JP4114340B2 - 自動車の電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のハンドル操舵を電動モータの制御により補助するようにした電動パワーステアリング装置に関する技術分野に属する。尚、本発明では自動車のことを「車両」ともいう。
【0002】
【従来の技術】
従来より、自動車のパワーステアリング装置として、電動モータや油圧によってハンドル操舵を補助するものが知られており、このものでは、ハンドル操舵トルクやハンドル操舵回転速度(ハンドル操舵角度の微分値)に応じて電動モータの制御量又は油圧量の調整を行い、所定のアシスト特性を実現している。また、上記アシスト特性を、例えば車速に応じて変更するものや、車速に加えて横加速度及びヨーレートに応じて変更するもの(例えば特開平8―72734号公報参照)も知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来の電動モータを用いた電動パワーステアリング装置においては、通常、ハンドルと車輪(操舵輪)との間に設けられてハンドル操舵トルクを検出するトルクセンサ(トーションバー)を設け、その検出値に所定のゲイン(アシスト制御ゲイン)を掛けることによって電動モータの制御量を決定するようにしている。そして、上記アシスト制御ゲインの値は、所定の自動車でテストを行ってそれを基に所望のアシスト特性となるように調整されている。
【0004】
ところが、この電動パワーステアリング装置においては、例えば製品毎に、操舵力に対して発生する車両の挙動としての横加速度や横滑り角がばらついてしまい、操舵力に対する所望の横加速度や横滑り角が車両に発生しない場合がある。この場合、所望の横加速度や横滑り角となるように運転者が操舵力を調整する必要がある。
【0005】
この横加速度や横滑り角のばらつきは、例えばイナーシャの大きさがばらついていたり、電動モータやその電動モータとステアリングシャフトとの間に設けられる減速ギヤ機構等におけるフリクションの大きさが部品毎にばらついていたりすることに原因がある。例えばフリクションの大きさのばらつきは、主に部品の製造誤差等に起因していて、上記フリクションが通常よりも大きくなっている場合には、トルクセンサの検出値に所定のゲインを掛けた制御量で電動モータを制御しても、モータ推力がフリクションによって消費されてしまい、電動モータによる補助操舵力が足りずに、運転者が操舵力を増大しなければならなくなる。
【0006】
また、運転者のハンドル操舵に対して所望の横加速度や横滑り角が発生しない場合としては、上記のイナーシャやフリクションの大きさのばらつきに起因した場合に限らず、例えば直進走行中(運転者の操舵力が0)に、横風や路面不整等の車両に対する外乱によって上記車両に横加速度や横滑り角が生じる場合等もある。この場合も、上記運転者はハンドル操舵を調整することによって、所望の車両挙動とする必要がある。
【0007】
このように、ハンドル操舵に対して所望の横加速度や横滑り角が発生しないことによって、運転者の操舵フィーリングの悪化や違和感を招き、ひいては運転者の疲労を招いているという問題があった。
【0008】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたもので、その目的は、上記のように、電動モータの制御によりハンドル操舵を補助する自動車の電動パワーステアリング装置において、運転者のハンドル操舵に対する車両の挙動を、常に所望の挙動にさせるようにすることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、この発明では、トルクセンサの検出値に基づくフィードバック制御を、従来の電動パワーステアリング装置におけるアシスト制御に追加して行うようにした。
【0012】
具体的には、請求項1の発明では、電動モータの制御によりハンドル操舵を補助するようにした自動車の電動パワーステアリング装置として、ハンドル及び車輪の間に設けられ、ハンドル操舵トルクを検出するトルクセンサと、このトルクセンサの検出値が無くなるように上記電動モータの第1制御量を決定する第1の制御部と、上記トルクセンサの検出値から車体重心点の目標横滑り角を演算し、該目標横滑り角から、演算により推定された車体重心点の推定横滑り角を減算することによって上記電動モータの第2制御量を決定する第2の制御部と、上記第1の制御部による第1制御量及び第2の制御部による第2制御量を加算した制御量に基づいて上記電動モータを制御するモータ制御部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
この発明の構成によると、ハンドルの操舵に伴い、ハンドルと車輪との間に設けられたトルクセンサがハンドル操舵トルクを検出し、第1の制御部において、上記トルクセンサの検出値が無くなるように、すなわちトルクセンサの検出値に所定のゲインを掛けて第1制御量が決定される。これは従来のアシスト制御に対応する。
【0014】
一方、第2の制御部では、上記トルクセンサの検出値から車体重心点の目標横滑り角が演算され、この目標横滑り角から演算により推定された車体重心点の推定横滑り角を減算することによって第2制御量が決定される。ここで、車体重心点の目標横滑り角の演算は、例えばホイールベース等の車両諸元及び車速等に基づいて予め設定した、ハンドル操舵トルクに対するマップ(ゲイン)によって演算すればよい。
【0015】
そして、モータ制御部は、上記第1制御量と第2制御量とを加算した制御量でもって上記電動モータを制御する。ここで、第1制御量でもって電動モータを制御しても所望の車両挙動(車体重心点の横滑り角)とならないときには、トルクセンサの検出値に基づいて演算された車体重心点の目標横滑り角と車体重心点の推定横滑り角との偏差が生じていることになる。このため、この偏差によって決定された第2制御量でもって電動モータが制御されることによって、車体重心点の所望の横滑り角が車両に生じる。
【0016】
