザ光照射時間に対する衝撃波の振幅の変化率を求めることが可能であると共に、衝撃波を周波数解析して周波数振幅成分と周波数成分との関係を求めることが可能な波形解析装置であることを特徴とする。
【0027】
このレーザ光照射条件の決定装置によれば、レーザ装置により、処理チャンバ内の被処理液にレーザ光が照射され、衝撃波観測装置で被処理液中の物質のナノ粒子化により観測される衝撃波が観測され、この衝撃波について解析装置で解析が行われるため、上記方法の発明を有効に実施することができる。
【0028】
上記解析装置は、レーザ光照射時間に対する衝撃波の振幅の変化率を求めることが可能であると共に、衝撃波を周波数解析して周波数振幅成分と周波数成分との関係を求めることが可能な波形解析装置である。
【0029】
この決定装置によれば、衝撃波観測装置で観測される衝撃波について、波形解析装置によりレーザ光照射時間に対する衝撃波の周波数成分振幅の変化率が求められる。このため、この変化率が所定値以下の値に達する時のレーザ光照射時間を算出することができる。ここで、上記変化率が所定値以下の値に達した時には、ナノ粒子化がほとんど進行していない。従って、上記決定装置により、少ないエネルギーでナノ粒子化処理を十分に行わせることができるレーザ光照射時間を的確に決定することができる。また衝撃波について、波形解析装置により周波数解析がなされ、周波数振幅成分と周波数成分との関係が求められる。このため、この関係に基づいて特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出する工程を、レーザ光照射波長を変えて複数回行い、周波数成分振幅が最大となるレーザ光照射波長を算出することで、物質とレーザ光とが最も大きく作用するレーザ光照射波長を的確に決定することができる。更に、特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出する工程を、レーザ光照射強度を変えて複数回行い、レーザ光強度に対する周波数成分振幅の変化量が最大となるレーザ光照射強度を算出することで、レーザ光と物質とが大きく作用するレーザ光照射強度を的確に決定することができる。さらに、上記決定装置は、波形解析装置により周波数成分振幅と周波数との関係を求めることが可能となる。ここで、上述したように、周波数成分振幅と周波数はナノ粒子の粒径分布を表すことになる。したがって、上記決定装置により、ナノ粒子の粒径分布を容易に推定することが可能となる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0031】
まず本発明に係るナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定装置(以下、「決定装置」と呼ぶ)について説明する。
【0032】
図1は、本発明の決定装置の一実施形態を示す概略図である。図1に示すように、決定装置1は、懸濁物質で懸濁された被処理液2を収容する処理チャンバ3と、処理チャンバ3内の被処理液2を撹拌する撹拌装置4と、処理チャンバ3に設けられ、処理チャンバ3内の被処理液2で発生する衝撃波の強度を観測する衝撃波観測センサ(衝撃波観測装置)5と、衝撃波観測センサ5で観測される衝撃波について解析を行う解析装置6とを備えている。また決定装置1は、処理チャンバ3内に収容される被処理液2にレーザ光7を照射し、懸濁物質を粉砕してナノ粒子を製造するレーザ装置8を備えている。被処理液2としては、例えば水にバナジルフタロシアニン(以下、「VOPc」という)粒子を懸濁させたものが用いられる。なお、本実施形態では、直径数μm〜10μmの懸濁粒子を処理対象としているが、本発明に不可欠な衝撃波の発生は物質の形態に依存しないため、処理対象となる物質の形態は特に限定されるものではない。本実施形態では、懸濁粒子として有機化合物であるVOPcが用いられているが、懸濁粒子は、VOPcに限らず、他の有機化合物であってもよい。また、懸濁粒子は、無機化合物や金属であってもよい。
【0033】
処理チャンバ3は、レーザ装置8から出射されるレーザ光7の波長に対して透明な材質のもの、例えば石英などが用いられる。撹拌装置4は、例えば撹拌子4aとマグネットスターラ4bとで構成される。
【0034】
レーザ装置8は、被処理液2中の懸濁物質にレーザ光を照射し且つそのレーザ光の波長及び強度を変えることが可能なものである。このようなレーザ装置8としては、例えばパラメトリック発振を利用した波長可変レーザ、複数の異なる波長を有するレーザ群と波長セレクターを組合せた離散波長選択型レーザ、色素レーザなどが用いられる。
【0035】
解析装置6は、例えば解析装置6で得られた結果に基づきレーザ装置8を制御し、レーザ光の照射波長及び照射強度又はこれらのいずれか一方を調整するものである。解析装置6は、レーザ光照射時間に対する衝撃波の振幅の変化率を求めることが可能であると共に、衝撃波を周波数解析して周波数振幅成分と周波数成分との関係を求めることが可能な波形解析装置であることが好ましい。このような波形解析装置としては、例えばFFTスペクトルアナライザーなどが用いられる。
