JP4098585B2 - リラクタンスモータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はリラクタンスモータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、シンクロナスリラクタンスモータや埋込磁石形永久磁石同期電動機など、リラクタンストルク応用電動機が広く用いられている。リラクタンストルクは、回転子の磁気的な突極構造によって生じる為、回転子の構造は電動機の特性に大きな影響を及ぼす。大きなリラクタンストルクを生み出すことができる回転子構造として磁気障壁層が複数積み重なった構造があり、その層の厚さ、層数と電動機特性の関係については多くの研究がなされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の研究においては、簡単な磁気障壁層の形状を先天的に与えた上で、その層数や厚みに対する電動機特性の変化を調べているものであった。従って、磁気障壁層の形状そのものについてどのような形状が最も突極性を大きくできるか等は十分研究されていなかった。
【0004】
本発明の目的は、より適切な形状の磁気障壁層を備える回転子を具備するリラクタンスモータの実現である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、磁気障壁層が積層された回転子を具備する対極数が2以上のリラクタンスモータであって、前記磁気障壁層は、モータ回転軸を原点とし、d軸方向でθ=0となるr−θ座標系において、
f(r,θ)=(r/r0)psin(pθ)
r:回転軸からの距離
r0:回転子の半径
θ:偏角
p:極対数
を満たす関数f(r,θ)の等値曲線を、q軸に直交しq軸と前記等値曲線の交点を通る第1の直線と、q軸に関して対称で前記等値曲線に接する2本の第2の直線とで近似した近似直線に沿って形成され、前記第2の直線は、q軸と前記回転子表面との交点Qにおいて回転子表面に接する直線がd軸と交差する点を通ることを特徴としている。
【0006】
この請求項1に記載の発明によれば、磁気障壁層がf(r,θ)=(r/r0)psin(pθ)の等値曲線を、q軸に直交する第1の直線と、q軸に関して対称な2本の第2の直線とで近似した近似直線に沿って形成されることとなる。このため、回転子のd軸方向の磁気抵抗が小さくなり、q軸方向の磁気抵抗が大きくなるため、回転子の突極性が高くなり、リラクタンスモータの最大トルク、力率、効率等の基本的な電動機特性を向上させることができる。ここで等値線とは、f(r,θ)=(r/r0)psin(pθ)がある値となるときの座標(r,θ)の点の集合によって構成される線である。また、磁気障壁層の形状を式で表すことによって、回転子の設計等が容易になり、回転子の設計の為の労力や時間等を削減することができる。
更に、磁気障壁層を直線近似形状にすることができるため、加工が容易になる。また磁気障壁層内に磁石を挿入する場合は当該磁石の加工も容易になり、加工コストを抑えることができる。
また、対極数が2以上のとき、前記第1の直線はq軸に直交しq軸と等値曲線の交点を通り、前記第2の直線はq軸と前記回転子表面との交点Qにおいて回転子表面に接する直線がd軸と交差する点を通るようにし、磁気障壁層の形状を簡単な作図により作成できる形状とすることによって、回転子の設計等が容易になり、回転子の設計の為の労力や時間等を削減することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のリラクタンスモータにおいて、前記関数f(r,θ)は、
{1/(2nl)}×{(2il−1)±Ka}
nl:層数
il:軸中心からの層の順位
K a :磁路の厚さと磁気障壁層の厚さの合計に対する磁気障壁層の厚さの比
なる値をとることを特徴としている。
【0008】
この請求項2に記載の発明によれば、f(r,θ)=(r/r0)psin(pθ)が{1/(2nl)}×{(2il−1)±Ka}の値となる等値曲線の近似直線に沿って磁気障壁層が形成されるために回転子の突極性が高くなり、リラクタンスモータの電動機特性を向上させることができる。また、磁気障壁層の形状を式で表すことによって、回転子の設計等が容易になり、回転子の設計の為の労力や時間等を削減することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、nl=m+0.5(mは0以上の整数)であり、前記回転子の表面のq軸方向の部分が凹部状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のリラクタンスモータとしている。
