JP4098530B2 - もつれ合い光子対発生装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、もつれ合い光子対発生装置に関するものであり、対となっている光子の発生時刻が互いに等しくて、それぞれの光子の量子状態に相関(もつれ合い)を有するような対光子を含む2つの光子ビームを効率的に発生することができる。このようなもつれ合い光子対は、光を用いた量子暗号通信システムや量子計算システム、分析システム等において、さまざまに利用される。
【0002】
【従来の技術】
近年、量子力学の性質を本質的に利用することで、これまでにない情報通信や情報処理の機能を実現する研究が注目されている。例えば、量子暗号通信は、不確定性原理により盗聴者からの完全な秘匿性を実現し、また量子計算はこれまでの計算機では天文学的な時間を要する計算を、数時間で実行する可能性が指摘されている。「もつれ合った光子対源」は、それらのアプリーションの実現にとって欠かすことができない技術要素である。たとえば量子暗号においては、その距離的な限界は100km程度とされているが、その限界をうち破る方法として、「もつれ合った光子対源」を内蔵した中継器が提案されている。一方、「もつれ合った光子対源」と既存の光学素子や光子検出器を組み合わせることで、光子を用いた量子計算が実行できることが理論的に示されている。もつれ合った光子対源としては、これまで主にパラメトリック下方変換が利用されてきた。しかしこの方法では、光子対は非常に広い範囲に広がって発生するため、発生したうちのごく一部しか利用することができず、またファイバ等への結合も大変に困難であった。
【0003】
これまでもつれ合った光子対源としては、P.Kwiat らが1995年に発表した方式(参考文献1)、および1999年に発表した方式(参考文献2)の2つが用いられてきている。しかし、これらの光子対源から発生する光子対は広い立体角に広がって放射され、収率がわるかった。最近、量子情報の実験的研究は盛んになりつつあるが、このようなもつれ合った光子対の発生に関する研究は、これまであまり行われていないのが現状である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題とするところは、もつれ合った状態の光子対をビーム状に収束して高効率に発生できるもつれ合い光子対発生装置を実現することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、これまでに、一方は垂直偏光、他方が水平偏光に固定された「もつれ合っていない」状態で、光子対をビーム状に発生させる技術の開発に成功してきた(参考文献3)。なお、このような偏光面が固定されている、もつれ合いのない光子対ビームを、本明細書では、「偏光確定光子対ビーム」と呼び、またその発生装置を「偏光確定光子対発生装置」と呼ぶ。
【0006】
本発明によるもつれ合い光子対発生装置は、このような偏光確定光子対発生装置を2つ直列に配置し、それら2つの装置の中間に偏光を90度回転させる1/2波長板を挿入する構成をとるものである。2つの偏光確定光子対発生装置は透明度の高いBBOなどの非線形光学素子で構成され、また1/2波長板も透明度が高い。この構成により、最初の偏光確定光子対発生装置から発生された偏光確定光子対ビームは、1/2波長板で偏光面が90度回転して出力され、2番目の偏光確定光子対発生装置から発生された偏光確定光子対ビームに重ね合わされる。これにより、直交する2つの偏光の光子対間に量子状態の重なりが生じるため、光子対間に相関のあるもつれ合い光子対ビームが得られる。
【0007】
図1は、本発明によるもつれ合い光子対発生装置の原理説明図である。なお、図1中の(A)は、装置の概念図であり、(B)は、(A)の装置における偏光状態の説明図である、図1(A)中、1は第1の偏光確定光子対発生装置、2は第2の偏光確定光子対発生装置、3は1/2波長板、4は入射ポンプ光、5は偏光確定光子対ビームを示す。ここで図1(B)に示すように、1〜3の各要素から出射されるビームについて、水平偏光の光子ビームをai ( ) , 垂直偏光の光子ビームをbi ( ) で表わし(i=1,2,3)、また( ) 内には入射側のソースを示す。以下、図1(A)、(B)を適宜参照して動作を説明する。
