JP4090837B2 - 動的断熱材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、断熱材と通気パネルから構成される動的断熱材、及び該通気パネルに関する。
【0002】
【従来の技術】
化石燃料の枯渇や、化石燃料を大量に使用することによる大気汚染や二酸化炭素による地球温暖化が大きな社会問題となっている現在、省エネルギーの必要性はますます高まっている。中でも、住宅やビルでのエネルギー消費量は、冷暖房を利用した快適な生活空間を望む傾向が強まるとともに上昇していることから、建物の高断熱高気密化による省エネルギー化が取り組まれてきた。
しかしながら、高断熱高気密化により密閉された空間においては、生活活動によりその空気質が悪化することから、清浄な状態を維持するために除湿器、加湿器、空気清浄機を使用した結果、省エネルギーに対する効果が失われてしまっている。このことから、近年では高断熱高気密化の建物に対しては計画換気が必要とされ、両者の機能を併せ持つ設計及び材料が求められている。
一方で、建物の壁や天井部分における熱貫流の低減には構造上の限界があり、熱エネルギー損失低減にも限界があることがわかっている。
【0003】
このような状況下、熱エネルギー損失の低減を図りながら、同時に計画換気を行なえるダイナミックインシュレーション法(以下、動的断熱法と称す。)が研究されている。動的断熱法では、外気を壁や天井体内の断熱材を通して室内に導入し、壁や天井体内からの熱損失を回収しようとするものである。さらに、断熱材を通して室内に導入された空気は新鮮であり、壁体内で暖められた状態で室内に供給される。その結果、見かけ上の熱貫流率の低減を図りながら、給気予熱が実現され、室内の高い空気質が維持される。
下記非特許文献1には有効な動的断熱法を実現するために、断熱材と複数の通気性のある木製パネルあるいはシートからなる動的断熱材が開示され、ガラスウール等の断熱材とその両側に空気流速をコントロールする木製パネルからなるものや、セルロース系の断熱材と空気流速をコントロールする木製パネルからなるもの等の記載がある。
しかしながら、該文献に開示の動的断熱材では木製パネルを用いていることから、動的断熱材全体として不燃性に問題があった。また、木製パネルは水分を含んだ状態で長時間放置しておくと、パネルが腐ったりすることから不朽性にも問題があった。
【0004】
【非特許文献1】
Dailhaug A.et. al., 調査研究報告No.53, p1-27(1993)、北海道立寒地住宅都市研究所
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、通気性と断熱性のバランスのとれた、不燃性で、不朽性の動的断熱材、及び該動的断熱材に用いる通気性パネルを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、原料であるセメントの質量に対する石灰質原料の酸化物換算におけるCaOの質量の比を特定範囲として珪酸カルシウム硬化体を製造することで、かさ比重が0.25以上1以下で、しかも動的断熱材用の通気パネルとして好適な通気量を有する珪酸カルシウム硬化体が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
即ち、本発明は、
(1) 少なくとも断熱材と通気パネルを用いてなる動的断熱材であって、該通気パネルが、通気量が10-2mh-1Pa-1以上1mh-1Pa-1以下で、かさ比重が0.25以上1以下の珪酸カルシウム硬化体からなり、かつ通気パネルの厚みの合計が動的断熱材全体の厚みに対して3%以上50%以下であることを特徴とする動的断熱材、
(2) 珪酸カルシウム硬化体が、主としてトバモライトからなることを特徴とする上記(1)の動的断熱材、
(3) 珪酸カルシウム硬化体が、粉末X線回折におけるトバモライトの(220)面と(222)面の2本の回折ピークに挟まれた角度領域における回折強度の最低値Iaと、粉末X線回折におけるトバモライトの(220)面の回折ピーク強度Ibとの間に、Ib/Ia≧3となる関係を持つことを特徴とする上記(2)に記載の動的断材、
(4) 珪酸カルシウム硬化体が、水銀圧入法で測定される微分細孔分布の最大値の1/4の高さにおける対数分布幅が0.4以上1.2以下であることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載の動的断熱材、
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載の動的断熱材の製造に用いられる通気パネル、
である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の動的断熱材は、少なくとも断熱材と通気パネルを用いて構成される。本発明で用いられる断熱材としては、ガラスウールやロックウール等の無機系断熱材が用いられる。該断熱材の形状は、繊維状、シート状、マット状等が使用でき、特に限定されないが、取扱い性の点からマット状のものが好ましい。
通気パネルは断熱材の片面あるいは両面に設置される。通気パネルは室外から室内へ入る空気流速をコントロールする役目を持つ。両面に配置する場合、異なる通気パネルを設置しても構わない。
本発明の動的断熱材は、通常、厚み30mm以上250mm以下、好ましくは40mm以上200mm以下、より好ましくは50mm以上150mm以下で用いられる。
【0009】