このように、車体重心点の目標横滑り角となるように電動モータを制御することによって、たとえイナーシャの大きさや、電動パワーステアリング装置を構成する部品のフリクションの大きさがばらついていても、運転者のハンドル操作(ハンドル操舵トルク)に対して、常に車体重心点の所望の横滑り角が車両に生じるようになる。これにより、操舵フィーリングの向上や、違和感の軽減が図られる。
【0017】
また、例えば車両が直進状態であるときには、運転者はハンドル操舵していないためにハンドル操舵トルクは0である。このため、横風や路面不整によって車両に車体重心点の横滑り角が生じた場合には、第2の制御部は、車体重心点の目標横滑り角を0にする制御、すなわち、直進状態を維持しようとする制御を行うため、上記横風や路面不整等の外乱に対する直進安定性の向上が図られる。これにより、運転者がハンドル操舵を調整する必要もなくなって、上記運転者の疲労の軽減が図られる。
【0018】
上記請求項1の発明の自動車の電動パワーステアリング装置においては、第2制御量の感度を調整することによって、より好ましい制御が実現する。具体的には、請求項2の発明の如く、第2の制御部は、車速が高いほど第2制御量の感度を上げるように構成するのが好ましい。すなわち、車速が高い領域では、運転者は小刻みに速く舵角を切るため、フリクションによる引っ掛かり等が気になるので、第2制御量の感度を高めるのが好ましい。一方、低車速領域では、運転者は大きくゆっくりと舵角を切るので、フリクションによる引っ掛かり等を気にならないとともに、低速時は推力が大きく必要でエネルギー消費が大きくなるので、第2制御量の感度を上げることは好ましくない。
【0019】
また、請求項3の発明の如く、第2の制御部は、路面摩擦係数が低いほど第2制御量の感度を下げるようにするのが好ましい。すなわち、路面摩擦係数が低いと、安定性が望まれるが、第2制御量の感度が高い場合、車両の挙動が速くなって違和感を招くこととなる。また、路面摩擦係数が低いときには、車輪が発生できる力も小さくなることから、第2制御量の感度を高くしても車両が追従できず、場合によっては制御が発振する状態を招くためである。
【0021】
加えて、請求項4の発明のように、第2の制御部は、車輪舵角が小さいほど第2制御量の感度を上げるようにするのが好ましい。すなわち、車輪舵角が小さい領域は、車両の直進性を維持するためにハンドルを小刻みに操舵する領域であり、この領域での第2制御量の感度を上げることで引っ掛かり等を防止することが必要である。また、舵角が大きい領域では顕著な問題は生じないとともに、車輪の非線形領域に入ってモデルとの差異が生じてくるようになり、この観点からも第2制御量の感度を下げることが違和感を低減できる。
【0022】
また、請求項5の発明のように、第2の制御部は、車輪舵角速度が大きいほど第2制御量の感度を上げるように構成するのが好ましい。すなわち、舵角速度が大きいほど追従性や引っ掛かり感が顕著となるために、第2制御量の感度を上げるのがよい。
請求項6の発明では、電動モータの制御によりハンドル操舵を補助するようにした自動車の電動パワーステアリング装置として、ハンドル及び車輪の間に設けられ、ハンドル操舵トルクを検出するトルクセンサと、このトルクセンサの検出値が無くなるように上記電動モータの第1制御量を決定する第1の制御部と、上記トルクセンサの検出値から目標横加速度を演算し、該目標横加速度から実際に車両に発生している横加速度を減算することによって上記電動モータの第2制御量を決定する第2の制御部と、上記第1の制御部による第1制御量及び第2の制御部による第2制御量を加算した制御量に基づいて上記電動モータを制御するモータ制御部とを備えている。そして、上記第2の制御部は、車速が高いほど第2制御量の感度を上げるように構成されていることを特徴とする。
この発明の構成によると、請求項1の発明と同様に、ハンドルの操舵に伴い、ハンドルと車輪との間に設けられたトルクセンサがハンドル操舵トルクを検出し、第1の制御部において、上記トルクセンサの検出値が無くなるように、すなわちトルクセンサの検出値に所定のゲインを掛けて第1制御量が決定される。これは従来のアシスト制御に対応する。
一方、第2の制御部では、上記トルクセンサの検出値から目標横加速度が演算され、この目標横加速度から実際に車両に発生している横加速度を減算することによって第2制御量が決定される。ここで、目標横加速度の演算は、例えばホイールベース等の車両諸元及び車速等に基づいて予め設定した、ハンドル操舵トルクに対するマップ(ゲイン)によって演算すればよい。
そして、モータ制御部は、上記第1制御量と第2制御量とを加算した制御量でもって上記電動モータを制御する。ここで、第1制御量でもって電動モータを制御しても所望の車両挙動(横加速度)とならないときには、トルクセンサの検出値に基づいて演算された目標横加速度と実際の横加速度との偏差が生じていることになる。このため、この偏差によって決定された第2制御量でもって電動モータが制御されることによって、所望の横加速度が車両に生じる。
このように、目標横加速度となるように電動モータを制御することによって、たとえイナーシャの大きさや、電動パワーステアリング装置を構成する部品のフリクションの大きさがばらついていても、運転者のハンドル操作(ハンドル操舵トルク)に対して、常に所望の横加速度が車両に生じるようになる。これにより、操舵フィーリングの向上や、違和感の軽減が図られる。
また、例えば車両が直進状態であるときには、運転者はハンドル操舵していないためにハンドル操舵トルクは0である。このため、横風や路面不整によって車両に横加速度が生じた場合には、第2の制御部は、目標横加速度を0にする制御、すなわち、直進状態を維持しようとする制御を行うため、上記横風や路面不整等の外乱に対する直進安定性の向上が図られる。これにより、運転者がハンドル操舵を調整する必要もなくなって、上記運転者の疲労の軽減が図られる。
そして、第2の制御部は、車速が高いほど第2制御量の感度を上げるように構成されているので、上記請求項2の発明と同様の作用効果が得られる。