【0008】
第1の偏光確定光子対発生装置1へ入射ポンプ光4が入射すると、入射ポンプ光4の大部分は、第1の偏光確定光子対発生装置1と、1/2波長板3と、第2の偏光確定光子対発生装置2をそれぞれ透過して出力されるが、不要な出力なので、出力側の図示されない適当な手段によりマスクされる。入射ポンプ光4は、第1の偏光確定光子対発生装置1へ入射される際、水平偏光光子ビームa1 ( P0 )と垂直偏光光子ビームb1 ( P0 ) からなる偏光確定光子対ビーム5を発生する。偏光確定光子対ビーム5は、次に1/2波長板3へ入射される。1/2波長板3では、入射された各光子ビームの偏光面を90度回転させる。この結果、1/2波長板3からは、垂直偏光光子ビームb2 ( a1 )と、水平偏光光子ビームa2 ( b1 )からなる90度回転した偏光確定光子対ビーム6が生じる。90度回転した偏光確定光子対ビーム6は、第2の偏光確定光子対発生装置2を透過して、垂直偏光光子ビームb2 ( a1 )と水平偏光光子ビームa2 ( b1 )を出力する。一方、第2の偏光確定光子対発生装置2でも、入射ポンプ光4により水平偏光光子ビームa3 ( P0 )と垂直偏光光子ビームb3 ( P0 ) からなる偏光確定光子対ビームを発生する。第2の偏光確定光子対発生装置2の出力側に現れたこれら2組の偏光確定光子対ビームは重ね合わさり、垂直偏光光子ビーム71と水平偏光光子ビーム72からなる、もつれ合い光子対ビーム7を生じる。ここで、垂直偏光光子ビーム71 には、水平偏光a1 由来の垂直偏光b2 とP0 由来の垂直偏光b3 の光子が含まれ、また水平偏光光子ビーム72には垂直偏光b1 由来の水平偏光a2 とP0 由来の水平偏光a3 の光子が含まれることにより、光子対間の量子もつれ合い状態が得られる。
【0009】
本発明のもつれ合い光子対発生装置は、以下の構成をとることができる。
(1) 入射ポンプ光に応じて、偏光面が固定されかつもつれ合いのない光子対ビームである第1の偏光確定光子対ビームを発生する第1の偏光確定光子対発生装置と、
第1の偏光確定光子対発生装置から出射された第1の偏光確定光子対ビームの偏光面を90度回転させる波長板と、
入射ポンプ光に応じて、偏光面が固定されかつもつれ合いのない光子対ビームである第2の偏光確定光子対ビームを発生する第2の偏光確定光子対発生装置とが、入射ポンプ光の光軸に沿って、順に隣接して配置されていることを特徴とするもつれ合い光子対発生装置の構成。
(2) 第1及び第2の偏光確定光子対発生装置は、非線形光学素子であることを特徴とする前項(1)に記載のもつれ合い光子対発生装置の構成。
(3) 非線形光学素子への入射ポンプ光の入射角は、非線形光学素子における結晶の光学軸と入射ポンプ光のなす角度が相互平行条件を満たすような角度であることを特徴とする前項(2)に記載のもつれ合い光子対発生装置の構成。
(4) 非線形光学素子は、BBO (β-Ba B2 O4 ) 結晶であることを特徴とする前項(2)または(3)に記載のもつれ合い光子対発生装置の構成。
(5) もつれ合い光子対ビームの各ビームを集束するレンズと、集束されたビームを結合される光ファイバとを備えていることを特徴とする前項(1)ないし(4)に記載のもつれ合い光子対発生装置の構成。
(6) 第1および第2の偏光確定光子対発生装置は、
入射ポンプ光発生部と、
結晶の光学軸と入射ポンプ光のなす角度を、横軸を波長、縦軸をパラメトリック蛍光対の結晶内での放出方向が入射ポンプ光となす放出角度として、異常偏光と常偏光の蛍光の放出曲線を表わすそのチューニングカーブがある特定の単一波長aで接するような角度に設定された非線形光学素子からなる光子対発生部と、