本発明の動的断熱材としては、断熱材の片面にのみ通気パネルを有する構造のもの、及び断熱材の両面に通気パネルを有する構造のもののどちらの構造であっても良いが、天井に使用する場合は、図1の片面にのみ通気パネルを有する構造のものが好ましく用いられる。その使用方法は、通気パネルが下に断熱材が上になるように天井に設置して使用する方法が好ましく用いられる。また、壁に使用する場合、図2の両面に通気パネルを有する構造のものが好ましく用いられる。動的断熱材の作成方法としては、片面にのみ通気パネルを有する構造の場合は通気パネルの上に断熱材を積層させる、また、両面に通気パネルを有する構造のものの場合は通気パネル間に断熱材を挟み込んで積層させるといった単に重ねただけでもよいが、両面テープやホッチキス等を用いて断熱材上部を通気パネルに留めて通気パネルと断熱材を積層させる方法も好ましく用いられる。この際、熱伝導率が変化しないように断熱材の厚みをできるだけ変化させないで積層させることがより好ましい。
【0010】
本発明の動的断熱材は、断熱性(低熱伝導率)と通気量のバランスが重要である。熱伝導率が高いと、動的断熱材内の熱伝導が大きくなり、室内から壁内や天井内に多くの熱が逃げ、外気を導入してもその熱損失を取り込み切れない。一方、動的断熱法においては動的断熱材を通して外気を取り込む必要があるため、通気量が低いと外気を取り込むことができない、もしくは外気を取り込むために室内外の圧力差を非常に大きくする必要が生じる。動的断熱法においては、外部から導入される空気が、室内から壁内に逃げた熱を取り込み、十分に暖められて室内に入り、最終的にはファンによって屋外に排気される。その結果、見かけ上の熱貫流率の低減が実現される。
【0011】
動的断熱法における、見かけの熱貫流率は動的U値(Ud)(W/m2K)と呼ばれ、式(1)で表される(B.J. Taylor et. al., Building and Environment,
Vol 31, No. 6 (1996), 519-525)。
Ud=vρc/(exp(vρcR)−1) (1)
R=L1/λ1+L2/λ2+L3/λ3+… (2)
(式中、vは空気流速(m/s)、ρは空気の密度(kg/m3)、cは空気の比熱(J/kgK)、Rは動的断熱材全体の熱抵抗(m2K/W)、Liは室外からi番目の断熱材または通気パネルの厚さ(m)、λiは室外からi番目の断熱材または通気パネルの熱伝導率(W/mK)を示す。)
式(1)によれば、熱抵抗が大きいほど、空気流速が早いほど見かけの熱貫流率が小さくなる。すなわち熱損失が小さくなる。
【0012】
上記したように、動的断熱法においては、動的断熱材を通して外気を室内に導入するため、動的断熱材は適度な通気量を有する必要がある。ガラスウールやロックウールなどの断熱材は、通気量が十分にあるため、その片面あるいは両面に設置される通気パネルに適度な通気量が必要となる。非常に高い断熱性と十分な通気量を有する断熱材でも、その片面あるいは両面に通気パネルを設置することにより、式(1)から算出される必要空気流速を確保できなければ動的断熱材には適さない。
断熱材および通気パネルの熱伝導率とこれらの厚さが決定されると、式(1)より熱貫流率を低減し、動的断熱材を通して外気を取り込むために必要な空気流速が算出される。その空気流速を実現するために必要な室内外の圧力差は、必要空気流速と通気パネルの通気量から算出される。通気量が小さいと、空気流速を得るために非常に大きな圧力差が必要となってしまい、換気で実現するために大がかりな設備が必要になる他、室内外の大きい圧力差は例えばドアを開けにくいなどの生活上の不便をもたらす。このときの室内外での圧力差の上限値は150Pa以下であることが好ましく、より好ましくは100Pa以下であり、さらに好ましくは80Pa以下である。
【0013】
一方、通気パネルの通気量が大きいと、少ない圧力差で必要空気流速が得られるという点では好ましいが、あまり通気量が大き過ぎると、非常に小さな圧力差を住宅全体で保つことが困難になる他、部屋の開け閉めや天候などによる圧力差変動が無視できなくなる。このときの室内外での圧力差の下限値は5Pa以上であることが好ましく、より好ましくは10Pa以上である。その結果、空気流速が大きく変動し、例えば大きい方向へシフトした場合、動的U値は小さくなるが、実際には、動的断熱材内に伝導した熱量より、室外から導入された空気により回収できる熱量が過剰となり、十分暖まらずに室内に空気が導入されるため室内側の壁の温度が低下する。また、低い方向へシフトした場合も動的断熱材内に伝導した熱量より、室外から導入された空気により回収される熱量が過少となり、動的U値が大きくなる他、空気質の観点からの必要換気量を達成できなくなる。前記したように、動的断熱材は、断熱性(低熱伝導率)と通気性のバランスが重要である。即ち、動的断熱材全体の熱伝導率が高いと、断熱材内の熱伝導が大きくなり、室内から壁内や天井内に多くの熱が逃げ、外気を導入してもその熱損失を取り込み切れない。一方、動的断熱法においては外気を取り込む必要があるため、通気性が低いと外気を取り込むことができない、もしくは外気を取り込むために室内外の圧力差を非常に大きくする必要が生じる。
【0014】
動的断熱材は、断熱性(低熱伝導率)と通気性のバランスが重要であることから、動的断熱材全体に対する通気パネルの厚みの割合や通気パネルの通気量をコントロールする必要がある。また、通気パネルは、低熱伝導率であることが好ましい。
本発明の動的断熱材は、動的断熱材全体の厚みに対して通気パネルの厚みの合計の割合が3%以上50%以下であり、好ましくは5%以上30%以下であり、より好ましくは7%以上20%以下である。動的断熱材全体の厚みに対して通気パネルの厚みが3%未満では、断熱材を支持することが困難となり、施工に問題があり、50%を超えると、断熱材の厚みが小さくなり動的断熱材全体の熱抵抗が小さくなり、熱貫流率が大きくなる。
【0015】
