JP4115231B2 - 液体組成物、画像形成方法および画像記録物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はインクジェットによる画像記録物の形成方法、画像記録物およびこれらに用いる液体組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式は、インクの微小液滴を種々の作動原理により飛翔させて、紙などの被記録媒体に付着させ、画像、文字などを記録するものであるが、高速低騒音、多色化が容易であり、記録パターンの融通性が大きい、現像、定着が不要などの特徴があり、近年、各種画像の記録装置として情報機器をはじめ各種の用途において急速に普及している。更に多色インクジェット方式により形成される画像は、製版方式による多色印刷や、カラー写真方式による印画と比較して遜色のない記録を得ることも可能であり、作成部数が少ない場合には通常の多色印刷や印画によるよりも安価であることから、フルカラー画像記録分野にまで広く応用されつつある。
【0003】
また、近年、ベーマイト構造のアルミナ水和物を用いた塗工層を有する被記録媒体が提案されており、例えば、特許文献1にその代表例が開示されている。
【0004】
これらのアルミナ水和物を用いた被記録媒体は、アルミナ水和物が正電荷を持っているため、インク染料の定着が良く、発色の良い画像が得られること、更に、画質、特にフルカラー画像における画質及び光沢の点で従来の被記録媒体に比べ好ましいなどの長所を有している。
【0005】
しかしながら、上述のごとき染料系インクとアルミナ水和物を用いた被記録媒体によって、銀塩プリントに匹敵、またはそれを凌ぐ画質が得られているものの、形成された高画質の画質を長時間維持することに関して、特に、空気中のオゾンガス等の物質による劣化に対しての耐性(耐ガス性)は、満足する性能を有していない場合が生じているのが現状である。
【0006】
得られる記録物の画像耐久性の向上を目的とした技術としては、画像形成後の記録材表面に保護層を設ける方法が開示されている。例えば、画像記録物上に保護膜として各種プラスチックフィルムをラミネートする方法が、特許文献2に開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、被記録媒体のインク受容層中に熱可塑性高分子からなる微粒子を含有させておき、インク吸収性を保った状態で印字を行った後、微粒子を熱や溶剤により溶融、溶解して樹脂皮膜を表面に形成して保護皮膜とする方法が記載されている。
【0008】
被覆層を形成する手段として画像形成方法と同じ方式を用いる例としては、特許文献4に、インクジェット方式によりエマルジョン等の膜形成機能を有する樹脂を含む補助液を吐出することによって被覆層を形成する方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】
特開平7-232475号公報
【特許文献2】
特開2001-158092号公報
【特許文献3】
特開平10-315448号公報
【特許文献4】
特開2000-225695号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平10−315448号公報等に記載の方法では、確かに耐ガス性は良好となるものの、画像の記録装置以外に、ラミネート装置や熱可塑性高分子からなる微粒子の溶融、溶解のための装置を別途設ける必要があり、ランニングコストのアップや装置が大掛かりになってしまう等の問題がある。
【0011】
また、特開2000-225695号公報記載のようなエマルジョンのような自己造膜性を有する樹脂を吐出用の液体中に含有させた場合、微細なノズル先端における長期の放置による固化(ノズルつまり)を引き起こしやすい場合がある。
【0012】
また、画像の表面に被覆層を形成させた場合は、被覆層を形成する材料やその膜厚によっては所望とする画像表面の光沢感が得られない場合がある。
【0013】
本発明の目的は、画像面に保護用の層を液体組成物の付与により形成する際に、液体組成物の付与手段としてのインクジェット装置におけるプリントヘッド内や塗布ローラー表面における液体組成物に含まれる成分の固着が発生することがなく、画像品位、耐ガス性、耐擦性に優れた画像記録物を形成でき、更に、記録装置の小型化も容易な、画像記録物の形成方法、該方法で得られた記録物、およびこれらに用いる液体組成物を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。本発明の画像記録物の形成方法は、画像の表層の少なくとも一部に高分子の含浸層を有し、かつ、該画像の表面上に保護用の被覆層が実質的に存在しない画像記録物の形成方法であって、
水性媒体と、下記一般式(1)で表される構造の基(以下カルボン酸塩と表す)を有する高分子と、を含む液体組成物を用意する工程と、