を備え、互いに発生時刻の等しい波長aの対光子を含むような2つの光子ビームを発生するものであることを特徴とする前項(1)に記載のもつれ合い光子対発生装置の構成。
(7) 第1および第2の偏光確定光子対発生装置は、
入射ポンプ光発生部と、
結晶の光学軸と入射ポンプ光のなす角度を、横軸を波長、縦軸をパラメトリック蛍光対の結晶内での放出方向が入射ポンプ光となす放出角度として、異常偏光と常偏光の蛍光の放出曲線を表わすそのチューニングカーブがそれぞれ波長a,bで接するような角度に設定された非線形光学素子からなる光子対発生部と、
を備え、互いに発生時刻の等しい波長a,bの対光子を含むような2つの光子ビームを発生することを特徴とする前項(1)に記載のもつれ合い光子対発生装置の構成。
(8) 発生した光子対の一方を検出する検出部を備え、ビームに含まれる個々の光子の発生時刻を特定可能であることを特徴とする前項(1)または(2)に記載のもつれ合い光子対発生装置の構成。
【0010】
【発明の実施の形態】
図2ないし図13を用いて本発明の好適な実施例について詳述する。
〔1〕もつれ合い光子対発生装置の基本構成
図2は、本発明の実施例によるもつれ合い光子対発生装置の基本構成図である。この実施例は、図1の偏光確定光子対発生装置に、非線形光学結晶のBBO( β-Ba B2 O4 ) を用いたものである。
【0011】
図2において、10は入射ポンプ光源、11はBBO1、12はBBO2、13は1/2波長板、14、15はビーム集束用のレンズ、16、17は光ファイバである。動作において、入射ポンプ光源10からのポンプ光がBBO1へ入射すると、図1で説明したように、ポンプ光は、BBO1、1/2波長板、BBO2を透過し、BBO1とBBO2でそれぞれ偏光確定光子対ビームが発生される。BBO1で発生された偏光確定光子対ビームは、1/2波長板で偏光面を90度回転されてから、BBO2を透過し、BBO2で発生された別の偏光確定光子対ビームと重ね合わされて、もつれ合い光子対ビームとなる。もつれ合い光子対ビームを構成する2つの直交する偏光の光子ビームは、それぞれレンズ14、15で集束されて、光ファイバ16、17へ結合され、別々に取り出して任意の目的に利用される。
【0012】
製作の実際例では、BBO1とBBO2の厚みは約0.75mm、1/2波長板の厚みは約1mmであり、BBO1、1/2波長板、BBO2を、間に空隙がないように密着させたサンドイッチ構造が用いられた。また、ポンプ光として351.1nmの光を用いたため、BBOは、結晶の表面にほぼ垂直に入射するポンプ光と、結晶の光学軸のなす角度が50.9度になるようにカットされたものを用いた。 また、実際例においては、1/2波長板部分において、ポンプ光の偏光が回転する現象がみられた。そのため、BBO1、BBO2のそれぞれの結晶からの
蛍光対の発生量がほぼ等しくなるように、あらかじめポンプ光の偏光を、1/2波長板ならびに1/4波長板によって調整した。もちろん、このことを応用し、もつれ合った光子対の成分の重み等をポンプ光の偏光によって調節することは
可能である。
【0013】
また、1/2波長板において90度偏光を変化させる場合について述べてきたが、この角度についても様々変化させることで、より複雑なもつれ合い状態を生成することもできる。
〔2〕時間的に高い相関を持つ光子対発生の原理
光子がいつどこに存在するかは、同時刻に発生するような光子対を発生できれば、そのうちの一方を測定する事で知ることができる。このような時間的に高い相関を持つ光子対の発生方法としては、一般に従来パラメトリック蛍光対が用いられている。
【0014】
パラメトリック蛍光対とは、非線形光学媒質中に、
【0015】
【数1】
【0016】
の光子が入射したときに発生する、
【0017】
【数2】
【0018】
はプランク定数h=6.62×10-34 [j・s]を2πで割ったもの、ωs ,ωi ,ω0 はそれぞれシグナル光子ビーム、アイドラ光子ビーム(光子対のそれぞれをここでは慣習にしたがってこう呼ぶ。)、ならびに入射光子の振動数である。このとき、エネルギー保存則から、