請求項7の発明では、電動モータの制御によりハンドル操舵を補助するようにした自動車の電動パワーステアリング装置として、上記請求項6の発明と同様の、トルクセンサ、第1の制御部、第2の制御部、及びモータ制御部を備えている。そして、その第2の制御部は、路面摩擦係数が低いほど第2制御量の感度を下げるように構成されている。
この発明でも、上記請求項6の発明と同様の作用効果を奏することができる。また、第2の制御部は、路面摩擦係数が低いほど第2制御量の感度を下げるように構成されているので、上記請求項3の発明と同様の作用効果が得られる。
請求項8の発明では、電動モータの制御によりハンドル操舵を補助するようにした自動車の電動パワーステアリング装置として、上記請求項6の発明と同様の、トルクセンサ、 第1の制御部、第2の制御部、及びモータ制御部を備えている。そして、その第2の制御部は、車輪舵角が小さいほど第2制御量の感度を上げるように構成されている。
この発明でも、上記請求項6の発明と同様の作用効果を奏することができる。また、第2の制御部は、車輪舵角が小さいほど第2制御量の感度を上げるように構成されているので、上記請求項4の発明と同様の作用効果が得られる。
請求項9の発明では、電動モータの制御によりハンドル操舵を補助するようにした自動車の電動パワーステアリング装置として、上記請求項6の発明と同様の、トルクセンサ、第1の制御部、第2の制御部、及びモータ制御部を備えている。そして、その第2の制御部は、車輪舵角速度が大きいほど第2制御量の感度を上げるように構成されている。
この発明でも、上記請求項6の発明と同様の作用効果を奏することができる。また、第2の制御部は、車輪舵角速度が大きいほど第2制御量の感度を上げるように構成されているので、上記請求項5の発明と同様の作用効果が得られる。
【0023】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)
図1及び図3は本発明の実施形態1に係る自動車の電動パワーステアリング装置Aの構成を示し、1はハンドル(ステアリングホイール)、2は該ハンドル1に連結されてハンドル1の回転力(操舵力)を伝達するステアリングシャフト、3は該ステアリングシャフト2に自在継ぎ手を介して連結された中間シャフト、4は該中間シャフト3の下端に設けられたステアリングギヤボックス、5は該ステアリングギヤボックス4の両側に配設されたタイロッド、6は該各タイロッド5が連結される操舵輪としての前車輪(タイヤ)である。
【0024】
尚、図3は車両を左右一側の2輪モデルで示しており、7は後車輪、Lfは前車輪6から車両の重心位置Pまでの距離、Lrは後車輪7から車両の重心位置Pまでの距離である。
【0025】
上記ステアリングギヤボックス4内には、ラック及びそれに噛合されるピニオン(いずれも図示せず)からなるラックピニオン機構8(図3参照)が設けられており、そのピニオンには上記中間シャフト3の下端が連結されている一方、ラックの両端部は各タイロッド5を介して前車輪6に連結されている。
【0026】
上記ステアリングギヤボックス4には、そのピニオン側に減速ギヤ機構10を介して力を付与する電動モータ11と、トーションバーとしてのトルクセンサ12とが設けられ、このトルクセンサ12は上記中間シャフト3と減速ギヤ機構10との間に配設されている。これにより、上記トルクセンサ12は、ハンドル1と前車輪6との間に設けられてハンドル操舵トルクを検出するものとなっている。
【0027】
上記トルクセンサ12及び電動モータ11はそれぞれコントローラ15に接続されていて、このコントローラ15によって電動モータ11が制御される。図2に示すように、このコントローラ15には、上記トルクセンサ12、車両に生じた横加速度Gを検出する横加速度センサ16、及び電動モータ11の回転速度を検出するモータ回転速度センサ17の各検出値が入力されるようになっている。尚、上記モータ回転速度センサ17は、電動モータ11の回転速度ωを直接的に検出するものとしてもよいし、上記電動モータ11に印加される電圧等から推定するものとしてもよい。
【0028】
また、上記横加速度センサ16は、上記車両の重心位置P又はそれよりも前側に配置されている。すなわち、仮に、横加速度センサ16が車両の重心位置Pよりも後側に配置されていると、車両のオーバーステア状態で横加速度センサ16により検出される横加速度Gが重心位置Pでの横加速度により目減りし、その分、電動パワーステアリング装置Aがそれを補償しようとして前車輪6の舵角をさらに切る方向に余計にアシスト制御を行って、ハンドル1が軽くなり、オーバーステアが過度に増長されて問題が生じる。これに対し、横加速度センサ16を重心位置P又はそれよりも前側に配置することで、オーバーステア時にハンドル1の手応えの減少によりオーバーステアが増長されるのを防ぎ、アンダステア補正を行うことができる。
【0029】
図2に示す如く、上記コントローラ15には、上記トルクセンサ12の検出値が無くなるように第1制御量を決定する第1の制御部としてのアシスト制御部21と、上記トルクセンサ12の検出値から目標横加速度を演算し、この目標横加速度から、上記横加速度センサ16が検出した実際に車両に発生している横加速度を減算することによって第2制御量を決定する第2の制御部としての横加速度フィードバック制御部22と、上記アシスト制御部21及び横加速度フィードバック制御部22の各制御量を加算することによって電動モータ11の制御量を決定し、この制御量でもって電動モータ11を制御するモータ制御部23とを備えている。
【0030】
上記アシスト制御部21は、トルクセンサ12の検出値ξに対してアシスト制御ゲインKaを掛けることによって第1制御量(Ka・ξ)を決定するように構成されている。このアシスト制御ゲインKaは、車速V、トルクセンサ12の検出値ξ及び該検出値ξの微分値によって決定される非負(正又は0)の変数であって、かつ車速Vに関して非増加の(車速が高いとき(H)の方が、車速が低いとき(L)に比べて小さい)変数とされている。
【0031】
上記横加速度フィードバック制御部22は、トルクセンサ12の検出値ξの位相遅れを補償する伝達関数G1(s)を有している。この伝達関数G1(s)は、図3に示すように、ハンドルイナーシャIh,トルクセンサ12(トーションバー)の減衰係数Cb、及びそのトーションバーのばね定数Kbとして下記の式(1)で設定されている。