【0013】
この請求項3に記載の発明によれば、回転子の表面の凹部状の部分を磁気障壁層とすることにより、回転子の形状が簡素化され、製作が容易となる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、Kaが1/3であることを特徴とする請求項2又は3に記載のリラクタンスモータとしている。
【0015】
この請求項4に記載の発明によれば、Ka=1/3として回転子の磁気障壁層の形状を決定することにより、回転子のリラクタンストルクを増大させることができる。具体的には、リラクタンストルクは、T=p(Ld−Lq)idiq(T:リラクタンストルク、p:極対数、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、id:d軸電流、iq:q軸電流)の式で表され、Ka=1/3程度のとき(Ld−Lq)が最大となる。従って、Ka=1/3となる回転子をリラクタンスモータに具備させることにより、リラクタンスモータの電動機特性を向上させることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、磁気障壁層に、回転軸から半径方向に沿って形成されたブリッジ部を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のリラクタンスモータとしている。
【0017】
この請求項5に記載の発明によれば、ブリッジ部を半径方向に沿って形成することにより、回転子の回転によってブリッジ部には引張力のみが働く為、ブリッジ部の幅を細くすることができる。そしてブリッジ部の幅が細くなると磁気が通り難くなることから、ブリッジ部を通る磁束を減少させることができ、ブリッジ部の存在による突極性の低下を防ぐことができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0019】
(I)回転子の構造
図1(a)は、リラクタンスモータの回転子10を回転軸に垂直な平面で切断した断面の模式図である。回転子10は、鉄心層101、磁気障壁層102及び鉄心103からなる。回転子10には、外周面(回転子表面)に対して逆方向に湾曲する磁気障壁層102が積層されており、この積層された磁気障壁層102を一群として周方向に等間隔に配設されている。
【0020】
回転子10において、軸中心である点Nから磁束の通りやすい方向をd軸、d軸から半極分回転した磁気障壁層102によって磁束が通り難くなっている方向をq軸とする。具体的には、回転子10は極対数p=2であるから、回転子10の軸中心である点Nを中心に90°間隔で4つの磁気障壁層が配設される。即ち、回転子10におけるq軸はd軸に対して点Nを中心として半極分である45°回転した方向となる。
【0021】
リラクタンスモータは、回転子10のd軸方向とq軸方向の磁気の通り難さ(リラクタンス)の違いによりトルクが発生する。リラクタンストルクは、以下の式で表される。
T=p(Ld−Lq)idiq ・・・(1)
ここで、Tはリラクタンストルク、pは極対数、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、idはd軸電流、iqはq軸電流である。式(1)より、リラクタンスモータのトルクを大きくする為には、Ld−Lqを大きくする必要がある。即ち、Ld−Lqが大きくなるような構造を持つ回転子10を設計すればよい。
【0022】
図1(b)は、図1(a)の回転子10の一部を拡大した図である。図1(b)のように、磁気障壁層102の形状は極座標rθ平面上で定義される関数f(r,θ)の等値線として表現することができる。ここでrは点Nからの距離、θは偏角である。またdfbは磁気障壁層102の厚さに対応する値、dfsは鉄心層101の厚さに対応する値であり、一定値である。そして、鉄心層101のうち、中心Nに近い鉄心層から、鉄心層101a、鉄心層101b及び鉄心層101cとする。同様に、磁気障壁層102のうち、中心Nに近い磁気障壁層から磁気障壁層102a、磁気障壁層102b及び磁気障壁層102cとする。