【0019】
【数3】
【0020】
の関係が成り立つ。一方、運動量保存に相当する関係として、
【0021】
【数4】
【0022】
が成り立つ。ここで、k0 ,ki ,ks はそれぞれシグナル光子ビーム、アイドラ光子ビーム、ならびに入射光子の振動数である。式(1)および式(2)の条件は位相整合条件と呼ばれる。パラメトリック蛍光の発生には、十分な非線形定数を有する媒質中で、この位相整合条件が満たされる必要が有る。
〔3〕偏光確定光子対発生装置の実施例1と相互平行条件
図3は、この発明による偏光確定光子対発生装置の実施例1の説明図である。図3において、21は入射ポンプ光発生部、22は入射ポンプ光発生部21から出力される入射ポンプ光、23は非線形光学媒質、24はシグナル光子ビーム、25はアイドラ光子ビームである。
【0023】
次に、上記実施例1の動作原理を図4から図8を用いて説明する。非線形光学媒質が一軸性結晶の場合、屈折率が光線の伝播方向によって異なる偏光方向と、伝播方向によって異ならない偏光方向が存在する。前者を異常偏光、後者を常偏光と呼ぶ。
【0024】
図4は、図3における非線形光学媒質23の屈折率面を示したものである。図4において、26は入射ポンプ光の波数ベクトル、27は異常偏光波数ベクトル、28は常偏光波数ベクトル、29は常偏光の屈折率面、30は異常偏光の屈折率面である。式2で与えられる位相整合条件から、異常偏光波数ベクトル27および常偏光波数ベクトル28の和が入射ポンプ光の波数ベクトル26に等しいとき、パラメトリック蛍光対が発生する。図4のように、異常偏光と常偏光が同じ向きで位相整合条件がみたされるような場合を相互平行(collinear)な蛍光対の発生と呼び、またそのときの光学軸の入射ポンプ光となす角度を、相互平行条件角度と呼ぶ。図4は、蛍光対のエネルギーがそれぞれ入射ポンプ光のエネルギーの半分の場合のものであるが、一般には前記の式(1),(2)を満たせば、特に半分である必要はない。これまでは、この相互平行条件が一般に用いられてきた。
【0025】
図5,図6,図7は、結晶の光学軸と入射ポンプ光の角度が種々の条件にあるときの、蛍光放出角度と蛍光波長の関係を示す図であり、参考文献4に記載されているT,B. Pittmanらによるパラメトリック蛍光発生についての論理計算結果を示している。彼らの計算は、図3における非線形光学媒質23としてBBO結晶を用い、その光学軸と波長351.1nm の入射ポンプ光22のなす角度を相互平行条件角度にした場合のもので、各図の横軸は波長(マイクロメートル)、縦軸は放出角度(パラメトリック蛍光対の結晶内での放出方向が入射ポンプ光となす角度)を示している。また点線は異常偏光、実線は常偏光の蛍光の放出曲線である。これらの曲線は、チューニングカーブと呼ばれる。
【0026】
図5は、相互平行条件の角度である場合であり、波長 702.2nm、放出角度0度において、実線と点線の曲線が接している。つまり、波長 702.2nmの異常偏光と常偏光の蛍光が入射ポンプ光と同じ方向に射出されることを示している。なおこのとき、 702.2nmの異常偏光はプラス 6.5度の角度方向にも放出され、また702.2nm の常偏光はマイナス 6.5度の角度方向にも放出されることを曲線が示している。これは、図8の屈折率面内に示されるように、位相整合条件式(2)を満たす異常偏光と常偏光の波数ベクトルの対は、相互平行な蛍光対の波数ベクトル27、28だけでなく、異常偏光波数ベクトル31と常偏光波数ベクトル32の組み合わせでも式(2)を満たし得るからである。
【0027】
図6は、光学軸と入射ポンプ光のなす角度を、相互平行条件の49.2度よりも小さい場合の例(45.8度)である。この場合は、図の曲線から、異常偏光は約 770nmよりも長い波長のものしか放出されず、またそれに対する常偏光は約 650nmよりも小さい波長のものしか放出されないことがわかる。例えば、入射ポンプ光と同じ0 度の方向には、 790nmの波長の異常偏光と、 630nmの波長の常偏光が放出される。