記録媒体にインクジェット記録方法により形成した画像を有し、該画像の表面pHが前記高分子が不溶化するpHである画像記録物を用意する工程と、
前記記録物の画像上の少なくとも一部に前記液体組成物を付与して該液体組成物の付与位置若しくは該液体組成物の付与位置とその近傍の画像表層に含浸させ、該画像の表面pHによって該表層内で該高分子を不溶化させることにより含浸層を形成する工程と、
を有し、該液体組成物が該高分子を1〜6質量%含み、該高分子が酸価100〜350のアクリル酸n - ブチル / アクリル酸共重合体であり、かつ、該記録媒体の表面pHが5〜7であることを特徴とする。
−COOA・・・(1)
(但し、上記一般式(1)中のAはアルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす)。
【0016】
本発明においては、画像の少なくとも一部に付与された液体組成物中に溶解した状態で含まれた高分子が、画像の表層に含浸してその部分の表面pHの作用により不溶化して含浸層が形成される。この含浸層の形成により、画像品位を向上させる効果を有することができるとともに、耐ガス性や耐擦性を画像に付与することが可能となる。なお、画像上の含浸層の形成位置は、染料などの色材による着色部に限定されず、非着色部のみであってもよい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の画像形成方法について詳細に述べる。
【0018】
本発明における画像の形成には、液体にエネルギーを加えて小滴を飛翔させ、記録媒体上に付着させて記録を行なう画像形成方法であるインクジェット記録方法が用いられる。本発明において後述する含浸層形成用の液体組成物は、インクジェット記録方式やローラー塗布方式またはその他の公知の方式により、既に画像が形成された記録媒体上に付与される。
【0019】
本発明において、液体組成物を記録媒体上に付与する方式として、インクジェット記録方式を用いた場合は、既に画像が形成された記録媒体上の任意の部位に液体組成物を付与することが容易となる。液体組成物中の高分子による含浸層形成部位は、記録媒体上に形成された画像上の着色部のみ、着色部と非着色部を含む全面または一部、あるいは非着色部のみでも良い。また、インクジェット記録方法を用いることで、含浸層の均一化が容易となる。更には、画像の形成方法と同一なことで、インクジェット記録用ヘッドに液体組成物用のノズルを追加する等、含浸層形成用のユニットを別途設ける必要がないため、含浸層形成用の装置が付加された記録装置の小型化が可能となる。
【0020】
本発明における含浸層形成用の液体組成物は、カルボン酸塩を有する高分子を含む。この高分子は水性媒体中に溶解しており、その不溶化は液体組成物が付与される画像の表面pHの作用により行なわれる。その好ましい態様としては、画像の表面pHよりも高いpHに調整された液体組成物を、液体組成物のpHよりも低いpHを有する画像上に付与することで高分子の不溶化による含浸層の形成を行なう方法を挙げることができる。すなわち、画像上に付与された液体組成物中の高分子は画像上で不溶化して高分子と水性媒体(溶媒成分)が固液分離し、水性媒体成分は更に画像が形成された記録媒体中に吸収されることで、画像上に不溶化した高分子から得られる含浸層が形成される。
【0021】
また、記録媒体の表面上のみに保護用の被覆層を形成した場合、過度の擦過や折り曲げ時に生じる被覆層のわずかな傷や亀裂部分からガスが侵入してしまうことで、初期に設定したガスバリア性が失われてしまうことがあるのに対し、本発明では記録媒体の表面上に保護用の被覆層が実質的に存在しない場合においても保護用の層を記録媒体の画像面の表層に含浸した状態で形成し、こうした過度の擦過や折り曲げ時においても十分なガスバリア性を維持できるようになっている。また、記録媒体の表面上に実質的に被覆層が存在しないので、記録媒体自体の表面性や質感を大きく変えることなく本発明の課題を達成することができる。
【0022】
さらに、本発明では含浸層形成用の液体組成物はそこに含有された高分子が水性媒体に溶解した状態にあるため、エマルジョンのような不可逆的な自己造膜性を有する樹脂を含む場合とは異なり、インクジェット装置のノズル先端における長期の放置による吐出用液体の固化や塗布ローラー表面での固化の防止に対して有利な特性を得ることができる。
【0023】
本発明で記録媒体内部に形成される含浸層の厚み(表面からの深さ)は、0.4〜10μmの範囲が好ましい。含浸層の厚みがこの範囲を超える場合には、記録画像のヘイズが含浸層の存在により上昇し、白モヤがかかった状態になることがあるとともに、画像品位を低下させることがある。また、含浸層の厚みがこの範囲に満たない場合には充分なガスバリア性が得られないことがある。なお、本発明における含浸層の厚みは、記録物断面の走査型電子顕微鏡観察によって測定できる。
