JP4105909B2 - 溶接継ぎ手部の靭性を向上させるパーライト系レールの熱処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、種々のレール溶接方法によって接合された高炭素含有のパーライト系レールの溶接継ぎ手部において、初析セメンタイト組織の生成を防止し、溶接継ぎ手部の靭性を向上させるパーライト系レールの溶接継ぎ手部の熱処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、海外の石炭や鉄鉱石を輸送する重荷重鉄道や国内の貨物鉄道では、より一層の鉄道輸送の高効率化のために、貨物の高積載化を強力に進めており、特に急曲線のレールでは、G.C.部や頭側部の耐摩耗性が十分確保できず、摩耗によるレール寿命の低下が問題となってきた。このような背景から、現状の共析炭素含有の高強度レール以上の耐摩耗性を有するレールの開発が求められるようになってきた。この問題を解決するため、本発明者らは下記に示すようなレールを開発した。
▲1▼過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト密度を増加させた耐摩耗性に優れたレール(特開平8−144016号公報)。
▲2▼過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト密度を増加させ、同時に、硬さを制御した耐摩耗性に優れたレール(特開平8−246100号公報)。
これらのレールの特徴は、鋼の炭素量を増加し、パーライトラメラ中のセメタイト相の体積密度を増加させ、さらに、硬さを制御することによりパーライト組織の耐摩耗性を向上させるものであった。
【0003】
また、オーステナイト域まで加熱されるレール溶接継ぎ手部においては、溶接部の諸特性を改善する目的で、下記に示すようなレール熱処理方法が開発された。
▲3▼Ae1変態点以上の温度にあるレール溶接部のレール全体またはレール頭部と底部を気体または液体でパーライト変態が終了するまで冷却し、その後、急速冷却方法(特開昭59−93838号公報)。
▲4▼レール溶接部終了後、または、外部から加熱されて表面が500℃以上の温度を保有するレールの脚部を急冷する方法(特開平3−277720号公報)。これらの熱処理方法の特徴は、溶接継ぎ手の硬さや残留応力を制御し、溶接継ぎ手部の耐破壊性や耐疲労損傷性を高めるものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記の▲1▼,▲2▼に示された発明レールでは、高炭素化により耐摩耗性の向上は図れる。しかし、800〜900℃の範囲に加熱されたレール溶接継ぎ手部においては、溶接後に靭性に有害な粗大な初析セメンタイト組織が生成し、レールの靭性が低下するといった問題があった。
【0005】
また、この問題を解決するため、上記の▲3▼,▲4▼に示されたレール溶接継ぎ手部の熱処理方法を適用しても、800〜900℃の範囲に加熱されたレール溶接継ぎ手部では、耐摩耗性や靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、レールの靭性がさらに低下するといった問題があった。
【0006】
このような背景から、高炭素含有のパーライト組織のレールにおいて、800〜900℃の範囲に加熱されたレール溶接継ぎ手部に生成する初析セメンタイト組織の生成を防止し、溶接継ぎ手部の靭性を向上させるレールの熱処理方法の開発が望まれるようになった。
【0007】
すなわち、本発明は、種々のレール溶接方法によって接合された高炭素含有のレール溶接継ぎ手部において、初析セメンタイト組織の生成を防止し、溶接継ぎ手部の靭性を向上させることを目的としたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するものであって、その要旨とするところは次の通りである。
(1)質量で、
C :0.85超〜1.20%、
Si:0.10〜2.00%、
Mn:0.20〜2.00%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼レールを溶接した直後の溶接継ぎ手部において、オーステナイト相とセメンタイト相が混在する2相状態の800〜900℃の範囲に加熱されたレール頭部と底部のいずれか一方または両方を、750℃以上の温度域から冷却速度1〜10℃/secで加速冷却し、前記鋼レールの頭部と底部のいずれか一方または両方の温度が680〜550℃に達した時点で加速冷却を停止し、その後、前記鋼レールの頭部と底部のいずれか一方または両方の温度が680℃を超えないように放冷または緩冷却することを特徴とする溶接継ぎ手部の靭性を向上させるパーライト系レールの溶接継ぎ手部の熱処理方法。