【0028】
図7は、光学軸と入射ポンプ光のなす角度を、相互平行条件の49.2度よりも大きくした場合の例(52.7度)である。この場合は、図の曲線から、たとえば 702.2nmの異常偏光の光子は、プラス11度およびマイナス4度の方向に、また常偏光の光子は、プラス4度およびマイナス11度の方向にそれぞれ放出されることがわかる。
【0029】
このように、入射角度によって、異常偏光と常偏光の放出角度は様々に変化する。従来は、相互平行条件のもとで、大きな角度にわたって放出されているパラメトリック蛍光の一部のみを利用していたため、断面が円または楕円上のビームへと変換することが困難であり、また互いに相関をもつ方向の光子を切り出してくることも困難であった。そこで、本発明者は、異常偏光と常偏光のチューニングカーブが波長 702.2nmの直線に接するような場合に着目した。この場合を図9に示す。この場合は、パラメトリック蛍光の 702.2nmの成分は、常偏光−3度、異常偏光+3度の方向にのみ射出されることになる。
【0030】
図10、図11に、実験結果を示す。図10は、光学軸と入射ポンプ光のなす角度を、相互平行条件角度の49.2度にした場合に、入射ポンプ光と同じ方向に向かって放出されるパラメトリック蛍光を、波長 702.2nmの光だけを透過するフィルターを通じて冷却CCDカメラを用いて撮影したものである。この写真に写っている範囲は、放出角度で約±1.5 度に相当する。2つの円弧が一点で接しており、この接している方向が入射ポンプ光の方向である。このように、パラメトリック蛍光は大きく広がって放出されていることがわかる。
【0031】
図11は、光学軸と入射ポンプ光のなす角度を50.9度にした場合の、パラメトリック蛍光の写真である。この像から、放出角度 0.8度以下で実際に放出されていることがわかる。また、この状態で得られている蛍光の量は、途中の光学部品における吸収がないと仮定した場合の値で、各ビームあたり入射ポンプ光 0.1W入射時で 1.8×106 CPSであった。
【0032】
このように、結晶の角度を入射ポンプ光に対して特定の角度に調節することにより、角度広がりの小さい蛍光ビーム状が得られた。
【0033】
本実施例では、入射ポンプ光発生部での光源として、 351.1nmで発振するアルゴンレーザーを用いていたが、もちろん他の波長、他のレーザー光源を用いることも可能である。
【0034】
BBO結晶を非線形光学媒質として用いたが、もちろんKDP、有機非線形光学材料等他の材料を用いることも可能である。また、ここでは一軸性結晶を例にとったが、一般の2軸性結晶でも同様にして非線形光学媒質として用いることができる。
〔4〕偏光確定光子対発生装置の実施例2
実施例1では、異常偏光と常偏光のチューニングカーブが両方とも波長 702.2nmの直線に接するような場合に着目したが、もちろん、別々の波長において頂点をもつ場合を利用することも可能である。
【0035】
例えば異常偏光が波長 710nm、常偏光が波長 694.5nmにおいて頂点をもつようなチューニングカーブを用いる場合、それぞれの波長の光が単一光子ビームとして放出される。
〔5〕もつれ合い光子対発生装置の実施例
本発明によるもつれ合い光子対発生装置の1実施例を図12に示す。図12において、33はアルゴンレーザー、34は入射ポンプ光、35は分散プリズム、36は暗箱、37はミラー、38はダイクロックミラー、39はビームストップ、40はレンズ、41は短波長光カットフィルタ、42は偏光板、43はディテクタ、44は単一光子ビーム、45は図2のBBO1、1/2波長板、BBO2からなる光子対発生ユニット、46はレンズ、71は垂直偏光光子ビーム、72は水平偏光光子ビームである。この実施例では、もつれ合った光子対の一方を観測することで、もう一方の光子の偏光状態を容易に任意に変化させる、もしくはランダムにし、かつ発生時刻を確定することが可能になる。
【0036】
