JP4107373B2 - 鉄系金属加工用潤滑油組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素鋼やステンレス鋼などの鉄系金属材料の加工に好適に用いられる潤滑油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属の切削加工、研削加工、切断加工、あるいは、押し出し、引き抜き、しごき、プレス、曲げ、ロールフォーミング、絞りなどの塑性加工に用いられる金属加工用潤滑油には、潤滑性を付与する目的で、油脂、脂肪酸、高級アルコール、エステル等の油性剤や、硫黄、塩素、リン等の元素を含む極圧添加剤が使用されてきた。この中で、元素としての塩素を含む塩素化パラフィンや塩素化脂肪酸エステル等の塩素系化合物の極圧添加剤は、他の極圧添加剤と比較して廉価である上、化学的に安定であり、潤滑性能にも優れることから、金属加工の分野において、広く多量に使用されてきた。特に加工性能を重視する分野においては、これらの塩素系極圧添加剤が多量に添加された金属加工用潤滑油組成物が使用されてきた。
【0003】
一方、加工の対象物である金属にも、アルミニウムや銅、及びそれらの合金のように、比較的柔らかな材質を持ち、加工のし易い、いわゆる非鉄金属材料から、例えばステンレス鋼や、クロムモリブデン鋼など材質が硬くて加工が難しい鉄系金属材料まであり、このような鉄系金属材料の加工を行うためには塩素系極圧添加剤の使用が不可欠であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、塩素系化合物について、例えば、米国では特定の塩素化パラフィンを発ガン性物質と認定し、さらにPL法の施行により発ガン性の警告表示が義務付けられる等、人体への安全性の面で問題点が指摘されていた。また、塩素系化合物を含有する金属加工用潤滑油の廃液を焼却処分する場合、燃焼時に大気汚染の原因となる塩化水素(HCl)が発生し、あるいは、焼却時の燃焼温度によってはダイオキシンが発生する等により、環境汚染を引き起こすおそれがあるという問題点も指摘されている。このような事情から、現在、多くの国では塩素化パラフィンや塩素化脂肪酸エステル等の塩素系化合物の極圧添加剤を含有する金属加工用潤滑油の使用が敬遠されつつある。かかる状況に対応するため、塩素系極圧添加剤の代わりに、イオウ系化合物の使用が考えられるが、反応性の高いイオウ系化合物は、加工機械の配管部やシール等に使用されている非鉄金属を腐食したり、ミストとなって使用環境中に飛散し、モータやスイッチ等の電気部品に使用されている銅合金を腐食したりするという問題があった。また添加剤自体臭気を有するものが多く、特に加工に伴う高温環境下では臭気がさらに高くなるという問題があった。一方、このような非鉄金属の腐食や臭気に問題のない反応性の低いイオウ系化合物では、潤滑性能が不足し、十分な加工性能を得ることができないという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明は、塩素系極圧添加剤を含まず、臭気が低く、加工機械及びその周囲の非鉄金属部品を腐食させることがなく、かつ、加工が難しい鉄系金属材料の加工において十分な性能を発揮することができる加工用潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは鋭意研究を重ねた結果、加工の難しい鉄系金属材料の加工において、チアジアゾール誘導体を極圧添加剤として配合した金属加工用潤滑油組成物を使用すれば、塩素系極圧添加剤を多量に含む従来の加工油の性能に比べても、はるかに優れる潤滑性能を引き出すことができることを見出した。またこのチアジアゾール誘導体は、高濃度の状態においても臭気が低く、かつ非鉄金属材料を腐食することがないことも見出した。
【0007】
本発明の第一の態様は、チアジアゾール誘導体を含むことを特徴とする鉄系金属材料の加工用潤滑油組成物である。この態様において、チアジアゾール誘導体は加工用潤滑油組成物の極圧添加剤として作用する。またこの態様では、本願発明の目的や作用効果を逸脱しない範囲において、公知の他の極圧添加剤、例えばリン系極圧添加剤、イオウ系極圧添加剤などを併用してもよい。
【0008】
本発明において、チアジアゾールは、イオウ1原子、窒素2原子、炭素2原子で構成される5原子複素環をさしていう。環内の異原子の位置により以下に示す4種の異性体がある。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
【化3】
【0012】
【化4】
【0013】
基本的にこれらチアジアゾールの構造には塩素(Cl)は含まれていないので、前記した焼却時の塩化水素(HCl)やダイオキシンが発生するという恐れがない。
【0014】
本願発明の諸態様の加工用潤滑油組成物におけるチアジアゾール誘導体としては、下記一般式(5)
【0015】