(2)加速冷却に先立ち、接合後の溶接継手部を、熱処理する目的で800〜900℃の範囲に再加熱することを特徴とする前記(1)記載の溶接継ぎ手部の靭性を向上させるパーライト系レールの溶接継ぎ手部の熱処理方法。
(3)さらに、Cr,Mo,V,Nb,B,Co,Cu,Ni,Ti,Mg,Ca,Al,Zrの元素を1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)記載の溶接継ぎ手部の靭性を向上させるパーライト系レールの溶接継ぎ手部の熱処理方法。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
以下に本発明について詳細に説明する。
まず、本発明者らは、種々のレール溶接方法によって接合された高炭素含有パーライト系レールの溶接継ぎ手部において、800〜900℃の範囲に加熱された部位に粗大な初析セメンタイト組織が生成する原因を調査した。その結果、800〜900℃の範囲に加熱された部位では、オーステナイト相とセメンタイト相が混在する2相状態となる。このため、オーステナイト相に炭素が濃縮し、オーステナイト相に含有する炭素量が過剰となり、溶接後に靭性に有害な粗大な初析セメンタイト組織が生成することがわかった。
【0010】
そこで、本発明者らは、過剰な炭素を含有するオーステナイト相から生成する初析セメンタイト組織を防止する方法を実験室により検討した。その結果、オーステナイト相とセメンタイト相が混在する800〜900℃の範囲に加熱された部位を、初析セメンタイト組織が生成しないように、ある温度以上の範囲から、初析セメンタイト組織が生成する温度領域を、ある一定範囲の冷却速度で加速冷却し、その生成を防止する方法が有効であることを知見した。
【0011】
しかし、高温度に加熱されたレール表面を加速冷却すると、レール内部からの復熱が発生し易い。特に、加速冷却速度が大きい場合は、その復熱量も大きくなり、結果的に680℃以上まで温度が上昇し、加速冷却後に初析セメンタイト組織が生成することが確認された。
【0012】
次に、本発明者らは、復熱時の初析セメンタイト組織の防止方法を検討した。その結果、加速冷却時の冷却速度の上限を定め、さらに、加速冷却後に簡便な緩冷却を施すことにより、その復熱を十分防止でき、初析セメンタイト組織の生成を防止できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、種々のレール溶接方法によって接合された高炭素含有パーライト系レールの溶接継ぎ手部において、初析セメンタイト組織の生成を防止し、溶接継ぎ手部の靭性を向上させることを目的としたものである。
【0014】
次に、本発明の限定理由について詳細に説明する。
(1)鋼レールの炭素量
鋼レールの炭素量を上記請求範囲に限定した理由について詳細に説明する。
高炭素含有のレール溶接継ぎ手部では、オーステナイト相とセメンタイト相が混在する2相状態となり、粗大な初析セメンタイト組織が生成する。しかし、C量が0.85%以下では、部分的なオーステナイト相に濃縮する炭素量も少なく、加速冷却を行わなくても初析セメンタイト組織の生成量が非常に少なく、レールの靭性に悪影響をおよぼさない。また、C量が1.20%を超えると、部分的なオーステナイト相に濃縮する炭素量が非常に多くなり、加速冷却を行っても初析セメンタイト組織の生成を完全に防止することが困難になり、レールの靭性低下を防止できない。このため、鋼レールのC量を0.85超〜1.20%に限定した。
【0015】
(2)熱処理方法
次に、レール溶接継ぎ手部において、800〜900℃の範囲に加熱されたレール頭部または底部を、750℃以上の温度域から冷却速度1〜10℃/secで加速冷却し、前記鋼レールの頭部または底部の温度が680〜550℃に達した時点で加速冷却を停止し、その後、前記鋼レールの頭部または底部の温度が680℃を超えないように緩冷却または放冷する熱処理方法において、温度範囲や加速冷却速度を上記のように限定した理由を説明する。
【0016】