本発明の動的断熱材に用いられる通気パネルは、通気量が10-2mh-1Pa-1以上1mh-1Pa-1以下であり、好ましくは2×10-2mh-1Pa-1以上0.8mh-1Pa-1以下であり、より好ましくは3×10-2mh-1Pa-1以上0.5mh-1Pa-1以下である。通気量が上記の範囲に入ることにより、動的断熱材として実質的な熱貫流率の低減および換気が実現できる。つまり、通気量が10-2mh-1Pa-1未満になると、外気の取り込みが不十分となり動的断熱材として機能せず、また換気性能が失われる。また、通気量が1mh-1Pa-1を超えると、壁の両側での圧力差を小さくする必要が起こり、住宅全体でその圧力差を保つのが困難となり、動的断熱材として好ましくない。
本発明の動的断熱材に用いられる通気パネルは、かさ比重が0.25以上1以下の珪酸カルシウム硬化体である。珪酸カルシウム硬化体のかさ比重は、0.25以上0.7以下が好ましく、より好ましくは0.25以上0.6以下である。かさ比重が0.25未満では、上述の通気パネルの厚みの範囲では、強度が低く施工に問題があり、かさ比重が1を超えると熱伝導率が大きく、動的断熱材全体の熱抵抗を低下させる。
【0016】
ここでいう珪酸カルシウム硬化体とは、珪酸カルシウム化合物を含み、かつ硬化して得られる任意の形状を有する材料の総称であり、一般にコンクリート、硬化モルタル、軽量気泡コンクリート、ケイカル板等を指す。珪酸カルシウム硬化体は、無機物で構成されるため、不燃性であることから優れた耐火性を示し、かつ不朽性であることから優れた耐久性を示す。従って、本発明の動的断熱材は、不燃性であり、かつ不朽性であることが言える。
本発明の珪酸カルシウム硬化体は、主としてトバモライト(5CaO・6SiO2・5H2 O)からなることが好ましい。トバモライトは、軽量気泡コンクリート(ALC)などの組織中に通常見られる、板状あるいは短冊状の粒子形態をとる代表的な結晶性珪酸カルシウム水和物の1種である。トバモライトは結晶性が高いことから、高強度および高耐候性を実現する点で、主としてトバモライトからなることが好ましい。
珪酸カルシウム硬化体において、トバモライトが主体であるか否かは、珪酸カルシウム硬化体の破断面の走査型電子顕微鏡観察と粉末X線観察を併用することにより判断する。
【0017】
トバモライトが主体であるとは、粉末X線回折において、トバモライトの最強線(220)を越える他の回折ピークが存在しないことである。ただしトバモライトとともに、結晶質シリカ、炭酸カルシウム、石膏が共存する場合、トバモライトが主体であっても、これら共存物質の高い結晶性のために、これらの物質の最強線がトバモライトの最強線を超える場合があるが、この様な場合は走査型電子顕微鏡観察下において、その構造が板状あるいは短冊状の粒子が主体であると判断できれば、主としてトバモライトからなるとする。しかし、このような場合でも、粉末X線回折において、トバモライトの(220)面の回折ピーク強度Ibに対するトバモライト以外の高結晶性の共存物質、すなわち結晶質シリカ、炭酸カルシウム、石膏の最強線の回折強度Icの比(Ic/Ib)が3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。ここで板状あるいは短冊状の粒子とは、1つの粒子において、互いにほぼ平行な2つの表面間の距離がその粒子の最小長さに相当し、その粒子の最大長さが最小長さ(以後厚みと称する。)の5倍以上である粒子とする。もちろん、ここで言う最大長さ、厚みは二次元への投影長さである。これらトバモライトの粒子の大きさは特に規定はしないが、最大長さが数μm〜10μmであることが好ましい。
【0018】
トバモライトは、低結晶性ケイ酸カルシウム水和物( これ以後、CSH と略記する。)と共存する場合があるが、CSHは様々な粒子形態をとることが知られており、通常、繊維状、粒状、塊状の粒子形態をとるために走査型電子顕微鏡観察下でトバモライト粒子と区別できる。この様なCSHは、トバモライトの基本骨格を崩さない範囲で含有できる。ここで、CSHは強度、耐候性、耐久性など建材としての様々な必要性能を低下させることがあるので、可能な限り含有しないことが好ましい。
本発明の珪酸カルシウム硬化体において、トバモライトが主体である場合、粉末X線回折において観察される、2つのトバモライトの回折線(220)、(022)に挟まれた角度領域における回折強度の最低値Iaに対するトバモライトの(220)回折ピーク強度Ibの比(Ib/Ia)が3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。通常トバモライトは、CSHと共存することが多い。CSHは強度、耐候性、耐久性など建材としての様々な必要性能を低下させることがある。例えば、珪酸カルシウム硬化体中にCSHが多量に存在すると、雨などによる吸水とその後の乾燥などにより寸法安定性が低下したり、長期間大気中に放置された時に大気中に含まれる二酸化炭素と反応して、炭酸カルシウムと非晶質珪酸に分解する炭酸化反応を起こし、それによる体積収縮により亀裂や組織劣化が発生したりすることがある。従って、X線回折並びに電子顕微鏡観察で、主としてトバモライトからなると判定された場合でも、CSHを可能な限り含有しないことが好ましい。
【0019】
上述のように繊維状、粒状、塊状の様々な粒子形態をとるCSHは走査型電子顕微鏡観察下、トバモライトで無いことは容易に判断される。しかし、CSHが様々な粒子形態をとるために、他の微量共存物質例えば繊維状の石膏、粒子状の炭酸カルシウム等と走査型電子顕微鏡観察で明確に区別できない場合があるため、走査型電子顕微鏡観察でCSH含有割合を決定することは難しい。トバモライトとCSHが共存する硬化体について、粉末X線回折を行うと、トバモライトの(220)回折ピークと(222)回折ピークに挟まれた領域に、ブロードなCSHの回折ピークが認められる。このCSHの回折ピークは通常29.1〜29.4°(2θ)付近に出現する。CSHがトバモライトに比べて少ない場合、CSHの回折ピークは、トバモライトの回折線に吸収された形になり、通常CSHの回折強度の測定は不可能となる。ところがCSHが多量に存在する場合、トバモライトの(220)回折ピークと(222)回折ピークに挟まれた領域におけるX線の回折強度は、ベースラインに比べて高い値となることから、CSHが多量に存在するか否かを判定することができる。珪酸カルシウム硬化体がCSHを全く含まず、かつ高結晶性のトバモライトを主体とする場合、同領域におけるX線強度の最低値はバックグランド強度と一致する。