【化5】
【0016】
(式中、R1及びR2は、水素原子、又は炭素数1〜20、好ましくは1〜14のアルキル基をあらわす。R1およびR2は、同一でも異なっていてもよい。また、a及びbは、0〜8、好ましくは1〜3、最も好ましくは1又は2の整数を示し、これらも同一でも異なっていてもよい。)で表される1、3、4−チアジアゾール、
下記一般式(6)
【0017】
【化6】
【0018】
(式中、R3及びR4は、水素原子、又は炭素数1〜20、好ましくは1〜14のアルキル基をあらわす。R3及びR4は、同一でも異なっていてもよい。また、a及びbは0〜8、好ましくは1〜3、最も好ましくは1又は2の整数を示し、これらについても、同一でも異なっていてもよい。)で表される1、2、4−チアジアゾール、
下記一般式(7)
【0019】
【化7】
【0020】
(式中、R5及びR6は、水素原子、又は炭素数1〜20、好ましくは1〜14のアルキル基をあらわす。R5及びR6は、同一でも異なっていてもよい。また、a及びbは0〜8、好ましくは1〜3、最も好ましくは1又は2の整数を示し、これらについても、同一でも異なっていてもよい。)で表される1、4、5−チアジアゾール、
下記一般式(8)
【0021】
【化8】
【0022】
(式中、R7及びR8は、水素原子、又は炭素数1〜12、好ましくは1〜9のアルキル基をあらわす。R7及びR8は、同一でも異なっていてもよい。)で表される2、5−ビス(N,N−ジアルキルジチオカルバミル)−1、3、4−チアジアゾール、
及び上記一般式で表される化合物のうち2種以上の混合物が好ましく使用される。
【0023】
(5)、(6)および(7)式におけるR1〜6で示されるアルキル基として、具体的にはメチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基,各種ウンデシル基,各種ドデシル基,トリデシル基,テトラデシル基,ペンタデシル基,ヘキサデシル基,ヘプタデシル基,オクタデシル基,ノナデシル基,エイコシル基などを挙げることができる。また(8)式におけるR7及びR8で示されるアルキル基として具体的には、メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基,各種ウンデシル基,各種ドデシル基等を挙げることができる。
【0024】
このようなチアジアゾール誘導体の具体例としては、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3,−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3,−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(1,1,3,3,−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、などのアルキルチアジアゾール類があげられる。
【0025】
また、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ジメルカプト−1,2,4−チアジアゾール、3,4−ジメルカプト−1,2,5−チアジアゾール、4,5−ジメルカプト−1,2,3−チアジアゾールなどのジメルカプトチアジアゾール類も好適に使用される。さらに、これらの混合物を使用することもできる。
【0026】
また、本発明において、「鉄系金属」とは、炭素鋼や、ステンレス鋼、耐熱鋼、工具鋼、ばね鋼、軸受け鋼、鋳鉄など、炭素以外の成分として例えば、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、珪素(Si)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、などのうち一つ又は複数が組み合わされて含有される合金鋼など、鉄を主成分とする金属材料をいう。本願発明において、「鉄系金属」とは、アルミニウム、銅、あるいは真ちゅうなどの「非鉄金属」に対応する概念である。非鉄金属は比較的加工を行うことが容易であるのに対し、鉄系金属は、材質が硬い等の理由で、一般に加工が非鉄金属より難しいものが多く、金属加工用潤滑油組成物に対する要求水準も高い。
【0027】
さらに本発明において「加工」とは、例えば「切削加工」、「研削加工」、「切断加工」、あるいは「押し出し」、「引き抜き」、「孔あけ」、「絞り」、「圧延」、「転造」、「鍛造」、「打ち抜き」、「しごき」、「プレス」、「曲げ」、「ロールフォーミング」などの塑性加工など、加工対象の金属の永久変形を伴う加工をいう。
【0028】
本発明の第二態様は、極圧添加剤としてチアジアゾール誘導体のみを含む鉄系金属材料の金属加工用潤滑油組成物である。この態様の金属加工用潤滑油組成物は極圧添加剤としてチアジアゾールのみを含むので、配合を単純なものとすることにより製造作業や、使用油の管理が容易になるという利点がある。