【0023】
図1(b)において、f=fiとなるときの座標(r,θ)の点の集合によって構成された線(等値線)と、f=fi+dfbとなるときの等値線とに挟まれた領域が磁気障壁層102aである。また、f=fi+dfbとなるときの等値線とf=fi+dfb+dfsとなるときの等値線とに挟まれた領域が鉄心層101aである。以下、fi+1=fi+dfb+dfsとして鉄心層101b、101c、磁気障壁層102b、102cも同様に表すことができる。
【0024】
ここで、鉄心層101の厚さと磁気障壁層102の厚さの合計に対する磁気障壁層102の厚さの比Kaは、
Ka=dfb/(dfs+dfb) ・・・(2)
となる。以下、磁気障壁層102の形状及び厚さと回転子10の磁気抵抗の関係について述べる。更にリラクタンスモータの特性を考える上で重要な設計変数として磁気障壁層の層数があるが、これについては層数が十分に多い場合、電動機特性は層数に大きく依存しないことが知られている。従って、本実施の形態では簡単化の為、層数が無限大として説明する。
【0025】
また、本実施の形態では、d軸方向でθ=0となる極座標系を考え、極対数をp、d軸方向の磁気抵抗を求める際の回転子表面の磁位分布をφ0cos(pθ)とする。更に、q軸方向の磁気抵抗を求める際の回転子表面の磁位分布をφ0sin(pθ)とする。
【0026】
(II)d軸方向の磁気抵抗モデル
d軸方向にのみ磁束が流れている状況を考えた場合、磁気障壁層102の透磁率が鉄心層101の透磁率に比べて十分小さいとき、磁気障壁層102の磁束密度は0とみなすことができる。またある鉄心層101に流れる磁束は回転子10の表面に設定された磁位によって決定される。故に、鉄心層101が現れている回転子10の表面を通過する磁束密度は、図2に示すように、Ka→0の場合における同じ位置での磁束密度に等しい。
【0027】
一方、図2(b)に示すように、磁気障壁層102が現れている回転子10の表面を通過する磁束密度は常に0となる。従って、d軸方向の磁気抵抗Rrdは、Ka→0の場合の磁気抵抗RdKa→0を用いて次式で表される。
Rrd=RdKa→0/(1−Ka) ・・・(3)
【0028】
(III)q軸方向の磁気抵抗モデル
q軸方向にのみ磁束が流れている状況を考えた場合、鉄心層101の磁気抵抗が磁気障壁層102の磁気抵抗に比べて十分に小さければ、各鉄心層101の磁位が一様であるとみなすことができる。すると、Ka→1の時の磁位分布の等値線形状は、磁気障壁層102の形状を表す関数f(r,θ)の形状と一致する。更にKa→1の時の回転子10の表面における磁位分布は、φ0sin(pθ)で与えられる。
【0029】
鉄心層101の磁位は回転子10の表面に与えられる磁位分布により決まる為、鉄心層101間の磁位差はKaの値によらず一定である。また、磁気障壁層102における磁位分布の等値線は、関数f(r,θ)の等値線の形状と一致する。従って、図3(b)の場合の磁気障壁層102内の磁位勾配は、図3(a)のKa→1としたときの磁位勾配の1/Ka倍となる。ここで、図3中の一点鎖線は、磁位の等値線を示している。
【0030】
即ち、図3(b)において、各磁気障壁層102を通過する磁束が1/Ka倍となるため、磁束密度基本波の大きさも1/Ka倍となる。そして、q軸方向の磁気抵抗Rrqは、Ka→1の時の磁気抵抗RqKa→1を用いて以下の式となる。
Rrq=RqKa→1Ka ・・・(4)
【0031】
(IV)磁気障壁層の形状
回転子10の突極性を高めるためには、Rrdを小さく、且つ、Rrqを大きくすることが必要である。即ち、式(3)及び(4)において、RdKa→0を最小にし、且つ、RqKa→1を最大にする磁気障壁層の形状が回転子10の突極性を最大にする。以下、具体的に磁気障壁層の形状について説明する。解析的扱いを可能にする為に、本実施の形態では鉄心層の磁気飽和による透磁率の変化を無視し、透磁率が一定値μsであるとする。
【0032】
まず、RdKa→0が最小となる磁気障壁層の形状について説明する。回転子10に磁気障壁層がないとき、Rrdが最も小さくなる。この時の磁位分布φ及び磁気ベクトルポテンシャルA(2次元問題なのでスカラー量)は、次式の通り解析解として表すことができる。
【数1】
一般に磁力線はベクトルポテンシャルAの等値線であるので、この場合の磁力線は
f(r,θ)=(r/r0)psin(pθ) ・・・(6)