この実施例において、アルゴンレーザー33は単一周波数で動作し、パラメトリック蛍光発生用の入射ポンプ光34(351.1nm)を発生する。分散プリズム35によって、レーザー内で発生した雑音光を取り除いた後、入射ポンプ光34は暗箱36に入射される。暗箱36にはポンプ光入射用と、発生した単一光子ビーム44を射出するための孔があけられている。パラメトリック蛍光は一般に微弱であるため、外部からの光がノイズとしてディテクタ43に入らないようにするため、暗箱36中に系は構築される。入射ポンプ光34はミラー37によって適当な角度に曲げられる。この角度によって、単一光子ビーム44の射出方向がきまる。曲げられた入射ポンプ光34は、光子対発生ユニット45に入射される。光子対発生ユニット45は、あらかじめ、入射ポンプ光の垂直入射時、光学軸がパラメトリック蛍光発生に適した角度に向くよう切り出されている。また、切り出し時や温度等条件による誤差は、光子対発生ユニット45に取り付けられた角度微調装置によって補正される。入射ポンプ光34は光子対発生ユニット45を透過した後、ビームストップ39によって吸収される。結晶中で生成した垂直偏光光子ビーム71と水平偏光光子ビーム72からなる光子対ビームのうち、一方(ここでは71)はシグナル光子ビーム24として、レンズ40によって集光された後、暗箱内での背景ノイズ光を除外するための短波長光カットフィルタ41、偏光板42を通してディテクタ43に入射される。ディテクタ43としては、光子計数が可能な光電子増倍管等が使用可能である。また、光子対ビームの他方(ここでは72)は、アイドラ光子ビーム25とされ、レンズ46によって平行ビームとし、暗箱の外へ単一光子ビーム44として出射される。
【0037】
偏光板42としては、よりすぐれた構成として、1/2波長板、1/4波長板、ならびに偏光ビームスプリッタを組み合わせたユニットを用いることもできる。すでに述べたように、シグナル光子ビーム24とアイドラ光子ビーム25はもつれ合い関係にあるため、偏光板42に応じてシグナル光子がある特定の偏光ももつものとして検出されると、その時点で、アイドラ光子ビーム25はもつれ合い状態の種類と偏光板42の状態に応じた特定の偏光をもつ単一光子として出力されることになる。例えば、もつれ合い状態として、
|H>i を水平偏光をもつアイドラ光子、|V>s を垂直偏光をもつシグナル光子として、
|φ>=|H>i |V>s - |V>i |H>s
というもつれ合いを発生させている場合には、
偏光板42を水平偏光のみを通すように設定すると、垂直偏光をもつ単一光子に、また偏光板42を斜め偏光を通すように設定すると、それと垂直な偏光をもつ単一光子に、というように任意に変化させることができる。
【0038】
光子ビームを効率良く光ファイバへ入射するためには、光ファイバ固有の開口数をNAとするとき、光ファイバ(コア)材料の屈折率をnとすると、
NA=n sin(α/2) (3)
できまる角度αより小さな角度で光ファイバ端面にビームを入射しなければ光ファイバ中を光は伝播しない。しかし従来の方法では、パラメトリック蛍光が大きな角度範囲に広がって放出されるため、集光レンズの位置での蛍光の像が大きくなり、結果としてレンズから光ファイバ端面までに長い距離を必要とした。
【0039】
しかし、本発明では蛍光をシグナル光子ビーム24またはアイドラ光子ビーム25として小さな角度で発生することが可能になった。その結果として、集光レンズの位置での蛍光の像が小さくなり、レンズからファイバ端面までの距離を小さくすることが可能になり、装置を小型化することができた。
【0040】
さらに他の実施例として、図13に示すように、集光レンズを省き、シグナル光子ビーム24およびアイドラ光子ビーム25を光ファイバ47、48に直接入射することもできる。従来の方法では、非線形光学媒質から放出されるビームの広がりが大きく、また光ファイバの端面を非線形光学媒質に近づけすぎると入射ポンプ光も光ファイバに入射してノイズが増大してしまうため、直接光ファイバにシグナル光子ビームおよびアイドラ光子ビームを効率良く入射することは大変困難であった。
【0041】