【0029】
これらのいずれの態様においても、金属加工用潤滑油組成物配合の基本となる成分はいわゆる基油で、上記各態様においては、基油にチアジアゾール誘導体を所定量配合することを前提としている。いずれの態様においても、チアジアゾール誘導体の添加量に特に制限はないが、潤滑油組成物全体に対して好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、最も好ましくは20質量%以上であることが望ましい。このような配合により、塩素化パラフィン等塩素系化合物の極圧添加剤を配合した従来の金属加工用潤滑油組成物を上回る潤滑性を得ることができる。
【0030】
本発明の金属加工用潤滑油組成物において、基油として、鉱油、油脂または合成油を使用することができる。このうち、鉱油を基油として使用する場合に、原料としての原油について本発明は特に限定するものはないが、酸化安定性や入手性の観点から、例えばアラビアンライト、マーバン、ベリー等の中東産パラフィン系原油や、オーストラリア産又はベネズエラ産のナフテン系原油の使用が推奨される。このような原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた減圧蒸留留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの精製処理のうち、1種もしくは2種以上の精製処理を適宜組み合わせて得られるパラフィン系またはナフテン系の鉱油を基油として使用することができる。これらの鉱油系基油は「スピンドル油」、「マシン油」、「タービン油」、「シリンダー油」、「流動パラフィン」などの一般名にて市中で入手可能である。
【0031】
また、油脂としては、例えば牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、羊脂(ラノリン)、オリーブ油、トール油、ひまし油、綿実油、サフラワー油、サメ肝油、またはこれらの水素添加物などを使用することができる。
【0032】
さらに、合成油としては、ポリアルファ−オレフィン(エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、及びこれらの水素化物など)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、モノエステル(例えば、ブチルステアレート、オクチルラウレート等)、ジエステル(例えば、ジオクチルフタレート、ジエチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリエステル(例えばトリオクチルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等)、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、高級アルコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、リン酸エステル(例えばトリクレジルフォスフェート等)、フッ素化合物(例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーン油などを使用することができる。
【0033】
本発明においては、上記した基油のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
また、上記二態様の金属加工用潤滑油組成物は基油と添加剤を混合した組成物なので、基油の粘度、引火点等性状に対する直接の制約はない。しかし、基油が混合された潤滑油組成物の引火点として、安全上や取り扱い上(消防法上)の観点から、70℃以上であることが好ましい。かかる観点から、基油自体の引火点としても70℃以上であることが好ましい。このような引火点を持つ基油の粘度は、パラフィン系鉱油の場合、通常40℃において1.6mm2/S以上となる。このような制約の中で、潤滑油組成物の仕上がり粘度が所定値となるように基油粘度を選定することが好ましい。
【0035】
一般に、「切削」、「研削」、「孔あけ」、「圧延」、「打ち抜き」などの加工に使用される金属加工用潤滑油組成物の粘度は低いものであり、基油としても低粘度油を選定することが推奨される。一方「押し出し」、「引き抜き」、「絞り」、「転造」、「鍛造」などの加工に使用される金属加工用潤滑油組成物の粘度は高いものが多く、基油としても比較的高粘度油の選定が推奨される。また、加工において冷却を重視する場合には低粘度油の使用が有利であり、潤滑性を重視する場合には高粘度油の使用が有利である。基油粘度選定の際に、かかる観点からも検討を加えることが望ましい。
【0036】