の等値線として表すことができる。即ち、磁気障壁層の形状を式(6)の等値線に沿った形状とすれば、回転子10中の磁力線は回転子10に磁気障壁層がない場合の磁力線と一致する。つまり、式(6)の等値線で表される磁気障壁層の形状がRdKa→0を最小にする形状である。
【0033】
次に、RqKa→1が最大となる磁気障壁層の形状について説明する。回転子10が真空の透磁率を持つ材質で構成される場合、即ち、回転子10中に磁路が存在しないとき、Rrqが最も大きくなる。この時の磁位分布は、回転子10に磁気障壁層がない場合の磁位分布をπ/2p回転させたものとなる。
φ=φ0(r/r0)psin(pθ) ・・・(7)
ここで、磁気障壁層の形状を式(6)の等値線とすれば、その回転子10についてKa→1としたときの磁位分布は、回転子10が真空の透磁率で構成されている場合の磁位分布(式(7))と一致する。即ち、式(6)の等値線で表される磁気障壁層の形状が、RqKa→1を最大にする形状である。従って、式(6)の等値線で表される磁気障壁層の形状は、回転子10のRdKa→0を最小にし、且つ、RqKa→1を大きくし、回転子10の突極性を最大にする。
【0034】
図4(a)は極対数p=2、(b)はp=3、(c)はp=4の回転子を示した図である。各回転子は式(6)の等値線で表される磁気障壁層が6層あり、Ka=0.25である。
【0035】
また、「マルチフラックスバリア形シンクロナスリラクタンスモータのロータ構造と特性比較(電学論D,118巻10号,平成10年,pp1177−1184)」に開示されている様に、回転子のリラクタンストルクを大きくするKaは約1/3であることが一般的に知られている。従って、本実施の形態においても、Ka=1/3として以下を説明する。
【0036】
以上のように、回転子の突極性を最大にする磁気障壁層の形状は、Ka→0の回転子においてd軸方向にのみ磁束が流れるときに発生する磁力線に沿った形状であり、またKa→1の回転子においてq軸方向にのみ磁束が流れるときに発生する磁位分布に沿った形状である。そして磁気障壁層の形状は式(6)によって解析的に表すことができる。このように磁気障壁層の形状を数式化することによって、回転子及び磁気障壁層の条件を変化させても、磁気障壁層の設計を容易に行うことができ、回転子の設計の為の労力や時間等を削減できる。
【0037】
(V)回転子の設計
以上において、回転子10の磁気障壁層102の形状について解析的に求めた。しかし、式(6)で表される磁気障壁層を回転子に正確に加工するためには、高度な技術と労力が必要であり、加工費等もかかる。そこで、回転子の製作を容易なものとするために、式(6)を直線に近似し、その近似線を用いて磁気障壁層の形状を決定する方法を説明する。
【0038】
図5は、回転子中のある磁路の模式図である。図5において、鉄心層50を通るある磁路をnl層(nlは1以上の整数)に均等分割する。本実施の形態では、例えばnl=3とする。各層の厚さは1/(nl)である。また、図5の左の層よりil=1、il=2、il=3とする。
【0039】
そして図6に示すように、各層の中心(図中一点鎖線)に厚さが各層のKa倍(0<Ka<1)となる磁気障壁層60を挿入する。各磁気障壁層60の厚さはdb=Ka/(nl)である。
【0040】
次に、図7において、鉄心層50と磁気障壁層60のそれぞれの境界位置x1〜x6を式で表す。横軸をxとし、il=1の層において、il=2の層と接していない面とx軸の交点を0とすると、磁気障壁層中心位置A=1/2nl、位置B=3/2nl、位置C=5/2nlである。即ち、
位置x1={1/(2nl)}−{Ka/(2nl)}
位置x2={1/(2nl)}+{Ka/(2nl)}
位置x3={3/(2nl)}−{Ka/(2nl)}
位置x4={3/(2nl)}+{Ka/(2nl)}
位置x5={5/(2nl)}−{Ka/(2nl)}
位置x6={5/(2nl)}+{Ka/(2nl)}
と表される。以上の式より、各境界の位置は、
で表すことができる。
【0041】
次に、図8に示すように、磁気障壁層80を極座標系において
f=(r/r0)psin(pθ) ・・・(9)
の関数の等値線で表す。ここで、式(9)の等値線で表される磁気障壁層の形状は、回転子の突極性を最大にすることは前述した(式(6)及び式(7)参照)。式(9)が式(8)の値を取るように等値線を求めたものが、図8の線L2〜L5である。つまり、線L2〜L5を鉄心層70と磁気障壁層80の境界線として回転子に形成することによって、リラクタンストルクを大きくすることができる。