しかし、本発明では、蛍光をシグナル光子ビームまたはアイドラ光子ビームとして小さな角度で発生することが可能になったので、光ファイバが適当なコア径を有する場合、レンズを介さずとも直接光ファイバに入射することが可能になった。これにより、装置を小型化することができ、また光学系調整に要する手間も省けるようになった。さらに光ファイバ端面と非線形光学媒質を接触させて結合することももちろん可能である。
【0042】
さらに他の実施例として、シグナル光子ビーム、アイドラ光子ビームのうち一方をレンズを用いて集光して光ファイバに入射し、もう一方を直接光ファイバに入射することも可能である。これは、たとえばアイドラ光子ビームを検出することにより発生時刻の確定した単一光子ビームを得ようとする場合、アイドラ光子ビームは単に検出するだけであり伝達距離が短くてもよいので、光ファイバとして大口径の可能なマルチモードファイバを用いて直接入射し、また単一光子ビームとして長距離を伝送する必要の有るシグナル光子ビームは、光ファイバとして長距離伝送の可能なシングルモードファイバを利用し、ファイバコア径が小さいため、レンズを用いてファイバに入射するなどが具体的な例である。
【0043】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、「偏光確定光子対ビーム」を発生するように構成された2つの偏光確定光子対発生装置(非線形光学素子)を直列に配置し、中間に偏光を90度回転させる波長板を挟んでポンプ光を入射することにより、2つの偏光確定光子対発生装置でそれぞれ発生された水平偏光と垂直偏光の光子ビームを、異なる偏光同士で重ね合わせることができ、従来よりも高い効率でもつれ合った光子対ビームを発生させることができた。
【0044】
この結果、一方のビーム中で光子を発見した際に対のもう一つの光子を他方のビームに見つける確率は、それまでの各種実験ではせいぜい数パーセント程度の報告がなされていたが、われわれの実験では80%以上に高めることができた。
【0045】
さらに発生される光子対ビームは、断面が円または楕円のビームへと変換することが容易な、小さな角度広がりをもつ0.9度以下の極めて小さな2つのスポットに集束されるため、光ファイバとの結合効率を著しく高めることができた。
<参考文献>
1: P. G. Kwiat, K. Mattle, H. Weinfurter, A. Zeilinger,
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4: T,B. Pittman et,al., Two Photon geometric optics, Phys Rev A Vol.53 No.4 (1996)
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の原理説明図である。
【図2】 本発明実施例の基本構成図である。
【図3】 偏光確定光子対発生装置の実施例1の説明図である。
【図4】 非線形光学媒質の屈折率面の説明図である。
【図5】 相互平行条件における蛍光放出角度と蛍光波長の関係を示す図である。
【図6】 結晶の光学軸と入射ポンプ光のなす角度が相互平行条件角度よりも小さい場合の一例の蛍光放出角度と蛍光波長の関係を示す図である。
【図7】 結晶の光学軸と入射ポンプ光のなす角度が相互平行条件角度よりも大きい場合の一例の蛍光放出角度と蛍光波長の関係を示す図である。
【図8】 相互平行条件を満たす異常偏光と常偏光の組の説明図である。
【図9】 本発明実施例における蛍光放出角度と蛍光の波長の関係の一例を示す図である。
【図10】 相互平行条件において入射ポンプ光の光軸方向から眺めたパラメトリック蛍光を撮影した写真を示す図である。
【図11】 本発明によって発生したパラメトリック蛍光を撮影した写真を示す図である。
【図12】 本発明によるもつれ合い光子対発生装置の一実施例の全体構成図である。
【図13】 本発明によるもつれ合い光子対発生装置の他の一実施例の全体構成図である。