【0036】
次に、上記決定装置1を用いたレーザ光照射条件の決定方法について説明する。
【0037】
(レーザ光照射時間の決定方法)
まずレーザ光照射条件としてのレーザ光照射時間の決定方法について説明する。
【0038】
この場合、撹拌装置4により被処理液2の撹拌を開始する。そして、レーザ装置8を作動し、処理チャンバ3内の被処理液2にレーザ光を照射して被処理液2中の懸濁物質をナノ粒子化処理する。このとき、懸濁物質のナノ粒子化により衝撃波が発生する。発生した衝撃波は衝撃波観測センサ5で観測する(衝撃波観測工程)。
【0039】
衝撃波観測センサ5で観測された衝撃波については、解析装置6で解析を行う(解析工程)。
【0040】
このとき、解析装置6においては、まず、観測される衝撃波の振幅とレーザ光照射時間との関係が求められる(第1工程)。この関係は、例えば図2に示すように、レーザ光照射時間tが増大するにつれて衝撃波振幅A(個々の衝撃波に対する最大値)が減少するものとなる。
【0041】
次に、この関係に基づいて、図3(a)に示すように、レーザ光照射時間tに対する衝撃波振幅Aの変化率VA(∂A/∂t)が、所定値以下、好ましくはレーザ照射初期の値VASに対して10%以下、つまり0.1VASになるときのレーザ光照射時間を算出し、その時間をナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射時間として決定する(第2工程)。
【0042】
図2(a)、(b)に示すように、被処理液にレーザ光を照射して10分経過後は、衝撃波の強度が大きく、50分経過後は衝撃波の強度が小さくなることから、被処理液中の懸濁物質のナノ粒子化に際して観測される衝撃波の振幅Aが、ナノ粒子化が進行するにつれて減衰することを本発明者は見出した。なお、このとき使用したレーザ光はYAGの3倍波(波長:355nm)であり、レーザ特性は、80mJ/cm2Pulse、FWHM(Full Width Half Maximum)=4ns、繰り返し周波数=20Hzとした。また被処理液は、水にVOPc粒子を懸濁させたものとした。図2(a)において縦軸の1目盛は200mV、横軸の1目盛は500μsであり、図2(b)において縦軸の1目盛は100mV、横軸の1目盛は100μsである。
【0043】
上記のように、ナノ粒子化が進行するにつれて衝撃波の振幅が減衰することから、本発明者は、衝撃波がナノ粒子化進行の目安となることを見出した。ここで、観測した衝撃波のレーザ光照射時間の変化率VA(∂A/∂t)がレーザ照射初期の値VASに対して10%を超える状態では、まだナノ粒子化処理が進行しており、変化率がレーザ照射初期の値VASに対して10%に達した時点ではナノ粒子化処理はほとんど進行していないと推定できる。一方、上記変化率がレーザ照射初期の値VASに対して10%に達した後もレーザ光照射を継続すると、ナノ粒子化がこれ以上進行しないにもかかわらず電力を無駄に使用することになる。よって、この方法により、少ないエネルギーでナノ粒子化処理を十分に行わせることができるレーザ光照射時間、すなわち効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射時間TAを的確に決定することができる。
なお、例えば図2(a)に示すように、衝撃波の振幅の大きい部分は遅れて発生しているが、これは下記の理由によるものと考えられる。すなわち、ナノ粒子化はレーザ光の通過する領域で生じるため、その領域内の異なる位置で発生した衝撃波が衝撃波モニタ5に到達するまでの距離は異なる。そのため、衝撃波を観測すると、衝撃波は、上記領域内の異なる位置で発生した衝撃波間で若干の時間的誤差を含んで観測され、衝撃波の振幅の大きい部分が遅れて発生するものと考えられる。しかし、本発明の方法により衝撃波について周波数解析を行うと、上記のような時間的遅れが除去できるので、衝撃波の発生位置に依存しない衝撃波のモニタ、すなわちナノ粒子化のモニタが可能になる。よって、レーザ光照射時間tに対する衝撃波振幅Aの変化率VA(∂A/∂t)とレーザ光照射時間tとの関係をより的確に算出することができ、ひいては効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射時間TAをより的確に決定することができる。
【0044】
次に、上記手法とは別の手法、つまり衝撃波の周波数成分解析に基づいたレーザ光照射時間の決定方法について説明する。
【0045】
この手法は、衝撃波の周波数成分、すなわち粒径別の衝撃波強度を求めることができるため、特定の粒径の原料粒子に対するナノ粒子化処理の処理時間を決定する際に有用である。