【0032】
G1(s)={ωh 2(Ihs2+Cbs+Kb)}/{Kb(s2+2ηhωh+ωh 2)}…(1)
ここで、sはラプラス演算子、ηh,ωhは調整パラメータである。
【0033】
そして、上記伝達関数の出力(G1(s)・ξ)によって運転者が実際にハンドル1に付与したハンドル操舵トルクuを算出するようにされている。
【0034】
また、横加速度フィードバック制御部22は、上記ハンドル操舵トルクuに含ませるフリクション成分(フリクショントルクuF)を設定するためのフリクションゲインKFを有している。このように、ハンドル操舵トルクuにフリクショントルクuFを含ませるのは、通常の自動車においては、図6に示すように、ハンドル操舵トルクuとハンドル舵角θHとの間の特性がヒステリシスになるためである。
【0035】
すなわち、このヒステリシス特性は、ステアリング系のフリクション等によって生じるものであるが、横加速度フィードバック制御部22による制御によって、そのフリクションの影響が低下し又は影響が全くなくなってしまい、同図の一点鎖線で示すように、操舵トルクuとハンドル舵角θHとの間のヒステリシス特性が失われる虞れがある。このようにハンドル操舵トルクuとハンドル舵角θHとの間の特性が通常の自動車とは異なる特性となる結果、操舵感が損われるようになる。
【0036】
そこで、操舵感の向上を目的として、予め設定した大きさのフリクショントルクuFを、目標横加速度の演算に係るハンドル操舵トルクuから減ずる(ハンドル操舵トルクuに、操舵速度方向とは逆向きにフリクショントルクuFを加える)ことで、ハンドル操舵トルクuとハンドル舵角θHとの間に、所定のヒステリシス特性が残るようにしている。
【0037】
具体的には、上記フリクションゲインKFは、図4に示すように、モータ回転速度ωの方向に応じてフリクショントルクuFの正負を設定するようになっており、モータ回転速度ω(つまりハンドル操舵速度)が正のときはフリクショントルクを+uFとし、モータ回転速度ω(つまりハンドル操舵速度)が負のときはフリクショントルクを−uFとする。尚、モータ回転速度ωがω=0(ゼロ)の点においてフリクショントルクuFが不連続になることにより、運転者の違和感を招く虞れもあるため、例えば図5に示すように、モータ回転速度ω=0点付近で、フリクショントルクuFが連続的につながるように、フリクションゲインを設定してもよい。つまり、モータ回転速度ω=0点近傍でフリクショントルクuFの絶対値を減少させてもよい。
【0038】
尚、上記フリクショントルクuFの大きさを調整することで、上記ヒステリシスの幅を調整することもできる。これにより、操舵力特性(操舵感)を常に設計どおりの特性にすることも可能になる。また、上記フリクショントルクuFは、車速Vが高いほど小さくしてもよい。こうすることで、高速走行時においては、ハンドル1の復元力が高まり、ハンドル1の戻り感を向上させることができる。さらに、上記フリクショントルクuFは、車輪舵角(前車輪6の舵角)が大きいほど小さくしてもよい。こうすることで、車輪舵角の大きい領域では車両の安定性が向上し、車輪舵角の小さい領域では車両の応答性が向上するようになる。
【0039】
上記横加速度フィードバック制御部22は、上記ハンドル操舵トルクuからフリクショントルクuFを減じた値(u−uF)に基づき目標横加速度を演算する目標ゲインKyを有し、この目標ゲインKyは、ホイールベース等の車両諸元や車速V等に基づいて予め設定されたものとなっている。すなわち、この横加速度フィードバック制御部22による制御は、ハンドル操舵トルクに対する車両応答が線形である領域(車両応答の線形領域)を対象としている。尚、この目標ゲインKyの詳細については後述する。
【0040】
また、上記横加速度フィードバック制御部22は、上記横加速度センサ16が検出した実際の横加速度Gを上記目標横加速度から減算し、この偏差(Ky(G1(s)・ξ−uF)−G)に対して制御ゲインC(s)を掛けて制御量(第2制御量)を決定するように構成されている。上記制御ゲインC(s)は式(2)で設定されている。
【0041】
C(s)=ΣBmsm/ΣAnsn …(2)
尚、m=0,1,2,…,M、n=0,1,2,…,Nである。
【0042】
このC(s)は、例えば目標横加速度と実際の横加速度Gとの偏差を0にするためのPID制御理論の伝達関数としてもよく、PID制御の場合では、
A0=0,A1=1,B0=積分ゲイン,B1=比例ゲイン,B2=微分ゲイン
とすればよい。また、上記C(s)は、PID制御以外の制御理論を用いた伝達関数としてもよい。
【0043】
上記横加速度フィードバック制御部22の制御量の感度調整(目標ゲインKy又は制御ゲインC(s)の調整)は次の▲1▼〜▲7▼のようにするのがよい。
【0044】
▲1▼ 車速Vが所定車速以下のときは、目標ゲインKyをKy=0とするのがよい。これは次の理由によるものである。つまり、ハンドル1が操舵されることによりトルクセンサ12の検出値から目標横加速度が演算されるが、例えば低速旋回時は車両に横加速度が発生し難い(又は発生しない)。このため、低速旋回時において上記目標横加速度となるように電動モータ11を制御しても、目標横加速度が達成されないという不具合が生じる。従って、車速Vが所定車速以下のときは目標ゲインKyを0として、上記横加速度フィードバック制御部22における制御を行わないのがよい。これにより、車速Vが所定車速以下のときは、アシスト制御部21による制御のみが行われる。
【0045】
一方、車速Vが所定車速以上のときは、上記アシスト制御部21のアシストゲインKaをKa=0として、横加速度フィードバック制御部22による制御のみを行うようにするのがよい。これは、上記アシスト制御部21と横加速度フィードバック制御部22とで制御干渉が起きる虞れがあるためである。
【0046】