【0024】
次に本発明における含浸層形成用の液体組成物について説明する。液体組成物中のカルボン酸塩を有する高分子としては、液体組成物中に安定して溶解し、かつ画像の表面pHの作用によって不溶化して安定した層を形成し得るものであればよい。例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、マレイン酸のハーフエステル、イタコン酸等のカルボキシル基を有するアクリル酸系単量体の1種以上を用いて得られたビニル共重合体を塩基性物質の添加により可溶化したものが好ましい。
このときアクリル酸系単量体以外の他のビニル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−へキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシルなどのアクリル酸系エステル単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−アミン、メタクリル酸n−へキシル、メタクリル酸nーオクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシルなどのメタクリル酸系エステル単量体、スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレンなどのスチレン系単量体等があげられ、これらの少なくとも1種を用いることができる。なかでも、(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびアクリル酸からなるビニル共重合体を用いた場合、記録媒体内部に含浸層を形成しやすく好ましい。
【0025】
また、塩基性物質としては、特に制限されることなく水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物や、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミンジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モルホリン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール、アミノエチルプロパンジオール等があげられる。
【0026】
また、本発明における対イオン(一般式(1)中のA)としては、アルカリ金属、アンモニウム、有機アンモニウムが挙げられ、これらから選択された少なくとも1種を用いることができる。
アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム等が挙げられ、有機アンモニウムとしては、モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム、モノイソプロバノールアンモニウム、ジイソプロバノールアンモニウム、トリイソプロバノールアンモニウム、モノメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、モノエチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、等のアルキルアンモニウム、アルカノールアンモニウムがあげられる
なお、記録媒体の内部に含浸層が形成できる点について、本発明者らは以下のように考えている。即ち、記録媒体の表面および内部で含浸層形成用液体組成物のpHが低下し、液体組成物中の高分子が不溶化するときの状態が大きく関与しており、高分子が自身の疎水性などにより凝集して不溶化する場合は、記録媒体表面に被覆層を形成するが、記録媒体内部には含浸層が形成されず、一方、高分子が凝集することなく不溶化する場合は、記録媒体表面のインク受容層内に液体組成物が浸透しながら高分子が不溶化する状態となり、記録媒体内部に含浸層が形成されるのではないかと考えている。
【0027】
本発明では、高分子の酸価は、後述する記録媒体中の表面pH(例えば酸の濃度:以降は記録媒体の表面pHと記載)や表面状態、更には高分子を構成する単量体の種類によって変わり、記録媒体の表面pHで不溶化するように適宜選択される。具体的には、カルボン酸塩を有する高分子水溶液に硝酸などの酸を添加していったときに、記録媒体の表面pHに対応するpHで不溶化するように酸価を調整する。
【0028】
高分子の酸価は100〜350の範囲が好ましい範囲としてあげられる。100に満たない場合には、高分子自身の疎水性などにより凝集して不溶化しやすくなり、記録媒体内部に含浸層が形成されないことがあり、350を超えると、含浸層を形成させるため記録媒体の表面pHを極端に下げなくてはならず、画像の色みが問題となる場合がある。なお酸価は、JIS K0070に準拠した手法により実測した値に基づく。