【0042】
具体的に線L5を例に挙げて説明する。例えば極対数p=2、nl=2、Ka=1/3の時、線L5について、
{1/(2nl)}×{(2il−1)±Ka} ・・・(8)
={(2×1−1)−(1/3)}/(2×2)
=1/6
つまり、線L5は、式(9)が1/6の値を取るときの座標(r,θ)の点の集まりによって構成される。線L4〜L2も同様にして、式(9)が式(8)の値を取るときの座標(r,θ)の点の集まりによって求めることができる。
また、点Qは(r,θ)=(r0,π/2p)であり式(9)に代入すると、
f=(r0/r0)2sin(2π/2・2)
=sin(π/2)
=1
となる。従って、線L1は式(9)の値が“1”となる等値線によって構成される。
【0043】
次に、図9を用いて、線L5の曲線の直線近似線の求め方を説明する。まず、原点を通り、x軸となす角がπ/2pである直線Aを引く。円と直線Aとの交点をQとする。そして点Qを通り、回転子の表面に対する接線Bを引く。接線Bとx軸との交点をx’とする。次に点Qを通ってx軸に対する垂線Cを引く。垂線Cと線L5の交点をQ’とする。そして点x’と点Q’を結ぶ直線Dを引く。直線Dとx軸のなす角をαとする。次に直線Aと線L5の交点Q”を通り、線L5に対する接線Eを引く。原点から接線Eまでの直線Aに沿った長さをaとする。
【0044】
線L5について、p=2の時の角αと長さaを求める。点Q’を座標(r1,θ1)とする。すると、以下の式が成り立つ。
r0cos(π/2p)=r1cosθ1 ・・・(10)
【0045】
また、式(10)を変形すると、
r1/r0={cos(π/2p)}/(cosθ1)}
上式を式(9)に代入すると、
【数2】
式(11)にp=2を代入すると、
【数3】
θ1=αであるから、
f=(r/r0)psin(pθ)=tanα ・・・(13)
となる。ここで、線L1〜L5は(r/r0)psin(pθ)が{1/(2nl)}×{(2il−1)±Ka}の値となるときの等値線であるから、
tanα={1/(2nl)}×{(2il−1)±Ka} ・・・(14)
で表すことができる。即ち、tanα={1/(2nl)}×{(2il−1)±Ka}となるαによって、近似線Dを作図できる。
【0046】
次に長さaを求める。点Q”を座標(r2,θ2)として式(9)に代入すると、
f=(r2/r0)psin(pθ) ・・・(15)
式(15)とθ=π/2pを連立させて解くと、
f=(r2/r0)psin(π/2p)
∴r2=r0 p√f ・・・(16)
従って、式(14)及び(16)より、p=2の時の角αと長さaは、
tanα={1/(2nl)}×{(2il−1)±Ka} ・・・(14)
a=r√f=r√tanα ・・・(17)
と表すことができる。
【0047】
次に、式(14)及び(17)を用いた時の回転子の磁気障壁層を示す。まず、図10(a)は回転子及び磁気障壁層の条件の一例を示した図である。極対数p=2、層数nl=2、Ka=0.3333、回転子の直径d=312.4[mm]、回転子の半径r=156.2[mm]とする。
【0048】
図10(b)は、図10(a)の条件を式(14)及び(17)に代入して求めた角α及び長さaの値を示した図である。図10(b)に示した数値に従って、半径156.2[mm]の回転子11に磁気障壁層を配置したときの一例の一部の図を図11に示す。
【0049】
まず、il=1の磁気障壁層を求める。図11において、点xは、点Q’を通る回転子11の表面に対する接線と、線分OQ’に対してπ/4(一般的にはπ/(2p))傾いた直線との交点である。そして直線L1’は点Xを通り、線分OXとのなす角がα=9.46°となる直線である。直線E1’は、中心Oからa=63.8[mm]離れた線分OQ’上の点Q1’を通り、線分OQ’に対して垂直な線である。そして直線L1’と直線E1’とがなす角は、直線L1’と直線E1’に接した半径30[mm]の円弧状とする。
【0050】
続いて、直線L2’は点Xを通り、線分OXとのなす角がα=18.43°となる直線である。直線E2’は、中心Oからa=90.2[mm]離れた線分OQ’上の点Q2’を通り、線分OQ’に対して垂直な線である。そして直線L2’と直線E2’とがなす角は、直線L2’と直線E2’に接した半径30[mm]の円弧状とする。