▲2▼ 車速Vが高いほど制御ゲインC(s)を上げるのがよい。これは、高速走行時の直進安定性を向上させるためである。すなわち、例えば横風や路面不整等によって車両に外乱が入力された場合には、運転者がハンドル1の操舵をしていない、つまりハンドル操舵トルクが0であるにも拘わらず、車両に横加速度が生じることになる。しかし、横加速度フィードバック制御部22の制御は、ハンドル操舵トルクが0、すなわち目標横加速度が0であれば、直進状態を維持しようとする制御になるため、車速Vが高いほど制御ゲインC(s)を高めることで、高速走行時の直進安定性が向上する。尚、上記制御ゲインC(s)の調整は、An,Bmを変更することによって行ってもよい(式(2)参照)。
【0047】
▲3▼ 車速Vがさらに高くなって所定車速以上になれば、その車速Vが高いほど目標ゲインKyを下げるのがよい。これは、高速走行時におけるハンドル1の操舵に対する車両挙動を鈍くするためである。すなわち、中速域では、ハンドル1の操舵に対して車両挙動(横加速度挙動)が敏感に反応する方が、例えば回頭性が向上することになるため好ましいが、高速域では、ハンドル1の操舵に対して、横加速度挙動が敏感に反応するのは、挙動が不安定になってしまう虞れがあるとともに、運転者に違和感を与えてしまうことになる。そこで、車速Vがさらに高くなれば、すなわち高速走行時には目標ゲインKyを下げてハンドル1の操舵に対する車両挙動を鈍くするのが好ましい。
【0048】
よって、上記▲1▼〜▲3▼によると、車速Vの低速域では、横加速度フィードバック制御部22による制御が行われない一方、中速域(M)では、上記横加速度フィードバック制御部22による制御が積極的に行われる。そして、高速域(H)では、中速域に比べて横加速度フィードバック制御部22による制御が抑制されることとなる。
【0049】
▲4▼ 路面μ(路面摩擦係数)が低いほど目標ゲインKyを下げるのがよい。これは、路面μが低いときはタイヤ反力が小さいため、トルクセンサ12が値を検出しないか又はその検出値が小さいにも拘わらず、車両には横加速度が発生する。このため、目標横加速度と実際の横加速度Gとが合わなくなってしまうことから、路面μが低いほど目標ゲインKyを下げて、目標横加速度の影響を小さくするのが好ましい。
【0050】
▲5▼ 前車輪6の舵角(車輪舵角)が小さいほど目標ゲインKyを上げるのがよい。これは、直進安定性のより一層の向上を図るためである。
【0051】
▲6▼ 前車輪6の舵角速度(車輪舵角速度)が大きいほど目標ゲインKyを上げるのがよい。これは、車輪舵角速度が大きいときはイナーシャが大きくなってハンドル1の操舵に対して車両挙動が遅れやすくなるため、電動モータ11に大きなモータ推力を与えた方が好ましくなるためである。
【0052】
▲7▼ 車重が重いほど目標ゲインKyを上げるのがよい。つまり、例えば積載量が増えて車重が重くなっている場合のように、ハンドル1の操舵に対する車両の挙動が遅れるような場合であっても、目標ゲインKyを上げることで、電動モータ11に大きなモータ推力を与えることができて好ましい。
【0053】
尚、上記▲1▼,▲3▼〜▲7▼については、目標ゲインKyを調整しているが、制御ゲインC(s)を調整するようにしてもよい。逆に、上記▲2▼については、制御ゲインC(s)を調整しているが、目標ゲインKyを調整するようにしてもよい。
【0054】
上記横加速度フィードバック制御部22はまた、所定の仮想的なモデルにおいて、電動モータ11の出力と、トルクセンサ12を介してハンドル1から前車輪6に伝達されるトルクとの和に対するモータ回転速度を算出するための伝達関数G4(s)を有しているとともに、上記所定の仮想的なモデルにおけるモータ回転速度(舵角速度)と、実際のモータ回転速度ωとの偏差から、横加速度フィードバック制御部22の制御量を補正する補正量を算出するための伝達関数G5(s)を有している。
【0055】
上記伝達関数G4(s)は式(3)で設定されている。
【0056】
G4(s)=ΣPksk/ΣQlsl …(3)
尚、k=0,1,2,…,K、l=0,1,2,…,Lである。また、Pk,Qlは車速Vに応じて変更してもよく、車速Vに応じて段階的に変更してもよい。このとき、低車速ほどPk,Qlを細かく変更してもよい(低車速ほど、車速Vの変化に対してPk,Qlを頻繁に変更してもよい)。
【0057】
一方、上記伝達関数G5(s)は式(4)で設定されている。
【0058】
G5(s)=ωjKw/(s+ωj) …(4)
尚、ωj,Kwは調整パラメータである。
【0059】
これら伝達関数G4(s),G5(s)により、電動モータ11にダンピングを与えて、安定性を高めるようにしている。
【0060】
このようにして、アシスト制御部21及び横加速度フィードバック制御部22において各制御量が決定されれば、モータ制御部23において、上記アシスト制御部21及び横加速度フィードバック制御部22の制御量を加算して、電動モータ11を制御するためのモータ制御量を決定する。
【0061】
そして、上記モータ制御部23は補正部24を有しており、この補正部24は、ハンドル1と前車輪6との間でトルクセンサ12を介して伝達されるトルクが打ち消されるように、上記モータ制御量の補正をするものである。
【0062】
上記補正部24は、車速Vに応じて設定される第1ゲインK1と、ハンドル舵角θH及びハンドル舵角速度θH′に応じて設定される第2ゲインK2と、トルクセンサ12の検出値から上記ハンドル1と前車輪6との間で上記トルクセンサ12を介して伝達されるトルク成分を演算するための伝達関数G3(s)とを備えている。
【0063】
上記第1ゲインK1は、図7に示すように、車速Vが第1車速V1以下のときには0であり、第1車速V1よりも高いときには、車速Vの増加に応じて増加し、さらに、第2車速V2以上のときには、車速Vに拘わらず一定となるように設定されている。これにより、車両が停止しているとき又は低速走行時には、モータ制御量の補正が行われない。尚、第1車速V1と第2車速V2との間において、第1ゲインK1を連続的に変化させなくても、第1車速V1において不連続となるように第1ゲインK1を設定してもよい。
【0064】