【0029】
また、本発明の液体組成物のpHは、塩基性物質の添加量やpH調整剤によって調整され、具体的には、記録媒体の表面pHより大きく、かつ上述のカルボン酸塩を有する高分子が水溶化するpHである必要がある。好ましい液体組成物のpHとしては5.4から11.0の範囲があげられる。液体組成物のpHが11.0を超えると、ヘッド等の液体組成物と接触する部材の耐久性が問題となることがあり、液体組成物のpHが5.4に満たない場合には、後述するが、記録媒体の表面pHを5.4以下に調整しなければならず、画像の色みを損ねる場合がある。
【0030】
また、液体組成物のpHと後述する記録媒体の表面pHとの差は、好ましくは0.5以上、更に好ましくは1.0以上があげられる。
【0031】
本発明のカルボン酸塩を有する高分子の分子量としては、例えば、塩基性物質の添加前の重量平均分子量で1000から100000の範囲、好ましくは1000から50000の範囲が使用できる。重量平均分子量が100000を超えると液体組成物の粘度が高くなる傾向があり、ヘッドやローラー表面での固着が問題となる場合があり。また、重量平均分子量が1000に満たないと、充分なガスバリア性を有する含浸層が得られないことがある。ここで重量平均分子量はGPC(Gel Permiation Chromatography)により、THF/DMF混合溶媒系でポリスチレン換算値を用いて表す。
【0032】
また、液体組成物中のカルボン酸塩を有する高分子の含有量としては、例えば塩基性物質などの添加前の比で、液体組成物全量に対して、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは1〜6質量%の範囲があげられる。液体組成物中の高分子の含有量が15質量%を超えると、液体組成物の粘度が高くなる傾向があり、インクジェット装置におけるプリントヘッドや液体組成物塗布ローラー表面における固着などの問題を引き起こすことがある。また、1質量%に満たないと、充分なガスバリア性を有する含浸層が得られないことがある。
【0033】
本発明における液体組成物に使用する溶媒としは水性媒体が用いられる。この水性媒体としては、水単独、または水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を用いることができ、特に好適なものは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒であって、水溶性有機溶剤としてインクの乾燥防止効果を有する多価アルコールを含有するものである。また、水としては、種々のイオンを含有する一般の水でなく、脱イオン水を使用するのが好ましい。
【0034】
水と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の炭素数1〜4アルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールメチル(またはエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(またはエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられ、これらの少なくとも1種を用いることができる。
【0035】
これらの多くの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルが好ましいものである。
【0036】
液体組成物中の前記水溶性有機溶剤は、例えば塩基性物質などの添加前の比で、液体組成物の全質量に対して0〜90質量%、好ましくは5〜70質量%の範囲で適宜添加すればよい。また、水の含有量は、例えば塩基性物質などの添加前の比で、液体組成物の全質量に対して質量%で9〜99質量%の範囲でより好ましくは50〜95質量%の範囲で適宜選択すればよい。
【0037】
また、本発明に用いる液体組成物は前記の成分の外に必要に応じて、界面活性剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤、防カビ剤、防錆剤等を添加しても良い。
【0038】
次に、本発明で使用される記録媒体について説明する。本発明では、前述したように記録媒体の表面および/または内部で、含浸層形成用の液体組成物中の高分子を固液分離させる。したがって、記録媒体の表面pHは液体組成物中の高分子を不溶化させうる値にコントロールしなくてはならない。不溶化させうる表面pHは液体組成物に用いる高分子によって適宜選択させればよいが、好ましい範囲としては表面pHが4.0〜7.0、より好ましくは5.4〜7.0の範囲があげられる。表面pHがこの範囲を超えると記録媒体上で液体組成物の高分子を固液分離させるために高分子の酸価を小さくしなくてはならないため、インクジェット記録方式により液体組成物液体組成物を記録媒体に付与する場合においては充分な吐出安定性が得られないことがある。また、表面pHがこの範囲に満たない場合には、記録画像の色みや耐光性、更には、記録液(染料インク)に対する吸収性が悪くなることがある。