【0051】
直線L1’、L2’、E1’、E2’と、線分OQ’と平行で線分OQ’から点X方向に距離e離れた線分と、直線L1’と直線L2’とを回転子11内で結ぶ円弧と、に囲まれた図中塗り潰しで示した領域がil=1の磁気障壁層11a−1となる。
【0052】
次にil=2の磁気障壁層を求める。直線L3’は点Xを通り、線分OXとのなす角がα=33.69°となる直線である。直線E3’は、中心Oからa=127.5[mm]離れた線分OQ’上の点Q3’を通り、線分OQ’に対して垂直な線である。そして直線L3’と直線E3’とがなす角は、直線L3’と直線E3’に接した半径30[mm]の円弧状とする。
【0053】
続いて、直線L4’は点Xを通り、線分OXとのなす角がα=39.81°となる直線である。直線E4’は、中心Oからa=142.6[mm]離れた線分OQ’上の点Q4’を通り、線分OQ’に対して垂直な線である。そして直線L4’と直線E4’とがなす角は、直線L4’と直線E4’に接した半径10[mm]の円弧状とする。
【0054】
直線L3’、L4’、E3’、E4’と、線分OQ’と、直線L3’と直線L4’とを回転子11内で結ぶ円弧と、に囲まれた図中塗り潰しで示した領域がil=2の磁気障壁層11b−1となる。
【0055】
図12は、図10及び11を用いて説明した回転子11における磁気障壁層の形状及び配置位置に基づいて、回転子11全体に磁気障壁層を配置した図である。磁気障壁層11a−2及び11b−2は、線分OQ’に対して磁気障壁層11a−1及び11b−1と線対称の位置に配置される。尚、磁気障壁層11b−1と11b−2は、便宜上異なる符号を付しているがそれぞれ境界は存在せず、1つの磁気障壁層を形成している。そして磁気障壁層11a−1、11b−1、11a−2及び11b−2と同じ形状の他の磁気障壁層が、点Oを中心として90°の間隔で3ヶ所に配置される。
【0056】
磁気障壁層11a−1の内部には、磁石121が埋め込まれる。磁石121は断面が台形の形状をなし、希土類磁石等によって実現される。また、il=1の他の磁気障壁層においても同様に磁石が埋め込まれる。磁気障壁層に磁石を埋め込むことにより、モータの出力トルクを増加させることができる。
【0057】
以上のように、式(6)を直線の式で近似した式(14)及び(17)に基づいて、回転子11における磁気障壁層の形状及び配置位置を決定することによって、磁気障壁層をほぼ直線の組み合わせで形成できる為、回転子11の設計及び製作等を容易にできる。従って、回転子11の製作に係る製作時間及び労力を削減できる。更に、磁気障壁層に埋め込む磁石12の形状の加工も容易になるため、加工費等も削減できる。
【0058】
図13は、図12に示した回転子11の磁気障壁層の形状を変形させた一例を示した図である。13a、13a’及び13a”は回転子11の磁気障壁層11a−1及び11a−2を変形させたil=1の磁気障壁層であり、13b、13b’及び13b”は回転子11の磁気障壁層11b−1及び11b−2を変形させたil=2の磁気障壁層である。また、磁気障壁層13aには磁石135が、磁気障壁層13a”には磁石136がそれぞれ埋め込まれている。
【0059】
ここで、鉄心と鉄心層又は鉄心層間を接続する部分をブリッジ部という。図12の回転子11において、例えば磁気障壁層11a−1の回転子11の表面に近い部分には鉄心と鉄心層を接続するブリッジ部123がある。同様に磁気障壁層11b−1にはブリッジ部125、磁気障壁層11a−2にはブリッジ部124、磁気障壁層11b−2にはブリッジ部126がある。回転子11が回転している際、その回転の遠心力によってこれらのブリッジ部は回転子11の軸中心に向かって凸状に変形する。
【0060】
この変形を防ぐ為に、磁気障壁層13a及び13a”の形状を表面まで延長し、表面に隣接する各ブリッジ部を取り除く。そして、磁気障壁層13aと13a’の間にブリッジ部131を設け、磁気障壁層13a’と13a”の間にブリッジ部132を設ける。このブリッジ部131及び132は回転子13の半径方向に沿って形成され、回転子13の回転時には引張力のみが働く。従って、ブリッジ部131及び132の幅を細くすることができ、ブリッジ部131及び132を通る磁力線の数を抑えることができる。
【0061】