【0046】
まず、攪拌装置4により被処理液2の攪拌を開始する。そして、レーザ装置8を作動し、処理チャンバ3内の被処理液2中の懸濁物質をナノ粒子化処理する。このとき発生する衝撃波の強度を衝撃波観測センサ5で観測する。そして、衝撃波観測センサ5で観測される衝撃波について解析装置6でフーリエ解析により周波数解析を行い、周波数成分振幅と衝撃波の周波数成分との関係を求める。この関係は、通常、図4に示すように、ある周波数成分において最大値G0を示し、その周波数成分の前後では周波数成分振幅は小さくなる。
【0047】
ここで、特定の周波数成分において周波数成分振幅が大きいほど、レーザ光と懸濁物質との作用が大きいことを示している。すなわち、周波数振幅成分は、ナノ粒子化処理の効率を示す指標となる。そこで、特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出し(第1工程)、周波数成分振幅のレーザ光照射時間依存性を調べる(第2工程)。周波数成分振幅とレーザ光照射時間との関係は、レーザ光照射時間tが増大するにつれて周波数成分振幅Gが減少するものとなる。
【0048】
次に、ここで図3(b)のように、この関係に基づいて、レーザ光照射時間tに対する周波数成分振幅Gの変化率VG(∂G/∂t)が所定値以下、好ましくはレーザ照射初期の値VGSに対して10%以下、つまり0.1VGSに達したときのレーザ光照射時間を算出し、その時間をナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射時間TGとして決定する(第3工程)。こうして少ないエネルギーでナノ粒子化処理を十分に実現できるレーザ光照射時間TAを的確に決定することができる。
【0049】
(レーザ光照射波長の決定方法)
次に、レーザ光照射条件としてのレーザ光照射波長の決定方法について説明する。
【0050】
まず撹拌装置4により被処理液2の撹拌を開始する。そして、レーザ装置8を作動し、処理チャンバ3内の被処理液2にレーザ光を照射し、懸濁物質をナノ粒子化処理してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波の強度を衝撃波観測センサ5で観測する。そして、衝撃波観測センサ5で観測される衝撃波について解析装置6でフーリエ解析により周波数解析を行い、周波数成分振幅と衝撃波の周波数成分との関係を求める。この関係は通常、図4に示すように、ある周波数成分において最大値G0を示し、その周波数成分の前後では周波数成分振幅は小さくなる。
【0051】
ここで、特定の周波数成分において周波数成分振幅が大きいほど、レーザ光と懸濁物質との作用が大きいことを示している。すなわち周波数成分振幅は、ナノ粒子化処理の効率を示す指標となる。そこで、特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出し、この工程を、レーザ光照射波長を変えて複数回行い(第1工程)、周波数成分振幅のレーザ光照射波長依存性を調べる。これにより、周波数成分振幅が最大となるレーザ光照射波長、すなわち懸濁物質とレーザ光との作用が最大となるレーザ光照射波長を的確に決定することができる。
【0052】
ここで、特定の周波数成分は、具体的には、周波数成分振幅が最大となるとき(以下、最大となる周波数成分振幅を「最大周波数成分振幅」と呼ぶ)の周波数成分とする。この周波数成分は、懸濁物質の中で最も多く存在する粒径の懸濁物質に相当しており、また最大周波数成分振幅が大きいほどレーザ光と懸濁物質との作用が大きいことを示している。従って、この周波数成分における周波数成分振幅のレーザ光照射波長依存性を調べることで、レーザ光と懸濁物質とを最も作用させやすいレーザ光照射波長をより的確に決定することができる。
【0053】
レーザ光の照射波長を変える場合には、解析装置6によりレーザ装置8を制御すればよい。
【0054】
周波数成分振幅が最大となるレーザ光照射波長を調べるには、レーザ光照射波長ごとに求めた最大周波数成分振幅G0を、レーザ光照射波長に対してプロットすればよい。この場合、レーザ光照射波長と最大周波数成分振幅は、例えば図5に示すような関係となり、この関係に基づいて、いずれのレーザ光照射波長で懸濁物質とレーザ光との作用が最大となるかを知ることができる。すなわち最大周波数成分振幅が最大となるレーザ光照射波長λ0が、懸濁物質とレーザ光との作用を最大とするレーザ光照射波長である(第2工程)。こうしてナノ粒子化処理で使用するレーザ光照射波長を決定する(第3工程)。
【0055】
このように、観測した衝撃波について周波数解析を行い、周波数成分と周波数成分振幅との関係を求め、特定周波数成分における周波数成分振幅のレーザ光照射波長依存性を調べることにより、懸濁物質とレーザ光との作用を最大とするレーザ光照射波長、すなわち効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射波長を的確に決定することができる。