本発明の第三態様は、チアジアゾール誘導体を基油とする鉄系金属材料の金属加工用潤滑油組成物である。この態様では上記したような鉱油、油脂または合成油などの基油を必要とせず、チアジアゾール誘導体自体を金属加工用潤滑油組成物の基油として使用することができる。この場合、基油としてのチアジアゾール誘導体自体に極圧性能が備わっているので、チアジアゾール誘導体単体にて鉄系金属の金属加工用潤滑油組成物を構成することができる。このような構成をとることにより、配合を単純なものとすることができるので、製造工程が簡略化でき、また使用油の管理が容易なものとなる。
【0037】
一方、本願発明の目的や作用効果を逸脱しない範囲において、公知の他の極圧添加剤、例えばリン系極圧添加剤、イオウ系極圧添加剤などや、他の機能を有する添加剤、例えば、酸化防止剤、防錆剤、消泡剤などを配合することも許容される。また単に増量剤として少量(10質量%以下)の、鉱油、油脂または合成油を加えたものは本発明の、鉄系金属の金属加工用潤滑油組成物の技術的範囲に含まれるものと解されなければならない。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下本発明を実施例及び比較例に基づきさらに具体的に説明する。ただし本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例、比較例における数字は、組成物中の各成分の質量%を示す。
【0039】
【実施例】
(1)配合
本発明の金属加工用潤滑油組成物の実施例配合を表1に、比較例配合を表2に示す。なおこれら実施例及び比較例配合により得られた金属加工用潤滑油組成物は加温の上、混合攪拌されて、均一な状態とされて評価に供された。
【0040】
【表1】
実施例配合
【0041】
【表2】
比較例配合
【0042】
(2)各原材料の詳細
上記各配合における具体的な原材料は以下に示す表3のとおりであった。
【0043】
【表3】
原材料
【0044】
上記において、例えば「S=10%」とは、その原材料中に含まれるイオウ分が10質量%であることを示す。また、「100℃x1h:活性」とは、100℃に保持した原材料中に、純銅製試験片を1時間浸漬した場合における前記純銅製試験片の腐食される度合いを示す。「活性」は、試験片の顕著な変色を示し。「不活性」は、試験片がほとんど変色しないことを示している。40℃粘度は動粘度であり、JIS K2283に規定される方法にて測定した値である。
【0045】
(3)評価試験方法
1.潤滑性(切削抵抗)試験
不二越製ブローチ盤を用いて下記の試験条件でサーフェスブローチ加工を行い、加工時の切削抵抗主分力(N)を、キスラー社製圧電動力計を用いて測定した。
加工条件:切り込み=0.08mm/刃、切削速度=4m/分
被削材質:高い硬さを持つことに特徴があるクロム鋼(SCr420H)を使用した。
工具材質:SKH55
工具仕様:6枚刃、すくい角=15°、逃げ角=2°、刃幅=4mm
2.腐食性試験
純銅(C1100P)の試験片を、表1、2の各実施例及び比較例配合に基づき調合した試料油中に浸漬し、100℃で24時間保持した。24時間経過後、試験片を試料油から取り出し、表面の腐食の状態を目視観察し、表4に示す基準により評価した。
【0046】
【表4】
腐食性試験評価基準
【0047】
3.臭気試験
表1、2の各実施例及び比較例の配合に基づき調合した試料油を、試料油ビンに入れて密封し、50℃の恒温槽に静置した後、官能試験を行い下記表5に示す基準により評価を行った。
【0048】
【表5】
臭気試験評価基準
【0049】
(4)評価試験結果
各実施例及び比較例の配合に基づき調合した試料油の、潤滑性(切削抵抗)、腐食性、及び臭気に関する試験結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
評価試験結果
【0051】
表6に示される試験結果から、以下の事項が明らかになった。
1.潤滑性
鉱油中へのチアジアゾール誘導体配合量を増加させてゆくと、配合量を多くするほど潤滑性は良好となり、切削抵抗は減少する傾向にあった。鉱油中に20質量%のチアジアゾール誘導体を配合すると、従来の塩素化パラフィン配合油(比較例5)を十分に上回るレベルの潤滑性(切削抵抗)を得ることができた。チアジアゾール配合量と、潤滑性(切削抵抗)の関係は、配合量1〜20質量%の間では急激に変化し、20質量%を超えると緩やかなものとなった(実施例1〜実施例4、及び図1参照)。比較例5の塩素化パラフィン配合油と同等レベルの潤滑性(切削抵抗)を得るチアジアゾール誘導体の配合量は5質量%付近にあるものと推定される(図1参照)。
【0052】
一方、硫化豚脂10質量%配合油(比較例1)、ジアルキルポリスルフィドA、Bの2質量%配合油(比較例2、3)、及びジアルキルポリスルフィドAの70質量%配合油(比較例4)によっては、塩素化パラフィン配合油(比較例5)と同等レベルの潤滑性(切削抵抗)を得ることができなかった。
【0053】
2.腐食性