一方、第2ゲインK2は、図8に示すように、ハンドル舵角θHが第1舵角θ1以下のときには、その舵角θHに拘わらず一定値であり、上記第1舵角θ1よりも大きいときには、舵角θHの増大に応じて減少し、さらに、第2舵角θ2よりも大きいときには0になるように設定されている。これにより、ハンドル舵角θHが第2舵角θ2よりも大きいときには、モータ制御量の補正が行われない。尚、第1舵角θ1と第2舵角θ2との間において、第2ゲインK2を連続的に変化させなくても、第1舵角θ1において不連続となるように第2ゲインK2を設定してもよい。
【0065】
また、上記第2舵角θ2は舵角速度θH′に応じて設定され、舵角速度θH′が高くなるほど第2舵角θ2が小さく設定される(同図の一点鎖線参照)。
【0066】
また、上記伝達関数G3(s)は式(5)で設定されている。
【0067】
G3(s)=ωi(Cbs+Kb)/{Kb(s+ηiωi)} …(5)
ここで、ωi,ηiは調整パラメータである。
【0068】
こうして第1ゲインK1、第2ゲインK2及び伝達関数G3(s)によって、ハンドル1と前車輪6との間でトルクセンサ12を介して伝達されるトルク成分を演算し、これをモータ制御量から減算する補正を行う。
【0069】
したがって、上記実施形態においては、トルクセンサ12の値から目標となる目標横加速度を演算し、この目標横加速度となるように電動モータ11が制御される。このため、アシスト制御部21の制御量(Ka・ξ)で電動モータ11を制御することによって所望の横加速度が発生しない場合であっても、横加速度フィードバック制御部22の制御によって、目標横加速度(所望の横加速度)が車両に生じる。
【0070】
こうして、目標横加速度となるように電動モータ11が制御されることで、たとえフリクションやイナーシャの大きさが異なる場合であっても、運転者のハンドル1の操舵(ハンドル操舵トルク)に対して、常に所望の横加速度が車両に生じるようになる。これにより、操舵フィーリングの向上や違和感の軽減が図られ、運転者の疲労を軽減することができる。
【0071】
また、例えば積載量が増えて車重が重くなっている場合のような、ハンドル1の操舵に対する車両の挙動が遅れるような場合であっても、目標横加速度と実際の横加速度との偏差に基づいて電動モータ11の制御が行われるため、車重の如何に拘わらず、ハンドル1の操舵に対して、常に所望の横加速度が車両に生じるようになる。つまり、常に同様の操舵フィーリングが得られる。
【0072】
さらに、例えば車両が直進状態であるときに、横風や路面不整等によって車両に横加速度が生じた場合には、横加速度フィードバック制御部22は目標横加速度を0とする制御、すなわち直進状態を維持しようとする制御を行う。このため、上記横風や路面不整等の外乱に対する直進安定性の向上が図られる。
【0073】
そして、上記モータ制御部23は、ハンドル1と前車輪6との間でトルクセンサ12を介して伝達されるトルク(推定トルク)を推定するとともに、この推定トルクをモータ制御量から減算する補正部24を有している。この補正部24によりモータ制御量が補正されることで、ハンドル1から前車輪6に実際に伝達されるトルクと上記推定トルクとが相殺されることになり、制御上は、ハンドル1から前車輪6にトルクが伝達されないことになる。こうして、特に車両が外乱を受けたときに、運転者によるハンドル1の操舵と、横加速度フィードバック制御部22における制御とが干渉してしまうことを回避することができる。
【0074】
また、上記補正部24においては、第1車速V1以下のときには第1ゲインK1を0としかつ、第1車速V1よりも車速Vが高いときには車速Vに応じて第1ゲインK1を高めることで、モータ制御量の補正の禁止・実行を切り換えるように構成されている。こうすることで、不必要なモータ制御量の補正を回避しつつ、制御干渉を回避することができる。
【0075】
つまり、第1車速V1以下のときの停車時又は低速走行時には、車両に横加速度が発生しないか又は発生し難いため、上記コントローラ15においては、目標ゲインKyを0として横加速度フィードバック制御部22における制御を行わず、中速又は高速走行時に目標ゲインKyを比較的高めるようにしている。一方、アシスト制御ゲインKaは、図7の一点鎖線で示すように、停車時又は低速走行時に高める一方、中速又は高速走行時には低下させるようにしている。
【0076】
ここで、横加速度フィードバック制御部22による制御を行わないときは、この横加速度フィードバック制御部22の制御に対する干渉の問題が生じないとともに、元々停車時又は低速走行時には、車両に対する外乱の影響自体がない。また逆に、横加速度フィードバック制御部22による制御を行わないときに、補正部24によるモータ制御量の補正を行うと、トルクセンサ12を介して伝達されるトルクを打ち消す制御が行われることになるため、運転者によるハンドル操舵トルクが前車輪6にまで伝わらず舵が切れなくなることにもなる。
【0077】
そこで、車速Vが第1車速V1以下であるとき、言い換えると横加速度フィードバック制御部22の制御感度が0のときには、モータ制御量の補正を禁止することで、上記の不都合が回避される。一方、車速Vが第1車速V1よりも高いときには、言い換えるとアシスト制御部21の制御感度が低く、逆に横加速度フィードバック制御部22の制御感度が高いときには、モータ制御量の補正を行うことで、制御干渉が回避される。
【0078】
さらに、上記補正部24においては、第2舵角θ2を閾値としてモータ制御量の補正の禁止・実行を切り換えるように構成されている。こうすることで、制御干渉を回避しつつ、横加速度フィードバック制御部22による制御が有効に行われない車両応答の非線形領域では、前車輪6等の状態を操舵反力として運転者に的確に伝えることができる。
【0079】
すなわち、上述したように、横加速度フィードバック制御部22は、車両応答の線形領域における制御を行うように構成されている。このため、ハンドル舵角θHが第2舵角θ2以下である車両応答の線形領域では、モータ制御量の補正を行うことで、制御干渉を回避することができる一方、第2制御量による制御が有効でない車両応答の非線形領域(ハンドル舵角θHが第2舵角θ2よりも大きいとき)では、モータ制御量の補正を禁止することで前車輪6からハンドル1にトルクを伝達させ、これにより、前車輪6等の状態を操舵反力として運転者に的確に伝えることができる。