【0020】
一方、たとえCSHが存在しない場合でも、トバモライトの結晶性が低い場合には、Ib/Iaは小さくなる。これは(220)と(222)が近接しているために、ピークのすそのが重なり合うためである。トバモライトの結晶性が低下すると、珪酸カルシウム硬化体の強度劣化、および耐候性の低下が起こる。
従って、2つのトバモライトの回折線、(220)と(222)に挟まれた角度領域における回折強度の最低値Iaに対するトバモライトの(220)面の回折ピーク強度Ibの比(Ib/Ia)が大きい程、珪酸カルシウム硬化体中に含有されるCSHが少ない、もしくはトバモライトの結晶性が高い。なお、ここでの強度IaおよびIbは、バックグランド強度を含めた値であり、Ia、Ibの算出方法を図3に示す。
本発明の珪酸カルシウム硬化体において、トバモライトが主体である場合、水銀圧入法で測定される微分細孔分布曲線における最大値の1/4の高さにおける対数分布幅(以下、対数1/4値幅と略称する。)は、0.4以上1.2以下であることが好ましく、0.4以上1.1以下がより好ましく、0.4以上1.0以下であることが特に好ましい。
【0021】
ここで、水銀圧入法とは、硬化体内部へ水銀を圧入させて、その時の圧力と侵入量の関係から細孔径の分布を測定するものであり、細孔の形状が円筒形であると仮定して計算されたものである。水銀圧入法により細孔径の測定可能範囲は6nm〜360μmであるが、この値は実際の細孔の直径を表すものではなく、構成物質間の間隙の大きさの指標として使用され、硬化体の細孔構造を記述する際には有効な解析手段である。水銀圧入法で測定された微分細孔分布は、測定された細孔径に対する細孔量の積算曲線を1次微分して得られる。通常、かさ比重が0.25以上、1以下の珪酸カルシウム硬化体の場合には、その測定範囲内の細孔径6nm〜50μmの間に微分細孔分布が存在する。
【0022】
微分細孔分布曲線における対数1/4値幅とは、細孔径分布の広がりを表す1つの指標であり、微分細孔分布曲線における最大値の1/4の高さにおける細孔分布の幅を対数にて表示したものである。その算出方法を図4に示すが、水銀圧入法により測定された細孔径に対する細孔量の積算曲線を1次微分して得られる微分細孔分布曲線における最大値の1/4の高さを与える細孔径が2つである場合(図4)、大きい順にA2、A1とすると、対数1/4値幅はA2、A1それぞれの常用対数の差となる。なお、微分細孔分布曲線における最大値の1/4の高さを与える細孔径が2つより多い場合は、それらのうち最大の細孔径A2の常用対数と最小の細孔径A1の常用対数の差となる。対数1/4値幅が大きくなると、構成物質間の空隙が大きくなり、細孔径が50μm以下の細孔領域における細孔径分布は広い分布を持つことになり、応力を担う骨格を形成する部分の間隙の均一性が低いことを示す。そのため、局所的な応力集中が生じやすくなり、曲げ強度や圧縮強度が低下する。該対数分布幅は小さい方が強度が高くなる傾向にあるが、0.4未満の対数分布幅を得ることは難しい。
【0023】
ところで、一般にCSHは繊維状、粒状、塊状等の粒子形態をとり、結晶質のトバモライトより微細であることに加えて、ゲル細孔と呼ばれる0.1μm以下の細孔を多量に含有している。そのため、珪酸カルシウム硬化体中にCSHが多量に存在する場合にも対数1/4値幅が非常に小さくなることがある。このように、CSHを多量に含有している場合には対数1/4値幅が小さい場合であっても、該対数1/4値幅は小さい方が強度が高くなる傾向にあるという上記効果は発現しない。
本発明の動的断熱材に用いられる通気パネルは、撥水性物質を0.1wt%以上3.0wt%以下含有する珪酸カルシウム硬化体であることが好ましい。通気パネルが水分を含むと通気性が低下する等の問題が生じ、動的断熱効果が発揮されない場合がある。従って、撥水性物質を含有することにより、撥水性を付与して用いることが好ましい。
【0024】
撥水性物質も特に限定されるものではないが、例えばシロキサン化合物、アルコキシシラン化合物、脂肪酸、脂肪酸塩、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂等の樹脂エマルジョン等の撥水性物質であり、このうち一種または二種以上の混合物を用いることもできる。この中でも特に、シロキサン化合物、すなわち、ポリジメチルシロキサンやポリジメチルシロキサンのメチル基の一部が水素、フェニル基、トリフロロプロピル基等で置換されたシリコーンオイル、アルコキシシラン化合物、すなわち、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン化合物を使用することがさらに好ましい。撥水性物質の含有量は0.1〜3.0wt%が好ましく、さらに好ましくは、0.5〜2wt%である。0.1wt%未満では撥水性が期待できず、3.0wt%より多いと本発明に規定される細孔構造が得られず強度が低下する。
また、気相蒸着法によって、100°以上の高い水接触角を発現させることも好ましい撥水性付与方法である。
【0025】