同様に、磁気障壁層13b及び13b”の形状も回転子13の表面まで延長する。そして磁気障壁層13bと13b’の間にブリッジ部133を設け、磁気障壁層13b’と13b”の間にブリッジ部134を設ける。ブリッジ部133及び134は回転子13の半径方向に沿って形成される。
【0062】
そして、磁気障壁層13a、13a’、13a”と磁気障壁層13b、13b’、13b”と同じ形状の他の磁気障壁層が、点O1を中心として90°の間隔で3ヶ所に配置される。
【0063】
以上のように磁気障壁層とブリッジ部を回転子13に配置することにより、鉄心層が回転子13の回転による遠心力によって破壊されることを防ぐことができる。これにより、回転子13の信頼性を高めることができる。また、ブリッジ部131〜134を回転子13の半径方向に沿って形成すると回転子13の回転によってブリッジ部131〜134には引張力のみが働く為、ブリッジ部131〜134の幅を細くすることができる。即ち、ブリッジ部131〜134の幅が細いと各ブリッジ部を通る漏れ磁束が小さくなる為、漏れ磁束による突極性の低下を抑えることができる。
【0064】
図14は、nl=1.5として磁気障壁層を設計したときの一例を示す図である。14a及び14a’は、il=1の磁気障壁層である。14bは、il=2の磁気障壁層の半分に相当し、回転子の表面側において鉄心層が存在せず、q軸上の中心O2に向かって凹部状の切欠部となっている。磁気障壁層14a及び14a’の間にブリッジ部141を設けることにより、磁気障壁層14a及び14a’より表面にある鉄心層と鉄心とを接続している。また、磁気障壁層14aには磁石142が、磁気障壁層14a’には磁石143がそれぞれ埋め込まれている。そして、磁気障壁層14a、14a’、14bと同じ形状の他の磁気障壁層が、点O2を中心として90°の間隔で3ヶ所に配置される。
【0065】
また、回転子14の鉄心層と固定子との対向面積を大きくする為に、磁気障壁層14aの表面に突出部144及び145を設けてもよい。突出部144及び145は回転子14の表面に沿って磁気障壁層14aを覆うように形成され、2つの突出部の先端は所定の間隔離れている。この突出部144及び145を結合させる、即ち、磁気障壁層14aを鉄心層で完全に覆ってしまうと、回転子14の回転によって発生する遠心力によって応力がかかり、破壊する恐れがある。このため、突出部144及び145の先端部は所定の間隔離して形成される。
【0066】
以上のように、nl=1.5として回転子14に磁気障壁層を配置することにより、磁気障壁層の形状を簡単化することができる。これにより、回転子の製作にかかる時間やコストを削減することができる。また、更により堅牢な回転子を実現することができる。
【0067】
尚、本発明のリラクタンスモータは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0068】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、磁気障壁層がf(r,θ)=(r/r0)psin(pθ)の等値曲線を、q軸に直交する第1の直線と、q軸に関して対称な2本の第2の直線とで近似した近似直線に沿って形成されることとなる。このため、回転子のd軸方向の磁気抵抗が小さくなり、q軸方向の磁気抵抗が大きくなるため、回転子の突極性が高くなり、リラクタンスモータの最大トルク、力率、効率等の基本的な電動機特性を向上させることができる。
更に、磁気障壁層を直線近似形状にすることができるため、加工が容易になる。また磁気障壁層内に磁石を挿入する場合は当該磁石の加工も容易になり、加工コストを抑えることができる。
また、磁気障壁層の形状を簡単な作図により作成できる形状とすることによって、回転子の設計等が容易になり、回転子の設計の為の労力や時間等を削減することができる。
【0069】
請求項2に記載の発明によれば、f(r,θ)=(r/r0)psin(pθ)が{1/(2nl)}×{(2il−1)±Ka}の値となる等値曲線の近似直線に沿って磁気障壁層が形成されるために回転子の突極性が高くなり、リラクタンスモータの電動機特性を向上させることができる。また、磁気障壁層の形状を式で表すことによって、回転子の設計等が容易になり、回転子の設計の為の労力や時間等を削減することができる。
【0071】
請求項3に記載の発明によれば、回転子の表面の凹部状の部分を磁気障壁層とすることにより、回転子の形状が簡素化され、製作が容易となる。