【0039】
記録媒体の表面pHの調整方法としては、公知の方法であらかじめ作製した所定の表面pHを有する記録媒体に所望の表面pHとなるように硝酸、塩酸、硫酸などの酸水溶液や、アンモニアなどのアルカリ水溶液を塗工する方法や、インク受容層を形成するための塗工液のpHをあらかじめ所望のpHに調整して、基材上に塗工液を塗布乾燥してインク受容層を形成する方法等があげられる。なお、表面pHはJAPAN TAPPI No.49-2(塗布法)に準じて測定を行った。
【0040】
本発明で使用される記録媒体の構成としては基材上に顔料を主体とする多孔質インク受容層が設けられたものが好適に使用される。
【0041】
基材としては、適度のサイジングを施した紙、無サイズ紙、レジンコート紙などの紙類、樹脂フィルムのようなシート状物質及び布帛が使用でき、特に制限はない。特に適度のサイジングを施した紙、無サイズ紙を基材として用いた場合には後述する記録媒体の表面pHと同じ表面pHが安定性の観点から好ましく、更には裏面からのガス侵入を考慮して、ラミネートなどによりガス封止したものも好適に用いられる。
【0042】
本発明における記録媒体のインク受容層は、その細孔容積が0.35〜1.0ml/gの範囲になるように形成されるのが好ましく、より好ましくは0.4〜0.9ml/gである。インク受容層の細孔容積が前記範囲より大きい場合はインク受容層にクラック、粉落ちが発生し、前記範囲よりも小さい場合にはインクの吸収が悪くなり、特に多色印字を行った場合にインク受容層からインクが溢れて画像に滲みが発生し易い場合がある。
【0043】
また、インク受容層のBET比表面積については、50〜300m2/gの範囲が好ましく、より好ましくは100〜300m2/gである。この範囲より小さい場合、インク受容層の光沢性がなくなり、またヘイズが増加するため画像に白モヤがかかったようになる場合がある。また、前記範囲より大きい場合、インク受容層にクラックが生じ易くなる場合がある。
【0044】
前記BET比表面積及び細孔容積は、24時間、120℃で脱気処理した後、窒素吸着脱離方法により求めることができる。
【0045】
上記の物性を示すインク受容層を形成するための材料としては、特に限定されないが、下記一般式(2)で表されるアルミナ水和物が好ましい例としてあげられる。
Al2O3-n(OH)2n・mH2O・・・(2)
式中、nは0、1、2または3の整数の内のいずれかを表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の値を表す。ただし、mとnは同時に0とはならない。mH2Oは多くの場合結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表すものであるため、mは整数でない値をとることができる。また、この種のアルミナ水和物をか焼するとmは0の値に達することがありうる。
【0046】
前記アルミナ水和物は、製造過程において細孔物性の調整がなされるが、前記インク受容層のBET比表面積、細孔容積を満たすためには、細孔容積が0.3〜1.0ml/gであるアルミナ水和物を用いることが好ましく、より好ましくは0.35〜0.9ml/gである。この範囲の細孔容積を有するアルミナ水和物はインク受容層の細孔容積を前記規定範囲内にする上でより好適である。また、BET比表面積については、50〜350m2/gであるアルミナ水和物を用いることが好ましく、より好ましくは100〜250m2/gである。この範囲のBET比表面積のアルミナ水和物は、インク受容層の比表面積を前記規定範囲にする上でより好適である。
【0047】
インク受容層形成用の分散液の塗布量は乾燥固形分換算で0.5〜60g/m2、より好ましくは5〜45g/m2とすることができ、インク受容層の層厚としては、良好なインク吸収性、解像性を得るには、例えば15μm〜60μm、好ましくは20μm〜55μm、特に好ましくは、25μm〜50μmとすることができる。
【0048】
次に本発明における色材を含む記録液について説明する。本発明において、色材の成分それ自体は公知のものでよく、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料、食品用色素等に代表される水溶性染料がある。このような水溶性染料は、記録液中において一般には約0.1〜20質量%を占める割合で使用されている。
【0049】