【0056】
(レーザ光照射強度の決定方法)
次に、レーザ光照射条件としてのレーザ光照射強度の決定方法について説明する。
【0057】
まず撹拌装置4により被処理液2の撹拌を開始する。そして、レーザ装置8を作動し、被処理液2にレーザ光を照射し、被処理液2中の懸濁物質をナノ粒子化処理してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波の強度を衝撃波観測センサ5で観測し、この衝撃波について解析装置6でフーリエ解析により周波数解析を行い、周波数成分振幅と衝撃波の周波数成分との関係を求める。この関係は通常、図4に示すように、ある周波数成分において最大値を示し、その周波数成分の前後では周波数成分振幅は小さくなる。
【0058】
ここで、特定の周波数成分において周波数成分振幅が大きいほど、レーザ光と懸濁物質との作用が大きいことを示している。そこで、特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出し、この工程を、レーザ光照射強度を変えて複数回行い、周波数成分振幅のレーザ光照射強度依存性を調べる。これにより、懸濁物質とレーザ光との作用が大きくなるレーザ光照射波長を的確に決定することができる。
【0059】
特定の周波数成分における周波数成分振幅は、具体的にはレーザ光照射波長を決定する場合と同様、最大周波数成分振幅とする。
【0060】
また周波数成分振幅のレーザ光照射強度依存性を調べるには、レーザ光照射強度ごとに求めた最大周波数成分振幅G0を、レーザ光照射強度Pに対してプロットすればよい。この場合、レーザ光照射強度Pと最大周波数成分振幅G0は、例えば図6(a)に示すようにしきい値特性を有する関係となる。すなわち最大周波数成分振幅G0は、レーザ光照射直後から一定照射強度まではゼロであるが、レーザ光照射強度は、ある値に達すると急激に立ち上がり、その後、緩やかな勾配でレーザ光照射強度に対して増加する。この関係に基づいて、いずれのレーザ光照射強度で懸濁物質とレーザ光との作用が大きくなるかを知ることができる(第2工程)。
【0061】
上記のようにして求められる関係に基づいて、図6(b)に示すように、レーザ光強度Pに対する周波数振幅G0の変化率VG0(∂G0/∂P)が最大となるレーザ光照射強度P0を算出し、その値以上のレーザ光照射強度を、ナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射強度として決定する(第3工程)。
【0062】
このように、観測した衝撃波について周波数解析を行い、周波数成分と周波数成分振幅との関係を求め、特定周波数成分における衝撃波の周波数成分振幅のレーザ光照射強度依存性を調べることにより、懸濁物質とレーザ光との作用を大きくするレーザ光照射強度、すなわち効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射強度P0を的確に決定することができる。
【0063】
但し、周波数成分振幅と周波数成分との関係において、最大周波数成分振幅の勾配が緩やかとなるレーザ光照射強度の範囲では、レーザ光照射強度を増加させてもナノ粒子化処理の効率はほとんど上昇しない。従って、電力を節約する観点からは、ナノ粒子化処理に使用するレーザ光照射強度は、レーザ光照射強度をゼロから増大させる時に、レーザ光照射強度Pに対する最大周波数成分振幅G0の変化率VG0(∂G0/∂t)が最大となるレーザ光照射強度とすることが好ましい。
【0064】
(ナノ粒子の製造方法)
次に、上記決定装置1を用いたナノ粒子の製造方法について説明する。
【0065】
まず、処理チャンバ3内に、被処理液を入れ、上述したレーザ光照射波長の決定方法により、被処理液2中の懸濁物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射波長を決定する(第1レーザ光照射条件決定工程)。
【0066】
次に、処理チャンバ3内に、上記レーザ光照射波長の決定に用いた被処理液をこれと同一の被処理液に交換し、上述したレーザ光照射強度の決定方法により、被処理液2中の懸濁物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射強度を決定する(第2レーザ光照射条件決定工程)。
【0067】
次に、上述した2つのレーザ光照射時間の決定方法のいずれかを用いて、被処理液2中の懸濁物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射時間TAもしくはTGを決定する(第3レーザ光照射条件決定工程)。
【0068】
次に、レーザ装置8において、レーザ光照射波長、レーザ光照射強度が上記のようにして決定した値となるように設定する。