【0080】
また、補正部24におけるモータ制御量の補正の禁止・実行の閾値である第2舵角θ2を、ハンドル舵角速度θH′が高くなるほど小さくすることで、車両応答の線形領域が狭くなることに対応して、モータ制御量の補正の禁止・実行の切換えがなされ、車両応答の線形領域では、制御干渉を回避しつつ、横加速度フィードバック制御部22による制御によって所望の横加速度を発生させる一方、車両応答の非線形領域では、前車輪6等の状態を操舵反力として運転者に的確に伝えることができるようになる。
【0081】
(実施形態2)
図9は実施形態2を示し(図1〜図8と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する)、上記実施形態1では、第2の制御部としての横加速度フィードバック制御部22において、トルクセンサ12の検出値を基に演算した目標横加速度から実際の横加速度Gを減算することによって電動モータ11の第2制御量を決定するようにしているのに対し、トルクセンサ12の検出値を基に演算した目標横滑り角から推定横滑り角βを減算することによって電動モータ11の第2制御量を決定するようにしたものである。
【0082】
すなわち、この実施形態2におけるコントローラ15には、実施形態1と同様のトルクセンサ12、横加速度センサ16及びモータ回転速度センサ17に加え、さらに、車両に生じたヨーレートを検出するヨーレートセンサ18の各検出値が入力されるようになっている。
【0083】
また、コントローラ15には、トルクセンサ12の検出値が無くなるように第1制御量を決定する第1の制御部としてのアシスト制御部21と、トルクセンサ12の検出値から目標横滑り角を演算し、この目標横滑り角から、横滑り角推定部28において推定された推定横滑り角βを減算することによって第2制御量を決定する第2の制御部としての横滑り角フィードバック制御部27と、上記アシスト制御部21及び横滑り角フィードバック制御部27の各制御量を加算することによって電動モータ11の制御量を決定し、この制御量でもって電動モータ11を制御するモータ制御部23とを備えている。
【0084】
上記横滑り角推定部28は、上記横加速度センサ16が検出した実際に車両に発生している横加速度Gと、ヨーレートセンサ18が検出した実際に車両に発生しているヨーレートψとから横滑り角βを演算により推定するもので、その推定横滑り角βの演算は式(6)により行う。
【0085】
β=∫{(G+r・ψ″)/V+ψ′}dt …(6)
ここで、rは車両の重心位置Pからその前側にある横加速度センサ16の位置までの距離である。横加速度センサ16が車両の重心位置Pにある場合には、r=0であるので、式(6)は、
β=∫{(G/V)+ψ′}dt
となる。
【0086】
上記横滑り角フィードバック制御部27は、上記ハンドル操舵トルクuからフリクショントルクuFを減じた値(u−uF)に基づいて目標横滑り角を演算する目標ゲインKyを有し、この目標ゲインKyは、ホイールベース等の車両諸元や車速V等に基づいて予め設定される。
【0087】
また、上記横滑り角フィードバック制御部27は、上記目標横滑り角から、上記横滑り角推定部28において演算された推定横滑り角βを減算し、この偏差(Ky(G1(s)・ξ−uF)−β)に対して制御ゲインC(s)を掛けて制御量(第2制御量)を決定するように構成されている。上記制御ゲインC(s)は上記式(2)で設定される。
【0088】
このC(s)は、例えば目標横滑り角と実際の推定横滑り角βとの偏差を0にするためのPID制御理論の伝達関数としてもよく、PID制御以外の制御理論を用いた伝達関数としてもよい。
【0089】
その他の構成は上記実施形態1と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0090】
したがって、この実施形態の場合、トルクセンサ12の値から目標となる目標横滑り角を演算し、この目標横滑り角となるように電動モータ11が制御される。このため、アシスト制御部21の制御量で電動モータ11を制御することによって、所望の横滑り角が発生しない場合であっても、横滑り角フィードバック制御部27の制御によって、目標横滑り角(所望の横滑り角)が車両に生じる。このように目標横滑り角となるように電動モータ11が制御されることで、たとえフリクションやイナーシャの大きさが異なる場合であっても、運転者のハンドル1の操舵(ハンドル操舵トルク)に対して、常に所望の横滑り角が車両に生じるようになる。よって、上記実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【0091】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1〜9の発明の自動車の電動パワーステアリング装置によると、目標横加速度又は車体重心点の目標横滑り角に基づく第2制御量でもって電動モータが制御されるため、フリクションやイナーシャの大きさに拘わらず、ハンドル操舵に対して常に所望の車両挙動を得ることができ、例えば製品間での性能差を無くすことができるとともに、車両に対して外乱が入力されても、第2の制御部によって、直進状態を維持しようとする制御が行われるため、直進安定性を向上させることができ、よって、運転者の操舵フィーリングの悪化や違和感を防止することができる。
【0092】
加えて、請求項2〜9の発明によれば、第2制御量の感度を車速、路面摩擦係数、車輪舵角及び車輪舵角速度に応じて調整することによって、より一層好ましい電動パワーステアリング装置が構成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係る電動パワーステアリング装置の構成を示す斜視図である。
【図2】コントローラの構成を示すブロック図である。
【図3】電動パワーステアリング装置の構成を示すブロック図である。