【0072】
請求項4に記載の発明によれば、Ka=1/3として回転子の磁気障壁層の形状を決定することにより、回転子のリラクタンストルクを増大させることができる。具体的には、リラクタンストルクは、T=p(Ld−Lq)idiq(T:リラクタンストルク、p:極対数、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、id:d軸電流、iq:q軸電流)の式で表され、Ka=1/3程度のとき(Ld−Lq)が最大となる。従って、Ka=1/3となる回転子をリラクタンスモータに具備させることにより、リラクタンスモータの電動機特性を向上させることができる。
【0073】
請求項5に記載の発明によれば、ブリッジ部を半径方向に沿って形成することにより、回転子の回転によってブリッジ部には引張力のみが働く為、ブリッジ部の幅を細くすることができる。そしてブリッジ部の幅が細くなると磁気が通り難くなることから、ブリッジ部を通る磁束を減少させることができ、ブリッジ部の存在による突極性の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】リラクタンスモータの回転子を回転軸方向から見た概略図と、回転子の一部を拡大して示した図。
【図2】d軸方向の磁束密度について示した図。
【図3】q軸方向の磁位の等値線について示した図。
【図4】4極、6極、8極の磁気障壁層について示した図。
【図5】磁気障壁層の形状及び配置位置の数式化を説明する為の図。
【図6】磁気障壁層の形状及び配置位置の数式化を説明する為の図。
【図7】磁気障壁層の形状及び配置位置の数式化を説明する為の図。
【図8】磁気障壁層の形状及び配置位置の数式化を説明する為の図。
【図9】磁気障壁層の形状及び配置位置の数式化を説明する為の図。
【図10】回転子の条件の一例を示した表と、磁気障壁層の形状及び配置位置を示した表。
【図11】図10に示す数値に従って、回転子に一部の磁気障壁層を配置したときの図。
【図12】図10に示す数値に従って、回転子に全磁気障壁層を配置したときの図。
【図13】図12に示した磁気障壁層を変形させたときの図。
【図14】nl=1.5の時の磁気障壁層を示した図。
【符号の説明】
10、11、13、14 回転子
101、50、70 鉄心層
102、60、80 磁気障壁層
11a−1、11b−1、13a、13a’、13a” 磁気障壁層
13b、13b’、13b”、14a、14a’、14b 磁気障壁層
121、122、135、136、142、143 磁石
103 鉄心
Claims (5)
- 磁気障壁層が積層された回転子を具備する対極数が2以上のリラクタンスモータであって、
前記磁気障壁層は、
モータ回転軸を原点とし、d軸方向でθ=0となるr−θ座標系において、
f(r,θ)=(r/r0)psin(pθ)
r:回転軸からの距離
r0:回転子の半径
θ:偏角
p:極対数
を満たす関数f(r,θ)の等値曲線を、q軸に直交しq軸と前記等値曲線の交点を通る第1の直線と、q軸に関して対称で前記等値曲線に接する2本の第2の直線とで近似した近似直線に沿って形成され、
前記第2の直線は、q軸と前記回転子表面との交点Qにおいて回転子表面に接する直線がd軸と交差する点を通ることを特徴とするリラクタンスモータ。 - 前記関数f(r,θ)は、
{1/(2nl)}×{(2il−1)±Ka}
nl:層数
il:軸中心からの層の順位
Ka:磁路の厚さと磁気障壁層の厚さの合計に対する磁気障壁層の厚さの比
なる値をとることを特徴とする請求項1に記載のリラクタンスモータ - nl=m+0.5(mは0以上の整数)であり、
前記回転子は、表面のq軸方向の部分が凹部状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のリラクタンスモータ。 - Kaが1/3であることを特徴とする請求項2又は3に記載のリラクタンスモータ。
- 前記磁気障壁層は、回転軸から半径方向に沿って形成されたブリッジ部を備え、
回転子の表面部分にはブリッジ部が無いことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のリラクタンスモータ。
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