(a)加速冷却を行うレール溶接継ぎ手部の温度範囲
レール溶接継ぎ手部の加熱温度が800℃未満の領域では、本成分系では、オーステナイト相が存在しない、または、オーステナイト相が微量であるため、部分的なオーステナイト相への炭素の濃化が発生しない。その結果、レールの靭性に有害な初析セメンタイト組織が生成せず、レールの靭性低下が発生しない。また、レール溶接継ぎ手部の加熱温度が900℃を超える領域では、本成分系では、オーステナイト相のみの単相領域となる。したがって、オーステナイト相への炭素の濃化が発生しない。また、本加熱領域では、溶接後の冷却速度も早く、レールの靭性に有害な初析セメンタイト組織の生成も非常に少ない。このため、加速冷却を行うレール溶接継ぎ手部の温度を、800〜900℃の範囲に限定した。
【0017】
なお、実際のレール溶接継ぎ手部では、上記の温度範囲に加熱された領域のみを限定的に加速冷却することは困難である。したがって、上記の温度範囲に加熱される部位を十分に加速冷却するには、上記の温度範囲を超えた周辺の加熱領域を含めて、加速冷却を施すことが望ましい。
【0018】
また、溶接方法や装置のため、温度が800℃以上にならない場合や、後述する加速冷却開始温度を充足できない場合は、加速冷却に先立って溶接部を再加熱しても良い。
【0019】
(b)加速冷却速度範囲
加速冷却速度が1℃/sec未満では、オーステナイト相とセメンタイト相が混在する2相状態において、炭素が濃化したオーステナイト相から発生する初析セメンタイト組織の生成を防止することが困難になり、レールの靭性が低下する。また、加速冷却速度が10℃/secを超えると、加速冷却後のレール内部からの復熱が過大となり、加速冷却後、緩冷却を行っても、溶接継ぎ手部の温度が680℃を超え、レールの靭性に有害な初析セメンタイト組織が生成する。このため、加速冷却速度の範囲を1〜10℃/secに限定した。
【0020】
なお、1〜10℃/secの冷却速度を得る方法としては、空気や空気を主としミスト等を加えた冷却媒体およびこれらの組み合わせにより、所定冷却速度を得ることが可能である。
【0021】
(c)加速冷却開始温度
加速冷却を開始する温度が750℃未満になると、加速冷却を行う前に、炭素が濃化したオーステナイト相から初析セメンタイト組織が生成し、レールの靭性が低下する。このため、加速冷却開始温度を750℃以上に限定した。
【0022】
(d)加速冷却の温度範囲
加速冷却を停止する温度が550℃未満では、オーステナイト相とセメンタイト相が混在する2相状態において、加速冷却後にパーライト変態完了せず、パーライト組織中にマルテンサイト組織が生成し、レールの靭性が低下する。また、加速冷却を停止する温度が680℃を超えると、加速冷却直後に初析セメンタイト組織が生成し、レールの靭性を低下させる。このため、加速冷却の温度範囲を680〜550℃の範囲に限定した。
【0023】
なお、加速冷却停止後の冷却は、作業効率を向上させるため、放冷が望ましい。しかし、加速冷却速度が大きい場合は、レール内部からの復熱も大きくなることから、加速冷却停止後、緩冷却を行うことが望ましい。緩冷却を行う方法としては、加速冷却時に利用した空気や空気を主としミスト等を加えた冷却媒体の圧力およびその冷却時間を制御することにより可能である。
【0024】
ここで、レール溶接継ぎ手部について説明する。図1はレール溶接継ぎ手部の概要を示したものである。レール溶接継ぎ手部は、900〜1200℃のオーステナイト域単相温度域に加熱される溶接中心部(符号:1)、500〜900℃の温度域に加熱され、パーライト組織やその硬さに変化が発生する熱影響部(符号:2)、500℃未満の温度域に加熱されるが、パーライト組織やその硬さに変化が発生しない母材部(符号:3)に分類される。レール溶接継ぎ手部において、800〜900℃の範囲に加熱され、オーステナイト相とセメンタイト相が混在する2相状態となる部分は、符号2の溶接中心部に近い部分である。
【0025】
なお、レール溶接の方法としては、フラッシュバット溶接、ガス圧接、テルミット溶接、エンクローズアーク溶接等が一般的に行われている。溶接方法の違いにより入熱量が異なるため、図1に示した溶接中心部(符号:1)、熱影響部(符号:2)、母材部(符号:3)の位置や範囲が若干異なる。したがって、加速冷却を行う部位は、各溶接方法のレール溶接継ぎ手部において、オーステナイト相とセメンタイト相が混在する800〜900℃の温度域となるレール部位を正確に把握し、その部位を十分に含むように冷却部位を選択することが望ましい。