本発明に用いる記録液に使用する溶媒は、水または水と水溶性有機溶剤との混合溶媒であり、前述した含浸層形成用の液体組成物にあげたものが好適なものとして使用される。記録液中の水溶性有機溶剤の含有量は、一般にはインクの全質量に対して質量%で0〜95質量%、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは15〜50質量%の範囲である。
【0050】
また、本発明に用いる記録液は前記の成分の外に必要に応じて、界面活性剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤、防カビ剤、防錆剤等を包含し得る。
【0051】
【実施例】
次に、本発明における実施例を挙げて説明する。尚、以下の記載で部及び%とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。
(液体組成物の製造)
{液体組成物A}
ラジカル開始剤を用いた溶液重合法により合成したアクリル酸n-ブチル/アクリル酸共重合体A(nBA/AA=85/15(wt%)、分子量:8500、酸価:108)を用いて、下記組成の液体組成物Aを作成した。なお、塩基性物質としては水酸化カリウムを用い、各液体組成物のpHが8.0となるように添加量は調整した。
・アクリル酸n-ブチル/アクリル酸共重合体A:5部
・グリセリン:7部
・ジエチレングリコール:5部
・水:83部
{アクリル酸n-ブチル/アクリル酸共重合体B〜D}
アクリル酸n-ブチルとアクリル酸の比率を表1に示すようにかえた以外はアクリル酸n-ブチル/アクリル酸共重合体Aと同様にしてアクリル酸n-ブチル/アクリル酸共重合体B〜Dを調製した。
【0052】
【表1】
{液体組成物B〜E}
共重合体とその添加量および水の添加量を表2に示すようにかえた以外は液体組成物Aと同様にして液体組成物B〜Eを調整した。
【0053】
【表2】
(記録媒体の製造)
{記録媒体A}
アルミナ水和物としてDisperal HP13(商品名: CONDEA社製)を純水に混合して固形分が5質量%の分散液とした。次に、これに塩酸を加えpH4に調整してしばらく攪拌した。その後、この分散液を攪拌をしながら95℃まで昇温し、その温度で2時間保持を行なった。次に、苛性ソーダによりpHを9.5に調整し、その後、8時間攪拌保持を行なった。8時間後、分散液の温度を室温に戻し、pHを7.2に調整した。その後、脱塩処理を行い、続いて酢酸を添加して解膠処理してコロイダルゾルを得た。このコロイダルゾルを乾燥して得たアルミナ水和物BをX線回折により測定したところ、擬ベーマイト構造を有するものであった。また、この時のBET表面積は、150.2m2/g、細孔容積は0.68(ml/g)であった。なお、比表面積、細孔容積は下記の方法でもとめた。
1)細孔容積(PV):120℃で24時間脱気処理した後、窒素吸着脱離法によりカンタクローム社製、「オートソーブI」(商品名)を用いて測定した。
2)BET比表面積(SA):Brunauerらの方法を用いて計算し、求めた。
ポリビニルアルコール PVA117(商品名:クラレ社製)を純水に溶解して9質量%の溶液を得た。アルミナ水和物Bのコロイダルゾルを濃縮して17質量%の溶液を得た。上記アルミナ水和物Bのコロイダルゾルとポリビニルアルコール溶液を、アルミナ水和物固形分とポリビニルアルコール固形分が質量比で10:1.1になるように混合攪拌して、分散液を得た。
【0054】
この分散液をバライタ層を有する基材のバライタ層上にダイコートにより乾燥厚30g/m2で塗工した。この時の基材は、秤量150g/m2、ステキヒトサイズ度200秒の繊維状基体上に、硫酸バリウム100質量部に対しゼラチン10質量部からなるバライタ組成物を乾燥質量30g/m2となるように塗工し、カレンダー処理を行ったものである。バライタ層を有する基材上に設けたインク受容層表面にリウエットキャストコーターを用いて、熱湯(80℃)を用いたリウエットキャスト処理を行い、光沢感のある記録媒体を得た。更に裏面に押し出しラミネート機により20g/m2となるようにポリエチレンを貼り合せた。記録媒体の表面pHは7.2であった。この記録媒体上にワイヤーバーにより、表面pHが7.0となるように硝酸水溶液を塗工、乾燥して記録媒体Aを得た。
【0055】
{記録媒体B〜D}
表面pHを表3に示すように調整する以外は記録媒体Aと同様にして記録媒体B〜Dを得た。
{記録媒体E}
硝酸水溶液にかえて水酸化ナトリウム水溶液を表3に示す表面pHとなるように塗工、乾燥する以外は記録媒体Aと同様にして記録媒体Eを得た。
【0056】
実施例1〜5、及び参考例1及び2
液体組成物と記録媒体を表3に示した組み合わせで下記評価を行った。記録物断面の走査型電子顕微鏡観察で、表3に示す厚みの含浸層の形成が認められた。結果を表3に示す。