本発明の珪酸カルシウム硬化体は、補強繊維を必要に応じて補強繊維を含有しても良い。ここでいう補強繊維とは、耐アルカリガラス繊維、カーボン繊維、ステンレス繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維等の有機繊維であり、このうち一種、あるいは二種以上の混合物として用いることができる。目的の補強性能を得るためには、アラミド繊維、耐アルカリガラス繊維、カーボン繊維が好ましく、さらにパラ系アラミド繊維を用いることが好ましい。補強繊維の繊維長も特に限定されるものではないが、補強性能と成形性の観点から好ましくは1〜20mm、より好ましくは3〜10mm、さらに好ましくは5〜8mmである。補強繊維の含有量も特に限定されるものではないが、空隙まで含めた硬化体の体積に対して、0.05〜3vol%が好ましく、より好ましくは0.1〜2vol%である。0.05vol%未満では十分な補強効果が得られず、一方3vol%を超えると混合時にファイバーホールができやすく、硬化体中への均一な分散が困難になる。
【0026】
本発明の通気パネルとして使用される珪酸カルシウム硬化体の製造方法について説明する。
本発明の珪酸カルシウム硬化体の製造には、原料として、少なくとも珪酸質原料、セメント、硫酸アルミニウムもしくはその含水物とその他の硫酸化合物もしくはその含水物を用いることが必要であるが、得られる硬化体の強度の点からこれらの原料以外に石灰質原料を用いることが好ましく、セメントの質量に対する石灰質原料の酸化物換算におけるCaOの質量比(CaO/セメント)が0.6以下、0.05以上になる範囲で使用することが好ましい。石灰質原料の使用量が、セメントの質量に対する石灰質原料の酸化物換算におけるCaOの質量比(CaO/セメント)で0.6を越えると通気パネルの通気量が低下する傾向にある。これらの原料を水と混合しスラリーを得、該スラリーに発泡剤を添加した後、スラリーを型枠に流し込み、型枠内で発泡させ、予備硬化した後、オートクレーブで養生することにより本発明の珪酸カルシウム硬化体は得られる。さらに、スラリーに界面活性剤や消泡剤や粘度調製剤などを添加する方法も好ましく用いられる。
【0027】
ここで、珪酸質原料とは、SiO2の含有量が70wt%以上の原料を言う。たとえば、結晶質の珪石、珪砂、石英およびそれらの含有率の高い岩石、並びに珪藻土、シリカヒューム、フライアッシュ、天然の粘土鉱物およびそれらの焼成物等である。これらのうちで結晶質の珪酸質原料とは、珪石、珪砂、石英およびそれらの含有率の高い岩石であり、粉末X線回折においてα−石英あるいはクリストバライト等のシャープな回折ピークを呈するものをいう。また、非晶質珪酸原料とは、珪藻土、シリカヒューム、フライアッシュ等の粉末X線回折において固有の明瞭な回折ピークを示さないものを言う。
また、セメントとは普通ポルトラントセメント、早強ポルトラントセメント、ビーライトセメント等の珪酸成分とカルシウム成分を主体とするセメントを言う。また、石灰質原料とは酸化物換算でCaOを50wt%以上含む原料であり、生石灰あるいは消石灰等を言う。
石灰質原料を使用する場合は、セメントの質量に対する石灰質原料の酸化物換算におけるCaOの質量比(CaO/セメント)は0.6以下0.05以上が好ましく、より好ましくは0.4以下0.05以上、特に好ましくは0.3以下0.1以上である。
【0028】
さらに、硫酸アルミニウムもしくはその含水物における硫酸アルミニウムとは、化学式(Al2(SO4)3)からなる物質を言い、その含水物とは例えば、化学式(Al2(SO4)3・17H2O)で示されるような結晶水を含む化合物を言う。いずれの場合においても結晶水を除いた状態で(Al2(SO4)3)として80wt%以上含有するものを言う。原料形態としては粉末、スラリーいずれでもかまわない。さらに、その他の硫酸化合物とは、特に限定されるものではなく、SO3あるいはSO4を含有する化合物であればよい。例えば、亜硫酸、硫酸、無水石膏(CaSO4)、二水石膏(CaSO4・2H2O)、半水石膏(CaSO4・1/2H2O)、硫酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属の硫酸塩、硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属の硫酸塩、硫酸銅や硫酸銀などの金属硫酸塩等であり、これらを単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
これら原料を水と混合しスラリーを得る際には、固体原料の総質量に対する水の質量比(水の質量/固体原料の総質量)が、0.6以上5.5以下、好ましくは0.7以上3.0以下、より好ましくは0.7以上2.0以下になるように原料に水を添加して混合する。本発明においては、固体原料の総質量には水和水および固体状の原料に含まれる水は含まない。また、水の質量には、添加する水と併せて、水和水および固体状の原料に含まれる水を含む。
【0029】
スラリーに添加する発泡剤の添加量は、発泡剤の固体アルミニウム換算で固体原料の総質量に対して0.03wt%以上0.95wt%以下が好ましく、より好ましくは0.05wt%以上0.7wt%以下、さらに好ましくは0.08wt%以上0.5wt%以下である。また、原料スラリーの体積に対する発泡後の体積比が1.5以上4.0以下であることが好ましく、より好ましくは2.0以上3.5以下で、特に好ましくは2.5以上3.5以下である。ここで、発泡剤とは、一般に軽量気泡コンクリートで用いられているアルミニウム粉末、アルミニウムスラリー、アルミニウムペーストなどをいう。
原料に含まれる珪酸成分のSiO2換算量に対するカルシウム成分(但し、石膏は除く。)のCaO換算量のモル比(CaO/SiO2)は0.5以上1.1以下が好ましく、より好ましくは0.6以上1.0未満である。珪酸成分とカルシウム成分