【0026】
次に、レールの部位について説明する。図2はレール部位の呼称を示したものである。「レール頭部」とは、図2に示す頭頂部(符号:4)および頭部コーナー部(符号:5)を含む部分である。また、「レール底部」とは、図2に示す足裏部(符号:6)を含む部分である。上記に説明した加速冷却速度、加速冷却の温度範囲および加速冷却開始温度は、図2に示す頭頂部(符号:4)および頭部コーナー部(符号:5)の頭部表面、または、頭部表面から深さ5mmの範囲、また、レール底部においては、図2に示す足裏部(符号:6)の足裏表面、または、足裏表面から深さ5mmの範囲で測定すれば、レール頭部およびレール底部の全体を代表させることができ、この部分の温度や冷却速度を制御することにより、初析セメンタイト組織の生成を防止し、レール溶接継ぎ手部の靭性を向上させることができる。
【0027】
なお、レール溶接継ぎ手部の800〜900℃の範囲に加熱されたレールの冷却については、軌道に要求される特性に応じて、レール頭部のみ、レール底部のみ、レール頭部と底部を任意に選ぶことができる。
従って、高炭素含有のパーライト系レールにおいて、800〜900℃の範囲に加熱されたレール溶接継ぎ手部に生成する初析セメンタイト組織の生成を防止し、溶接継ぎ手部の靭性を向上させるには、レール溶接継ぎ手部において、800〜900℃の範囲に加熱されたレール頭部または底部を、初析セメンタイト組織の生成を防止するため、750℃以上の温度域から冷却速度1〜10℃/secで加速冷却し、前記鋼レールの頭部または底部の温度が680〜550℃達した時点で加速冷却を停止し、その後、レール内部から発生する復熱による温度上昇にともなう初析セメンタイト組織の生成を防止するため、前記鋼レールの頭部または底部の温度が680℃を超えないように放冷または緩冷却する必要がある。
【0028】
なお、本発明熱処理方法においては、炭素量以外の鋼レールの成分組成については、レールとしての最低限度の強度や硬さを確保するため、Si:0.10〜2.00%、Mn:0.20〜2.00%を含む成分を基本として、必要に応じて、Cr,Mo,V,Nb,B,Co,Cu,Ni,Ti,Mg,Ca,Al,Zr等の元素を1種または2種以上含み残部は鉄および不可避的不純物からなる成分系が望ましい。
【0029】
また、本熱処理製造法によって製造されたパーライト系レールの頭部および底部の金属組織は、パーライト組織であることが望ましいが、成分系、さらには、加速冷却条件によっては、パーライト組織中に微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織およびベイナイト組織が生成することがある。しかし、パーライト組織中にこれらの組織が微量に生成してもレール頭部や底部の靭性に大きな影響をおよぼさないため、本熱処理製造法によって製造されたパーライト系レールの頭部および底部の組織としては、若干の初析フェライト組織、初析セメンタイト組織およびベイナイト組織の混在も含んでいる。
【0030】
【実施例】
次に、本発明の実施例について説明する。
表1に供試レール鋼の化学成分を示す。
表2は、表1に示す供試レール鋼を用いて、本発明法の熱処理を行った際のレール頭部と底部の熱処理条件(加速冷却を行う溶接継ぎ手部の温度範囲、加速冷却開始時の冷却部位の最低温度、加速冷却速度の範囲、加速冷却停止温度の範囲、その後の冷却条件と最大復熱温度)、さらに、レール頭部と底部のミクロ組織、初析セメンタイト組織の生成頻度を示す。
【0031】
表3は、表1に示す供試レール鋼を用いて、比較法の熱処理を行った際のレール頭部と底部の熱処理条件(加速冷却を行う溶接継ぎ手部の温度範囲、加速冷却開始時の冷却部位の最低温度、加速冷却速度の範囲、加速冷却停止温度の範囲、その後の冷却条件と最大復熱温度)、さらに、レール頭部と底部のミクロ組織、初析セメンタイト組織の生成状況を示す。
【0032】
ここで、本明細書中の図について説明する。図1はレール溶接継ぎ手部の概要を示したもの、図2はレール部位の呼称を示したものである。また、図3は初析セメンタイト組織の生成状況の評価方法を模式的に示したものであって、図中の線γは旧オーステナイト結晶粒界に沿って発生する初析セメンタイトを示し、軸線X,Yとの交点の数でセメンタイト組織の本数としている。