【符号の説明】
1:第1の偏光確定光子対発生装置
2:第2の偏光確定光子対発生装置
3:1/2波長板
4:入射ポンプ光
5:偏光確定光子対
10:入射ポンプ光源
11:BBO1
12:BBO2
13:1/2波長板
14、15:ビーム集束用のレンズ
16、17:光ファイバ
21:入射ポンプ光発生部
22:入射ポンプ光
23:非線形光学媒質
24:シグナル光子ビーム
25:アイドラ光子ビーム
26:入射ポンプ光の波数ベクトル
27:異常偏光波数ベクトル
28:常偏光波数ベクトル
29:常偏光の屈折率面
30:異常偏光の屈折率面
31:異常偏光波数ベクトル
32:常偏光波数ベクトル
33:アルゴンレーザー
34:入射ポンプ光
35:分散プリズム
36:暗箱
37:ミラー
38:ダイクロックミラー
39:ビームストップ
40:レンズ
41:短波長光カットフィルタ
42:偏光板
43:ディテクタ
44:単一光子ビーム
45:光子対発生ユニット
46:レンズ
47、48:光ファイバ
Claims (8)
- 入射ポンプ光に応じて、偏光面が固定されかつもつれ合いのない光子対ビームである第1の偏光確定光子対ビームを発生する第1の偏光確定光子対発生装置と、
第1の偏光確定光子対発生装置から出射された第1の偏光確定光子対ビームの偏光面を90度回転させる波長板と、
入射ポンプ光に応じて、偏光面が固定されかつもつれ合いのない光子対ビームである第2の偏光確定光子対ビームを発生する第2の偏光確定光子対発生装置とが、入射ポンプ光の光軸に沿って、順に隣接して配置されていることを特徴とするもつれ合い光子対発生装置。 - 第1及び第2の偏光確定光子対発生装置は、非線形光学素子であることを特徴とする請求項1に記載のもつれ合い光子対発生装置。
- 非線形光学素子への入射ポンプ光の入射角は、非線形光学素子における結晶の光学軸と入射ポンプ光のなす角度が相互平行条件を満たすような角度であることを特徴とする請求項2に記載のもつれ合い光子対発生装置。
- 非線形光学素子は、BBO (β-Ba B2 O4 ) 結晶であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のもつれ合い光子対発生装置。
- もつれ合い光子対ビームの各ビームを集束するレンズと、集束されたビームを結合される光ファイバとを備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4に記載のもつれ合い光子対発生装置。
- 第1および第2の偏光確定光子対発生装置は、
入射ポンプ光発生部と、
結晶の光学軸と入射ポンプ光のなす角度を、横軸を波長、縦軸をパラメトリック蛍光対の結晶内での放出方向が入射ポンプ光となす放出角度として、異常偏光と常偏光の蛍光の放出曲線を表わすそのチューニングカーブがある特定の単一波長aで接するような角度に設定された非線形光学素子からなる光子対発生部と、
を備え、互いに発生時刻の等しい波長aの対光子を含むような2つの光子ビームを発生するものであることを特徴とする請求項1に記載のもつれ合い光子対発生装置。 - 第1および第2の偏光確定光子対発生装置は、
入射ポンプ光発生部と、
結晶の光学軸と入射ポンプ光のなす角度を、横軸を波長、縦軸をパラメトリック蛍光対の結晶内での放出方向が入射ポンプ光となす放出角度として、異常偏光と常偏光の蛍光の放出曲線を表わすそのチューニングカーブがそれぞれ波長a,bで接するような角度に設定された非線形光学素子からなる光子対発生部と、
を備え、互いに発生時刻の等しい波長a,bの対光子を含むような2つの光子ビームを発生することを特徴とする請求項1に記載のもつれ合い光子対発生装置。 - 発生した光子対の一方を検出する検出部を備え、ビームに含まれる個々の光子の発生時刻を特定可能にしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のもつれ合い光子対発生装置。
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