【0069】
そして処理チャンバ3内に、上記レーザ光照射強度の決定に使用した被処理液をこれと同一の被処理液に交換した後、撹拌装置4により被処理液2の撹拌を開始する。続いてレーザ装置8を作動し、処理チャンバ3内の被処理液2にレーザ光を照射する(レーザ光照射工程)。
【0070】
このとき、レーザ光照射波長は、衝撃波の最大周波数成分振幅が最大となる値、すなわちレーザ光と懸濁物質との作用が最大となる値λ0に設定されており、レーザ光照射強度は、レーザ光と懸濁物質との作用が大きくなる値P0以上に設定されているため、被処理液2にレーザ光を照射すると、レーザ光と懸濁物質との作用が十分に大きくなり、効率的なナノ粒子化処理を実現できる。またレーザ光照射強度として、レーザ光照射強度Pに対する最大周波数成分振幅G0の変化率VG0(∂G0/∂t)が最大の値に達する時のレーザ光照射強度が使用される場合には、電力を十分に節約することができる。
【0071】
こうして被処理液2にレーザ光を照射し、上記のようにして決定されたレーザ光照射時間が経過したら、レーザ装置8の作動を停止する。このとき、ナノ粒子化はほとんど進行できていないため、ナノ粒子化は十分に行われたことになる。また上記方法で決定したレーザ光照射時間だけレーザ光を照射しているので、電力を無駄に使用することがない。
【0072】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、決定装置1によりレーザ光照射時間、レーザ光照射波長及びレーザ光照射強度の全てが決定されているが、レーザ光照射時間を決定するだけであれば、レーザ装置8として、波長及び強度を変えることが可能なものを用いる必要はない。またレーザ光照射波長を決定するだけであれば、レーザ装置8として、強度を変えることが可能なものを用いる必要はない。またレーザ光照射強度を決定するだけであれば、レーザ装置8として波長可変のものを用いる必要はない。
【0073】
また上記ナノ粒子の製造方法の実施形態では、ナノ粒子化処理に先立って、レーザ光照射時間、レーザ光照射波長、及びレーザ光照射強度の全てについてナノ粒子化処理に適した値を決定しているが、全てについて上記決定方法により決定する必要はない。上記レーザ光照射時間、レーザ光照射波長及びレーザ光照射強度のうちの少なくとも1つが、上記決定方法により決定されていればよい。
【0074】
更に上記ナノ粒子の製造方法の実施形態では、上記したように、レーザ光照射波長、レーザ光照射強度、レーザ光照射時間が順次決定されているが、これらの順序に限定されるものではなく、任意であってもよい。また上記レーザ光照射時間、レーザ光照射波長、レーザ光照射強度の決定は同時に行ってもよい。
【0075】
また上記実施形態では、効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射波長、レーザ光照射強度を決定するに際して、周波数成分振幅のレーザ光照射波長依存性又はレーザ光照射強度依存性を調べており、周波数成分振幅として最大周波数成分振幅を用いているが、周波数成分振幅は、最大周波数成分振幅に限定されず、最大周波数成分振幅より小さい周波数成分振幅であってもよい。
【0076】
更に、上記実施形態では、レーザ光照射時間に対する衝撃波強度もしくは特定周波数成分振幅の変化率が所定の値、好ましくはレーザ光照射初期の値に対して10%以下の値に達した時のレーザ光照射時間を、ナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射時間として決定しているが、周波数成分振幅の周波数分布の時間変化から求めてもよい。例えば、レーザ光照射初期に得られた周波数分布に対して、高周波成分のみしか観測されなくなったとき、あるいは周波数分布に変化が見られなくなってきたときを検出してレーザ光照射時間を決定することができる。
【0077】
更に、上記実施形態では、被処理液2にレーザ光を照射し、その際発生する衝撃波を観測することによりレーザ光照射条件を決定しているが、衝撃波を観測し、観測した衝撃波について周波数解析を行い、周波数成分振幅と周波数成分との関係を求めると、この関係に基づいて、被処理液2中の懸濁物質をナノ粒子化して得られるナノ粒子の粒径分布を推定することもできる。すなわちレーザ粉砕の対象となる直径10nm〜10μmの懸濁粒子についてレーザ粉砕したとき、粒径の大きいナノ粒子ほど振動周期の長い衝撃波を生じる傾向があり、逆に粒径の小さいナノ粒子では振動周期の短い衝撃波が観測される傾向がある。つまり、ナノ粒子の粒径が大きいほど衝撃波の周波数は小さく、ナノ粒子の粒径が小さいほど衝撃波の周波数は大きくなる傾向がある。この理由として、小さい粒径のナノ粒子ほどレーザ光照射時の光作用が小さいこと、及び液相中では小さい粒径のナノ粒子ほど粘性の影響が大きいことから、レーザ光照射時に分割された分割片(ナノ粒子)の初期速度が遅く且つ粘性の影響で分割片が短い制動距離で停止してしまうため、分割片の移動に基づく衝撃波の周波数が大きくなることが考えられる。上記理由から、周波数成分振幅と周波数成分との関係自体が粒径分布を表すことになる(図4参照)。この場合、周波数が粒径の逆数に対応し、周波数成分は各粒径ごとの粒子割合(粒度)に対応する。こうして、衝撃波の周波数解析によりナノ粒子の粒径分布を容易に推定することが可能となる。なお、ナノ粒子の粒径分布は、衝撃波観測センサ5で観測される衝撃波を解析装置6で周波数解析して周波数振幅成分と周波数成分との関係を求めることにより推定することができる。