なお、図1において、1は900〜1200℃のオーステナイト域単相温度域に加熱される溶接中心部、2は500〜900℃の温度に加熱され、パーライト組織やその硬さに変化が発生する熱影響部、3は500℃未満の温度に加熱され、パーライト組織やその硬さの変化が発生しない母材部である。また、図2において、4は頭頂部、5は頭部コーナー部、6は底部である。
【0033】
表2,3に示す初析セメンタイト組織の生成状況の評価は次のとおりとした。
調査位置 :レール溶接継ぎ手部において820〜860℃に加熱された領域で、かつ、頭部表面から深さ5mmの範囲、足裏表面から深さ5mmの範囲。
エッチング液 :ピクリン酸カセイソーダ液
エッチング条件:80℃×120min
調査方法 :光学顕微鏡により200倍の視野で直交する300μmの線分と交差する初析セメンタイト組織の本数をカウント(図3参照)。
交差する初析セメンタイト組織の本数は、直交する300μmの各線分X,Yと交差した本数の合計とした。
調査視野 :5視野以上調査し、その平均値をレールの代表値とした。
【0034】
表2に示すように、表1に示す供試レール鋼において、800〜900℃の範囲に加熱されたレール頭部または底部、さらに、熱処理する目的で800〜900℃の範囲に再加熱されたレール頭部または底部を、種々の熱処理条件を制御した本発明法で製造したレール(符号:A〜F)は、比較法で製造したレール(符号:G〜K)と比べて、加速冷却開始時の冷却部位の最低温度、加速冷却速度の範囲、加速冷却停止温度の範囲を制御することにより、種々のレール溶接方法によって接合された高炭素含有のパーライト系レールの溶接継ぎ手部において、初析セメンタイト組織の生成を防止し、溶接継ぎ手部の靭性を向上させることができた。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【発明の効果】
以上述べたように、種々のレール溶接方法によって接合された高炭素含有のパーライト系レールの溶接継ぎ手部において、加速冷却開始時の冷却部位の最低温度、加速冷却速度の範囲、加速冷却停止温度の範囲を制御することにより、初析セメンタイト組織の生成を防止し、溶接継ぎ手部の靭性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】レール溶接継ぎ手部の概要を示した図。
【図2】レール部位の呼称を示した図。
【図3】初析セメンタイト組織の生成状況の評価方法を模式的に示した図。
【符号の説明】
1:900〜1200℃のオーステナイト域単相温度域に加熱される溶接中心部。
2:500〜900℃の温度に加熱され、パーライト組織やその硬さに変化が発生する熱影響部。
3:500℃未満の温度に加熱され、パーライト組織やその硬さの変化が発生しない母材部。
4:頭頂部
5:頭部コーナー部
6:足裏部
Claims (3)
- 質量で、
C :0.85超〜1.20%、
Si:0.10〜2.00%、
Mn:0.20〜2.00%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼レールを溶接した直後の溶接継ぎ手部において、オーステナイト相とセメンタイト相が混在する2相状態の800〜900℃の範囲に加熱されたレール頭部と底部のいずれか一方または両方を、750℃以上の温度域から冷却速度1〜10℃/secで加速冷却し、前記鋼レールの頭部と底部のいずれか一方または両方の温度が680〜550℃に達した時点で加速冷却を停止し、その後、前記鋼レールの頭部と底部のいずれか一方または両方の温度が680℃を超えないように放冷または緩冷却することを特徴とする溶接継ぎ手部の靭性を向上させるパーライト系レールの溶接継ぎ手部の熱処理方法。 - 加速冷却に先立ち、接合後の溶接継手部を、熱処理する目的で800〜900℃の範囲に再加熱することを特徴とする請求項1記載の溶接継ぎ手部の靭性を向上させるパーライト系レールの溶接継ぎ手部の熱処理方法。
- さらに、Cr,Mo,V,Nb,B,Co,Cu,Ni,Ti,Mg,Ca,Al,Zrの元素を1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の溶接継ぎ手部の靭性を向上させるパーライト系レールの溶接継ぎ手部の熱処理方法。
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