【0057】
なお、参考例1では、液体組成物Cのインクジェット吐出がやや不安定であったが、ベタ印字を行う上では支障なかった。また、参考例2では、実施例1〜5や参考例1とは異なり、画像上に光沢ムラが認識できてしまい、記録物としての品位の低下が若干感じられた。
【0058】
実施例6
記録媒体Bに画像を印字後、液体組成物Aをワイヤーバーにより塗布した。このとき、記録媒体の内部には4.1μmの含浸層形成が認められた。この画像記録物を後述の評価方法により評価した結果、耐ガス性73%であり、耐擦過性、色み、にじみはいずれも○であった。
(評価方法)
(印字)
記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置(キヤノン製BJF660)を用いて下記組成のカラーインクの単色印字(90%と100%)と2次色印字(200%)を行った後、各色インクのベタ印字を行った部位を完全に覆うように同じ方法で液体組成物のベタ印字(250%)を行った。
【0059】
インク組成
・インク染料(Y、M、CまたはBk):5部
・エチレングリコール:10部
・ポリエチレングリコール:10部
・水:75部
インク染料
Y:C.I.アシッドイエロー23
M:C.I.アシッドレッド52
C:C.I.ダイレクトブルー199
Bk:C.I.フードブラック2
(耐ガス性)
上記で作成したブラック単色ベタ部(100%)を、オゾン曝露試験機(スガ試験機社製)に入れて、23℃、60%RHの条件下で、濃度2.9ppmのオゾン中に6時間曝露し、耐ガス性をオゾン暴露試験後の画像濃度変化率(%)で評価した。
耐ガス性(%)=(オゾン暴露試験後画像濃度/オゾン暴露試験前の画像濃度)×100(%)
(耐擦過性)
上記で作成したブラック単色ベタ部(100%)上を40g/cm2加重でシルボン紙にて5回擦った後、上記耐ガス性の試験を行い、下記基準で目視評価した。
○:擦過部に擦り傷状の変色なし。
△:擦過部に擦り傷状の軽微な変色有り。
×:擦過部に擦り傷状の変色有り。
(色み)
上記で作成したシアン単色ベタ部(90%と100%)の色味を下記基準で目視評価した。
○:100%シアンベタ部で色みの変化がない。
△:90%シアンベタ部で色みの変化がない。
×:90%シアンベタ部で若干赤みがかかっている。
【0060】
【表3】
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、インクジェット装置におけるプリントヘッドや塗布ローラー表面における固着を発生することなく保護用の高分子の含浸層を画像の表層に形成し、耐ガス性、耐擦過性に優れた画像記録物を得ることのできる画像記録物の形成方法を提供することが可能である。
Claims (7)
- 画像の表層の少なくとも一部に高分子の含浸層を有し、かつ、該画像の表面上に保護用の被覆層が実質的に存在しない画像記録物の形成方法であって、
水性媒体と、下記一般式(1)で表される構造の基を有する高分子と、を含む液体組成物を用意する工程と、
記録媒体にインクジェット記録方法により形成した画像を有し、該画像の表面pHが前記高分子が不溶化するpHである画像記録物を用意する工程と、
前記記録物の画像上の少なくとも一部に前記液体組成物を付与して該液体組成物の付与位置若しくは該液体組成物の付与位置とその近傍の画像表層に含浸させ、該画像の表面pHによって該表層内で該高分子を不溶化させることにより含浸層を形成する工程と、
を有し、該液体組成物が該高分子を1〜6質量%含み、該高分子が酸価100〜350のアクリル酸n - ブチル / アクリル酸共重合体であり、かつ、記録媒体の表面pHが5〜7であることを特徴とする記録画像物の形成方法:
−COOA・・・(1)
(但し、上記一般式(1)中のAはアルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす)。 - 前記画像を形成する色材が水溶性染料である請求項1に記載の記録画像物の形成方法。
- 前記含浸層の厚みが0.4〜10μmの範囲にある請求項1または2のいずれかの記録画像物の形成方法。
- 前記記録媒体への前記液体組成物の付与がインクジェット記録方式により行われる請求項1〜3のいずれかに記載の記録画像物の形成方法。
- 前記液体組成物のpHが、前記記録媒体の表面pHより大きい請求項1〜4のいずれかに記載の記録画像物の形成方法。
- 前記液体組成物のpHと前記記録媒体の表面pHとの差が、0.5以上である請求項1〜5のいずれかに記載の記録画像物の形成方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の形成方法によって得られたことを特徴とする記録画像物。
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