【0078】
【発明の効果】
以上説明したように本発明のレーザ光照射条件の決定方法及び決定装置によれば、効率的なナノ粒子化処理を実現できるレーザ光照射条件を的確に決定することができる。
【0079】
また本発明のナノ粒子の製造方法によれば、ナノ粒子を効率よく製造することができる。
【0080】
更に本発明のナノ粒子の粒径分布の推定方法によれば、レーザ光照射により生成される被処理液中のナノ粒子の粒径分布を容易に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】被処理液にレーザ光を照射したときに観測される衝撃波の波形を示すグラフである。(a)は、被処理液にレーザ光を照射して10分経過後の衝撃波の波形を、(b)は50分経過後の衝撃波の波形を示している。
【図3】(a)は、レーザ光照射時間に対する衝撃波振幅の変化率とレーザ光照射時間との関係を示すグラフであり、(b)は、レーザ光照射時間に対する衝撃波の特定の周波成分振幅の変化率とレーザ光照射時間との関係を示すグラフである。
【図4】衝撃波の周波数成分振幅と周波数成分との関係を示すグラフである。
【図5】最大周波数成分振幅とレーザ光照射波長との関係を示すグラフである。
【図6】(a)は、最大周波数成分振幅とレーザ光照射強度との関係を示すグラフであり、(b)は、レーザ光照射強度Pに対する最大周波数成分振幅G0の変化率とレーザ光照射強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…レーザ光照射条件の決定装置、2…被処理液、3…処理チャンバ、5…衝撃波観測装置、6…解析装置、8…レーザ装置。
Claims (7)
- 被処理液中の物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法において、
前記被処理液にレーザ光を照射し、前記物質をナノ粒子化処理してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波を観測する衝撃波観測工程と、
前記衝撃波観測工程で観測される衝撃波の強度について解析を行うことにより前記ナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件を決定する解析工程と、
を含み、
前記解析工程が、
観測される衝撃波の強度とレーザ光照射時間との関係を求める第1工程と、
前記第1工程で求められる関係に基づいて、前記レーザ光照射時間に対する前記衝撃波の強度の変化率を算出し、その変化率が所定値以下の値に達した時の時間をナノ粒子化処理におけるレーザ光照射時間として決定する第2工程と、
を含むことを特徴とするナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法。 - 被処理液中の物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法において、
前記被処理液にレーザ光を照射し、前記物質をナノ粒子化処理してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波の強度を観測してこの衝撃波について周波数解析を行い、周波数成分振幅と周波数成分との関係を求め、この関係に基づいて特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出する第1工程と、
前記第1工程で算出される周波数成分振幅とレーザ光照射時間との関係を求める第2工程と、
前記第2工程で求められる関係に基づいて、前記レーザ光照射時間に対する前記周波数成分振幅の変化率を算出し、その変化率が所定値以下の値に達した時の時間をナノ粒子化処理におけるレーザ光照射時間として決定する第3工程と、
を含むことを特徴とするナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法。 - 被処理液中の物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法において、