【0030】
該スラリーに界面活性剤、消泡剤、粘度調整剤等を添加する方法が好ましく用いられる。ここで、界面活性剤とは、アニオン性界面活性剤や非イオン性活性剤であり、例えば、高級アルコール硫酸エステル系、高級アルコール硫酸ナトリウム系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系等である。その添加量は発泡剤の固体アルミニウム換算質量に対して0.01wt%以上500wt%以下が好ましく、より好ましくは0.1wt%以上250wt%以下である。
消泡剤とは、シリコーン系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系、アルコール系、リン酸エステル系等が用いられるが、撥水性の付与と併せてシリコーン系、中でもジメチルシリコーン、アルキル変性シリコーンが好ましく用いられ、その添加量は固体原料の総質量に対して0.001wt%以上3wt%以下が好ましく、より好ましくは0.005wt%以上2wt%以下、さらに好ましくは0.01wt%以上2wt%以下である。界面活性剤としてアニオン性界面活性剤を用いる場合、消泡剤を併用することが好ましい。
【0031】
粘度調整剤とは、メチルセルロースやポリビニルアルコール等であり、その添加量は固体原料の総質量に対して0.005wt%以上1wt%以下が好ましく、より好ましくは0.01wt%以上0.5wt%以下である。
硫酸アルミニウムもしくはその含水物の添加量は、固体原料の総質量に対して酸化物換算(Al2O3)で0.09wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.2wt%以下10wt%以下であり、さらに好ましくは0.5wt%以上8wt%である。
さらに、その他の硫酸化合物は、二水石膏もしくはその含水物であることが好ましい。その他の硫酸化合物の添加量は上記の硫酸アルミニウムもしくはその含水物を含めてSO3換算で固体原料の総重量に対して0.15wt%以上15wt%以下が好ましく、より好ましくは0.2wt%以上10wt%以下である。
【0032】
本発明の珪酸カルシウム硬化体の製造方法においては、少なくとも珪酸質原料とセメントと石灰質原料と硫酸アルミニウムもしくはその含水物とその他の硫酸化合物を含むスラリーを用いることが好ましく、以下該好ましい製造方法に基いて説明する。該スラリー温度は40℃以上100℃以下であることが好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下である。また、攪拌時間は10分以上が好ましく、より好ましくは30分以上である。これら原料と水を含むスラリーの混合には、通常工業的に使用されるミキサーが使用可能であるが、好ましくは低粘度モルタル用の高速回転羽根を持った攪拌機、例えば邪魔板付きのパドルミキサーが用いられる。
本発明の製造方法において、用いられる石灰質原料の全部を珪酸質原料およびセメントと同時に混合すると、石灰質原料がセメントの初期水和を遅らせる場合もある。従って、予備硬化を早めたい場合には、石灰質原料以外の固体状の原料と水を40℃以上で、スラリー状態で10分以上混合する第一工程を行った後に、石灰質原料の一部または全部を加えて、さらに40℃以上で好ましくは30秒以上1時間以内、より好ましくは1分以上30分以内で混合する第二工程を経てから型枠に注入して予備硬化させる方法も好ましく用いられる。ここで原料の投入にあたり、最初の第一工程におけるスラリーへの添加を一次投入、後の第二工程におけるスラリーへの添加を二次投入と称する。
【0033】
硫酸アルミニウムもしくはその含水物は、それ以外の固体状の原料および水と一緒に第一工程に於いて添加し40℃以上で10分以上混合することが好ましい。
本発明の製造方法において、第一工程、第二工程において粘度が高く、攪拌が困難な場合、一般に軽量気泡コンクリートやコンクリートに用いられている減水剤が好ましく用いられる。
粘度調整剤および消泡剤は、発泡剤を添加する前であれば添加するタイミングは特に問わないが、固体状の原料投入直後に添加することが好ましい。また、界面活性剤も、添加するタイミングは特に問わないが、発泡剤に界面活性剤を入れ同時にスラリーに添加する方法が好ましく用いられる。
発泡剤はそれ以外の固体状の原料を投入した後に添加することが好ましく、発泡剤を添加した後の攪拌時間は10秒以上3分以内が好ましく、20秒以上1分以内がより好ましい。発泡剤の分散性の点で10秒以上、発泡剤の反応抑止の点で3分以下が好ましい。
【0034】
撥水剤の添加方法は、特に限定はないが、固体状の原料および水と一緒に第一工程において添加し、40℃以上で10分以上混合することが好ましい。また、オートクレーブ後に乾燥させた硬化体に、気相蒸着法により撥水剤を添加する方法も好ましく用いられる。
補強繊維の添加方法は、特に限定はないが、発泡剤を添加する前のスラリーに添加することが好ましく、40℃以上で1分以上10分以内混合することが好ましい。攪拌方法は、オムニミキサーを用いることが好ましい。
この様にして混合されたスラリーは、そのまま型枠に流しこまれ成形される。この時、必要に応じて補強鉄筋あるいは補強金網が配置された型枠に流し込まれ成形される。この時、補強鉄筋あるいは補強金網は防錆処理が施されていることが好ましい。型枠に注入されたスラリーは、自己発熱あるいは外部加熱等により、好ましくは40〜100℃の間で1時間以上かけて予備硬化される。予備硬化は、蒸気養生室等の水分が蒸発を抑制した環境下で行うことが好ましい。得られた予備硬化体は、必要に応じて任意の形状に切断された後に、オートクレーブを用いて高温高圧養生される。切断は軽量気泡コンクリートの製造に一般に用いられるワイヤーによる切断法も使用できる。オートクレーブの条件としては160℃(ゲージ圧力:約0.53MPa以上、220℃(ゲージ圧力:約2.3MPa以下が好ましい。得られた硬化体は乾燥され、本発明の珪酸カルシウム硬化体が得られる。