チアジアゾール誘導体の配合油(実施例1〜実施例4)においては、純銅試料片の表面に全く変色が認められなかった。これは従来の塩素化パラフィン20質量%配合油(比較例5)の「ごくわずかに変色している。」レベルよりさらに優れたレベルにあるものと認められる。これに対して、硫化豚脂10質量%配合油(比較例1)、及びジアルキルポリスルフィドAの2質量%配合油(比較例2)においては、純銅試料片の表面が全面黒色に変色した。また、ジアルキルポリスルフィドBの2質量%配合油(比較例3)においては、純銅試料片の表面がごく僅かに変色したのが認められ、ジアルキルポリスルフィドAの70質量%配合油(比較例4)においては、純銅試料片の表面が全面黒色に変色し、かつ薄膜が剥離しているのが認められた。
【0054】
3.臭気
チアジアゾール誘導体を50質量%以下配合した試料油(実施例1〜実施例3)は、塩素化パラフィン20質量%配合油(比較例5)と同等の結果(無臭)であった。チアジアゾール誘導体単体(実施例4)は、ごく僅かな臭気が認められた。これに対して、硫化豚脂10質量%配合油(比較例1)は、強い悪臭が認められ、ジアルキルポリスルフィドA、Bの2質量%配合油(比較例2、3)は、ごく僅かな臭気が認められた。また、ジアルキルポリスルフィドAの70質量%配合油(比較例4)は、悪臭ではないが強い臭気が認められた。
【0055】
4.まとめ
極圧添加剤としての塩素化パラフィンを、チアジアゾール誘導体にて置き換えることが可能である。チアジアゾールの配合量1〜20質量%の領域においては、チアジアゾール配合量を増加すると、潤滑性(切削性)も急激に上昇する。塩素化パラフィン20質量%配合油と同等の潤滑性能を得るためには、チアジアゾール誘導体を5質量%前後配合することが必要である。チアジアゾール誘導体配合量をこれより増加させると潤滑性能もそれに伴い上昇する。したがって、チアジアゾール誘導体を所定量配合することにより、塩素化パラフィン等の塩素系化合物の極圧添加剤が配合された加工油と同等以上の加工性能を備えた鉄系金属の加工用潤滑油組成物を得ることができる。チアジアゾール誘導体配合の金属加工用潤滑油組成物の腐食性は、塩素化パラフィン配合の金属加工用潤滑油組成物より優れる。したがって現在塩素化パラフィン配合油を使用して腐食性に関して何ら問題のないところでは、チアジアゾール誘導体配合の金属加工用潤滑油組成物を使用しても、配管等腐食されやすい材料が使用されている部分においても腐食の起こる恐れがない。また、チアジアゾール誘導体配合の金属加工用潤滑油組成物の臭気は非常に低いレベルにある。
【0056】
なお、本願発明者らの知見によれば、上記したようにチアジアゾール誘導体は潤滑性が非常に優れ、また腐食性がなく、臭気も低いので、基油との配合により摺動面用潤滑油、摺動面用潤滑切削兼用油、摺動面用潤滑切削及び油圧兼用油、として構成することも可能である。この場合、各種粘度の基油と配合することにより、たとえばISO−VG32、68、又は220等の所定粘度の製品として仕上げることができる。またこの場合に、公知の酸化防止剤、防錆剤、消泡剤等を配合することが好ましい。
【0057】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う鉄系金属材料の金属加工用潤滑油組成物もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【0058】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の鉄系金属の金属加工用潤滑油組成物によれば、極圧添加剤として、チアジアゾール誘導体を採用したので組成物成分に塩素を含んでいない。したがって、廃油として焼却処理をされる場合に塩化水素やダイオキシンが発生する恐れがない。またチアジアゾール誘導体の優れた極圧性能により、鉄系金属の加工に対して、塩素化パラフィン等を極圧添加剤として使用した場合より優れた潤滑性能を得ることが可能である。さらにチアジアゾール誘導体を使用することで、使用環境にある非鉄金属部品の腐食や、作業環境への悪臭の問題が発生する恐れもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】チアジアゾール誘導体の添加量と潤滑性(切削抵抗)との関係を示す図である。
Claims (3)
- チアジアゾール誘導体を含む加工用潤滑油組成物であって、
該チアジアゾール誘導体の添加量が、加工用潤滑油組成物全体に対して、20.0質量%〜99.9質量%である、鉄系金属材料の加工用潤滑油組成物。 - 前記チアジアゾール誘導体の添加量が、加工用潤滑油組成物全体に対して、50.0質量%〜99.9質量%である、請求項1に記載の鉄系金属材料の加工用潤滑油組成物。
- チアジアゾール誘導体を基油とする鉄系金属材料の加工用潤滑油組成物。
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