前記被処理液にレーザ光を照射し、前記物質をナノ粒子化処理してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波の強度を観測してこの衝撃波について周波数解析を行い、周波数成分振幅と周波数成分との関係を求め、この関係に基づいて特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出する工程を、前記レーザ光の波長を変えて複数回行う第1工程と、
前記第1工程で算出される周波数成分振幅とレーザ光照射波長との関係を求める第2工程と、
前記第2工程で求められる関係に基づいて、周波数成分振幅が最大となるレーザ光照射波長を算出し、そのレーザ光照射波長をナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射波長として決定する第3工程と、
を含むことを特徴とするナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法。 - 被処理液中の物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法において、
前記被処理液にレーザ光を照射し、前記物質をナノ粒子化処理してナノ粒子を生成させ、そのとき発生する衝撃波の強度を観測してこの衝撃波について周波数解析を行い、周波数成分振幅と周波数成分との関係を求め、この関係に基づいて特定の周波数成分における周波数成分振幅を算出する工程を、前記レーザ光照射強度を変えて複数回行う第1工程と、
前記第1工程で算出される周波数成分振幅とレーザ光照射強度との関係を求める第2工程と、
前記第2工程で求められる関係に基づいて、レーザ光強度に対する周波数成分振幅の変化率が最大となるレーザ光照射強度を算出し、その値以上のレーザ光照射強度をナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射強度として決定する第3工程と、
を含むことを特徴とするナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法。 - 被処理液中の物質にレーザ光を照射してナノ粒子を製造するナノ粒子の製造方法において、
前記被処理液と同一の被処理液について、請求項1〜4のいずれか一項に記載のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法によりレーザ光照射条件を決定するレーザ光照射条件決定工程と、
前記レーザ光照射条件決定工程で決定されるレーザ光照射条件で前記被処理液に前記レーザ光を照射するレーザ光照射工程と、
を含むことを特徴とするナノ粒子の製造方法。 - 被処理液中の物質にレーザ光を照射してナノ粒子を製造するナノ粒子の製造方法において、
前記被処理液と同一の被処理液について、請求項1または請求項2に記載のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法によってレーザ光照射条件としてのレーザ光照射時間を決定する第1レーザ光照射条件決定工程と、
請求項3に記載のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法によってレーザ光照射条件としてのレーザ光照射波長を決定する第2レーザ光照射条件決定工程と、
請求項4に記載のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定方法によってレーザ光照射条件としてのレーザ光照射強度を決定する第3レーザ光照射条件決定工程と、
前記第1〜第3レーザ光照射条件決定工程で決定されるレーザ光照射時間、レーザ光照射波長及びレーザ光照射強度で前記被処理液に前記レーザ光を照射するレーザ光照射工程と、
を含み、前記第1〜第3レーザ光照射条件決定工程を同時に又は任意の順序で行うことを特徴とするナノ粒子の製造方法。 - 被処理液中の物質のナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定装置において、
前記被処理液を収容する処理チャンバと、
前記被処理液中の前記懸濁物質にレーザ光を照射するレーザ装置と、
前記処理チャンバ内で発生する衝撃波の強度を観測する衝撃波観測装置と、
前記衝撃波観測装置により観測される衝撃波について解析を行い、ナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件を決定する解析装置と、
を備え、
前記解析装置が、レーザ光照射時間に対する衝撃波の振幅の変化率を求めることが可能であると共に、衝撃波を周波数解析して周波数振幅成分と周波数成分との関係を求めることが可能な波形解析装置であることを特徴とするナノ粒子化処理に用いるレーザ光照射条件の決定装置。
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