【0035】
【実施例】
以下に実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明において使用される各種の測定方法は以下の通りである。
[熱伝導率]
低温板5℃、高温板35℃でJIS A1412の平板熱流計法に従い測定した。試験体の形状は、200×200mm、厚さ25mmであり、温度20℃、相対湿度60%条件下で恒量になったものを用いた。
【0036】
[通気量]
円柱形のサンプル(断面積(S)=50mmφ)の側面をシールし、真空ポンプにより圧力を制御しながらサンプルの前後に圧力差をつけ、サンプル中を流れる空気の流量を測定し、式(1)により算出した。
通気量(mh-1Pa-1)=W/S/ΔP
(式中、Wは流量(m3h-1)を表し、ΔPは圧力差(Pa)を表す。)
なお、通気量はΔP=20(Pa)での測定値を示し、試験体は、温度20℃、相対湿度60%条件下で恒量になったものを用いた。
[曲げ強度、圧縮強度]
JIS R 5201の曲げ強さおよび圧縮強さの測定に準じて測定した。すなわち、曲げ強度測定に用いた供試体寸法は、40mm×40mm×160mmであり、スパン幅は100mmである。圧縮強度は曲げ試験で割れた半分の試料において、加圧面40mm×40mmで最大荷重を測定した。なお試験体の乾燥条件は、20℃、相対湿度60%の恒温恒湿槽中に硬化体を置き、該硬化体の絶乾状態を基準とした含水量が、10±2%になった時点で測定試料とした。
【0037】
[嵩比重]
曲げ試験に用いたのと同じ寸法の硬化体を、105℃にて24時間乾燥させた時の質量と寸法から算出した。
[粉末X線回折:Ia,Ibの測定]
強度測定に用いた試料を乳鉢中で粉砕した後に、理学電気(株)製RINT2000において、CuのKα線を用いて測定した。測定条件は、加速電圧40kV、加速電流200mA、受光スリット幅0.15mm、走査速度4゜/分、サンプリング0.02゜である。なお回折線はグラファイトのモノクロメーターにより単色化されてカウントされた。2つのトバモライト回折線(220),(222)に挟まれた角度領域におけるバックグランドを含めた回折強度の最低値をIa、およびバックグランドを含めたトバモライト回折線(220)の最大強度をIbとする。なおこれら2つの回折線はそれぞれ29.0゜、30.0゜(2θ)付近に見られる回折線に対応する。図3に算出方法を示す。
【0038】
[水銀圧入法:対数1/4値幅]
オートクレーブ後の硬化体を粉砕した後に分級して得た2〜4mm部分を、105℃にて24時間乾燥させて測定用試料とした。これら試料を、Micrometritics社製、Pore Sizer 9320を用いて細孔径分布を測定した。この時、水銀と硬化体の接触角は130度、水銀の表面張力は484dyn/cmとして計算を行った。測定された細孔径に対する細孔量の積算曲線を1次微分して得られる微分細孔分布の最大値の1/4の高さを与える細孔径が二つ場合、大きい順にA1、A2とすると、対数1/4値幅は、A1、A2それぞれの常用対数の差となる。図4に算出方法を示す。微分細孔分布の最大値の1/4の高さを与える細孔径が二つより多い場合は最大値を与える細孔径の常用対数と最小値を与える細孔径の常用対数の差となる。
【0039】
[動的U値(Ud)]
動的断熱法における、見かけの熱貫流率は動的U値(W/m2K)は、B.J. Taylor et. al., Building and Environment, Vol 31, No. 6 (1996), 519-525による式(1)を用いて計算した。
Ud=vρc/(exp(vρcR)−1) (1)
R=L1/λ1+L2/λ2+L3/λ3+… (2)
ここで、vは空気流速(m/s)、ρは空気の密度(kg/m3)、cは空気の比熱(J/kgK)、Rは動的断熱材全体の熱抵抗(m2K/W)、Liは室外からi番目の断熱材または通気パネルの厚さ(m)、λiは室外からi番目の断熱材または通気パネルの熱伝導率(W/mK)を示す。計算に際しては、空気の密度は20℃における密度1.205kg/m3を、空気の比熱は20℃における比熱1010J/kgKを用いた。空気流速は1m/h、5m/hとして計算した。
[耐火性]
通気パネルをバーナーにより1分間熱したときの様子を目視にて観察した。
【0040】
【実施例1】
珪酸カルシウム硬化体の原料として表1に示す配合量で次の固体原料および水を用いた。すなわち、珪酸質原料として珪石粉砕粉(ブレーン比表面積7500cm2/g)を用いた。さらに、セメントとして普通ポルトラントセメント(表1ではOPCで表示)、石灰質原料として生石灰、硫酸アルミニウム18水和物、二水石膏、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(花王(株)製:エマール20T)、粘度調整剤としてメチルセルロース(信越化学工業(株)製:メトローズ)、消泡剤としてアルキル変性シリコーン(信越化学工業(株)製)、減水剤(花王(株)製:マイティ21VS)を用いた。ここで、硫酸アルミニウム18水和物および二水石膏は、それらの無水和物の質量部を表1に示している。
【0041】
60℃に加温した水を投入したステンレス槽に珪石粉砕粉、生石灰、普通ポルトラントセメント、硫酸アルミニウム18水和物、二水石膏、粘度調整剤、消泡剤および減水剤を投入し、60℃で加温しながら回転数1200rpmで水分の蒸発を防ぎながら2時間攪拌、混合した。次いで、界面活性剤を添加したアルミニウム粉末を投入し20秒攪拌し、得られたスラリーを型枠に流し込み型枠内で発泡させた。型枠にスラリーを流し込んだ直後から水分の蒸発を防いだ状態で60℃で保持して、予備硬化させた。次いで、予備硬化体を脱型して、オートクレーブ中で飽和水蒸気雰囲気下に190℃で4時間、高温高圧養生を行なった後、乾燥して成型体を得た。