【図4】フリクションゲインの一例を示す図である。
【図5】図4とは異なるフリクションゲインの一例を示す図である。
【図6】ハンドル操舵トルクとハンドル舵角との関係を示す図である。
【図7】補正部における第1ゲインの特性を示す図である。
【図8】補正部における第2ゲインの特性を示す図である。
【図9】実施形態2に係るコントローラの構成を示す図2相当図である。
【符号の説明】
A 電動パワーステアリング装置
1 ハンドル
6 前車輪(車輪)
11 電動モータ
12 トルクセンサ
15 コントローラ
16 横加速度センサ
17 モータ回転速度センサ
18 ヨーレートセンサ
21 アシスト制御部(第1の制御部)
22 横加速度フィードバック制御部(第2の制御部)
23 モータ制御部
27 横滑り角フィードバック制御部(第2の制御部)
28 横滑り角推定部
P 重心位置
V 車速
ξ トルクセンサ検出値
u ハンドル操舵トルク
G 横加速度
β 横滑り角
Claims (9)
- 電動モータの制御によりハンドル操舵を補助するようにした自動車の電動パワーステアリング装置であって、
ハンドルと車輪との間に設けられ、ハンドル操舵トルクを検出するトルクセンサと、
上記トルクセンサの検出値が無くなるように上記電動モータの第1制御量を決定する第1の制御部と、
上記トルクセンサの検出値から車体重心点の目標横滑り角を演算し、該目標横滑り角から、演算により推定された車体重心点の推定横滑り角を減算することによって上記電動モータの第2制御量を決定する第2の制御部と、
上記第1の制御部による第1制御量と第2の制御部による第2制御量とを加算した制御量に基づいて上記電動モータを制御するモータ制御部とを備えていることを特徴とする自動車の電動パワーステアリング装置。 - 請求項1の自動車の電動パワーステアリング装置において、
第2の制御部は、車速が高いほど第2制御量の感度を上げるように構成されていることを特徴とする自動車の電動パワーステアリング装置。 - 請求項1の自動車の電動パワーステアリング装置において、
第2の制御部は、路面摩擦係数が低いほど第2制御量の感度を下げるように構成されていることを特徴とする自動車の電動パワーステアリング装置。 - 請求項1の自動車の電動パワーステアリング装置において、
第2の制御部は、車輪舵角が小さいほど第2制御量の感度を上げるように構成されていることを特徴とする自動車の電動パワーステアリング装置。 - 請求項1の自動車の電動パワーステアリング装置において、
第2の制御部は、車輪舵角速度が大きいほど第2制御量の感度を上げるように構成されていることを特徴とする自動車の電動パワーステアリング装置。 - 電動モータの制御によりハンドル操舵を補助するようにした自動車の電動パワーステアリング装置であって、
ハンドルと車輪との間に設けられ、ハンドル操舵トルクを検出するトルクセンサと、
上記トルクセンサの検出値が無くなるように上記電動モータの第1制御量を決定する第1の制御部と、
上記トルクセンサの検出値から目標横加速度を演算し、該目標横加速度から実際に車両に発生している横加速度を減算することによって上記電動モータの第2制御量を決定する第2の制御部と、
上記第1の制御部による第1制御量と第2の制御部による第2制御量とを加算した制御量に基づいて上記電動モータを制御するモータ制御部とを備え、
上記第2の制御部は、車速が高いほど第2制御量の感度を上げるように構成されていることを特徴とする自動車の電動パワーステアリング装置。 - 電動モータの制御によりハンドル操舵を補助するようにした自動車の電動パワーステアリング装置であって、
ハンドルと車輪との間に設けられ、ハンドル操舵トルクを検出するトルクセンサと、
上記トルクセンサの検出値が無くなるように上記電動モータの第1制御量を決定する第1の制御部と、
上記トルクセンサの検出値から目標横加速度を演算し、該目標横加速度から実際に車両に発生している横加速度を減算することによって上記電動モータの第2制御量を決定する第2の制御部と、
上記第1の制御部による第1制御量と第2の制御部による第2制御量とを加算した制御量に基づいて上記電動モータを制御するモータ制御部とを備え、
上記第2の制御部は、路面摩擦係数が低いほど第2制御量の感度を下げるように構成されていることを特徴とする自動車の電動パワーステアリング装置。 - 電動モータの制御によりハンドル操舵を補助するようにした自動車の電動パワーステアリング装置であって、
ハンドルと車輪との間に設けられ、ハンドル操舵トルクを検出するトルクセンサと、
上記トルクセンサの検出値が無くなるように上記電動モータの第1制御量を決定する第1の制御部と、
上記トルクセンサの検出値から目標横加速度を演算し、該目標横加速度から実際に車両に発生している横加速度を減算することによって上記電動モータの第2制御量を決定する第2の制御部と、
上記第1の制御部による第1制御量と第2の制御部による第2制御量とを加算した制御量に基づいて上記電動モータを制御するモータ制御部とを備え、
上記第2の制御部は、車輪舵角が小さいほど第2制御量の感度を上げるように構成されていることを特徴とする自動車の電動パワーステアリング装置。 - 電動モータの制御によりハンドル操舵を補助するようにした自動車の電動パワーステアリング装置であって、
ハンドルと車輪との間に設けられ、ハンドル操舵トルクを検出するトルクセンサと、
上記トルクセンサの検出値が無くなるように上記電動モータの第1制御量を決定する第1の制御部と、
上記トルクセンサの検出値から目標横加速度を演算し、該目標横加速度から実際に車両に発生している横加速度を減算することによって上記電動モータの第2制御量を決定する第2の制御部と、
上記第1の制御部による第1制御量と第2の制御部による第2制御量とを加算した制御量に基づいて上記電動モータを制御するモータ制御部とを備え、
上記第2の制御部は、車輪舵角速度が大きいほど第2制御量の感度を上げるように構成されていることを特徴とする自動車の電動パワーステアリング装置。
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