【0042】
得られた成型体の各種物性を表3に示した。なお、通気量は厚さ20mmで測定した。動的U値は、得られた300×300×20mmの通気パネル(L1=20mm)に300×300×60mm(L2=60mm)のガラスウール(熱伝導率0.04W/mK)を重ね、さらにその上に同様の通気パネル(L3=20mm)を重ねて動的断熱材を得た。これを開口部が300×300mmの容器に設置し、容器内部を減圧にし、空気流速が1m/hと5m/hになったときのそれぞれの動的U値を式(1)より求めた。このときの容器内部と外部の差圧はそれぞれ13Pa、65Paであった。
【0043】
【実施例2】
珪酸カルシウム硬化体の原料として表1に示す原料および配合量で、実施例1と同様にして成型した。
得られた成型体の各種物性を表3に示した。なお、通気量は厚さ15mmで測定した。動的U値は、実施例1と同様にして、動的断熱材を作成し、動的U値を求めた。但し、通気パネルの厚みはそれぞれ15mm(=L1=L3)で、ガラスウールの厚みは70mm(=L2)である。空気流速が1m/hと5m/hになったときの容器内部と外部の差圧はそれぞれ23Pa、110Paであった。
【0044】
【比較例1】
木質マグネタイト板(Heraklith社製)を厚さ15mmに加工し、通気量を測定した。動的U値は、実施例1と同様にして、動的断熱材を作成し、動的U値を求めた。但し、木製パネルの厚みはそれぞれ15mm(=L1=L3)で、ガラスウールの厚みは70mm(=L2)である。空気流速が1m/hと5m/hになったときの容器内部と外部の差圧はそれぞれ43Pa、215Paであった。
【0045】
【比較例2】
原料として表2に示す原料および配合量で、実施例1と同様にして成型した。但し、生石灰の一部および二水石膏は、一次投入し攪拌を60℃、2時間行った後に、二次投入し、1分攪拌した。
得られた成型体の各種物性を表4に示す。なお、通気量は厚さ20mmで測定した。動的U値は、実施例1と同様にして、動的断熱材を作成し、動的U値を求めた。但し、通気パネルの厚みはそれぞれ20mm(=L1=L3)で、ガラスウールの厚みは60mm(=L2)である。空気流速を1m/hと5m/hにするために、容器内部と外部の差圧を20000Pa以上にする必要があることが判明し、目標とする空気流速に達成しなかった。表4には、式(1)から求められる計算結果を示した。非常に大きな差圧を発生させる必要があり、動的断熱材には適用できない。
【0046】
【比較例3】
軽量気泡コンクリート((旭化成(株)製 ヘーベル(登録商標))から無筋部分を採取して、各種物性を測定した結果を表4に示す。なお、通気量は厚さ10mmで測定した。動的U値は、実施例1と同様にして、動的断熱材を作成し、動的U値を求めた。但し、通気パネルの厚みはそれぞれ10mm(=L1=L3)で、ガラスウールの厚みは80mm(=L2)である。空気流速が1m/hと5m/hになったときの容器内部と外部の差圧はそれぞれ1900Pa、9100Paであった。非常に大きな差圧を発生させる必要があり、動的断熱材には適用できない。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【発明の効果】
本発明の動的断熱用通気パネルは、通気性があり、かつ建築材料として好適な高い強度を有し、かつ不燃性で、かつ不朽性に優れる。そのため、従来の木質系パネルの課題であった不燃性および不朽性が大幅に改善される。従って、動的断熱材に不燃性および不朽性を付与することができる動的断熱材用通気パネルの提供を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】通気パネルが片面のみに配置された動的断熱材の構造を示す断面説明図である。
【図2】通気パネルが両面に配置された動的断熱材の構造を示す断面説明図である。
【図3】実施例1の珪酸カルシウム硬化体の粉末X線回折のチャート図である。またIa、Ibの算出方法の説明図でもある。
【図4】実施例1の水銀圧入法における微分細孔分布図である。また、水銀圧入法における微分細孔分布の対数1/4値幅算出方法の説明図でもある。
Claims (5)
- 少なくとも断熱材と通気パネルを用いてなる動的断熱材であって、該通気パネルが、通気量が10-2mh-1Pa-1以上1mh-1Pa-1以下で、かさ比重が0.25以上1以下の珪酸カルシウム硬化体からなり、かつ通気パネルの厚みの合計が動的断熱材全体の厚みに対して3%以上50%以下であることを特徴とする動的断熱材。
- 珪酸カルシウム硬化体が、主としてトバモライトからなることを特徴とする請求項1に記載の動的断熱材。
- 珪酸カルシウム硬化体が、粉末X線回折におけるトバモライトの(220)面と(222)面の2本の回折ピークに挟まれた角度領域における回折強度の最低値Iaと、粉末X線回折におけるトバモライトの(220)面の回折ピーク強度Ibとの間に、Ib/Ia≧3となる関係を持つことを特徴とする請求項2に記載の動的断材。
- 珪酸カルシウム硬化体が、水銀圧入法で測定される微分細孔分布の最大値の1/4の高さにおける対数分布幅が0.4以上1.2以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の動的断熱材。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の動的断熱材の製造に用いられる通気パネル。
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